ゲームワールド / ザ・セカンドライフ   作:祐。

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2章
新たな旅路


 《のどかな村》

 

 チーム『Le goût du péché(ル・グー・デュ・ペシェ)』に加入し、1日が経過した。

 

 宿屋から出てきた自分は、二日酔いで頭を抱えながら外の空気を吸っていく。

 ……まさか、状態異常に『二日酔い』というバッドステータスがあるなんて知らなかった。効果はスタミナ消費量の増加と、攻撃動作時、まれにモーションがキャンセルされる……というものだ。

 

 昨日は、祝杯という口実でチームメイトの豪遊に付き合わされた。

 主に、ラミアとメー、アマノの3人が酒を片手にテーブルゲームを嗜み、つまみとして豪勢な料理を食す光景が展開されていた。この様子にユノが悩ましげなサマで眉間のシワを寄せていく中で、クリスが不敵に笑みながらユノに他愛ない話を吹っ掛けていく。

 

 そこに自分とノアも同席し、皆からの質問攻めにひとつひとつ対応したりした。

 ノアはリンゴジュースを飲み、時折とかけられる言葉に少女は気高く反応してみせた。その王子様チックな喋りは個性となってアマノの興味を引いていき、また、妖精であることを明かした上で、アレウス・ブレイヴァリーのナビゲーターとして一緒についてくることを宣言する。

 

 チームの一員とはならず、飽くまでもこちらの冒険に干渉しない立ち位置を維持し続けるノア。そんな少女も、宿屋を出たこちらの後ろについてくると、ネコのように背を伸ばしながら言葉をかけてきた。

 

「アレウス・ブレイヴァリー。昨日は楽しい晩餐を過ごしたものだったね! ボクもこの世界を生きる者として、憩いの宴を存分に堪能させてもらったものだよ!」

 

「それは良かった……。俺はちょっと、魔法屋の錬金釜で二日酔いを治す薬でも作ってこようかな……」

 

「冒険開始早々と、バッドステータスに悩まされるなんてね。如何せん、この世界は“人知の範疇に留まる電脳空間”だ。キミが知る病気なんかはもちろんとして、此処で起こりうるありとあらゆる現象は全て“既知”の下で成り立っている。だから、“此処を生み出した”人知が理解または認識していない現象は絶対に発生することはなく、逆に言えば、キミらにとって身近である現象はもれなく搭載されていると考えていいだろう」

 

「ぅ、うーん……? 二日酔いのせいか、ノアの話が一層と難しく感じる……。取り敢えず、チームメンバーの集合前にこれだけ治しておかないと」

 

「ボクもお供しようか? とはいえ、キミの冒険に干渉する気はさらさらないから、キミの傍について、健気な応援の言葉をかけ続けるだけになるけどね」

 

「可愛い女の子に応援してもらえるのは嬉しいけど、それとは関係なく傍に居てほしいな。ナビゲーターのいないこの世界なんてもう考えられないから」

 

「フフッ、ボクの重要性にようやく気付いたようだね! ……では、僭越ながら乙女の掛け声でキミのやる気を引き出してみせよう。天真爛漫な少女の全力サポートを、存分と受け取るがいい!」

 

 そう言ってから、ノアは応援団のノリでぴょんぴょん跳ねながら掛け声を出し始めた。

 

 ボーイッシュな声音から発せられる、年相応の元気いっぱいな微笑ましい姿。だが、その声が一層と二日酔いを加速させてきたことから、自分は複雑な表情でノアにお礼を告げつつも、体を引き摺るように歩を進ませたものだった。

 

 

 

 

 

 遥か上空の彼方から眺めた、世界を見守る神の視点。遮るよう巡っていた雲は掻き分けるように晴れていく中、次第と視界に広がったのは地続きの無限なる“冒険の舞台”。

 

 周囲の大海原に囲まれて、悠然と佇むひとつの大陸が存在していた。

 それは、茶色や灰色の山脈をはじめとして、海から流れ込む河川が大陸を横断し、既にネッシーのような頭部を見せた生物が住む巨大な湖の光景が見受けられていく。また、大陸の至る箇所には城のような巨大な建物が用意されていたり、霧が濃くて全容がうかがえない地域や、無数もの竜巻が発生している大雨の地帯、毒の沼と溶岩流が混じる有毒ガスに塗れたフィールドなどなど、まさにファンタジーと呼ぶに相応しい世界が展開されていたものだ。

