【ネタ】故障してる千里眼持ち王子inブリテン王国   作:飴玉鉛

3 / 36
第3話

 

 

 

 

 

 ロホルトは折れない。父親が不老不死という衝撃的事実を知り、自らの存在意義に不信感を植え付けられながらも、ならば自身の立ち位置を新たに定義すればいいと前向きに切り替えたのだ。

 そこでロホルトは、自らを王の後継者ではなく、王権の強力化を推進する国家ナンバー2、王を補佐する宰相の立ち位置になるべき者と規定した。

 

 王の血を引く唯一の血族となれば、もう自分にはそれしか存在する意味はないと考える。強いて挙げるなら臣下との結びつきを強める為、婚姻交渉の材料になるぐらいか。外国の王家の血を入れて同盟を結ぶ、政治的なカードの一枚になるという選択肢もある。

 自身の望みとは別に、それが王家に生まれた者の宿命だろう。そこでロホルトは募る脱力感を懸命に抑えつけつつ、信頼できそうなアグラヴェインを王子として呼びつけて話を切り出した。

 

「なあ、アグラヴェイン卿。貴公の合理的な判断力と、父上への忠義心を信じて話すわけだが」

 

 アグラヴェインは王子に呼び出され、二人きりで密談するという状況下でそう切り出された瞬間、この話が外部に漏れたら己が粛清されることを悟った。

 見よ、この明朗なる表情を。冷酷な光を灯しながら、しかし快活さを失わぬ瞳を。完璧な王子と称されるロホルトは、完璧に貴公子然としていながらも、無欠の聡明さを一目で与える説得力を内包している。御年九歳だ。たった九歳でこれなのか。父のカリスマ性を間違いなく受け継いでいる……アグラヴェインは腹を括った、どのような話をされても忖度はするまいと。

 

「――円卓って存在なんだけど、政治的に見たら邪魔でしかない。そうは思わないかい?

「――――」

 

 それは。それは、アグラヴェインも思っていた。

 円卓とは王と席を並べ、対等に話し合える特別な称号であり階級だ。

 名誉な地位である。だが円卓に持ち込まれる諸問題に、音頭を取って解決に導くのは常に王。それ以外は付和雷同して王の決定に従うばかりで、そうでない場合は合理的じゃない反対意見で会議が難航するぐらいだ。ハッキリ言ってアグラヴェインからしても、円卓という存在は王の政務を阻害する足枷にしかなっていないのである。ロホルトは少年の身で同じ結論に達したのか。

 

 沈黙するアグラヴェインに、ロホルトは朗々と唱える。

 

「私はまだ未熟だが、三年……いやもう四年か。父上について回り、国の実情を見ることができた。そして明らかに円卓という名誉職が父上の足を引っ張る害悪だと感じたわけだ。円卓に名を連ねる有資格者達は、そのほとんどが国の舵を取る能力を具えていない。当然だ、彼らは優れた騎士だが内政官ではないんだ。ではなぜ父上はそんな円卓の制度を撤廃しないのか……分かるか?」

「……僭越ながら、陛下の王権が儚い為と考えます」

「うん、その通り。私も同じ考えだよ、アグラヴェイン卿。円卓には騎士の他に、王位を持つ諸侯を抱えている。ブリテン王国はブリテン島内に点在する、ブリテン人による諸国の寄り合い所帯に過ぎず、アーサー王の権力は彼らと同等だと定義されてしまっている。円卓の議長の座を父上が握り続けていられるのは、父上が戦になると最も強く、最も騎士達の支持を集めているからでしかない。父上の権威を保証する母上の存在も大きい。どちらかが欠けた瞬間、父上は円卓を追われるだろうね」

「………」

 

 理路整然と語る王子にアグラヴェインは瞠目する。何度か仕事を共にすることで彼の知能の高さ、聡明さは知っていたつもりだったが、まさかここまでとは思わなかったのだ。

 

