目が覚める。
「…んぅ…」
意識は覚醒したがなんだかまだ体の方にスイッチが入らないような感覚。
起きているのに目を開けたくないような、このまま目を閉じ続ければ2度寝してしまいそうだ。
でもなんだか名残惜しくてすぐに目を開く気にもならなくてその感覚に身をゆだねる。
「あれ?ハジメ起きたー?」
半分寝ているようなふわふわとした感覚。
あとちょっと…すぐ起きるから…
「…むにゅむにゅ…」
寝返りを打ってなんだか物足りないような感覚でぼくは体をさらに丸める。
「うわ...赤ちゃんみたいに丸まってるハジメちゃん可愛い…」
「ミドリはなんで顔赤くしてんの…まぁ確かに可愛いけど」
「お姉ちゃんだって「おぉ…」とか変な声出してたじゃん…」
うーん、もうちょい、もうちょい寝れそう…
まだアラームも鳴ってないしまだだいじょうぶ…
パシャッ
「「ユズ(ちゃん)!?」」
「しーっ…二人とも声が大きい…ハジメが起きちゃう」
「いやいやいや…ユズはなんで無言でハジメの寝顔撮影してるの?」
「えっと、レアスチルだから保存しておかないと的な…?ハジメの寝顔なんて見れる機会そうそうないだろうし…」
「…ユズちゃん、あとで私のモモトークに送っておいて。これは永久保存のために複数のバックアップを取っておくべきだよ」
「ミドリまで何言ってるの!?」
「「
うみゅみゅぅ…
じわじわと意識が覚醒に近づいてくる。
2度寝できそうなのに失敗した感じでだんだんと頭がはっきりしてくる。
「身支度クエスト完了です!あれ?師匠が猫さんみたいに丸くなってます…可愛いですね!」
これはもう起き時か…
ぼくはだるくてまだ開ける気の起きない瞳を閉じたまま体を起こす。
そしてそのまま眠気ごと吐き出すように大きくあくびをする。
「むにゅむにゅむにゅ…ふわぁぁぁぁぁ…んんー…っ…」
そのままぐぅっ、と伸びをして頭をぷるぷると振るう。
まだ眠気の残る目をこしこしと擦りながら目を開けて…
「あっ、おはようございます師匠!」
手を上げて元気いっぱいに笑顔を向けてくるアリスちゃん。
うん、これはいい、朝から元気で素敵だね。
で、君たち何してんの?
モモイはなぜか口元を抑えてそっぽ向いてるしミドリちゃんは両頬を抑えて口を開けてこっちを見ている。
二人ともなんか顔真っ赤なのなんで?????
あと一番わかんねーのはさ。
ユズはなんでそんなガチプレイする時みたいな真剣な顔してこっちに携帯電話のカメラ向けてるの????
「おはようハジメ」
「…えっあっ、おはよう…?」
ぼくが返事を返すとふぅー…と大きな息をつきながら携帯電話の操作を終わらせてこちらににっこりと笑顔を向けてくるユズ。
え、何?
「あっそうだ、さっきモモイがユウカさんに連絡してくれてハジメの着替えを用意してくれたから昨日着てた服はわたしたちの分と一緒に洗濯しておいたよ」
「
「大丈夫、今日の大会が終わって帰ってくる頃には乾燥まで終わってるだろうから」
「えぇ…ありがとう?でいいのかなコレ?…ところでユズはさっき何を」
「ハジメちゃん!そろそろ準備してご飯を食べて大会会場のゲームセンターへ行かないと!!!」
ミドリちゃんはそう言ってぼくの両脇に手を入れて布団に座ったままだったぼくを立たせ、ぼくが昨日購入したお泊りセットの内の歯磨き洗顔セットを手渡して部室の入り口へ背中を押して誘導する。
「えっ、いやユズ」
「そうだね!着替えはコレ!私が持っていくから急いで急いで!!!」
モモイは早瀬が貸してくれたであろう着替えの制服一式を持って一緒についてくるようだ。
黒いブレザーに青いネクタイということは早瀬の替えの制服をそのまま貸してくれたようだ。
これは後で普通に菓子折り持ってお礼行かないといけないやつじゃない?
