【ネタ】故障してる千里眼持ち王子inブリテン王国   作:飴玉鉛

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第8話

 

 

 

 

 

 

 白き猛犬が荒い息を吐きながら地を駆ける。狼のように精悍で、魔獣の如く凶暴に、しかし騎士に劣らぬ忠義を体現する白い獣。馬のように大きく、どんな名馬にも劣らず疾い。背に乗せる小さな少年騎士の存在が、猛犬の印象を忠実な騎士の従者に変えていた。

 巨漢でも扱いに難儀するだろう、長大な刀身を有する宝剣を両手で振るい、一度に三人の敵兵を切り倒す。鎧に覆われた胴を横一文字に薙ぎ払ったのだ。猛犬の突進の勢いを利し、体をその場で半回転させて遠心力を生んで、騎乗者の斬撃の威力を増す助けとしてもいる。

 人馬一体ならぬ人犬一体。血飛沫を上げて斃れる三つの骸から、少年騎士は驚くほど淡白に視線を切った。放出される莫大な魔力が光となり、巨きな剣となる。浮遊した光の巨剣が少年騎士を中心にひとりでに動き、自らを囲わんとしていた複数の敵兵を切り倒した。

 

「――カヴァス」

「ワンッ!」

 

 父より賜りし獰猛な忠犬、カヴァスが駆ける。一度間を読み違え、敵中に孤立しかけた為、味方と合流するのだ。すぐさま馬を寄せてきたのは従騎士ガヘリス、そしてロホルトの警護を任されていた円卓の騎士ガウェインだ。無言で真横についたガヘリスは何も言わず、しかしガウェインから鋭い叱責に似た諫言が飛ぶ。

 

「殿下、私から離れないで頂きたいッ!」

「すまない。しかし敵首魁の居場所が分かった、突貫しよう」

「駄目ですッ! っ……殿下、お待ちを! えぇい、聞かん坊ですね……!」

 

 カヴァスの頭を撫で意思を伝えると、猛犬は一気に加速する。焦って追従するガウェインは必死だ。敬愛する我が王から王子を任されたのに、もし万が一にも怪我の一つでもされたのでは合わせる顔がない。ガウェインは本気になった、全力で馬を走らせて、王より授かりし聖剣の姉妹剣に魔力を叩き込む。呼応してガヘリスとロホルトも魔力を漲らせた。

 反乱軍の只中を疾駆する三騎は並み居る敵兵を、当たるを幸い薙ぎ倒していく。次々と摘み取られる命の中――ロホルトは自身に襲い掛かる巨大な違和感に苛まれていた。

 

(――この手で人を斬るのは初めてなのに)

 

 なのにどうして、こんなにも平気なのだ。

 気持ち悪さはある、命を摘み取る罪悪感もある、許されない悪行を犯している自覚もあった。なのに吐き気を催しもしない、罪深さに手が震え、何も考えられなくなり、良心が悲鳴を上げ立ち止まりそうになることがない。流れるように敵を切り伏せてしまえる。

 ロホルトは現代日本人の倫理観と道徳観念、良識と常識を持っていた。なのにそれらに反する所業で微塵も動じずにいる。なんなんだこれは、なんなんだそれは。ロホルトは自身の精神構造に深刻な嫌悪感を覚えずにいられない。だがそれでも王子は止まらなかった。

 

「――いた。あそこだ、ガウェイン卿。あそこに反乱軍の首魁ネロがいる。貴公が討て」

「承知!」

 

 敵の陣形、立ちはだかる兵の士気、それらから導き出される直感的な洞察力が、敵総大将の位置を正確に教えてくれる。天性の戦勘に基づくロホルトの指令に護衛騎士ガウェインは舌を巻いた。と同時に後できつく叱らなければならないと義憤に燃える。

 太陽の騎士ガウェインが馳せる。動揺し、しかし逃げずに剣を抜いたネロへ迫ったガウェインが、一撃でネロを叩き切る。敵将、討ち取った! その宣言が戦場に響き渡る。

 算を乱して逃げ出そうとする者、武器を捨て降伏しようとする者、最後まで抵抗して主に殉じようとする者。そうした者への対処は他に任せ、ロホルトは本陣へと帰陣した。

 

 そこで待っていたのは、険しい顔をした父王アーサーである。

 

「……ロホルト、これに」

「はい」

 

 傍に寄れと命じられてカヴァスから降り、心配そうに頭を寄せてくるのを撫でながら離れる。

 正面に立った王子の顔を、王はジッと見る。能面のような無表情からは、如何なる感情も窺い知ることが出来ない。騎士王は周囲の騎士達の息が詰まる緊迫感を無視し、王子へ静かに詰問した。

 

「なぜ勝手をした。私はお前に剣を振るえと命じた覚えはないぞ」

 

 承知している。今回のロホルトの初陣は、あくまで戦場の空気を知る為のもの。決して王子が戦場に立ち敵を倒すことを期待していたわけではない。というより10歳の子供にそれを期待したり、実行させたりするようでは人の心を問われるだろう。

