【ネタ】故障してる千里眼持ち王子inブリテン王国   作:飴玉鉛

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前話でモードレッドの容姿が10代半ばとしていたのを、前半に変更しました。


第14話

 

 

 

 

 

 鍛造され(誕生して)、まだ騎士を志す前。

 

 全ての疵、全ての怨恨を癒やす騎士達の故郷、白亜の理想城キャメロットにて。短命なる人造生命は本物の貴人、高潔な騎士王の凱旋を目にした。

 国と民に仇なす蛮族、異民族を撃退した会戦から帰還した時だ。白馬に跨り穢れを払うかの如く進む騎士王を見て、人造生命は其の在り様に憧れた。

 あの人の為に生きたい。あの人の為に戦いたい。あの人の為に仕え、あの人の騎士になりたい。騎士王に憧れた人造生命にとって、もはや自身を鍛造した淫蕩なる魔女の囁きは、耳にするのも汚らわしい雑念へと堕した。お前は私の為にアーサー王を失墜させるのだ、などと。そんな悍しい怨念と憎悪、嫉妬に塗れた讒言に構う価値はない。人造生命は外界へと飛び出した。

 

 其の人造生命は生まれた時から最低限の知識と力を有しており、身元も定かでないままだと騎士になるのは難しいことを識っていた。自身の力を見せつければ、やがては騎士として取り立てられる自信はあったが、それでは短命な自分の時間を殆ど失ってしまうだろう。

 故に忌々しい限りだが、生みの親である魔女が用意していた偽りの身分を利用して、最短のコースを駆け抜けいち早く騎士になることを目論んだ。まずは自らの名を広め、遍歴騎士として大きな正義を行い、そして誰の目にも明らかな武勲を上げるのだ。そうすれば自ずと騎士王のいる円卓に上り詰めることが出来るはずだと考えたのである。

 

 だが、人造生命は自然生命の人間達を嫌悪した。

 

 弱い、脆い、汚らわしい。人間は状況次第で善にも悪にもなる畜生だった。

 衣食が足りなければ礼儀も仁義も消え失せる、所詮は少し賢しいだけの獣に過ぎず。恨みは忘れないくせに恩は忘れ、自分の損害になるなら、なにもかもを犠牲にしてでも免れようとする。

 面倒でなければ下らない善行を施すくせに、面倒であれば巨悪を見逃すことも厭わない。我欲に駆られて行動し、失敗すれば自分以外の何かが悪いと吐き捨てる。血と汗を流してまで守る価値など微塵もない――それが人造生命の見聞した人間という種だった。

 

 ――だけど。

 

 王という存在に。誰よりも卓越した在り方に、憧れたのだ。

 人造生命である少女は自らの原点を見失わず、目標と夢の為に黙々と騎士として振る舞う。

 ……実は一度だけ素顔を晒したことがある。

 まだ人間を嫌悪する前、手強すぎるピクト人の戦士数人に襲われていた商隊を命懸けで助けた時だ。

 是非命の恩人の顔を見たいと乞われて、満更でもなかった少女は素顔を晒した。決して人前で外してはならないという実母の指示を破りたい気持ちがあったのかもしれない。だが、少女の素顔を見た人間は意外そうに目を瞬いた後に、言ったのだ。

 

 なんだ、女か。

 

 耳を疑った。だが己を見る人間の目を見て、そこに宿る感情の正体を悟った時、少女は溢れる激情を抑え剣を振るうのを堪えるのに苦労した。

 女だと? 女だと何が悪い? いや、そもそも――それが命の恩人に対する態度か?

 少女にとって女とは、忌むべき魔女だった。

 あの魔女ほど女を感じさせる者はいないだろう。

 故に『女』と見做された事実に壮絶な嫌悪と拒絶を覚え――少女は咄嗟に、愚かな人間を殺してしまう前にその場を去った。そしてもう二度と人間に心を許すまいと心に決めた。

 

 少女は騎士になる為に各地を遍歴し、自身の名声が着実に高まっているのを実感すると、最後の仕上げとばかりに『大物』を殺そうと考えた。

 雑魚では駄目だ。誰もが認める他にない強大な悪を打ち倒し、円卓に招かれるに値する武功を上げねばならない。そうして悪を求めて流離う内に、彼女は辺境に現れた竜の噂を耳にした。

 

 これだと思った。少女は勇躍し、いち早く竜を討ち取ろうと出向いて――其処で、運命と出会う。

 

 ブリテン最大の英雄アーサー王の嫡子にして、月明かりの如き王子と讃えられる若き騎士。はじめは良いカモだと思った、彼の前で実力を証明すれば、円卓は無理でもキャメロットの騎士になること自体は確実に達成できる。打算を秘めて同道を願い出て、そして。

 

 少女は光に魅せられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 兜の騎士は期待していたよりも遥かに強かった。

 

 ――月明かりの騎士は、短い生涯で初めて目にした格上の騎士だった。

 