いきなり言われて貸してくれるとか聖人か????
ミドリとモモイに更衣室(シャワールームに併設されているため鏡台付き洗面台も完備)に連行されながら、ちらりと部室を振り返ると。
ユズが携帯電話の画面をアリスちゃんに見せ、アリスちゃんはぼくを指差しながら画面とぼくを交互に見ている姿が見えた。
肖像権の侵害されてない??????????????
「おぉ~~~!ユウカの2Pカラーって感じ!」
歯磨き洗顔を終えて早瀬から借りた制服を着たぼくを見たモモイがそんなことを言う。
早瀬から借りた普段から彼女が着ているであろう制服はサイズ的には思ったよりも問題なく着ることができた。
上は少し大きめだがまぁ許容範囲。
「最初は私たちの内の誰かの服を貸そうかと思ったんだけど、その…ハジメちゃんに貸すには下のサイズが…」
下の、の部分で惜しげなく晒されたぼくの太ももに視線を向けるミドリちゃん。
ええ、問題ないサイズでございますね、下は…
「…ふっ…確かにぼくの下半身はワガママボディだからね…まぁ、助かった。早瀬に連絡してくれたんだって?ありがとねモモイ」
「気にしない気にしない!珍しいハジメも見れたしね!!」
「お、お姉ちゃん!?」
珍しい?
あー、そういえばセミナーの子の制服なんてはじめて着るからそれかな?
ミドリちゃんはなんで慌ててるん?
「確かにセミナー関係の格好ははじめてだ。あそこからはハケンの依頼来ないからなぁ」
なんでも守秘義務の情報が多いので外部の人間を雇っても任せられる仕事が用意できないんだとか。
前にシャーレのカフェで出くわしたときに早瀬に愚痴交じりに依頼を回せないことを遠回しに謝罪されたことがある。
「リオ会長の待ったさえなければアナタに雑多な書類業務を回してもらって私とノアで各自の専門の業務に割けるリソースが大幅に増えるはずなのに…アナタもうミレニアムに入学しない?」
とは早瀬の言だ。
ミレニアムサイエンススクール生徒会長の調月リオ氏。
ぼくは一度も会ったことがなく、名前しか知らないが早瀬が言うには調月会長が、ミレニアムにおけるセミナーで扱っている書類の守秘義務事項や情報の重要性などを鑑みてセミナーでの書類に関わる業務に関してはシャーレ所属と言えど、どこの学園にも属していないぼくに依頼することは許可が下りなかったらしい。
いやまったくもっておっしゃる通りで。
多分危機管理とかそういうのがものすごくしっかりしている人なんだろうなぁと思う。
そもそもあの早瀬が愚痴を言いつつもきちんと上司として敬っている人物なんだから悪い人ではないんだろうなぁと思ってる。
「もう、お姉ちゃん迂闊すぎ!」
「だ、大丈夫!格好の方って勘違いしてくれたから!」
「ん?二人ともどしたん?そろそろ戻ろ」
なぜかこちらに背を向けて肩を組んで何やらぼそぼそと話している二人に声をかけてぼくは更衣室を出る。
「あっ、おいてかないでよ~!!」
「ハジメちゃん、お姉ちゃん待って~」
モモイはそのまま、ミドリちゃんが更衣室の照明を落とし、扉を閉めて追いついてくる。
「ごはん何食べよっか」
「学食でもいいしゲームセンターの近くにも食べるところ色々あるよ!」
「そういえば営業時間がどんどん短くなってたあのお店、キーマカレー専門店に変わったみたいだよ」
モモイが返答し、ミドリちゃんがここぞとばかりに耳寄り情報を添える。
この二人の距離感というか呼吸と言うか、そういう雰囲気がとても心地よいなぁ、と思う。
「そのへんの地元グルメトークはぼくにはわからん情報だからなぁ、部室に戻ってユズとアリスちゃんも一緒に何食べたいか考えよう」
「さんせ~い!」
「そういえばアリスちゃんはお好み焼きを焼けるお店に行ってみたいって言ってたかも…」
そんな二人と和気あいあいとおしゃべりしながらぼくたちはゲーム開発部の部室へと戻るのだった。
