初恋   作:rollymarcury

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第四話

 「孝之ぃ...あたしやっぱり......。」

 「...お前とは今のままでいたい。頼むよ。」

 「やだよぅ。もう、無理だよ......。」

 翌日、変な夢で目が覚めた。

 今日は、由奈とデートなのに何だっていうんだろう。

 俺は大学に行く支度をしていくと、次第にそのことも記憶の海に飲まれていった。

 大学から一度帰ってきて、家でデートプランを再確認した。

 まずは、ショッピングモールだ。フードコートもあって、一石二鳥だし。

 その後は遊園地。でも由奈、絶叫系は苦手なんだっけ。

 ちょっと高めなレストランに行こう。

 その後に公園で......。

 慣れた手つきで身だしなみを整え、待ち合わせ場所に向かった。

 駅に向かうと、既に由奈が待っていた。 

 「ごめん、待った?」

 「全然待ってないですよ〜」

 うーんこれも定番!

 由奈は、ブラウンのチェスターコートを羽織っていて、いつもより大人らしさが出ていた。

 「ウチの彼女が可愛過ぎるんです...。」

 「もう、泣かないでよ。くすくす。じゃあ、行こう?どこに連れて行ってくれるのかな?」

 「過度な期待はご遠慮くださいぃぃ!」

 「私は孝之君と行けるなら、どこだって楽しいんだから」

 せめて、今だけは全力で楽しもう。そう心に決め、俺達は手を繋いで歩き始めた。

 「まずはショッピングモールだ!」

 「私、雑貨見るのとか結構好きだよー」

 ということで、雑貨店にやってきた。

 「なんだこれ?相性占いのおもちゃ?」

 「やってみようよ!」

 「お名前と生年月日を教えてネ!」

 シロクマのような姿の、手のひらサイズのおもちゃだった。お腹の辺りにタッチパネルが付いていた。

 「これ喋るのか......」

 「ほら、早く入力しよ!」

 「オマエラの相性は....200%だワ!素晴らしいィィィ!マーヴェラス!お幸せにィ!!」

 「わー!すごいよ!孝之君!私達200%だって!100%を超えてるよ!」

 良かった、10%とか出なくて。

 「良かったぁぁあ!」

 散々回った後、次は遊園地にやってきました。

 「ジェットコースター乗ろうよ!孝之君!」

 「あれ?由奈って絶叫系苦手じゃなかった?」

 「今なら苦手も克服できる気がするんだよ!」

 「そ、そうか!」

 というわけで乗った。

 「大丈夫かぁぁ!返事をしろぉォォオオオ!」

 息を吹き返した由奈を休ませた後、観覧車に乗った。

 「そろそろ日も沈んできたね〜」

 夕焼けと由奈のコントラストに俺はイチコロだった。 

 「綺麗だな」

 二人きりの空間、俺は行動を起こそうとしたが、これから俺がすることを考えると、起こす気もなくなってしまった。

 「どうしたの?」

 ニコニコと笑顔を向けてきてくれる由奈。

 「いや、なんでもないよ」

 何事もなく、観覧車は下まで一周した。

 ちょっと高めのレストランの帰り路。

 既にメールは送った。

 ここからが本番だ。

 「すっかり真っ暗だね〜」

 「あ、ああ。そうだな」

 「今日は楽しかったよ。本当に」

 「喜んでくれたみたいで良かったよ」

 「また、誘ってくれる?」

 「俺も、また由奈とデートしたいよ。ところでさ、ちょっと、寄りたいところがあるんだ」

 「もしかして、サプライズですか?くすくす」

 俺達は再び手を繋ぎ直して歩いていった。

 俺の冷たい手は、相手を逃さないための枷かもしれなかった。

 

 

 

***

 俺達は公園に到着した。

 もう既に蓮菜がいるはずなのだが、今の所は見当たらない。

 引き返すなら今しかないということだろうか?

 隣にいる由奈は寒そうにしながら、俺のことを見つめてくる。

 「孝之君はどんなサプライズを用意してくれたのかな?」

 背中が湿ってきて、額には脂汗が噴き出してくる。

 「ベンチまで歩こうか」

 この公園はかなり広い。入り口を真っ直ぐに進んでいくと、広場が見える。

 そして、その広場の真ん中には象徴的な噴水がある。

 右手には、自販機やベンチが置かれていて、左には、遊具が置かれている。

 空は暗くて、子供達が遊んでいる姿は無かった。

 けど、俺達くらいの年代の人らがポツポツと立っている姿が街灯のおかげで分かる。多分カップルだろう。

 「......」

 「......」

 無言の時が流れ、俺達は空いていたベンチに座る。 

 「ちょっと、待ってて」

 「は、はい...」

 俺はすぐさまスマホを取り出し、蓮菜にメールを送ろうとLIMEを開いた。すると、蓮菜からの通知が来ていることに気づいた。デート中は通知音を切っていたから、今まで気づかなかった。

