軋むベッドの音。
ヒナちゃんの横に背中を向けて寝転ぶ。
「…どうしてそっちを向いてるの?」
ぼくは返事をせずに目を閉じる。
二人で同じベッドで寝るってだけでも恥ずかしいってのにそっち向けるわけないやろがい!
ぼくはこのまま惰眠を貪って依頼料までゲットしてやると決めたのだ。
このまま断固ヒナちゃんには背中を向けると今決めた。
ぐいっ、と、
そんなぼくの決心はあっさり覆される。
その小さな体からは想像もつかないような凄まじい力で外に向けていた体をごろんと内側に転がされる。
驚いて思わず目を開けてしまったぼくの眼前には。
「ちょぉ!?ヒナちゃん!?」
彼女の紫色の瞳がぼくをじぃっと見つめている。
彼女の手が、僕の後頭部に触れる。
引き寄せられる。
鼻先が触れてしまいそうなほどの至近距離。
彼女の瞳はぼくを捉えて離さない。
ぼくも彼女から目を離せない。
彼女が呼吸をするたびに、息遣いを感じてしまう。
彼女の香りで脳が満たされる。
彼女でぼくが、支配されてしまう。
「…ハジメはどうして」
彼女の声が脳に響く。
「どうして、そんなに泣きそうな顔をしているの?」
ひゅっ、と息をのむ。
「…今日はずっとそんな顔をしてるわ」
思わずぼくは目を瞑る。
「そんなこと、ないと思うんだけど」
精一杯の抵抗。
そもそもぼくは自分で思ってるよりも表情が動かないはずだ。
泣きたくたって、顔に出てないはずなんだから。
「普段より肩が落ちてる」
ふと、目を開ける。
「口数が増える、妙に行動的になる、いつもより過剰に私を弄ってくる」
ヒナちゃんはやっぱりぼくの瞳をじっと見つめていて。
「ハジメは表情には出にくいけど、態度でどんな顔をしてるのか教えてくれるの」
ヒナちゃんがぼくの頭に添えていた手を動かし、ゆっくりとぼくの頭を撫でてくる。
「ねぇハジメ…私じゃ…話せない?」
強い意志を持っていたヒナちゃんの瞳が…揺れる。
ぼくは俯くように、視線を下げる。
するとヒナちゃんは、今度はぼくの頭を自分の胸に埋めるように、抱きしめてきた。
多分ぼくは、ここらが限界だった。
「怪我しちゃってね…シャーレに行けないの」
「…どうして?こうして仕事はできてるのに」
「ぼくが怪我してるとね、ソラ先輩と先生が、すっごい心配しちゃうんだ…二人ともいい人すぎるんだよ…ソラ先輩はまだ中学生なのに…先生は大人だけど、ぼくは生徒じゃないのに…これ以上二人に迷惑をかけたくないから行けないんだ…でも…さびしい…」
頭に浮かんだ言葉は、そのままぽろぽろと口から漏れてくる。
感情が定まらない。
あったかい感覚に包まれて、思ったことがどんどん口から溢れてしまう。
なんだか涙まで溢れてきた。
ヒナちゃんはぼくの頭を抱きしめたまま、撫で続けてくれる。
風紀委員の執務室に、しばらくはぼくの嗚咽だけが響いていた。
ピピピピ ピピピピ
「ん…」
目が覚める。
目を開けても視界は真っ暗。
何かに視界を覆われている。
ふと、眠る前の状況を思い出し、
慌てて起き上がろうとする。
起き上がろうとする。
…
「ヒナちゃぁぁぁぁん!!!!起きてぇぇぇぇぇ!!!!!!」
起き上がれないんですけど!!!!!
完全にがっちり抱きしめられてビタイチ動けないんですけど!!!!!!!
この細腕のどこにこんな力があるってんだよ!!!
だからキヴォトスは嫌なんだ!!
どこもかしこも神秘にあふれやがって!!!!!
