短編集   作:楯樰

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モッピーラブな最強オリ主モノのオリ主君一人称の話。
二次創作のオリ主って、実は作者が知らないだけでこんなこと考えてるんじゃね? と考えながら書いたやつ。作中には明記されない裏の感情――という妄想。
敢えて名無しで通してます。
あと文章量UPのための一話長文の練習。


注意:R-15 オリ主 最強 鬼畜外道 純愛(?) 狂愛 偏愛 そこはかとない中二臭


【IS インフィニット・ストラトス】
誰かを好きになるという事:『篠ノ之箒』


 ――もし身近な存在に、凜とした黒髪長髪巨乳美人になることが約束された少女が居たとする。

 

 所謂『ギャル系』の少女達よりも恋愛ごとに疎いというか、初々しさ溢れる反応が好き。

 プラチナブロンドの金髪より、鴉の濡れ羽色と見紛うほどの黒髪が好き。そして短髪よりも長髪。

 背もそれなりに高く、奇形と思う程でなければ、出るところは出て、引っ込んでいる所は引っ込んでいるというなら尚良し。

 そんな女性が好きな男子諸君も居るだろう。

 私も同じくだ。

 勿論、金髪で髪も短く、身体のメリハリも寸胴のように平坦で、背は小さく……。詰まるところ金髪短髪合法ロリ美少女が好きだ、というのも理解出来ないこともない。

 抱きしめたとき全身を抱えられる、庇護欲をそそられるというのは理解できる。抱えたときに背の高い女性では感じられないフィット感……。凄くわかる。金髪合法ロリ美少女……確かにいい。

 だが、もし愛育む宿から出たとき……。見られて通報されることが無いとは言えない。加えて現実に存在する確率は、黒髪巨乳美人のほうが確率は高いだろう。合法ロリ、となるとそれこそ一生のうちに出会える可能性はゼロに等しい。億分の一程度あるにはあるだろうが。

 

 詰まる所、女性への理想像があるということは素晴らしい、ということ。

 

 勿論、このような極端な例でなくとも間を割ったような女性や、一つ条件を満たして居ない女性が好きだ、という男性が居ない訳ではないだろう。女性が星の数だけ居るように、男性もまた星の数だけ居るのだから。

 

 さて、私は黒髪巨乳で長髪かつ背の高い女性が好きだ。

 

 偏愛していると言っても良い。理想のみならず女性像というのはあるに越したことはない。理想のタイプの相手と付き合ったときと、タイプでない相手と付き合ったとき。どちらがより相手を大切にできるかと問われたら誰しもが、前者、と答えるだろう。

 

 私の近所には神社が有り、そこにはある姉妹が住んでいる。姉の姿は見ることはない。妹は神社で行っている剣道場で、竹刀を振る姿を見掛けている。いや、毎日見ていると言って良い。

 何せ私は其処へ通っている故。

 

 ――弛んでいるぞ貴様!

 ――……押忍!

 

 師範代として在籍する彼女が、思考に耽っていた私を一喝する。彼女もまた、同性すら桃色の吐息を吐きたくなるほどに素晴らしい容姿と美貌を兼ね備えているが、どうにも駄目だ。料理が出来ない、という前知識が私の触覚を阻害する。

 私が目を付けている彼女はまだ幼く。未だ美人より愛らしさが先だって目に付く。だが彼女の母を何度か見かけ、将来に期待がもてる、と自信を持って言えるだろう。

 年上をさしおいて才能の片鱗を見せる少女。

 名を篠ノ之箒という。

 あらゆる面で私の好みと成りうる少女。彼女に好かれる事になるだろう美少年は師範代である姉にしごかれている。

 何故彼女の好意に気づかないのか。甚だしい程に疑問だった。部屋を同室にされたのは故意にだろう? 幾らハニートラップへの対策だとしても、最も効果的な策は姉弟仲良く同じ部屋にすれば良い。ブリュンヒルデの称号は伊達や酔狂のモノではないはず。幾ら各国からの圧力とはいえ、一度誘拐された事もあるのだから関係上、教師と生徒とはいえ出来ない訳がない。

 

 ――もし、最大限努力した結果が幼なじみと同室というならば不思議なことなど一つもないが。

 

 いや、言っても世話無きことだ。幾ら先の、未来のことを言ったとしても何も改善されないし、改善しない。むしろ今改善されてプレイボーイなどになってもらっては困る。

 彼女が好き、好み始めるのは何時だろうか。

 何時しか自然と隣にいるのが当たり前になったとき。無意識のうちに自分のモノだと思い始めたとき。護ると決めたモノが己の手から零れ落ちたその時……。――彼はどんな表情をするだろうか?