その後道中のファストフード店で朝食を済ませたぼくたちはゲームセンターへとたどり着き大会へのエントリーを済ませた。
大会は3人1組の8チームによる先鋒から大将までの勝ち抜き戦のトーナメント。
我らがゲーム開発部の3人のチーム名は「テイルズ・サガ・クロニクル」である。
そしてついに大会が幕を開けた。
『おぉーっと第二ラウンド開幕でMOMORIAケンジのブースト2Bが刺さるー!!!刻んでブーセイエイブーバニから追撃で弱ウジョウ、近D挟んで安定の星3一撃ィ!!勝ったのはMOMORIAケンジの3タテでテイルズ・サガ・クロニクルチームの勝利ィ!!』
「クリアー!!私たちの勝利!!!」
「やったー!お姉ちゃんすごい!」
「怒涛の攻めでしたモモイ!!」
大会一回戦、モモイが持ち前の爆発力を発揮してまさかの相手チーム3人を1人で大将まで倒す3タテで勝利を掴む。
『これにて1回戦終了~!続きまして2回戦に移りたいと思います!2回戦第1試合はオリオンチームVSチャリで来たチーム!!配信台まで来てくださいー!!』
実況の呼びかけに従って試合を行っていた筐体を離れこちらに向かってくる3人。
ぼくとユズは筐体の画面が見える手前の大会の配信を行っている画面を映しているPCが見えるあたりの壁際で人の通行の邪魔にならないように立って観戦していた。
「ユズ!ハジメ!見てた!?」
「うん…!モモイ、すごくいい動きだったよ…!」
「最後のブー小足刻んで確認して安定ルートで一撃決めたのはえらかった。いやほんとえらい」
ほんとえらい。
モモイの動きの良さを称えるユズの横で観戦していた姿勢を崩さずにウンウン、と頷いて返せばモモイはいつものドヤ顔で胸を張ってご満悦だ。
「この調子で今日は私が全部3タテしちゃうかな~?」
「お姉ちゃん、試合前はあんなに緊張してたのに調子いいんだから…」
「正直最初は頭真っ白だったけど体がちゃんとコンボを覚えてた!あの練習は確実に私を成長させたんだよ!!」
そう、格ゲーのコンボは脊髄で出すもんだ。
手に馴染むまでひたすら無心に繰り返しているといざという時に考えないでも出せるようになってるもんだ。
モモイの言葉にぼくはウンウン、と頷く。
もはや全肯定マシーンである。
「…ところで師匠はなぜ腕を組んだままなんですか?」
この観戦スペースに来てから基本的にずっと腕を組んだままのぼくを不思議に思ったアリスちゃんが聞いてくる。
「ふふっ、アリスも成長したけれどまだまだ浅いところが残ってるね!これは通称スタンディングバイソン…ゲーセンで観戦をする時にとられる姿勢の中でも伝説級の観戦スタイルだよ!!」
バーン!という効果音が聞こえそうなくらいの大げさな身振り手振りでぼくの腕組みポーズをアリスに伝えるモモイ。
「お姉ちゃん、人にぶつかるから動きは抑えて」
「おっといけない!人に迷惑をかけないようにしないとね!」
うむ、ゲーセン内の狭い通路では人とぶつからないようにお互い気を付けるのだ。
「伝説級…なんだかすごそうです!名前の響きもカッコイイです!!」
アリスちゃんは目をキラキラさせてスタンディングバイソンのぼくを見ている。
スタンディングバイソンとは昔まだゲームセンターが隆盛の時代から連綿と紡がれる観戦スタイルである。
元々は順番待ちなどで筐体の後ろで観戦をしながら待つことが多かったあの頃。
観戦をする者たちはなぜか腕組みをして直立して待つ者が多かった。
その姿を見たものは皆が一様にとある有名ゲームのキャラクターを思い起こしたという。
その姿とは格ゲー時代の先駆けとも言われる超大人気ゲーム、スチューデントファイター2のラスボスの勝利ポーズである。
そのラスボスのポーズと酷似した観戦姿勢を古来からの格ゲープレイヤーはこう呼んだ。
「アリスも今度から観戦するときはスタンディングバイソンで臨みます!!」
