【ネタ】故障してる千里眼持ち王子inブリテン王国   作:飴玉鉛

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第26話

 

 

 

 

 

 アーサー王率いるブリテン軍と、宿敵サクソン人の軍勢は、十二度にも亘る大規模な会戦を行った。そして伝説的君主である騎士王は、その悉くに勝利し常勝の栄光を手にしている。

 

 これにより完全にブリテン島から撤退せざるを得なくなり、以後最低でも十年は沈黙せざるを得ない大損害をサクソン人勢力は被った。

 なにより彼らサクソン人の王が、この戦いで戦死したというのが大きい。サクソン人の王は、どういうわけか執拗に敵国の王子を討つのに固執し、復讐を声高に叫んでいたのだ。彼は敗戦が確定的になったと悟ると、麾下の近衛兵団を率いて破れかぶれの突撃を騎士王の本軍に仕掛け、仇だと定めた騎士王の嫡子に立ち向かい斬首されてしまったのである。

 サクソン人は強敵だ。彼らに手を貸していたピクト人は今更語るまでもないが、古王ウーサーですら彼らサクソン人の野心を挫くには至らず、数十年もの歳月を戦い続けてきた怨敵である。運命に定められた宿命の大敵、その一角を卑王に続いて破った騎士王と、サクソン人の王を自らの手で討ち取る戦果を挙げた月明かりの騎士の声望は、いよいよ信仰に等しい領域に達したといえた。

 

 しかし当代に於ける最終決戦であった十二度目の会戦は、互いの勢力が投入できる戦力をほぼ全て費やしていたこともあり、大軍勢同士の激突となった。必然として早期決着は望めず、ブリテン軍が完全なる勝利を手にするのに、開戦より数週間もの時を要した。

 戦場となった土地への行軍期間、キャメロットに帰還するまでの期間。これらを含めると優に三ヶ月は掛かることになり――その三ヶ月間の内に、取り返しのつかない事態が起こっていた事を、戦場にいた騎士達が知る術はなかったのだった。

 

「――殿下、恥を忍んでお願い申し上げる。どうかこの愚かな私に罰を……裁きをお与えください」

 

 故に凱旋する最中にあった一幕にも、大局的にはなんの意味もない。

 

 太陽の騎士ガウェインが、夜営の最中に王子の陣幕を訪ね、跪いて許しを乞う。魔竜との戦いで不覚を取り、護るべき王子に逆に守られた慚愧……あれ以来余裕のある笑顔を失くした騎士に、王子ロホルトは一瞬なんの話をされているのか判じられずにいた。

 だがガウェインの抱える無念と罪悪感の出処を知ると、彼は笑ってガウェインの肩を叩き、無理矢理に立たせて至極あっさり許しを与えた。

 聖剣の力は絶大である。それが魔竜に通じないと、誰が想定できたのだ。たとえ誰かが心ない言葉で貴公を謗ろうとも、私を含める全ての騎士、そして父上もまた貴公に罪はないと言うだろう。もしそれでも卿の気が済まないと言うなら、一つ私の問いに答えてくれ。

 

「……なんなりと」

 

 問いに答えるだけでは到底この身の咎、傲慢の罪は償えない。しかし忠義の騎士であるガウェインからすると、主筋の血族が許すというのに不満を示すわけにもいかなかった。

 神妙に応じるガウェインに、ロホルトは極めて真剣な面持ちで問いかける。

 

「ガウェイン、貴公の好みの女性について教えてくれ」

「……は?」

「男同士が仲良くなる鉄板のネタらしいからね、是非とも訊いてみたいんだ。こんな恥ずかしい問い掛けに答えるのを強要するんだから、卿の罪は相殺されて然るべきだと思わないかい?」

 

 呆気に取られるガウェインに、ロホルトは稚気を滲ませ微笑みかけて。

 数秒の後、あまりのバカバカしさに、ついガウェインは笑ってしまった。

 数カ月ぶりの笑顔……ガウェインの心に爽やかな風が吹き抜ける。

 

「は……ははは、ははははは!」

 