 笑うか? 自らを嗤うだろか?

 泣くか? 好意に気づき啼くだろうか?

 嗚呼、見てみたい。愛してくれる幼なじみを寝取られ、自らの気持ちに気づく姿を。

 嗚呼、聞いてみたい。愛してくれる幼なじみが堕ちていく姿にナニを言うかを。

 

 私は鬼畜外道だ。誰よりも、何よりも私の事は理解している。私は人ではない。人の成りをした怨念だ。

 

 あの少年を、羨み妬み嫉む総てのモノの代弁者。

 次元を超えて、想いが形となった唯のヒトガタ。

 彼の絶望を望む、鬼畜外道の悪鬼なり。

 

 …………しかし私は二次創作の主人公でしかなく。

 ……物語にとってのMOBでしかないのだ。

 

 

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 私には父という存在も、母という存在も無かった。気がつけば一人、いつの間にか作られていた戸籍と住所と家と共に存在していた。

 そして常に誰かに見られている気がする。視線を感じる。何処からかはわからない、だが常に観察されている。そんな感覚が常に付きまとい、やがて私は読者という存在に閲覧されているのだと気づいた。

 ……だがそれにも、もう慣れた。それはあの少年の境遇を羨み、彼を取り巻く要素の、一つとして持ち合わせないモノたちによる想念……嫉妬、羨望、渇望など総てが集まり生まれた私にとって当たり前の事でしかなかった。

 作者という命を与えてくれた存在にとっての "私" というものは、否応無しに想いの投影がための存在でしかない。……嗚呼、なんとも耐え難い。原作という知識を植え付けられ、それに囚われる "私" 。作者の渇望を無意識、意識を問わず反映するこの身体はひどく曖昧だった。節々が酷く痛むこともあれば偉く快調であったりもする。超人的なことが出来るかと思えば、当たり前がこなせない。今でこそ『最も強く賢い』と確定されたが、私の身体を形作る想念の持ち主……創造者達に翻弄され続けていた。しかし思考だけは昔から変わらず、連綿のように今に続く確固たるものを持っている。胸中の根底には未だ幼い少女を好く、虫唾の走るような好意といずれ彼女に好意を向けられるだろう幼き少年への憤り。彼の絶望する姿を見たく、彼女を純粋に愛したく思う心が私に存在する。

 

 何とも、これだけ聞けば奇人変人のオリジナル主人公だ。

 しかし私は所詮モブでしかないのだ。

 

 主人公という物語の世界の中心点。それを好きになるヒロイン。横槍を入れることは無粋だろう。無粋、故に私が本来表舞台に立つことは望ましくない。

 だが、例えMOBであろうと無かろうと、私が篠ノ之箒という少女が好きなのは変わらない。いや黒髪の長髪で、豊満な胸と美しい容姿を持った彼女が好きだということは、例えこの身が悪かろうと良かろうと不変のものだ。自己投影をする作者に求められることだから、と言ってしまえばそれはそれでお終いなのだが。

 私の容姿は今、彼らと同じ小学二年生ぐらいだろうか。歪、故に年齢は不詳だ。思考だけが成長した『見た目は子供、頭脳は大人』だろうか。もう何十年と生きた気もするし、生まれてばかりの様な気もする。

 

 ……そして気が付けば篠ノ之道場に通う門下生として竹刀を振るっていた。

 

 太刀筋が良いと師範代の、私の好み直球な美女が褒めるのだが、しかしそれは私に与えられた設定だからだ。容姿が良く、才能と努力する事に長けている。とはいえ、全力で竹刀を振った時、斬撃が飛んだように前方に裂傷が起きるのは如何なものかと思う。

