【ネタ】故障してる千里眼持ち王子inブリテン王国   作:飴玉鉛

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またしても扁桃炎再発で死んでました。




第5話

 

 

 

 

 ロホルトは折れない。高貴なる戯れ(お子様のお遊戯)と笑わば笑え――斯くの如き心境で父王の許可を得て、元々の予定よりも大幅にスケールダウンした近衛騎士団――その前身たる青年会を結成すると、参加者の皆は意外と真剣な面持ちでロホルトに傅いてくれたのだ。

 

 集められたのはガヘリスやガレスを入れてもたったの十二人。中にはロホルトの思想や活動を報告しろと言われている者もいるだろう、しかしこれだけの人数を集められただけ快挙だった。

 予想以上にアーサー王の息子という肩書が大きな効果を発揮してくれたらしい。二十歳寸前の従騎士でもロホルトを軽んじ、侮るような態度は取らなかった。寧ろ根本的に自分とは違う生き物を観察するような目をしていたのは気になるが、父の威光なら有り難い話だ。

 

 ロホルトが円卓ごっこと称した自身主催の青年会では、主に空いている時間を使ってのお勉強会を主題に置いた。ただのお勉強と侮ってはならない、ロホルトの頭脳には遥か未来にまで蓄積された『物語』の大群が宿っている。純朴な子供の道徳観念に、主君への忠義は美しいと感じさせる騎士物語も知っているし、不都合なものをカットしアレンジする才覚もロホルトにはあった。

 ロホルトの語るきらびやかな騎士物語に子供達は目を輝かせて夢中になり、壮絶な戦いの軌跡に拳を握って、仲間の卑劣な裏切りに怒り、主君への忠義に感動した。子供達だけではない、間もなく二十歳になろうかという青年までもが固唾をのんで物語の決着が明るいものになることを祈っていた。――真に卓越していたのはロホルトの弁舌だ。確かに未来を覗き見て得た知識は異次元の物である、しかしそれを十全に活用して聴衆の心を掴んでしまえるのは、ロホルトの弁舌が特別優れていたからだった。

 

 未だ花開かぬカリスマの種は、開花すると美しい炎の花を咲かせるだろう。他者の心に燃え移る、それはもう美々しい花を。――だがそれは現在(いま)ではない。ロホルトは物語をいくつか語ると、必ず一つの座学を挟んだ。もしまた別の物語、あるいは続きを聞きたければ、こうした学びにも真摯に向き合いなさいと命じたのだ。

 

 そうしてロホルトが説くのはブリテン王国の現状だ。年々減少する税収、歯止めの利かない貧民の賊徒化、団結力の薄い諸侯、明確な外敵とその動向である。外敵の動向に関しては王子の推測に過ぎないが、卑王が聞けば驚愕し、脅威と見做して刺客を放っていただろう。

 ロホルトは言う。外敵――全てのブリテン人に対する裏切り者、卑王ヴォーティガーンは更なる大陸民の流入を企図し、大型船の寄港できる港を狙っているだろう。もしこれを許せばブリテン島の人口は更に肥大し、国土そのものが痩せていっているブリテン王国の食糧問題は飽和して、近い将来亡国の憂き目に遭いかねない、と。

 

 ヴォーティガーンの真意――神代死守――は兎も角、狙いは当たりだった。ロホルトの読み通り、卑王は一度に大量の人員を輸送できる大型船を、大陸側に作らせていた。後はその大型船を迎えられる港さえ手に入れたら充分で、彼の目的達成まで後一歩まで進んでいる。

 

 ロホルトの話を聞いた生徒達は悲痛な声を上げた。どうにかならないんですか、殿下! と。哀れを誘う縋るような目を向けられた王子は苦笑した。

 どうにかなっていなかったら、こんな時にこんな所でこんな話をしている訳があるまいに。物語の噺をしている時も思ったが、純粋すぎるなこの人達は。

 

「――心配しなくていい。私の偉大な父上が、既に卑王の企てを先読みして手を打っているよ」

 

 さ、流石はアーサー王陛下! 無邪気な反応にロホルトの苦笑は深まる。

 

 ヴォーティガーンの勢力圏内に単身潜り込み、条件の該当する港へ大規模な破壊工作(エクスカリバー)を完了させていた点は、流石父上だとロホルトも思う。だが王子はマーリンの存在が気になった。

 噂の宮廷魔術師殿には実際に会ったことがある。しかしロホルトはマーリンが――誤解を恐れずハッキリ言うと嫌いだった。まるっきし興味のないものを見るような、あの虫みたいな目が。

