「くっ」
白銀の剣士の不意打ちをかわすアバン。その一撃で相手の実力を察する。
(強い。技の鋭さや速さはキルバーンに匹敵する)
アバンも剣を抜き、応戦の姿勢をみせる。切り結ぶ両者。
「何故、私に攻撃をするのですか。この世界で恨みを買った覚えはないんですがね?」
「この世界に居ること、いやこの世界で何かをすること自体が君の罪なんだよ。それがどんな行動でもね」
戦いながら問いかけるアバン。それに対し、答えが返ってくる。その内容からアバンは目の前の相手が自分が異世界から来た人物であることを知っていると判断する。また、その聡明な頭脳を持って、その意図を瞬時に察して見せた。
「ふむ。異邦人の干渉が嫌いだと?」
「そういうことさ」
余所者を嫌う閉鎖的な人間と言うのは珍しくない。白銀の騎士が何者かはわからないが、考え方においてはその類の存在だとアバンは予想したのだ。
それは正鵠を得たとまでは言わないが、正解を掠めていた。
「ならば、私はこの世界を去りましょう」
「去る方法があると? それにビーストマンはどうするつもりだい? 君は彼等は滅ぼしたりせず、放置しておくのかい?」
「……あの者達は非道な振る舞いをしてきた。個人的には許せないという想いもあります。しかし彼等を全滅させたりすれば、力の空白地帯が生まれてしまう。そしてそこに新たな勢力が流れ込むことになり、結果として広い範囲を巻き込んだ大きな争いの火種になるかもしれない。それに産まれたばかりの幼き者も居るでしょう。彼等が親と同じ道を進むと断言できない以上、種族全てを邪悪と決めつけることは出来ない」
アバンが住んでいる世界、今の地上は各国が結びつき、平和的な関係を築いている。しかし嘗ては人間同士やあるいは人間以外との種族を巻き込んで、地上全体での争いが起きたこともある。歴史を学んでいるアバンは、そこから安易に他者を排除する危険性をよく理解していた。
「……なるほど、どうやら君は弁えた人物のようだね」
アバンの言葉を聞いて白銀の騎士は驚いたような仕草をみせた後、安心したように頭を下げる。
「理解していただけましたか? 」
「だけど、それでもやはり君の潜在的な危険は放置できない!!」
話が通じ、和解できるかと思いきや白銀の剣士は再び攻撃を仕掛けてくる。その行動にアバンは説得を中断し、相手を打ち倒すための方法を考え始める。
(剣士としての実力は確実に私以上。ならば……)
白銀の騎士の実力はキルバーンと同等。しかも正面切っての戦いに慣れていなかったキルバーンとは違い、実戦慣れしているようだった。それを考えればキルバーン以上の強敵と言え、順当に行けば、アバン一人では勝ち目がかなり薄い相手である。
しかし戦いの勝敗と言うのは必ずしも実力通りになる訳では無い。特に相手の手の内が明らかになっていない状態では、勝敗が覆ることは珍しくない。
「もらったよ!!」
「イオラ!!」
剣を振りおろした白銀の騎士に対し、アバンは強力な爆裂呪文を一言の詠唱で発動、呪文を剣にぶつけた。爆発の衝撃で、騎士の右腕を大きく跳ね上げる。
「ぐっ」
武器を数瞬封じられた状況に対し、追撃を阻止するための防御策として跳び引く白銀の騎士。しかしそれはアバンに対してはあまり的確な手ではなかった。
「アバンストラッシュ!!」
飛ぶ斬撃、アバンストラッシュアローを放つアバン。間合いを詰めたその一撃は、白銀の騎士の胸部にそのまま直撃する。
「ぐっ、やるね」
しかしその一撃は決着をつけるにはやや力不足だった。鎧の胸部分に大きな傷を刻み込んだが、内部にまでは届かなかったのだ。
(アロータイプでは威力が足りませんか)
あるいは接近型のブレイクタイプでも、とどめを刺すには力不足かもしれないとアバンは考える。長期戦になった方が、勝敗と言うのは実力差通りの順当なものになりやすい。そのため、一撃で決着をつけられないのはアバンとしては不利な要素である。
(無刀陣、出来れば使うのは避けたいですね)
打倒の手段として奥の手である奥義を思い浮かべるが、脳内で却下する。何故ならば、無刀陣は捨て身の技だからだ。使用する際には闘気を最小に抑え、筋肉も弛緩した防御力が最低にまで落ちた、無防備な状態をとらなくてはならない。
防御に意識を集中した状態では成人の竜の騎士であるバランが放ったギガブレイクの直撃にすら耐えるクロコダインが、精神的な迷いを抱えた状態では、竜の騎士として未熟だったダイが竜闘気を乗せて放った未完成アバンストラッシュで切り裂かれてしまう。闘気と意識はこれほど、強度を変えるのである。