「んぅ…私も寝てた…?」
ヒナちゃん!!
起きたならそのがっちりロックしてるぼくを解放していただけるとですね…
おいィ!?
なんで逆にギュッでするんですか!?
柔らかい!!!
苦しくないけど柔らかい!!!
いい匂いもする!!!!!
「ヒナちゃん!?ヒナさん!!待って!解放して!!」
「うるさい抱き枕ね…」
「友達を抱き枕にするのはおかしいんだよなぁ!?」
タップサインのごとく抱きしめられた腕をパシパシと叩いてやっと解放されたぼく。
ヒナちゃんはそのまま半身を起こしてぐぐーーーっと伸びをしている。
コートを脱いだ彼女の上着は袖がないので腋が丸見えでなんか煽情的。
キヴォトスの生徒ってやつはどいつもこいつもどうしてこういうのが絵になる美人さんばっかなんだ!!教育に悪い!!
「ふぁ…名残惜しいけれどもう時間ね。またしましょうね、添い寝」
「もうしないよ!?」
「ダメ」
「ダメ!?」
まさかの拒否にぼくびっくりだよ。
「そうね…私が休みが取れた時にでも家に招待するわ。家のベッドの方が寝心地がいいもの」
「待って」
「文句はこうでもしないと本音を吐くこともできない私の友人の性格を恨んで」
ぐぅ。
思わぬ反撃に何も言えないぼくを尻目に、ヒナちゃんは自分のデスクへと向かってぼくの今日の出向証明書を記入し始める。
「ああ、そうそう。先生がハジメのことを気にしてたから終わったら一度シャーレに行くこと」
「はぁ!?いやそれはちょっと…」
ぼくは思いがけないヒナちゃんの言葉に無意識に額の傷跡を隠すガーゼに手を触れる。
このまま行ってもまた心配をかけてしまうだけで…
「ハジメ、もし私が怪我をしているのを隠すという理由で友人が顔を出さなくなったのを知ってしまったら、とても辛いわ...あなたが怪我をすることの何倍も」
「…ヒナちゃん…」
「そして二度とそれが起こらないようにあなたが私の目の届かないところに行けなくなるように死力を尽くす気がする」
「ヒナちゃん?」
「あなたはゲヘナ学園の生徒として風紀委員会に在籍して委員長補佐という名目でずぅっと私の隣にいるの。住む場所も用意するわ。私の部屋だけど」
「ヒナさん?まって?」
なんか話の方向性が危険で危ない方向になってきた!?
ヒナちゃん!落ち着こう!!
「それは冗談だけど…それくらい、逃げ回られる方が傷つく。あなたの仕事に不義理は禁物でしょう?シャーレ所属、特殊人材派遣代行部さかまんじハケンサービス部長、安納ハジメさん?」
そう言いながら笑顔で出向証明書をぼくに差し出すヒナちゃん。
「ハァ…わかりましたよぅ…行きます行きますよ…」
ため息をつきながら出向証明書を受け取るぼく。
明日…明日ならワンチャン傷消えてない?
「ちなみに今日この後行ったかきちんと先生が教えてくれることになってるから」
「神は死んだ!!!」
「そういうわけだから観念して行きなさい。友人のお願いくらい、聞いてくれるわよね?ハジメ?」
「…その、明日…ワンチャン明日にするというのは…」
「なるほど、つまり今日は私とお泊り会ね?友人とそういうことをするのは初めてだから楽しみね」
「いや、流石に突然お邪魔するのは失礼ですね!!ちゃんとシャーレへ向かいます!!ハイ!!!」
なるほどってなんだよ。
というかさっきの状況を思い出してそのまま今夜もヒナちゃんとお泊り?
心が死んじゃうだろ!?
「私はどちらでもいいけど…」
よくないんじゃい!!
ぼくの友人がなんかグイグイくる!!
こんなところにいられるか!!ぼくは逃げるぞ!!
