目が覚める。
携帯電話を確認、通知アリ。
枕元に置いてある手帳を開き予定を確認。
今日のハケンはミレニアムサイエンススクールのゲーム開発部。
手帳の今日の日付には赤い花丸が書いてある。
特別依頼である。
特別と言っても何か難しい依頼だったりとかそういう意味ではまったくない。
よほどのことがない限りこの依頼主からの依頼は最優先で受けると決めていて、その依頼を手帳に書く際にわかりやすくしてあるだけだ。
携帯電話を操作して通知を確認。
ソラ先輩からのいつもの応援メッセージ、いつもの通りリスペクトの表明をしてぐっと伸びをして脳を活性化させる。
いつもの朝、いつものやり取り。
ソラ先輩とは別にもう一件。
【"急な依頼になっちゃったけど引き受けてくれて助かるよ"】
【”ゲーム開発部の皆にもよろしくね”】
と、
…何さ。
先生とソラ先輩は特別なので、特別依頼だ。最優先だ。
何か問題でもある?
洗面台で寝ぐせで跳ねた髪の毛を整えたり、歯を磨いたり、身だしなみを整える。
クローゼットを開けてミレニアムサイエンススクールの一般的な制服を取り出す。
あそこは制服に関しては緩いというか、制服あるけど結構みんな自由な服装してるよな…
まぁ、ぼくはハケンの時は基本的に行く先に合わせたコーディネートをすると決めてるので、今日はミレニアムサイエンススクールの制服だ。
朝ごはんはいつもの通りシリアルと牛乳で済ませ、忘れ物がないかを確認する。
忘れ物はナシ、特別に持っていくものもない。
バッグのファスナーを閉める時に、引き手につけた青い花のストラップが目に入る。
先日、ふと目に入ったので購入したもの。
キレイだ、とかカワイイ、とかそういう感情で買ったものではなかったが。
ソラ先輩がいつも身に着けているシュシュの花に、似ているなと思って、気が付いたら購入していた物だ。
これを眺めていると貴重なソラニュウム*1を摂取できるので衝動買いだったが手に入れて正解だった。
欠点は早くソラ先輩に会いたいなぁ、と思ってしまうところだ。
仕事開始前から何を考えてるんだか。
両頬を自身の両手で軽く張って気合を入れなおす。
玄関横の小さな靴箱からミレニアムサイエンススクール指定のヒールのあるショートシューズを履いて準備完了。
ぼくは玄関の鍵を閉め、最寄り駅へと向かった。
キヴォトス広域都市鉄道Mラインを利用してミレニアム方面へ。
下車をしてからさらに学園内のモノレールを利用してゲーム開発部のあるエリアへと向かう。
ミレニアムサイエンススクール。
科学技術に力を入れているこの学園は、キヴォトスの三大学園に名を連ねているが他の2校よりも新興の学園だ。
元は「千年難題」という今の技術では解けない7つの難題に立ち向かう研究者達の集まりがあり、「千年難題」に取り組む実験や検証の過程で研究機関が増えてきた結果誕生したらしい。
らしい、と言うのはぼくも本の知識でそういう興りだと知っただけだし、ここの生徒たちは「千年難題」に挑んでます!!っていう感じじゃないしなぁ…
他の学園に比べたら知識や技術に貪欲な子が多い学園、くらいの印象だ。
知らないことを知りたい、これをするとどうなるか、知りたいやってみたい。
そんな子たちが多くいる、このミレニアムサイエンススクールという学園。
ぼくは結構好きだ。
「あ、師匠です!!」
ゲーム開発部の部室までもう見える距離まで近づいたところで部室の扉からひょこっと顔を出した黒髪の少女がぼくの方にぽてぽてと寄ってくる。
「おはようございます師匠。今日のクエストは師匠との修行イベントだと聞きました」
「おはようアリスちゃん。そだよー、修行イベントのクエストが受注されたのでこうしてやってきました」
独特な言い回しでぼくに笑顔を向けてくるのは天童アリスちゃん。
ゲーム開発部に所属するちょっと独特な喋り方をするがとても素直で優しい可愛らしい子だ。
「パンパカパーン!勇者とその仲間たちに最強の助っ人が加わった!行きましょう師匠、モモイとミドリとユズも待ってます!」
唐突なファンファーレを口で言ったアリスちゃんはぼくの手を取ってゲーム開発部の部室へと引っ張っていく。
ちなみにこの子は小さなその見た目からは想像ができないほど力持ちである。
そんな子に全力で引っ張られるとどうなるかというと
「あ、アリスちゃん!?ちょ、ステイ!勇者ステイ!!引っ張らないでもついてくから!!ちょっつよい!ちからつよいですね!!」
「それほどでもない!」
謙虚だなぁ憧れちゃうなぁ。
無邪気なアリスちゃんの全力のお手手つなぎ歓待によってぼくはごく短い距離だが、空を泳いだ。
まるで鯉のぼりのように。
肩が外れるかと思った!
