【ネタ】故障してる千里眼持ち王子inブリテン王国   作:飴玉鉛

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第20話

 

 

 

 

 

 

 ――もしもやり直せるなら、なんて。

 騎士としてあってはならない後悔、振り返ってはならぬ無念。

 光り輝く騎士道を体現していながら、この汚点だけは拭えないし、拭い去ってはならない。

 もしやり直せる機会が与えられたなら――自らやり直しは望まない。そんな資格はない。だが――不可抗力の奇跡が起こって、やり直させられたなら。

 その罪深い免罪符を、自ら捨てることはできないだろう。

 きっとあの時のあの不覚を、なかったことにしたいと、ガウェインは願ってしまうに違いない。

 

 目覚めた時、悲痛に吠える狼騎士の友の声で意識を取り戻した時に目にしてしまった――ブリテンの月明かり光と称された、まさしくブリテンを覆う夜に差した一筋の希望(ひかり)が深淵の闇に呑まれ、消えてしまった悲劇の最期。初陣の時より見守り、やがては王として君臨するはずだった王子に、悲鳴を上げて駆けつけたその時の絶望を――覆したいと願ってしまう。

 力足りずに悲憤を叫び、絶望で手足が萎えそうになるのを怒りで誤魔化し激昂して魔竜へ挑んだ。だが月明りの騎士の決死の奮戦で時が稼がれたお蔭で、ガウェインは王子に殉じることすら出来ずに生き延びてしまった。サクソン人らを打ち払い、本隊を率いて駆けつけた騎士王と、円卓の騎士達と協力して、魔竜を討ち取ることに成功したのだ。

 

 騎士王は、駆けつける際に王子の最期を見てしまったのだろう。虚脱感に襲われ、ひどく無気力で、絶望に呑まれながらも、魔竜に未だかつて見せたことのない赫怒と憎悪を叩きつけていた。魔竜は余りに強大で、騎士王の引き連れた円卓の騎士達はガウェインを除き打ち破られてしまったが、ガウェインと自身の聖剣で魔竜の手を地に縫い止め、聖槍でその心臓を穿った時の凄絶な貌は、見てはならない悲愴な憤怒と悲しみに満ち溢れていた。

 魔竜が語ったブリテンの滅びの運命も、騎士王にはなんら響いていない。聖槍を手に魔竜から老人に回帰して、消えていった怨敵を見もせずに、騎士王は呆然とその場に立ち尽くしていた。

 

 ガウェインは、その余りに小さな姿を、たとえ死んでも忘れる事はできないだろう。

 

 己の弱さが生んだ悲劇だ。己の不覚のせいで訪れた光景だ。

 手にした太陽が余りにも虚しい。魔竜を相手にしては犠牲になるだけだからと、遠巻きにさせられていた兵士達に、騎士王は弱々しく命じていた。ロホルトはどこだ? ロホルト……ロホルトを探せ、ロホルトを連れてこい、と。ロホルトが死ぬわけない、どこかにいるはずだ、助けがいるはずだ、と……譫言のように繰り返し命じていた。それは王ではなく、人の懇願だった。

 誉れ高き太陽の騎士、伝説の光輝纏う英雄。後の世に勇名を飾られる騎士ガウェインは、永劫に一つの悔いを残した。この時の無念を、王の絶望を……愛する妹の、悲嘆を。己が慰め、支え、寄り添う資格を喪失した罪深さを、彼は刻まれていたのだ。

 

 その日――太陽の騎士から朗らかな微笑みが失われ――

 

 

 

 ――王国全土に激震が奔った。

 

 

 

 ロホルト王子、戦死。その報を受けた王妃は卒倒した。目覚めるとロホルト王子の所在を多くの騎士に訊ねて回り、最後は騎士王に縋りついて「ロホルトに会わせて!」と懇願した。

 遺品はなかった。愛犬に持たせていた宝剣以外に、戦場に持ち込んだロホルトの遺品はなく。体の一部も遺らずに、消え去ってしまった。いやぁぁぁ! 美貌を壮絶に歪めて絶叫し、喉が裂けて血を吐いて、錯乱し気絶する王妃の姿に誰しもが涙する。剥き出しの悲痛さに誰もが胸を打たれ、そして闇を照らしてくれる月明かりの喪失に、みなが闇の中へ取り残されたように震えた。

