竜王国が勇者を召喚しました   作:史上最弱の弟子

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中編

「なあ、本当に言われた通りになると思うか?」

 

「正直、信じられないな。隊長が言ったようなことが本当に起きるってんなら、何でこの国はこんなに追いつめられているんだって話だろ」

 

 ビーストマンに対する防衛線に配置された兵士達。彼等には出発前に、ある作戦が告げられていた。

 兵士達の話題の中心は、その内容について。伝えられたことがあまりに都合よすぎる話であったため、兵士たちのは多くは、懐疑的な感情を抱いていた。しかし肯定的なものもいる。

 

「いや、わからんぞ。もしかしてスレイン王国が六大神の秘蔵のアイテムか何かを提供してくれたのかもしれん」

 

「他国のために自国の切り札を切るか?」

 

「法国だって、俺等が滅びたら困るだろ?ビーストマンの奴等、今度は他の国にまで攻め込むかもしれないしな。そう考えたらそう言う事もあるんじゃないか?」

 

「いや、俺は聞いたぞ。何でも異国から来た英雄を女王陛下が雇ったとか。そいつが何かしたんじゃないのか?」

 

「異国の英雄? また、胡散臭いな。いや、でも十三英雄の再来みたいなのが現れたとしたらあり得ないこともないのか?」

 

 兵士達の間で色々な憶測が流れる。しかし当然ながら、情報の足りない憶測から答えに辿り着くことは無い。彼等が話している間にタイムミリットが訪れる。タイムミリット、すなわちそれはビーストマンの襲撃だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「く、来るぞ」

 

 恐怖を押し殺し構える兵士達。ビーストマン達の体格は人間よりも大きく、見た目だけでも威圧感がある。そしてその力の差は見た目以上だ。一部の強者ならばまともに対抗も出来るが、一般兵にとっては恐怖でしか無い。彼等にとって迫りくるビーストマンは、死そのものだ。

 そして、互いの戦線の距離が残り100メートル、その位にまでビーストマン達近づいた時、異変が発生した。

 

「グオオオオオ」

 

 ビーストマン達が味方同士で攻撃をし始めたのだ。その光景に兵士達は目を見開く。それは予想外の展開ではない。『事前に聞かされていた通り』であり、同時にその話をそのまま鵜呑みにするのは難しい都合の良過ぎる事態だった。

 

「う、うてえええええええ!!!!」

 

 それでもこの都合の良過ぎる事態を無為にする程、彼等は愚かでは無かった。

 この事態を計画に入れ、通常よりも前線に多く配置された弓者部隊、魔法詠唱者部隊、投石部隊、遠距離攻撃の手段を持った全ての兵士達が、ビーストマンに対して一斉に攻撃を仕掛ける。

それはまさしく攻撃の嵐。如何にビーストマンの強さが人間を大きく上回っているとはいえ、これは大打撃である。彼等はどんどん数を減らしていった。しかし矢も石も、魔法を放つ魔力も無限では無い。

 波状攻撃により、あっと言う前に全弾が撃ち尽くされる。しかしそのタイミングで次の指示が咆哮された

 

「全軍突撃!!!!!」

 

「「「「「「「「うぉぉぉぉ!!!!!!!!!!」」」」」」」」

 

 歩兵の兵士達が一斉に駆け出す。戦意は最高潮。当然である。こちらの攻撃は最高の形で決まり、ビーストマン達は未だ同士討ちを続けているのだ。これで戦意が上げなければ嘘だろう。将軍から一兵卒まで、武功をあげるチャンスとばかりに我先へと飛び出していく。この進撃により、更に多くのビーストマンを討ち取っていった。

 

 

 

 

 

「どうやら、まずは狙い通りにいったようですね」

 

 戦場を見渡せる少し離れた丘からアバンが呟く。ビーストマン達の同士討ち行動。これはアバンが用意した『毒蛾の粉』によるものだった。粉を摂取した者を混乱させ、周りの存在全てが敵に見える幻覚をみせるアイテムである。それを自然風に更に魔法の風を加えることで飛ばし、ビーストマンに吸わせたのだ。

 

「これで終わってくれれば楽ですが……やはり、そう上手くは行きませんか」

 

 しかし全てのビーストマン達が混乱した訳では無い。

 粉を運よく吸わなかったのか、あるいは耐性があったのか、混乱をしていないビーストマンもかなりの数残っていた。そして他のビーストマンと比べても一際大きな体格を持ったビーストマンがそれらを率い、時には混乱し自分に切りかかってくる味方を切り捨てて前方に進軍しようとしている姿が確認できる。

 

「恰好も立派ですし、敵の将軍ですかね」

 

 その巨体ビーストマンの格好と強さを確認し、全体の戦況を把握したアバンはそこでルーラを使用した。

 

 

 

 

 

 

 

「う、うわあああああ!!!」

 

 一人の兵士が悲鳴をあげる。まだ若い兵士である彼は、ほんの数分前まで浮かれていた。これまで経験したことの無い攻勢、圧倒的な優勢に浮足立ってしまったのだ。その結果、前に出過ぎてしまった彼は巨体のビーストマンが率いる集団に遭遇をしてしまった。そしてその命を、率いられていた内の一体が振るう大剣によって奪われようとしていた。

 

「させませんよ!!」

 

 しかしその振り下ろされた剣は、文字通りに突如その場に現れた、天から降り立った存在によって受け止められる。

 