 荒れた平野に(ねぐら)を構え、自然界、大気に満ちる魔力(マナ)が枯渇するほどに莫大な力を溜め込み、その心臓が生成する魔力(オド)の強大さは、さながら氾濫寸前まで貯水されたダムの様。

 今にもはち切れ、破裂する寸前の水風船のような。鎮座する平野の空間が崩壊しそうな、桁外れの危機感を齎す破滅の予兆を孕み。開口された口腔内に燃え盛り、圧縮された炎の息は、辺り一帯を焦土にする災禍の先触れとして充分な脅威を訴える。全長約18メートル、大仏と同程度の大きさの体躯は、単純な質量だけでも兵器となるだろう。なるほど、確かに強力な竜だ。

 しかし負ける気はしなかった。夜、塒に忍び込んで寝込みを襲う案を考えていたが、焦げ茶色の鱗で覆われたその竜が塒から飛び立ち、何処かに向かおうとしているのを見て方針を変更した。この竜が人里を襲う可能性を考慮したら放置できなかったのだ。

 

 魔力を放出して圧縮、虚空に浮く光の巨剣を形成して自在に操る術を、ロホルトは一つの業の領域に昇華していた。ランスロットと積み重ねた練磨の末、開眼した精妙なる魔力操作の最奥は、砲弾として撃ち出せば竜をも撃墜する威力を内包している。

 我ながら戦車砲か何かかと思うような光剣だが、純粋な魔力である故に竜種の対魔力を貫通できないのが道理だろう。しかしロホルトの魔力性質は邪悪なモノによく通る。果たしてロホルトの光は竜種の対魔力をも貫き、地に落とされた竜は激昂して――即興のコンビを組んだロホルトとモードレッドによる、神話の如き竜種の狩猟が始まったのである。

 

 そう……狩猟。狩りだった。

 

「ハッ――!」

 

 何故だろう――ロホルトの顔を認識した瞬間、竜は花開く乙女のように笑った気がする。

 気合一閃、無骨な大剣の形態のままコールブランドを振るい、竜の顎を下からかち上げ無理矢理口を閉じさせる。大地を荒廃させるドラゴンブレスなど吐かせてはやらない。土地もまた国の大切な資産である、害獣如きに傷ませていい道理などあろうはずもなかった。

 

 竜は生物として頂点に君臨する幻想種だ。尋常の理に住む人間の魔術など全く通じず、大気中の魔力を根こそぎ取り込むくせに自己生成する魔力量も膨大を極め、純粋な質量と膂力だけでも大山を打ち崩す。まさに竜の形をした自然災害のようなものだ。人の身で太刀打ちできるはずがなく、立ち向かうのは蛮勇を通り越した自殺行為でしかない。

 だがそれは、あくまで常人であれば、という注釈がつく。騎士王から竜の因子を受け継いだロホルトにも、竜に劣らぬ対魔力が具わっている故に、生半可なドラゴンブレスでは通じない。竜がよく知るロホルトを打倒する為に、充分な火力の魔力砲撃を吐き出そうとするには相応のチャージタイムを要した。そしてそんな隙を見逃すほどロホルトは甘くない。

 必然として竜は広域破壊兵器となる力を封じられることとなるが、竜の敵はロホルトだけではない。ロホルトが飛び立っていた竜を光剣で撃墜し、ドラゴンブレスを無理矢理封じ込めるや否や、竜の上空から兜の騎士が飛来したのである。

 

「一番槍、確かにお譲りしたッ!」

 

 掲げた騎士剣に赤熱する雷電を纏い、放射された雷撃が竜の背中を穿つ。絶叫が上がった。地表を揺るがす竜の悲鳴だ。

 ロホルトが竜を撃墜したのと同時に高々と跳躍し、モードレッドは竜の背後から急襲したのである。だがモードレッドの鋼鉄をも溶解させる赤雷の効果は薄い、であるのに迸った竜の絶叫は、さながら不意に驚かされた乙女の悲鳴のような響きだった。

 構わず竜の背に着地したモードレッドが、魔力放出により落下の勢いを加速させ、膂力を強化し渾身の力で突き刺した。今度こそ本物の苦悶の声を上げた竜が血飛沫を吹き、全身を振り回して兜の騎士を振り払おうとする。しかし兜の騎士は突き刺した騎士剣を支点にしがみついて離れず、傷口から赤雷を流し込み始めた。暴れ狂う竜を見て、ロホルトは手応えのなさに首を傾げた。

 竜だ。確かに、竜である。性能は破格、しかしその力を持て余している? 使い熟せていないし、仮に使い熟していても余り強敵とは感じない。竜種に特有の怖さがないのだ。

 まあいい。どうあれ討ち果たすことに変わりはないのだ。

 

「奮戦見事。トドメは貴公に譲ろう」

「承知、お膳立てお頼みしますッ!」

「任せてくれ」

 

