目が覚める。
携帯電話を確認、通知アリ。
枕元に置いてある手帳を開き予定を確認。
今日のハケンはトリニティ総合学園の正義実現委員会。
依頼内容は巡回業務の補充要員。
携帯電話の通知を確認、モモトークを開けば[お仕事がんばってください!]というソラ先輩からのメッセージと天使が応援している絵文字が送られている。
思わず漏れる微笑。
朝からわざわざこんなメッセージを送ってくれるところが尊敬すべき先輩なんだよなぁ、ほんとこういうところだと思う。
「[先輩、マジリスペクトっす]っと。」
そういうところだぞ、と返信を送ってから、起き上がり、洗面台へ向かい歯を磨き、顔を洗う。
髪を整え、目にかかる前髪は今日はそのまま、ピンセットはせずに整えるだけにして流す。
今日のハケンは巡回業務、警備員のようなものだしあまり華美な装飾はしない方がいいだろう。
クローゼットを開け、吊るしてある服の中から今日のハケン先のための服を取り出す。
黒一色のセーラー服にセーラーテープとスカートのライン、スカーフは赤というより紅色というべきか。
手早く着替えてソックスを履く。ここにも紅ライン。
この服でシリアルを食べて牛乳跳ねたらいやだな、と思い今日はゼリー飲料で朝はごまかすことにした。
身支度を整えていた間に何度か通知で震えていた携帯電話を確認。
ソラ先輩のいつものツッコミにニコニコしながらお手製の腕章をつける。
これはハケンですよと内外に示すために作った特注品だ。
激しく動いても外れにくいし多少擦っても破れたりしない材質にしてある。
今日は黒い服なので白いやつをつけた。
書いてある文字は当然、【さかまんじハケンサービス】
名前を売るのは大事。
銃器は基本的にあちらで貸与されるので自分の分はいつもの最低限でいいだろう。
ハケン開始まであと2時間、1時間前には現着して少し貸与された今日の相棒と語り合っておきたいのでそろそろ出るとしよう。
大き目で最初はずり落ちてきてしまったので内側をゴムで補強した黒いアンカーベレーを頭にかぶせ、ぼくは本日のハケン先へ向かうのだった。
目指すはトリニティ総合学園、正義実現委員会だ。
家から出て最寄りの駅からキヴォトス広域都市鉄道のTラインに乗り、トリニティ総合学園方面へ。
駅からほど近い場所にどでかい学園の門がある。
トリニティでかすぎんだよなぁ。お嬢様学校だからか?
いやまぁ、三大学園どこもでかかったわ、ベクトルが違うだけで…
正門の警備員ロボさんに本日の入校理由をシャーレから発行された書類と共に説明、正義実現委員会に確認を取ってもらう。
「ハジメさん、お待たせ~!」
校門の向こうから私と全く同じ格好の長い黒髪の子がこちらに手を振りながら近づいてくる。
こういった各学園の特定組織へのハケンの際は2度目以降は制服をあらかじめ合わせるようにしているからだ。
先生に相談したら制服は用意してくれた。
ハタから見ると身元不明の女子に多種多様な制服を用意するやべーヤツである。
ちなみに先生の経費から落としてくれたみたいで、用途とかについてその日にシャーレの日直をしていた
「おはようレイさん。今日はよろしくお願いします」
「いえいえこちらこそ~。それにしても早いね? 予定の時間より1時間くらいあるよ?」
彼女の名前は
初ハケンの頃からいろいろ教えてもらっている、先輩的なポジションの人だ。ぼくはレイさんと呼んでいる。
「仕事前にお借りできる銃で試射場使わせてもらおうと思いまして。」
「まじめ~」
「現場によって毎回使う相棒が違うんでねぇ…」
さかまんじハケンサービスは依頼元が準備してくるなら使う銃器も含めてご希望に沿う最高のハケンサービスですので!