 それにしても、嗚呼なんと噛ませ犬のような設定。恐らく作者は私にも劣る文才の持ち主だろう。いや、『最も強く賢い』という自己願望の投影された私に、劣らない作者は設定上居ないだろう。

 ……これから私は噛ませ犬らしく、仲良さげに会話する少年少女の仲を引き裂き少女を奪っていく。自分でも醜いと思う反面、それこそ最上の喜びとも思う。きっと私の最後はとてもとても醜く汚く、恨まれながら死んでいくのだ。――それさえ良いと思ってしまうのだから、作者にとって私は真性の狂人だ。

 

 ――……少しいいかな。

 

 私は遠慮がちに話しかけた。

 

 

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 苛められていたところを助けられたらしい。少年少女は友として付き合いを始めた。

 二人の仲を引き裂き、少女と仲良くなるにはどうするか。簡単だ。まずは二人と仲良くなればいい。仲良くなり、少年を貶めるのだ。上げて落とすとは違う。信じさせ、裏切るのだ。嗚呼、それはそれで楽しい。正しく、私には歓喜だ。

 だが私は、失って初めて気づく大切さを知り、二度と手に入らないと絶望する少年の姿を見たいのだ。きっとそれは蜜のように甘い。他人の不幸は蜜の味というが、まさにその通りだ。想像するだけで唾がでる。腹の底が渇望で疼く。

 ――先ほど、話をする二人に声を掛けた。 "試合をしてほしい" と。二人が、少年の姉に褒められている私の姿を見ていないということは無かった。

 途端逢引を邪魔されたことに腹を立て、顔をしかめた少女が自信満々に相手をしてくれることになり。それを、ギリギリで勝ちを拾えた、という風な完璧な結果で「またしてほしい」と頼んだ。

 初めは彼女が二人きりの時間を邪魔されるのを嫌って断られたが、皮肉にも少年の一言により私は二人に加わり、三人組になった。

 

 正しく、計画通り。

 

 笑みを浮かべて喜んでしまった。まさに鬼畜外道の所業。あとは時間の問題だ。――知識によれば彼女と別れるまで二年近くの時間がある。その間に少女の胸中に "私" という存在を植え付ける。出来れば少年と同価値程度の度合で。そして再会の時を待つのだ。

 

 遅延性の劇毒のように、二人の良き友人兼 "幼馴染" というポジションに。

 少女も奪われるときには抵抗がし難い立ち位置。

 

 ――仮定しよう。

 

 既に思いを伝え、想いを交わした私と少女。そこへ少年が己の好意に気づき、少女へと告白。少年の事もまた好きであったために、その場では答えられず私の元へと来る。相談しにきた彼女を図らずして私が彼女を押し倒す。そこへ少年が来るのだ。そして修羅場。挙句、少女の口から少年へ事実が伝えられる。

 

 完璧にこの通りに、とはいかないかもしれない。いや、確実に行かないといってもいいだろう。――シュミレートしただけでも私の口内が潤ってくる。

 

 私は愉悦の表情を隠し少年少女と交流を深めた。

 

 

 二年が過ぎた。篠ノ之箒は四年生の始め、通う小学校から転校し、必然的に篠ノ之道場は門を閉めることとなった。照れながらも私や少年と進んで会話してくれるようになったということ、つまりそういうことだ。

 彼女が転校していき、五年後のIS学園まで会うことは無いだろう――私はそう思っていた。……父と母が居ない私が一身上の都合により県外の中学校へ。そして重要人物保護プログラムにより篠ノ之箒から名を変えた少女と同じ中学校、同じクラスに。

 

 ……驚きに満ちた彼女の表情に、私もまた驚きが隠せなかった。

 

 

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 重要人物保護プログラムにより、名前を変えた少女は今、天草シノと名乗っていた。つい吹き出してしまった私は悪くないだろう。悪くはないだろうが、笑ったことに怒る彼女の姿があるので謝罪だ。――つい、知っている人に同じ名前の人がいたので笑ってしまった。声もそっくりだったから、と。それでも納得がいかないようだったので切腹の真似事をして許してもらった。やりすぎだと怒られてしまったが。

 二年ぶりの再会で何を話せばいいかわからない、といった様子。気恥ずかしげに無言でいた。しょうがないな、と私がまずあれからの事を話した。

 

