【ネタ】故障してる千里眼持ち王子inブリテン王国   作:飴玉鉛

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第4話

 

 

 

 

 

 ロホルトは折れない。才気ある小姓(七歳)から従騎士(二十歳)までの若手をターゲットに絞り、子飼いの騎士として忠誠心を植え付けて、王家の近衛騎士団として結成する案が最初から頓挫しても。

 折れない。折れることが出来ない。まだ間に合う、まだやれると思ってしまう。なぜなら彼は特別な血筋なのだ、特別な才覚と英雄の素質を具えた卵なのだ。ブリテン人で最も高貴な母と、ブリテン最高の英雄であるアーサー王の血は、ロホルトに不屈さを与えていた。

 分析する。今回の失敗は――国の未来の為に必要なことでも、国民が無条件に協力するわけではない。ましてや高い権力や武力を持つ者が、自らそれを手放すことは極めて稀なのだという現実を知らなかったことに原因がある。アグラヴェインと反省会を開いてそうした結論を導き出した時、アグラヴェインは心の中で人という生き物を侮蔑し、ロホルトはあからさまに嘆息した。

 

(オレならブリテン王国の王子なんて地位、欲しがる人がいたらくれてやりたいのにな)

(……なんという暗愚。この身の想定を遥かに下回る愚劣さだ)

 

 アグラヴェインは人間が嫌いだ。幼少期から淫蕩な実母に刷り込まれた嫌悪感が、冷徹な鉄人である彼の心に毒を持たせる。故にこそアーサー王やロホルト王子の高潔さ、優秀さが相対的に更に美しく見えてしまうのだ。この御方達だけは違うと、彼は思う。

 

「アグラヴェイン卿、私は諦めないぞ」

 

 決然として光を纏う王子は、闇そのものの母と正反対。彼はまだ知らないだろう、ロホルト王子を指して国の民、騎士達が『ブリテンの光』などと称していることを。その英邁さに希望を持ち、若手を中心に強力な求心力を発揮しはじめていることを、まだ。

 不屈の闘志は溢れ出るカリスマ性だ。

 アーサー王のそれが透徹とした王気だとするなら、ロホルトのそれは後を追い掛けたくなる炎の王気。アグラヴェインは忠義心を新たに、彼への助力を惜しまないことを確約した。

 

「私の名に於いて、『ごっこ遊び』の(てい)で従騎士までの若手を登用する。前の計画ほど大々的にはやれないし、大人数を集めるのは無理だろう。人を従える苦労を今の内から経験しておく為とでも言っておけば、私の年齢からして外野も邪魔はできまい。もし邪魔する者がいたら堂々と嘲ってやる、ガキの遊びに余計な茶々を入れる気か、とね」

「少数精鋭ですか。……まるで円卓ですな」

「はは。円卓? 私が目障りと断じたものの二番煎じか……いいね、この計画は円卓ごっことでも称してしまおう。それで、物は相談なんだが……貴公はこれはと思う者はいるか?」

 

 ロホルトに問われ、アグラヴェインはザッと覚えにある従騎士や小姓達の顔と名を思い浮かべた。

 これはと思う者は少ない。だが、いる。現時点で二人は確実に、後々には円卓の座に上り詰めるであろう才人が。アグラヴェインは一切の私情なく、件の二名を推挙する。

 

「まずは二人、身内贔屓と取られても構いませんが――」

「身内贔屓? 貴公に限ってそれはないだろう」

「――恐縮です。私の兄弟を殿下の許に置いて頂きたい。才気は確かで、ゆくゆくは円卓の騎士にも成り得る者達です」

「円卓に? 凄いじゃないか。名前と年齢は?」

「ガヘリスという者が15歳、従騎士として兄ガウェインに仕え、ガレスという者が7歳で、もう間もなく小姓となる予定だと聞いてあります」

 

 ガヘリス、ガレス。二人の名を口の中で呟き、ロホルトは意識を切り替えるように膝を打った。

 

