竜王国が勇者を召喚しました   作:史上最弱の弟子

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前編

「国庫の残りは?」

 

「そうですね。鼻血もでないと言ったところでしょうか」

 

 竜王国の女王ドラウディロンの問いに対し、宰相が答える。分かり切った答えではあったが、言葉として耳に入れることで、彼女は改めて絶望した。竜王国はビーストマンと呼ばれる人を喰らう亜人の侵略を常に受けている。これまで竜王国は冒険者や周辺最強の国家であるスレイン法国の支援を受けたりして、何とか危機を跳ねのけてきた。しかしその代償として国庫は底をつき、国民の死傷者は増加してと、国は完全に追いつめられた状態になっていたのである。

 

「もはや始原の魔法を使うしかないか・・・・・・」

 

 ポツリと呟く。ドラウディロンは真なる竜王と呼ばれるこの世界最強の種族の血をひいている。しかしその血は8分の1。宿す力である始原の魔法を使うには対価を必要とする。

 

「国民の命を生贄に?」

 

「いや、実はあるのだ。生命を対価にせずとも始原の魔法を使う方法が。今のタイミングでしか使えない裏技なのだかな」

 

 そう言ってドラウディロンは王家にのみ伝わる秘伝の書を取り出して見せる。

 

「これは私の母。つまりは先代女王にして真なる竜王のクォーターの研究レポートだ。母も私よりはマシとは言え、始原の魔法を代償無しには使えなかった。そこでそれを何とかする方法を研究して一つの成果を得たのだ。小規模な実証テストを除けば、使われたことは一度も無いがな」

 

「それは何故?」

 

 ドラディロンの言葉が本当ならば、とてつもなく有用な成果である筈だ。亜人の危機に常に晒されてきたこの国で、一度も使われなかった理由がわからない。

 

「それを説明するには、まず先に前提から話す必要がある。私も母も対価無しに始原の魔法は使えない。これは大前提だ。では、その対価は国民の命ではなく、もっと別の物にできないか?そう考えるのは当然の帰結だ。そして母はあるものに目を付けた。『竜帝の汚物』その揺り戻しのエネルギーを活用する方法を考えたのだ」

 

 竜帝の汚物、それは真なる竜王達の中でも最強の力を持っていた竜帝が異世界の秘宝を手に入れようとして始原の魔法を使い、この世界の法則や秩序を乱すプレイヤーと呼ばれる者達がやってきてしまうようになったことを示す。

 その現象は1度では無く、100年単位で「揺り戻し」として発生し続けていた。

 

「実現できれば始原の魔法を使える上に、プレイヤーがこの世界にやってくるのも防げる。一石二鳥ですな」

 

「ああ。その通り。そして驚くことに、母はこれに成功し方法を確立したのだ。しかし問題が一つあった。召喚のエネルギーを対価にした始原の魔法は召喚にしか使えなくてな。しかもその条件はアバウトにしか設定できん。そうだな『ビーストマンを打倒する力を持った男の勇者』この位が限界だな」

 

「なるほど。確かにそれではおいそれとは使えませんね」

 

 ドラウディロンの説明を聞いて宰相は納得する。これでは、プレイヤーの代わりに別の災厄を呼び寄せてしまう恐れがある。勇者イコール高潔な存在と言う訳では無いのだ。戦場において英雄と呼ばれるものと、単なる荒くれ者の違いなど、その強さが一定レベルを越えているか否かでしかない。仮に高潔な英雄を運よく引き当てたとして、縁もゆかりも無いこの国のために、命をかけてくれる筈も無い。ましてや、還す手段が無いと分かればこちらに憎しみをぶつけ、敵にまわってもおかしくないだろう。

 

「だから母上はこれを封印した。処分しなかったのはどうしようもなくなった時の最後の手段になるかもしれないからと考えたからだ。加えて言うのならばこの方法が使えるのは100年周期の揺り戻し、その直前のみ。つまり今しかない訳だ」

 

 決断を先延ばしすることはできないことを告げる。どの道、先延ばしにできる体力も竜王国には残っていなかったが。

 

「試した結果、事態が悪化したらどうしますか?」

 

 宰相の言葉にドラディロンは諦めと覚悟を半分ずつ込めて答えた。

 

「そうならないよう最善をつくすしかあるまい。靴を舐めろと言われたら舐めるし、必要ならば身体だって差し出す。子供の姿も大人の姿も最大限に使って、何とか媚びを売ってみる」

 

「・・・・・・賭けてみますか」

 

 どの道選択肢はほとんど無い。

 国民の命を生贄にビーストマンを全滅させるだけの威力の始原の魔法を使うなら、国民の大半を犠牲にする必要がある。そうなれば当然国は亡びる。どの道、破滅するのならば最後の賭けにでるのも一つの手かもしれない。そう考え、宰相はその提案に賛同の意を示した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 揺り戻しの流用のことを告げ、数日。実行に当たって必要な準備や打ち合わせは完了し、後は始原の魔法による召喚を発動するのみとなっていた。

 秘匿のため、用意した場にはドラディロンと宰相のみが立っている。

 

「いくぞ」

 

「はい」

 

 自らを奮い立たせるにように声に出す。軽く息を吸い、ドラウディロンは魔法を発動させた。すると目の前が強烈な発光し、その光がおさまった時、そこには銀髪で髪をカールした一人の男性が立っていた。それは召喚自体は成功したことを示している。

 

 

「おや、ここは一体?」

 

 召喚された男は軽く戸惑った様子をみせる。

 その姿を見たドラウディロンと宰相は目を見開き、不味いと感じた。

 何故ならば、召喚された男の頭には王冠がかぶされていたからだ。

 

(まさか、他国の王を召喚してしまったのか!?)

