ハケン・ユーティリティ   作:ジョイン君

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彼女の友達の作り方


依頼内容:特例創設した部活動の実態調査、及びそのレポートの提出①

 目が覚める。

 

 

 

 

 

 

 

 携帯電話を確認、通知アリ。

 

 

 

 枕元に置いてある手帳を開き予定を確認。

 

 

 

 今日のハケンはティーパーティーからの依頼で出向先はトリニティ総合学園の補習授業部。

 

 依頼内容は特殊な理由で創設された部活動を実際に体験し、レポートを提出する。

 

 …いややっぱ意味わからん依頼だぞコレ。

 

 洗面台に向かい歯を磨きながら、なぜこんな妙な依頼を受けることになったのかを思い出してみる。

 

 

 

 

 

 

 きっかけは休日のある日。

 予定もないぼくはお昼くらいまで惰眠を貪り、軽い運動がてらごはんの調達も兼ねて散歩をしていた時だった。

 

 川沿いの遊歩道を歩いてると携帯電話が震えた。

 画面を見ればモモトークの通知あり。

 

 通知欄に表示された名前は聖園ミカ。

 モモトークのアプリを開こうとするぼくの携帯電話は先ほどからずっと振動しっぱなしだ。

 やれやれと思いながら遊歩道に沿っていくつか設置されているベンチに腰掛け、アプリを開く。

 

【おーいハジメちゃーん】

【今暇?】

【暇ならちょっと今すぐトリニティまで来れないかな?】

【あれー?既読つかなーい><】

【もしかしてまだ寝てるー?】

【ハジメちゃんハジメちゃんハジメちゃーん!!】

 

【(なんかたくさんの絵文字が数行続く)】

 

【…もしかして本当に何か忙しかったかな?】

【ごめんね、急かすようなメッセージたくさん送っちゃった…】

【もし手が空いたらメッセージを返してくれると嬉しいです】

 

 

 

【うるさくしてごめんね】

 

 …ベンチまでのたかだか数分で感情の高低差が激しい!!!!!!

 なんなのお前のその感情の揺れ幅、ジェットコースターか何かか?????????

 

 ぼくは急いで【散歩中で今アプリ開いた】と返信。

 この子モモトークで話しかけてくる時めっちゃテンション高いのにすぐに返せないと途端にテンション下がるんだよな…

 

【急なお仕事の邪魔したりとかじゃなくてよかった><】

【お散歩中ってことは暇かな?暇だよね?】

【そのままトリニティまで来てくれると嬉しいな!】

 

 【30分くらいで着くと思う】とぼくは返信し、ベンチから立ち上がり急いで駅へと向かう。

 なんで急ぐかって?

 ミカがぼくをトリニティに呼び出したってことは、ほぼ間違いなくすでに入り口にいる(・・・・・・・・・)って事だからだよ!

 

 

 

 昼下がりの電車は利用客が少ない。

 ガラガラの車両に乗り込み、座席へと座ったぼくはモモトークでミカへ【今電車に乗った】とメッセージを送信し、額を伝う汗をハンカチで拭って一息つく。

 

 しかしミカがわざわざトリニティに呼び出してくるとは珍しい。

 呼び出すにしてもショッピングモールでデートしよう!だのそもそもこちらの場所を聞き出して向こうからくるパターンの方が多い。

 なんか妙に懐かれてるんだよなぁ、なんでだろ。

 

 ぼくは電車に揺られながらミカと初めて会った時の事を思い返す。

 

 あれはぼくがまだハケンを始める前の頃。

 ソラ先輩と先生にお世話になってすぐの頃、このキヴォトスという場所を色々と知ろうとしていた時期。

 シャーレのオフィスにある資料などを見せてもらって色々と勉強していたぼくに先生がトリニティの図書館をオススメしてくれた。

 トリニティの中央図書館はこのキヴォトスに置いて最大級の知識の宝庫だから歴史を知るなら一度は行ってみるといい、と。

 

 生徒でもないぼくじゃ利用できないだろ、と言ってその場は笑って流したが、なんと先生はその数日後に大人の力を最大限利用してトリニティ総合学園の図書館の利用許可証をぼくに手渡し、

 

 "トリニティの中央図書館にとても詳しい生徒だよ"

 

 "あそこは広いから迷子になってしまわないようにね"

 

