【ネタ】故障してる千里眼持ち王子inブリテン王国   作:飴玉鉛

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第7話

 

 

 

 

 

 ロホルトは折れない。折れてもいい資格を自ら捨てた。

 

 ()の名は、ステファン。

 純粋で、正義感が強く、情に厚い、心根の真っ直ぐな少年だった。

 ステファンとはすぐに仲良くなれた。容易く心を開いてくれた。だからガヘリスに連れられて来た彼と話して、青年会の仲間に加えた時、ロホルトは堪らず笑いそうになりながら思った。

 思い通りに動かせる理想的な駒が来た、ガヘリスは素晴らしい人選をしてくれたようだ、と。自らの策が上手くいくと確信し、後は自分がやるべきことをやるだけだと高を括ったのだ。

 

 本当に簡単だった。歯応えがなさすぎて、本当に上手くいくのか逆に不安になるほどに。

 

 ロホルトは彼を含めた青年会の皆に、いつも通りの事をいつも通りにしただけだ。毎日青年会の会合を開いていたわけではないから、噺の種はまだまだ尽きることはない。仮に噺の種がなくなっても、培ったノウハウがあれば新たに噺を作ることも出来る。

 皆の心はロホルトに向いていて、皆で国の未来を想って成すべきことを談義するのは楽しくて、熱意は翳らずに、若々しい情熱が連帯感を強めた。いつものことをいつものようにしていただけで――機が熟すと、囁やいた。それだけで、面白いようにステファンはロホルトの狙い通りに動いてくれた。事が成ったのを知った時、ロホルトは腹を抱えて笑い転げてしまうぐらい完璧に。

 

「ァハハハ、ああああははははははは!」

 

 馬鹿だ! 馬鹿だ! 馬鹿が! 馬鹿野郎が! なんでそんなことをしたんだ、なんで自分の主を殺したんだ! そんなことをしたらお前が死ぬだろう、死んだらもう会えないんだぞ! もう話せないし国の為に仲間の為に戦うことも遊ぶことも笑うことも出来ない! なのになんでそんなことをした! なんでだ! アハハハハハ! 本当にやってくれた! 助かった! よくやった!

 

「殿下ッ」

 

 肩を痛いほど強く掴まれる。振り払って見ると、ガヘリスがいた。

 

「笑ってはなりません」

 

 ……は?

 

「殿下が囁き、私が唆したのです。彼は――英雄です。英雄の死を笑ってはなりません」

 

 ………。

 …………笑う?

 オレが……笑っていた?

 はは……。

 

「……すまない、少し一人になりたい」

「駄目です。殿下、貴方は逃げて楽になろうとしている。()()()()()()()()()()()。他者を駒に見立て思うがまま操り、人を数字で、世界を盤面に見立てようとしている。それが楽だからだ」

「…………」

「貴方は駄目だ。自らの成したことから目を背けては、貴方は卑劣漢になってしまう。卑劣漢に、人は心から従いはしません。私はそうした卑劣な遣り口に染まった魔女を知っています」

「…………」

 

 寡黙な青年の、痛烈な諫言。煩いと怒鳴れるほど、愚かではなかった。

 ロホルトは無言で、殺気すら纏い、膨れ上がる暴力的な魔力を滲ませながらガヘリスを睨み。

 数秒の後、光に縫い止められた影のように動かない青年の目に、怒気を鎮められてしまった。

 ロホルトは溜息を吐きもせず、固く引き結んだ口の中で、弱音を吐く。なんでオレが、なんでこんなことを、なんで、なんで、なんで。泣きそうになって緩む涙腺を、意地で抑え、瞑目する。

 

「……………………ガヘリス」

「はっ」

 

 敬称を付けずに呼び捨てた。ガヘリスは当然のように受け入れた。

 

「私は、謝らない(誤らない)ぞ」

「御意のままに」

「私は――」

 

 声が震える。

 

「――私の責任を、放棄しない。ガヘリス、私の騎士として、私が死ぬまで仕えろ」

「然と承りました。死しても、死した後も、我が主はロホルト殿下ただ一人と定めます」

 