 え――? ぽと、と。手にしていた一輪の花を落として。王子の妃になるはずだった少女は、近日に控えた王子の16歳の誕生日を祝う為に用意していた、手作りの造花を忘却した。

 腰から崩れ落ちて、その場に座り込んだガレスは、う、うそ……と呟いて。敬愛する兄ガウェインから齎された訃報を疑った。兜の騎士がガウェインに掴み掛かる、出鱈目を言うな! と。だが凍りついて動かない、無機質な表情に自責の念を刻んだ騎士の目を見て、偽りではないと悟ったモードレッドは唖然とする。兜の騎士はわなわなと震え、与えられていた騎士剣を床に叩きつけるとキャメロットを去った。何処に行く気だ、そう訊ねたのは王子の騎士ガヘリスで――モードレッドは吐き捨てる。迷子になった幼子のように、大海原で道標を探し求める孤独な船員のように。

 

「……殿下がそう簡単にくたばるわけねぇだろうが、馬鹿共が。私は――オレは信じねぇからな。ガレスも腑抜けてんじゃねぇ。オレは殿下を見つけるまで……殿下が戻るまで帰らねぇからな」

 

 現実逃避だ。実際に戦場で闇に呑まれた王子を見ていないから、モードレッドは認めなかっただけの話で。しかしガウェインは立ち去るモードレッドを止める言葉を持たず、ガヘリスはむしろ進んでモードレッドを送り出した。殿下を頼む、と。彼はそう言ったのだ。

 陰険な野郎だと思ってたが、分かってるじゃねぇか。殿下の騎士を名乗るだけはある。モードレッドはぎこちなく笑いながらガヘリスに礼を言って、ガレスはガヘリスとモードレッドの様子を見て瞳に光を戻した。腑抜けちゃってたら、殿下に叱られちゃいますよねと、気丈に背筋を伸ばして――強がっているだけの現実逃避でしかない様子に、ガウェインは無表情だった顔を顰めた。

 泣いていいのに、責めてくれていいのに、むしろガレスの様子は痛ましく、ガウェインの心を千々に引き裂いて苦しめた。すぐ近くで見ていたガウェインには分かるのである。太陽の聖剣や星の聖剣にも比するか、それ以上の威力を秘めた魔竜の呪力の奔流に呑まれ、生き延びられる者などいない、と。ガウェインはおろか、騎士王ですらまともに受けては消し飛んでいるだろう。

 

 時の流れが、妹の心を癒やし、整理してくれることを祈るしかない。ガウェインは肝心な時に無力な己を深く呪った。

 ガヘリスは感情の伺えない顔で、ひっそりと呟く。――ガレスが立ち直れば私も後を追いましょう。死した後も貴方の騎士として仕えると誓いましたからな、と。常より影のようだった男の目は黒く濁り、表に出せない暗闇に囚われていた。

 

 

 

 たとえ月明かりが暗雲に隠されようと、時が止まることはない。

 

 

 

 王は粛々と王子の葬儀を執り行う。

 すすり泣く騎士達と兵士達。キャメロット中の人々は、上と下の区別なく一様に嘆き悲しんだ。

 王妃は愛息の葬儀に参列していない。

 銀のように美しい髪を掻き毟り、狂気に支配された瞳で「ロホルト……早く会いに来て、ロホルト、ロホルト……」と、延々と、延々と繰り返していて、人前に出られる状態ではなかった。

 王国中が泣いていた。しとしとと降り注ぐ雨は、晴天なのに降り止まない。一人の若者の死を誰もが惜しみ、粛々と葬儀を進行する王は――空っぽの棺の上に、最初に花を手向けようとして、ぴたりと止まってしまった。

 葬儀が止まる。だが、誰も責めなかった。これまで無表情で、冷静に儀式を進めていた王は、小さな肩を微かに震えさせ、棺の上になんとか花を置くと、後は数秒前の冷静さを取り戻して恙無く葬儀を終えさせた。空っぽの棺の上には、多くの王国民と、騎士、兵士、そして円卓の騎士達が惜別の言葉と花を手向けて――キャメロットから川に流された棺を静かに見送る。