 ――……もう一人の幼馴染はやはり変わらず、入れ替わるように中国から転校してきた少女が馴染んでいなかったのを助けていた話。その少女の事をセカンド幼馴染だとかつまらない事を言っていた話。この場にいない幼馴染にとっての私たちはファースト幼馴染だとか、つまらない事を言っていた事。

 

 その他修学旅行は楽しかっただとか一緒に居ればよかったのに、と子供染みた風を装いながら、私は会話する。喜怒哀楽が分かりやすい彼女に話して考えそうなことを予想建て、最後に偶然とはいえ会えて良かったと言う。そしてずっと会いたかった、と。混じり気なしに真剣に事実を述べた。対する反応は赤面。――彼女のその姿は愛らしく、愛しかった。そして、小学校から上がってきたばかりの少女に何を思っているのだろうか、と内心嫌気を催す。同時に今だけは、彼女は私を見てくれている、これからも私だけを見ていてほしい、と、些細な事すら独占したく思う気持ちを抑えようがなかった。此処で少年への怒りが湧く。

 

 ――好きだからこそ、彼女の想いを疎かにする奴が許せない。

 

 そんな私の構成する一端の "想い" が叫んだ。幼馴染の少年への怨恨。そして気づいた私自身が行っている事。私の存在。

 

 ――全ては彼女を苦しませるためではないのか。

 

 そんなことは無い。いや、私が幸せにするのだから。でも、それは "私" の思い込みではないか。私は少年の苦しむ姿が見たい。……それが彼女にとって不幸じゃないのか。――違う。

 

 想念は渦巻く。その度に私は分からなくなる。唯一つ、渦巻く想いに共通しているのは篠ノ之箒が好きだ、という事。好きだから、という建前は何と甘美な物か。好きだからこそ苦しめたい。好きだからこそ幸せにしたい。――私の元となった "想い達" は(まこと)に千差万別のようだ。だが、少年への恨みが "私" という存在を作り上げた作者の与える私の存在理由。彼を苦しめたいというのもまた事実なのだ。例えばあの女顔が憎たらしく、完膚なきまでに潰してやりたい。両親が居ないからどうした。そもそもなぜ覚えていないのか、重要な事だろう――。不満を上げれば幾つもある。そもそも何故そこまで鈍いのか、ということも含め多々ある。

 その中でも一番思うのが――何故幼馴染の想いに気づいてやれないのか、ということ。料理を作ってくれるなんてこと、好きでもないとしないだろうに、と。彼を眺めていたこの "想いの持ち主達" が見て感じたことだ。はっきりと言葉にしたとしても、伝わらない。自分を卑下し、好かれていると思っていないことが大前提にあるため、言葉を交わそうにも平行線。 "私" を形作る創造者には、「本当に好きならば、夜這いなり押し倒すなりヒロインがすればいい」という者も居る。植え付けられた知識に彼らの存在は有り、理解もできる。だが、幾ら肉体的に少女でなく女性に相当するとしても、心はうら若き恋する少女なのだ。羞恥から行われる暴力は可愛いものだろう。加えて意中の相手は朴念仁ときている。勇気を出して告白して、勘違いと誤解をされる。それは怒りたくもなるだろう。殴りたくもなる。むしろ殴られるだけましだ。殺されても文句は言えない。

 

 ――だからこそ、殴られ、蹴られている少年の存在が許せなかった。

 

 許せないこの思いは私は身に宿る想念から感じている。例え鬼畜と言われようとも、例え外道だと言われようとも。畜生に堕ち、自らの欲望に身を任せてしまおうとも。……私は好きな女が苦しむ姿は見たくないし、見ようとも思わない。苦しむくらいなら、いっそ忘れさせてしまいたい。私だけを見ていて欲しい。……そんなことを考えても良いではないか。そんな関係に焦がれてもいいじゃあないか。

 

 間違っていない、と私は断じて私は彼女の作ってくれた昼食を食べる。期せずして、私と彼女の仲は良好だった。

 

 

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 彼女は重要人物保護プログラムにより、また一年を待たずして転校していった。だが、私にとって一年間は正に至福の時間だった。仲こそ良いモノの、彼氏彼女という関係ではなく。幼馴染から継続する仲の良さ。友達以上、恋人未満の関係。――実に望ましい。三年後の二人との再会が楽しみなものだ。

