ゲームワールド / ザ・セカンドライフ   作:祐。

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メインクエスト『極上の卵を求めて』

 セザム・ノワールの山脈に建てられた、石造りの小屋。ここは安全エリアとして設けられた休憩ポイントであり、エネミーと判断された存在は、小屋とその周辺に立ち入れないようになっている。

 

 今も、小屋の中にいるこちらを睨みつける2頭のワイルドバードが境界線に張り付いており、安全エリアから出てくるのを待っている。そんな視線を受けながら、自分らは小屋に設置されていたキッチンで料理を堪能していた。

 

 大きな鍋を持ってきたノア。それを背の低いテーブルにドカッと乗せていき、共にしてフタを開いたことで蒸気が溢れ出てくる。

 現れたのは、ぐつぐつと沸騰する真っ白なシチューだった。主に道中で手に入れたワイルドバードの肉を使用し、他にもラミアやメー、自分が持ち合わせていた様々な野菜や調味料を加えた渾身の手料理。

 

 シチューはキラキラと光を放っており、見るからに『大成功』と言わんばかりの輝かしい出来だった。これには堪らずメーが手を出していき、皿に移したそれを口に頬張ってから見開いて感激していく。

 

「ンッマァァアアァァ!!!! え、めっちゃ美味しいっ!! なにこれ。やばぁ。もうウマすぎて馬になっちゃう!! ヒヒィ~ンッ!」

 

 大興奮のメーに対して、ラミアが呆れながら「言ってるそばからウマになってるじゃないですか」とツッコんでいく。そうしながらラミアもシチューを口にしていくと、彼女もまた静かに見開きながらノアへと話しかけていった。

 

「疑ってはいませんでしたけど、ホントに美味しいですね。妖精さんってお料理もできるなんて初めて知りました」

 

 これに対し、ノアはドヤ顔を浮かべながら「妖精というよりは、ボクの腕前によるものかな。妖精は特に、魔法の扱いや薬の調合に長けている種族だからね」と返していく。それを聞いてからというもの、自分もシチューを頂きながらノアへと訊ねていった。

 

「ノアが料理できるなんて今知ったよ。もっと前から振る舞ってくれたら嬉しかったんだけどなぁ……」

 

「ボクが料理でキミをサポートしてしまったら、それはもうパーティーメンバーとしての支援になってしまうだろう? ボクは飽くまでもナビゲーター。キミを情報でサポートし、キミが望みし道のりを陰ながら導いていく脇役に過ぎないのさ」

 

「ノアには、ノアの矜持があるってことだね。……それにしても美味しいな」

 

「フフッ、だろう? これは知識だけが成した業に非ず。このボクが、料理の腕を地道に磨いてきた故の結果であることを了承してもらいたいな」

 

「なるほど。レシピを知っていた上で、ノアの努力が生み出した自慢の料理というわけだね。……俺も作りたいって思ったけど、今の俺じゃあとても再現できないな」

 

「キミも料理を繰り返してレベルを上げればいいだけの話さ。ボクのいる高みまで、キミは辿り着くことができるかな? 期待しているよ、アレウス・ブレイヴァリー」

 

「さすがに、レシピを知っただけで作れるような“ウマい”話はないか。料理なだけに」

 

 シーン……。

 

 一気に静まり返った空気に、自分は顔を上げていく。そのサマが「何事?」という他人事のような顔をしていたからだろうか、しばらくは女性陣が口を利いてくれなくなったものでもあった。

 

 

 

 

 

 《セザム・ノワールの山脈》

 

 食事を終えて、パーティーメンバーと共に視界不良なフィールドを巡っていく。その道中にもラミアとメーがハッと何かに勘付いていくと、次にもそれらのセリフを口にしてきたのだ。

 

「っ、いますね。相当近いです」

 

「やっぱそうだよね、このカンジ。……アレウス君、しゃがんでしゃがんで」

 

 メーの指示を受けて、自分は腰を下げて低い姿勢になっていく。同時にして2人も姿勢を低くして歩き出していくと、ラミアが付近の岩場に隠れてその先を覗き込み、彼女に続くようメーと自分も前方を確認していった。

 

 灰が舞う薄暗い空間の中、足場に広がった藁や羽毛。何かの巣であることが容易にうかがえる光景の中で蠢いていたのは、4頭ほどのワイルドバードと、その体格を更にひと回り大きくした“巨大なモンスター”の姿だった。

 

 3メートルはあるだろう体長と、鮮やかな青色の体毛が特徴的な風貌。折りたたんだ翼や首筋は返り血のような暗い赤色で染まっており、周囲のワイルドバードとは比べ物にならないほどのゴツゴツな筋肉が、首や脚に詰まっている。

 

 頭部の赤いトサカはそそり立っていて、血走った黒色の眼が走禽類の獰猛さを表していた。それは飢えによる淀んだ空気感とは別なる殺気を放っており、例えるならば『誰でもいいから爪で引き裂き、クチバシで貫きたい』という、戦闘の衝動を想起させるものとも言えただろう。