 

 やがて王子の遺品を自分で整理したいと言った王は、一人で王子の居室に向かった。

 

「――ぅ、ぁ……っ」

 

 淡々と部屋を整理しようと伸ばした手が止まる。

 十年前、王が王子に与えた、自身の修行時代に使っていた剣シャスティフォルが、飾られていて。

 王剣が、保管されていて。

 ――王子の私物は、虚しくなるほど、何もなかったのだ。

 ロホルトの居室に、はじめて入った。

 知らなかった。

 気づかなかった。

 

 王ではなく、親として……私はロホルトに何を与えた?

 

 ……何も。

 何も与えていない。

 ロホルトは子供の頃からずっと、子供でいられる時間を捨て、国に、王に尽くしてきた。

 卓越した視野の広さと、高さで、国の窮状を知った時から、ずっと。

 王もそうだった。だが、こうして此処に来て、気づいた。今更に、気づいたのだ。

 嗚呼……親が子にしてやれることを、当たり前の愛を、自分は示していなかったのだ、と。

 

 駄目だった。それに気づいた瞬間、王の仮面は剥がれ落ち、シャスティフォルを胸に掻き抱いて、跪いたアルトリアの口から、意味のない音が漏れる。

 はらはらと流れる滴はやがて滂沱と流れ、視界を滲ませ何も映さず。

 必死に押し殺そうとする嗚咽が氾濫し、アルトリアは顔をくしゃくしゃに歪めて、途方もない罪深さに押し潰されて額を床に押し付けた。

 

「ご、ごめっ……ごめんな、さい――ごめっ、ごめんなさい、ロホルト……わた、わたし、私が、私がお前を……貴方を、死っ、死なせ――わ、わた、わたしが……親になんか、なったからっ、私は貴方に、何も――」

 

 アルトリアはこの日、この時、王の在り方を忘れて、一人の少女に還ってしまった。

 少女なのに親になり、少女なのに男親になり、少女なのに王になり、少女だから――噛み合わなかった。ただ一度の過ちで生まれた我が子を、地獄に、死地に叩き落とした己の無能を呪う。

 なぜ私が生きている、なんであの子は死んだのに私が生きている。私が死ねばよかった、私があの戦いで魔竜に挑めばよかった。あの子を殺したのは私の無能さだ、私のせいだ、私の――。

 

「返して! 返してよ! わたくしの、わたくしのロホルトを返せぇぇぇえええ――!!」

 

 ギネヴィアの許に訪れたアルトリアを見た時、王妃は母親になり、母親としての憎悪を爆発させてアルトリアに掴みかかった。何度も小柄なアルトリアを非力な力で殴りつけ、自身の手の方が痛むのも気にせず、鬼気迫る形相でギネヴィアは狂乱していた。

 

「ごめん、なさい……ごめんなさい……ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」

 

 アルトリアはされるがままで、只管に謝った。謝り続けた。何に謝っているのか曖昧なまま。

 涙は枯れていた。ロホルトの居室を整理しようとして、一夜、一人で涙を流し尽くして。しかし心に空いた大きすぎる穴は塞がらない――涙も流さないアルトリアに、ギネヴィアは更に激昂するも、危うく憤死し掛けた反動に体力が保たず倒れ伏した。

 かえして……かえしてよぉ……ろほると……。

 人を叩きすぎて腫れ上がったか弱い手で床に爪を立て、ギネヴィアはただただ枯れない涙を流し続けて涙を赤く染めた。

 

 どれほど嘆いても、悲しんでも、時は止まらない。残酷に、ブリテン最大の敵である時間は、冷酷な運命を背負って運んでくる。

 