 

 RPGを主軸にした、独自の異能力『ヴィジョン』が蔓延る熾烈な異世界。常に生存競争が行われ、日夜と争いが絶えないこの空間は、今日(こんにち)も膨大なる魔力に満ち溢れながらその模様を描き出していく。

 

 舞台に降り立ち、異世界で過ごすひとりの住人として立派に生を全うしていた自分。そこで様々な出会いや出来事と出くわしていく中で、ナビゲーターの少女とはあることを話し合ったのだ。

 

 それは、今現在も“この世界”と呼んでいる異空間についてだった。

 魔法やレベルといった、ゲームチックなファンタジー世界のシステムを常識と考えている住人ら。そんな彼らを前にして、“メタ”な思考を持つ自分はひと際と異質を放つ存在であったことに違いない。言うなれば、自分らは異端者とも呼ぶことができただろう。

 

 神の視点を持つ自分という存在にとって、“この世界”は飽くまで電脳によって成り立つ空間であることを認識している。それは、人知には考えが及ばない『世界の仕組みそのものを理解している』とも表現することができ、つまるところ、此処はプログラムで形成された空間であると、その概念自体を論理的に理解し説明できる、全知に近しい存在であったことは確かだった。

 

 ゲームシステムが織り成す異世界空間。これは、電子の海を彷徨う物語の一片に過ぎず、特定の言語によって形成され、指示を基にして働くアルゴリズムの大海には今も、同じ形式の物語が数秒の間隔で生み出されていたことだろう。

 

 ……ひとつの概念を主軸に置き、膨大な派生によって多種多様な姿かたちを象る物語達。その中で自分は己が滞在する社会に区別をつけるべく、“この世界”と呼ぶ末端の異空間に名前を付けることにした。

 

 その名は、『ゲームワールド』。自分が降り立った異空間のことを、これからはゲームワールドと呼んでいくことに決めたのだ。

 

 

 

 

 

 のどかな村の出入り口。目に見えない境界線のギリギリに佇む自分は、これから旅立つ拠点へと別れの言葉を告げていった。

 

「お世話になりました。また、お邪魔します」

 

 記念となる初の拠点。思い入れのある平穏な風景を目に焼き付けてから、踵を返すように振り向いていく。

 

 そこには、チームLe goût du péché(ル・グー・デュ・ペシェ)のメンツが揃っていた。

 リーダーのユノをはじめとして、知った仲であるラミアとメー、それから出会いを果たしたばかりであるアマノとクリス。一同が新米冒険者を見守っていく脇で、この隣に存在するノアが高貴な声音でセリフを口にする。

 

「さぁ、新たな冒険への第一歩を踏み出そう。これからキミは、雄大なる電脳の世界を巡ることになる。それは非常に馴染みのある光景かもしれないが、この世界……ゲームワールドが織り成す数多の試練を乗り越えし先にはきっと、未だ見ぬ物語が待ち受けていること請け合いだ。……仲間を連れて、冒険へと駆り出していく。アレウス・ブレイヴァリー、キミはまるで『勇者』だね!」

 

「勇者か……。王道なロールプレイも、初心に帰った感じがしていいね。……決めた。俺、ゲームワールドで困っている人達を助けたい。みんなの助けになって、勇者のような存在になろう」

 

「アハハ! 最高だね! やはり、目標があると俄然やる気がみなぎってくる。ボクも、ナビゲーターとしてこの使命を最後まで果たしてみせるよ。……勇者になろう、アレウス・ブレイヴァリー。キミの力で、ゲームワールドを救おうじゃないか」

 

 乗り気なノアと微笑を交わし合い、自分はチームメンバーへと合流する。そうして新たな志を胸にガトー・オ・フロマージュの平原を歩き出していくと、平坦な若葉色を歩み進める最中にもアマノから飄々とした調子で問い掛けられたのだ。

 

「ところでだが、アレウス。どっか行きたい場所とかあったりするか?」

 

「行きたい場所? 俺はみんなについていくつもりだったけれど……」

 

「おっと、情報が行き届いていなかったか。誰だ? “次の目的地はアレウスに任せる”って伝言を忘れていたやつは」

 

 爽やかに先輩な雰囲気を醸し出すアマノだったが、すぐにもメーから「何言ってんの? それアマノが伝えることになってたじゃん」と突っ込まれていく。これを聞いた彼は「あれ? そうだったか?」とお気楽に聞き返しながら、改めてこちらへとセリフをかけてくる。