 そして私は気が付けば卒業式に女の生徒会長を差し置いて "最も優秀だった生徒" として壇上に上がり、感謝の言葉を述べていた。特にこれといった勉強をした気はない。だが、毎回テストで満点を取り、全国一斉テストでも堂々の一位を飾った――というまず有りえない偉業と思えることをしたのだから、仕方ないとも言えよう。例え、女尊男卑の世界だろうと、それを覆すほどの『頭の良さ』が私には備わっているようだから。

 

 

 ――卒業式を終えて誰も居ない家に帰ろう帰路についた私の前には兎が居た。恐らく、原作という名において、全ての元凶となる存在が。……その兎は狂った瞳で私を睨んでくる。曰く、『妹に近づくな』だそうだ。その一言を言われて、拳を胸にねじ込まれ、心臓を抜き取られ、私は死んだ。――いや、死なない。私は二次創作のオリ主。二次創作を描く作者が居る限り、私を形作る "想い" がある限り。私は決められた時の、天命が尽きるその時まで死ねないし死なない。物語でない今、仮にも主人公の私が死ぬことは無いのだ。

 ……回れ右をして去ろうとする彼女の後ろから、私は声を掛けた。――まだ死んでいないぞ、と。いつもの猫を被った声でなく、私の本心の声で。おどろおどろしい、怨嗟の声で。振り返った彼女の手に私の心臓は無く、血の一滴たりとも存在しなかった。化け物を見たと戦慄し、恐怖した表情で彼女は私を見る。

 彼女の存在は元凶。この世界に不幸をばら撒く元凶である。現に少年のヒロインたちにはISが元凶といえる陰惨な過去がある。ISが生まれて救われた者も居ないこともない。ドイツの試験管ベビーであるとか。だが、天災兎とISという存在がなければこの世に存在する不幸の殆どは存在しなかっただろう。そして一番の問題が『篠ノ之箒』という少女を傷つけた事。例え天災兎が彼女の肉親であろうと、それだけは許せなかった。許せないが――しかし、義姉になるのも事実。それだけで愛情を持つことが出来る。それだけで愛せない理由は無くなる。鬼畜外道だが非道ではない。無用な殺しは極力したくない。

 

 

 ――兎は耳触りの良い甘い声で啼いた。

 

 

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 進学先の高校がIS学園へと変わった。つまり少年がISを起動させ、私もまた起動させたのだ。私はオリ主、故に当り前である。ISを起動出来なければ物語は始まる前に終わってしまうからだ。『最も強く賢く』。そして私自身がオリ主であると自覚しているからこそ、こういうことを考えることが出来るのだが。

 

 IS学園へと入学し、ISの起動試験では嘗て師範代であった少年の姉が試験官だった。ISの動かし方は完璧。自分の腕のように足のように十全に扱える。ならばその豊満な胸を借りるつもりで、と打鉄を前へ推進させ、刀型近接ブレードを振るう。中学時代は部活はせず、昔、道場の当主から直々に教わった古武術である篠ノ之流を鍛錬した。故に、同じく教わった彼女だからこそ分かったのだろう。――光速にも引け劣らない速度で振るわれた居合の剣に反応できた。互いにブレードが吹き飛び、破砕。予備のブレードを互いに取り出し、今度は此方が攻撃を受ける。展開速度にどうしても負けてしまうため、こればかりは仕方がない。返す刀で横薙ぎで振るわれたブレードを再度ブレードで受ける。それだけでは先ほどと同じ、完全に折れてしまうため力をいなして、剣先を刀身に絡ませてISの腕からブレードを弾き飛ばす。出来るかどうか分からなかったが、流石のオリ主の動体視力のようだ。

 既定の時間が訪れ、終了の合図がされる。……賞賛の言葉を師範代から送られ、私は感謝の言葉と、昔の返事の仕方で応えた。

 

 ――私の適性は『S-』とされた。

 

