ゲームワールド / ザ・セカンドライフ   作:祐。

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フィールド:ガトー・オ・フロマージュの平原

 冒険が始まった。

 

 特徴の無いよくある森林の中、今も目の前で開けた大平原の空間を見遣っていく自分。そちらへと緩やかな速度で歩みを進めつつ、見渡すように周囲の光景を眺めていたものだ。

 

 例えるならば、この背後にある“カメラ”をグルグルと回していく感覚。真後ろを含めた360°の景色に心の中で感嘆していると、直にも開けた高台の上に立ち、眼前に広がる“異世界”の様子を展望していった。

 

 ……晴れ渡る青空と、活力に溢れた若葉色の大平原。のっぺりとした大地は地平線まで伸びていき、平たく広大なこの地帯には様々な生物が存在している。また、所々と段差になった地帯や、平原に点在する巨大な台地が見受けられるその光景は、最初期に訪れる初心者向けのマップとして非常に優秀な空気感を放っていた。

 

 共にして、視界の左下辺りに表示された『ガトー・オ・フロマージュの平原』というテキスト。フワッと浮かび上がってきては、フワッと消えていく地名を目にして、自分は一層と冒険の始まりを意識していく。

 

 アレウス・ブレイヴァリーとしての人生が幕を開けた。新天地に降り立った実感が湧いてくると共にして、高台から下りて平原へと足をつけていく。それから今も向いている東の方向を真っ直ぐと見遣りながら、目的地である『のどかな村』を目指してその足を運び始めていった。

 

 

 

 完全に自由の身となった今、誰かに誘導されることもなく無限なる異世界に放り出されていく。この、何にも縛られない自由度に途方のなささえ感じていく中で、迫る夜の時間帯までに済ませられるものは済ませておこうという意気込みで平原を進み出したものだ。

 

 緩やかな大地を横断し、穏やかな風に吹かれながら東の方角を見据えていく。その道中、生い茂った茨の低木を見つけたことから立ち寄っていくと、そこにはラズベリーのような赤色の可愛らしい果物を確認することができた。

 

 Hey(ヘイ) Noah(ノア)と呼び掛けて、球体の妖精となった少女が懐から現れる。そこで果物について訊ねてみると、ノアは『ベリーベリーの実』という回復アイテムであることを教えてくれたため、茨の低木から複数ものベリーベリーの実を回収して、ポケットへとしまっていった。

 

 せっかくだから、味見もしてみた。

 ベリーベリーの実を摘まんで、口の中へ入れてみる。すると、口の中に広がった酸味で最初こそは表情を歪めてしまったものの、噛んでいく内に酸味が解体されるような感覚と共にして、じわじわと溢れ出してきた甘味が果物由来となるフレッシュな爽快感をもたらしてくれた。

 

 ノアも少女の姿となり、大地に降り立っていく。それから両手を差し出しておねだりしてきたことから、自分はベリーベリーの実をノアに分けてあげたことで、少女もそれを口の中へと放り投げて味わったものだった。

 

 ノアは目を輝かせて、「これは美味だね!」と称賛する。と、その瞬間にもノアの頭上にピンク色のゲージが出現したことから、自分は可視化されたそれを見遣りながら話し出していく。

 

「ノア、そのゲージは一体なに?」

 

「これかい? このゲージはね、『親密度』というものさ!」

 

「親密度。仲の良さを表す数値のことだよね」

 

「その認識で間違いないよ。親密度は、対象のキャラクターと如何に親しいかを形にした数値さ。親密度が高ければ高いほど、キミはそのキャラクターと仲が良いことになる。ボクはもちろん、キミという存在を最初から信頼しているものだよ。けれども、親密度の真髄は友情だけに非ず。この数値がもたらす恩恵。それは、愛情の数値を表すパラメーターとして扱うこともできる側面にあることだろう」

 

「愛情の数値を表すパラメーターか。確かに、親密度が高いと、その相手と恋人になれたりするし、結婚するための条件として一定以上の親密度が必要になるゲームもそれなりにあるもんね」

 

「さすがはアレウス・ブレイヴァリーだ! ボクが説明するまでもなく理解しているみたいだね。このように、ゲージといった形で可視化されるステータスは複数と存在するよ。それは、体力を表すHPをはじめとして、魔法といったスキルを使用するためのMPや、レベルアップまでに必要となる経験値。あとは、空腹度なんかもゲージとして目に見える形で表示されるものさ。特に、ボクがお腹を空かせているようであれば、ボクに食事を与えてくれたまえ! ボクはそれを喜んで頂くとするからね!」

 

 と言ってから、ノアは見計らうように手を差し伸べてきた。

 

 あぁ、今まさにお腹を空かせているということか。

 遠回しに伝えてきた空腹の合図に、自分は採取したベリーベリーの実をノアに与えていく。こうしてノアの空腹ゲージを満たしてあげると、少女は透き通るような存在感ですごく満足したように微笑んでみせてから、その場でバク転を行って妖精の姿へと変身していった。

 

 こちらの懐に戻っていくノア。そんな少女の育成的な側面もあるシステムを理解していきながら、自分は『のどかな村』を目指して歩み出していく。

 

 ガトー・オ・フロマージュの平原を少し進み、次は道端に落ちていた木刀へと意識を向けていった。

 エネミーが存在するだろう電脳の世界において、丸腰であることは無謀に等しい。その場しのぎの武器として木刀を拾ってから装備して、それを試しに片手で振り回すことで感覚を確かめていく。

