ハケン・ユーティリティ   作:ジョイン君

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彼女の日常


目覚めた彼女の通過点
依頼内容:コンビニエンスストアの接客、それに伴う品出し、清掃等の軽作業


 目が覚める。

 

 携帯電話を確認、通知はなし。

 枕元に置いてある手帳を開き予定を確認。

 今日の日付は空白、依頼はナシ。

 

 依頼は無くともお腹は減る。

 ご飯を食べればお金は減る。

 お金が無くなれば精神(ココロ)が磨り減る。

 

 というわけで依頼がない日はそういう時用のハケンに向かうのがぼく、安納(あのう)ハジメの日常だ。

 携帯電話のモモトークを開き、ハケン先の先輩へ本日の出向を連絡する。

 

 起き上がり、洗面台へ向かい歯を磨き、顔を洗う。

 冷やりとした水の冷たさに引きずっていた眠気が解消される。

 髪を整え、目にかかる前髪をピンセットで脇に留める。

 今日のハケンは接客業、きちんとお客様とは目を見て会話することが求められるからだ。

 

 普段のハケンは足りない人材の穴埋めなどが多いのでむしろ目が隠れてしまった方が都合がいいのだが、仕事内容によってはそれが失礼に当たることもある。

 ありとあらゆる人材を、と謳っている手前そういった仕事に対しての姿勢はその後のリピートに直結する可能性があるので気を遣わないといけないのだ。

 

 居間に戻り、冷蔵庫を開け牛乳を取り出しシリアルの入った皿に注ぐ。

 これでちょうど切れたか…。

 今日のハケンのあとに補充しなければ。

 毎朝必ず食べる食事を堪能してれば、携帯電話から振動音。

 画面を開いて確認すれば

 

「よろしくお願いします!」

 

 という返事と共に可愛らしい天使のスタンプが一緒に送られてきている。

 そのスタンプになんだか元気をもらったような気がして、今日もお仕事がんばるぞとシリアルを胃に流し込んだ。

 

 

 

 

 エンジェル24。

 

 District of Utnapishtim区(通称D.U.区)の外郭に存在する連邦捜査部S.C.H.A.L.E(通称シャーレ)の部室ビル内に存在するコンビニエンスストアのようなもの。

 今日のハケン先だ。

 

「おはようございまーす」

 

 入口のドアをくぐりレジに立ちガラケーをいじる長い金髪にサイズの合ってない大き目のエプロンの肩紐が片方ずり落ちかけているソラ先輩に声をかける。

 

「お、おはようございます! 今日もよろしくお願いします!」

 

 モモトークの内容そのままの挨拶に思わず微笑を漏らしながらバックヤードに入り、ロッカーから店員用のエプロンを取り出し装着。

 いつものように小さめのハタキを持ち、エプロンのポケットにアルコールスプレーと乾いた手ぬぐいを入れてソラ先輩の元へ向かう。

 胸元にはソラ先輩お手製の名札も忘れずに。

 

「お待たせしました。裏入って大丈夫ですよ」

 

「あ、今日はもう少しレジを見てるので! 納品が来るまではハジメさんにはフェースアップとクリーニングをお願いしてもいいですか?」

 

「わかりました」

 

 なるほど。

 今日はまだソラ先輩のお客様は来店していないらしい。

 

 

 

 レジから離れた売り場をハタキや手ぬぐいでクリーニングしていく。

 クリーニング、クリーンアップ。お店によって言い方は変わるかもしれないが要は埃を落として汚れた棚などを綺麗にするだけだ。

 この店舗は特に利用者が少ないということもあり棚や在庫に埃がたまりやすい。

 人の手が触れる場所は汚れやすいけれど、人の手があまり触れない場所でもやはり汚れは溜まっていくのだ。定期的な清掃は大事なのである。

 

 ソラ先輩から教わった基本をこうして実践していると、なかなかに大変だと思う。

 苦ではないが、終わりが見えないのだ。

 細かいところまで手を入れていれば時間はあっという間に過ぎ去る。

 誰にでもできる仕事などと言われるが、誰にでもできるという事は誰もが苦痛に感じる要素があるものである。

 埃落としと棚拭きなどを一段落つけ、バックヤードに入り備品のモップ絞り器に水を入れてモップに水を漬け、ペダルでモップを絞る。

 これ最初に考えた人天才だよね、などと益体もない事を考えていると入店音が響く。

 バックヤードにいる時に来るとは今日はベストタイミングだったな。

 

「い、い、いらっしゃいませ!…先生!」

 

”こんにちは、ソラ”

 

 先生。

 このシャーレの顧問としてキヴォトス全域の問題に対する超法規的な権限を有し、その権限を以て問題の解決、対応に各学園の線を越えて活動を行うという特異点(やべーヤツ)