「今日はカンベンしてください!!それでは、本日はさかまんじハケンサービスのご利用、誠にありがとうございました!! またのご依頼、お待ちしております!!」
ぼくは逃げるように退勤の挨拶をして執務室を後にする。
「えぇ、お疲れ様。またね、ハジメ」
そんな声を背に受けながら。
くそっ覚えてろよ!!!
ぼくは
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ヒナは友人を見送った後に、アコへと連絡を入れ、執務室の椅子に座り、書類を整理する。
直近の急ぎの書類はほぼ処理できている。
想定よりも処理できた量は少ないが、それでも普段一人でこなしている時に比べれば進捗は良い。
ハジメと仕事をしている時は、非常に効率よく進む。
それは確かにハジメと一緒に仕事をすることが楽しいという面もあるが、それを差し引いても、ハジメの仕分けした書類は日付、締め日、重要度などの観点から適切な順番でこちらに回してくるため恐ろしくやりやすい。
風紀以外の観点から意見を求めた時も求められた情報を違わずに必要な部分を必要な視点で返してくれる。
ハジメは
「ヒナ委員長、天雨アコです、失礼します」
コンコン、というノックの音。
ドアを開き、アコが執務室へと入ってくる。
「お疲れ様、アコ。ところで朝の件なのだけど」
「いやあれはほんと事故と言いますかあそこまでさせるつもりはなかったんですよ!?」
ヒナの言葉にアコは必死に弁解する。
「まぁ、あれについては多分あの子の暴走だったんでしょうけど…どうして手錠をしたまま連行なんてさせたの?なんとなく予想はついてるけど…」
ヒナの冷めた視線に身を縮こまらせてたアコ。
やがて観念したかのようにぽつぽつと語りだす。
「その…本当にこれで契約を減らすとかそういった意図はなくてですね…その逆と言いますか…これを理由に少し風紀への出向に融通が増やせないかと思いまして…なんならそのまま風紀委員所属という形に持って行けたら理想だな、と」
「それで優位性を示すために手錠をしたまま連行したら思ったよりも真剣に受け止められてしまった?」
「…おっしゃる通りです」
思惑を指摘され完全にうなだれてしまうアコ。
「アコのその得を取るために全力を尽くす姿勢は非常に頼りにしているけれど…今回は相手が悪かったわね」
「えぇ…まさかあそこまでシャーレを優先するとは思っていませんでした…上手くいけばゲヘナの風紀委員としてそのまま抱き込めないかと思ったんですけど…」
「アコはそういう部分の詰めが甘いわ...ハジメがそれを望むならあの子はすぐにでもゲヘナの学生になれるのは知ってる?」
「えっ!?」
ヒナからの思わぬ指摘にアコは驚く。
「これは私も先生から聞いたことだけど…
「万魔殿…マコト議長からですか!?あのタヌキが何かを企んで…?」
「最初は私もそれを疑ったけど…多分もっと単純な理由ね。ハジメはマコトのお気に入りの
「安納さんの交友関係の広さに余計に驚きますけど…つまり今日の私の行動は…」
「空回り、ね」
ヒナの言葉にがっくり、と完全にうなだれてしまうアコ。
「そういえば今日はハジメとチナツと3人で休憩をとったの。とても有意義な時間だった」
「え、なんですそれうらやま…楽しそうな!?私も呼んでくださいよ!!」
「またハジメがチナツと企画してくれるらしいから呼んでもらえるといいわね、天雨サン?」
「くっ!!安納さんみたいな呼び方しないでください!というかあの人はどうして未だに私だけ他人行儀な呼び方なんですか!?」
「第一印象を大切にするそうよ?変に最初から疑ってかかって契約書に小細工を仕掛けたのは誰だったかしら?」
ハジメがハケンをはじめて間もない頃に依頼をした日にアコが仕掛けた巧妙な契約書。
後日発覚したそれは他の風紀委員からの指摘とアコ自身の仕事へ誠実なハジメの態度を見てからの罪悪感によって是正はされているのだが。
ハジメは当然根に持っていた。