 だからこれはロホルトの独断専行だった。護衛としてつけられたガウェインやガヘリスも、ロホルトが突出しようとするのを止めようとしたものである。しかし、必要だと思ったのだ。

 ロホルトという個人に武勇があり、戦場で通用する力があるのだと、早期に騎士達に知らしめておいた方が都合が良いのである。なぜなら、騎士の国と言えば聞こえは良いが、ブリテン王国も所詮は中世期の未開の蛮族、強い者へは素直に敬意を払うのだから。逆に言えばどれだけ高貴でも、力がない者は軽んじられてしまうのである。子供の頃から超人的だったという風評は、必ずロホルトの武器になると確信していた。だから無茶をしたのだ。

 

「………」

 

 言い訳せずに父を見つめると、騎士王は冷淡な表情に苛立ちを覗かせる。それは王子が命令を聞かなかったことに対するものではなく、王として罰さなければならないことへのものだろう。

 

「聡いお前のことだ。両翼からベイリン卿とベイラン卿が切り込み、正面の敵をケイ卿が抑えていた故、敵陣が脆くなっていると判断してやったのだろう。だが幾ら功を上げようと、私の命令を無視した罪は重い。追って沙汰をする、今は――」

「――まあまあ、そう怒らずともよいではないか、アーサー殿」

 

 王として裁定を下そうとするアーサー王に、平然と口を挟んで待ったをかけた者がいた。

 一介の騎士はおろか、円卓の騎士ですら許されることではない。

 だが、()()()には許されていた。

 くすんだ茶髪に白髪が混じった、大柄な壮年の騎士である。赤銅色の甲冑に身を包み、丸太のように太い腕と、背負った特大の大剣が目を引いた。

 現円卓にて最強の称号を有する、円卓顧問監督官ペリノアだ。彼の仲裁に騎士王は口をつぐんだ。

 

 ペリノア王。彼はその半生を『唸る獣』の探求に費やした男だ。唸る獣とは――頭が蛇、胴体は豹、尻尾はライオン、足は鹿の姿をした魔獣であり、腹の中から数十頭の猟犬が唸るような声を上げる奇怪な存在である。ペリノア王はこの獣を追う冒険に熱中していた。

 ある時、ペリノア王は乗っていた馬を乗り潰してしまう。唸る獣を追いたい彼は困っていたが、そんな時に馬を連れて休んでいる騎士を見つけた。彼は了承を得ずにその騎士の馬を奪い、唸る獣を追う冒険に向かってしまう。この騎士こそがアーサー王だった。

 因縁はこうして生まれた。

 後に自らの腕試しの為に、ペリノア王は道行く騎士を次々と殺傷する事件を起こす。その騎士の中にはアーサー王の配下もいて、怒ったアーサー王が自らペリノア王へ挑戦に向かった。だがペリノア王は激戦の末にアーサー王をも打ち倒し、あわやトドメを刺されそうになるとマーリンが現れ、自身がトドメを刺そうとしている相手が騎士王で、昔自分が馬を奪った相手だと説明した。

 

 これによりペリノア王は自身の行いを反省し、アーサー王に尽くすことで償うことを決めたのだ。

 

 そうした経緯がある為か、アーサー王はペリノア王を無視できない。ペリノア王は内心は兎も角、騎士王を尊重して指示にもよく従う男だった為、これといった瑕疵がないのだ。ブリテン王国でペリノア王を軽んじられる者は一人もいないと誰しもが断言できるだろう。

 

「ペリノア殿……」

「貴殿の嫡子は武勇を示した。予からしても無謀ではあったが、功績を上げた嫡子を罰したとあっては護衛のガウェインとガヘリスも連座させざるを得ん。それは些か乱暴な仕置きになる、今回は反乱軍の首魁を討った勲功に免じてはどうか? 功罪相殺が妥当だろう」

「……貴殿がそこまで言うのなら、今回だけは大目に見ましょう。……聞いていたな、ロホルト。ペリノア殿の厚意に感謝するがいい」

「はい。ありがとうございます、ペリノア殿」

「うむ。予は貴殿のような猛々しい若者が大好きだ。今後も励み給え」

 

 ニヤリと骨太に笑うペリノア王に、ロホルトは生真面目に礼を示した。

 だが内心では舌打ちしている。余計な真似を、とロホルトは苛立っていた。

 

 ここでロホルトはアーサー王に罰せられるつもりだったのだ。王の寵愛を受ける王子ですら、命令違反をしたら罰を受けるのだと、騎士達に知らしめるべきだった。……なのにペリノア王が口を挟んで有耶無耶にしてしまった。これでは彼の発言力の高さを喧伝するだけの結果に終わってしまっている。ロホルトは表向き礼を言ったが、ペリノア王に対して苛立ちを覚えた。

 ペリノア王は厚意のつもりなのだろう。彼はなぜかアーサー王を軽んじている節があるが、ロホルトに対してはいやに好意的なのだ。ロホルトからしてもペリノア王を嫌う要素は特に無い。むしろ個人的には好感を覚えやすい人柄だと思う。が、王子としては目障りだ。

 

(――ははっ。素直に感謝も出来ないのか、オレは)

 

 何事にも打算を絡めて考える自分に嫌悪感が募る。

 