 ガウェインは眦に涙すら浮かべて大笑いし、そしてロホルトの寛大な態度に感銘を受け――だからこそ――彼が抱える事になる永年の後悔は、死して英霊となった後にまでこびり付いたのだ。

 

「私にそれを語らせたなら夜明けまで終わりませんよ?」

 

 ああ。どうして私はあの時、魔竜に敗れてしまったのだ。この御方を欠いたほんの数ヶ月と、サクソンとの決戦。これらさえなければ………せめてどちらかがなければ、あのような結末を辿ることはなかっただろうに――と、ガウェインは悔いる。死しても、永遠に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 白い妖精と讃えられる絶世の美女ギネヴィアは、王妃になるべくして生まれた『王権の象徴』だ。

 

 彼女の父レオデグランス王は、アーサー王の父であるウーサー王の家臣で、ウーサー王の死後ブリテン王国の統治者に任命された男だ。

 すなわちウーサー王の信任厚き腹心であり、真の王不在時の代理人である。レオデグランス王は自身の領地の反乱問題を解決し、知己の魔術師マーリンの保証を受けたアーサー王をウーサー王の子であると認め、彼女に娘のギネヴィアを娶らせた。婚姻の成立後、レオデグランス王はアーサー王の後見人として玉座と円卓を譲渡したのだ。

 

 そしてレオデグランス王の没後、彼の唯一の子でもあったギネヴィアには、円卓の所有権――ブリテン王国の王権を象徴する権利が相続されている。ギネヴィアの夫であるアーサー王にその権利は移っていると認識する者は多いが、『ブリテン王の後見人』という役柄がギネヴィアには残されているのだ。有り体に言えば、ギネヴィアを娶った者がブリテン王になれるということである。

 

 故に正確にギネヴィアの価値を把握している者ほど態度を二極化する。騎士王の妃として絶対に守らねばならない至宝、あるいは騎士王の王権を絶対の物にする為に排除すべき対象、と。

 

 そして円卓の騎士の一人、アグラヴェインは私情を抜きにしても断固として排除すべきだという認識を有している。ロホルトがいる今、ギネヴィアの存在は害悪だと見做しているのだ。

 だがアグラヴェインは早急に、しかも無理をしてでも除こうとは考えていない。なぜなら騎士王がギネヴィアを切り捨てるとは思えないし、王子が心の支えにしている節があるからである。

 

 だがモノの価値が分からぬくせに正義漢ぶり、傍迷惑な暴走をする者は何時の世にもいるものだ。

 

「ギネヴィア妃よ、貴女様の道義に反する行ない、もはや看過できぬッ!」

 

 円卓に名を連ねる王にして騎士の一人、メルワスである。

 彼は長年をアーサー王とギネヴィア王妃に仕え、彼らの婚姻の儀を見届けた忠義の騎士だった。

 メルワスは融通の利かぬ性格の硬骨漢であり、王からの信任も厚く、本人もアーサー王を絶対視する熱心な騎士王信奉者であったのだが、彼の本質は自己の価値基準に沿って物事を判断する、典型的な自己陶酔者だ。メルワスは以前からギネヴィア妃を嫌っており、とある出来事を経て遂に堪忍袋の尾を切られてしまったのである。

 

 その『とある出来事』とは、ギネヴィア妃の長く続く、アーサー王への不誠実な態度だ。

 

 諸侯の一人にして騎士であるメルワスは、アーサー王との間に漂う険悪な空気を知る数少ない人間で、妃の王に対する態度に不快感を懐き続けていたのだが、王がサクソン人との決戦に出た際、王宮に帰還したランスロットと懇ろな関係になっていくのを見てとうとう我慢の限界を迎えた。妃は王子を連れ帰ったランスロットを絶賛し、個人的に激賞したばかりか、彼をサロンに誘って常に傍に置き、片時も離れようとしなかった。そればかりか人払いをして二人きりになる場面も度々目撃され、これは夫を持つ妻として不誠実極まりない行為だと言える。ランスロットはなんとかギネヴィアからのアプローチを固辞し、なんとかして距離を置こうとしていたから赦せる、しかしメルワスはギネヴィアの不心得な振る舞いを、絶対に赦してはならぬと義憤に燃えてしまった。