 なんて冗談めいたことを言いながらトリニティの図書委員会に所属している円堂シミコちゃんを紹介してくれた。

 流石にそこまでお膳立てされては断るのも申し訳ないので、その翌日、シミコちゃんに案内をお願いしてトリニティの中央図書館へと向かった。

 トリニティの中央図書館はマジで広かった。

 迷子にならないようにね、なんて冗談だと思ったけどシミコちゃんがいなかったらガチで迷ってたかもしれない。

 

 

 

 それはお昼過ぎ、シミコちゃんから購買まで案内してもらってお昼ご飯を食べるのにいい場所だと噴水のある大きな広場、トリニティ・スクエアまで案内をしてもらった時のことだ。

 お昼を一緒にどうかと誘ったのだが残念ながら今日は図書委員会の本部が使っている建物に日を入れる日のためすぐにそちらに向かわなければならないと大変申し訳なさそうに謝られた。

 部外者のぼくのために普段の仕事に合わせてぼくの質問に答えてくれたり、必要な書籍のある棚まで案内してくれたりとお世話になりっぱなしなので気にしないでほしいと伝え、ぼくはこうしてトリニティ・スクエアまで一人で来たわけだが…

 

 まぁ、目立つ。

 トリニティの生徒でもない見慣れぬ不審者が敷地内を堂々と歩いているのだ。

 何度か黒い制服を着た正義実現委員会の人たちに呼び止められたりもした。

 図書館の利用許可証と来客証明用に入口で渡された腕章を見せればすぐに解放してもらえたが、本来学園外の人間がいるなんて珍しいことなんだろうなぁ、と申し訳ない気分になったが開き直って堂々と歩いてやった。

 

 トリニティ・スクエアは中央に大きな噴水のある広場になっており、お昼時のこの時間は昼食をとる生徒や木陰のベンチで読書をしている生徒、おしゃべりに興じる生徒などが散見される憩いのスポット、という様相だ。

 

 ぼくはここに来てから目に入った中央の大きな噴水に目を奪われ、まっすぐそちらに向かっていた。

 この陽気な日差しの中、あんなに綺麗な噴水の近くで食べるお昼ご飯は格別美味に感じるだろうと。

 たとえそれが購買で適当に選んだサンドイッチであっても。

 

 

 噴水に近づくにつれぼくに向けられてた視線がどんどん少なくなっていく。

 正確にはぼく以外に視線が集まっていた。

 ぼくに気づいた生徒は相変わらず怪訝な目を向けてくる者もいる。

 中にはその視線を向けたまま「誰でしょうあの人は」「見たこともない制服ですね」「不審者として通報した方がよろしいのではなくて?」なんて聞こえるように言ってくるのもいた。

 許可とってるよばーか。

 とは思いはしたがまぁ不審者なのは事実だしあんな雑音気にするだけ無駄だな、と思い当初の目的通り噴水のすぐ横にあるベンチまで向かう。

 

 噴水の周りにあるベンチにはなぜか全然利用している生徒はおらず、そこから少し遠巻きに生徒たちが何やら複数の小集団になってヒソヒソと話している様子が見える。

 噴水がちょうど日差しを遮ってくれそうな目をつけていたベストポジション。

 そう当たりを着けていたベンチまで行くと、一人の生徒が座っていた。

 

 綺麗な長い桃色の髪を右耳の側だけお団子にまとめた白い制服の生徒。

 背もたれのないベンチに浅く座り、両手を腰より少し奥について、天を見上げていた。

 噴水に近づくことによって視線が減っていたとぼくが感じたのはなんのことはない。

 彼女をみんな見ていたのだ。

 ぼくに向けられていた見知らぬ者への猜疑的な視線とは違う、もっと悪意の篭ったタチの悪い視線。

 わざと聞かせているのだろう、オブラートに包んでなお聞くに堪えないわざと聞こえるような声量で囁かれているオトモダチ同士の会話。

 

 はて、この生徒は何をやらかしたのやら。

 まぁどうでもいいか、そんなことは。

 

「そこ、ぼくも座っていい?」

 

 ざわ...と視線が一気にぼくに集まるのがわかる。

 ぼくが声をかけた桃色の髪の子も天を仰いでいた顔を下げ、声をかけたぼくを見つめる。

 

「だめ?実は予約制だったりローカルルールで使う順番決まってたりする?」

 

「…大丈夫、だけど」

 

「そう?んじゃそっち側使うんでぼくのことは気にしないで~」

 

 許可を取ったぼくは彼女の座っている部分とは逆側に座り袋から買ってきたポテトサラダを挟んだサンドイッチを取り出し包装を外してあーんと一口。

 

 は?購買に売ってたサンドイッチの割りに滅茶苦茶美味しいんだけど何コレ?