 少年、私に向けられる好機の視線は数多く。自らの事で精一杯であった入学式の時よりも向けられる視線は多かった。私の番が来て、無難な自己紹介を行う。趣味は芸事、剣道部に所属するつもりだ、と述べて、宜しくお願いしますと一礼して席に座った。少年の番が訪れ、此方に助けを求める視線を向けてくるが、微笑んで無視した。あきらめた様子の彼が立ち上がり、気の抜けた自己紹介でクラスの空気が和んだ。――と、同時に彼に声がかかり、異音が響く。凛々しく響くその声は中国の武将然りというような雰囲気を携えている、彼の姉だった。口では厳しいが、その実弟であるため殴られた力は加減されている。……もし全力で叩こうものなら脳震盪を起こして気を失っているだろう。自己紹介は彼女の出現により打ち切られ、再度続きの自己紹介が行われた。

 

 ――少しいいか、と私はツンツンした少女と気だるげにしている少年に声を掛けた。

 

 場所を移し話をする。少女とは二年ぶり、と少年に関しては六年ぶりだが、連絡先を交換していたため、さほど久しぶりな気はしなかった。少女はやはり少年に友達以上の想いを寄せているらしかった。新聞で活躍している姿を見ていた、と少年が彼女に告げる。少女の照れる姿は可愛らしかったが、対象が私でないことが悔しく。普通の表情が出来ているのが不思議なほどだった。

 

 ……ふと、思う。私はどうしたいのだろう。少年の絶望した表情を見たい、と思っているのは確かだ。だが、――本当にそれだけなのだろうか。私は何を望んでいるのか。少女と恋仲になりたいのか。確かに好きあう関係にはなりたい。だが、その過程には少年の絶望を見たいという欲求がある。では……彼の絶望が見たいから少女と恋人として付き合いたいのか、それとも少年が彼女の好意に気づかないくらいなら、彼女に私の事を見てもらいたいのか。……嗚呼、何だというのだろう。私にこの "想い達" はどうしろというのか。私は――どうしたらいい。

 

 ――思考の巡りに飲み込まれ、二人に心配されて正気に戻る。……私が結局何をしたいのか、何故少年の絶望する姿をみたいのか。改めてその理由を考え始めた。

 

 

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 中学時代、少女と行っていた習慣。昼食を互いに作ってきて、具材を交換して評価しあう。この時だけはお世辞も抜きに、事実だけ述べて評価する。周囲からは彼氏彼女のようなことをしているな、と思われていただろう。おかげで料理が上達したし、少女の好物を知ることが出来た。美味しい、といってくれる姿を想像して毎日相手のために料理を作るというのは心地良くもあり、また、何が好きで嫌いで、ということを知っていくことも楽しかった。幸いにして料理を作る場所、材料と機材は自室に揃っている。篠ノ之箒と部屋が同じなんてことはなく、男子でかためられた私は食堂から食材をもらって少年の視線を浴びながら料理をする。同室の少年には不思議な目で見られていたが、中学時代の少女とのやり取りを話すと納得する。ただ、了承もなく横からつまみ食いをしてきたため、無表情で殴りつけてやったが。

 

 翌日、昼食を三人で取る。少女は今日、自分で弁当を作ってきていた。腕前は落ちていないらしい。食べさせてくれたそれは見事に美味しく。……私の好物を作ってきてくれていたことには内心涙ぐんでしまった。私の用意した弁当を食し、美味しいと言ってくれたことにも久しぶりであったため心が安らいだ。中学時代は一人であったため安らぎが無かったのだ。

 ――仲良いな、と少年に指摘されてドキリとしてしまう。そんなことを言われてしまえば恐らく、彼女はもう作ってくれなくなるだろう、そう思った。……だが彼女は赤くなって外方(そっぽ)を向き、黙り込むだけで何も言わない。――私の知る限りではこの反応は考えられなかった。きっと照れ隠しに反論の末、作らないと宣言されてしまうだろうと考えていた。

 

 ――そっか。お前たち付き合ってるんだな。

 ――……べ、別にそんな関係ではない……。

 

 少年の言葉に少女は力なく否定する。雰囲気はまるで少女が私のことを好いているような――いや、有り得ない。あり得てはいけない。……それでは少女は少年のことを特別意識をしていないかのような――。

 

