拠点:のどかな村。表通りにある様々な商店の中、武器屋の前で立ち止まっていた自分が頭を悩ませていく。
隣には、少女の姿で佇むノアが存在した。彼女は店主の旦那と愉快げに話し込んでおり、持ち前の知恵を自慢するように披露することで、旦那から感謝されていたものだ。
ノアも満更ではなかったらしく、王子様風の喋りでペラペラと続けていく。表情も生き生きとしており、隠し切れないドヤ顔が少女の年相応な一面を垣間見せてくる最中にも、佇んでいたこちらの下へとひとりの人物が飛びついてきた。
後ろからドカッとぶつかってきて、これに自分はふらついてしまう。共にして人肌が巡ってくると、すぐにもメーの声が聞こえてきた。
「は~い、みっけ~! アレウス君の捕獲完了~」
「わっ! ビックリした……!」
「あは、驚かせてごめんね~。で、何かお悩み? 先輩冒険者として、私が相談に乗って進ぜよう~」
勝気に喋るメーが、距離感の近いボディタッチを交えながら顔を覗き込んでくる。そんな彼女の後に続くようラミアも視界に入ってくると、淡々な調子でセリフをかけてきたものだ。
「今日もワイルドバードの卵を探しに行きますので、アレウスさんも来てください。ひとりだけサボられるのも癪なので」
「大丈夫だよ、2人についていくつもりだった。けれど、装備だけ更新しておこうかなって思っててさ」
「装備ですか。ソレって武器とかでしょーか。イマ使ってらっしゃるの、ただの木刀ですもんね」
「木刀もそうだし、盾も気になっているんだ。ノアから教えてもらった情報によると、ワイルドバード系統は突属性の攻撃を得意とするみたいだからね。突属性を軽減できる盾があったら便利かなって考えてたんだ」
ラミアとの会話を聞いていたメーが、小悪魔風な明るい調子で言葉をかけてくる。
「うっそ、マジで!? アレウス君、駆け出しなのにもう防具や耐性のこと考えてんの!? うっわ、えっらぁ~……。ガチリスペクトってカンジ~……」
「ラミアやメーは、敵に合わせて装備を変えたりしなかったの?」
「う~ん、ラミアは用心深い方だし、慎重派でもあるから、ちゃんと有利属性や不利属性、各部位ごとの弱点とか必殺技を調べてから依頼を受けたりしてるけどね~。私はそこまで考えてないっていうか? 難しいことなんか分かんないから、とりあえず強い行動とか強い攻撃とかばっか押し付けて、それが通用したらラッキーみたいなノリでやってるかな~」
「ご、ごり押しだ……」
要は、各キャラクターごとに性格が出てくるんだな。
ラミアは、何事も事前に情報を集めた上で行動する慎重派。メーは特に何も考えずにひらすら強い行動を繰り返す武闘派。その2人を後押しするヴィジョンの相性も相まってなのか、ラミアとメーのコンビは、周囲のキャラクターの中でも特に高い戦闘力を誇る人物らとして描かれていそうだ。
今は一時的な共闘にすぎないものの、メインクエストが終わったら仲間に加わってもらうのもひとつの手かもしれない。それくらいには、この2人は心強く思えていたものだ。
尤も、酒場でユノを待たせている以上、まずはそちらに向かわなければならない。それを思ってメインクエスト受注後に酒場へ向かったものの、どうやらフラグの関係でメインクエスト中はユノのイベントが発生しないことが判明したため、何にせよ仲間やチーム関連の話をするには、メインクエストを進めなければならないことは確定していた。
ラミアとメーと会話を行い、その日は何も買わずに武器屋を後にした自分。自慢げに鼻を伸ばしていたノアも引き連れて4人で行動していき、その足を迷うことなくセザム・ノワールの山脈へと運ぶことによって、塵まみれのエリアへと踏み入れていたものだ。
《セザム・ノワールの山脈》
足場が悪く、視界も不良なストレスだらけの山道。直接ダメージを受けるというよりは、無害なものの対策もできないという飾り程度のエフェクトなんかが、自分にとって厄介に思えて仕方がなかったりする。
道中には、ワイルドバードが出現したりした。それらを自分やメーが片付けていき、支援していたラミアが素材を確認することでワイルドバードの卵を探していくのだが、依然として目的の代物は見つからない。
思った以上に手ごわいな……。
木刀を片手に、内心でボヤいていく。すると、次にも妖精姿のノアが現れては少女の姿へと変身し、地面に降り立ちながらそう喋り出してきた。
