ゲームワールド / ザ・セカンドライフ   作:祐。

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拠点:のどかな村

 戦闘のチュートリアルを終えたことで、特殊能力”ヴィジョン”を会得した。

 

 内容は、『対象の効果範囲を広げる』というもの。簡単に言えば“リーチを伸ばす能力”であり、それは攻撃のみならず、防御や当たり判定などなど、アクションからシステムまでのありとあらゆる“対象”の効果を広げることができる。

 

 木刀による攻撃範囲を広げるも良し、盾の防御範囲を広げるも良し、能力上昇効果のある支援魔法をもっと広範囲に振り撒くも良し。その使用用途は考えれば考えるほど多く、今の時点でもかなり実用的な能力だった。

 

 工夫のし甲斐がありそうな能力だ。それを思い、自分は胸の内に宿るヴィジョンに期待を巡らせていく。また、このヴィジョンに『ブレイヴ・ソウル』と名付けたことで、自分だけの特殊能力という特別感で一層と気分が高揚したものでもあった。

 

 

 

 

 

 ヴィジョンを会得してからというもの、ユノの案内で『のどかな村』へと向かうことになった。

 これと共にして、「のどかな村まで送り届けてあげましょうか」というユノの提案が投げ掛けられた。要は、ここでYesを選択すれば瞬時に目的地へ到着できる一種のイベントだ。

 

 彼女の問い掛けに対し、頷いてみせた自分。これにユノは納得するような様相を浮かべていくと、瞬きの内にもこの身は、のどかな村の前まで瞬間移動していた。

 

 ユノとジャンドゥーヤに連れられて、ノアと一緒に歩みを進める自分。そして、エリア内に進入するや否や表示された『のどかな村』のテキストと同時にして、軽く腕を組んだ佇まいのユノがこちらへと話しかけてきた。

 

「ご苦労様、アレウス・ブレイヴァリー。未だにその体は馴染まないでしょうけれども、既に数多の試練を乗り越えてきた経験を持つ貴方であれば、今回の環境に適応することも実に容易でしょう」

 

 余裕を含んだ笑みを浮かべ、柔らかく口角を上げるユノ。彼女の表情に見惚れるようこちらが頷いていく中で、ユノは続けてそのようなセリフを口にしてくる。

 

「貴方の知識や今回の戦いぶりを間近で拝見して、私は貴方に対する心配は不要であることを判断できた。きっと、私が見守らずとも貴方は自力で困難を乗り越えるでしょうし、持ち前の豊富な知識によって、貴方は自ずとこの世界への理解を深めることでしょう。……これからの伸びしろも含めて、貴方の成長が実に楽しみだわ」

 

「どうも、ありがとうございます」

 

「そこで、貴方にひとつ提案を持ち掛けたいと考えているの。聞いてもらえるかしら」

 

 凛々しく喋るユノの言葉に、自分が首を傾げていく。

 

「提案、ですか?」

 

「えぇ、これは貴方という豊富な経験を有する、少々特殊な経歴を以てして生まれ出でた新米冒険者へと寄せた、大いなる期待によるもの。貴方という存在と、会得したヴィジョンの能力を、良ければ“私のチーム”で振るってもらえないものかしら」

 

 要は、スカウトだ。

 早速と実力が認められ、自分はちょっと困惑気味に驚いてしまう。その様子にユノはフッと鼻を鳴らすように凛々しく微笑すると、次にも踵を返すように歩き出しながら、このセリフを残したものだった。

 

「今ここで決めてもらうわけではないから、安心してちょうだい。返答は追々と、貴方の気が向いた時にでも聞かせてもらえればいいわ。ノアからも言われるでしょうけれども、私がチームに誘うだなんて滅多に無いことよ。きっと、私を知る人物は口を揃えて驚くかもしれない。だから、この体験を誇りに思いなさい。その自尊心は向上心に繋がり、貴方をワンランク上の人間へと磨き上げるでしょうから。……良いお返事を待っているわ。それでは、また」

 

 そう言って、この場から去り始めたユノ。パートナーのジャンドゥーヤもドスドスと足音を立てながらユノの後をついていき、こちらから離れていった。

 

 イベントから解放され、自由の身となった現状。目的地にしていたのどかな村にも到着できたため、自分は初見となる環境を一通り巡る勢いで歩を進めていった。

 

 軽く見て回った感じとしては、至って普通の村という印象だった。強いて言えば、村にしてはメチャクチャ広くて空気が美味しいことくらいか。

 建物の間隔は空いていて、表通りとなる一本道の空間には様々なお店が立ち並んでいる。装備品や消費アイテムなんかはここら辺で揃えられるため、のどかな村にいる間はちょくちょくお世話になりそうな場所だった。

 

 途中、酒場を見つけたことで立ち寄ったりもした。

 村であるにも関わらず、赤レンガを中心とした4階建ての建物に圧倒されてしまう。この、場違いのような風貌を見上げるようにして立ち尽くしていると、少女の姿でついてきていたノアが、ここぞとばかりに説明を始めてきたものだ。

 

「アレウス・ブレイヴァリー! ここは酒場だよ! キミにも馴染みがある施設だろうけれど、想像通りとも言うべきかな。この建物は主に、パーティーメンバーを増やしたい時に利用することとなるだろうね!」

