メインクエスト:極上の卵を求めて。ワイルドバードの卵を1つ納品という目的のそれを受注した自分は、少女の姿になったノアと共にのどかな村の酒場に訪れた。
赤レンガを主体とした、4階に及ぶ巨大な建物。村の中に佇むには些か浮いているその外装ではあるものだが、
ほぼ全ての拠点エリアに建てられている関係上、平原から砂地、桜が舞う地帯から極寒の地までの、ありとあらゆる環境に適した外装が必要になった。その際に選ばれたのが、赤褐色の鮮やかな赤レンガだったとのことだ。
丈夫さよりも洒落っ気が勝る、ノスタルジーな雰囲気を放つ独特な建築物。エネミー蔓延る命懸けの旅を終え、見知らぬ土地に踏み入る緊張感から、慣れない拠点で心から十分に休めない人間も少なくないだろう。だが、そんな疲労し切った冒険者が拠点の中を歩き進めると、安心感さえ覚える見慣れた赤レンガの建物が、冒険者の視界に入ってくるのだ。
酒場もまた、その風貌や存在感によって、まさに実家が如き安心感を放ちながら旅人らを受け入れる。この一貫した赤レンガの外装こそが、長旅の疲れを癒してくれることに違いない。
冒険者の実家。酒場には主に仲間を増やすシステム的な役割が決められている脇で、世界観的には先述した安心感をもたらす我が家としての役割を酒場は果たしていた。
酒場の両扉を開き、中を覗いていく自分。その両扉を開いた瞬間にも、内部からは溢れ出んばかりのアルコールが外へと流れ出し、自分とノアは思わず鼻を塞いでお互いを見つめ合ってしまった。
部屋の中央に円形のカウンター席があり、そこで客やバーテンダーが会話を行う光景。それ以上に目立っていたのが、部屋を余すことなく使用した、数え切れないほどのテーブルとイスによる圧倒的集客数にあった。
充満した酒のにおいと、ガヤガヤと声にならない音が空間を埋め尽くす。この、踏み入っただけで酔っ払ってしまいそうな店内を前にして、自分は既にアルコールにあてられたようにフラフラとした足取りで歩みを進めていくと、ふと近くのテーブルにいた2人の少女達が“メインクエスト”についての会話を行う場面と出くわしたものだった。
円形のテーブルで2人、向かい合うように喋り込んでいる。2人の傍には酒が入ったグラスが置かれており、時折とそれをグビッと飲みながら、それぞれ“小柄でありながらも適当な丁寧語で喋る少女”と、“小悪魔風の風貌で勝気に微笑んでいる少女”の2人はそのような会話を交わしていった。
「じゃー、ハナシを進めますけど。まず、“ワイルドバードの卵”の入手方法について話し合いましょーか」
「ほいさ~、りょっか~い。んで、ど~すんの~? とりま縄張りへカチコミしに行く~?」
「……案の定と言いますか、ホントにナニも考えてこなかったんですね……。まー、こーなるコトは想像ついてましたので、一応ウチの方で資料を持ってきました。なので、コチラを見ながら2人で無い知恵絞って作戦を考えましょー」
「でもさー、思ったんだけど私らじゃどうにもならなくない? 私と“ラミア”のヴィジョンだと、まず『ドン・ワイルドバード』の足止めすらできるかどうか怪しいじゃん?」
「仕方ないじゃないですかー。ソコはもう、工夫を凝らすしかありませんってば。ホラ、イイから一緒に考えてください。タダでさえ最近ウチらの業績が振るわないんですから、これじゃーせっかく入れてもらったチームを追い出されちゃいますよ」
「まぁさぁ、その時はその時だよね~。もし今のチーム追い出されたらさ、初心に戻ってまた2人で冒険しな~い?」
「あの、イイ加減マジメに作戦を考えてください。ウチとしてもあまり、ヒトを叱りたくないので」
「ブゥ~、ラミアは手厳しいなぁ~……。私達、幼馴染のよしみではないか~……」
「そーですねー。なら、アタマを悩ませる幼馴染に救いの手を差し伸べる気概くらい、見せてくれたらどーでしょーか??」
「むむ……さすがに今回はサボれないか……っ。如何せん、メインクエストだもんねぇ。のどかな村を代表して請け負った『極上の卵を求めて』ってやつ。これ噂じゃあさ、もうひとり“別の新米冒険者”も受けてくれたみたいじゃん? だったらさ~、その人にも協力を仰ぐってのはどうかな?」
「そーなんですか?? フツーに初耳ですよソレ。そーいうムダに情報通なトコだけは、“メー”さんの長所とも言えますよね」
「ふふん、でしょ~。私と言えば情報通! 巷で流行りの情報から、古臭くなった昔の情報まで何でもござれ!! 都市伝説レベルの噂から信憑性の高い話題まで、世間で囁かれるゴシップを余すことなく収集するこのメー様を、人々はそう呼んでみせるのだ。……『情報の運び屋』。またの名を、『地獄耳のメー』、とね……!」