 

(――ばかな人。本当に、分かりやすいわね)

 

 ――メルワスは気づかない。彼が長年仕えてきたということは、仕えられてきた側も、メルワスの人となりや行いを知悉しているということである。

 自身の行動や示した態度の結果、メルワスがどう動くかなどその女にとって至極明白だったのだ。

 

 果たして視野の狭いメルワスは、ギネヴィアという存在の持つ価値に気づかぬまま、彼女を攫って王宮から出て行ってしまう。

 彼はそのまま自身の領地である夏の国(サマセット)に王妃を連行すると、そのまま本拠地のグラストンベリー城に幽閉した。そこでギネヴィアの不実を詰り、彼女に反省を強く求めたのだ。

 しかしギネヴィアは黙して何も語らぬ。業を煮やしたメルワスだったが、仮にも王妃である彼女に体罰は加えられない。仕方なく幽閉するに留めたメルワスだったが――彼は自己基準の正義に囚われ、自身の行いに過ちがあるわけがないと信じる身である故に、愚かにも想像もしていなかった状況に追い詰められていた。それは、メルワスが叛逆した、という風評の流布である。

 

 当たり前である。王妃を攫っておきながら、叛意はないなどと言って、いったいどこの誰が信じるというのか。

 メルワスは大いに焦った、そんなつもりなどないと弁明しようとしたが、全くの無意味だ。王妃の持つ存在価値を正確に理解している者ほど、彼女を攫ったメルワスを大罪人と認識する。そしてそれは優れた頭脳も併せ持つ、最高の騎士ランスロットも同様だった。

 メルワスはただ、王妃に対して折檻を行ない、反省を促せる勇気と忠義の持ち主は自分だけと傲り。そして王妃の味方がいない自身の領地でしか、恙無く責めることができないと考えただけだ。それ自体が王妃、ひいては王の立場を軽んじた不敬だったのだが、そんな当たり前の道理にすら気づかぬ男であるからこそ、王妃の誘拐などという大逆を犯してしまったと言える。

 

 ランスロットは攫われた王妃の救出の為、各地を奔走した。ロホルトとの激闘で負った傷はまだ完治しておらず、痛む体を酷使しての行動だった。

 彼が必死にギネヴィアの行方を探して回る理由は三つある。一つ目は、ギネヴィアの存在価値を正確に理解していたから。二つ目は、親友の母にして主君の妻の救出は、騎士として当然の行ないであるから。そして三つ目は、女性に対する尊敬の気持ちがあるから。

 ランスロット・デュ・ラックは、ダーム・デュ・ラック――ヴィヴィアンに養育された完璧な騎士だ。彼は幼少期より女性に対して優しく、紳士的に接するように躾けられており、そして本人も自身の知る女性であるヴィヴィアンへの尊敬と感謝、愛情に沿って素直に教えを受け入れていた。故にギネヴィアを救わんとする行いに一片の邪心もない。

 

 それに、ランスロットはギネヴィアに恋をしていた。

 

 優しくされたからか? ふとした拍子に魅せられた仕草や、不意に覗く無防備な姿に心を射抜かれたからか? 堪らぬ色香を感じるからか? あるいは、その全てか。

 ランスロットは、清い身である。長く湖で過ごし、キャメロットに仕官した後は、とても特定の女性と関われる暇はなかった。であればこそ、彼は女性に対する免疫がほぼ皆無であり、ギネヴィアにその気のない所作にすらときめいてしまうほどだった。

 

 だが、それはそれ、これはこれである。

 

 ランスロットは誓ってギネヴィアに対する不義を働くつもりはない。なんせ主君の妻だし、彼女の持つ存在価値の重さが途方もない上に、親友の母親なのである。幾らランスロットが人妻を嗜好する性癖の持ち主といえど、幾らなんでも親友の母に手を出す気はない。

