帰宅して数日。
別のハケンをこなしたり、エンジェル24でソラ先輩のお手伝いをしたりしてついにお仕事当日の今日。
持ち歩きやすいから普段使いをしている
肩掛けバッグには弾薬を、ポケットにはプロテクトハーケンを。
うん、忘れ物はないな。
今日から3日間、トリニティの補習授業部の合宿に参加するわけだし準備しすぎて困るということはないだろう。
そう、補習授業部。
今までのハケン先とはまったく違う、未知の部活。
…今後増えるかもしれない編入生という枠を体験し、精査する。
ぼくは大きく深呼吸をして駅へと向かった。
トリニティ総合学園、正門を入って少し先。
いくつかの棟が並び、そこに備え付けられたベンチにぼくは座っていた。
ここへ向かう途中何度も確認した出向証明書。
その書類に不備はない。
何度見直してもそれは変わらなくて。
本来なら受けるべきではないと今でも思っているこのハケンの出向証明書を何度も見直している。
約束の時間まで、もう30分もない。
「ね、ねぇ!?聞いてる!?」
不意にかけられた大きな声と肩に置かれた手にぼくは思わず顔を跳ね上げ、肩に置かれた相手の手首を思いっきり掴んでしまう。
「ひぇっ!?な、何!?」
ぼくに腕を掴まれた相手は驚いたのかそんな声を上げている。
顔を上げたぼくの視線に映ったのはピンクの髪に黒い帽子付きの制服、正義実現委員会の制服の女の子が立っていた。
その女の子は猫のような目をしてぼくと掴まれた手首を交互に見ている。
ハケンでは会ったことない子だな、と思ってからぼくは彼女の手首を思いっきり掴んでしまっている事に気づきすぐに手を離す。
「…ごめん、ちょっと考え事してた…何か用かな?」
「何か用っていうか…トリニティの制服じゃない子がなんだかベンチに座り込んで途方に暮れてるように見えたから声をかけたんだけど…もしかして迷子?案内は必要?」
正義ピンクちゃんは先ほどの猫目のような表情から一転、なんだか心配そうにぼくを見ている。
いや迷子て。
確かにぼくはちっちゃいけどさぁ!
「あー、うん、だいじょぶ。何度も来てるし。わざわざ心配してくれてありがとう、さすが正義実現委員会だね」
「へっ!?そ、そう!私は正義実現委員会!エリートだからね!!…体調は大丈夫?顔色が良くないように見えたけど…救護騎士団を呼んだりした方がいい?」
ぼくの言葉に得意げに胸を張って誇らしげに答えたエリートピンクちゃんは嬉しそうにしながらも今度はぼくの体調を気遣ってくれている。
はいはい、わかったぞぉ。
この子もキヴォトスによくいる滅茶苦茶いい子のパターンだな?
「いや、お構いなく。約束の時間まで少し時間があったからちょっと休んでただけだから。心配してくれてありがとうね。ちょうどいい時間だしぼくは行くね。声かけてくれて助かったかも。ありがとね、正義実現委員会のエリートさん」
ぼくはそう言ってベンチから立ち上がり、集合場所のいつものお茶会のテラスへと足を向ける。
「え、えりーとさん…あっ、送っていかないでも大丈夫?トリニティは結構広いわよ?」
「いやほんと、何度もお邪魔したことあるので大丈夫」
「道に迷ったり体調が悪くなったら私と同じ制服の人に助けを求めるのよ!?わかった!?ああもう!今日は集合時間厳守って言われてなかったらついていくのに…」
なんかちょっと嬉しそうにしたエリートピンクちゃんはすぐさまぼくの心配をしてくれる。
ぼくが大丈夫と返しながら歩き出すと最後までぼくを心配する言葉をかけながらぼくを見送ってくれた。
いやほんといい子だな。
正義実現委員会の未来は明るいね、きっと。
ところで対応が完全に迷子対応のそれじゃなかった?
いや確かにぼくはちっちゃいけどエリートピンクちゃんもぼくとほとんど変わらなかったやろがい!!
…ただまぁ、肩に手を置かれないと気づかないくらいにぼくは集中してしまっていたらしい。
声をかけられなかったらそれこそそのまま没頭して遅刻してしまっていた可能性もある。
今度正義実現委員会のハケンがある時に個人的に何かお菓子でもお礼に持っていこうかな。
あ、そういえば名前聞くの忘れてた…
ハスミなら特徴を言えばわかるかな?