「ハイハイ。で、その情報収集のプロフェッショナルさんは、新米冒険者さんの居所もウワサで聞いてたりするんでしょーか?? その方にも協力を仰ぐコトができれば、いざという時の壁……じゃなくて、戦力として十分に期待できますからねー」
普段通りに会話する2人のそれを、遠くで聞いていた自分。その場に立ち止まって2人組の席へ意識を向けていると、次にも小悪魔風の少女が周囲をキョロキョロしてから、こちらの姿を見つけるなりセリフを発してきたのだ。
「…………あ、あっ!!!! いた!! 多分!!」
「あの、メーさん。マジメにやらないと、そろそろキレますよ??」
「いやいやいやいや!!! 多分あの男の子だって!! 聞いてた特徴と一致してるし!!」
「えー……それホントですか??」
「おーい!!! そこの君~ッ!!! こっちこっち!! ヘイ、カモンカモンッ!!!」
明らかに、こちらを注目しながら手で招いてくる勝気な女の子。彼女に続いて、振り向いてきた丁寧語の少女がジト目を向けてくる中で、自分はノアを連れて2人の席へと歩み寄っていった。
4人用の、円形のテーブルを利用する2人の少女。彼女らの外見を説明すると、このようになる。
まず、丁寧語で喋る適当な調子の女の子。彼女は158ほどの背丈であり、小柄で華奢な体格と、どこか大人びたしっかり者の風貌が特徴的だった。髪はヴァイオレットカラーの長髪を肩甲骨辺りまで伸ばしており、瞳も宝石が如くキラキラと輝くヴァイオレットカラーで、いたいけで丸っこい頬を含めるとまるでお人形のような風貌が可愛らしい人物だった。
服装は、丈の短いアウターである黒色の萌え袖クロップドジャケットに、黒色のレースがあざとい白色のシャツ、フリルで膨らんだ黒色のスカートに、黒色のニーハイソックスと黒色の厚底ブーツという格好をしていた。
また、ワンポイントとして猫耳が付いた黒色のキャスケットをかぶっている。それも含めた少女の印象は『地雷系』であり、可愛さを全面に押し出した風貌は一見すると警戒してしまう人もいるかもしれない。
頬杖をつき、冷めた目で眺めてくる少女。彼女は呼ばれたこちらをまじまじと見つめながら、適当な調子で喋りかけてきた。
「ウワサをすればナンとやら、ですよ。『極上の卵を求めて』という依頼に覚えはあります?? アナタがソレを受けたっていう新米冒険者さんで合ってますか??」
「そうだね。俺もついさっき、メインクエストを受けたばかりなんだ。あぁ、俺はアレウス・ブレイヴァリー。隣にいるのは、俺の相棒のノア。よろしく」
「あーハイ、わざわざご丁寧にどーも。ウチは“ラミア・エンプーサ”と言います。まー、イマだけの付き合いになるでしょーから、別に覚えてもらわなくてもケッコーです」
どうでもよさそうに喋るが、受け答えはしっかりしている少女ラミア。ラミアの返答に自分が何て言葉を返そうか考えている間にも、横から熱い視線を送ってくる勝気な少女へと意識を向けていった。
小悪魔風で、からかう目つきがキャピキャピしている存在感。彼女は165ほどの背丈を持つ少女であり、クラブピンクの長髪をリボンのように結って後ろに束ねてある髪型と、長いまつ毛にネイビー色の瞳、それと、生意気にも吊り上げた口角による、自信に満ち溢れた勝気な表情が印象的だ。
服装は、袖を持て余したシルエットが独特であるダボダボに膨らんだ黒縁の紺色マウンテンパーカーに、ショート丈で白色のオフショルダートップス&ショート丈で黒色のキャミソール、アイボリー色のワイドパンツに、サンダルのように穴が空いたアイボリー色のヒールという格好をしていた。
ダボダボなシルエットを象りながら、上半身は胸やへそ、くびれを露出する刺激的な風貌。また、印象は『ギャル』とも言えるハツラツとした眩い明るさを放っている彼女だが、当の本人からは思ったほどの尖った印象は感じられず、むしろオモチャを見るような目でこちらを見つめていたものだった。
なんか、面白そうな物を見つけた。そんな言葉を彷彿とさせる期待の眼差しと共に、その少女も喋り出してくる。
「はいはーい!! 私は“メー・イシュタール”って言いま~す。よろ~!」
「どうも。よろしく、メー」
「ほんでほんで? 君が今、のどかな村で囁かれている期待の新米冒険者君なわけだ? ってことはだよ? 噂されるような実力の持ち主であることは、簡単に想像できてしまえるわけだけど……やっぱり、アレウス君もヴィジョンとか使えたりするカンジなのかな?」
「一応、ヴィジョンは使えるけど……?」
「うっはぁ!!! 救世主ッ!!! ……ねぇねぇアレウス君。ここで出会ったのもさ、何かの縁だと思わない? アレウス君も、私達と同じ依頼を受けているよね? だからさぁ、ここは同じクエストを受ける者同士、手を組んでみたいなぁ~って私は思うワケなんだけど~? 君としてもその辺、どう考えてるかな?」