今ではそこまで気にしてもいないのだが、如何せん、策略型のアコとハジメでは、印象を払拭するような機会に恵まれない。
そのため結局今までずっとアコだけが天雨サンと呼ばれて今に至っている。
「ねぇ、アコ。今回の手段は、あまり褒められたものではなかった」
「はい…それはもう反省しております…」
「えぇ、もしまた同じような機会があったら手札として温存すべきだと思う」
「…ヒナ委員長?」
常では決してしないような指摘をするヒナに、アコは疑問を浮かべた顔を向ける。
「ハジメはたまにふと、消えてしまいそうな危うさがある。だからもし、もしもそうなった時には…絶対に見つけ出して、
ヒナから発される重圧に、思わずアコは息を呑む。
「…冗談。でもそういう次の機会を待つ慎重さも大事。私が言いたかったことはそれだけ。」
くるりとアコから視線を切って、ヒナは自分の執務用の机に座り、書類作業を再開する。
「もう戻っていいわ...まだ残っている仕事があるなら手伝うけど?」
「い、いいえ!!今日はもうほぼ終わりましたので!!安納さんのおかげですね!!!それでは失礼します委員長!!!」
完全に固まってしまっていたアコはヒナの言葉に返事を返すと執務室から退室する。
アコが完全に退室した執務室。
ヒナは手にしていた書類を机に放り、椅子に深く座り直し、天井を見上げ目を閉じる。
「…えぇ、ハジメが望まない形でここに来るのは、本意じゃない」
空崎ヒナにとって、安納ハジメは親友だ。
ヒナはハジメという親友と対等でいたい。
お互いを信頼して支えあっていきたい。
だからこそ。
「ハジメが
執務室から行政官室へと戻る道すがら、アコは内心で頭を抱えていた。
「…安納さん、なんであそこまで委員長に執着されてるんですか!?」
確かに安納ハジメという人物は非常に優秀だ。
教えた仕事はすぐこなし、確認を怠らず、報連相も徹底している。
必要なレスポンスをすぐさま返せるのは得難い才能で、人柄もよく、風紀委員の中でも非常に評判がよい。
与えられた仕事はすべて支障なくこなし、何より腕が立つ。
あのヒナ委員長と訓練とは言え肉薄し、及ばずまでも戦闘として成り立つというのは驚異的な事である。
状況を選ばず臨機応変に、そんな理想の極限を体現したような人物であるとアコは考えている。
最初に疑ってかかってしまい、自分には些か塩対応であることは否めないが、自業自得であるし、今でも後悔している。
なんなら自分としても非常に好ましいと思える人物だ。
「安納さん、本当に突然消えたりとかしないでくださいよ…」
はぁ、と顔に手を当ててため息をつきながら今ある書類を精査する。
いざとなれば必要になる最重要な手札を無駄に使ってしまったのだ。
それなら何か別の手札を用意しておくべきだろう。
ゲヘナ風紀委員会の行政官として、失態を失態のままにしておくなどという愚を犯すわけにはいかないのだ。
「まったく…いつかこの借りは返してもらいますからね、安納さん…!!」
その日の行政官室の明かりは煌々として、夜が更けても消えることはなかったのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
さて、やってきましたシャーレへ。
いや実は着いてからもう10分くらいは経ってるんだけども。
いやこう、ね。
なかなか入る勇気が湧かないというか…
いやでもこれで行かなかったら本気でヒナちゃんが家に襲来しかねない。
なんと住所は割れているのである。
直接招いたことはないんだけどあの子はなんていうかやると言ったらやる凄みがあるからさ…うん…
「とても辛い…かぁ」
ヒナちゃんに言われた言葉。
確かにぼくも逆の立場で考えたらどうして言ってくれないんだろうって思っちゃうと思う。
実はわかってはいるんだ。
結局ぼくは慕っている人たちに怒られたくないから逃げてるだけの
心配をかけたくないというのも、嘘ではないけど。
そもそもすでに心配させているのは朝のメールからも明らかで。
よし、覚悟を決めた!!