ぼくはそんな事を考えながら集合場所であるいつものテラスへ向かうのだった。
テラスへの扉前に到着。
…してから5分が経過。
約束の時間まで、あと10分。
もう扉を開いて、中に入るだけなのにぼくはその行動ができないでいる。
補習授業部として合宿に参加…この前のゲーム開発部の合宿とはワケが違う。
あれだってかなりギリギリのラインだった。
内容が内容だったおかげでギリギリ遊びの延長線上としてとらえられた。
…落ち着けぼく、クールになるんだ。
ハケンだ。
編入生の目線からの内容監査だ。
ぼくくらいしか適任がいなかったから、仲良くしてくれてるからぼくに話を持ってきてくれた、それだけの話だ。
息を吸う。
大きく吸って、吐く。
…この、授業を受けたり、普通の学生のような生活をハケンとはいえしてしまうのだという事に対しての
その時、ドアノブへまだ力を込めていないというのに突然扉が開かれた。
テラスへ向かって開かれた扉、ドアノブに手をかけていたぼくはそのまま内側に引っ張り込まれたたらを踏む。
ふよん、と柔らかな何かに顔をうずめてしまい、そのままなぜか拘束されて動けなくなってしまう。
「ハジメちゃん確保ーーー!!!」
「素晴らしいですミカさん。そのままこちらへ連行してください」
ミカとナギサさんのそんな声が聞こえた気がするがぼくはそれどころではない!
なんか!柔らかいものが!ぼくを完全にロックしてるんだけど!!!!!!
ちょっと息苦しいんだけど!!!!!!!!!!!!
なんとか拘束から抜け出そうとするぼくだが顔は何か柔らかいものに挟まれて呼吸しにくいし視界は塞がれてるし上半身はそのまま柔らかい布越しの何かに押し付けられて腕も動かせない!
そしてそのままずるずると引きずられるぼく。
え!?おかしくない!?
ぼく今必死に足の力だけとはいえ抵抗を試みてるのに気にせず引っ張られてんだけど!?
ってか苦しいっつってんだろ!!!
結局、ぼくを完全に封印したまま輸送した拘束具の正体はミカだった。
ぼくを窒息させかけた恐ろしいやわらか兵器はミカのおもちだったしぼくの上半身を完全に固めていたのはミカのおなかと細腕だったし、ぼくの抵抗など完全に無視して輸送したのはミカの膂力だった。
柔らかくて、よいおもちを持っていて、いい匂いがして、パワーまで溢れてるんですねぇ。
クソが!!これが格差社会ってやつか!!
基本的にそこまで自分のスタイルやプロポーションについて気にしてないぼくではあるが目の前にこうまでたわわに実った果実をぶらさげられるとちょっとくやしいんだけど!?
…それに
「…なんでぼくはミカの膝の上に座らされてるん?」
「可愛いから!」
意味わかんねーんですけどぉ!?
いつの間にか背負っていたSRもスカートの中に装着していたレッグホルスターも脇に差していたSMGも目の前のテーブルに肩掛けバッグと共に並べられてる。
ぼくはなぜか連行された流れでそのまま椅子に座ったミカの膝に座らされて頭を撫でられたりほっぺをつんつんされたりしてる。
お、待てぃ!太ももとかお尻さわさわすんな!!ライン越えだゾ!!
「ハジメちゃんってお尻とかふとももはむっちりしてるよねぇ...おっぱいはちっちゃいのに」
「ころちゅ」
ぼくの慎ましやかな果実を指でつんつんとしながらクソふざけた事言ってきやがって距離感ガバガバピンク…!
許せねぇよ…ぼく…!!
「ミカさん、それは流石にセクハラですよ」
「えぇ~?友達同士のスキンシップだよ~☆」
「ころちゅ」
スキンシップとか言うなら腕に回して万力みたいな力でぼくを絶対に離そうとしないその腕をどけろぁ!!!
マジで微動だにしねえから身をよじったりするしかできない!!
今ぼく凌辱されてる!尊厳破壊されてますよこれ!!!!!
悔しい…でも圧倒的な力で抑え込まれててぼくは今心の中の巨釜でグツグツと殺意を煮込んで口から垂れ流すしかできない…!
頭に当たってるおもちは服越しでもわかるくらいやわっけーのに回した腕は鉄骨より強固だなぁオイ!?
「ところでハジメ。荷物はこれで全部かい?着替えなどはあとから届いたりするのかな」
セイアちゃんがぼくの荷物一式を見てからそんなことを聞いてくる。
…着替え?
「…あっ」
「…なるほど、先生の懸念は正解だったという事か…最初は女子の着替えを持ってくるのは大人でもどうなのかと思ったが」
"この間にミレニアムに泊まった時に忘れたってモモイから聞いてたからね"
何人の恥をバラして回ってんだモモイィィィィ!!!
あいつ今度会った時10先でずっとオクラでスカッシュしてやるからな…絶対にだ!!!
