《のどかな村》
新たな冒険に出るべく、のどかな村で支度を行っていた自分。アイテムを揃えて、装備も強化したりなど順調に準備を進めていた最中にも、やはり仲間は欲しいなと思い立ったことで酒場の前まで足を運んでいた。
赤レンガの建物に訪れて、その手前で佇んでいく。隣には少女の姿のノアも同行しており、透き通った存在感を以てして、次にこちらが何をするのか、期待の眼差しを向けていたものだ。そんなノアを連れて酒場の両扉を開いていくと、流れ込んできたアルコールのにおいと共にして、視界が暗転するような感覚を伴いながらこの足が自動的に前へ進み出していく。
イベントシーンに突入したのだろうか。無意識にも歩ませた足が、酒場の中央にあるカウンターへと近付いていく。その途中にも意識は脇へ向いていき、何となく感じ取った気配からそちらへ振り返ると、そこで自分は、2人用の席に座る“1人の人物”に注目したものだった。
……179ほどの、間違いなく男の自分よりも背が高い彼女。腰辺りまで伸ばした灰色混じりの白髪を分厚くまとめたポニーテールが特徴的であり、黒色のライダースジャケットに、ボタンを2つ外すことで胸元が強調された赤色のシャツ、黒色のバイクパンツに、膝丈まである黒色のブーツというクールビューティーな格好が周囲の目を引いていく。
現代的で、スリムなシルエットがスタイリッシュ。そして何よりも、女神が如き美貌は男女問わず見る者を魅了する中で、こちらへ視線を向けてきた彼女は凛々しい微笑みを浮かべてから、落ち着きを払った声音でそのセリフを投げ掛けてきた。
「アレウス・ブレイヴァリー。貴方の訪れを、心から待ちわびていたわ」
「あ、どうも。えっと、“ユノさん”……でしたよね?」
そうだった……! 冒険が始まった初日の頃、のどかな村に案内してくれた彼女は『酒場で待っている』とこちらに告げていた……!
“私のチーム”にスカウトしてくれたユノは、こちらの返事を待つべく酒場で待機し続けていた。
本来ならば、初めて酒場に立ち寄ることで自動的に開始する、酒場のチュートリアル的な意味合いのイベントだったのだろう。しかし、メインクエスト『極上の卵を求めて』を受注したことにより、ユノのイベントの優先度が下げられた。そのため、上書きされる形でラミア&メーとの初対面が描かれて、ユノとの会話イベントが発生しなかったのかもしれない。
優先度が高かったメインクエストが終了したことで、重要なイベントとして再び設定されていたこの会話。そんなユノと久々の再会を果たすと共にして、彼女は頬杖をついた凛々しい表情でセリフを続けてくる。
「ここに立ち寄ってくれたということは、貴方の返事に期待してもいいのかしら」
「そうですね……。仲間が欲しいと思っていたところだったので、ちょうど良かったのかも……?」
「肯定、と受け取っても良さそうね。ならば、私についてきてちょうだい。私のチームに所属するメンバーが、貴方の訪れを心待ちにしているわ」
そう言って、即座に席を立ったユノ。次にも彼女はおもむろに歩き出していくと、こちらを待たずして酒場の奥にある階段を上り始めていった。
なんというか、行動が早い人だな……。
置いていかれた自分が、慌てて駆け出していく。これにノアも無言でぴょこぴょことついてくる中、階段を上り終えた自分はユノの姿を探して周囲を見渡した。
1階のフロアと代わり映えしない光景。中央のカウンターが無くなったことで、大人数用のテーブルで埋め尽くされたその空間を突き進んでいく。そして、直にも見えてきたユノの背へと近付くと、振り返ってきた彼女と、付近にあったテーブルの席につく“4名の人物”が、一斉に視線を投げ掛けてきたものだった。