ぼくはシャーレの門をくぐり、ずんずん歩く。
まずはエンジェル24だ!
そしてシャーレ内、エンジェル24前。
今ならソラ先輩がいるはずだと歩いてきて目の前にいるのだが…
どうして…
どうして先生もいるんですか…?
くそぅ…
ビックイベントはひとつづつ消化しないと消化しきれなくて死ぬこともあるんだぞぅ…
そんなワケでぼくは入り口で二の足を踏んでいたのだが…
「…何してんのアナタ」
「げっ、早瀬じゃん」
早瀬ユウカ。
ミレニアムサイエンススクール、セミナー所属の会計。
【冷酷な算術使い】の二つ名は有名で一部では恐れられている。
先生の出費に一番うるさい生徒でもある。
なんていうか…重量感あるよな、重いよお前の愛。
「何かとても失礼なことを考えてない?」
「ヒェッ」
心を見透かすな!!
「まったく…シャーレの入り口でウロウロウロウロ…不審者かと思って様子を見に行ったら堂々と入り口から入ってきて、今度はエンジェル24前で柱に隠れて中の様子を伺う…何がしたいのよアナタは…」
「おっ?ストーカーか?先生と違ってぼくは全力で抵抗するぞ?」
「誰がストーカーか!!…ハァ、どうせその額の怪我を見られるのが怖くてウジウジしてるんでしょう?」
「は?いったいぼくがどうやって怖がってるって証拠だよ?」
「アナタがその妙な口調になる時は図星をつかれて煙に巻こうとしてる事は確定的に明らかよ」
!?
「は、早瀬…!?なぜお前が古の黄金の鉄の塊の言語を…!?」
「…アリスちゃんに変な言葉遣いを教えるのはやめなさい。アナタのせいで一時期ずっとあのへんな言葉遣いになっててこっちも覚えるの大変だったのよ!?」
「アッソレハホントスイマセン」
アリスちゃんなぁ…あの子純粋すぎてちょっと変な事教えても全部真っ正直に受け取っちゃうからね、うん…
「…とにかく!こんなとこでウジウジしてる暇があるならさっさと行きなさい。その方が合理的よ…二人ともアナタを待ってるんだから」
そう言って早瀬はぼくの首根っこを掴みエンジェル24へとずんずんと突き進む。
「ちょ、ちょ、ちょっと待って下さい!待って!助けて!待って下さい!お願いします!アアアアアアアア!」
ずるずると引きずられるぼくはそのままエンジェル24へと連れ込まれてしまう。
「ハジメさん!!おかえりなさい!!」
"おかえり、ハジメ"
「あ、その…ただいま」
ぼくは、二人の出迎えになんだか泣いちゃいそうな気持をぐっとこらえて、ただいまと返した。
「ところでハジメさん?おでこはどうしたんですか?」
めっっっっっっちゃ笑顔のソラ先輩がぼくに問う。
え?こわい。
こんなに笑顔なのに怖いソラ先輩初めて見た。
こわ。
「えーとまぁ、お仕事で、ですね…」
「なんでメールで嘘ついたんですか?」
めっちゃ食い気味じゃん。
めっちゃ笑顔じゃん。
めっちゃ怖いじゃん…
「いやまぁ、報告するほどのことでもなく」
「なんで嘘ついたんですか?」
怖いって言ってんだルルォ!?
ぼくが笑顔でソラ先輩に詰められてひーひー言ってるとき。
"お手柄だよユウカ"
"いつ入ってくるんだろうって二人で話してたんだ"
「そもそも入り口で立ち往生してるのを見てこっちに来たんですもんね…」
なんて二人は話してた。
は?そもそも見られてたとかマ?