素直に痛かった!!!!!!
「毎度…ゼェッ…ありがとうございます…!…ハァッ…!さかまんじハケンサービス、
アリスちゃんに全力で引っ張られて痛む肩の痛みに悶えながらなんとかゲーム開発部の皆に出向の挨拶を終え、ゲーム開発部部長、花岡ユズに出向証明書を手渡してそのまま崩れ落ちるぼく。
すぐ近くでよかった…!もしモノレールステーションからそのままあの調子で
アリスちゃん…恐ろしい子…!!
「は、ハジメ!?しっかりして、傷は浅いよ…!」
崩れ落ちたぼくに駆け寄ってぼくの背に手を添えて支えてくれるユズ。
「ユズ…ぼくより強く…ゲームの上手い女よ…せめてその胸の中で…」
「おぉ!あれカシオペアの拳の名シーンじゃん!!ハジメはこういうの外さないなぁ~!」
「大会でやると長いってヤジが入るシーンだよお姉ちゃん…私の使ってるキャラが勝った時のシーンだから複雑…」
がくり、と倒れるぼくとそれを支えるユズを見て賑やかしているのは才羽モモイ、それに合いの手を入れてツッコミをしているのが才羽ミドリちゃん。
二人ともゲーム開発部の部員で双子の姉妹だ。
「し、師匠すみません…久しぶりに師匠にゲームを教わると聞いてアリスはバーサク状態になっていました」
「ええんやで…そうして経験を積み、勇者として成長していくんだ…」
立ち上がって申し訳なさそうにしょんぼりとして俯いているアリスちゃんの頭を撫でてあげる。
「はい!アリスは今日の出来事を糧にして勇者として日々成長します!」
ぐっと胸の前で両手を握りしめるアリスちゃん。
う~ん、素直!
「それで大会に向けての練習ってことだけど…わざわざハケンで先生を通さないでも普通に呼んでくれれば手伝うのに」
「何言ってるのハジメ!今回はそんな甘い考えじゃあいられない負けられない理由が私たちにはあるの!!」
ぼくの言葉にモモイがぐっと握りこぶしを作り熱弁する。
「今回のカシオペアの拳大会は優勝賞品がカシオペアの拳家庭用が発売された時に作られた限定仕様のプライステーションなんです」
気合だけは伝わってくるが要点がまったく伝わってこないモモイの言葉に補足するように要点を伝えてくれるミドリちゃん。
うーん姉より優れた妹…
「激レアでなかなか手に入らないプライステーションにさらに限定生産のカシオペアの拳のイラストで外装がコーティングされてる激レア仕様!ゲーム開発部としてはなんとしても手に入れないとね!」
「伝説の超激レアアイテムを手に入れるためにアリスもがんばります!」
モモイの宣言にアリスちゃんも続く。
ん?
「ユズが出ればほぼ勝ち確では?」
「オフ大会*2でそんな豪華賞品のある大会に参加するなんて無理…!」
ふと口にしたぼくの疑問にこの世の終わりのような顔をしながらそう返すユズ。
あっ、そっかぁ…参加者も
「それに今回は3on3だからね!ユズが参加できないなら私たち3人で優勝するの!」
「わたしも練習には付き合うし応援にも行くけど…対戦相手がずっと同じだと人読み*3とかが強くなっちゃうから教える役がもう一人ほしくて…ハジメは教えるのも上手だから…」
あら、嬉しい事言ってくれますわね~ユズったら!
「なるほどねぇ…しかし限定仕様のプライステーションかぁ…ぼくも参加するーとか言い出すと思わなかったの?」
もちろんそんなつもりはないけれどちょっと意地悪したくなってそんな事を言ってしまう。
「ふふん、甘いねハジメ!そう言いだされるかもしれなかったからお仕事として頼んだんだから!!」
「なん…だと…!?」
びしっとぼくを指差すモモイに驚愕の表情を浮かべるぼく。
「ハジメの今日のお仕事は私たちを勝てるように強くすること…つまりこの大会に限っては…私たちに勝っちゃダメってこと!どうハジメ!これはち…ち、地脈よ!」
「知略だよお姉ちゃん」
「知略よ!!!!」
ミドリちゃんの指摘にちょっと顔を赤くしながら言い直すモモイ。
「くっ…確かにハケンとして受けた以上それを邪魔するようなことはできない…!モモイ様は本当に頭の良いお方だ…!」
「いぇーい!」
「いぇーい」
モモイとぼくでハイタッチ。
今のやり取りはまぁカシオペアの拳の名セリフの応酬である。
お互い言いたいセリフを言ってお互いをたたえ合うハイタッチ。
モモイはこういうやり取りが好きなので結構こんな感じでネタ振りをしてくる。
ぼくがちゃんと拾えるとこうしてハイタッチするところまでがいつものやり取りだ。
「そういうわけだから明日の大会に向けて今日は夜通し練習の強化合宿だから!」
「…明日?夜通し?」
「あれ?先生から聞いてない?」
「…ちょっと待って」
モモイからの疑問の声にぼくはユズに渡した出向証明書を一度返してもらって内容を確認する。
…〇月×日の大会に向けての最終調整を泊まり込みで行うため、そのサポートを行う。
…先生からの依頼だからって内容をきちんと確認せずにいつものような依頼だと思って受けてたぁぁぁぁああああああ!!!!!!