男性が2人、女性が2人の、ユノを加えて計5名からなるチーム。それぞれが食い付くよう新入りへと意識を向けてくる中で、内の女性2人は非常に見覚えのある面子が揃っていた。
その2人こそ、ラミアとメーだった。思わぬ邂逅に自分らは驚きの声を上げていく。
「ラミア!? メー!?」
「アレウスさん?? 奇遇ですねー。こんなトコまで来て、どーされたんですか??」
「アレウス君やっほ~! え、てか待って。もしかしてチームの新しいメンバーってアレウス君だったりする?」
意外そうな声音で喋るメーに対し、ラミアが淡々とした調子で「そんなワケないじゃないですか。同性に恋愛感情を抱くオンナたらしのリーダーが、男性をスカウトするハズがありません」と言い切っていく。だが、そこから沈黙が続いたことによってラミアが疑問の視線を投げ掛けてくると、次にもメーは察したように見開き、テーブルを叩いて大笑いしながらセリフを口にし始めた。
「ちょ、マジで!? チョーウケるんだけど!! え? そんなことある? まさかの、リーダーにスカウトされていた人って本当にアレウス君なの!? 冗談のつもりだったんだけど! ……んまぁ、メインクエストの件があるから、実力で言えば普通にあり得るっか」
急に冷静になるメーの様子を、自分は微妙な表情で見つめ遣っていく。その最中にも、興味深げに身を乗り出してきた男性がテーブルに肘をついていくと、爽やか系イケメンである彼は飄々とした声音で喋り出してきた。
「お? なんだなんだ? もしかしなくても、あれが例の新米冒険者だったりするんだな? ラミアとメーから話を聞いていて、興味が出ていたんだ。まさかこんなすぐお目にかかれるとはな~。鮮度ある好奇心は、いつになっても心が躍るねぇ」
楽しむ様子の青年はこちらへと視線を向けてきて、そんな彼の熱い眼差しを受けて自分も振り向いていく。そうすると、今も身を乗り出すようにイスに座る青年の容貌が明らかになったものだった。
180くらいの背丈である青年は、美形の尊顔で自信ありげな笑みを浮かべていた。体格は割と細目ではあるものの、やはり特筆すべきは顔の良さであり、加えて清涼感あるオーラを醸し出す柔らかな存在感は、言わずとも女性ウケが抜群だったことだろう。
羽毛のような白色の柔らかいショートヘアーに、血が巡る健康的な色白の肌。海のように広がるコバルトブルーの瞳が彼の広大な好奇心を表しており、シュッとしたキツネのような顔立ちが同性から見ても綺麗に映っている。
服装は、コートのような質感で足首まであり、首元のボタンで留めた超ロング丈の、巨大なフード付き白色パーカーに、前だけシャツインした薄い黄色のシンプルな半袖トップスと、こちらもシンプルな濃い青色のボトムス、そして無難な白色のシューズという格好をしていた。
パーカーの袖には切れ込みが入っており、袖に腕を通した状態から、羽織るようなファッションまでこなせる便利な機能が搭載されていた。その日の気分で上半身のシルエットを変えることができ、本日は袖に腕を通した着こなしでこちらと向かい合いながら、軽やかな声音で自己紹介を行ってくる。
「よう! せっかくこうして出会えたんだ、女性陣だけじゃなくてオレのことも知っておいてくれよ? そんなわけで自己紹介だ。オレの名前は“アマノ・ツルギ”。このチームでのらりくらりとやっている、遊撃隊のような立ち位置の人間だと思ってくれればそれでいいさ。今回、新しいアタッカーが加わってくれてオレとしても頼もしく思っているぜ。何せ、攻撃してくれる人員が増えてくれれば、その分オレの役割や仕事が減るからな。噂通りの実力を遺憾なく発揮してくれよ? オレが楽をするためにも、さ」
お気楽な調子でニッと微笑み、白色の歯を見せて笑ってみせた青年アマノ。その様子にユノは軽く腕を組んだ佇まいで鋭く指摘していく。