「闇雲にフィールドを駆け回ってみるのも、オープンワールドの醍醐味とも言えるだろう。しかし、それは目的が形となって目に見えているからこその余裕でもある。キミは現在、ワイルドバードの卵という素材の詳細を詳しく知らずにセザム・ノワールの山脈を巡っていることだろうね」
「えっと……つまり?」
「この時のために、ナビゲーターという案内人が必要であるとキミは思わないかな? そうさ! キミは恥じることなく、このボクを頼ってもらっても構わないのだよ!!」
なるほど、確かにそうだ。
ここ最近は、ラミアやメーのことばかり考えていた。それもあってなのか、こちらの心を読み取っていたのだろうノアも、そろそろ頼ってもらいたくて声を掛けてきたのかもしれない。
「
「ワイルドバードの卵の入手方法、だね! それならば、既に用意してあるから今すぐ教えられるよ! さぁ、ではボクのターンへとしゃれこもうじゃないか!」
ラミアとメーが不思議そうに見遣ってくる中、ノアは主にこちらへと説明を始めてきた。
「ワイルドバードの卵。まずこのアイテム自体の希少価値が高くてね、それ故にレアアイテムの中でも特に珍しい扱いを受けている。主な使用用途は料理であり、ワイルドバードの卵を使用した料理には、その野蛮ながらも体の底からみなぎる活力によって、一時的ではあるものの圧倒的な攻撃力の上昇という恩恵を得られるみたいだね」
「ふむふむ」
「では、ここでワイルドバードの卵の入手方法といこう。……一般的な入手方法は、ワイルドバードからのドロップ。または、ワイルドバードの巣を調べた際に低確率で入手。というものだね。そのどちらも確率が絶望的であり、狙って手に入れるようなアイテムではないことは確かだろう」
「なるほど。やっぱり、ここは気長にセザム・ノワールの山脈を周回するしかないってことかな」
「手堅く、確実にワイルドバードの卵を入手するのであれば、それでもいいかもしれない」
「もしかして、他に手段があったりする?」
こちらの問い掛けに、ノアは得意げに笑みながら答えてくる。
「察しがいいね! そうさ。ワイルドバードの卵を確実にドロップするエネミーが、このセザム・ノワールの山脈に生息しているのさ」
「本当!? なんだ、あるにはあるんだ……良かった」
「ただ、その希少価値に見合うそれ相応の覚悟を、キミには決めてもらう必要があることを留意してもらおうか」
「どういうこと?」
「ワイルドバードの卵を確実にドロップするエネミー。その正体は、このセザム・ノワールの山脈を縄張りとするボス、『ドン・ワイルドバード』に他ならないからだ」
「ドン・ワイルドバード……」
そう言えば、ラミアとメーの2人と初めて出会った酒場でも、彼女らはドン・ワイルドバードという言葉を使っていたような気がする。
となると、2人はもとよりドン・ワイルドバードを倒すこと前提で話を進めていたと考えられるだろう。
「ノア、そのドン・ワイルドバードっていうボスは、今の俺でも倒せるレベルだったりする?」
「非常に残酷な現実を突き付けるようではあるけれど、残念ながら現時点のキミのレベルでは、ドン・ワイルドバードにダメージを与えることすら不可能に近しいね」
「そんなにレベルが高いのか……」
「そもそもとして、このメインクエスト自体の推奨レベルが高かったのさ。その条件も、『のどかな村のサブクエストを、一部を除いて全てクリアする』というもの。キミは持ち前の知識や技量で推奨レベル関係なくサブクエストをこなしてしまったからね、その結果、本来であれば到達しているはずの推奨レベルに追い付くことはなく、キミは難易度の高いメインクエストを突き付けられてしまったんだ」
「それじゃあ、レベル的に見ると身の丈に合ってないクエストなのかこれ……」
もっとよく確認してから受注すれば良かった……。
たまにある、通常のクエストの中にしれっと高難度クエストが混ざっているかのようなあれ。明らかに今のレベルで挑めるようなクエストではなく、もはやファンサービスとして突っ込まれたような、これまでとは段違いの強敵が現れた時のようなあの絶望感。
「……ノア、もしこのメインクエストを今から取り下げた場合、一体どうなるのかな?」
「まず、ラミアとメーの2人がパーティーメンバーから外れることになるね」
「そうなったらさ、また2人を冒険に誘うことって可能だったりする?」