 日常が戻ってくる。喪に服していたくても、若者の死をもっと惜しんでいたくても、その死を認めずにいたくても、毎日の日々を送らねばならない。

 アルトリアはボロボロの王の仮面を拾い、逃げるように被った。

 そうだ……もう理解者はいない。もう愛したロホルトはいない。

 なら私が、私だけでも、救国の為に戦わねばならない。

 ヴォーティガーンの告げたブリテンの滅びの運命を、否定しなければ。

 ブリテンが滅びる運命にあるだと? 私とロホルトの積み上げた努力を、今を生きる人々の努力を運命なんてものに潰させはしない。私がロホルトにしてやれるのは、ロホルトの成そうとしたことを成し遂げること。それだけがアルトリアにできる唯一の贖罪なのだ。

 

 そんな時だ。重苦しい円卓の会議の間で、円卓の上に聖杯が出現した。それは幻だったが、聖杯を見た時アルトリアは思いついてしまった。

 

「聖杯……? どんな願いでも叶う……?」

 

 なら……ロホルトを。

 本物の聖杯でなら、ロホルトを蘇らせることが、出来るのではないか。

 その発想に、アルトリアは惹かれた。

 聖杯を探せ。アルトリアは円卓に、いや王国全土に布告を出した。

 聖杯を見つけて献上しろと。それで国は救われるだろう……と。

 

 聖杯だ。聖杯を手に入れろ。アルトリアは聖杯探索を至上命題とした。

 

「ロホルト……どうして……?」

 

 そうして、一月が経つ。一ヶ月も、経った。

 夜、ギネヴィアはふらふらと宮殿から抜け出して、満月を見上げる。

 満月に手を伸ばしながら、ふらふら、ふらふら、と歩いた。

 

「――ギネヴィア様?」

 

 そこに現れた騎士がいた。

 白銀の甲冑を纏い、青いサー・コートを靡かせた、紫の髪の美丈夫である。

 25歳となる稀代の騎士、サー・ランスロット。

 彼は母国の奪還に成功し、信頼する代理人に統治を任せ、キャメロットに帰還してきていたのだ。

 そして道中で一回りも年下の友の訃報を知り、真偽を確かめるべく、馬を何頭も潰すほど急いで戻ってきたのである。

 そこで出くわしたのが、夢遊病のように歩いていたギネヴィアだ。

 

「あら……? あなたは……ランスロット……?」

「はい、ランスロットです、王妃」

 

 月光を浴びたランスロットの美貌を見上げる。素敵な男性だった。きっと何かが違っていたら、ギネヴィアは彼に一目で恋に落ちていたかもしれない。

 ランスロットが仕官にきた時に、逃れられない恋の炎に狂っていたかもしれない。

 だが、ギネヴィアは母親だった。そして今は、別の想いに狂っていた。

 痩せて儚くなったギネヴィアの美貌は、妖しい色香を纏い魅力としていた。ランスロットは息を呑むも、倒れそうだったギネヴィアを介抱する。

 優しくエスコートして宮殿に連れ帰り、ランスロットはギネヴィアから事の顛末を聞いた。

 

 友の死。ランスロットは悲しさに胸を詰まらせたが、自身の悲しみよりもなお悲痛な王妃を見て、まずは彼女を元気づける必要があると判断する。

 その為にはまず経緯を知らなければ。事情を知らない者の慰めなんて王妃には届かないだろう。

 故に翌日、日が昇ってからランスロットは登城し、騎士王へ謁見した。

 窶れている騎士王や、輝きが翳った太陽の騎士、王子の伯父である外務卿の顔を見ながら思案する。

 

 ランスロットは自身の成した事を報告して、報奨や称賛を受け取った後、個人的にガウェインの許を訪ねた。彼が最も事情を知っていると聞いたからだ。

 ガウェインは淡々と、嫌がることもなく、自罰的にランスロットに戦闘の経緯を語る。

 

「………?」

 

 ランスロットは眉をひそめた。

 

 次に当時、騎士王に率いられていた兵を訪ねて回り、実際に見ていた光景を聞き出した。

 

(……妙だな)

 

 ランスロットはおそらく現在のロホルトの実力を最も正確に知り、その成長を推測できる者だ。未熟なモードレッドやガレス、実際に剣を交えたわけではないガウェインや騎士王よりも正確に。

 故に違和感を覚える。

 ロホルトの才気は騎士王に匹敵しよう……長ずれば体躯の大きさという身体能力の差で、ロホルトは騎士王を超える強さを手に入れるはずだ。大剣を振るえば無双の域に手が届く器で、この湖の騎士ランスロットでも王子が全盛期に至れば勝つのは難しいと認めていた。

 

(我が友ロホルトの勝負強さ、判断力はよく知っている。彼は自身が死ぬ訳にはいかぬ身だと自覚していた筈だ。ならば強大な敵を倒す為にも死力を尽くすのが道理――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()?)