「アマノ。貴方の他力本願な姿勢には感心しないわね。アレウス・ブレイヴァリーは貴方の手駒ではないことを自覚なさい。むしろ、彼の仕事ぶりによっては貴方を退団させる必要も出てくることでしょう」
「おいおい、勘弁してくれって! このチームは適度に力を抜くことができて、居心地も特に悪くないからオレにとっては理想的な環境なんだ! そこを追い出されるなんて言われたらオレ、軽く病んじゃうかもしれないだろ? だから、冗談も程々にしてくれよ。な? この通りだ!」
片手を立てて謝ってくるアマノの返答に、ユノは鼻でため息をついていく。そんなやり取りを交えつつ自分はアマノの隣へ意識を向けると、そこにはもう1人、チームメンバーであろう男性がこちらを黙って見つめていた。
190はある背丈だが、猫背である故に周りよりも小柄に見えている。しかし、隠し切れない長身と褐色の肌に、ブライトピンクの無造作なベリーショートと、血のように真紅の瞳、また、目の周囲にある黒色のクマと不敵な微笑みが、近寄り難い底知れなさを演出していたものだ。
服装は、ボロボロになったノースリーブの赤色ロングコートに、白色のシャツと青色のダメージジーンズ、あとは黒色のブーツに黒色の手袋という格好をしている。
なんだか、話しかけにくい人がいるなぁ……。
手の内が読めないというか、何を考えているのかが全く分からない不透明な人物。彼は今も、不敵に口角を吊り上げながら静かにこちらを眺めていたものだったから、この様子にユノが彼へと言葉をかけたのだ。
「“クリス”。貴方も自己紹介をしなさい。このチーム随一の会話好きな貴方が黙りこくっていたら、新たに加わるアレウス・ブレイヴァリーが、貴方に対する誤った第一印象を抱きかねないでしょう」
その風貌で会話好きなの!?
内心で驚きを見せるこちらのサマに、不敵な彼は吊り上げるように笑みを浮かべてくる。それから猫背で顔を覗き込むように視線を投げ掛けてくると、湾曲した体勢で見上げたその状態で男性は、含みを持たせた声音で陰気臭く喋り出してきた。
「やぁ、元気にしてる?」
「え?」
「噂はかねがね聞いているよ。上手くやっているみたいだね」
「ど、どうも……?」
「僕の紹介でもしようか。僕の名前は“クリス・マーキュリー”。女々しいなんて言わないでね、約束だよ?」
「よ、よろしく、クリス」
「どうしたの? 緊張してる?」
「いや、そういうわけでは……」
「僕は喋ることが大好きなんだ。君はお喋りな人は好き?」
「えっと、まぁ、話しかけてもらえると嬉しい……かな?」
「じゃあ、気兼ねなく話しかけてもよさそうだね。そう許可してもらえると、僕としても助かるよ。如何せん、ユノという厳格な監視の目があるからね。僕が何かしでかさないか、いつも彼女に見張られているんだ。僕は悪いことなんてしてないのにね。なんでかな? 君は何か聞かされていたりする?」
「えっと……」
見た目によらず、けっこう話しかけてくる青年クリス。彼の止まらないマシンガントークを前に自分は返答に困っていくと、これに見かねたユノがクリスへと注意を促していった。
「貴方はまず、相手の立場を想像しながら物を言いなさい。自分がかけられて困る言葉は慎むこと。会話好きである性格は否定しないけれども、貴方は配慮というものを知らないことが問題なの」
「フフッ、また注意されちゃった。でも、アレウス・ブレイヴァリー。僕は君という存在に巡り合えたこの奇跡を大事にしたいと思っているんだ。それも、新米冒険者でありながらも既に名を馳せつつある人物を、もっと知ってみたいと思っている。だからね、この先も僕の会話に付き合ってくれると嬉しいな。そういうことで、よろしく」