「キミが立ててきたフラグによるかな。今回は、『ワイルドバードの卵を求めて』というメインクエストに、ラミアとメーの2人がついてきただけに過ぎないのさ。これは一時的な同行ではあるものの、今回のメインクエストの報酬には、彼女らを自由にパーティーメンバーへ加えることができる権利も含まれている」
「そうか……。もし、ここで『ワイルドバードの卵を求めて』を破棄してしまえば、今後ラミアとメーをパーティーに誘うことはできなくなるのかな?」
「永遠にできなくなる……という程でもないが、実現は遠のくこと請け合いだろう。このメインクエストは、ラミアとメーの2人を仲間にできるチャンスのために用意されたクエストでもあるからね。よって、無謀でありながらも報酬のために高難度へ挑戦するか、今回の報酬は諦めて身の丈に合った依頼を堅実にこなしていくか、のどちらかをキミは選択することになる」
「うーん……ノア的には、どっちの方が良いとかある?」
「ボクから言えることは何もないよ。だって、その遊び方も全て、アレウス・ブレイヴァリーに託されているものだからね。どのような結論を下そうとも、ボクは余計な口出しはしないし文句も言わない。だってこれは……キミの物語なのだから」
俺はどうするべきなのだろう……。
高難度でも通用する知識や技術は、我ながら十分に備わっている。しかし、最序盤の装備やスキル、ステータスといったシステム面での心配が主に付きまとってくることから、自分はその場に立ち止まって、暫し思考に耽ってしまったものだった。
この様子を、ノアも神妙な眼差しで見つめてくる。だが、すぐにもメーが言葉をかけてきた。
「な~んかよく分かんないけどさ~、アレウス君的にはどっちがいいカンジなの~?」
「どっち……?」
「今のチョームズいメインクエストに挑んでみるか、今回はパスしてみるか。アレウス君は今、どっちの気持ちでいるのかな?」
「まぁ、どちらかと言えば……このメインクエストはクリアしたい。せっかく受注したんだし、最後までやり遂げたい気持ちの方が強いよ。ただ……2人の足を引っ張りそうなのが怖く感じるかな」
「ふ~ん、そうなんだ?」
相変わらず、気楽にボディタッチをしてくるメーに近付かれる自分。ラミアも視界に入ってくる中で、メーは小悪魔風に微笑みかけながら、勝気な調子で喋り出してきた。
「んじゃあさ、とりま最後までとことん戦ってみない? 悪意さえ無ければさ、私的にはアレウス君みたいな新人君と一緒に冒険するの、基本的に大歓迎だし?」
「でも、俺は2人に迷惑をかけるかもしれない……」
ここに、ラミアもセリフを挟んでくる。
「イイんじゃないですか?? ウチも構いませんけど」
「ラミア……」
「ウチらのコトを心配していらっしゃるみたいですけど、そもそものハナシとして、迷惑をかけないヒトなんかこの世にいませんからね。むしろ、迷惑をかけるというコトは、ソレだけ物事に対して大々的に働きかけている証拠とも言えますし、言い換えれば行動力がある、と捉えるコトもできるじゃないですか。要は、ウチとしてもアレウスさんの加入に不満なんか持ってません。不愉快に思ったらパーティーから追い出すだけですし、イマのよーなスタンスなら別にナニも思わないです」
「それは、まぁ……」
「ウチからしたら、アタマを使うコトができるアレウスさんよりも、ナニも考えずに脳筋でツッコむコトしかできないメーさんの方がよっぽど迷惑ですからねー。ソレを考えましたら、アレウスさんは実力が十分で向上心もある、ヴィジョンも使える上に、新米冒険者なのに妖精さんを連れている風変りな人物でもありますから……。ウチはキライじゃないですよ、アレウスさんのそーいうフシギなトコ。ですから、ついてくる分には別にイイですよ。失敗や迷惑なんて当たり前のコト、いちいち気にしませんから」
淡々とした適当な喋りではあるが、その冷たい声音でこのようなセリフを言ってくれたことに自分は安心感を覚えていく。
ラミアとメーが言葉をかけてくれたことで、自分は自信を取り戻すように頷いてみせた。それからメーが手を引っ張ってくると、山道の先へと指を差しながら、元気よく駆け出したものでもあった。
全ては、フラグによって管理されたイベントの数々に過ぎない。しかし、その偶然を繰り返す中で巡り合う様々な出来事もまた、“この世界”の冒険に彩りを与えてくれるのだ。
2周目の世界線となれば、きっとこの2人と出会わない可能性だってある。だからこそ、張り巡らされたフラグが織り成す数多の運命に全てを委ね、