予定は問題ない…
服もまぁ…一日くらいなら問題はない…明日の朝にでも着替えるために一度家に帰れば…
だが…
下着は…さすがに下着をそのまま継続して着用するのは…!!
「…えー、その…」
「ハジメ?もし都合が悪いなら無理はしないでも…」
ユズに出向証明書を再度渡したぼくはそんな心配をされてしまう。
「いやいや、依頼内容をきちんと確認してなかったぼくの落ち度だし別に明日は仕事入ってなかったから予定的にも問題ないんだけども…その…」
「その?」
問題ないという言葉に少しほっとしたような表情を浮かべたユズだが言葉を濁しているぼくの言葉を聞き返すユズ。
いやぁ、その、泊まると思ってなかったから、ね?
「…か、替えの下着だけ、買いに行ってもよかですか…?」(蚊の泣くような声で)
「「「!?」」」
めっちゃいたたまれない気持ちでそう零すぼくにユズ、モモイ、ミドリちゃんが驚いた表情を浮かべ、おろおろとし始める。
「そ、そうだよね!泊まりだと思ってなかったなら持ってきてないもんね!!!」
「購買かショップエリアに行けば売ってると思います!!」
モモイとミドリちゃんがそうフォローしてくれるが
「???下着がないならアリスのを貸しますか?」
ぶほっと思わず何かを吹き出してしまいそうになる。
「あ、アリスちゃん!?それは流石に…!」
「装備の流用は低レベル攻略では重要な要素です!師匠とアリスならサイズ的には問題ないと思います!」
出来るだけ穏便に嗜めようとしてくれたユズだがアリスちゃんはそんな配慮には気づかず笑顔でそう答える。
善意ィィィ!!圧倒的善意が痛ァい!!
こっちのミスで必要なものを用意できなかっただけでも申し訳ないのに下着を借りるなんてのは流石に…流石に!!
あとその、サイズ的にも多分問題あるんだ!!
ぼくはその…お尻とかは結構むっちりしてるので…多分入らないんだ!!!!!
何か…何か言い訳を…そうだ!
「アリスちゃん!下着というのはね…一度装備したものは専用装備になっちゃうから他の人が装備すると効果が出ないんだ!!!!」
「そうなんですか!?」
「そうなんだよ!!みんなも専用装備だもんね!?」
「「「そうだね!!!」」」
なんとかアリスちゃんを納得させようとして口から出た言い訳はそんな言葉だった。
驚くアリスちゃんに信じさせるように他の3人に水を向ければ3人で声をそろえてぼくの言葉を肯定してくれる。
すごい一体感を感じる…今までにない何か熱い一体感を…!
風…なんだろう吹いてきてる確実に、着実に、ぼくたちのほうに…!
「じゃあそういうことでちょっぱやで行ってきます!!練習の準備だけよろしく!!!」
すたこらさっさ~とゲーム開発部の部室から退避するぼく。
「下着の効果とはいったいどんな効果でしょう?モモイやユズやミドリの下着にもそれぞれユニーク効果がついてるのですか?」
「あ、アリス!!ハジメが帰ってきたらすぐに練習できるように一回このへんのものとかどかすクエストが発行されたよ!!」
「お、お姉ちゃんのクエストの次は飲み物とかを私と準備するクエストだよ!アリスちゃん!!」
「そ、そのクエストを両方達成すると追加クエストがあるからがんばろうアリスちゃん!!」
「わぁ!今日は新しいクエストが大量発生です!!」
モモイが起点となってなんとかミドリちゃん、ユズと続いてアリスちゃんの疑問を押し流すように
モモイ、ミドリちゃん、ユズ…!かたじけねぇ…かたじけねぇ…!!!
ゲーム開発部の皆からの熱いフォローにより、ぼくは
…依頼内容の確認は、ちゃんとしようね!!!!!!!!
今回のお話は分かりにくい単語や独特な言い回しが多くなりそうなので注釈多めです。
読みにくかったらごめんなさい。
感想、評価、誤字報告などいつもありがとうございます。
励みになります。