「まぁ、まずは副委員長に挨拶してからだね~部室に連れてこいってさ~」
「了解」
くるりと振り返ってとことこ歩き出すレイさんについていく。
しかしこれはレイさんに限ったことではないんだけど。
正義実現委員会の構成員の人、前髪長い人多いけど見えにくくないんかね。
「副委員長~お連れしましたよ~。それじゃ、私はこれで~」
正義実現委員会の部室の引き戸を開け、中に声をかけたレイさんは手を振って去っていく。
今日はこれで上がりなんだとか。
ぼくもレイさんに手を振り返してから部室に入り引き戸を閉める。
居住まいを正し、背筋を伸ばしてハケン先への挨拶だ。
「毎度ありがとうございます。さかまんじハケンサービス、
部室の中で待っていたのは正義実現委員会副委員長、羽川ハスミ。
今回のハケンの依頼主である。
「ええ、本日もよろしくお願いします、ハジメ。今日の依頼内容は市内の巡回ですね。開始時間は依頼時にお伝えした時間でよろしいですか?」
「だいじょーぶ。それまでは今日お借りする装備の点検とかさせてもらうし」
そう言いながらぼくは持ってきた鞄から一枚の書類を取り出しハスミへと差し出す。
「出向証明書...ですね。では今日も仕事満了の時にサインをして渡せばいいですね? 装備の点検はそちらのデスクへ用意済みですので、そちらをご利用いただければ」
「お願いしまーす」
そう返して、ぼくはデスクへと座り、本日用意された装備【EM-2】の確認をする。
ブラックカラーのメタル製の銃身に赤く塗られた木製のストック(銃床)のシンプルでスマートなアサルトライフルである。
グリップより後方に弾倉が配置されているブルパップ方式の携行しやすい銃だ。
「今日は本当に助かりました。先日に大きな捕り物があったのですがその兼ね合いでどうしても巡回シフトに無理が出てしまいましたのでシャーレを通して臨時で人を雇えるハケンという部活は渡りに船ですね」
「あー、なんたらヘルメット団だっけ? トリニティに身代金要求とか英雄の器あるよソイツら」
正義実現委員会の
いやほんと、
ハスミはさかまんじハケンサービスのお得意様だ。
シャーレには日替わりで日直という先生のお手伝いをする生徒が訪れるのだが、ぼくもソラ先輩のシフト外の日はそっちのお手伝いをしていた時期があった。
ハスミはその際、日が浅いころに日直で来た生徒の一人でぼくにシャーレの事務業務を教えてくれた生徒の内の一人でよくしてもらった。
意外と食欲旺盛な面もあり、ソラ先輩とのシフトの時にも日直で来ていたハスミがシャーレ内のエンジェル24に訪れたりすることもある。
本人的には体重を気にして自制しようとしているみたいだが、新作スイーツの話などを耳にすると毎回葛藤しているようだ。
いや、そんだけ身長高いんだから平均的な女子の体重と比べてもあんま意味ないと思うよボカァ。
普通に立って並ぶとぼくとの身長差すごいしね。
そんなわけで仲良くしてもらってる生徒の一人なので、お互い名前呼びで砕けた口調で話させてもらっている。
最初の挨拶に関しては、仕事をする人間としてきちんとしないとだしね?
ハケンの仕事においてアイサツは絶対の礼儀だ。古則にもそう書かれている*1。
「じゃあ、始業前に何発か試射させてもらっていいかな?」
「はい、いつもの射撃場を使えるように話は通してあります」
ハンドガードとバットプレートに肩に掛けられるようにベルトを着けられたEM-2を肩に掛けてぼくは部室からほど近い射撃場へと向かった。
こういう所の手回しの良さというか、仕事のしやすさは彼女の素晴らしいところだと思う。
数発の試射をして実際の取り回しに影響がないか、装備に不備がないかの確認を終えたぼくは正義実現委員会の部室へと戻る。
使用した弾数は最低限。
借り物の装備だからこそ出費も最低限にってね。
弾だってお金がかかるのだ。
経費はできるだけ抑えるもんだって早瀬も言ってたし。
時刻は始業予定時刻の5分前。
そろそろハスミも書類をひと段落させているタイミングだろう。
彼女は生来の人の好さもあるのだろう、部室内で待機していると常にこちらに話題を振ってくれる。
非常に嬉しいのだが、今日のように書類の処理などに多少の遅れが発生しようともこちらに気を遣ってくれてしまうのでこういう時は何かしら理由をつけて席を外すようにしている。
装備の確認も大事なのは間違いないしね?
いざ使おうとしたらジャムったとか笑えないので。
いやほんとに。
笑えないので。
笑うしかなかったけど。
「戻ったよー」
「ええ、こちらも予定より書類整理は進められました。...ハジメの配慮に感謝を。装備の方に問題がなければ巡回に出ましょうか」
仕事できる女ってこういうのも察しちゃうからやーね!!
ハスミはすでに自分の相棒の【インペイルメント】を担ぎ準備万端といった感じだ。
ぼくも先ほどのデスクへと向かい支給された弾倉や手持ちの鞄などに詰めていく。
「では、本日もよろしくお願いします」
「ええ、よろしくお願いします」
準備の整ったぼくの始業開始の挨拶にハスミが微笑と共に挨拶を返す。
微笑みあったぼくとハスミは正義実現委員会の部室を出てトリニティ自治区へ向かうのだった。