 このエンジェル24のシャーレ内店舗の唯一の常連客だ。

 

「せ、先生…? 随分とエナジードリンクを買い込んでますが…これ、昨日も買ってますよ?」

 

”ああ、うん”

”さっき飲み切ってしまってね”

 

 商品をレジに登録しながら問いかけるソラ先輩にどこか遠い目をしながらそんな返答を返す先生。

 

「飲み切ったんですか!? 昨日6本買っていきましたよね!?」

 

”ちょっと仕事が立て込んでてね…”

”でも、今日乗り切れれば明日には寝られる予定だから”

 

「今日は寝ないんですか!?」

 

 あまりにもブラックな勤務状況に思わずツッコミを入れるソラ先輩。

 ソラ先輩、たまに滅茶苦茶ツッコミのキレよくなるんだよな、マジリスペクト。

 いやまぁ、中学生にはなかなかにショッキングだと思うよ、先生の働きっぷり。

 大人になるって悲しいことなの。

 

”私は先生だからね”

 

「先生だと寝れないんですか!? か、過酷すぎます...あ、安眠枕とか入荷しておきますか!?」

 

”あはは、ありがとう”

”そうだね、入荷したら買おうかな?”

”なんだか楽しみになってきた。ソラのおかげでまだまだ頑張れそうだ”

 

「あ、あまり無理して倒れたりしないように気を付けてくださいね? ...あ、このチョコ、試供品なので一緒に入れておきますね!」

 

 ソラ先輩は袋詰めをしながらレジの裏側に後程展開予定だった手のひらサイズのチョコレートを一つ、先生のレジ袋に入れる。

 

”試供品? もらっちゃっていいの?”

 

「は、はい! 甘いものは疲れをとるのにいいと聞きますしちょうどいいですよね! 後日感想をいただければ!!」

 

”ありがとう、それじゃあ遠慮なく”

”...そうだ、エンジェルコーヒーを二つ、追加してもらっていいかな?”

 

 エンジェルコーヒー。

 よくあるコンビニエンスストアの専用機械で作ってすぐお出しするコーヒーだ。

 エンジェル24では注文を受けたら店員がレジ内で機械を使って渡すタイプとなっている。

 

「ご注文ありがとうございます! す、すぐお入れしますね!」

 

”いや、これは私からの差し入れ”

”あとでソラとハジメの二人で飲んで”

 

 ありゃ、いるのわかってたか。

 

「えぇっ!? そ、そういうわけには...」

 

「いただきまーす」

 

「ハジメさん!?」

 

 マニュアル通りに断ろうとするソラ先輩の言葉にかぶせるようにバックヤードの扉からひょこっと顔だけ出して先生にお礼の言葉を伝える。

 あわあわと慌てているソラ先輩の横までとことこ近づきカード決済のボタンを押す。

 

「しっかり味わってちゃんとソラ先輩に感想聞かせてくださいね、試供品(ソレ)

 

”うん、必ず。二人もお仕事がんばってね”

 

 大人のカードで支払いを終えた先生はソラ先輩から商品の入った袋を受け取り笑顔で退店していく。

 

「あ…ありがとうございました!!」

 

”またね。ソラ、ハジメ”

 

 先生の姿が完全に見えなくなったのを確認したソラ先輩はため息をつきながらチョコレートをレジで登録し、自分のサイフから清算する。

 ちーん。53円。

 商品だからね、在庫ずれちゃうもんね、清算しないと。

 要はソラ先輩は先生が大変そうだったから甘いものをおごってあげたわけである。

 こんな気遣いができて店の仕事網羅してる中学生とかおるか?

 マジリスペクトっす。いやほんとに。

 

「ハジメさん…ああいう時は本当はお断りしないと…」

 

「いやーぼく、もらえるモンはもらうタイプなんで。ソラ先輩には巻き込まれてもらいました。てへっ」

 

「無表情でてへっとか言われても…今回だけですからね?」

 

 軽くため息をつきながらも許してくれちゃう。

 通算十数回目の今回だけですからね、いただきましたー。

 ソラ先輩マジリスペクトっす。

 

「...あ、あと何度も言ってますけど先輩はいらないですよ? ハ、ハジメさんの方が大人っぽいし背も高くて年上っぽいですし…」

 

「いえ、ソラ先輩マジリスペクトしてるんで」

 

「ハジメさん表情(かお)に出ないから冗談を言ってる時にわかりにくいんですよね…」

 

 おっ、待てぃ。本気やぞ?