 

 なるほど、片手で扱える手軽な剣か。

 全てにおいて平均的とも言える武器種。攻撃力から攻撃速度、武器の重量からアイテムも使用できる便利さから、初心者から上級者まで幅広く扱える万能武器として最後まで通用するだろうポテンシャルを秘めていた。

 

 そう言えば、この世界の戦闘とかどうなるんだろう。という疑問が思い浮かんでくる。

 ターン制? それともリアルタイムバトル? 様々な形式が生み出された戦闘方式に頭を悩ませていると、すかさずノアが懐から飛び出して、それを喋り出してきた。

 

「戦闘について思い悩んでいるみたいだね。その時はひとまず、ナビゲーターに頼ってみるのもひとつの手ではないかな?」

 

「それもそうだね。ということで、Hey(ヘイ) Noah(ノア)。戦闘のチュートリアルが行える場所を教えてもらえるかな」

 

「さすがはアレウス・ブレイヴァリー! ボクというナビゲーターを余すことなく活用するその貪欲な姿勢、評価に値するよ! それで、戦闘のチュートリアルが行える場所、について知りたいんだね。それだったら、データを参照するまでもなく案内できるから安心してくれたまえ!」

 

 フワフワッと上下に揺れる妖精姿のノア。どこか嬉しそうな声音でピョコピョコと飛びながら、セリフを続けてくる。

 

「キミが今も目指している『のどかな村』。そこへ向かう道中に、戦闘のチュートリアルが発生するイベントが用意されているのさ」

 

「なるほど。ということは、このまま真っ直ぐ進めば勝手に戦闘のチュートリアルが始まる、と」

 

「さすがはアレウス・ブレイヴァリーだね! まさにその通りで、キミが心配するまでもなく戦闘のチュートリアルは序盤に発生する仕組みになっているよ。だから、安心して『のどかな村』を目指してもらってもいいのさ」

 

 それじゃあ、寄り道せずに『のどかな村』を目指しちゃうか。

 木刀を片手に、東の方角を見つめていく自分。これにノアは再び懐へと戻っていき、その様子を横目に自分も止めていた足を動かしていった。

 

 

 

 平原の若葉色が続く道中。どこにでも行ける無限の世界を堪能するように大地を踏みしめていると、直にも緩やかな起伏が終わると同時にして、遠くには巨大な風車が目立つ村が見受けられたものだった。

 

 平坦な平原の中央で存在感を放つ拠点の様子。見上げるほどの高さを誇る風車が複数と稼働している光景と、村にしては相当な規模である広大な敷地が特徴的だ。

 

 藁や木材を主とした、庶民風の質素な建物の数々。もはや村というより町と称せる広さに驚きを覚えながら、自分は見えてきた最初の目的地に胸を躍らせていく。

 

 で、その途中、自分はガトー・オ・フロマージュの平原の一部分に設けられた湖の地帯へと踏み入れた時のことだった。

 

 若葉色の草木が浮かんでいる、エメラルドグリーンの色濃い水面が大自然を思わせてくる。その周辺にはピンク色や黄色を中心とした花畑が広がっており、そこには鳥や蝶といった生物が飛び交っている。また、花畑を掻き分けるようにトカゲやウサギが走り抜けていく光景の中、花畑の中央とも言える場所にて、“ひとりの女性が巨大な獣と戯れている”様子を目撃することとなったのだ。

 

 獣は、体長2メートル以上はある4足歩行の怪物だった。

 地獄からの使者とも言えるだろう禍々しい黒色の体毛に、紅色の線が稲妻のように迸っている。そのシルエットはオオカミと例えることができるのだろうが、逆立つ毛並みはたてがみのように揺らめいていて、頭部には悪魔のような2本の角と、尻にはヘビのようにうねる毛むくじゃらの尻尾が存在していた。

 

 とても、序盤に出会うようなモンスターじゃない。

 終盤に訪れる魔界に生息していそうな風貌が、花畑に踏み込んできたこちらへと振り向いてくる。その動作と共に、隣にいた女性も振り向いてきたのだが、彼女もまた圧倒的な美貌を誇る天賦の美女であったことは確かだった。

 

 身長は179ほどだろうか。間違いなく男の自分よりも背が高い彼女は、腰辺りまで伸ばした灰色混じりの白髪を、分厚くまとめたポニーテールにして揺らしながらこちらを見遣ってくる。その特徴的な容貌は髪型だけに留まらず、黒色の瞳は大人の落ち着きを体現していて、長いまつ毛や色白の肌、そして彼女の左目に泣きぼくろという女神のような艶やかさが、存在感と相まって一層と際立っていたものだ。

 

 服装は、黒色のライダースジャケットに、ボタンを2つ外すことで胸元が強調された赤色のシャツ、黒色のバイクパンツに、膝丈まである黒色のブーツというクールビューティーな格好だった。

 

 現代的で、スリムなシルエットがスタイリッシュ。そして何よりも女神が如き美貌は見る者を魅了し、視線を釘付けにしてしまう。そんな女性と目が合ったことで自分はついつい立ち止まってしまい、それから、吸い寄せられるように彼女の下へと歩み寄ってしまった。

 

 尤も、その女性こそが戦闘のチュートリアルとして配置されていたイベントの一種だった。彼女との接触が最序盤における重要なフラグのひとつであり、且つ、この世界独自の特殊能力“ヴィジョン”を習得するために必須となるキークエストであったことを、自分は後に知ることとなるのだ。

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