「あんまり近くでやるとプレイしてる人の気が散っちゃうかもしれないからきちんと通路一個分離れて通る人の邪魔にならないようにするんやで」
「はい!周りの人の導線を阻害しないように気をつけます!!」
そう言ってぼくの隣に立ってぼくの見様見真似で同じように腕を組み直立するアリスちゃん。
可愛いなこの子。
「またそうやってアリスちゃんに変な事教えて…またユウカに文句言われるよ?」
ぼくとモモイのアリスちゃん育成計画を横で見ていたミドリちゃんがそんなことを言ってくる。
「これは観戦中に魂が勝手にこのポーズ取るだけだからセーフ。黄金の鉄の塊言語に関しては、反省してます…そういえばどうやってアリスちゃんにあの言葉遣い自重させたの?」
「最初はユウカがスマホ片手に解読しながらがんばってたけど気づいたら使わないようになってたよね?アリスー、あれってなんで普段使いしなくなったの?」
「はい!ユウカがあの言葉は真の勇者の力が必要になった時に使われる唯一ぬにの言語なのでその言葉をひけらかす浅はかさは愚かしいと教えてくれました!」
モモイからの問いにアリスちゃんはスタンディングバイソンのまま笑顔でそう答えた。
マジか早瀬、お前きちんとアリスちゃんのあの言葉遣いを理解しようと努力した上できちんとアリスちゃんが納得できるように説得したのかよ。
やはりセミナーは格が違った。
『2回戦第2試合でーす!三国マサラエックスチームVSテイルズ・サガ・クロニクルチームは配信台に来て下さーい!!』
「お、私たちの出番だ!次も3タテしてやるんだから!ハジメ、ユズ!また後でねー!!」
「お姉ちゃんまーた調子に乗ってる…ハジメちゃん、ユズちゃん行ってくるね」
「アリスはチームメイトなのですぐ後ろでスタンディングバイソンしますね!見ててください!師匠、ユズ!」
「みんな、がんばってね…!」
「慌てずに落ち着いてねー。悔いを残さないように」
実況の人に呼ばれた3人をユズちゃんと激励の言葉を送りながら見送る。
「オリオンどう?仕上がってる?」
ぼくが3人をねぎらってる間に試合観戦と分析をしてくれていたユズにそう問う。
「同格くらい、かな。流れ次第でモモイたちが勝っても負けてもおかしくないくらいに見えた」
「そっか、それじゃあとはモモイたち次第かぁ…野生の修羅勢のチームとかいなくてよかったね」
「そういう人たちは、今日は盛り上げる側みたい…?あそこのフリープレイ台でいろいろな人たちに教えてる人とかが多分そういう人たちだよ」
ユズはそう言って配信台とは少し離れた場所にある大会のゲームの対戦台が置いてある一角を示す。
初心者用の対戦台とそれ以外の台に分かれているらしく、初心者用の台で遊ぶ人にアドバイスをしている様子が見える。
それ以外の台の待ち時間に色々教えてるようだ、教わってる側の初心者であろう子がペコペコしながら楽しそうにプレイしている。
教えている方も笑顔だ。
「ちょっと見てたけど…目に余る初心者狩りの人とかが入ったらあの強い人たちがすぐに倒して台を空けてあげたりしてるみたい」
「はえー、至れり尽くせり。いい環境だねぇここ」
「おう、おでことハケン。チビたちの調子はどうよ」
ユズとそんなことを話していたら不意に後ろから声がかかる。
「ね、ネル先輩!?」
「んお?ネルパイセンじゃん」
振り向けばそこにはいつものメイド服にスカジャンなネルパイセンが立っていた。
「今から2回戦っすねぇ。ネルパイセンはわざわざ応援に来てくれたんです?」
「あぁ?ついでだついで。待機の間暇なんでたまたま近くだったから様子見にきてやったんだよ」
待機って事は近くでお仕事ですか。
うーん、この大会の間は平和に終わってほしいもんだ。
「ぬわーーーーーっっ!!!」