 嗚呼、駄目だ。少女は私のことを好きになっては駄目なのだ。それでは私の怨恨が、私の存在理由という呪縛が消えない――。何処で間違えた。何を間違えた。一体どの時点で……。

 ――いや、待て、私は少女と恋仲に成りたかったのではないか。私が渇望するのは少年の苦しむ姿――私の存在理由は少年を苦しめること。――存在理由の根元には少女を思う気持ちがある。……ならば私は少女が好きだからこそ――……。

 

 私は少女が、篠ノ之箒という彼女が好きだ。それ以上でもそれ以下でもなく。好きだから助けてあげたいなどではなく。好きだから、少女の好意向ける相手が鈍感である事が許せないのではなく。――……私は、私を通して自己投影をする作者は……ただ単純に、純粋に篠ノ之箒の事が好きだったのではないか。私は自己投影の存在。私は作者の現身。では、私の存在とは……――ただ、篠ノ之箒という少女を好きな作者自身。好きだからこそ少年に嫉妬した。好きだからこそ振り向かせたかった。

 

 ――嗚呼、簡単な話じゃあないか。私に存在の理由はなく。私が少年を苦しめる必要も義務もない。高が知れる、男の醜い愛憎というだけの事。憎いがために、彼に贖罪を行わせる必要はない。彼より私を選ぶのならば、それは初めから無かった話だ。

 

 ――心の曇りが晴れていくように感じた。

 

 何と清々しい気分か。何と心が軽い事か。私は、箒は可愛いなぁと一言。彼女を前にして虚偽偽装なく、心からの言葉を送った。案の定殴られてしまったのだが、この程度可愛いものでしかない。

 

 ……私は篠ノ之箒を愛している。この気持ちに嘘偽りはない。この想いに彼らの "想い" は関係ない。例え私がオリ主だろうと、物語のモブキャラであろうと。私が彼女を好きなことに理由は要らないのだ。例え私が彼らの "思念" "想念" から生まれていたとしても、私がどのように生きて、どのように死ぬかは私自身とも言える "作者" の定める運命によって決定される。だからこそ、私は全身全霊を持って彼女を愛そう。この命果てるまで、私は全力をして彼女を愛すのだ。私が作者の現身であったとしても、 "私" が私であることに変わりはない。――故に、私は授業が終わった後、部屋に呼び出して告げた。

 

 

「――……篠ノ之箒、私は貴女の事を愛しています。」

 

 愛の告白。幼少のころから秘めていた想い。嫉妬憎悪怨恨、その起源の想いの告白。彼女の返答は私にとって喜ばしいものであり、幼馴染の彼も祝福してくれるものだった。少年は……一夏は祝福してくれたが――まだ私は有りえたかもしれない世界の少年への嫉妬を感じている。少年に恋をしてた箒の素行を否定しかしない者共にも "想念" の抱くように、私自身も憤りを感じている。私が言えたことではないが、人の恋路に文句を言うなと一言言いたい。そして誰が何と言おうと、私は長い黒髪、巨乳で美少女の "彼女" が好きなのだから。

 

 

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 此処で私の独白は終えよう。男の私が嫉妬を抱き、彼女に恋して、愛した話はお終いだ。少年、織斑一夏が繰り広げる学園ラブコメディは私には認知しえないことである。誰と付き合おうと誰と恋仲になろうとも私には関係はなく。本当に好きな女性が出来たのなら、彼の事は祝福しようと思う。だだ、それだけだ。

 

 ……ああ、それからお義姉さんとの関係について、私の愛する少女に露見して問題になるのは夏の合宿での話。襲撃され返り討ちにして襲う。そんな出来事と関係が、少女と交際を始める前から幾度かあり、続いていたとしても――誘ってくる兎が悪い。

 

 鬼畜! 外道! と姉妹は嬌声に交えながら叫ぶが、――断言しておくが、私は悪くない。

 

 

 




純愛と思ったら大間違い。ちゃっかり篠ノ之姉妹を攻略してたで御座るの巻。
尚、作者は金髪巨乳な女性も好きです。

……私の書いてる作品、黒髪巨乳のヒロイン多いけどね!(てへぺろ

巨乳が好きなだけじゃねーかとかいっちゃだめだ。
ちがうから。いいね?

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