「ロホルト。私は、お前に傷ついてほしくない。今後は我が命なく前線に出てくれるな」

「……はい」

 

 アーサー王がそう言うのに頭を下げ、ロホルトは引き下がった。

 反乱軍の鎮圧は終わった。後は、ロット王だ。マーリンの幻術で合流が遅れていたが、彼が自身に援軍を要請していたネロの敗死を受け、軍を引くか否かで対応は変わるだろう。

 しかしロット王は軍を引くまい。彼のアーサー王に対する叛意は根強いし、おそらくこのまま戦闘に入るだろう。――この戦いにロット王がいたら、アーサー王かロット王のどちらかが死ぬ、と宮廷魔術師殿が予言していたという。だからわざわざ分断して各個撃破する形にしていたのだ、それほどの実力が彼の王にはあるのである。

 やはりロット王が軍権を握っているのは危険だ、放置はできない。

 

「――勇気と無謀は違う。聞いているのですか、殿下」

「聞いてるよ」

 

 ガウェインが口煩く説教してくるのを聞き流しつつ、ロホルトはちらりとガヘリスを見た。

 彼ら兄弟はこれから自らの父の軍と戦うことをどう思っているのだろう。あらかじめ彼らにはロット王を殺めるつもりはなく、生け捕りにするつもりだとは説明してあった。だが戦争に絶対はない、万が一がないようにガウェインにロット王を倒してもらいたいが。

 嫌な予感がしている。具体的には――ペリノア王に。彼は愛用の大剣を頻りに手入れし、戦意を燃やしているのだ。彼がロホルトに向ける好意の正体は定かではないが……目論見通りにいかない気がしてならない。

 

 

 

 果たしてロホルトの勘は当たった。

 

 

 

 

「――父上ェッ!」

 

 悲憤に叫ぶ、太陽の騎士。

 

 軍を引かず単独でアーサー王の軍勢と戦うことを選択したロット王が、ペリノア王により一撃で討ち取られてしまったのである。

 ガウェインらが説得に出る間もなかった。軍の先頭を駆け、多くの騎士を返り討ちとしたロット王も、現円卓に於いて最強であるペリノア王には到底敵わなかったのだ。

 父の死を目の当たりにしたガウェインやガヘリスが怒り、憎悪の籠もった殺気を宿したのを見て。ロホルトは一つの計略を思いついてアーサー王に献策した。

 

 今回の戦いでロット王を討ち取ったペリノア王の功績は大きい、亡くなった王の領地はペリノア王が領するべきでしょう、と。領土的野心を持たぬペリノア王は固辞したが、では誰がロット王の後を継いでオークニーを治めるのかという話になると、功績をあげたペリノア王以外に適任がいないとして押し切った。ペリノア王は嫌がったが、彼も渋々オークニー王の座を得ることになる。

 

 極めて妥当で、公平な沙汰だ。私情の一切を排したものである。

 

「ガヘリス――私は、貴公が何をしても、目を瞑るぞ」

 

 ロホルトの囁きに真意を察したガヘリスは、目を伏せて頭を下げた。

 

 彼ら兄弟の復讐を、ロホルトは後押しする用意があると伝えたのだ。

 そしてそれに、ガヘリスは感謝した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





ペリノア王
アーサー王の性別に勘づいており、内心軽んじている。とはいえアルトリアの実力と実績は認めており、女でさえなければなと残念にも思っていた。だからこそアルトリアの才気を受け継いだロホルトに期待し、彼がブリテン王になるなら尽くしてやろうと考えているが、ペリノア王本人ではなく、本人の立場が目障りとロホルトに思われているとは想像もしていない。


ロホルト
人の死を見た。その手で斬れるかと問われれば是と答えただろう。そして、実際に斬れる。未来を覗き見て得た倫理も、道徳も、知っている命の尊さも、それはそれと割り切り、切り捨てられることが英雄の資質であるのなら、彼は紛れもなく英雄の血を引いている。良心に苛まれながらも、彼は殺せてしまうのだ。その英雄性はロホルトの本質である。
まさしく現代人にとっての異常者だ。だが、戦国乱世に於いては美徳である。その美徳が、彼が現代日本人の「    」ではないことを証明していたが、ロホルトは自らの英雄性に無頓着だ。
友であるガヘリスが、父を殺された復讐心を燃やしているのを見て、心を痛めはしたが。それはそれとして計略を練り、国益を得る策を閃く己に――ロホルトは拭い難い嫌悪感を覚えていた。

魔力放出(光)A
武器ないし自身の肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出することによって能力を向上させる。いわば魔力によるジェット噴射。強力な加護のない通常の武器では一撃の下に破壊されるだろう。
神代最後の国ブリテンに於いて、最も貴い母の血を引くロホルトの魔力は光の属性を有し、光の形態を象り攻撃に転用可能。悪属性の者に特に大きなダメージを与えられる。

光射す塔剣(モルデュール)A
どんな魔術の護り、物理的に強固な護りであろうと無視して、直接斬撃ダメージを与えられる。強力な防御宝具に頼った者の天敵と成り得る宝具。
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