 あ、別にわざと無表情を貫いてるとかではなく、ぼくは基本的に表情が動かないのだ。

 たまに笑うらしいんだけども。

 

 

 

 

「おつかれさまでしたー」

「お、おつかれさまでした…!」

 

 次のシフトの人への引継ぎを終えてぼくとソラ先輩は先生から奢ってもらったコーヒーの入った紙コップを手に持ちながらシャーレの駐輪場へ向かう。

 ぼくの手には廃棄で出たお弁当と今日の朝に切れたので購入したシリアルと牛乳の入ったレジ袋がぶら下がっている。

 この廃棄弁当こそが今日のハケンの報酬である。

 

「では依頼は遂行完了です。今後とも『さかまんじハケンサービス』を御贔屓に!」

 

 びし、とソラ先輩へ敬礼。

 いやほんと、その日の食い扶持があるのは助かるよね。

 

「で、でもハジメさん、本当に報酬は廃棄弁当(それ)だけでいいんですか?」

 

「ソラ先輩さえいれば自由にシフトに入れてご飯までもらえるなんて結構破格ですよ?」

 

 最近は他にも廃棄弁当を引き取るという謎の小隊も増えたが、ソラ先輩はぼくがハケンされる日にはぼくの分はきちんと確保してくれてる。その日の一番美味しそうな弁当をだ。

 ソラ先輩マジリスペクトっす。

 

「普通にアルバイトとしてどうだ?って店長には言ってもらえたのはありがたいんですがねぇ。最近は先生が口コミしてくれたおかげでそこそこ依頼も入るようになってきましたからね」

 

 先生からもらったコーヒーを啜る。

 コーヒーを啜るな?

 熱いんじゃい。

 我猫舌ぞ?

 

「せ、先生も最初はあやしい噂とかで変な人かな?って思いましたけど、私たちのことをよく気にかけてくれるいい人ですよね。...変な人なのは間違いないんですけど」

 

 先生(やべーヤツ)だからね!

 ソラ先輩は両手でカップを持ちながらコーヒーを飲み、シャーレのビルの上階の光の灯った窓を見上げる

 夕焼けから夜の帳が落ち始めるこの時間、その窓から漏れる光はよく見えた。

 

「あまり無理しないといいんですけどね…でも先生は大人だし、忙しいんでしょうね…」

 

 愁いを帯びた表情でそんなことを呟くソラ先輩。

 心配なんだろうね。

 めっちゃくちゃふっかふかな人をダメにしそうな枕発注してたもんね。

 ってかそんな枕発注できるのスゴイね、エンジェル24。

 

 ソラ先輩はなんだかんだでこうして人のことを心から心配することのできるとてもいい生徒()なのだ。

 ぼくはそんなソラ先輩に救われたのだ。

 

 

 

 

 

 

 ぼくとソラ先輩が出会ったのは、まさに今いるこのシャーレの駐輪場だった。

 いろいろと割愛するが当時のぼくは何もなかった。

 

 何もないとは要は、お金もなく、稼ぐ手段もなく、食べるものもないということだ。

 当時のぼくはまぁ、どちらかと言えば不良の側で、

 不良からカツアゲをして、なんとか過ごしてたわけだが。

 まぁそんな生活が続くわけもなく、不良チームからは隠れられ、度々騒ぎを起こした結果ヴァルキューレ警察学校からは目をつけられ、結果としてその日のご飯にも困るようになっていた。

 下手にそれができる能力があったのも一因だろう。

 要は行き倒れた。

 シャーレにはたまたま、ヘルメットをかぶった不良集団が稀に見かけられるという風の噂で立ち寄っただけだ。

 結果としては見つからず、飢えによる判断力の低下によりヴァルキューレ警察学校でぼくの顔を知る者と鉢合わせてしまい、なんとか必死に逃げ切ったもののすでに空腹により限界を迎えていた体は眩暈を訴え、まともに立ち上がることもできずに目の前の屋根のある駐輪場へと座り込んだ。

 飢え死にやべえってマジだなぁ、とか思いながら意識が朦朧としていた時、

 

「だ、大丈夫ですか!?」

 

「お...」

 

「…お?」

 

「おなか...へった...」

 

 それだけ声に出してぼくは意識を失った。

 

 

 

 次に体を揺すられた時には、情けなくも自分の意思ではほとんど体が動かなかった。

 呼びかけられてるのはなんとなくわかったがもはや何を呼びかけられてるのかもわからない。

 ただ口に、温かい何かが流れ込んでくるのは感じた。

 あー知ってる、これコンソメスープ。

 コンソメスープは神。

 死の間際にコンソメスープの味思い出すとかウケる。

 

 確かそんな感じの事を考えてたような気がする。

 いやマジあの時危なくて記憶あいまいなんだって。

 

「あ、目を覚ましましたね!? 起きれますか? か、肩を貸すので、少し歩けますか?」

 