「ガレスを父上の小姓にするように働きかける。それからガウェイン卿に会おう、暇な時間だけでもガヘリスを借りたいと頼まないとね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガウェインは練兵場で汗を掻いていた。木剣を下げ、目の前に一人の少年が倒れ伏している。

 降り注ぐ日光を反射する汗、輝かんばかりの金の髪。爽やかな相貌には太陽の如く一片の影もない。

 彼は自身を訪ねてきた王子を見るなり、僅かの間も空けず跪いて騎士の礼を示した。そして横目に見ながら倒れている者を叱責する。何をしているのですか、早く礼を示しなさい、と。

 とはいえ倒れている少年は力尽きている。身を起こすのにも苦労しているようで、アポイントメントも取らずに来たロホルトは気まずくなって言った。

 

「すまない、ガウェイン卿。従者と鍛錬中だったようだね。後で出直すから楽にしていいよ」

「何を仰います、殿下。この程度で音を上げるような弱腰に騎士の資格はありますまい。私達に御身が遠慮なさることなどありません、御用がおありでしたら如何様にも申し付けてください」

「……すまない」

 

 ガウェインはロホルトが思い浮かべる、騎士という概念を擬人化したかのような青年だ。

 明朗快活で忠義に厚く、誰もが見惚れる美丈夫で勇猛果敢。腕が立ち、弁も回り、ユーモアも具え、強い。古典的な物語の主人公みたいで、実のところロホルトはガウェインが大好きだった。

 からりとした人柄に安心感がある。後ろ暗いものがある敵対者しか、この青年を恐れ嫌うことなどないだろう。騎士の模範だとすら断言できるほどだ。

 しかしガウェインと個人的に話したことはなかった。というのも、ガウェインはアーサー王からの信任も厚く、彼の軍事面における右腕なのだ。日頃から多忙を極めるガウェインに、まだ正式な騎士にもなっていないロホルトが時間を取らせるのは気が重いのである。

 

「こうして面と向かって話すのは初めてだね、ガウェイン卿。今日は貴公に頼みがあって来たんだ」

「頼みなどと、とんでもない。なんでもお命じください」

「……貴公は忙しい身だからね、前置きをするのも気が咎める。単刀直入に言わせてもらうと、貴公の弟であるガヘリス卿を借りたいんだ」

「ガヘリスを?」

 

 意外そうに目を瞬き、彼は傍らに控える少年を見遣った。

 少年はガウェインに似ていた。しかし似ているのは外見だけで、瞳は暗く、表情は重く、彫像のように静かに佇んでいる。外見はガウェインだが、性格はアグラヴェイン寄りなのだろう。

 これは初手を誤ると忠義を得られないなと直感した。時折り脳裏を過ぎる稲妻めいた勘が外れたことは今のところない。ロホルトは自身の感覚を信じ、腹に力を込めて計画を伝えることにした。

 ガウェイン達になら話してもいい、いや寧ろ話さないでおく方が不都合があると判断したのだ。

 

「私はこれから、これはと思う若手を集めた青年会を立ち上げる。円卓のミニチュア版みたいなものだ。そこに集めた才人達を、いずれ父王に忠義する固有の騎士団に育て上げたい」

「……そのためにガヘリスが必要だと?」

「ああ。ガヘリス卿だけじゃない、ガレスもだ。聞けば才気煥発らしいじゃないか」

「………」

 

 ガウェインはジッとロホルトの目を見据えた。無礼とも取れる行為だが、嫌味はない。

 だがそちらより、ロホルトはガヘリスの暗い瞳が気になった。

 まるで影だ。ガウェインという太陽の後ろに立つ者。妙に、波長が合う。

 見つめ合う形となったガヘリスとロホルトを見遣って、ガウェインは爽快に微笑んだ。

 

「承りました。ガヘリス、聞いていましたね? これから貴方は殿下に仕えなさい」

「……承知。殿下、至らぬ我が身ですが、微力を尽くしてお仕えします」

「ありがとう。……ガウェイン卿、この礼はいつか必ずすると約束するよ。ガヘリスもね」

「礼など不要です。私にも打算はあります。殿下の組織する青年会というものが、我が王の御為になるというのなら、これに勝る歓びなど何処にありましょうか。どうかお気になさらず」

