メインクエスト
《拠点:のどかな村》
村人の頭上に浮かび上がる黄色の吹き出し。これはサブクエストの合図であり、吹き出しを表示させている対象にこちらから話しかけることで、ストーリーとは何の関係もない“寄り道”の依頼を請け負うことができる。
物語の大筋に干渉せず、依頼人との絆を深めたり、お金を稼ぐことができる機能。簡単に言ってしまえば『お使い』で、サブクエストでは主に、依頼人の代わりに必要なアイテムを集めに行ったり、特定の人物へとお届け物を配達したりする内容が多い。
ゲームを始めたばかりという駆け出しの頃は、懐事情に頭を悩ませることだろう。レベルの低さは言わずもがな、ほとんどは所持金も少ない状態で物語が始まるため、序盤の目標と言えば、レベル上げとお金稼ぎの同時進行というプレイヤーも少なくはないはずだ。
自分の場合は、レベル上げやサブクエストの消化をしている内に、いつの間にかお金が貯まっていたという場合が多い。
ストーリーの進行に伴って発生する、その時点での適正難易度に設定されたお使いの数々。特に、目に見えて黄色い吹き出しなんかが出ていると、自分は気になって仕方が無かった。
そのため、まずは現時点で受注できるサブクエストを全て消化してから、メインのストーリーを進めていく。それが自分のプレイスタイルであり、飽くまでこれは、個々における遊び方のひとつに過ぎない。
そのプレイヤーが、どのように物語を進めるか。それらの決定権は全部、プレイする本人に委ねられているのだから。
木刀を片手に、フィールド:ガトー・オ・フロマージュの平原を駆け回っていた自分。その足で拠点:のどかな村に戻ってくると、迷いのない足取りで表通りの武器屋へと立ち寄っていく。そこで黄色の吹き出しを浮かべていた鍛冶職人の旦那へと話しかけていき、平原でとってきたオークの牙を手渡してからお礼を受け取っていった。
この世界における通貨“マニーア”と、武器の作成や強化で使用する鉱石を頂いていく。これに自分もお礼を口にしていく中で、鍛冶職人の旦那は気さくな調子で喋り掛けてきたものだ。
「おう! アレウス・ブレイヴァリー。なんでもお前さん、村の連中の悩み事を端から解決しているみたいじゃねぇか!」
こんな会話イベントが挟まるなんて初めてだ。と、内心で思いながら返答を行っていく。
「そうですね。今の俺にできることは、これくらいしかありませんから」
「ハッ! 十分じゃねぇか! お前さんに助けられたという声が増えていてよ、おかげさんでこの村には、悩みを持つ連中がだいぶ減ってきているもんだ」
それってつまり、サブクエストが減ってきていると受け取ってもいいのかな……。
各拠点のサブクエストを、一定数こなしたことで発生するイベントなのかもしれない。それを思いながら自分が頷く仕草を交えていく最中にも、旦那はこのようなことを言い出してきた。
「期待の新米冒険者が現れてくれたもんだなぁ! お前さんの活躍で、のどかな村は安泰だ。皆がお前さんに感謝をしている。ありがとうな!」
「いえ、俺でよろしければ力になりますから」
「頼もしい限りだな! ならばひとつ、のどかな村が請け負っている重要な依頼を、お前さんに手伝ってもらうとしようかね」
「重要な依頼?」
“この世界”の場合、一定数のサブクエストをクリアすると、メインのストーリーが進む形式なのだろうか。
無意識の内に、物語を進めるための条件を満たしていたらしい状況に内心で驚いていく自分。その間にも旦那は一枚の紙を差し出してきたことから、自分はそれを受け取りながら会話を続けていく。
「こちらは一体?」
「メインクエストだ。俺らが発注していたサブクエストよりも優先度が高い、とても重要な依頼のことだよ」
「あぁ、メインクエスト。なるほど、こういう形で受けることになるんだ……」
「とはいえ、別に強要するわけじゃねぇからな? これを受けるか受けないかは、お前さん次第だ。……メインクエストは、サブクエストとは比にならねぇくらい難易度が高い。回復アイテムの価値や敵の強さが段違いで跳ね上がるから、適正のレベルに達するまで手をつけないでおくのが無難だぜ」
「それを、俺が受けてもいいんでしょうか?」
「おう! お前さんは、のどかな村に貢献してくれた功労者だ! 村の連中も、お前さんに対する信頼を寄せている。だからこそ、メインクエストを任せようと思えるのさ。特に、お前さんは新米冒険者だ。そんなお前さんの活躍や成長を期待して、この村のメインクエストを託したいと思えたんだ」
「分かりました。ぜひ、俺にやらせてください」
サブクエストの消化が、メインクエストの解放条件っぽいな。
段々と理解できてきたこの世界。自分は旦那からメインクエストを頂いてから、踵を返して歩き出していく。それから表通りをのろのろと歩き進めていく中で、懐から妖精姿のノアがぴょこっと現れるなり、少女の姿へと変身しつつ喋りかけてきた。
「アレウス・ブレイヴァリー。キミならば既に察しはついていることだろうが、念のために説明させてもらいたい。……今、キミが受け取った依頼こそが『メインクエスト』となるものだ。それは、拠点内にある一定数のサブクエストをこなすことで受注できるようになる、高難度の試練とも例えられるだろう。これは褒められるべき名誉でもあってね、まずは祝わせてもらうとしようか! おめでとう! キミはめでたく、のどかな村のメインクエストを受けることができるようになった!」
「メインクエストねぇ……。まぁ、馴染みのある言葉ではあるけれど……これをクリアすると、物語が正式に進む……って認識でいいのかな」