 不忠を犯し友情を傷つける行為はランスロットも敬遠する。故に、自身の初恋は決して叶わぬし、叶えてもならぬと心に固く誓っていた。だが、だからこそ、ランスロットはギネヴィアの危機に本気で駆けつけようとした。恋心には重い蓋をしているし、この封は生涯を通して決して破らないが、ギネヴィアに惚れてしまった一人の男として、彼女を救い出したいと心から願ったのだ。

 

 その想いの強さは、卑しい身分の罪人を運ぶ荷車に乗ることで証明された。

 

 彼が荷車に乗ることになった原因は、王妃の行方を探して駆けずり回っていた彼の馬が衰弱し、死んでしまったことにある。そこに小人(妖精)の引く荷車が現れ、小人はランスロットを試したのだ。この荷車は必ずアンタの求める場所に向かうだろう、アンタに荷車へ乗り込む勇気はあるかい、と。罪人を運ぶ荷車に乗る行為は、騎士としての名誉に傷をつける行為だったのだが、果たしてランスロットは一瞬も迷わず荷車に乗り込み小人に命じた。さあ、私を早くギネヴィア妃の許へ連れて行くがいい、と。

 小人は嫌らしく嗤い、彼をサマセットまで運んでいった。小人は道中で近隣の村々に立ち寄り、各地でランスロットが卑しい罪人だと人々に誤解させ、彼が罵倒されたり石を投げられたり、額から血を流して呻くランスロットを見て小人はせせら嗤った。アンタの騎士としての名声は台無しだね……と。悪意を満載した辱めと嘲笑に、ランスロットは歯を食いしばって耐えた。

 小人は約束通りサマセットに辿り着くまでに、ランスロットの忍耐の限界を試し続けたが、結局ランスロットは激発することなく耐えきってしまう。つまらなさそうに小人は吐き捨てた。ちぇ、そこらの馬鹿な奴らを斬り殺してくれた方が面白かったのにな、と。

 

 だがそれに対してランスロットは頭を下げ、礼を言った。

 

「――ここまで運んでくれたことに感謝する。さらばだ、名も知らぬ小人よ」

 

 この態度に小人は仰天した。もはや用済みとなれば、辱めを受け続けた騎士が小人を斬り殺そうと剣を抜くだろうと思っていたのだ。

 小人は自身の能力でそれを躱し、綺羅びやかな騎士の栄光を穢し抜き、笑いものにしてやろうとしていたのである。なのに目論見通りにならなかったばかりか、礼まで言われるとは……。

 小人は舌打ちし、自身の負けを認めた。そしてランスロットに一つの助言を送る。

 

「フンッ、アンタの勝ちだ。おいらは賭けに負けちまったし、勝者には特別な助言をしてやるよ。いいかい、いけ好かないヴィヴィアンの小倅。ここで引き返しな、さもなきゃ全てを失うよ」

 

 それだけ言って、つまらなそうに小人は消えていった。

 小人の不吉な予言にランスロットは不安を覚えたが、まさかこのまま王妃であるギネヴィアを放置して立ち去るわけにはいかない。故にランスロットは騎士として引き返す選択はしなかった。

 

 それからのランスロットの行動は早かった。サマセットの人に聞き込みを行ない、領主であるメルワスがこの世で最も美しい女を連れて、城の中に入って行ったことを突き止めると、その日の夜の内に城へ忍び込んで王妃の囚われている塔に侵入したのだ。

 

「――あぁ、ランスロット!」

「ギネヴィア妃っ……助けに参りました。遅参の段、平にご容赦を」

 

 ランスロットはアロンダイトで檻を破壊し、ギネヴィアを見事に助け出したのだが、彼女は悲しげに眉を落とし痛々しく微笑んだ。

 

「ごめんなさい……こんな、はしたない姿で。それにわたくしは、今は歩けないの……」

「……なにゆえでしょう」

 

 ギネヴィアは檻に囚われて以降、まともに物も食べていなかったらしい。頬はこけ、着ている衣服も肌着が一枚だけの粗末な格好だ。あまつさえ粗悪な寝台に腰掛けたままの彼女は自身の両足を指し示す。夜の暗闇のせいで王妃の姿に気づくのが遅れていたランスロットは、うぶなことに扇情的な王妃の姿から目を逸らそうとしていたが、ギネヴィアの両足の裏を見て絶句する。

 なんとギネヴィアの両足の裏に、痛ましい裂傷が刻まれていたのだ。彼女は悩ましげに言う、この足だと痛くて歩けないわ、と。ランスロットの頭に血が上る。なんということを! おのれメルワスめ、王妃たるギネヴィア様にこのような格好をさせているばかりか、その体に傷をつけ脱走を阻もうとは! なんたる卑劣漢、赦してはおけない……!