 

「え、何コレうっま」

 

 買う時ちょっとエンジェル24とかのに比べて高くない?と思ったんだけどこのクオリティなら納得だわ...

 値段に尻込みして安めの見繕ったけどこれ普通にカツサンドとか買った方がよかったかもしれん…

 

 目を閉じて噴水から響く水の音を背に想像より数倍美味しいサンドイッチを咀嚼する。

 思ったのとは違う方向で味に満足しながら思ったのと違う雰囲気の悪さを気にせずに。

 なんだかよくわからないが、彼女に向けらえれていたであろう視線を一身に浴びつつもポテサラサンドを完食したぼくは持参していたペットボトルの紅茶を一口飲んで、袋からハムサンドを取り出して梱包を外していく。

 ポテサラあんだけ美味かったんだしハムサラダもワンチャン滅茶苦茶美味い可能性ある。

 ってかもしやきちんと中までちゃんとハムサンドしてるのでは?

 やっべぇぼくワクワクしてきた。

 

「…ねぇ?ここ以外の場所で食べたほうがよくない?」

 

 そんな声が横からかかり、視線を向ける。

 

「その腕章をつけてるってことはお客さん?見たことない制服だけど…多分今あなたはトリニティで一番ごはんが美味しくない場所でご飯食べてるよ」

 

「は?????めちゃくちゃ美味しいんだが??????むしろ購買のサンドイッチでこのレベルってマジかよってビビってるレベルで美味だが???????そもそも噴水の近くだとこのベンチがベスポジだと思ったし今でも間違いないと思ってるんで」

 

 はーーーー????

 ハムとキュウリがハーモニー奏でてるんだが???????

 キュウリシャッキシャキだしハムもなんかハムなんだけど普段より香ばしさとかある気がする

 ちょっと入ってるマスタードがマスタード味の何かじゃなくてピリッとしながらも辛すぎない程よいマスタードじゃん?

 

「え、いやほんとうっま何コレ」

 

「…っ!随分と貧相な食生活送ってたんだね?購買のサンドイッチなんてトリニティで食べれる食事のグレードとしては最低限だよ?忙しい生徒が時間がない時にお腹を満たすために適当に食べる時に買うようなものだもん」

 

 ぼくに向けられてた視線の嫌な感じが一気に減る。

 いや、横にずれた(・・・・・)だけか。

 

「まぁ餓死しそうになったことあるしなぁ。貧相といえばそれはそう。いやでも最低限でコレってヤバない?流石お嬢様学校、普段から食べるものの時点でハイクオリティじゃん」

 

「えっ、餓死…?…そ、そうだ!購買の中で唯一ちゃんと美味しいって言えるサンドイッチはたまごサンド!そんなポテトサラダサンドとハムサンドなんて足元にも及ばないとろふわな味なんだから!…今戻ればまだ売ってるかもよ?」

 

 なるほど。

 理由はまったくもってわからんが彼女はぼくをこの場所から遠ざけたいらしい。

 というよりはこの視線と悪意は自分が受けるべきである、とかそんな感じなのかな。

 

「えっまーじぃ?たまごサンドそんなにオススメなん?」

 

「…っ!!そう!今すぐ買いに行かないと売り切れちゃうんだから!ここを昼食の場所に選んだのは少しは見る目があるけどたまごサンドも用意できてないなんて片手落ちなんだから!これだからトリニティじゃない生徒は…」

 

「かーっ!マジ楽しみだなぁ!!実は買ってあるんだよねぇたまごサンド!!いやーほんと楽しみ!!!」

 

 ぼくは袋に残っていた最後のサンドイッチ…たまごサンドを取り出してぼくと彼女の間のスペースに置く。

 

「…へ?」

 

「いやぁ、地元民のオススメとかマジで期待しちゃうなぁぼく。あ、でも結構お腹いっぱいになってきた…というわけでそこの桃色の地元民の人、たまごサンド半分こしない?見るからにたまご詰まってそうだから期待してたけど結構それ以外もガッツリ美味しいしボリュームもあったからサンドイッチ3個はちょっと買いすぎたわ」

 

 ぼくはたまごサンドの梱包を外して入っていた二切れの内の片方を彼女に差し出す。

 彼女は呆気にとられたような顔をして差し出されたたまごサンドとぼくを交互に見ている。

 

「あれ?いらない?さっきの口ぶりから察するに相当好きでしょ、このたまごサンド」

 