「まさに、その認識で間違いないよ。冒険を始めてから早数日。時間こそ流れていたものだが、今の今まで、まるで時が止まっていたかのように世界の情勢は停滞していた」
「それは、俺がメインクエストをクリアできていなかったから?」
「8割方は、それが要因だろうね。どのゲームでも言えることだろうが、主となる人物がフラグを立てない限り、物語は一向に進みやしないんだ。中には、タイムリミットが設けられている世界もあることだろう。無論、“この世界”においても、少なからずのタイムリミットは存在している。……物語を構築するにおいて、その8割方はキミが立ててきたフラグの影響を反映したものになるだろう。しかし、残る2割の要因はキミの意思とは関係なく自立していてね、それらは、この世界の救済や破滅、その他諸々の思想を以てして、それぞれもまた目的を果たすべくこの世界のフラグを立てて回っているのさ。まさに今、この時もね」
「しれっと、おっかないことを言い出してきたな……」
こうして呑気にサブクエストを消化している間にも、よくある魔王のような強大な敵勢力は順調に復活の兆しを見せているのだろうか。それでいて、いずれは世界の支配とかを目論んだりして襲ってきたりするのかもしれない。
何となく思い浮かべたこちらの言葉に、心を読み取れるノアは敢えてツッコミを入れてこなかった。その沈黙がかえって恐ろしく思えてきた中で、自分は気を取り直すように、受け取っていたメインクエストの紙に目を通していく。
「それで、このメインクエストはまだ受注した扱いにはなってないんだよね?」
「そうだね! キミは飽くまでも、発生したメインクエストのひとつを受け取っただけに過ぎない。現在、進行できるクエストの一覧にそのメインクエストが追加されただけであって、キミはまだそのクエストを正式に受注した扱いにはなっていないんだ」
「つまり、これを受注した瞬間にメインストーリーが進む?」
「あぁ! ただ、ひとつだけ気を付けてもらいたいことがある。受注したメインクエスト自体は自由に破棄することが可能だ。しかし、メインクエストはサブクエストとは違って、数々のフラグが合わさることで生じた、ひとつの結晶体のようなもの。その、ほんのわずかなピース……フラグが欠けた瞬間にも対象のメインクエストは受注できなくなってしまうから、そこだけは留意してもらえると助かるよ!」
「なるほど……。いくつかの条件を満たした状態の“間だけ”出現する、ちょっと特殊な扱いのクエストなんだね。つまり、もしここでこのメインクエストを受けなかった場合、もしかしたら今後、2度と受けられなくなる可能性もあるということか」
「そのような認識で十分だろうね。まぁ、物は試しさ。そんな複雑に考えず、初めてのメインクエストとしてそれを受注してみるのもひとつの手だとボクは思うわけだ。もちろん、最終的な判断はキミに委ねられている。そのメインクエストを受注するか、受注しないか。それは全て、キミが決めるべきだからね」
まぁ、何事も実際に試してみないことには分からない。
初めての武器やスキルも、使い方や立ち回りを頭で考えるより、取り敢えずまずは自分で使ってみる派だ。その実戦の中で感じた手応えや感想から、次はどうするかを考える。そんな、バリバリの武闘派である自分は思考する間もなくメインクエストを受注していくと、その判子を押すような仕草と同時にして、目的が更新された通知を受け取ったことから、自分はそれを確認するべく目先の空間へと手を伸ばしていった。
何もない空間に手をついていき、大気とも言える無にタッチを行っていく。瞬間にも、目の前には機械じみたホログラム状の画面が現れて、そこに表示されたステータスやアイテム、スキルや設定という項目を軽く読み流してから、目についたクエストの項目を開いて現状を流し見していった。
メインクエスト。の欄に追加されていた、赤文字のクエスト名。そこには『極上の卵を求めて』という文字が記されており、その詳細を確認していく。
クエストの目的は、『ワイルドバードの卵』1個の納品というものだった。
ワイルドバード。この名前自体に聞き覚えがないことから、おそらく未踏のフィールドへと赴くことになりそうな予感を巡らせていく。共にして、本クエストの順序としてまず『酒場で“2人の人物”と出会う』という目的が自動的に設定されていたため、自分は目的地を確認してからホログラムの画面を消し、ノアへと振り向きながらそれを伝えていった。
「メインクエストを受けたよ。『ワイルドバードの卵』というアイテムが必要になりそうだ」
「ワイルドバードの卵だね! 早速、
「それもそうだけど、まずは酒場で2人の人物と会うように目的が設定されていたから、その2人と出会ってからノアにナビゲートしてもらおうかな。その方が、みんなで一緒に情報を共有できそうだし」
「む、それもそうだね。さすがはアレウス・ブレイヴァリー、先を見越した冷静な采配にボクは感服してしまうよ」
「いつもありがとね。こうして冷静でいられるのも、ノアという心強いナビゲーターが傍に居てくれるからだよ」
ノアの頭を撫でていき、少女はこちらのアプローチにうっとりとした表情を見せてくる。その様子を見届けてから自分は歩み出していき、ノアもまた妖精の姿になってから、こちらの懐に潜り込んで行動を共にしたものだった。
メインクエスト:極上の卵を求めて。初となるメインクエストの進行に伴って、自分は次にも、この先にて待ち受ける“2人の人物”との出会いを果たすこととなる。