滅茶苦茶恥ずかしいんだが???????
「ハジメさん、報告、連絡、相談は綿密にしましょうって教えましたよね?」
「ハイ…」
「これはいざという時にこの3つのどれかが疎かになっていると取り返しのつかない事態に発展することもあるからです。覚えていますか?」
「ハイ…」
「覚えていたのに、嘘ついちゃったんですか?」
「アッアッゴメンナサイ…」
そんなぼくは今ソラ先輩からガッツリお説教されてます。
いやこんなにお説教されたの初めてのお説教の時以来じゃない?
ってかあの時より詰め方エグくない?
「確かに、前にハジメさんが怪我をしてきた時は慌てすぎてしまいました。ですが!今回はあの時とは違います!」
「ハイ…」
「何が違うか、わかりますか!?」
ソラ先輩は正座して俯き、謝罪マシーンと化したぼくの両肩を掴んでそう問う。
見上げたぼくの眼前には真剣な表情のソラ先輩。
あぁ、ソラ先輩。
そんな
「…嘘を、つきました」
「…そうです、ハジメさんは私と先生に嘘をつきました…私たちは、頼りないですか…?」
「っ!?それは違う!」
思わず叫ぶぼく。
ソラ先輩はそんなぼくに微笑みかける。
「私はあれからハジメさん用に絆創膏とか消毒薬とか、お店に常備してるんですよ?ちょっとした傷ならすぐ手当できちゃいます!」
"私は他の詳しい生徒に包帯の巻き方とか教わったよ。"
"もちろん、大怪我をしてたらすぐにお医者さんに連れて行くけどね"
ソラ先輩と先生が、そんなことを言う。
あぁ、なんで。
なんでこの人たちはこんなにぼくに優しいんだろう。
「ぶふっ!!」
…早瀬さぁ…
「んっん!ごめんなさい。私には気にせず続けて?」
無理だが?
わざとらしい咳払いしてっけどお前が噴出したのばっちり聞こえてんだわ???????????
"えーっと…ユウカ?"
「あぁ、すみません先生、ソラちゃん。茶化したりするつもりは本当になくて…」
くすくす笑いながら言っても説得力ねンだわ。
「ただ…あの安納ハジメがこんなに殊勝な態度をしてるのを見るのは初めてで…なんだかあまりにも普段とギャップがあったもので」
"そうなの?"
おっ、待てぃ。
ソラ先輩の前で普段のぼくの話をするのはやめろ早瀬ェ!!
「彼女とは会計監査の時に対象の部活で相対することが多くて…すごいんですよあの子。あの手この手でどうにかして予算を多く取ろうとしてくるんです。そのへんのミレニアムの生徒なんかよりよっぽど手強くて」
ぼくが後ろ暗い事してるみたいな事言うなって!!
これでもソラ先輩には品行方正な後輩として通してるんだぞ!!
先生?あの人には言われたくないっすわ(領収書を見ながら)
「でも絶対に嘘はつかないんですよあの子。絶対に言う事には根拠があって、意味がある…まぁ、そこからとにかく拡大解釈なんかも駆使して1円でも多く予算を搾り取ろうとしてきますけどね?」
「つく必要のない重箱の隅を穴が開くほどつきまくる早瀬も悪いと思う」
「そうでもしないと出す必要のない予算を巧妙に搾り取るアナタも悪いと思うわ」
悔し紛れについたぼくの悪態にきっちり言い返してくる早瀬。
だってコイツ数字が関わってるときマジで滅茶苦茶優秀なんだよ…
天才と言ってもいい。
"なるほど、二人はよきライバルなんだね"
「認めるのも癪ですけど…そうとも言えますね…ですので、それらを総合して鑑みるに」
早瀬はぼくを見て、ニヤリと笑う。
「そんなこの子が、叱られたくないなんて理由で嘘をついて逃げ回る子供みたいなことするなんて…普段してやられることもある私としてはとても溜飲の下がる思いです♪」
めちゃくちゃいい笑顔でいう早瀬。
あー、怒りでなんかデビルマンに変身しそう。
「そもそもソラちゃんの前ではいい子ぶってたみたいだけど、アナタの破天荒さはミレニアムじゃ有名でしょう?ぜーんぶ教えておいてあげたわ!誰かさんが来ないからねぇ!!」
「屋上に行こうぜ早瀬ェ…久々にキレちまったよ…」
「ハジメさん?」
「アッハイ」
どさくさ紛れに早瀬にケンカ吹っかけて逃げようと思ったけどソラ先輩にがっしり両肩を抑え込まれる。
くっ、殺せ!