 

 皆の話を聞いて回ったランスロットは、噂でロホルトが聖剣を湖の貴婦人に賜ったと聞いている。

 なのにロホルトはその最期の瞬間、聖剣の真の力を発揮させていなかったという。

 

 脳裏に奔る天啓に似た閃き。

 

 ランスロットは馬をガウェインに借り、急ぎ養母の許を訊ねた。

 そして養母ヴィヴィアンから、ロホルトに授けた聖剣の力の詳細を聞き出して――その足で帰還し、寄り道せず王と王妃が会合しているテラスに出向き、足を踏み入れる許しを得た。

 そして二人の間に横たわる険悪な空気に気圧されそうになりつつも、跪いて自信を込めて告げる。

 

「陛下、そして王妃よ。――我が友ロホルト殿下は、まだ生きておられます

 

 ランスロットという稀代の傑物の断定に、二人の女の時が止まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




聖杯
 アーサー王伝説の聖杯は、後の聖杯戦争などに出てくる偽物ではなく本物の聖遺物。
 故にこの聖杯なら死者蘇生すら能い、魔法の領域の奇跡も起こせる。

ランスロット
 キャメロットへの帰還中、一回りも年下の友の訃報を聞き急いで帰還。偶然再会したギネヴィアの様子は見ていられず、王子の最期を色んな兵や騎士、ガウェインらに聞いて回った。詳細な事情も知らずにいては、慰めの言葉など吐けないからだ。
 しかし話を聞く中でランスロットは違和感を見い出した。おかしい……我が友は母上から聖剣を賜ったと聞く。だが魔竜に対して聖剣の力を解き放っていない……? ランスロットはその違和感を元に行動し、湖に向かって養母たる精霊に訊ねた。貴女が我が友に与えた聖剣の力とはどのようなものなのかと。返ってきた答えを聞き、彼は確信する。

「王妃よ、貴方の子息、私の友はまだ生きています」

 王妃はこの戯言にすら縋り、信じてランスロットを送り出す。お願い、ランスロット。ロホルトを連れて帰って――と。

「お任せを。貴方の止まらぬ涙を、必ずや止めてご覧に入れる」


ギネヴィア
 ランスロットの言葉を信じた。ありえない妄言だとしても、信じたかった。
 そしてランスロットの力強い言葉に励まされ、狂気を支えに立ち上がる。
 だが……彼女は普通の人だった。普通だからこそ、恐怖した。
 たとえロホルトが本当に生きていてくれたのだとしても、また危ない目に遭うかもしれない。
 その時は本当に死んでしまうかもしれない。
 嫌だ。嫌だ。絶対に、嫌だ。
 だがロホルトの価値をギネヴィアは理解していた。国がロホルトを手放せないことを知っていた。
 だから――ギネヴィアはそこまで考えて苦く微笑む。

「信じてるわ、ランスロット。きっとロホルトを連れて帰ってね」

 ロホルト。ああ、ロホルト。貴方が無事に帰ってくるのを待っているわ。
 もしランスロットが嘘を吐いていたら……ゆるさない。
 でも嘘じゃなかったら……ロホルトを、あぶない世界から救えるのは、きっと自分だけだ。
 ギネヴィアは狂い果てた心で、穏やかに、慈愛を込めて微笑む。




あとがき
アンケの結果、ロホルトは死んでないことに。
もっと長く持続的に苦しめろって皆が言うから……!
くそ、これが人間のやることかよぉ!

ぶっちゃけると上の選択肢だとガチで死んでて、話を畳みに掛かってました。危うくガレスとモードレッド、モルガンの曇らせができずに終わるところだったのでよかったです。

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