「父上がいなくなった国家最高意思決定機関は……まあ詰むだろう。サクソン人やピクト人の脅威を、父上なしで撃退できるとは思えない。皆そう感じているから父上への支持は絶大なんだ。そして話は最初に戻るわけだけど……父上の王権を強化したい。円卓の制度を撤廃、ないし意義の挿げ替えをしたい。そこで貴公に協力してほしいなと思ったわけさ」

「……意義の挿げ替えとは?」

「円卓は名誉職だ。これを撤廃したら、騎士達は大きな不満を持つだろう。故に挿げ替える――内政や外交に類する政治的な領域から排除し、代わりに軍に於ける発言力を高めるんだ。そうだな、例えるならローマ帝国の将軍、あるいは総督のような立ち位置だね。そうなれば政治とかいう畑違いな分野から足手まといの素人を排除しつつ、得意分野で精力的に働けるわけだ。どうかな」

 

 ローマ帝国なりサクソン人なり、そうした単語には見覚えしかないロホルト王子だったが、まさかここが過去の世界だとは考えてもいなかった。

 この異世界ファンタジーは、国の名前が似ているだけだと認識している。魔力だの魔術だの、精霊だの妖精だの、元の世界で存在していたとは考えられないのだ。

 

 ともあれロホルトは持論を述べた。アグラヴェインはこの腹案を聞いてどう思っただろう。彼を粛清する必要性を頭の片隅に置きながらも、それは嫌だなと思いはしている。というかアグラヴェインのような切れ者を粛清する羽目になれば、それこそブリテンは終わりだ。もしアグラヴェインを粛清するぐらいなら、ロホルトが退場した方がよほど国益に適うだろう。

 まさかロホルトが自分より己の方に政治的な価値を見い出しているとまでは想像できないまま、アグラヴェインは慎重に、しかし確かな同意を示した。

 つまり。邪魔者――ペリノア王を筆頭とした王位にある円卓の者――を、表裏の手練手管を用い、最悪暗殺してでも排除することに同意したのだ。

 

「……拙速に動いては勘づかれ、よからぬ結末になるでしょう。殿下の申されることは最終的な終着点として定め、焦らず内々に推進するべきかと。私も殿下のお考えに賛同いたします」

「ありがとう。十年単位の大仕事になる、慎重に、忍耐強くやろう。ちなみに円卓を軍事の最高位職に挿げ替えられたら、貴公を含めた何人かは、父上を政治的に補佐する立場になってもらう。実質的な宰相は私だ。表向きは暫く貴公に任せることになるだろうけどね。その立場に関する名前はまだ考えてないけど、国のため、王のため、よろしく頼むよアグラヴェイン卿」

「はっ、全ては我が王のために」

 

 下がっていい。告げるとアグラヴェインは退室していく。

 それを見届けたロホルトは……気を抜いたりせず、むしろ緊張感を増して背筋を正した。

 

「……どうでしたか、()()

 

 言うと、王子の居室にある棚の陰に隠れていた少年王が姿を現した。

 アーサー王だ。アーサー王たるアルトリアは、斯様な話を聞かされ、真剣に吟味している。

 誇らしい気持ちだった。何度必要な政策が退けられたのをグッと堪え、遅々として進まぬ会議にもどかしさを覚えて歯噛みしただろう。ロホルトは言葉にしていなかった己の不満を汲んだのだ。親として嬉しい、そして王としても我が意を得たりという心境だった。

 

 円卓は、最初は理想を掲げて設立したものである。アルトリアは自分の考えだけが絶対だとは全く考えていないし、間違いを侵すこともあるだろう。その過ちを正し、諌めてくれる仲間がほしくて円卓を築いたのだ。だが――ロホルトの言うように、ほとんどの騎士は政治に関するセンスがなく、また政治に必要な非情な決断を下せない者ばかりだった。

 気楽なのだ。無責任なのだ。アルトリアがどれだけ苦渋の末に下した結論にも、人道の面で公然と批判できる立場に立っているつもりなのである。それは正しい批判だと思うが……自分と同じ視点とまではいかない、だが最大多数の為に考えてから言ってほしい。

 