「…あぁもぅ!!空気読めないなぁ!!私はさっさとここから離れてって言ってるの!!」

 

「えぇ…?最初にここ座っていいですかって聞いたら大丈夫って言ったじゃん…」

 

「ここの空気を察してすぐ離れると思ったからじゃん!それなのに明らかに不躾な視線向けられてるのにバクバクバクバクいちいち大げさに美味しい美味しいって言いながら食べてさぁ!!こっちの気も知らないで…」

 

 ぐぅ

 

 と少し前まではよく自分の腹から鳴っていた馴染みのある音が聞こえた。

 突然よくわからん癇癪を起した彼女はお腹を抑えて顔を赤く染めて俯いている。

 あっ、なるほどね。

 

「お腹減ってるとイライラするよね…たんとお食べ?」

 

「違うから!!お昼ごはんとら…ダイエット!ダイエットでたまたまご飯抜いただけだから!?」

 

「ダイエットで絶食とかそりゃ悪手じゃろ桃色欠食児童」

 

「その変な呼び方やめて!?」

 

 そんなこと言われてもぼくキミの名前知らんし…

 

「あーこれは失礼を。ぼくは安納ハジメです。あなたのお名前なんてーの?」

 

 ぺこりん、とたまごサンドを両手に持ったままぼくは頭だけお辞儀をする。

 ぼくのそんな態度にまた驚いたような表情をした彼女はむくれたような顔でぼくから視線をそらし、

 

「…聖園ミカ…」

 

「これはこれはご丁寧にどうもミソノ・ミカ=サン。あ、これお近づきの印にどうぞ、お納めください」

 

 とぼくは両手に持っていたたまごサンドの片方を差し出し頭を下げる。

 

「…っ…あーもう、いただきます…」

 

 そう言ってため息をついてからぼくの差し出した手からたまごサンドを受け取る聖園ミカ氏。

 憮然とした態度だがきちんといただきますと言うあたりやっぱ育ちいいんだなぁと思う。

 流石トリニティ総合学園だね。

 

 そんなぼくと彼女のやり取りを見ていた周囲からはくすくすと笑いが漏れている。

 ぼくと彼女のやり取りになごんでくれた…とかならよかったんだけどなぁ。

 

「ねぇ、皆さん見まして?」

「あの聖園ミカがどこの者とも知れないような人から施しを受けていますわ」

「あの方も落ちぶれたものですわね…わたくしも気をつけませんと」

 

 くすくす、くすくす、という声と共に聞こえてくるのはそんな悪意に塗れたクッソウゼェ囀り。

 はぁ〜〜〜〜(クソデカため息)

 

「ここさぁ、景色も雰囲気も最高なのに騒音だけはマジクソ邪魔でもったいないねぇ、ミカさん」

 

「…ううん、これは、私の罪だから…」

 

「いや知らねえよそんなのぼくは滅茶苦茶レベルの高いサンドイッチに最高にクールな噴水の素敵なベンチで優雅なお昼ごはん食べようと思ってたのにピーチクパーチクやかましいブンブンバエみてえな騒音垂れ流しにされてクッソ面倒だけどスルーしよっかなぁって思ったのにぼくまで巻き込んで寝てる時に耳元で蚊が飛んでるみてぇな音まで垂れ流してやがんだぞ?我来客ぞ?トリニティが認めた正式な客人なんだが?え?トリニティってトリニティ以外は人にあらずとかそういう校風でいらっしゃる??????来客全員にこうやって不快感与えてるの????????ねぇどうなのお嬢様方???????」

 

 なんかネガってる彼女に言っても埒があかんなぁと思い周りで囀ってたお嬢様方に水を向ける。

 

「そ、そのような事は…」

「そ、そもそもその聖園ミカの扱いは自業自得です!あなたのようなトリニティとは関係ない生徒にとやかく言われる筋合いは…」

 

「じゃあぼくを巻き込むなっつってんだよお嬢様ァァァァン?ぼくに流れ弾当ててきたのはそっちだろうが!?なんだったらお前ら全員対ぼくでどっちが正しいか殴り合って決めるか??????最後に立ってたやつが正しいってわかりやすいルールでさぁ!?」

 

 一応こう、言い訳をさせてほしいのだけど。

 流石のぼくでも今はこの時のぼくの態度はあまりにもひどかったと自分で思ってるし反省してるよ?

 いくらなんでも理由も知らずに相手にケンカを売るのはよくないと思ってるよ、今では。

 ただまぁ、ぼくはこの時はまだ若かったというか…

 その、まだスレていたというか…ね?