 ロホルトは月の聖剣に魔力を充填(チャージ)する。

 ほんの二秒で最大まで注ぎ込み、刀身が眩い極光に覆い隠された。

 莫大な魔力を全力で装填し、解き放つのは光の粒子(ビーム)砲。宝具の真名解放にも匹敵する光の帯が、まさか単なる魔力放出だとは信じ難いだろう。一閃された月の聖剣より投射された極光は竜の体皮を焼き払い、断末魔の如く叫び狂う竜が地面をのたうち回る。

 光の砲撃に竜が呑まれる寸前、モードレッドは咄嗟に剣から手を離して竜の背を蹴り離脱していた。しかし彼女の武器は光に呑まれ消失している。着地したモードレッドが恨めしげにロホルトを見たが、鋭く飛んだ指示にハッとして竜目掛けて疾走した。

 

「貸しておく、()くがいいモードレッド!」

「お、応!」

 

 ロホルトの傍に白い巨犬がいる。愛犬が咥えていた宝剣を受け取ったロホルトが、投擲の体勢になっているのを見たのだ。彼が擲った宝剣をモードレッドは背を向けたまま掴み、全身の鱗を光に焼き落とされるという想像を絶する痛みに忘我していた竜の首へ、モードレッドが大上段から宝剣を振り下ろした。果たしてその斬撃の威力は、刀身よりも長く太い首を綺麗に切断する。

 吹き上がる血潮を跳び退いて躱したモードレッドは、その宝剣の切れ味に驚愕していた。まるで何も斬っていないかのような手応えのなさだったのだ。

 新しい玩具を手にした子供のように宝剣を見詰めるモードレッドを尻目に、事切れた竜の遺骸に王子は歩み寄る。怪しい所感を得ていたのだ。その身が内包する力に反し、余りに弱すぎる。なんなのだ、この雑魚(よわ)さは……今一納得しきれないまま、ロホルトは小柄な遍歴騎士をねぎらった。

 

「よくやってくれた。意外とあっさり倒せたけど……大物ではある、武勲は貴公に譲ろう」

「ありがとうございます。これを……」

 

 両手で捧げ返された宝剣モルデュールを受け取る。

 何やら名残惜しそうな雰囲気を感じて、ロホルトは苦笑いする。

 モードレッド。ロット王の妾の子と名乗った遍歴騎士。出自に思うところがないと言えば嘘になるが、抱え込んだところで問題ない。

 ロホルトは冷たい思考とは裏腹に温かく微笑み、モードレッドに仕官の誘いをすることにした。短い狩りであったが、兜の騎士の身体能力と赤雷の魔力放出を見て実力は充分だと思ったのだ。

 

「貴公の剣を諸共に破壊したことは申し訳ないと思う。賠償金を支払うか代わりの剣を与えたいが、この剣は私が父上から授かった物だから渡せない。良ければ私とキャメロットに来ないか? 代わりの剣を欲するなら帰った後に返させてもらう。それから……私から父上に貴公を騎士に叙任するよう推挙してもいい。どうかな?」

「……アーサー王から」

 

 宝剣を見てポツリと呟いたモードレッドの声には微かな嫉妬があった。

 

 ――ほんの僅かしか戦う姿を見ていないが、王子は自分より強いのが彼女には伝わった。

 自分よりも強い。それだけで悔しくて許せないというのに、あまつさえあのアーサー王の息子で、これほどの宝剣を与えられるほどの寵愛を受けている。

 モードレッドは王子に途方もなく大きな嫉妬の念を懐いた。それを悟られるのを恥と思い、懸命に表へ出すのを堪えたが、彼女の中に深々と嫉妬の楔が打ち込まれる。

 だが推挙してくれるという話はとても有り難い。目標に一足飛びで辿り着くことになるからだ。宝剣から名残惜しげに視線を切り、モードレッドは王子の申し出を有り難く受諾する。

 

「――元よりブリテンの為、剣を振るうのを夢見て参った身。殿下からの誘いはまさしく天佑です、是非ともキャメロットへと導いてください」

「ありがたい。モードレッドが仕えてくれるなら、間違いなく国の為になるだろう。それから……名乗るのが遅れたね、識っているようだけど名乗らせて貰おう。私はロホルト、ブリテン王国の第一王子だ。もしかすると君は私の下に配属されるかもしれないが、君ほどの才の持ち主なら円卓の座も夢じゃない。期待させてもらうよ、モードレッド」

「……はい」

 

 サーの敬称を付けず、『貴公』ではなく『君』と呼ぶようにしたのは、兜の騎士がまだ正式な騎士爵の位を得ていないと察したからだ。

 そこでふとトネリコの姿が見えないことに気づき辺りを見渡すと――いた。トネリコは竜の死骸に手を触れており、痛ましそうに目を細めていた。

 

「トネリコ?」

「……あ、殿下? ちょっと待ってください、ここで竜と殿下が相討った痕跡を作ってるので」

「ああ……そういえばそれをする必要があったね……」

「……どういうことですか?」

 