 

「まぁ、そういうこった。せっかく冒険を始めたばかりなんだろ? なら、気になるところがあったら遠慮なくオレらに教えてくれよ。しばらくはアレウスの方針に任せる予定でいるから、頼れるチームメンバー達をじゃんじゃん振り回してみな。……ついでに、オレは気分で言う事を聞くから、その辺よろしくな」

 

 アマノの言葉に、メーが「うわぁ~……頼りにならない先輩だなぁ……」と呟いていく。そんな彼女とアマノが冗談っぽくやり取りを交わす最中にも、ユノが凛々しい声音でこちらへと言葉を投げ掛けてきた。

 

「規律の緩い団体である故に、貴方が振り回されてしまう場面も少なくはないでしょう。けれども、その自由を謳歌するべく立ち上げたチームがLe goût du péché(ル・グー・デュ・ペシェ)とも言える。皆がマイペースで、突発的な行動を起こしがちな自由奔放の空間ではあるものの、身内に対する礼儀だけはしっかりするよう言い聞かせてはあるから安心してちょうだい」

 

 美貌を兼ね備えたユノが、余裕を含んだ笑みを浮かべてみせる。だが、それを聞いていたラミアが「余計な一言かもしれませんけど、このチームで一番自由なのは紛れもなくリーダーですからね。ウチらはリーダーに振り回されていると言っても過言ではないです。旅の行き先や作戦の方針などなど、全部リーダーの思いつきによるモノが多いので」と補足を加えてきた。

 

 これにユノが、「束縛やしがらみというものは、人の心を容易く殺してしまう。それは自制心から周囲の目など多岐に渡っていて、抑制をもたらす足かせは内側から蝕み、人間性を貪り尽くす。……私は自由でありたいの。そして、この組織に惹き付けられし存在もまた方針に理解を示す同胞でもある」と返してきた。

 

 なんだか、分かるような分からないような……。

 ユノのセリフに首を傾げる自分と、同じくしてジト目で首を傾げていたラミア。そのいじらしい眼差しで「要は、自分を正当化したいだけじゃないですか」と容赦ない言葉を浴びせていくと、ユノはそれに対して「フッ」と鼻で微笑し、そのまま会話を終わらせてしまった。

 

 まぁ、自由なチームという認識で構わない組織なのだろう。

 先ほどアマノから言われた、行きたい場所に合わせるというそれを思い出していく。これに自分は頭を悩ませていくと、そのためのナビゲーターとしてノアへと声をかけていった。

 

Hey(ヘイ) Noah(ノア)。今のレベル帯にあったエリアを教えて」

 

「ボクの出番だね! 今のレベル帯にあったエリア、について案内させてもらうよ。少しだけ時間をくれるかな?」

 

 そう言うと、ノアは前方に手をかざすと共にしてホログラム状のマップを広げていった。

 

 妖精である少女の行動に、アマノが「ほぉ~……妖精はこんなこともできるのか」と興味を示していく。そうして真後ろから彼に覗き込まれながらも、ノアは気にすることなくマップを確認してからこちらへとセリフを口にしてきた。

 

「現在地はガトー・オ・フロマージュの平原。ここは既に適正レベルを大幅に上回っていて、キミにとっては生ぬるいことこの上ないだろう。そこでキミには、『黄昏の里』という拠点をオススメしたいと思っているんだ」

 

「黄昏の里?」

 

「あぁ、そうさ! この拠点が存在するフィールド『哀愁平原ハードボイルド』は、今のキミにピッタリなレベル帯とも言える場所でね。そこで入手できる素材なんかは、キミが使用している武器や防具の強化にちょうど使える実に都合の良いエリアでもあるんだ」

 

「哀愁平原ハードボイルドか……。いいね、そこに行こう」

 

 ノアとの話し合いを聞いていたラミアが、淡々とした調子で「また渋いトコ行きますね」と口を挟んでくる。続けてメーが「あは、いいじゃんいいじゃん! 私もちょうどそこに行きたいと思ってたんだよね~」と肯定してくれたことから、ユノが一同へとそれを告げたものだった。

 

「では、これから哀愁平原ハードボイルドを目指しましょう。目的地は『黄昏の里』。それなりに長い道のりとなる故に、合間に休憩を挟みつつ、主にアレウスのペースに合わせるよう足並みを揃えた旅にいたしましょうか」

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