『あーっとMOMORIAケンジここで痛恨のコンボ選択ミスーーー!!!トリ相手にはハイジャンプじゃなくて普通のジャンプからじゃないとスカります!是非とも覚えてくださいねー!!そんなこと言ってる間に投げが通りコンボの途中で体力ゼロー!!!毛利トリの勝利です!!』
モモイの痛烈な叫びと実況さんの有益なアドバイス。
「あん?負けたのか?」
「いや、一人には勝ったしまだミドリちゃんとアリスちゃんがいるのでこれからっすよ」
必死に二人に謝り倒してるモモイ、そんなモモイを励まして自分の胸を叩くミドリちゃん。
アリスちゃんもスタンディングバイソンをやめてモモイを励ましてるようだ。
「なるほど、3対3の勝ち抜き戦ってことか。で、相手はつえぇのか?」
「この試合に限ってはそこまで差はないと思いますよ、なんならちょっとこっちのが強いかもってくらいで」
「ん?じゃあなんであの桃チビは負けてんだよ」
「…良くも悪くも、勢いがすごいタイプなので…」
ぼくの必死のフォローに隣で聞いてるユズは苦笑する。
「あー、いるわな、そういうヤツ。勢いづかせると面倒ってタイプか。で、次はあの緑チビかアイツも同じタイプか?」
「いや、ミドリちゃんは無茶苦茶堅実なタイプですよ。きちんと理詰めで攻略するタイプなので、変に荒らされたりしてドツボにはまらなければ」
『これは強い~!!トリの多彩な攻めをきっちりと立ち回りで制し当身を何度か食らうも相手の体力を削り切ったミドリフェイ!毛利トリは当身の後のコンボを完走してたら勝ってた試合もあるので次はそこをがんばりましょう!!』
ミドリちゃんが画面内を縦横無尽に動き回る相手のトリに対して、空中でバリアを張る技や軌道を変えて下方向に蹴りを出す技などで対応して次鋒同士の戦いを制した。
トリの下段攻撃が少ない事や手を出すと手痛い反撃を食らう場面を昨日何度も対戦して実際に体験させたことが功を奏したのだろう。
「まぁ、こんなもんよ」
「いや滅茶苦茶誇らしげじゃねーか」
「そら自分の教えた子たちが結果出してるんだから誇らしいでしょ」
「あーまぁ…わからなくはねぇ」
ネルパイセンとぼくのやり取りをみてユズはくすくすと笑ってる。
ネルパイセンがそんなユズに視線を向ければ
「ひっ…!?ご、ごめんなさい…」
とユズはぼくを壁にして隠れてしまう。
ネルパイセンはそんなユズを見て何か言おうと口を開き。
一度口を閉じてから視線をそらしてぼそっと呟く。
「…別に…謝る必要ねーだろ」
あの、ぼくを挟んで謎の気まずい雰囲気出すのやめてもらっていいすか?
うーん…初手さえ間違えなければこの二人、別に相性悪いとかそういうこともなさそうなんだけどなぁ。
初手の相性が絶望的に悪い?
それはそう。
『投ーげーたー!!!!!!!体力ミリ残しの真田フェイの起死回生のリバサダンコをミドリフェイがダンコするんだろぉと言わんばかりの空中投げぇー!!!同キャラだから相手のやりたいことはお見通しぃー!!!勝ったのはミドリフェイ!1:3でテイルズ・サガ・クロニクルチームの勝利ですおめでとう!!続いて
そんな雰囲気を打破するようにきっちりと勝利を収めた3人が笑顔でこちらに向かってくる。
「ミドリがやってくれたよ~~~!!!二人とも見てた!?最後の空中投げとかシビれた~!!!」
「ミドリの読みが完璧でした!とってもかっこよかったです!!」
「あの状況なら私でもダンコしただろうから…でも勝ててよかったぁ」
最後にほっ、と息をついたミドリちゃんは少し誇らしげな顔をしている。
いや最後の空中投げほんとえらいでしょ。
あの状況できちんと同キャラの相手がやりたいことを潰したのはほんっっっっっとえらい。
えらすぎてエラ呼吸しそう。
「ミドリちゃぁぁぁん、最後のあれはちょっとえらすぎる。ぼく嬉しいよ…!」
「ちょっ!?ハジメちゃん!?」
感動のあまり思わずハグをするぼく。
頭も撫でちゃうもんね!