 不気味なのだ。悍しいのである。ロホルトにだけでなく、アーサー王以外の全てを『そこにあるモノ』としか認識していない、あの眼差しに嫌悪感を覚えるのだ。アレは人の世にあってはならない類いのもの、父上がいなくなったが最後、野放しになる。余計なことをされる前に封じ込める何かが必要になるだろう――という予感がしているが、今はさておくとして。

 

「外敵の動向に関しては、今は父上と大人の騎士達に任せていい。今の我々が努めるべきなのは、偉大な各々の父に追いつき、追い越すことだ。その為に必要なことが分かる人はいるかな?」

「はい!」

「――元気がいいね。君は?」

 

 元気良く挙手したのは灰髪の少年だ。歳の頃はロホルトと同程度に見える。非常に可憐だ。

 瞳は深い緑で宝石のように美しく、無邪気を装っているが――磨き抜かれた知性が垣間見え、反射的にム厶ッと感じる。感じた途端に目に光が変わったのを見て、更に思う。この子は何者だ。

 短くも長い、一瞬、刹那の視線の交換/交感。互いが見て取ったものを瞬時に理解した……?

 

「……オークニーのロット王にお仕えする騎士オニールの子、()()()()といいます、ロホルト殿下!」

 

 ちらりと傍らのガヘリスを見遣ると、彼は難しい顔で頷いた。オークニーに確かに騎士オニールはいるらしい。だがガヘリスの顔を見るに、オニールはこの青年会に子供を参加させるような物好きな騎士なのか、トネリコが自分で参加の意思を表明してやって来たのか。

 前者であればいい、しかし後者であれば惜しい。「わぁ、同郷なんだ! 仲良くなれたらいいな!」と無邪気に喜ぶガレスは可愛らしいが……。

 

「えっと、先に断りを入れるご無礼をお許しください、殿下」

「なにかな?」

 

 会話を挟むテンポがいい。空気を読めるのかなとロホルトは思う。素晴らしいことだ。

 

「実は憧れのロホルト殿下の噂を聞いて、いても立ってもいられなくなって無断で来ちゃいました! なのですぐ連れ戻されちゃうかもしれません……」

「ああ……」

 

 後者だったか。惜しいな、なんとなくこの子はかなり優秀な気がしていた。

 しかし思い出した。騎士オニール――ガヘリスに確認して、トネリコの言葉を聞いてやっと。

 騎士オニールといえばロット王の腹心だ。懐刀と言い換えてもいい宿将で、ロット王が最も頼りとする将軍である。そしてオニールは今、キャメロットにロット王の代理として赴いて来ており、そうであるならこの歳のトネリコを連れて来ていても不思議はなかった。

 納得はする。とても残念だが。

 

「……それは、仕方ないね。代わりに今回の会合を目一杯、充実させることを約束するよ。トネリコ」

 

 ――そう、とても残念だ。

 

 オークニーのオニールの子。それだけで、ロホルトはトネリコを無理に仲間にする気はない。

 なぜならロット王はロホルトが最も排除したい王なのだ。

 今はアーサー王に協力的だが以前は違うのである。

 

 アーサー王が聖剣を抜いて立った時、ロット王は最も強硬にアーサー王がブリテン王になるのに反発して敵対した男だからだ。まだ弱勢であった父を殺すべく、ユリエンス王と連合して軍を率い戦争を仕掛けた。三千の兵を率いて、だ。対する父の兵は三百。

 結果は父の勝利。聖剣カリバーンを振るった父に敗れ、ロット王は泣く泣く臣従することになった。だがブリテン王国が形として纏まると、再びロット王は反旗を翻している。今度は十一人の王と連合を組んで、六万の軍勢を作り上げて父を殺めようとしたのである。対する父はバン王、ボールス王の来援を受けて四万の軍で迎え撃ち、再び勝利を飾ったが――

 

 二度も裏切っておきながら、今後は裏切らないとでも?

 

 二度目の戦いの後、海外からの襲撃で、ロット王達は戦力を失くしている。だから大人しく臣従しているが、もし戦力を回復したら? また反旗を翻さない保証は?