ぼくは普段の素行とソラ先輩からの圧に屈して大人しく正座を続行する。
「さて先生…そろそろオフィスに戻りましょうか?すでに1839秒が経過してます。今日の仕事もあと少しですからさっさと終わらせましょう」
"そうだね、ハジメの無事も確認できたし"
"戻ろうか、ユウカ"
そう言って早瀬と並んでエンジェル24の入り口からオフィスへと向かう先生。
「…先生!」
ぼくはそんな先生の背に声をかける。
「心配かけて…ごめんなさい!」
"困った時でも、そうじゃなくてもいつでもおいで"
"ソラも寂しがってたからね"
「せ、先生!ハジメさんが来るって教えてくれてありがとうございました!ユウカさんも色々教えてくれていつもありがとうございます!!」
「私もいい休憩になってたからお互い様ね。他の学園の子にも聞いてみたら?この子のことだからきっと色々ぶっとんだ話が出てくるに違いないもの」
早瀬ェ!!火種を!残して!行くんじゃない!!!!!
「あ、あと先生。ヒナちゃんの健康を気遣った結果なのはわかるけど生徒にベッドを先生が送るのは控えめに言ってどうかと思った」
"ちょっハジメ!?"
「ベッドを送る!?先生!?どうしてそんなことになったんですか!?」
"その、これには深いわけが…"
「えぇ、先生の事ですから何かきっとワケがおありなんでしょうね?じっくりと聞かせてもらいます、ほら、キリキリ歩いてください!!」
"あ~れ~"
早瀬に引っ張られて先生はオフィスへドナドナされていく。
いやぁ、結果的にはよかったけど突然添い寝を脅されたぼくの気持ちもわかってほしいんだ。
「ソラ先輩も、ご心配をおかけしました…」
ぼくは先輩に謝罪をする。
優しい先輩はこういうとぼくのことを許してしまうだろう。
この優しすぎる先輩に心労をかけるのは本当に申し訳ないなぁと
「はい…心配しました」
!?
ソラ先輩に突然抱きしめられてぼくは面食らう。
「ユウカさんに聞いて、私の知らないハジメさんを少しだけ知りました…ハジメさんは私を先輩って呼んでくれるけど、教えたことはすぐに覚えて、なんでもできて、独立してお仕事をするって決まった時もあぁ、やっぱりすごいなって思ってました」
ソラ先輩の腕に力がこもる。
ぼくは、動けない。
「はじめて傷だらけでお店に来た時は大慌てしちゃいました。ハジメさんはなんでもできるって思ってたから傷だらけの姿にびっくりしちゃって…だから、次があったらきちんと怪我の治療とかしてあげたいって…色々準備してたんですよ?あの時色々してくれたセリナさんに教えてもらったりもしたんですよ?先生も一緒に教わってましたけど…」
ソラ先輩はぼくを抱きしめたまま。
ぼくは、動けない。
「あれから、毎日来ていたハジメさんがたまに来ない日があって…お仕事が忙しくなってきたからそういう日もあるだろうなって思ったんです。でも、そういえばあの日以来一度も怪我をしてる姿は見てないなって、気づいちゃったんです」
ぼくは、動けない。
「今回なんてもう、何日も来なくて…それで、気づきました。先生も言ってましたけど…寂しかったです、私」
びくり、と体が跳ねる。
ぼくが、先輩を寂しがらせてしまった。
「あと、怒ってます。ハジメさんが気を遣って怪我を見せないようにしてたのはわかってるんです。でも、嘘をつかれて怒ってしまいました」