この例を見ただけでも無闘陣がどれほどリスクが高い技かは明らかであり、失敗は死と同義と言ってもいい技なのだ。
まあ横やりを受け、同格どころか格上の相手の一撃をもろに受けたにもかかわらず、生存どころか数日後には戦線に復帰した例もあるが、それは例外中の例外のそのまた例外くらいの特殊ケースなので決して参考にしてはならない。
(いやしかし他人目線になると、私って滅茶苦茶、周りを悲しませちゃってましたよね)
昔のアバンであればそれでも命をかけたかもしれない。しかし今のアバンは妻の居る身。そしてアバンが居ない間にヒュンケルの数々のエピソードや、ポップがメガンテを使った件を聞いて自分の行動が仲間にどういった感情を抱かせるのか、今更ながらに理解してしまったのだ。
それでもどうしても必要な条件になれば、命を懸けるつもりはあるが、それは本当に最後の手段にしよう、もう少し命を大事にしようと決意していた。
「魔法剣士とでも言うべき戦い方だね。補助魔法ならともかく、攻撃魔法を併用する。こんなプレイヤーは初めてみたよ」
言葉に出してアバンの戦い方を分析し、戦闘を再開する白銀の騎士。アバンもそれに応対する。
「ベギラマ!!」
「おっと」
ベギラマを回避する白銀の騎士。しかし、それは予測済みとばかりに、追撃で斬撃を放つ。
「海波斬!!」
白銀の騎士はそれを剣で受け止める。
剣のみでは目の前の相手に劣るアバンであるが、剣と呪文を使い分けることで対抗してみせる。
「戦い方が上手いね。だが、それでは僕には勝てないよ!!」
しかしアバンの戦いの巧みさを白銀の騎士はその地力の高さでねじ伏せる。徐々に形勢は傾いていった。
「これで最後だ!!」
「はっ!!」
剣と呪文を組み合わせても勝てない相手、だがアバンには武器と呪文以外に第3の矢があった。彼はアイテム作りの名人である。彼が自作した魔力の込められたアイテム、ゴールドフェザーを彼は所持していたのだ。投げつけたフェザーが騎士に命中し、相手を金縛り状態にする。
「アバン流刀殺法、空裂斬!!」
「ぐっ、あれ……」
アバンの技が炸裂する。その一撃により、白銀の騎士は膝をつき、動けなくなった。
彼が放った技、空裂斬は本来は生身の生命体に対しては大きな効果を発揮する技ではない。しかしそうにもかかわらず、アバンストラッシュにすら耐えた相手を戦闘不能にしたのには、ある理由があった。
「どうやら予想通り、あなたは操り人形だったようですね」
「……何故、わかったんだい」
動けなくなった白銀の騎士はアバンの言葉に驚いた声を漏らす。それに対し、アバンは解説を始めた。
「理由は二つです。一つは以前に同じような相手と戦ったことがあること。その時はまんまと騙されてしまいましたが、以降は少し用心深くなってましてね。そういった可能性も疑ってかかるようにしているんです。そしてもう一つ。こっちが決定的な理由です。先程貴方が私の攻撃を受けた時、貴方は防御行動を取らなかったですよね?」
「それは君が僕の剣を弾いていたから」
「ええ、ですから右腕で防御することは出来なかった。ですが、左腕は残っていましたよね?生物の本能としても、戦いのセオリーとしても、胴体よりも腕で攻撃を受けようとするのが普通です。ですが、あなたは防御せずにそのまま胸部で攻撃を受けた。これはベリーベリー不自然な行動です。ですが、貴方にとって胴体が急所では無かったというのなら筋は通ります。そこからあなたは人型はしているが、実際には人間やそれに類似する生物では無いのではないかと予想したのですよ」
ミストバーンやさまよう鎧のような憑依型の存在か、キルバーンのような操り人形。それが正体ではないかと狙いをつけ、その中核を空裂斬で狙ったのである。ただし、少しだけ狙いを中心から外して。その結果、本体とのアクセスが半分断ち切られた白銀の騎士は動けなくなったと言う訳であった。
「まさか、そんなことで見破られるとはね。まいった、完敗だよ。それと約束する。二度と君のことは襲わないよ」
「ええ、そうしてもらえると助かります。それともう一つ教えていただきたい。私がビーストマン達を全滅させないと告げた後、”私を殺す気が無い”のに私を攻撃して来た理由をです」
アバンの発したその言葉に白銀の騎士は絶句する。
そして数秒間黙った後、観念したように騎士は答えた。