 

 ――粗末な寝台の下に、彼女の着ていたドレスや、差し出されていた食料が隠されていて。彼女自身の血に濡れた短剣までもが隠されていることになど、ランスロットは気づかなかった。

 

 激怒したランスロットだったが、このままではいられない。彼は自身の汚れてしまっているマントを外して、ギネヴィアの肩に掛けてやる。そして不敬と無礼を承知の上で彼女を抱き上げた。

 

「っ……」

 

 ギネヴィアはすんなり抱き上げられ、ランスロットの体にしがみつく。

 その、感触。不浄の環境にいたにも拘らず、匂い立つのは堪らぬ女の匂い。平常心を心がけようにも劣情を催されてしまいそうだったが、ランスロットは無心になって城から脱出しようとした。

 しかしその最中にメルワスに見つかってしまう。

 愚かにも叛逆者になってしまっていたメルワスは、これからアーサー王にどう弁明するか悩みに悩んで窶れており、ランスロットとギネヴィアを発見してしまうと驚愕した。

 ランスロットが何故ここに……いや、今ギネヴィアを連れ戻られては困る! メルワスは錯乱気味にランスロットへと掴み掛かり――王妃を攫い、挙げ句の果てには傷つけた彼を許す道理はないと判断したランスロットによって、一撃で斬り捨てられてしまった。

 

 ランスロットはメルワスの屍をこえて脱出する。物言わぬ亡骸となったメルワスを、濁った瞳で見下ろす王妃を抱きかかえたまま。

 

 馬を奪って門を出たランスロットは、サマセットからの追手が来るのを察知して、慌ててとある地に逃げ込んだ。さしものランスロットも多数の騎士を相手に、動けないギネヴィアを抱え、護りながら戦うのは困難だと考えたのだ。そもそも罪のない騎士を手に掛ける気になれなかったというのもあるし、長旅はか弱い王妃の体に毒となる。休憩は必須であった。

 ランスロットが逃げ込んだのは、漁夫王と渾名されるペラム王の治める地、カーボネックだ。ペラム王は嘗ての円卓の一員、双剣の騎士ベイリンが使ったロンギヌスの槍で脚を負傷し、近隣の川で魚を取って生計を立てていた王である。彼が聖槍の呪いで癒えぬ傷を負わされ常に激痛に苛まれており、本来なら来客に応対する気力はないはずだったが、彼はランスロットらを快く引き入れ匿ってくれた。ランスロットはこの対応に感激し、ギネヴィアの疲れが取れるまでカーボネックで過ごすことになる。

 

 カーボネックで滞在する中、ギネヴィアの世話役になったのは、ペラム王の孫娘であるエレインという少女であった。

 エレインとギネヴィアはすぐに親しくなる。彼女はこの国で最も美しいと噂される美少女だったが、自身と同等かそれ以上の美貌を持つギネヴィアを妬まず、彼女の語るキャメロットでの生活に憧れて羨んだ。というのもカーボネックは、ペラム王が聖槍の呪いに侵されたからか、肥沃だった土地は加速度的に荒廃し、当時は幼かったエレインは貧しい暮らししか覚えていなかったのだ。

 エレインと親しくなる内に、家宝である『変身の指輪』の存在を聞いたギネヴィアの目が妖しく光っていたことに、うら若き乙女は気づかず。繁栄する王都キャメロットに憧れ、少しの間でいいからキャメロットで暮らしたいですと溢したエレインに――ギネヴィアは仄暗く微笑む。

 

