ゲームワールド / ザ・セカンドライフ   作:祐。

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バタフライ・エフェクト&マナ・ゾーン

 イベント戦を終え、自分はワイルドバードの素材を拾っていく。それから落ちていた木刀を拾い上げていく動作の中、観戦していたノアとラミア、メーの3人が駆け寄ってきた。

 

 我ながら、なかなかの手応えを感じられた先の戦い。戦闘を眺めていたラミアとメーも、それぞれ意外そうな声音でセリフをかけてきたものだ。

 

「なんですか、案外やれるじゃないですか。想像以上に動けているアレウスさんに、ショージキ驚いてます。試合の運び方も熟練のソレでしたし、アレウスさんホントに新米冒険者ですか?? 肩書き偽ってたりします??」

 

「なになに~? アレウス君、もしかしてそういうロールプレイで楽しんでるクチ? そりゃあ遊び方は人それぞれだから、私達は余計なこと言わないけどさ~。でも、初心者のフリするならもう少しスマートにやらないと、すぐバレちゃうぞ~?」

 

 期待を込めた光の眼差しを向けてくるラミアと、冗談めかしたようにこちらの肩を叩いてくるメー。品定めが完了したのだろうか、2人して一気に距離を詰めてきた様子に自分が困り果てていく最中にも、ノアは誇らしげな調子で喋り出してくる。

 

「さすがはアレウス・ブレイヴァリーだね! 初見の相手を前にしても冷静な試合運びができるその観察眼。歴戦の猛者を彷彿とさせる、好機を逃さぬ判断力。そして、敵の動きを華麗に見極めて反撃するその姿はまさに、蝶のように舞い、蜂のように刺すの言葉を彷彿とさせ、戦闘の基本とも言えるだろうヒット&アウェイを主軸に置いた一連のそれは、生ける教科書として永劫と語り継がれるに相応しい、完璧な戦闘を体現していたものだよ!」

 

 それはさすがに大げさだって……。

 内心でツッコミを入れたこちらの返事に、心を読めるノアは「謙遜なんてしなくても結構だよ!」と口にしてくる。そのセリフで自分は複雑な心境になっていく中で、賞賛が続くこの空間に複数もの足音が響き出してきた。

 

 気配と共に、一同が振り向いていく。すると、視線の先には5頭のワイルドバードがこちらへと威嚇を行っていたものだった。

 

 さっきのが、一気に5頭も来るのか……!

 今のレベルだと、自分でもさすがにキツいかもしれない……。それを思いながらも少女らを守るように踏み出して木刀を構えていく自分。しかし、すぐにも後ろから肩に手を乗せてきたメーがこちらを追い越してくると、次にも勝気に満ちた声音でセリフを口にしてみせた。

 

「ちょっとたんま~。さっきはアレウス君のアピールタイムだったから譲ってあげたけど、今度は私達のアピールタイムだから休んでてもらえるかな~?」

 

「メー?」

 

 反対側からは、ラミアが追い越してくる。そのゆったりとした足取りで彼女らは佇んでいくと、次にもメーは両手に投擲武器のチャクラムを出現させながら、戦闘態勢へと移っていった。

 

 戦闘開始を知らせる緊張感。睨み合う双方が、重苦しい空気の中でじりじりと様子をうかがっていく。

 

 と、瞬間にもメーの背後からひとつの影が飛び掛かってきた。

 

 6頭目のワイルドバード……!