 

 例えば召喚された勇者が平民ならば、対価次第で怒りを鎮めることもできたかもしれない。しかし、元が王と言う恵まれた立場の存在ならば、竜王国が差し出せる如何なるものを差し出しても納得させることはできないだろう。それに加えて王が誘拐された国も黙っていない筈だ。プレイヤーのように異世界の存在だとしたら、流石に来られないとは思うが、この世界の遠国などの王だった場合、ここを突き止めて攻めてくる恐れがある。

 

「ふむ、どうやら私を呼び出したのはあなた方のようですね。状況を説明していただけますでしょうか?」

 

 聡明なことに男は状況を察したようだった。にも関わらず、怒ることもなく柔らかな物腰で話しかけてくる。ドラディロンにはそれが不気味に映り、そして恐怖する。男はビーストマンを打倒できる圧倒的な強者なのだ。

 

(いっそ嘘をついてしまうか)

 

 召喚対象を迎えるに当たって、自分達に都合のいい嘘をつき相手を騙す、事前の相談ではそう言った案も当然あがった。しかし嘘がばれた時にはより苛烈な怒りを相手に覚えさせてしまうことなどを考え、最終的には誠意を示し相手の慈悲にすがることを、方針として立てていた。しかしドラディロンの中でその決意は揺らいでいた。想定外の悪い自体に、嘘と言う浅はかな道に逃れる誘惑が彼女の頭から離れなかったのだ。

 だが、彼女が嘘をつくよりも早く、召喚された男が驚きの言葉を紡いだ。

 

「あなた、嘘をつこうとしてますね」

 

「な、何を!?」

 

「目が泳いでますよ。嘘を突こうとしている人の典型的な仕草です。それにあなた幼い容姿をしていますが、実際にはもっと上の年齢では? 動作の節々に淑女の気配が見え隠れします。モシャスですかね?」

 

(だ、駄目だ)

 

 まるで自分の全てが見透かされているよう、そう感じたドラウディロンは観念する。そして彼女は折れた心で、全てを正直に告げた。自分がこの竜王国の女王であること。国はビーストマンの侵略で滅びかけていること。その窮地を脱するために男を召喚したこと。それに対し男は黙って、彼女の話を黙って最後まで聞き終える。

 

「勝手であることはわかっている。そちらからすれば誘拐も同然だと言うことを。私に出来ることならば何でもする。命を差し出せと言われても構わん。だから頼む。この国を、この国の民を救ってくれ」

 

 そう言ってドラウディロンは頭を下げた。いや、それだけではなく膝を床について土下座した。一度折れた心は、逆に彼女に完全なる覚悟を産み出していた。必死に頭を床にこすりつけるドラディロンに対し、男はそっと彼女の肩に手を置いた。

 

「頭をあげてください。あなたの気持ちは十分に伝わりました。力無き人々のためにそこまでの覚悟と行動ができるあなたを私は尊敬します」

 

 そして優しい口調でそう言ったのだ。その言葉にドラウディロンは頭をあげる。

 

「私でどうにかできるかはわかりませんが、最善を尽くします。どうぞ頼ってください」

 

 そして男はニッコリと笑う。人をひきつける笑みだった。その言葉はドラウディロンにとって都合が良過ぎるものであるにも関わらず、信じられる、そう感じさせる何かがあった。

 ドラディロンは歓喜に包まれる。しかしそこで男は少し困った表情を浮かべた。

 

「ただ、私も一応こう言った立場でして。それに以前にちょっとした前科もあるので、あまり長く無断で国を空ける訳にはいかないんですよね」

 

 男は王冠を指差して言う。その言葉にドラウディロンは再び顔を青くした。送還の方法が無いことだけは未だ告げていないのだ。男が幾ら高潔な紳士であっても、これを告げれば怒り狂うに決まってる。

 しかし、事態は彼女の予想の斜め上に動いた。

 

「そういう訳ですね。ちょっと妻に一言告げて来ますね」

 

「へっ?」

 

「それでは、リリルーラ!!」

 

 男が謎の言葉を発するとその場から男の姿が消えた。その光景をドラウディロンは呆然と見送る。

 

「まさか自力で帰還したということですかね? いやはや想像以上の凄さですな」

 

 そこでずっと静観していた宰相が見解を述べる。

 

「えっ、嘘、じゃあ帰っちゃったの?」

 

 ショックのあまり口調まで変わるドラウディロン。それに対し、宰相は言葉を続けた。

 

「一言告げてくると言っておられましたし、また来てくださるのでは? 少なくとも、この国を害するつもりはなさそうですし、まずは最悪を回避できましたな」

 

「なんで、お前、そんなに冷静なんだ」

 

 どっと気が抜けたようにその場にへたり込むドラディロン。

 そしてそれから1時間程が経過し、宰相の予測通り、再び男がその場に現れる。

 

「いやあ、お待たせしてすいません。妻の説得に時間がかかってしまいまして」

 

 申し訳なさそうに頭をかく男。気の抜ける態度ではあったが、本当に戻ってきてくれたことにドラウディロンはほっとする。彼に見捨てられれば、この国は滅ぶしかないのだから当然だ。

 

「いや、こちらはお願いする立場だ。えと、そう言えば名前を伺っていなかったですね」

 

 返事をしようとしていて、ドラウディロンは男の名前も未だ聞いていなかったことに気付く。その言葉を聞いて男もうっかりしていたと言った表情を浮かべた。

 

「あっ、これは失礼、私、アバン・デ・ジュニアール・カールと申します。元、勇者の家庭教師をやっていました」

 

 男は、そう自らの名を告げるのであった。




タイトルでバレバレだったと思いますが、召喚されたのはアバン先生でした。
ダイ大の方は原作最終回、半年後位の時期です。
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