 さっきよりはだいぶマシだがそれでもまだふらつくぼくに肩を貸したソラ先輩はそのままシャーレ内のエンジェル24までぼくを連れてきた。

 そしてぼくにお弁当を奢ってくれたのだ。

 

 バックヤードへと連れてこられたぼくは休憩用の椅子に座らされ、目の前に並べられていく温められてほかほかのコンビニ弁当に困惑していた。

 

 体はこれでもかと空腹を訴えている。

 しかしこれを食べてもお金はない。

 お金がないなら食べたらダメだ。

 でも食べたい。

 おなかすいた。

 

「お、おなかが減ったならまずはおなかいっぱいにしましょう!!」

 

 ソラ先輩は困惑してるぼくにそんなことを言って割り箸を差し出した。

 

 おなかいっぱいにする。

 久しく考えなかったことだ。

 

「…いいの?」

 

「め、召し上がれ!!」

 

 そこからはもう止まらなかった。

 食べる、咀嚼する、飲み下す。

 体が受け付けようとしないのを必死に腹に入れる。

 むせる。

 涙が溢れる。

 そうなると横からペットボトルに入ったお茶が差し出される。

 無理やり飲み下し大きく肩で息をする。

 ふと、背中をさすられていることに気づく。

 涙が溢れる。

 

 

 

「…ごちそうさまでした」

 

 ひとしきり貪ったぼくは手を合わせて食材と、それをもたらしてくれた存在への最大限の感謝を口にする。

 

「…お、お粗末様でした?」

 

 

 

 

 とまぁそんな事からソラ先輩に感謝し倒して人見知り気味の(この時は知らなかった)ソラ先輩に怒涛の感謝の言葉を投げかけまくってさらにテンパらせ、ソラ先輩に呼ばれた先生に自分の現状としてきた事を洗いざらいぶちまけてその時はシャーレの一室を借りて、ソラ先輩のお手伝いとしてエンジェル24で一緒に働くことになった。

 そしてソラ先輩と共にお店に立って色々教わっている内にあれ?ぼくって結構スペック高くね?と自覚して、いつまでもソラ先輩と先生に甘えるのもよくないな、自立しよう!となって『さかまんじハケンサービス』を立ち上げた。

 

 まぁ、そのために先生の大人の力にはだいぶ助けてもらったのでぼくも感謝はしてる、ソラ先輩の次くらいには。

 部屋を借りれたのも、依頼が来るようになったのも、先生のおかげだから多少はね?

 

 まぁ、今は週5くらいコンビニでお弁当もらってるが、いつかはきちんと恩返しをしてやろうという目標を持っている。

 現在の一番の目標はソラ先輩にお腹いっぱいになるまで好きなものを奢ることだ。

 夢の達成にはまだまだ遠い、が絶対に叶えてやる。

 

 え?そもそもお前の現状ってなんぞや? そこはきちんと説明しろ?

 え、長くなるし別にソラ先輩は女神だってわかったらよくない?

 

 まぁぼくは銀髪ロングでソラ先輩よりちょっと背は高いけど胸は同じくらい、お尻はばっちりソラ先輩よりおっきいメガネをかけた美少女さ!

 欠点は学籍も記憶もないないづくしなトコかなー。誤差だよ誤差!

 

 

 

 

 

「なんだかんだで大丈夫でしょ、ソラ先輩がチョコおごったし」

 

「いやいや、結局コーヒー奢り返されてますし!?」

 

「ご相伴にあずかってまーす」

 

 大人の貫禄を見せつけられたコーヒーも飲み終わり、ぼくは予定を書いた手帳を開きながら予定を確認する。

 

「それじゃあソラ先輩、今日はこのへんでー。明日は別件の仕事が入ってますので次に入るのは明後日以降ですかね、またモモトークに連絡しますね」

 

 ソラ先輩の持っていた空になった紙コップをひょい、と取り上げ自分のと重ねて握って潰し、ごみ箱に向かって放り投げる。

 

 綺麗に弧を描いてゴミ箱の蓋を貫通し中に納まる紙コップ二つ分の塊。

 やっぱこの体すげーな。

 

「ハジメさん相変わらず涼しい顔してさらっとすごいことしますよね……」

 

 心の中では結構なドヤ顔ぞ?

 

「ハジメさんなら大丈夫だと思いますけど...無茶しないように気を付けてくださいね? 危なくなったらシャーレに逃げてきましょう! 先生がなんとかしてくれるでしょうし!」

 

 ...あぁ。

 この人は本当に。

 

「先輩マジリスペクトっす」

 

「な、なんでですかぁ!?」

 

「そういうところっす」

 

 結局ぼくまで心配してくれる。

 ほんと、尊敬すべき素敵な先輩だよ。

 そんな素敵な先輩をぼくのお金でお腹いっぱいにするためにも、明日の仕事はがんばりますかぁ。

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