 アルトリアは今まで諦めていた。仕方ない、彼らにも正義はある、それは尊ぶべきものだと。しかしアルトリアは仲間が欲しいのだ、国を救う為の同志が欲しかった。

 故にアグラヴェインを登用した。彼は騎士としてはもちろん、それ以上にアルトリアと同様に、あるいはアルトリアよりも合理的に考え、打つべき手を具申してくれる。ゆくゆくは己の右腕にとまで考えるほど、アグラヴェインという人材は得難いのである。

 

 他の王にも遠慮しなくてはならない、国全体のための方策が却下されても不満を表に出せない。騎士達の掲げる理想論、綺麗事の正しさも無視できない。他ならぬアルトリアが理想と綺麗事を誰よりも尊んでいるのだから。しかし、ここに……王としてのアルトリアが誰よりも頼れそうな人材がいた。しかもそれが愛する我が子なのだ、感無量とはこのことだろう。

 

 アルトリアは微笑んで、告げる。

 

「満点だ。王権の強化は国益に適うし、騎士達が得意とする職能にのみ専念させるというのはいい。彼らの名誉を考慮した点も素晴らしい意見だ。……だがそれは()()()()()()()()()

「っ……」

「私の対抗馬に成り得るペリノア王や、私に協調してくれるロット王、どちらも最終的に円卓を降り、国の為にもいなくなってもらった方が助かるのは確かだ。しかし彼らの功もまた大きい、それに報いもせず排除を企むとは……騎士道はおろか人道にも悖る。合理的に政治を推し進めたい気持ちは分かる、だがそれに腐心するあまり道を見失ってはいけない。分かるか、ロホルト」

「……はい。わかります」

 

 アルトリアは手放しに褒めた――つもりだ。そして同時に、ロホルトが合理性を重要視する余り、非情な人間になってほしくないから、親としても諌めただけのことである。

 しかしロホルトにはそう聞こえなかった。騎士として英才教育を施してきたのは父である、その父が騎士道に反すると糾弾し、改めろと厳しく叱責してきたと受け取った。

 重々しく頷いたロホルトに、アルトリアは満足する。そして早く時が経ってほしい、ロホルトを公的職能を預けたいと熱望した。これほどの才気だ、アルトリアの――ひいては国の為に考えられる頭脳と精神の持ち主なのである、真の理解者であるロホルトと共に戦いたい。

 

 戦争ではなく、政争でもなく、貧しい国を豊かにする過酷な戦いで、だ。

 

 ロホルトは自省する。不満がないとは言わないが、父はこの道で何年も舵取りをしてきたプロだ。そのプロが言うのなら正しいのだろう。父からしてみれば、ロホルトはまだ経験が浅く、素人の域を出ていないように見えても仕方がない。王子の理性はそう言う。

 だがしかし、本心では深い不満があった。浅い思いがあった。体験していない、生温い不平――中央集権化を推進し政治を主導するのなら、非情で恐れられる王の方がいいんじゃないか、と。

 口には出さない。底の浅い不平だという自覚があるからだ、そして経験豊富な父王の言葉の方が重く感じるし正しいとも思う。だが――こうも思った。

 

(明らかに末期な国でそんな悠長に構えてちゃ駄目だろ。大鉈を振るって、それこそ武力を行使してでも迅速に内憂を除かないと、外患で国体と国土がガタガタになる。歴史がそう言ってるぞ)

 

 ロホルトは当代では賢者と称するに不足のない知識量を誇る。歴史の知識も日本史や、近代史を学んだ経験がある――と思い込んでいる――のだ。故に彼の意見は後世から見て正論で、正しい。

 ロホルトは未来の日本人男性の知識を取り出し、王子としての立場と英雄としての素質で結論を出していたのだ。それこそがブリテン王国を救う唯一の道なのだという事実を誰も知らぬまま。

 

(ブリテンは後十年以内に国内を一枚岩に――そこまでは無理でも王の名の下に一致団結して、()()()()()()()()()()()()()()()()()しかない。十年後までに国力が更に低下してたら厳しいが、あのミラクル親父とスーパー騎士団なら勝てるんじゃないか?)