 ステファン。愚かなステファン。お前を殺したのは誰だと思う。

 オレだ、とロホルトは断じた。固く握り締めた拳を解けば、手は情けなく震えるだろう。歯を噛み締めていなければ、脚が震えて腰が抜ける。

 無様は晒せない。オレは――――ではなく、ブリテンの、ロホルトだから。

 騎士ガヘリスの諫言は耳に痛かった。しかし、衒いなき直言だから、曖昧に濁さないダイレクトな言葉と眼差しだったから逃げずに済んだ。

 

「……すまない。ガヘリス、私は、いや、オレはこれから、お前を友と恃む。迷惑か」

「甚だ迷惑です。が、厚かましくも嬉しく思います。忠誠とともに、友情も捧げましょう、殿下」

「……素直なのも考えものだな、馬鹿野郎が。……まあ、ありがとう。私は、得難い友を得たよ」

「友を諌められぬ者は友ではありますまい」

「友だと思ってくれるなら、せめてその殿下はやめてほしいね」

「では……いえ、不敬なのでやはり殿下と」

「コイツ……はは。…………ステファンの名は、忘れない。お前も忘れるな」

「御意」

 

 キャメロット郊外で、白亜の城壁を見上げての一幕。

 この日に見た夕焼けに染まる大地が、ロホルトの心象に深く焼き付いた。

 

 それは一つ、ロホルトが大人に近づいた出来事。一人の少年を意図して死に追いやりながら、聖なる王子であるままに、闇の如き策を練る非情の騎士を成り立たせる契機であった。

 ロホルトは折れない。折れていい資格を放棄した。少年は鉄の心を懐き、その歩みで鍛え、練磨し、より固く、より冷たく、より恐ろしく成長していくだろう。ロホルトは、折れないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「戦争に行くの、ロホルトが!?」

 

 ギネヴィアが悲鳴を上げた。まだ子供の体に鎖帷子を纏い、その上に小さな鎧を着け、特徴的な形の兜を脇に抱えて来訪したロホルトを見て、だ。

 自身に仕える侍女を捨て置いて駆け寄った王妃は、王子の肩を掴んで青白い顔で訊ねる。嘘だ、そんなはずはない、ロホルトはまだ10歳! 戦争に行くのはどれだけ早くても14歳からだ!

 戦争ごっこでもすると言って安心させて欲しい。自身の顔を見る母の目に、ロホルトは苦笑した。正常な反応を見れて安堵したのである。ああ、オレがおかしいのかと思ってたけど、やっぱり戦争を経験するのはまだ早いはずだよなと。ロホルトは自身らを遠巻きに見る侍女達や、不心得者が現れた時の為にいる騎士達を見渡す。王宮の奥からは、やはり平和の気配が残っていた。

 ロホルトは母の顔に視線を戻す。

 

「はい、母上。リエンス王の弟ネロが反乱を起こし、ロット王がまたしても裏切った為、これを征伐する軍に参陣する指示を受けました」

「……そんな」

 

 血の気を失い卒倒しそうになったギネヴィアの体を支える。

 父もそうだが、母も華奢で小柄だ。ギネヴィアの方がやや大きいが、ほとんど誤差である。

 鍛えているお蔭でギネヴィアの体はとても軽く感じる。容易く支えられる母の線の細さに、ちゃんと食べてるのかなと場違いな心配をしてしまいそうだ。

 ロホルトはギネヴィアに微笑みかけた。

 

「安心してください、母上。私はこれでも強いのです。円卓の騎士ほどではありませんが……それ以外の騎士で私を止められる者はいないと父上も太鼓判を押してくれました。もう少し成長して、強さと資格を示せば円卓の座に私をつけてもいいと言うほどですよ。まあ年齢的に無理ですけどね」

「……陛下が。陛下が、ロホルトを戦争に……」

「母上? 母上、ちゃんと私の話を聞いてください」

 

 俯いてブツブツと呟くギネヴィアを見て、なんだかいけない気配がすると焦りに似た感覚を受けたロホルトは、得意の王子様フェイスのまま語気を強め、大きい声を発して彼女の気を引いた。

 ギネヴィアはハッと我に返る。間近にあるロホルトの顔から、強烈な光が注ぎ込まれたような心地を受けた。心の闇が吹き散らされるような優しい光だ。ギネヴィアはその光に吸い込まれる。

 