 自分がそれに気付いた時には、既に彼女は背中に飛び蹴りを食らっていた。音も無く豪快に繰り出された一撃はメーの不意を完璧に突いており、今もメーは仰け反った状態で前方へ吹き飛ばされていた。

 

 思わず、自分が「メー!!」と声を上げてしまう。すると、次にも真後ろから彼女の返答が聞こえてきたのだ。

 

「ざんね~ん。“本物”の私は、既に後ろで待ち構えていたのだ~」

 

 からかうような、軽い喋り。それに自分とワイルドバードが振り返った瞬間にも、大気中の塵を舞い上げる鋭利なチャクラムがワイルドバードへと飛ばされていった。

 

 飛んできた2つのそれは、ワイルドバードに接触するなりその場で縦に回転。火花を散らし、ガリガリと音を立てながら定点攻撃を仕掛けてくるそれにワイルドバードがダメージボイスを上げていくと、次にも2つのチャクラムは首へと進行、その勢いで頭部も切り裂いてから、後方に立っていたメーの下へと戻っていく。

 

 5頭のワイルドバードが構える方向には、地面に伏したメーの体が存在していた。だが、その反対側にはチャクラムで攻撃した別のメーが立っており、自分は“2人存在する彼女”に脳みそがバグり出していく。

 

 この反応が面白かったのだろうか。メーは小悪魔な様相でクスッと微笑しながらそれを説明してくれた。

 

「あは、驚いてくれた? どう? 私のヴィジョン、“バタフライ・エフェクト”の能力。効果は単純、『対象を複製する能力』。要は、『コピーする能力』だね~」

 

「コピーする能力?」

 

「そ。対象となる物体や液体、気体や能力なんかを一時的に複製して使用できる能力。例えば、さっきみたいに私の本体を増やしてデコイみたいに使うことができるし、投擲したチャクラムをコピーで複製することで攻撃の手を増やしたりできるんだ~。あと、“他人のヴィジョンの能力”もコピーできるから、アレウス君のリーチを伸ばす能力も、私はコピーして自分で使うことも可能」

 

「すごいな……! とんでもない能力だ……!」

 

「ただ、コピーできるのはひとつの対象まで。既に他の何かをコピーしちゃっている場合は、そのコピーを解除してから新しく能力を使わないといけない関係上、あれもこれも増やせるわけじゃないんだ~。んま、十分に便利な能力だと思ってるけどね~。私のヴィジョン、バタフライ・エフェクトは!」

 

 メーのヴィジョン、バタフライ・エフェクト。これによって“自身を増やした”メーは得意げに歩き出し、5頭のワイルドバードと向かい合うように佇んでいく。

 

 メーの体には、淡いピンク色のオーラが漂い始める。その直後にも、今いるメーを中心に同じ姿の“偽物”が3つ、横に並び立った。

 

 4人のメーがチャクラムを構えていく。そして同じ動作で投げ込まれていくと、数を増やしたそれらは不規則な動きを以てして、戦闘空間を入り乱れるように飛び交い出したのだ。

 

 ひとつひとつは目で追えないし、数がありすぎて避け切れない。

 空を切る音が四方八方から響いていて、囲まれたワイルドバードらが切り刻まれていく。その一方的な攻撃に1頭のワイルドバードが駆け出していくと、それは1人のメーを目掛けて飛び掛かり……。

 

 ……次にも、横から放たれた炎の魔法で撃ち落とされていった。

 右手を突き出すラミアの姿。少女の手には赤色の炎が揺らめいており、すぐにも次の行動へと移り出していく。

 

 脇を締め、控えめに両手を持ち上げながら神々しく佇むラミア。そして少女は薄い紫と薄い水色のオーラを纏っていくと、唱えるようにセリフを繰り出してきた。

 

「対象は、メーさんにかかっている“バタフライ・エフェクト”。次はウチの番です。支援係だからとバカにしないでくださいよ……!」

 

 ラミアが纏うオーラは、4人と存在するメーの体を包み込んでいく。すると、直後にもメーの姿がもう4人、“計8人”へと姿を増やし、ボンッ!! と一気に増殖した自身の体にメーが「わぉっ!」と声を上げていった。

 

 それに伴って、飛び交っていたチャクラムは倍増した。

 1人につき2つ。それが4人で8個となっていたチャクラム。それが8人になったことでチャクラムは合計16個となり、もはや視界を埋め尽くす投擲武器は、意思を持つ生物が如く飛行しながらワイルドバードらへと襲い掛かったものだ。