 

 本能から闘争を求めている眼だ。

 こいつは、とんだ強敵だな……。純粋に戦闘も強いのだろうし、一度でも敵対してしまえばしつこく追い掛けてくることは間違いない。そして何より恐ろしく思えたのはその外見だった。

 

 鮮やかな青色に浮き出す血の赤色が、警告とは異なる信号を送り出してくる。

 あいつに近付いてはならない。人が持つ本能がそれを訴え掛けてきて、目先の“それ”へと接近することを躊躇わせてくる。

 

 俺も、場数は踏んできたはずなんだけどな……。という、プライドが踏みにじられていく感覚。共にして巡ってきたのは、これまで相対してきた狂人や異形の魔物なんかよりもよっぽど怖く感じられる、心からなる“恐れの感情”だった。

 

 もっとデカい魔物なんかも倒してきた経験だってあるのに……。

 何度も世界を救ってみせた。国のため、民のため、恋人のため、仲間のため。自分は“此処”と似たようなあらゆる世界を駆け回り、それらで培ってきた知識や技術は今現在も、“何処の世界”においても応用が利く共通の基礎として、立場に関係ない熟練の業を“各世界”で振るってきたものだった。

 

 ……だが、何故だろうか。

 “此処”は、すごく怖い場所だ。ホラーゲームでも何でもない、至って平凡的な、特筆する点もないごく一般的なアクションRPGの空間。アクションとRPGが融合した“世界”なんて得意中の得意分野であるというのに、自分は目の前の“ボス”を見た瞬間にも、冒険心ではなく恐怖心が(まさ)ることで尻込みしてしまったのだ。

 

 こちらの様子に、メーが背中に手を添えながらセリフをかけてくる。

 

「さすがにビビっちゃうよねぇ。分かりみが深いってカンジ。でも、別に恥ずかしがることなんかじゃないし、むしろアレウス君のそれは正常っていうか、誰もが通る道だと思う。……なんていうの? 臨場感……に圧倒されるカンジっての?」

 

「まさに、そんなかんじだ……。メーも最初は怖かったりした?」

 

「あは、ぶっちゃけビビり散らかした。なんならねぇ、ここだけの話~ぃ……ちょっとだけチビった」

 

 巣の真ん中をうろつく3メートル越えの存在感。今もこちらがバレていない様子を観察していく中で、ラミアがコソコソとこちらへ寄りながら説明を始めてくる。

 

「アレウスさん。アチラにいらっしゃるドデカいワイルドバードが、『ドン・ワイルドバード』です」

 

「ドン・ワイルドバード……。ワイルドバードの卵を確定でドロップするっていうエネミーだね」

 

「ウチらは2人して短気な性格をしてまして、地道な作業が苦手なんです。なので、ワイルドバードをひたすら狩り続けたり、セザム・ノワールの山脈を延々にグルグルする周回というプランは2人して否定的でもありましてね……。ウチの言いたいコト、そろそろアレウスさんにご理解頂けた頃だと思うのですが、如何なモンでしょーか」

 

「つまり、2人は元からドン・ワイルドバードを倒すことを目的に動いているってことだよね」

 

「理解がお早いよーで、ヒジョーに助かります」

 

 そして、ひとつ確定した真実がある。それは、このメインクエスト『極上の卵を求めて』のクリア条件が、“ドン・ワイルドバードの撃破”であることだ。

 

 メインキャラのラミアとメーが、ドン・ワイルドバードを倒すつもりでいるのだ。そのフラグが立っている以上はおそらく、ワイルドバードの卵を入手できる他の手段が断ち切られてしまっている可能性もなくはない。

 

 ラミアとメーの2人と協力してドン・ワイルドバードを撃破する。そして、そこからドロップしたワイルドバードの卵を納品することでメインクエスト『極上の卵を求めて』がクリアになる。これは自分の勘に過ぎないが、そのような処理をされていても何らおかしくはない。

 

 である以上は、自分もドン・ワイルドバードとの戦闘に加わらなければならないわけになる。

 ……装備、買っておくのが正解だったかぁ。と、内心で後悔しながら直に控えた戦闘に気持ちを整えていく。その間にも木刀を取り出して構えていくと、その様子にラミアは両手で静止させながらセリフを口にしてきた。

 

「アレウスさん、おひとりでツッコむなんて無謀なマネは絶対にしないでくださいよ??」

 

「でも、これから3人で仕掛けるんだよね?」

 

「仕掛ける?? 違いますよ?? アレウスさんも、メーさんみたいなコト言うんですね」

 

「あぁ、違うんだ」

 