「な、なにかしら、ロホルト?」

「……母上からの贈り物が欲しいです。私が無事に帰ってこられるようにと、祈りを込めた物を私に贈ってください。それだけで、私は無限の勇気を得られる。そして絶対に生きて帰ります。だからお願いです、母上。私を助けると思い、何かを頂けませんか?」

「え? ――そう、ね。そうよね。す、少し待ってて、すぐに用意するわ!」

 

 ギネヴィアはパタパタと駆け去った。その様子を見てほっと胸をなでおろす。よかった。危うく母上が闇落ちするところだった……。

 王宮付きの騎士達が生暖かい目で見てくるのに、何だコノヤロウ見てんじゃねぇと睨みつけたくなるが我慢する。しかし侍女達の形容し難い黄色い目と囁き合いは我慢できない。背中がムズムズして堪らない。やめろ、そんな好奇の目で見るな……逃げたくなる、父から逃げてきたばかりなのに。凄まじく居心地の悪い王宮だこと! ほんと勘弁してほしいわ!

 ロホルトは心の中でオネエになることで心の自衛をしていると、ギネヴィアが奥からパタパタと駆けつけてきた。少し息を切らしているが、全く見苦しくないのは母の容姿は関係なく、母が我が子の為に出来ることをしようとしているからだろう。

 

 ギネヴィアはその手に蒼く、長く、広いスカーフを持っていた。

 

「ろ、ロホルト……」

「落ち着いて。母上、落ち着いて、息を整えてください」

「え、ええ。……ごめんなさい、そそっかしい母で」

「そんなことはありません。母上は変わらずお美しく、何より私の誇りで、心の安らぐ湖のような御方ですよ」

「あら、ますますお上手になったわね。……ロホルト、これを私に巻かせて」

「はい」

 

 ギネヴィアが求めるまま止まる。すると細く白い腕を伸ばして、ギネヴィアはロホルトの頭に蒼い布を被せると、そのまま上半身をすっぽり覆い、くるぶしまで包み込んでしまった。

 困惑して「は、母上?」と声を上げると、ギネヴィアはにこりと微笑む。

 

「あなたは成長期よ、まだまだ大きくなるわ。成長したら……きっと膝上ぐらいになるわよ。たぶんだけど。それまでは――ほら、出番よ皆」

 

 はい、王妃様! 女達の声が応え、三人のおばさん達がロホルトに殺到してきた。その手にはハサミ役のナイフや針、糸などがある。採寸するための道具まで。彼女たちは手慣れた所作で、あっという間にロホルトの体から鎧を剥ぎ取ると、サイズを図って蒼い布をコーディネイトした。まさに熟練の技だ。ロホルトはされるがままで、何も反応できないで棒立ちだった。

 そして蒼い外套と化したものに、細かく刺繍を施したかと思えば、すぐさま外した鎧を上に着けていき、一礼して立ち去っていく。

 

「――うん、素敵よ。やっぱり貴方には蒼が似合うわ」

「あ、ありがとうございます……」

「体の成長に合わせて、大きさを合わせていくから。いい、ロホルト。私に、ちゃんと……大人になった姿を見せてちょうだいね」

「! ……はい、もちろんです母上」

 

 にこりと笑うギネヴィアの顔は、強張りを隠しきれていなかった。

 ロホルトはそれに気づかぬフリをしながら、優しく抱擁をする。ギネヴィアも抱擁を返してくれた。

 ずっとそうしていたくなるぐらい、優しい柔らかさの中にいて。ロホルトはやがてギネヴィアから離れて、彼女にだけしか向けたことのない蕩けるような甘い笑みを浮かべて言った。

 

「行ってきます、母上」

「――行ってらっしゃい。わたくしは、あなたが無事に帰ると信じてるわ」

 

 会いに来てよかった。いつも、ロホルトはそう思う。

 母に会うと、何も怖くなくなるのだ。

 無限の勇気を得られる――あれは嘘でもなんでもない、掛け値なしの本音なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 




ギネヴィア
 「………………」
 愛する我が子はまだ10歳なのに。
 どうして?

ロホルト
 ステファン。その名がロホルトを完成させる為のパーツの一つ。
 残りのパーツはまだ揃わない。しかし、数は要らない。
 あと、一個でも良い。

ガヘリス
 私心なき影、騎士でありながら闇の業を背負うことも厭わない。
 王子の心の闇を担うは己だと定めた忠義の騎士である。
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