 二度あることは三度ある。ロット王は最優先で退場させたい王の一人だ。

 命まで奪いたいのではない、実権を完全に奪い去りたいのである。そうするにはどうすればよいか。

 簡単ではない。ブリテンに簡単な話など無い。無いから困ってる。だから、簡単な方法を作る。

 

 オークニー出身が信用ならないなら、それこそガレスやガヘリスなどロット王の子なのだから論外なのではとも思うが……やりようは幾らでもある。

 

「お気遣いありがとうございます。あ、でもこれを最後にする気は私にはありませんから!」

「……ん?」

「連れ戻されたって、諦めたりなんかしないってことです! 家出してでもぜぇーったい殿下に会いに来ます! いいですよね!?」

「……あ、ああ、うん。オレ、いや私の手が空いてる時なら歓迎できるよ。けど家出を私が推奨することは出来ないかな」

「言いましたからね! 約束ですから!」

 

 こちらの思惑を知らないトネリコが闊達に言うのに、若干毒気を抜かれた。

 家出してでも会いに来る、か。凄いな、物語の力。ロホルトはそう未来の物語を賛美する。よほど続きを知りたいんだなぁと、そう解釈したのだ。

 やはり子供の心を掴むのはこういうものなのだ。というか大人だって大好きだろう。だがいくらなんでも子供の家出宣言は諌めるべきである。今の時代、どこに危険が潜んでいるか分かったものじゃないのだから。そう思うのだが、どうも――この子を心配する必要は全く無い気もする……? 頭の中で倫理観と直感が正面衝突を起こし、ロホルトは少し混乱してしまいそうだった。

 

「そしてさっきの殿下の設問ですけど」

「え? さっき……?」

「親を超える為に必要なことは何かってとこです。私には分かりますよ! ずばり――皆が一つの帰属意識を持って、皆が賢くなればいい、ってことでしょう? そうした物語の方が、きっと綺麗ですからね」

 

 戸惑っているとトネリコがロホルトの設問に答えを示す。

 正解だった。だがぞくりとする口元の弧はなんだ。

 ロホルトは正気に戻り、フゥーと細い息を吐き出すと手を打ち鳴らす。

 

「見事。いいかい皆、トネリコの言った通り仲間は大切だ。国という重く大切な物を守るには、皆が力を集めて、智慧を絞り、過ちを見極められる正しい心を育てないといけない。その為の勉強だ。君達の努力の有無が、国の未来を左右すると言っても過言じゃない。だが私もまだまだ未熟だ、そこで皆と話し合いながら共に学んでいこうと思い、設立したのがこの青年会だよ。今日は初回だから軽く済ませるだけのつもりだったけど……ちょっと物足りなく感じてる人もいるみたいだし、もう少しだけ付き合ってくれ。次回にも引っ張るつもりの議題だけど、まずは『諸侯の団結力の稀薄さをどうやって是正するか』についてだ」

 

 それができたらアーサー王――父上も苦労しないだろうなと思う。

 こんなところから解決策が出てくるわけがない。

 だが一つの問題に皆が頭を悩ませ、意見を戦わせ、同じ答えに納得したら、仲間だ。そして育んだ仲間意識を首輪にするのがロホルトの役目である。その首輪こそが王者の被るべき王冠だろう。

 目に見える優しさと甘さは必要だ。しかし見えない冷酷さも不可欠である。ロホルトは――甘いフェイスの裏に、猛毒を含む苛烈な覚悟を持ってしまっていて。その猛毒がすぐそこにいることには気づけずにいた。

 

 遅効性の毒だ、今更急ぐ気のない巧遅の歩みである。

 

 大器であれ未完の器だ、それがどうして熟練の悪意に気づけようか。

 

 

 

 アーサー王が聖剣を抜いてから十六年目。間もなく国内を乱す戦が起ころうとしていた時の、束の間の平和の時のことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 




本作の簡易時系列設定
 アルトリアがカリバーンを抜いて王になった時から一年以内にロット王とユリエンス王の連合軍と戦い。五年後ぐらいのブリテン王国統一後にまたロット王その他十名の王連合とアルトリア達三名の王の連合が戦い、戦後に円卓結成。ギネヴィアと結婚、初夜で命中。ロホルト誕生。



大規模な破壊工作(エクスカリバー)
マーリンとアルトリアの合わせ技。相手は死ぬ。ただのチート。聖杯戦争に例えると、情報封鎖を完璧にして隠れてるマスターの拠点に、霊体化してたアルトリアが地面の中からいきなり生えてきて実体化、口上なしで開幕聖剣ぶっぱマスター殺しをしてくるようなもの。
騎士道的にどうなのそれ? 聖剣判定大丈夫? 大丈夫なのである。卑王はガチで人間じゃない上に、対象は生き物でもないただの港。おまけに本作はほんのスパイス程度に原典に寄せてあるので、原典のはっちゃけアーサー王要素があるため聖剣さんもギリセーフ判定を出すのである(相手が悪ならいっか!)