 トネリコが杖を振るってなんらかの魔術を行使しているのを尻目に、モードレッドが話の内容が妙だと思ったらしく不審そうに訊ねてくる。

 ロホルトは苦笑して事の顛末を話した。

 するとモードレッドは露骨に嫌悪感を感じたらしく、兜の下からくぐもった声で吐き捨てた。

 

「……なんと悍しい。これだから女は……私も殿下へ同情します」

「ああ、うん……今回は特殊で個性的な女性に関わってしまっただけだし、全ての女性がこうだというわけでもないから、そう一括りにして毛嫌いすることはないと思うよ」

 

 言いながらトネリコに視線を戻すと、土塊からロホルトに酷似した人形が形成されていた。

 満身創痍で全身が焼けただれたロホルトの死体の出来は精巧で、堪らず顔を顰めてしまう。

 

「これでよし、と。あ、殿下、こっちは終わりました。それからこの偽報が先にキャメロットに届いたら大事なので、私が先に帰って事情を説明しておきますね」

「いいのかい? そうしてくれると確かに助かるけど……」

「いいですよ別に。それじゃ、私は先に帰りますね! お疲れ様でしたー!」

「あ、トネリコ――」

 

 なんでかトネリコはそそくさと走り去っていった。殿下達はゆっくり帰ってきてもいいですからね、なんて言い捨てて。暫し呆気に取られたが、嘆息して腰に手を当てる。

 

「はぁ……相変わらず自分本位だな、彼女は。まあいい、モードレッド、急いでこの場を離れよう。私もこれで旅を終える、キャメロットまで案内するからついて来てくれ」

「……分かりました」

 

 モードレッドは走り去るトネリコの背中を不審そうに見ていたが、ロホルトの言葉に従い大人しく首肯した。

 カヴァスが主人に身を寄せるのを、モードレッドはちらりと見る。

 暫く無言で歩いていたが、ロホルトは兜の騎士に気になっていたことを訊ねた。

 

「そういえばモードレッド、君はいつまで兜を被っているんだい?」

「は? ……ああ、これは……母上に決して人前で外してはならないと厳命されたもので、通気性もよく暑くはないのです。どうかお気になさらず」

「複雑な事情がありそうだね。けど言わせてもらうが、キャメロットに着いても装備を解かないわけにはいかないだろう。礼節の面でも目上の者の前でずっと武装を解かずにいるのは感心しない。ブリテンの騎士になるのなら、せめて私や父上、同胞の騎士には素顔を把握させておくべきだと思う。君の母君の言いつけを破らせるのは心苦しいが、我々の同胞になるなら守るべき礼節はあるはずだ。モードレッド、そういうわけだから兜を外してくれないかな?」

「………」

 

 ロホルトの指摘に、モードレッドは反論しようとしたようだったが、何も言い返せなかったようだ。

 渋々、そして恐る恐るモードレッドが兜を外す。なんとその兜は甲冑の一部らしく、カシャンと音を立てて甲冑に格納された。なんという便利機能、格好良いな――と感心したのも束の間。

 ロホルトは晒されたモードレッドの素顔を見て目を見開いた。その反応に、モードレッドは顔を顰める。ああ、この王子もか、と。失望した。

 だがモードレッドの顔を見て驚いた理由は性別ではない。

 似ている――瓜二つというわけではない、だが明確に似ている。明らかな面影があった。

 

「……モードレッド」

「はい」

 

 声を震えさせて呼ばうと、冷淡な表情でモードレッドは相槌を打つ。

 

「君は……いや、君の両親の名を、もう一度聞かせてくれないか?」

「は? ……父はロット王、母はリミュリアですが、それが?」

「いや……君が余りに、私の知っている人物と似ていたから……ところで君は何歳だ?」

「……12です、殿下」

 

 訝しむモードレッドを捨て置いて、ロホルトの意識は深い思考の中に埋没する。

 両親の名。12という年齢。ロット王とアーサー王の接点。ロホルトもつい最近まで14歳だったが、今は15歳になっている。12年前といえば、ロホルトが生まれて約三年後だ。その時のアーサー王が何処で何をしていたかを知っているわけでは……いや、知っている。

 12年前はサクソン人との六度目の会戦の只中だ。アーサー王は陣頭に立って軍を指揮し、サクソン人の国と激戦を繰り広げ勝利している。その前後でも戦争の準備や後始末で激務だった。

 つまりアーサー王とロット王が交わる時間的余裕はない。

 

 そこまで考え、安堵したようにロホルトは息を吐いた。胃がキリキリと痛み出す前兆を感じただけに、その安堵はとても大きなものである。

 似ているのは偶然のような必然だろう。ロット王の妻はモルガン、アーサー王の異母姉妹。ガウェインやアグラヴェイン、ガヘリスやガレスの母だ。つまりモードレッドの母はリミュリアと名を偽っているモルガンである可能性が極めて高い。モルガンが母なら、モードレッドがアーサー王に似ていてもおかしくはないはずだった。