「いいや、気にするね。言い換えようか、ガウェイン卿。私が気にするから礼をさせてくれって」

「……これは参りましたね。そう言われては断れません。では、殿下。殿下からの礼、楽しみに待たせていただきましょう」

「そうしてくれ。じゃあ今回はここで失礼する――ガヘリス卿、付いてきてくれ。少し話をしよう」

「は」

 

 ガウェインに目礼して立ち去り、ピタリと付いてくるガヘリスの存在を背中に感じる。

 無駄口を叩かない寡黙さが心地よい。まるで十年来の友のようだ。

 どうにも波長が合う、まるでオレの影のようだ――そう思って苦笑する。

 もしかすると、ガヘリスと自分は最良の出会いの一つかもしれない。――六歳差の少年達は、同様のことを同時に感じていた。まさしく運命なのだろう。

 

 ――後年のアーサー王伝説に曰く、ロホルト王子は騎士ガヘリスを腹心として、かけがえのない親友として頼りにしたといわれる。

 度々議論されることとなる、複数回も行われた『ロホルトの献策』を王が実行していたらどうなっていたかという話で、ガヘリスの名は必ず挙げられた。

 目的の為なら手段を選ばない、およそ騎士らしからぬ冷酷さを秘めたこの騎士なら、ロホルトの非情とも言える策の数々を実現させていただろう、と。

 

 アーサー王の両腕に、ガウェインとランスロットがいたように。

 ロホルト王子の右腕こそが、このガヘリスだったのだ。

 

 そして、最良の出会いは連続する。

 

「は、はじめまして! ロホルト王子! わっ、わわわ、私は! ガレスっていいます!」

 

 二つ年下の()()はアーサー王の小姓として召し上げられ、しかしロホルトの下に配属された。

 明るく愛嬌のある少年に、ロホルトは微苦笑する。随分と可愛らしい子が来たなぁ、と。

 

 

 

 最良の出会いが連続して。

 

 そしてそのツケのように、不穏な影もまた忍び寄っていた。

 

 

 

 ――忌々しいアルトリアの息子。噂を聞くにいけ好かない小僧だろうと思っていましたが……なかなかどうして、()()()()面白そうですね。

 

 卓越した神代の、神域の天才魔術師は、その特別な瞳で心を見通し。そして魔女としての眼力が、一目で少年に施された()()()()()を見破った。

 マーリンの術だ。巧妙に隠しているが、この魔女の目だけは誤魔化せない。

 魔女モルガンは、淫靡に微笑む。

 彼女は見た、アーサー王とロホルト王子の悲しいすれ違いを知った。利用できそうだと嗤う。さあどう料理してあげましょうかと企みを練りながら、魔女は闇から闇へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




アグラヴェイン
 この御方がアーサー王の王子でよかった。
 醜いものを知れば知るほど、光はより強く感じる。
 本作ではガヘリスより年上。

ガヘリス
 オリキャラ。
 ガウェイン、アグラヴェイン、ガレスが出たのに原作では名前しか出ない影の薄さよ。
 彼の実力と性格は円卓の騎士らしくキワモノである。
 寡黙で、忠実だが、手段は選ばないし迷いもしない。
 太陽の影であり、ロホルトの親譲りのカリスマ性に惹かれるものを感じる。

ガレス
 癒やし枠の追加。子犬。
 少年っぽい服装をしていたらまだ見分けが付かない七歳の女の子。
 しかし本作は年齢が全員原典寄りになるので、必然的にガレスも大人の女にはなる。
 発育をごまかせるのか?

ロホルト
 ガウェインに男として、騎士として憧れている。
 その憧れはあくまで物語の主役に向けるようなもの。
 ガヘリスを一目で気に入る直感Aの持ち主。

モルガン
 読者一同が熱望したであろう麗しの御方参上。
 お忘れだろうか。妖精國の女王ではないので魔女全開である。
 個人的にはロホルトを気に入るが、それはそれとして復讐に利用するのは躊躇わないだろう。
 対抗できるのはマーリンのみ。おのれマーリン!

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