 

「まぁ…」

「なんて野蛮な…」

 

 ぼくの行き過ぎたうるさいんじゃいボケという言葉にお嬢様方はたじろぐ。

 おびえたようにこちらを見る子、不快感をあらわにして睨みつけてくる子、様々だ。

 

「ねぇ...もういいから…」

 

「いやミカさんがこれ我慢するかどうかは知らないっての。このお嬢様方は、ぼくに、ケンカ売ってんの!!人に売られたケンカを勝手に値切らんといてもろて」

 

「これは、何の騒ぎですか?」

 

 ベンチから立ち上がって吹き上がっていたぼくの手を握って止めてくる彼女にぼくが反論してるとお嬢様方の後ろから声がかかる。

 

「え…ナギちゃん…?」

 

「道を開けてください」

 

 その声と共にぼくの目の前に広がっていた騒音集団(お嬢様の人垣)がまるで海が割れていくように左右に分かれる。

 

 その先にいるのはぼくの手を握って止めている彼女と同じ意匠の白い制服を纏った姿勢のいい女性。

 彼女はゆっくりと、その綺麗な姿勢を保ったままこちらの眼前まで歩いてきた。

 

「トリニティ総合学園、ティーパーティーのホストを務めさせていただいている桐藤ナギサです。シャーレからの紹介で本日ご招待をさせていただいた安納ハジメさん、ですね?是非色々とお話をさせていただければと思いささやかながらお茶会の席をご用意させていただきました。…もちろん、ご参加いただけますよね?」

 

 透き通るような金と銀が混ざり合ったような長髪の桐藤ナギサと名乗ったお嬢様は笑顔でそうぼくに語り掛け、最後の疑問符と共に笑顔のまま首を傾げる。

 親玉登場ってヤツかな?

 めっちゃいい笑顔なのに欠片も笑ってるように見えない。

 おーっかねぇ。

 

「お茶会ねぇ...ティーパーティーとかホストとかよくわかんないけどお誘いならまぁ、受けようじゃありませんか。ここはちょっと耳鳴りがひどくてねぇ」

 

「なっ!?ナギサ様になんて無礼な…!」

 

「えぇ、シャーレからの紹介をいただいた安納さんとは是非ともお茶会に招待したいと思っておりました。…昨今では言葉の乱れがこのトリニティでも散見されて苦心してます。言葉の乱れは風紀の乱れ。今一度自らの言葉を省みる心持を持って過ごしていくべきと私も自戒しております…皆様、ご歓談中のところ大変申し訳ありませんが安納さんは本日は私がエスコートをさせていただいてもよろしいでしょうか」

 

 ぼくの態度に思わずと言った感じで咎めてきたお嬢様生徒の言葉を遮るように桐藤氏が周りに問う。

 

「…ナギサ様がそう言うのなら」

「シャーレの紹介という事は重要な方ということですもの、ナギサ様にお任せするべきです」

 

「ありがとうございます、皆さん…それでは私が先導いたしますのでお付き合いください。ミカさん、安納さんが逸れてしまわないようにご一緒してくださいます?」

 

「え?う…うん…わかった」

 

 くるりと振り返り悠然と歩く桐藤氏の背中を追って歩くぼくと彼女。

 ふと左手を見ると結局食べそこなって持ったままになっていた彼女曰くふわとろのたまごサンドを持ったままだった。

 

「食べる?好きなんでしょコレ。お昼ごはんはきちんと食べたほうがいいって。抜くならお昼遅めに食べて夕食抜いて朝にガッツリ食べたほうが効率いいよ」

 

「え?いいの?…じゃなくて今日はたまたまお昼が食べられなかっただけだから…」

 

「…お昼が食べられなかった…?」

 

 ふと前を先導する桐藤氏が彼女の言葉の一部分だけを繰り返し立ち止まる。

 

「あっやば…」

 

 しまった、というような顔をして呟く彼女の言葉に桐藤氏は軽く首を振って、

 

「好意は素直に受け取る物ですよ、ミカさん。安納さん、ありがとうございます」

 

 そう言って彼女はまた歩き出す。

 そんな彼女の背を追いながら、

 

「ほい」

 

「…ありがと」

 

 ぼくが再度差し出したたまごサンドを受け取った彼女は隣で並んで歩きながらもそもそと食べだした。

 

「パサパサしてる…」

「ですよね」

 

 それでも彼女はもそもそと食べきって、

 