(ああ……ランスロットの心は奪えても、忠義を曲げない彼に苦戦してしまっていたけれど……)

 

 どうやら運命は味方してくれるらしい。

 

 ギネヴィアは言葉巧みに、エレインの都会に憧れる気持ちを煽った。

 そして悶々とするエレインに囁く。ほんの数日でいいの、『変身の指輪』を貸してくださらない? そうすれば一時、貴女がギネヴィアとなってキャメロットで暮らせるようにするわ……と。

 エレインはこの誘いに迷った。王妃に化けるなんて大罪である、処刑されてしまっても不思議じゃない。だがギネヴィアは迷う彼女に追い打ちを掛けた。わたくしに変身した貴女が王都での暮らしを満喫することは、わたくしからの計らいと説明して罪には問わせない。貴女のお父様やお祖父様にも、貴女がここから発った後に説明するわ、と。

 

 果たして無垢で、世間知らずで、向こう見ずなエレインは――

 

 

 

 

 その日の夜。

 

 女が、涙を流していた。

 

「ふふ……ふふふ……」

 

 満月を見上げて泣きながら笑い、自らの腹を撫で。

 危ない日を把握していた女は、そこに宿ったものに笑い、泣いた。

 澱んだ瞳が宿すのは狂った心。女は――涙ながらに嘯いた。

 

「これで……わたくしは……」

 

 少女に化け。酒宴で騎士を酔わせ、自制心の箍を緩ませる為に酌をして。

 それでも同衾を拒む彼の前で変身を解いて。

 王妃様と同じ体をお抱きになれるのは、今夜だけですよ――と、耳元で誘惑し。

 騎士は、目の前の(ほんもの)を、幻と信じたまま、過ちを犯してしまった。

 

「……なんて、醜いの。……悍しい、魔女め……っ」

 

 女は、自らを罵り。

 しかし、歓びに打ち震える。

 

 降り注ぐ月光は狂気の導き。

 

 これで愛する我が子を救える。

 我が子を救うために我が子を生贄にする。

 だから……だから、早く、早く速く疾くはやく! 生まれてきて――ギャラハッド。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ガウェイン
 死後、英霊となった彼は全てを知る。
 生前、破滅の引き金を知った彼は悟る。
 あの時、己が不覚を取ったが故に、罪が生まれたのだ――と。

ロホルト
 『育ての母』への愛情、敬意、親しみはこれまでと変わらず。
 しかしスタンスだけは変わっている。
 叶うなら、どうか幸せになってほしい。
 いや、してみせる。
 その誓いは――

ランスロット
 主君の妻というだけでなく、親友の母ということで、惚れてしまっても手は出さぬと誓った。原作でもランスロットは寧ろ誘われた側だが、どれだけ誘惑されても揺るがぬと決めている。
 その誓いは――破られた。だが、彼は誓いの不履行を知らぬ。
 一夜の過ちは、エレインという少女とのものだったと彼は認知し、罪悪感を懐いた。酒の力と、巧みな誘惑に、抗えないのは男の性である。
 エレインを娶り責任を取るつもりだが、『ギネヴィア』を王都に連れ帰る必要がある為、間を空ける不義理を働かざるを得ない。

ギャラハッド
 運命の子。しかし、この世界線では母が異なる。
 優れ過ぎた母胎から生まれる彼は、確かに母の望む才を秘めている。
 だが……。

ギネヴィア
 様々な面で破綻している。企みも、狂気も、穴だらけ。
 彼女は普通の人である。やがて狂い続ける心に耐えられなくなり、正気に戻るかもしれない。
 しかし全ては遅いのだ。
 後は、アーサー王と同衾するだけでいい、なんて……そんな虫のいい話はないだろう。
 血筋と、母胎と、美貌。それ以外は普通の人で。
 普通の女である彼女の企みは、容易く露見するのが道理であった。

マーリン
 え、なにこれ。どうしよう……?

モルガン
 「………は?」
 自身の別の策謀をマーリンに潰されるも、そのマーリンから現状を聞かされ絶句。
 いや、どうしようとか私に聞くな……。
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