 だが……なんの為にモードレッドに名と身分を偽って伝えている? よからぬ企みがありそうだ。今ここで仕官の話をなしにするのは……やめておいた方がいいだろう。モードレッドがモルガンに何事かを言い含められ、ブリテン王国に仇をなそうとしている可能性もある。放逐して行方を晦まされるよりも、手元に置いて監視していた方がずっといい。

 あるいはここで斬るか? ……いや、疑わしいだけで切り捨てるのは余りに人道に反する。トネリコも先んじて帰って、モードレッドが竜を討ったという話をしているはずだ。今更モードレッドを斬るにはデメリットがデカい。ならばモードレッドは王ではなく自分付きの騎士にするよう進言し、仮に円卓の騎士に昇格しても傍に置けるようにしておこう。

 

 ロホルトは熟考して考えを纏めた。だが物思いに耽るロホルトに、なにやら様子がおかしいと思ったモードレッドが声を掛けた。王子がモードレッドの性別で、軽んじたり侮蔑したり、下に見るような雰囲気ではないと感じたのだ。

 

「あの……殿下? 私のことなのですが……」

「ん? 君のことで何かあるのかい?」

「……殿下。私は……。……見ての、通り。……女、です」

「………? うん、それが?」

「は? そ、それが……って」

「んー……ああ、なるほど」

 

 苦渋の末、モードレッドは自身を女と称した。

 『女』という性別をモードレッドは嫌悪している。だが性自認は『女』であり、男扱いされても憤怒するだろう。だが幸いというか、()()モードレッドは自身を女と称するのに、かなり抵抗があるだけで認められないほど拗らせてはいなかった。

 これから先、様々な経験を積んで、色んな人間を見て、女の醜さを知れば、決定的に認めることはなくなるだろうが、今はまだそこまでではない。

 

 ロホルトはモードレッドの聞きたいことを察した。この中世風異世界は男尊女卑が主流だ。おそらく千年以上は続く思想だろう。しかし、ロホルトにはそんな思想はない。男女平等である。

 それに彼は女の身で騎士を志す従妹を知っていた。そしてその夢を応援しているし、なんなら女騎士なんてロマンがあるからいてもいいだろうと思ってもいた。

 

「君が女の子であることと、君の騎士としての精神、強さはなんら関係ないだろう。私は君が女の子でも男の子でも、騎士として父上に推挙しているよ」

「――――」

「まあすぐに性別を公開しては立場がないだろうから、暫くは――いや、余計な諍いを未然に防止するなら隠し通した方がいいのだろうけどね。その場合は私も隠すのに協力しよう。あと、流石に12歳だと騎士は難しいから、最初は私の従騎士になるだろう」

「――……、……」

 

 モードレッドは言葉を失って、呆然と王子の顔を見る。

 気にせず前に向き直り、再び歩き出した王子の背中をモードレッドはジッと見詰めた。

 ……嘘は、なかった……と、思う。

 本当に、本気で言っていた。

 

「……モードレッド? どうかしたかい?」

「……いえ、なんでも」

 

 モードレッドはじんわりと胸の中に広がる暖かさを理解できず困惑したが、頭を振って王子のもとに駆け寄った。すぐ隣を歩きながら、モードレッドはちらちらと王子の顔を窺う。

 興味が、湧いた。アーサー王以外の個人に、はじめて。

 ロホルトはモードレッドの様子に苦笑した。まるで幼い子供のように感じたから。

 

「モードレッド」

「っ……はい」

「ここからだとキャメロットまで遠い。一ヶ月は歩き通さないといけないだろう。だから、それまで話をしよう」

「話、ですか」

「そうだ。色々、たくさん、話して相互理解に努めようじゃないか」

 

 モードレッドがモルガンの間諜かどうかも、そうすれば判断できるだろうと考えてのことだ。

 少女は王子様からの提案に、小さく頷いた。

 

 

 

 ――死を偽った以上、キャメロットに帰るまで人の前に姿を晒すのは極力避けた旅だった。

 

 

 

 たったの一ヶ月かそこら。しかし二人と一匹しかいない旅。森の中を歩き、川沿いに歩き、獣を狩りながら過ごした時間。

 ロホルトは青年会で磨いた話術を惜しみなく注いで物語を語った。成人している者にも大好評だったから人を選ばず楽しませる自信がある。

 モードレッドが特に気に入ったのは、遠大で壮大な冒険の物語。人ならざる者に生み出された、人に似た生き物が多くの人を知り、失望し、しかし自身の夢を追う物語だった。

 モードレッドはその主人公にいたく感情移入して、物語の展開に一喜一憂した。時に怒り、笑い、悲しむ代わりに怒り、怒った。ほとんどの話の中で怒り続けて、翌朝に提案した剣の修行では八つ当たりのように激しく攻め立てられたものだ。