「!?」

 

 それはルーラによって現れたアバンだった。アバンは剣を振るいビーストマンを弾き飛ばすと、若い兵士の腕を掴み立ち上がらせた。

 

「一人で動けますか?」

 

「あ、ああ。助かりました。ありがとうございます」

 

 半ば腰が抜けた状態ながら何とか歩き、下がる兵士。それを見てアバンは巨体のビーストマンの方を向いた。

 

「あなたがこの集団を統率していると見ましたが、間違いはありませんかね?」

 

 そしてアバンは巨体のビーストマンに向かって問いかける。それに対し、ビーストマンはよくぞ自分の凄さに気付いたとでもいうように誇らしげな笑みを浮かべ、応えた。

 

「ああ、そうだ」

 

「それはよかった。それでは提案があるのですが、ここはひいて貰えませんかね? そして二度とこの国に侵攻はかけないでいただきたい。貴方方も今回の戦いでわかったでしょう。人間は決して、狩られるだけの弱者では無い」

 

 アバンがしたのは、降伏勧告であった。この戦いアバンはできればこの形で幕をひきたいと考えていたのである。しかしその希望は無慈悲にも切り捨てられる。

 

「はっ、馬鹿なことを言うな」

 

 巨体ビーストマンの表情には自信が浮かんでいる。彼はこの状態からでも逆転できる力が備わっていると思っていた。

 

「何故ですかね。人間しか食べられないと言うことは無いでしょう?」

 

 一種類の食料しか食べられないなど生物としてあまりに不適合過ぎる。ならば必ずしも人間を襲う必要は無い。和解は無理でも、棲み分けという共存の道を模索しようとするアバン。しかしそれに対し、ビーストマンが返したのは冷酷で非道な答えだった。

 

「人間は美味い。それに面白いからな」

 

「……面白い?」

 

「ああ、腕をちぎってやったり、足を潰してやったりすると惨めに泣き叫ぶんだ」

 

「……生きるためではなく、楽しみのために殺すと。どうやら貴方たちとは話し合うだけ無駄のようですね」

 

 アバンの言葉から優しさが消える。完全な戦士の気配へとその雰囲気を変えた彼はその剣を構えた。

 

「ウオオオオオ!!!」

 

 その姿を目ざわり、あるいは生意気とでも言うように巨体ビーストマンがアバンに飛び掛かる。ビーストマンは一般的な兵士の10倍の強さを持つと言われるが、その更に10倍の強さを持ち、その一撃は大岩を砕く破壊力を持っている。

 

「アバン流刀殺法……」

 

 しかしどのような怪力も届かなければ意味が無い。

 

「海波斬!!」

 

 アバン流最速の一撃は巨体ビーストマンの攻撃よりも速く、そして巨体ビーストマンの胴体を真っ二つにする程鋭かった。

 

「なっ、馬鹿な!?」

 

 自分達のボス的存在が瞬殺されたことに動揺するビーストマン達。

 逆に兵士達は再度戦意を高める。

 戦場の流れは完全に定まっていた。

 その後、徐々に毒蛾の粉の効果が切れ、正気を取り戻すビーストマン達も徐々に現れ始める。しかし彼等の大半は、正気を取り戻したことによって自分達が圧倒的劣勢においやられていることに気付き、再びパニックを起こすことになった。

 そしてそこを狙われて討ち取られたり、逃走したりすることになる。

 やがて敵の部隊は完全に崩壊し、自国に向かって撤退を開始した。

 

「逃がすか!!」

 

「待て、深追いはするな!!」

 

 それを追撃しようとする兵士もいたが、将の立場に居る者達がそれを制止する。この戦場に限れば圧倒的に優位でも、ビーストマン達の本国には残存戦力が残されている筈だからである。

 

「これで十分。俺達の勝利だ」

 

 それでも敵の戦力を大幅に削ったことは間違いない。俗に戦力の7割を失うと戦争においてはそれを全滅と言うが、今回の戦いでは敵はこれに当てはまっていた。それに対し、味方の死傷者は1割にも及んでいない。これだけの大勝利であれば、少なくとも当分は再度の侵攻は無いことが期待された。

 

「そうだ俺達は勝ったんだ」

 

「うぉおおおお!!!!」

 

 あちこちから歓声があがる。度重なる敗戦を覆す大勝利。そんな中、その勝利の立役者であるアバンは静かに笑いながらも次にやるべきことを考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ、この辺がいいですかね」

 

 ビーストマンとの戦いの翌日、アバンはある計画のために竜王国の中にある、人気の無い林の中を歩いていた。

 そして彼の目的に合致した場所、開けた平地を見つける。

 

「ここが良さそうですね。ここに塔を建設して。いや、この国は今、あまりお金が無いようですし、石碑位にした方がいいでしょうかね?」

 

 そして計画を考えながら呟く。しかしそんな彼に近づく影があった。それは白銀色の鎧を来た騎士のような姿だった。その存在に気づき、彼の方を向くアバン。

 

「おや、もしかして私に用でしょうか?」

 

 白銀の騎士に向かって、問いかけながらも確信を持った状態のアバン。白銀の騎士の視線は真っすぐにアバンに向けられていたし、何よりも彼の視線には薄い殺気が乗っている。

 そしてこれが答えだと言わんばかりに、白銀の騎士はアバンに向かって襲いかかるのだった。

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