軽いノリで協力を仰いできた少女メー。勝気に笑みながら訊ねかけてきたその言葉に、自分は流れに従うまま頷いていったものだ。
「確かに、そうかもしれない……?」
「でしょ~? はいじゃあ決まりね! そういうことで、アレウス君も私達の仲間入り! 同じパーティーメンバー同士、頑張っていこ~!」
軽率に肯定した先の返事。それを耳にしたメーが活気あるサマで右腕を上げていくと、その次の瞬間にも2人のパーティーメンバーが加わったのだ。
あまりにも唐突な加入によって、自分は内心で驚いてしまった。
即座に加わった2人のメンツ。それぞれ、支援系を得意とする『ラミア』と、遠距離攻撃を得意とする『メー』のアイコンがステータスに追加されていく。
こんな簡単に仲間ができちゃうの? という驚きが未だ残り続ける中、メーの強引な加入にラミアが呆れたような調子で喋り出してきた。
「あの、アレウスさんを加えるコトには異論ありませんけど、問題はどーやって、このメンバーでドン・ワイルドバードを対策するかですよ。アレウスさんの実力やヴィジョンもまだ知りませんし、その、ノアさんという人物に関しましては……ナンでしょーか、この違和感。パーティーメンバーとは異なる枠組みにいる、ちょっとした変化球の人物でもありますし……。この違和感を、言葉を選ばずに言うならば……カレらはなんか異質なんですよ。カレらはホントに、こんな簡単に迎え入れてもいいヒト達なんでしょーか??」
「まぁまぁ、いいじゃんいいじゃん! ……ラミアは警戒心が強いし、その用心深い性格に私は何度も救われてきたからね~。情報の少ない相手に対する疑り深~い姿勢は、私はプラスに捉えているもんだよ。ただ~……アレウス君達は見た感じ悪者って雰囲気じゃないし、たぶん大丈夫だと思うけどね?」
「たぶん、って……メーさんは感覚に頼りすぎなんですよ。論理的に説明できるワケでもありませんけど、その天性の直感はウチもショージキ認めざるを得ないトコがあります。しかし、さすがにもー少しアタマを使って考えてみてもイイとウチは思うんですけど??」
「ラミアは難しく考えすぎなんだって! とりま、同じ目的がある者同士なんだし、そんな難しく考えなくてもいいじゃん! アレウス君の力は、ドン・ワイルドバードが生息するフィールド『セザム・ノワールの山脈』で見せてもらえばいいし、難しいことは後で考えることにしよ?」
「……なんかもー、イイです。分かりました。なら、メインクエストの目的地になっている『セザム・ノワールの山脈』に、さっさと向かいますよー」
ラミアが折れる形で、一区切りがついた2人の会話。共にしてラミアはため息をつきながら腰を上げていき、酒場の出口へと歩き出していく。
ラミアの背を見送るこちらに対し、同じく立ち上がってきたメーがこの肩に手を乗せながら喋りかけてきた。
「ま、気楽にやってこ~よ! 私達は効率とか重視してないし、攻略さえできれば何でもオッケーってタイプの集まりだからね~。言っちゃえば、エンジョイ勢だよ、エンジョイ勢。だから、アレウス君もノアちゃんも、そんな気張らなくていいから。肩の力を抜いてって」
「分かった。ありがとう、メー」
「ほいほーい! んじゃ、私達は先に『セザム・ノワールの山脈』に向かうとするよ~。アレウス君は装備とか整えたりして、準備ができたタイミングで来てもらって構わないから。じゃ、そういうことで~」
そう言って、手を離したメーはお気楽な調子で酒場を出ていった。
同時にして、イベントから解放された自由な感覚。途端にして身軽となった体を手足で確認しながら、自分は考えを巡らせていった。
今はたぶん、ストーリーの合間に挟まる自由時間なのだろう。ここでは主に、次のステージやダンジョンを見据えた事前の準備を行うことが可能であり、回復アイテムの買い足しや装備の更新などは、このタイミングで済ませておくのがベストでもある。
メインクエストと豪語され、今までに訪れたことのない新たなフィールドも解禁された。尤も、この自由度が故に『セザム・ノワールの山脈』というエリアも向かうこと自体はできたものだが、如何せんそのエリアに出現するエネミーのレベルが今の自分よりも高かったため、あえてその場所を避けながらサブクエストをこなしたりしていたものだ。
そして今回、避けていたエリアへと赴くこととなった。
目的は、ワイルドバードの卵の納品。しかし、度々と挟まれるドン・ワイルドバードという単語が不穏であり、最低限もの準備は必要であることを今までの経験から察することもできる。
メインクエスト:極上の卵を求めて。進行に伴って一時的に加わった仲間『ラミア』と『メー』の2人と共に、自分は新たなエリア『セザム・ノワールの山脈』へと向かっていく。