 だが物語の終わりに、人に似た人ならざる者は、人を超えた力を得た代償に寿命を失い、数日の後にこの世を去る。主人公はたった一つ得た自分だけの生命の答えを胸に抱え、満足して一人ぼっちで死んでいったのだ。その終わりにモードレッドは涙を流さず、声も上げずに無表情で頷いた。そして数日間何も喋らず、余韻に浸るように自己に埋没していた。

 

「殿下」

 

 昼間、川沿いに歩いていると、唐突にモードレッドは口を開いた。

 

「あの物語は、作り話ですか」

「いいや、実話だよ」

 

 一部嘘だ。ロホルトが脚色して、本当は無念の内に何も得られず死んだ主人公に救いを与えたのだ。

 かつてアイルランドから来た旅の吟遊詩人を招いて、青年会の皆で聞いた物語である。吟遊詩人は実話だと言っていたが、ロホルトは嘘だと断じた。が、語り手が実話というのだから、あるいは本当に実話である可能性はある。何せこの世はファンタジーだから。

 救いを主人公に与えた理由は――最後ぐらい救われてほしいという、ロホルトの我儘だ。そして感情移入しているモードレッドに、無残な終わりを聞かせたくなかったのである。

 

 モードレッドはロホルトの嘘を信じた。

 

「アイツが満足して死んだのは……答えを得られたからですか?」

「そうだね。持論になるけど、人生というのは如何にして満足したかだ。たとえ他人が非業の死と断じていようとも、本人がこれでいいと言うなら、それが一番だよ。自己満足が人生の意義だね」

「……そうですか」

 

 ロホルトは言いながら、なんとも薄っぺらい言葉だと失笑してしまいたくなる。自己満足――果たしてそれをロホルトが手にする時は来るのか。

 少女は足を止める。遅れて足を止めたロホルトとカヴァスに、彼女は静かな目で言った。

 

「殿下。貴方は私よりも強い。だから、私と戦ってください」

「いいよ」

「――いいのですか?」

「殺し合いじゃなくて、試合なら幾らでも相手になる。代わりにどうして私に挑むのかを聞かせてくれないかな」

「……私は、強くなりたい。強くなって、誰よりも卓越した存在になりたい。そうでなければ、私はあの理想の王に仕える騎士の中で一番になれないと思うのです。強くなったら……私も、私だけの答えを得られるなら……それはきっと、とても素晴らしいことだと思ったから……上手く言えないですが、そんな感じです」

 

 たどたどしく告げる様は、歳不相応に幼い。12歳も幼いと言えるが、更に小さな子供のようだ。

 ロホルトは真摯にその言葉を聞き届け、頷いた。いいだろう、望むなら今すぐに相手になる、と。

 果たしてモードレッドは一礼し、カヴァスが背負っていた宝剣を借り受けると即座に斬りかかってきた。それを難なく捌き、暫く試合を行う。

 やがてロホルトはモードレッドを打ち倒した。地面に背をつけて空をぼんやり見上げるモードレッドに声を掛ける。

 

「荒削りな剣だ。君の思想が透けて見える」

「………」

「モードレッド。君は剣術に拘りがないようだね?」

「はい。そんなものは、私にはありません」

 

 剣術など戦闘に於ける選択肢の一つに過ぎない。必要なら殴るし、蹴るし、噛みつきもするだろう。少女がそう言うと、王子も肯定的に応じた。

 

「道理だ。君の思想は何一つ間違っていない。騎士らしくはないけどね」

「……正直、意外です。私の考えは他の騎士にはウケが悪かった。騎士道をなんと心得るか、などと怒鳴りつけられたこともあります。殿下が道理だとお認めになるとは思いませんでした」

「んー……モードレッド、君は戦場に於ける騎士道とはなんだと思う?」  

「え……?」

「小綺麗な理想論、弱者の自己防衛……斜に構えたらそう見えるだろう。けどね、戦場の騎士道の本質はそんなものじゃない」

「……というと?」

「騎士道とは戦争を本当の地獄にしない為のものだ。戦争は愚かな殺し合いではあるけれど、戦争という闘争行為を際限なく激化させ、酷たらしくしない為の不文律なんだよ」

 

 遥か未来を、ロホルトは知っている。異なる世界であろうと、人類の文明が発達すれば行き着く先は同じだろう……ロホルトは、戦争から騎士道という名の戦士の倫理が排除された近・現代の戦争がひたすら凄惨であることを知識として識っていた。際限なく激化したが故の国家総力戦であり、更に深刻化したが故の世界大戦である。そういう地獄の底が知識にあるから、ロホルトは騎士道の齎す一見甘い理想に肯定的な見方をすることが出来る。

 無論、騎士道も良いことばかりではないし、そもそも戦争自体が悪だとは思う。戦争そのものを肯定する愚か者にはなりたくない、故に消極的肯定に留まる見解だった。

 

「要するに私が言いたいのは、全ての事柄に全肯定される物事はないってことだよ。戦争然り、騎士道という思想然り、剣術然りだ。君の考えは肯定されるべき正しさがあるけど、剣術という技術体系に於いては了見が狭い捉え方だと思う」