 

「いいね、古き良き冒険って感じがするよ」

 

「特に今現在、この酒場の中でとある重大なイベントのフラグが、キミの訪れを心から待ち望んでいるものだよ」

 

「重大なイベント?」

 

「ユノさ。ユノ・エクレールが、この酒場でキミを待っている」

 

「なるほど。ユノさんへの返答は、この酒場で行うことになっているんだね」

 

 チーム、か。一人で冒険する旅も趣があって気楽だけれど、やっぱり仲間達と一緒に冒険したい気持ちもあるなぁ。

 

 それぞれの冒険には、それぞれの良さがある。

 返答はまだ先かな。と、現状にも満足している自分が内心で呟いていく。その心の声を拾ってきたノアが、「それもまた、アレウス・ブレイヴァリーの自由さ。……他者に縛られてはならない自由な世界。己が好奇心を満たし、また、身勝手も許される節度なき開放感こそが、ゲームという娯楽がもたらす何よりの快感なのだからね」と喋りかけてきたことで、自分はそれに頷きながら酒場を後にした。

 

 そうして、広大な村を軽く一周したところだろうか。のどかな村の大まかな構造を理解し、ちょうど目先に宿屋が見えたこともあったから、ノアへと「今日は休もうか」と言葉をかけて少女の了解を確認した後に、そちらへと足を運ばせたものだった。

 

 2人でひとつの部屋を借り、質素な個室のベッドへと飛び込んでいく自分。ノアも続いて隣にダイブしてきたことでベッドが揺れていき、非常に弾むそれにボヨンボヨンと体を揺らしながら自分は言葉を口にしていった。

 

「今日は、冒険の始まりから戦闘のチュートリアル、そしてのどかな村にも到着した。初日にしては上出来な一日だったと思うし、今日はもうとことん休んじゃおうか」

 

「ボクもそれに賛成だよ! 序盤ということもあってなのか、自由度に満ち足りていようとも制約が厳しいものだね。この、痒い所に手が届かない感覚はもどかしくあるものの、それもゲーム序盤ならではの醍醐味として楽しむことができれば、“この世界”における生活も安泰に近しいだろう。ただ、さすがにボクも疲れちゃったよ」

 

「ノア、ナビゲートしてくれてありがとね。傍に居てくれると、すごく心強いよ。これからもよろしく」

 

「礼など不要だよ、アレウス・ブレイヴァリー。ボクは、ボクの使命を果たしているに過ぎないのだからね。……とはいえ、キミからの労りは嬉しいものだ。本当ならばこれで、キミには高級料理のレシピを覚えてもらって、豪勢なご馳走でも振る舞ってもらいたい気分なのだが……やはりとも言うべきか、生憎とキミの料理のレベルが足りないために、豪華な料理はまだまだお預けとなりそうだ」

 

「そうか、料理するにも専用のレベルを上げないといけないのか。こりゃあ、やるべきことが多いな……」

 

 まずは自分のレベルを上げて強くならないといけないか。それに合わせて装備も更新していかないとだし、そもそもとして操作感や重量にも慣れていきたいところでもある。

 

 せっかく、リーチを伸ばせる能力ヴィジョンも使えるようになったから、この力の使い道も発見しておきたい気持ちもある。そのついでとしてサブクエストなんかも同時並行しちゃえばいいかな……?

 

 ……という思考を巡らせていた中で、自分はあることに気付いてノアへと訊ねかけていく。

 

「そう言えばだけど、俺、宿泊するためのお金って持ってなかったよね……?」

 

「それについてならば、心配は不要だよ! 今日は冒険の初日ということもあるからね、今回は特別にボクが立て替えてあげたんだ」

 

「ほんと? すげぇ助かった……! ありがとう……!」

 

「ただ、明日からはキミの力で生き延びてもらうつもりだよ。そのためには、収集した素材を売却したり、依頼をこなして報酬を受け取ったりなどの、ごく一般的なRPGの金稼ぎに励んでもらうことになるだろうね」

 

「大丈夫、その辺は心得てあるから」

 

「さすがはアレウス・ブレイヴァリーだね! ……ボクの助言も必要無いくらいに、キミは手練れのようだ。これまでに培ってきた知恵を遺憾なく発揮するその姿勢に、ボクは敬意を表したいくらいだよ」

 

 言葉とは裏腹に、ノアはどこか寂しそうな声音でセリフを口にしてきたものだ。

 

 ショボンとした少女の様子に、自分は無心のまま考えを思い浮かべていく。それからノアの頭を撫でながら、何気無い調子で言葉を投げ掛けていった。

 

Hey(ヘイ) Noah(ノア)。のどかな村に発生しているサブクエストの場所を一通り教えてもらえるかな」

 

「!! ……お安い御用だよ! このボクにこなせられるナビゲートであるならば、とことん任せてくれたまえ! それじゃあ、現段階で発生しているサブクエストを軽く紹介していくとしようか……!」

 

 透明感ある存在感で、健気に反応するノア。そんな少女の純粋な様子に自分は癒しを感じながら、ノアからサブクエストについての話をうかがったものだった。

 

 ……物語(ゲーム)は始まったばかりだ。明日からはもっと、本格的な冒険がこちらを待ち受けている……!

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