「ソラ先輩…」
「頼りにならない先輩ですけど、私はもっと頼ってほしいって思ってしまいました…怪我をしてたら手当てします、できるようになりました。お弁当とかお菓子の新商品も、ハジメさんが好きそうなのはチェックしてます。中華まんも、実はハジメさんがいつもなら来る時間に一番おいしくなるタイミングで作り直してるんですよ?」
ソラ先輩。
この人は、
「でももう待ってるだけなのは疲れました!先輩命令です!これからは無理のない範囲でお仕事が終わったらここにきて私とおしゃべりしたりしてください!!私は先輩だからちょっと
マジリスペクトっす。
いやもう、ほんとに。
「…先輩命令じゃあ、従うしかないっすねぇ」
「あの、無理をしない程度ですからね?絶対に来ないといけないわけじゃないですからね!?あ、来れないときは連絡してほしいですけど…」
「ちなみに誰にアドバイスもらったんです?」
「ユウカさんです!!」
早瀬ェ!!!
「なんかソラ先輩を寝取られた気分…」
「…ねと?」
「あ、いえ深い意味はないです」
そのままのソラ先輩でいて。
いつの間にか店内で抱きしめあっていたぼくとソラ先輩は、今は二人でバックヤードで座ってる。
次のシフトのお兄さんが気まずそうに店内に入って来た時に慌てて離れたのはここだけの話。
お兄さん、スルーしてくれてありがとう…!
「でも早瀬のいう事はそんな信用しない方がいいですよ、アイツそれが必要なら嘘も平気でつくタイプなんで」
「この件に関してはハジメさんよりよっぽど信用できます!」
「あれぇ!?」
なんてこった、ぼくのソラ先輩からの信頼度が一部では早瀬に周回差つけられてる!!!!!
許せねぇ…ぼく許せねぇよ…!!
「絶対に許さんぞ早瀬ユウカ…じわじわとなぶりごろしにしてくれる…!」
「なんでそんな物騒な事言ってるんですか!?」
ぼくの物騒な呟きに思わずツッコミを入れるソラ先輩。
なんだかやっといつも通りに戻れた、いや、いつもよりも仲良くなれた気分になって。
「大丈夫ですよ先輩。証拠を残すようなヘマはしません。プロですから」
「なんのプロですか!?本当に危ないお仕事はしてないんですよね!?」
あ、そういえばまだ今日は言ってなかったな。
「先輩、マジリスペクトっす」
「…ハジメさん、リスペクトって言ってる割に私の事あまりリスペクトしてないですよね」
!?
「いやしてますよ?そもそもぼくの人生哲学ですよ?ソラ先輩の生き様が今日のぼくを作ってると言っても過言ではないんですよ?ソラ先輩とは言えこれを否定するのは許されませんねぇ…いいんですか?朝日見ることになりますよ?これ語らせたらぼく長いですよ?????」
「お、思ってたよりも真剣な答えが返ってきた!?流石に帰らないと怒られちゃいますからぁ!!」
その後ぼくはソラ先輩を如何にリスペクトして自分の生き様に影響を与えられているのかを滾々と語って聞かせた。
正直2割も話せていないが、ソラ先輩の自転車でソラ先輩を後ろに乗せてソラ先輩のお住まいまで送っていって、着いてしまったので仕方がない。
こうしてなんだか妙に長く感じた今日一日が幕を閉じたのであった。
ゲヘナ学園風紀委員会編、終了です。
次はミレニアムあたりやりたいっすねぇ
感想、評価、誤字報告などいつもありがとうございます。
励みになります。