「では殿下は私の剣術は誤りだと?」

「そうだね。もちろん私が正しいという保証はない、しかし君が私を信じて師事するなら聞いてほしい。君の剣はただ荒く、型に嵌っていないだけだ。基礎がまだ出来ていない」

「基礎ですか。そんなものがなんの役に立つのです。基礎を修めた騎士も、私より弱かった。そして殿下の剣術にも基礎というものは――」

 

 苦笑する。ロホルトの剣術も、見様によっては荒いから。

 だが、違う。

 

「誤解しないでくれ。私はきちんと王道の剣を修めている。修めた上で、今の型を作っただけだ」

「そうなのですか?」

「ああ。ほとんどの騎士が剣術を学び、修めるのは、それだけ基礎という名の剣術の型が強いからだ。強くなければ型として後の代に伝わるわけがない。そしてその型を極め、昇華した者が王道の騎士なんだよ。円卓の騎士の殆どが、私の言う王道の強さを極めた者で、私は王道が肌に合わなかったから今の型に行き着いただけの話さ」

 

 師であるアーサー王も、ロホルトがこの獣のような剣術に行き着き、披露しても否定しなかった。辛辣に正論を叩きつけ、未熟さを突きつけてはきたが。

 当時のロホルトは全否定された気になって、反感を懐いていたが今は違う。アーサー王は……女性名で言うならアルトリアは、ロホルトの剣の技を認めてくれていたのだ。極めるのが困難な道だから王道の剣を身に着けた方が良いと助言してくれていたに過ぎない。

 回想して苦くなる表情を隠し、ロホルトはモードレッドに告げる。

 

「強くなりたいならまずは王道の型を極めるといい。その上でアレンジを加えて、更に鍛錬を重ねたら完全に型から脱却し、自らの剣の型を作るんだ。根底に王道があれば、いざ追い詰められても剣筋がブレることはなくなる。強さを支える土台になるんだよ」

「……なるほど。では、殿下がその王道を私にご教示してくださるのですか」

「もちろん。言いっぱなしで放り出すほど私は無責任じゃないからね」

「ではお言葉に甘えさせていただく。殿下……どうか私を、強くして下さい」

 

 ――それはモードレッドという個人にとって、おそらく生涯でたった一度の師事。

 上位者に素直に教えを乞う殊勝さを見せるのは、この時、この人にだけだろう。

 モードレッドは、ロホルトを師に仰いだのだ。

 

 旅は緩やかになる。ゆっくりと歩み、言葉を交わし、試合の中で見た改善点を指摘して、実際に剣を交えながら厳しく指導する。それはロホルトが湖で体験した充実感のお裾分けだった。

 モードレッドは剣の修行に熱中し積極的に教えを受けた。剣だけではない、夜中に焚き火を囲った時は眠るまで、物語ではなく色んな知識を求めた。ロホルトは嫌な顔一つせず、丁寧に応じて彼女が納得するまで付き合って。そして弟子が出来たことに内心歓び、いつしか素直に話を聞いて、素直に付いてくる少女を妹のように可愛がるようになっていた。

 

「……殿下は……いえ、なんでもありません」

「なに? 途中で言うのを止めるのはやめてくれ、気になるじゃないか」

「……言っても笑いませんか?」

「笑うわけがない、言ってごらん」

「……その、不敬と承知の上で言います。……殿下が、まるで……兄のように感じて……」

「――は? ……ふっ、ふふ、あはははは!」

「っ! 笑わないと言ったではないですか!」

 

 顔を真っ赤にして怒るモードレッドに、ロホルトは目の端に涙を浮かべるほど笑いながら謝った。

 

「ごめん、ごめんって。……私も妹が出来たみたいで嬉しくなっていてね、君が同じ気持ちになってくれたことが嬉しいんだよ」

「っ……そ、そう……ですか。……なら、いいです」

 

 幼い。あまりに、内面が幼すぎる。だがそうである故にロホルトはモードレッドを可愛がっていて、底なしに甘やかしていたのだと思う。甘いだけでなく厳しい優しさで接してもいた。

 それが通じていたのだ。……モルガンの間諜の可能性? そんなものはないと確信している。ロホルトはもう、モードレッドを自分の騎士として引き受けたくなっていた。

 

 旅は、まだ続く。

 だが終わりは近づいていた。

 毎日を噛み締めるように歩き、足跡を残しながら、川沿いに進む。

 キャメロットへと続く川を見つけたのだ。

 

 毎日語り合い、剣の修行をして、世間知らずだったモードレッドに常識を教えつつも、嫌になる部分にも触れて共感を得て。モードレッドはすんなりと、ロホルトの懐に入り込んでいた。

 

 ――モードレッドは、ロホルトを敬愛した。

 

 アーサー王は卓越した理想の王だ。そしてその王子もまた、卓越した理想の人である。モードレッドは兄のように温かいロホルトの光に触れて、途方もなく巨大な安心感を得ることが出来た。