ユノには振り向かず、こちらへとずっと視線を投げ掛けたままのクリスがセリフを言い終えていく。そんな彼の言葉に続いて、飄々としたアマノが軽快に喋り出してきた。
「アレウスを知りたいって気持ちはよく分かるぜ? オレも、アレウスとは腹を割った話をしてみたいもんだ。そうだな~……まずは、女の子のタイプでも聞かせてもらおうかな?」
いたずら小僧みたいに微笑したアマノに対して、ユノが鋭い声音で「アマノ」と短く声をかけていく。それを受けて彼は、若干慌てた様子でユノの顔色をうかがいながらそう返事をしてみせた。
「んあぁそうそうそう! ユノ、最近また可愛い女の子に声をかけられたんだ。……茶髪のロングで、ベレー帽が似合うお清楚なロングスカートのメガネ女子……! どうだ? ユノのお眼鏡にかなう何かを感じられないか?」
「…………別件は後ほど、詳しく聞かせてもらいましょうか」
「さすがは我らがリーダー様! よっ、話が分かるねぇ!」
すぐにも、脇で話を聞いていたメーが「リーダーを上手く丸め込んだだけじゃん」とツッコミを入れてくる。それにアマノがシーッと人差し指を立てて口止めしていく中で、ラミアがこちらへ向きながらセリフを口にしてきた。
「それで?? アレウスさんもコチラのチームに加入するという流れでイイんですよね?? ……あの、ホントに同意したんですか?? リーダー、こー見えてケッコー強引なトコありますから、アレウスさん実は、流されるまま頷いちゃっただけとかあるんじゃないですか??」
ジト目を見せるラミアが、疑問を投げ掛けてくる。このセリフに自分は少しだけ躊躇いながらも、改めて考えなおすよう思考を巡らせたものだった。
……これは多分、チームに加入するかどうかの最後の確認なのかもしれない。
丁寧に選択肢を振ってきたラミアのセリフに納得し、自分は本当にこれでいいのかを考えていく。その中で、未知だらけの世界を1人で冒険する膨大さに、ほんの少しだけ寂しさのような感情がよぎってきたことから、自分は最終確認を前にしてYesの決断を下していった。
この世界に慣れるまでは、チームという団体に入って行動を共にしてみてもいいのかもしれない。これに体が慣れてきたら、1人で冒険してみよう。
心の内が読めるノアが、うんうんと頷く素振りを行っていく。そんな少女の動作を横目に自分はひとり納得すると、そうして確信めいたこちらの表情を見たラミアは、次にも淡々とした適当な声音で返答を行ってきたのだ。
「そーですか。ホンニンの意思なら別に構いませんよ。……ただ、その様子ですと多分、チームの名前もろくに聞かされてませんよね??」
「あー……そうだね」
「結局、ノリでついてきただけですよね?? まー、イイですけど。実力はともかくとして、立場上は新米冒険者さんに違いありませんから、先輩方から学べるモノはトコトン学んで、自信がついたら独り立ちしてみてもイイかもしれませんねー」
一同がこちらへ振り向いてくる。その集束した熱い視線が注がれていく中で、ラミアは説明するようにセリフを続けてきた。
「『
「最初に入るチームとして、すごく良い所かもしれない。……ここでたくさんの経験を積んでいきたいと思っているから、隣にいるノア共々、しばらくの間こちらでお世話になります。改めまして、アレウス・ブレイヴァリーです。よろしくお願いします」
言葉を言い終えると共にして、加入したチーム
彼女のセリフに、ラミアとアマノ、クリスがジョッキを手にしていく。また、テーブルから離れたユノも凛々しい佇まいで微笑みかけてくる空間の中、自分はチーム
しばらくは、この5人と行動を共にすることだろう。チームに加わった新たなる旅路は、賑やかさを伴って冒険に彩りを与えてくれることに間違いない。