「もったいないなぁ、ほんとはふわとろで美味しいのに」

 

「次の機会にはちゃんとふわとろなの食べるわ...他にオススメない?」

 

「だからたまご以外は微妙だって、学食とかの方が絶対美味しいよ」

 

 ぼくの質問に彼女はため息をついてそう答える。

 学食なぁ…シミコちゃんにもオススメされたんだけどなぁ…

 

「あー、まぁそうなんだろうけどあのハイソな感じはちょっと一人飯のハードルとしては高かったんだよなぁ…あ、じゃあミカちゃん今度美味しいとこつれてってよ」

 

 いやあれやばいって。

 なんかドレスコードとかありそうな雰囲気したもん。

 初見で突っ込むの絶対やばいって。

 

「なんで私が…っていうかミカちゃんって…」

 

「いやぁ、なんかいい子そうだし仲良くしたいなぁって」

 

「…別に私なんかと仲良くしてもいい事ないよ…悪い子だし、私…」

 

 ぼくの言葉に目を伏せて悲しそうな顔をするミカちゃん。

 

「悪い子とかウケる。ぼくに対していい子ちゃんなところしか見せてないんだよなぁ…正体現したね」

 

「そんなの見せてないし!?私はあなたにあそこから離れてって言ったんだよ!?…そ、それにそのたまごサンドも全部私が奪ったんだから!」

 

「ぼくがあげたんだよなぁ…あの会話ぼく的にはたまごサンドオススメしてもらって避難を促されただけなのでダブルいい子ちゃんポイントでーす」

 

「…くっ…!」

 

 ふと前を歩く桐藤氏が妙な声を漏らした。

 なんか肩がプルプル震えてるけど大丈夫?

 

「…ナギちゃん?」

 

「…んん、こほん。今正に友情が育まれる会話を聞いて感動に打ち震えていました」

 

「いや今絶対笑ってたよね!?思わず笑いが漏れそうになってただけだよね!?」

 

 桐藤氏に詰め寄るミカちゃん、それに合わせて早足になる桐藤氏。

 んん?

 あれ、これ連れてかれてお嬢様の神髄とかを見せられる流れかと思ったけどなんか違いそうだな?

 

「ナ~ギ~ちゃ~ん?」

 

「ミカさん…あまりしつこいとロールケーキをぶちこみますよ♪」

 

「理不尽!言葉の乱れは風紀の乱れって言ってたのに!!」

 

 なんだかお嬢様にあるまじき発言を聞いた気がした。

 ミカちゃんはあまりの言葉に慟哭している。

 そして二人は大きな扉の前で立ち止まった。

 

「ふふっ…ご足労頂きありがとうございます、安納さん。こちらが本日のお茶会の会場となります。今日はティーパーティーとホストとして、ミカさんの友人としてあなたを歓迎いたします」

 

 そう言って桐藤氏…ナギサさんは片足を斜め後ろの内側に引き、もう片方の足の膝を軽く曲げ、背筋は伸ばしたまま頭を下げる。

 とても優雅なカーテシー。

 ナギサさんの浮かべる笑顔はとても暖かで、先ほどのまるで笑っていると思えなかった時とはまるで違う。

 

「これはとてもご丁寧に。此度の招待、大変光栄にございます。」

 

 だからぼくも自分ができる最上級の礼、最敬礼で返す。

 彼女のように優雅なカーテシーで返せれば格好もついたかもしれないが、残念ながらぼくにはそんな教養は備わっていないのだ。

 

「今日の邂逅がお互いにとって有意義なものになるよう…こちらです、安納さん」

 

 そう言われてナギサさんに先導されたのはお茶会にぴったりな白いテーブルと椅子。

 テーブルには色とりどりのお茶菓子が並べられ、用意された席には空のカップが置かれ、サイドテーブルに用意されたティーポットからはもう見ているだけで素敵な紅茶の香りが感じられそうだ。

 

「さぁ、お掛けになってください安納さん。ミカさんもいつまでも拗ねていないで」

 

 くすくすと笑いながらぼくが座るであろう椅子を引いて着席を促してくれるナギサさん。

 

「むぅ…わかったよぅ…」

 

 そう言ってミカちゃんもむくれた顔をしながら慣れた感じで席に着くのだった。




ティーパーティーが好きすぎて馴れ初めだけで一話使って終わらない作品があるってマ?
ミカが受けている仕打ちについては完全に独自解釈タブの領分になります

誤字、脱字報告、高評価ありがとうございます。
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