 

 ロホルトの考えるブリテン王国の失策は、ブリテン島に外来人が侵入してくるのを阻止できていないことだ。ヴォーティガーンは未だ健在、彼がサクソン人を大陸から招き寄せている、これからも増えるだろう。内部の問題でもたもたしている場合じゃない。

 人道や騎士道は一度捨て置き、即座に強権を振るって不穏分子を一掃、しかる後に団結してヴォーティガーンを討ちサクソン人を掃討。そして大陸に攻め込み領土を獲得。これを出来るだけ早くやらないと、それこそ手遅れになるだろうとロホルトは考えていた。

 

 プロであるアーサー王も同じ考えのはずだ。なのに何がいけない? ロホルトには分からなかった。分からなかったから、切れ者のアグラヴェインを今度は父の同伴なしに翌日呼び出して訊ねた。

 するとアグラヴェインは目を細める。――凄まじい先見の明だ、王子殿下は天才と称せられる。しかしまだ青い、視野が狭いとも感じた。故に彼は率直に現実を伝えた。

 

「殿下。アーサー王陛下は、『騎士王』の号を持っておいでなのです。すなわち騎士道に反する真似が陛下には出来ないということ。もし陛下が騎士道に悖る行いに手を染めれば、陛下の求心力が低下してしまうでしょう」

 

 なんだそれは。ロホルトは愕然とした。

 だからか、だから父はゆるゆると歩まざるを得ないのか。ならばどうする? どうしたらいい?

 ロホルトは即座に答えを出した。

 

「分かった。そういうことなら考えがある。アグラヴェイン、私は草案を作成する。下がっていい」

「は。……何を成さるおつもりで?」

「父や私にだけ忠実な騎士団を組織する。貴公を含め、後に国の中枢を支える腹心の軍だ。若く精強で、強い者を集めるんだ。――確か貴公に兄がいたな、ガウェイン卿だったか。彼を騎士団長に据える。侮れない戦力を集め、鍛えれば、自ずと父上の助けになるだろう」

 

 アグラヴェインはそれを聞いて、数秒思案する。そして頷いた。良案だ。

 

「であれば私も殿下に助力いたしましょう。陛下に草案を提出なさる時、私も同行させて頂きたい」

「助かる。ありがとう」

 

 ロホルトはアグラヴェインと協力して草案を纏め、後日意気揚々と父に提出した。

 間違いなくいい考えのはずだという自信がある。

 何せアグラヴェインという知恵者と共に細部を詰めた案だからだ。

 

 しかし、アーサー王は王子と騎士の案を却下した。

 

 

 

(……え? ……なんで?)

 

 

 

 目が点になる。

 

「――素晴らしい意見だ。私も是非頼むと任せたくなった。だが……駄目だ。私個人が武力を有することに諸王はいい顔をしないだろう」

 

 アルトリアは額を抑える。溜息を堪えて。

 そう、円卓に優先権を有する諸王は、アーサー王を侮っていない。アーサー王が小娘だと勘づいて軽んじているペリノア王ですら、アーサー王の強さ自体は認めている。

 ただでさえブリテン中の騎士の支持を集めるアーサー王が力を持てば、自身らの立場が危うくなるのは自明である。アーサー王がよからぬことを考えずとも、過激な忠臣が自発的に刺客になり自分達を襲うことで、アーサー王の独裁に持っていこうとする可能性がある。

 だから――この案は通せない。無念そうにアルトリアは言った。

 

(……ば、馬鹿ばっかりなのか、この国は……そんなことを言ってる場合じゃないだろ?)

 

 渋々、ロホルトは妥協する。自分の名前と責任で、有志を募り国の行く末を論じる青年団を結成するのだ。アルトリアはそれならいいだろうと頷いた。

 

 

 

 

 

 




アルトリア
 言い方。

アグラヴェイン
 まだ若い故に人の愚かさをまだ見極めきれていなかった。

ロホルト
 こんなの死ぬしかないじゃない! まだだ、まだ終わらんよ!
 諦めたいけど諦めたくない。なんとかしようと奮闘中。

ブリテン
 公式で誰とは明言されていない(はすだ)が、円卓内でアーサーの秘密に勘づいてる者がいる。
 本作ではペリノア王が該当。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。