えらい子は褒めて伸ばす。
「あれ?ネル先輩じゃん!いつの間に!?」
そんなぼくとミドリちゃんの抱擁を笑顔で見ていたモモイがネルパイセンの姿に気づく。
「誰かさんがぬわーーーーっつったあたりから?」
「ぬわーーーーーっっ!!!一番情けないシーンじゃん!?あそこでコンボ間違えなければ勝ってたのにぃーーー!!基本コンボのレシピだと入らないトリが悪いんだよーーーー!!」
「そうだよな!コンボさえ入りゃ勝てる試合だったもんな!あたしも黒チビ相手に何度もそういう時があったから気持ちはわかるぜ!!」
「お言葉ですがネル先輩、ネル先輩の場合はコンボの途中にガチャプレイに移行してコンボを完走できていないので完走できずに落として負けているのは道理だとアリスは思います」
「コイツ最近あたしに辛辣じゃねえ!?次にやる時はぜってぇ負かすからなコラァ!!!」
モモイの嘆きに親近感を覚えたネルパイセンであったがアリスちゃんの超ド正論で論破される。
「ネルパイセン、コンボは脊髄でするもんですよ」
「あぁ?何言ってんだコイツ」
「出た出た、ハジメのコンボは脊髄理論」
「師匠は放っておくと本当に同じコンボを何時間も続ける努力の人です!!」
ぼくの至言に胡乱な目を向けるネルパイセン、なんだか呆れた目を向けるモモイ。
失礼だなキミたち!
アリスちゃんは全肯定してくれるからすき。
「え?いやぁ、ぼく程度のウデマエじゃあ戯言でしたねぇ…そんなぼくでも脊髄でコンボができるようになれば相手をボールにできるんです!!そう…モモイだってネルパイセンだって!!」
「絶対煽ってやがるぞコイツ!!」
「悔しい~!!ネル先輩!やっちゃいましょうよハジメなんて!!リアルファイトですよ!!」
「いややらねぇよ!?ゲームで勝たないと意味ねぇだろ!?」
モモイの悪ノリにきちんとツッコミを入れるネルパイセン。
ツッコミに人の良さがにじみ出てるんだよなぁ…
そういえば普段なら入るであろうミドリちゃんのツッコミがないな?と思いハグしてたミドリちゃんの様子を伺うと…
「…あぅ…あぅ…」
なんということでしょう。
そこには湯気が出そうなほど顔を真っ赤にして呻く事しかできない可愛い生き物と化したミドリちゃんが…!
「だ、誰がこんなひどいことを…!!」
「しっかりしてミドリ!!致命傷だよ!?」
「ミドリの顔がヤカンみたいです!?しっかりしてください!!」
ぼくの呟きに続いてモモイがミドリちゃんを支え、アリスちゃんがどこからか取り出したゲームのパッケージの下敷きでミドリちゃんの顔を仰いで冷ましている。
あれはアイズ・エターナルの下敷きじゃん。どこで買ったのそんなの。
「なぁ…ハケンとお前らっていつもあんな感じなのか?」
「ひぇっ!?い、いえ…!いつもはここまでじゃないというか昨日に比べると距離感が近くなったというか…!」
ネルパイセンがユズとなんか話してる。
こっちはそれどころじゃない!
ミドリちゃぁぁぁぁん!!起きてぇぇぇ!!!!
「…多分アイツ自分が原因でこうなってるってわかってねぇぞ」
「…そういうところありますよね、ハジメって」
「それな。アイツ基本的に自分の影響力っていうのをまるで理解してねぇ。いくら
お願い、死なないでミドリちゃん!