マーリン
まだ教訓を得ていないので個人をかなり軽視。つまり原作数割増のスーパー・ヒトデナシモード。ただ思い入れ(無自覚)のあるアルトリアの頼み事は聞いちゃう。ヴォーティガーンの作っていた港(重要拠点)の場所知りたい、教えてと頼まれたから教えた。
ちなみにロホルトに思い入れはないので、その他の男連中を見る、虫みたいな目(本人的には気にしていないだけ)で見ているが、そのせいでロホルト含めほとんどの男性陣から嫌われている。

アルトリア
「早く大人になってほしい」
軍事的嗅覚・実力は経験の差もありロホルトより数段上。ロホルトがヴォーティガーンの企みの話をした時には既にカリバー! していた。
千里眼(現在)&敵地単身突入(直感A)&カリバーのコンボは真面目に敵国をズタズタに出来る。ロホルトがこんなに幼いのにここまで考えつくことに感激。今度クラレントあげようと思ってる。
実は将来的にはロホルトを王にして自分は退位し、ロホルトの采配に任せようとしている。自分が導いて救わないといけない! という思い込みはなくなった為だ。周りが駄目すぎて以前までそう思っていたが、ロホルトを見てこの子がいたらやれると考え、聡明さを知れば知るほど「……この子の方が王に向いてるような……」と感じるようになり「この子に王を任せ私が補佐として脇の甘さを固めた方がいいのでは」と最適解を思いつく。クラレント(王権・剣)を与えるのは親の贔屓とかではなく、王としての後継者指名&世代交代通達でもある。十年後が待ち遠しい、ロホルトも成人するのを待ってからが本番だぞ――なお言葉にしていない模様。言葉にしてないから描写もない。
だが普通に考えて子供のうちは下積みである。下積み感覚が抜けて本番感覚で頑張ってるロホルトの方がおかしい。しかし十年後はロホルトからしてみればほぼ詰んでるようなもんなので本当に嫌。

ガレス
まだ影は薄い。彼女が最年少にして円卓の騎士になるかどうかの頃からが本番である。

ガヘリス
ロホルトの企みを聞かされて頼み事を請け負った人。影は薄いが意図的に薄めてるだけ。今は。

ロホルト
暗黒面に九歳にして目覚めるほど国が詰みかけている。どうにかする為なら子供達に洗脳教育も施す。人物としての基軸は「即断即決、行動力の化身、必要なら味方も切れるタイプなのに好青年、光と闇が合わさってる」というもので、鉄の騎士アグラヴェインや異端騎士ガヘリスと相性抜群、ガウェインやランスロット(不倫前)とも相性抜群、邪悪以外とは基本的にマッチングする男(和の心)。

諸侯
マーリンとかいう激ヤバ魔術師と騎士王のコンビの凶悪さを知ってるので悪い意味で一致団結し易い。
具体的にはアーサー王一強は誰も望んでない。同時に、ロホルト王誕生はもっと望んでない。
アーサー王並の才能持ちがアーサー王より過激とか激ヤバである。しかもとうのアーサー王が健在なのがヤバさに拍車を掛けている。

トネリコ
「早く大人になってくれないものか」
目障りな夢魔が仕事に駆り出された隙を衝いてやってきた。
まずはロホルトの信頼を得る。話はそれからだ。気長にやっていこうと腹の中で考えていたが、対面した王子が予想以上に頭の回転と思考速度が早く、内心かなり驚かされている。
この時期の某魔女が最も名乗ってはいけない偽名だが、名は体を表すという言葉もある。一つの物語の最悪の敵として語られる悪辣な魔女が一人の貴公子と出会って――というのは実に王道な展開ではないだろうか。
そして王道とは常に遅れてやってくる。時間のないブリテンで、遅れてくる。




原作の年代
なお原作だと既にブリテン終了カムランの丘で聖杯に手を伸ばしている状態。どんだけ詰め込みまくったんだと書いてて改めて驚愕した(原作アルトリアの享年が三十路前後)
こういうのはもっと長引かせてだな……(鬼畜)

ロホルトの設計図
有り体に言うと、遅れて生まれてきたアルトリアが思い描いた理想の王。強いし賢いし人徳もある、みたいな。アルトリアが全部持ってるもの。本人が気づいてないだけ。強いて言えば冷酷さ冷血さ冷徹さとそれを隠す術にかけてはアルトリアを上回っている。未来の知識量ブーストで智慧も磨かれてしまっているので小賢しさも上回ってるかなってぐらい。

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