 こちらの反応に、メーは「私もさぁ、奇襲仕掛けて反撃される前にボコボコにしたいとこなんだけどさ~……ラミアからストップ食らっちゃっててねぇ~。ほんと、興ざめってカンジ~……」とセリフを述べてくる。それに対してラミアは呆れたサマを見せてくると、自分とメーの2人に言い聞かせるようラミアは1ヵ所に集めながらヒソヒソと説明をしてくれた。

 

「今日ドン・ワイルドバードを発見したのはですね、実戦で通用するよーな、有効となる情報を集めるためなんです」

 

「ほいほい、ラミアちゃんお得意の弱み握りタイムってことね」

 

「そんな露骨にイヤなカオしないでください。苦戦を強いられるコトなく、確実に勝つための作戦をこれから組み立てていくだけなんですから。そんな面倒くさがらずに、ウチの指示に従ってもらえればソレでイイだけですよ」

 

「あーい。んま、バタフライ・エフェクトが必要になったら言ってちょ~」

 

 そう言いながら、メーは興味無さそうにフラフラと歩き去っていく。それから付近の岩場に寄り掛かり、そのまま呆然と空を眺めながらボーッとしていった。

 

 正反対の考えを持つ者同士、ラミアは深くため息をつきながらこちらを見遣ってくる。

 

「作戦会議に関しましては、メーさんには微塵も期待してませんので別にイイです。今回はアレウスさんがいらっしゃいますし、アナタにはメーさんの代わりに付き合っていただきますから。その辺のご理解のほど、よろしくお願い致します」

 

「わ、分かった! 頑張るよ……!」

 

「そんな気張らなくてもイイですから。まー、気楽にやっていきましょー」

 

 適当にそれを言い、ラミアは岩陰からワイルドバードの巣を覗き込みながらセリフを続けてくる。

 

「まず、戦闘する際の地形ですね。ココは巣といった段差があるので、あまり好ましくありません。回避した際に、段差に引っ掛かったり、回避の動作で段差から飛び出したりして、無敵時間が途切れてしまうコトがあります。その事故を無くすためにも、平坦な地形で戦闘を行うようにしたいですね」

 

「なら、ドン・ワイルドバードの徘徊ルートを調べた上で、戦いやすそうなポイントにエサを置いて誘導してから戦闘を仕掛ける……とか?」

 

「イイですね。その作戦でいきましょーか」

 

「なら、今日はドン・ワイルドバードを見張って徘徊ルートを偵察することと、エサになるアイテムの回収をして本日のお仕事は終わりかな」

 

「イマまさに、ウチはソレを提案しよーと思ってました。……ナンですか。意外とアタマ使えるじゃないですか。どんくさいイメージがありましたけど、ちょっとだけ見直しましたよ」

 

 淡々としていたが、穏やかな様相で喋るラミアが振り向いてくる。それからメーへと合図を送って自身を注目させてくると、ラミアはヒソヒソとした声音でそう話し出してきたものだった。

 

「では、ドン・ワイルドバードの偵察はウチが担当します。ドン・ワイルドバードを誘導するエサの調達はメーさんお願いします」

 

「ほ~い。……エサの調達ね。それならあちこち動き回れるだろうし、私も飽きずに済むかも」

 

「まー、この際メーさんの事情はどーでもイイとして……あとは、アレウスさん」

 

「俺はどうすればいいかな?」

 

「アレウスさんは、イマの内に準備を整えてきちゃってください」

 

 あ、これ自由時間が挟まるパターンのやつか。

 

 すぐにも理解した流れに、自分は無難に「分かった」と頷いていく。それからラミアは膝をついた姿勢で言葉を続けてきた。

 

「今日は予定通り、下準備だけで撤退するつもりです。ドン・ワイルドバードを倒すのはまた後日。それまでにウチらは各々で作戦を進めておきますから、アレウスさんはのどかな村などでボス戦に備えた準備を済ませておいてください。武器や防具の更新、回復アイテムの補充、新しいスキルの習得や、パーティーメンバーの見直しなどなど。アレウスさんにもできるコトは多々ありますから、入念な準備を済ませた上で、万全を期してからウチに話しかけてください」

 

 今までにないくらい、念を押した忠告が行われていく。それだけ次の相手は自分にとって強大であり、なめてかかるような敵ではないという暗示とも受け取れる。

 

 会話の終了と同時にして、巣にいたドン・ワイルドバードが反対方向にある山道へと歩き出していった。その様子を見たラミアは単独で尾行を始めていき、メーも悪戯に笑みながらこちらへ手を振って、沈黙で別れを告げた後に気配を消した動作でその場から離れていく。

 

 セザム・ノワールの山脈に取り残され、寂しくも自由時間を迎えた自分。動かせるようになった右手を持ち上げてまじまじと見つめていく中で、その手を握りしめてから踵を返して歩き出したものだった。

 

 ……次は、ドン・ワイルドバードとの戦いになるかもしれない。強敵に備えた入念な準備を済ませておこう。

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