 夢は変わっていない。しかし、一つの夢が増えた。

 (オレ)は、この人と共に生きたい。この、どうしようもなく国へ奉仕する義務に沿う人を支えたい。

 モードレッドは幼い心に、純粋な尊敬の気持ちを懐いたのだ。

 

 ――だから。

 

 川の上流から流れてきて、自分達を追い越した筏の上に乗っていたものを見た時、言語を絶する憎しみと怒りを燃やすことになった。

 

「こ……れ、は……」

 

 ロホルトが絶句する。筏の上には、二人の女性の死体があったのだ。

 仰向けに寝かされ、腹の上で両手を重ねた女性の顔に見覚えがある。

 そして手紙を死体が持っていて。

 死んでしまったロホルト王子に恋し、愛した故に絶望して生命を自ら断った旨が記されていた。

 

「――ふざけるなよ」

 

 真っ先に手紙に気づき、目を通したモードレッドは激怒した。

 

「テメェの弱さを殿下に押し付けて、自殺した挙げ句にキャメロットに流れていくつもりだったのか? どこまでふざけてやがる、コイツらはッ!」

 

 死ぬなら勝手に死ね、黙って死ね、ロホルトに罪があるかのように言うな。

 怒りに駆られて筏を赤雷で沈め、死体ごと川に沈めたモードレッドの暴挙にロホルトは我に返った。

 なんてことをするんだ! そう叱責するロホルトにモードレッドは言い返した。

 

「お言葉ですが! 殿下がこんな奴らの死に責任を感じる必要はありません! 全部コイツらが招いた自業自得の馬鹿げた自殺です、元々殿下はコイツらの求愛を断っていたんでしょう? なのに無理に追い、挙げ句に散々迷惑を掛けて、最後には勝手に絶望して勝手に死んだだけの愚か者だ! 殿下が気にすることなんて全くありません!」

 

 言いながらモードレッドは思う。

 

 やはり、雑魚は嫌いだ。人間は愚かだ。

 

 アーサー王やロホルト殿下のように、卓越した方だけを、モードレッドは見詰めると誓う。

 

 有象無象の虫けらが――敬愛するロホルト(あにうえ)を、よくも傷つけてくれたな。

 

 

 

 

 

 

 

 





 どこまでも逃げていく王子に焦がれ、怨み、憎んだ。そして恋ゆえに王子を手に入れたい妄執に身も心も焼かれ、遂にその身は竜と化してしまう。
 その正体は最初に王子様に救われた姫と、その供である魔術師、そして姫同様に王子に救われた女魔術師と呪われた母を持つ姫の融合体。王子を喰い殺しその血肉と一つになるのを望む。
 しかし幻想の頂点にまで上り詰めて変生しようと、所詮戦う術も竜の性能も活かせぬモノ。英雄たる王子にはまるで歯が立たず、兜の騎士と王子、どちらか一方だけでも容易に討ち果たせる程度だ。遂には恋い焦がれた王子に正体へ気づいてもらうことすら出来ずに死んだ。

モードレッド
 自らよりも強い上に、憧れの王の血を引く王子へ嫉妬した。だがキャメロットに帰還する王子に同行を許され、共に旅をすると嫉妬は容易く霧散させられてしまう。
 彼が友好を深める為に語った物語に惹かれ、子供のように目を輝かせて熱中したのだ。嫉妬は自然消滅し、王子の人柄に触れ、彼もまた騎士王のように卓越した存在だと素直に認めた。
 キャメロットに着くまでの間、少女は王子と語らい、時に師事し、自らの強さを高める。そうした道程の中、少女は王子を師として、王子の思想に触れ、人を超えた在り方に敬服する。
 少女は戦闘の天才である。だが如何に植え付けられた知識と力があろうと、まだ人生経験が浅く素直さを残した子供だった。故に彼女は生真面目に相手と向き合い、心の中にある憧れという名の席に椅子を一つ増やすことへ、特に抵抗を感じることがなかったのだ。

ロホルト
 「え?」
 誰かさんに非常によく似ている少女に、ロホルトはとてもよくない誤解をしてしまう。母親の王様を孕ませた男は正体不明。第一候補はケイで、第二候補はマーリンだったが、まさかの第三候補として筋が通りそうなロット王の参戦に戦慄している。ロット王が叛旗を翻した本当の理由は、王という象徴に縛り付けられている少女を救おうとしていたからではないか、などという妄想まで脳裏に駆け巡らせてしまう。もしそうだとするなら……。
 しかしモードレッドは母親として知らぬ名を上げたし、モードレッドの申告した年齢から逆算して考えると、ロット王とアーサー王が交わる時間はなかった。なので単なる他人の空似と判断。元気に暴れ出しそうだった胃が沈静化して安堵する。
 オレに父親なんかいない。いたとしても他人だと割り切って、考えるのはやめた。
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