 「ごめん!ちょっと遅れる!!」

 それが三十分前のメールだった。

 「今どこにいるんだ?」

 隣に座っている由奈には申し訳ないと思いつつも、俺はスマホに意識を向けた。

 少ししてから既読が付き、返信が来た。

 「もう着くから!もしかしてもういる?」

 「いるぞ」

 「あわわわわ」

 「緊張してるのか?」

 「だってほんとだったら、あたしが先にいる予定だったわけでしょ?心の準備が...」

 「なんで遅れたんだよ?」

 「言えない。あ、もう入り口だよ。一旦スマホ消すから」

 来るのか。

 まだ何も起こっていないのに、心臓が痛い。

 肺が活発に動き出して、喉の奥が冷たく、乾いていくのを感じる。

 俺もスマホをしまい、由奈に向き直った。

 「ほったらかしにしちゃってごめん。」

 「全然良いですよ〜。それより今のって、誰かにメールですか?」

 「い、いや違......」

 すぐにバレる嘘を、俺は咄嗟に吐こうとしてしまった。そんなのは無意味だとも咄嗟に思って、だから俺は、真実を話すことにした。

 「そうだよ。今から、蓮菜が来るんだ」

 「......え?」

 焦燥のようでいて、泣きそうでもあるような表情を作っていた。

 俺は心の中で、懺悔しようとした。

 やっぱり不味かった。こんな方法じゃダメだったんだ。けど、ここで諦めたらどこにも進めないような気もして。

 俺は逃さないといった気持ちで由奈の手を取ろうとした。

 その瞬間。

 パシンッ!!!