 

 触れた瞬間にも、その地点に滞空してガリガリと削ってくるチャクラム攻撃。どこかしこもそれらによる切り裂く音が響いてくる地獄絵図の中、この光景を眺めていたこちらへとラミアは説明を始めてきた。

 

「コレが、ウチのヴィジョンの能力です。名前は“マナ・ゾーン”。能力は、『対象にかかっている効果を増幅する』というモノです」

 

「対象にかかっている効果を増幅する……?」

 

「まー、『バフの効果を底上げする能力』だと理解してもらえればケッコーです。例えば、魔法でかけてもらった攻撃力上昇の効果。元の上昇量にもよりますが、ウチのマナ・ゾーンでその効果を400%くらい引き上げるコトができます」

 

「そんなに!?」

 

「ハイ。ソレが、ウチのヴィジョンの能力ですから。この効果はヴィジョンの能力にもかけるコトができるので、今回はメーさんのバタフライ・エフェクトにマナ・ゾーンを使用しました。よって、コピーする能力の効果は増幅し、コピーできる人体の最大個数が増えました。メーさんのコピーが増えれば、攻撃も倍になりますからねー。そんなカンジに、攻撃力とかだけじゃなく、既に発揮している“効果自体の性能を強化する能力”なのが、ウチのヴィジョン、マナ・ゾーンの特徴です」

 

 淡々と説明するラミアと、今もメーのヴィジョンを強化し続けるマナ・ゾーン。そうしてラミアが喋り続けている間にも前方のワイルドバードは全滅し、5頭が地面に倒れ伏したところで戦闘は終了した。

 

 ……とんでもないな。もはや恐ろしい。

 ヴィジョンという、“ゲームシステムそのものが異能力になった”特殊能力。その真骨頂が垣間見えたような気がしたことから、自分は呆気にとられたまま立ち尽くしたものだった。

 

 コピーが消えて、1人になったメーが冗談気味に微笑しながら駆け寄ってくる。同時にラミアも間近で「だいじょーぶですかー??」と手を振りながら気に掛けてきたところで、ノアがこちらへとそのセリフを口にしてきたものだった。

 

「分かったかい、アレウス・ブレイヴァリー。なにもキミだけが強力な特殊能力を使えるワケではないのさ。むしろ、キミのブレイヴ・ソウルや2人のヴィジョンのように、“この世界の根本的な概念を覆す”ような能力を持つ存在が、この世界にはまだまだたくさんと散りばめられているんだよ。……それが何を意味するか、キミはそろそろ気付けたものかな?」

 

「……どういうこと?」

 

「飽くまで、現時点では可能性の話に過ぎない。しかし、もしもその時が訪れた際には……キミは、“ヴィジョンを使用する敵と戦う場面”だって、この先いくらでも出てくるかもしれないよね。という話さ」

 

「……そうか。この能力は味方だけが持っているわけではないのか……」

 

 ヴィジョン。世界の概念を覆す、圧倒的な力を宿した特殊能力。もしも、ヴィジョンを扱う敵が現れた場合、果たして自分は勝つことができるのだろうか……?

 

 巡ってきた不安により、顔を真っ青に染めてしまう。この様子にラミアとメーは心配する言葉をかけてきて、今日はここまでにしようかと優しく提案してきたことから、自分らはセザム・ノワールの山脈から引き上げることとなったのだ。

 

 今回の収穫は、様々なヴィジョンが存在するという認識のみだった。

 その強力な能力を早い時期に体験できたのは大きかったかもしれない。そう、まるで自分に言い聞かせるようにポジティブな思考を思い浮かべながら、この日は最後に酒場へと立ち寄って、ラミアとメー、ノアの3人と食事を共にする1日を過ごしたものだった。

 

 メインクエスト:極上の卵を求めて。はまだまだ続く。

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