ミドリちゃんが今ここで倒れたら、決勝戦の次鋒はどうなっちゃうの?
ここで起きれば、決勝戦に挑めるんだから!
「…きっと、合宿のおかげで仲良くなれたんだと…思います。ハジメの方は、無意識だろうけど…」
「ほーん…すぐ壁作ってくるアイツと仲を深めるなんて結構やるじゃねぇか」
あ、これダメなフレーズだ。
この後盛大なネタバレをされそうな不穏なフレーズだ!!
おっミドリちゃんが息を吹き返したぞ。
「ミドリちゃん!よかった無事だったんだね!!」
すーはーすーはーと深呼吸してるミドリちゃん。
決勝戦には間に合ったな!ヨシ!!
「無事じゃないよ!!大惨事だよ!!!!いくら友達だからっていきなり抱き着かれてしかもナデナデされるなんていうのはね、心の準備が必要なんだよ!?ハジメちゃんは自分のAPPの高さをきちんと理解するべきだと思う!!」
えっ、めっちゃご立腹じゃん…
っていうかAPPってなんだよ(困惑)
褒めて伸ばそうとしただけなのに…どうして…
「その、ゲーム部の皆ならこれくらい大丈夫かなって…ごめん、もうしないから…」
「していいんだよ!!むしろしてほしいけどするなら前もって言ってよ!!嬉しかったんだけど突然すぎてバグったんだよ!?ふいうち禁止!!!!」
?????????????
「おーよしよし、ハジメはこーいうところあるよねぇ」
なぜか怒り心頭といったミドリちゃんの頭を撫でて宥めるモモイ。
そんなモモイにミドリちゃんが縋り付く。
「うぅ…お姉ちゃぁんーお姉ちゃんみたいなのが増えちゃったよぅ…」
「ミドリ!?」
「アリスは師匠にならいつでも撫でられたいです!」
縋り付きながら姉を言葉の刃で刺す妹。
一連の流れを理解できていないであろうアリスちゃんは元気にそんなことを言ってきたのでわしゃわしゃと頭を撫でてあげる。
気持ちよさそうに目を閉じてニコニコしているアリスちゃん。
っかしいなぁ?こういうノリだったと思うんだけどなぁ?
「ダメだなアリャ。まったく理解してねぇぞ」
「ハジメはこういうことはとことんダメダメですから…こうやって教えて引っ張ってあげないと、です」
「ははっ、アイツに対してそんなこと言えるヤツぁキヴォトス中探したってそうはいねぇ…邪魔したな」
ユズと話してたネルパイセンがくるりと入口の方に体を向け、こちらに横顔を向ける。
「ハケンにチビども、あたしはそろそろ仕事だ。戻るぜ」
「あら、決勝まで見れないのは残念っすね」
「ハッ、テメェの教え子だったら見なくても結果はわかんだろ…チビども!しくじんなよ」
そう言ってネルパイセンは顔を正面に戻し、入り口へと歩き出す。
「あっ、ネル先輩!応援ありがとうー!!」
「ありがとうございました、ネル先輩!」
「アリスも最善を尽くします!」
3人のお礼の言葉に右手だけあげてひらひらと手を振り入口へと歩くネルパイセン。
「ね、ネル先輩…!またいつでも部室に遊びに来てください…!」
おぉ、あのユズがゲーム部以外の子を誘ってる。
しかも相手はあのネルパイセンだ。
ネルパイセンはユズの言葉に立ち止まり、ユズの方を見て。
「次はロッカーから出て来いよ?」
そう言ってニッと笑顔を向けて、ネルパイセンは今度こそゲーセンからまっすぐと出ていった。
『ここで一撃ぃぃぃ!!!大将戦フルセットまでもつれ込んだ
そして三位決定戦も終わり、ついにゲーム開発部の今回の合宿の集大成、決勝戦が始まろうとしていた。
今回で終わるはずだったのに続いたのなんで?????????
不思議ですねぇ~
※唯一ぬには使用法としては誤字ではありません、ご了承ください
感想、評価、誤字報告などいつもありがとうございます。
励みになります。