 俺の右手の甲が熱くなるのを感じた。

 「や、やめてください!」

 その悲痛な声音や仕草は、まるで性被害に遭った女性が出すようなものだと感じた。

 だから、俺は思いっきり動揺してしまっていた。

 「う、あ。ご、ごめ......」

 「い、いやぁ......!」 

 そんな最悪の状況の中、蓮菜が姿を現した。一瞬、誰だか分からなかった。

 ストレートにウェーブが掛かったような髪型や白を基調とした服装が新鮮だったからだ。

 「え......?何、してんの?」

 全力で逃げ出そうとした由奈を俺は捕まえようとして、実際に捕まえてみせた。

 「離してください!!」

 「いや、離さない!俺は二人に話し合ってほしい!!そして、仲直りしてほしいんだ!!」

 「話すことなんて何もないです!嫌だ嫌だ嫌だ!」

 「あたしは、ある。たくさん、あるよ...?」

 俺達は三人とも、酷い顔で立ち尽くしていたと思う。

 周りの人はこちらの様子を窺っているだけで、何かしてこようといった素振りは見せなかった。

 中には、そそくさと帰り始める人までいたくらいだ。

 「頼む、落ち着いて。何が何だか分からないけど、由奈が怯えてることだけは分かるから。ここには由奈を怖がらせる人はいないんだよ」

 試しに抱きしめてみる。

 蓮菜の視線が痛かったが、今はそんなことを気にしている場合じゃない。

 「大丈夫だから...。落ち着いてくれ......」

 何時間もの長い間、抱きしめていたような気もするが、実際には二、三分だったろう。

 ようやく由奈が落ち着きを取り戻してくれた。

 「う、ん。ごめ、ん。蓮菜にもごめん」

 まだ顔は強張っているが、さっきよりはだいぶマシだろう。

 俺は由奈の様子が気になっていた。

 あの取り乱しっぷりは、どう考えても異常だ。

 以前、蓮菜から聞いたお母さんの話以外にも、何かあるような気がしてしまった。

 「単刀直入に聞くけど由奈、何があったんだ?」

 「......」

 「俺が知ってるのは、由奈と蓮菜のお母さんが、その、捨てられたってことと、そのせいでお母さんが...ってことしか、知らない」

 「蓮菜が話したんですか?」

 「......うん。そうだよ。ごめん、由奈ちゃん」

 「待ってくれ、俺も悪かったんだよ。先週、蓮菜を家に上げた時に聞いちゃって!あっ...」

 誠実とも取れたはずだった発言が、今度は自分の方へと、棘となって返ってきた。

 「蓮菜のこと、上げたんですか?」

 そうして、標的は一人から二人に増えた。

 「ごめん。由奈に内緒にしたままでいて」

 由奈の表情はさっきより暗くなったような気がした。 

 俺は、その由奈の雰囲気に呑まれて、ガタガタと震え始めた。

 「私と距離が離れている間、蓮菜と一緒だったんですか?この一ヶ月間、ずっと!!」

 「違うよ!由奈ちゃん!あたしはただの友達、だよ。それ以上でもそれ以下でも無いんだよ...」

 そう言った蓮菜の表情は、とても苦しそうだった。

 「でも蓮菜ってば、孝之君に告白、してたよね......?」

 話したの?とでも言いたげにこちらを見てきたが、俺は首を振って否定した。

 「私、見ちゃったんですよ。大学の広場で蓮菜が孝之君に告白してるの!」

 この流れはマズい。どうにかして話を変えないと。

 「な、なぁ由奈!それよりもさっきの質問の答えが知りたい!何があったんだよ?さっきの由奈の様子は、どう考えても俺が知ってること以外にも何かある気がするんだよ」

 「そ、それは...」

 チラッと蓮菜の方を見た由奈だったが、そのくりっとした目は諦観のような情感を伴い、話を始めた。

 「私、処女じゃないんです」

 「「......え?」」

 二つの声が重なった後、辺りは刹那の静寂が訪れた。

 それから由奈は、また話を続けた。

 「私、蓮菜の父親に犯されたんです。もう数年も前のことですけど。っ...!」

 それを口にした瞬間、由奈は途方もない涙を流し、嗚咽を堪えようと、白い右手で口を押さえていた。

 「誰にも話せない。特にお母さんには絶対。こんな話をしたら、また壊れる、なんて決まってます...。それもあの男にとっては、脅しの材料だったんでしょうけど」

 俺と蓮菜はどんな反応をして良いのか分からず、泣いている由奈の方をじっと見つめることだけで精一杯だった。

 先に口を開いたのは蓮菜だった。

 「そ、そんなの知らなかった...。何で?教えてくれれば、力になったのに!」

 「蓮菜を信じるって、あの男を信じるってことですよね?そんなこと出来るわけない、出来るわけないじゃないですか!!」

 由奈の論理は破綻しているが、由奈の中では順当な理論なのだろう。

 それでも俺は、蓮菜の味方をせずにはいられなかった。

 だってこれじゃあ、蓮菜があんまりじゃないか。

 蓮菜は何も悪くないのに、母と姉からは恨まれている。ただ父親が、最低のクズだったってだけで。

 「それでも蓮菜を遠ざける理由にはならないよ......。本当は分かってるんじゃないのか?その考えが破綻していることだって。蓮菜を恨むのは筋違いだってことが。恨むべきはその男、ただ一人だろう!」

 「孝之君は、誰の味方なんですか?」

 それを口にした時の由奈の目は、声音は、他人に向けるものだと錯覚するほど冷たく、背中に汗が伝っていくのを感じるものだった。

 だけど、間違えるわけにはいかない。

 今ここで重要なのは、由奈が性被害にあったことを慰めることじゃない。

 二人の仲を取り戻すことだ。

 多分、それが由奈の心を軽くするための最善の方法でもあると思うから。

 だからこれは、由奈のためだ。由奈のために、由奈を傷つける。

 「俺は、蓮菜の味方だ。だから、由奈の味方にはなってやれない。」 

 二人の味方だ、なんて逃げは俺が許さない。

 「どうして、ですか。どうして、蓮菜の味方なんて。私の恋人でしょう!?私のこと、好きじゃないんですか?蓮菜の方が好きってことですか!?」

 それまで俺と由奈を傍観していた蓮菜が言葉を遮った。

 「ねぇ、由奈ちゃん!孝之の由奈ちゃんへの想い、そんな風に踏みにじっちゃ駄目だよ!孝之はね、あたしがどんなにアタックしても、落ちなかったんだよ!何でだか分かる?」

 「何で、ですか......!私のことを放ったらかしにしておいて!この一ヶ月間、ずっと寂しかったのに!!」

 「それは、由奈ちゃんのことが本当に大切だったからだよ!悩んでたんだよ、孝之も。だから、あたしが慰めようとした。でも、振り向いてくれなかった!あたしがどんなに恥ずかしい思いをしても、振り向いてくれなかったのよ!」

 「それが何だって言うんですか?だからといって孝之君が今、蓮菜の味方だと言った事実は取り消せませんよ?」

 「一旦、やめてくれ......」

 どの口が、なんてことは俺が一番よく分かっている。

 でも、二人が大粒の涙を流しながら、俺のことで口論している姿を見ていたら、衝動的に止めたくなった。

  冷めた様子の蓮菜が言葉を続けた。

 「もういいよ。孝之、帰ろう?」

 「は?何でだよ。まだ仲直りできてないだろ?」

 「お互い、頭冷やさないとダメだよこれ。」

 「そんなこと言ってたら、いつまで経っても仲直り出来ないだろ?お前、良いのかよ。由奈のこと好きだったんじゃないのか?」

 「今は、良いから。」

 そんな俺達の様子を眺めていた由奈は、破滅の言葉を唱えた。

 「お似合いですね、二人とも。孝之君、私にはしてくれない話し方で話してます。お前、だなんて一度だって言われたことないです。」

 「え...。由奈、何でそんなこと言うんだよ?」

 由奈も俺の表情を見て、後悔が押し寄せたのか、両手で自分の口を塞いだ。

 そして、パチン!と破裂音がした。

 由奈の左頬が赤く染まっていた。

 「いい加減にしなさいよ!あんた彼女でしょう?何一丁前に嫉妬なんかしてるの?さっき言わなかった?孝之の気持ち踏みにじるなって!今どんだけ酷いことしたか、分かってるの?!」

 蓮菜の剣幕に驚いたのか、由奈は綺麗なくりっとした目を丸くさせた。

  「ご、ごめんなさ......」

 言い切る前に蓮菜は、棒のように突っ立っていた俺の手を引き、公園を後にした。

 

 

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