「……まさか、そこまで見破られていたとはね。本当に完敗だよ。君を襲った理由はね。君の実力が知りたかったんだよ。さっきの会話で、思想の面で君の危険性が低そうなことはわかった。それでももしもの時、力づくで止められるか知っておきたかったのさ。けれど試合形式では力を隠されてしまうかもしれないからね。だから、本気になってもらうためにいきなり襲ったのさ」
「なるほど。それで、私を試すために襲い、そして私の実力は見切ったと。二度と襲わないと言うのはそういうことですよね?」
「ああ。君にはばれてるから言うけど、この身体は僕の本体では無い。そして本体で戦えば確実に勝てると確信した。君は僕の策を見破っていたようだけど、手を抜いてる感じは見られなかったしね」
意趣返しのつもりか自慢するような口調で、確実に勝てると断言する白銀の騎士。
そしてその言葉にアバンも内心で同意する。本体が白銀の騎士以上なら、アバンでは間違いなく勝てないだろう。まあ、まともに戦えばの話であるが。
「そうですか。それで争いを避けられると言うのならば、私としてもこれ以上文句を言うつもりはありませんよ」
「そうしてくれると助かるね」
行き成り襲われたことに対し免罪の姿勢をみせるアバン、悪びれない態度の白銀の騎士。
そしてしばらくして動けるようになった騎士は去っていた。
「ふう、流石に疲れましたね。帰って休みたい所ですが、その前に当初の目的を果たすとしますか」
そしてその後、アバンは軽く溜息をついて作業を行うのだった。
「アバン殿、今日は一体、何を?」
「ええ、先日の大概でビーストマンには大打撃を与えました。当分は再度の侵攻は無いでしょう。しかしいずれは回復をする筈です。しかし全滅させるのは説明した理由で出来ない」
先日、白銀の騎士にも伝えたビーストマンを殲滅出来ない理由、同じ内容をアバンはドラディロンや宰相にも伝えてあった。その上での対策を披露しようとする。
「かといって、私も立場ある身。何時までもこの国に留まる訳にはいきません。そこで、結界を張りこの国を守ることとします」
「結界!! そんなことも出来るのですか!!」
戦闘からアイテム作り、本当に何でもこなすアバンの多芸さに宰相が驚きの声をあげる。
「ええ、恒久的に維持するには、貴方方に色々とやってもらう必要がありますけどね。必要な手順はここに記しておきましたので、財政とのバランスを取りながらよろしくお願いします」
嘗てアバンが訪れた隠れ里ギュータに存在した結界を維持する仕組み、それを参考に作り上げたマニュアルをアバンが女王に手渡す。ドラディロンはそれを受け取り、小さく頭を下げる。
「うむ。この国の財政にまで考慮いただき、本当に感謝する」
「いえいえ。それでは既に下準備は終わっていますので仕上げをしますね。あっ、結界で弾くのはこの国に敵意を持った人間以外の生物となります。範囲を広げたので効果も弱まりますが、それでも先日戦ったビーストマン位の強さなら十分に侵入も拒めるでしょう」
「そうか、本当にありがとう。よろしく頼む」
本当に細々とした気遣いである。ドラディロンや宰相としては感謝してもしたりなかった。
「それではいきますよ。邪悪なる威力よ退け! マホカトール!!!
アバンが呪文を発動する。これにより、竜王国全体が結界によって包まれた。
そして、自分のやることは終わったと、その後直ぐにアバンは元の世界へと帰っていき、竜王国に平和が訪れたのである。
しかしそれから数日後、竜王国のみならず、この世界全体にとって災厄となりうる存在、ナザリックがこの世界に訪れることとなる。しかしこれに関連し、ある余波が起こっていた。
「あ、ああ、ここも、あれも無くなっている。あー、みんなで作りあげたナザリックがあああああ!!!!!」
アバン召喚のためにエネルギーを流用した関係で魔法に不備が発生、その結果本来完全再現される筈のナザリックは所々が虫食い状態になっていた。
「な、何故、こんなことに。異世界に転移した影響なのか……。もし、もし、これが何者かによる意図的なものなら、許せん、絶対に許せんぞおおおおおお!!!!!!」
叫ぶモモンガ。彼が真実を知る日が来るのかどうか、それはまだ不確定の未来であった。
これにて一応完結です。この後、ナザリックがどうなるかとかは決めてません。一応、アバン先生が動いた上での共存ルート、交戦ルートも考えたりはしてるんですが、正直書ききれる気がしないので、あまり期待はしないでください。
ちなみ弱体化したナザリックですが、現地民から見ればダイ抜きで鬼眼バーンに挑まなければならない状況が真バーンに挑まなくてはいけない状況に変わった位のもんだと思ってください。