そう言ってすでに席についていた先生はぼくに連邦生徒会のロゴ入りのボストンバッグを渡してきた。
中身を確認してみるとお泊りセット一式にバスタオルや下着、あとはジャージやトリニティの一般指定の制服が入っていた。
…サイズなどもざっと見た感じぼくにぴったりのものが3日分、問題なく足りる感じだ。
…。
「…なんで先生がぼくが失念してた着替え一式をサイズピッタリで準備できるの…?」
じとーーーーっと先生を見つめてぼくは純粋に湧いた疑問を口にする。
はっとしたような顔をするナギサさん、えっと声を上げるミカ。
セイアちゃんは別段気にすることもないというように優雅にカップを傾けている。
セイアちゃん以外のぼくたち3人の怪訝な視線をうけた先生は慌てたように、
"いや違うよ!?シャーレにいた頃にパーソナルデータはもらったけど私は見てないからね!?"
「でも見れる権限はありますよね?…これをぼくに着せてひどいことする気でしょ!エッチ同人みたいに!!」
"誤解だから!?そもそも私はデータの印刷はしたけど内容は見ないようにしてソラに頼んで用意してもらったから無実だよ!?そもそもエッチ同人って何!?"
あぁ、ソラ先輩に頼んだのか。
それならなんの問題もないな!
ふとバッグの脇のポケット部分にカラフルで大き目の付箋用紙が入ってことに気づく。
中身を開いてみて確認すると、
『泊りがけのお仕事、大変だろうけどがんばってください! P.S.無理しちゃだめですよ!! ソラ』
…あの人はほんともう…。
「先輩マジリスペックトっす…ほらミカ、そろそろはーなーせー」
ぼくのお腹に回されてガッチリホールドしてるミカの腕をぺしぺしと叩く。
何度かぺしぺししていると、
「ぐぇっ」
ぎゅぅ、とミカが思いっきりぼくを抱きしめてからやっと離れてくれた。
本当に思いっきりぎゅうっとされたので変な声出た。
「最後までやってくれんじゃねえかミカよぉ…?」
「つーんっ」
わざわざ口に出してぷいっとぼくから顔を横にそらすミカ。
いやつーんて。
「えぇ…あんだけ暴虐の限りを尽くしておいてなんでご機嫌斜めになってんの…?」
「知ーらないっ。ほら!先生もハジメちゃんもそろそろ行かないと!」
”あぁ、確かにそろそろ時間だね。ハジメは私についてきて”
"道中で今日の流れとか説明しながら行くから"
「???…りょーかい。あ、ナギサさん、レポートとかの雛型ってもう受け取れます?」
「いえ…レポートの雛型は決めておりません。まずはハジメさんに3日間過ごしてもらい、思うままに書いてもらった物を提出してもらってから追加で必要なものがあれば別途お願いしようと思ってます」
…なんて??????
「もちろん3日分の拘束に対する依頼料は通常通り支払いますし、レポート分は別途お支払いしますよ。楽しみにしています」
そんなことを言いながらこちらに笑顔を向けてくるナギサさん。
…え?
「いや、それじゃレポートにならない…ような…」
「ハジメ」
セイアちゃんがこちらを真っすぐに見据える。
「今回のハケンは単純さ。君が実際に補習授業部に参加をしてどう感じて、どう考えたのか。そしてそれを
セイアちゃんは席を立ち、ぼくの前までまっすぐ歩いてくる。
視線は逸らさない。
ぼくの視線も、動かない。
「君は私たちにとって得難い友人だが…ティーパーティーにとってはさかまんじハケンサービスは情報でしか知りえない、まだ未知の存在なのさ」
セイアちゃんは包み込むように、ぼくの両頬にその両手を添えてぼくの瞳を真っすぐに見つめ続ける。
ぼくは視線を、逸らせない。
「だから君自身の言葉と能力で、証明しておくれよ。
ぼくは目を見開く。
セイアちゃんがぼくの両頬から手を離し、くすりと笑い、座っていた席へと戻っていく。
「ハジメさん」
ナギサさんがぼくに微笑んでいる。
柔らかく暖かさを感じる、慈愛に満ちた笑みだ。
「ティーパーティーのホスト、桐藤ナギサとして…あなたの友人の、桐藤ナギサとして…
その言葉に何か、獰猛な獣を前にしたような、言いようのない何かを感じ取り、少したじろぐ。
おかしいな、ナギサさんの笑顔は変わっていないのに。
「ハジメちゃん!外泊許可は下りなかったけど遊びには行くからね~☆」
ミカはいつも通りだった。
「いや、ぼく仕事で行くんだけど?」
「私は違うも~ん☆それに私のお友達もいるからね!楽しみ~☆」
コイツ…!人の気も知らないで…!!
…いや、八つ当たりだな、これは。
"じゃあハジメ、そろそろ行こうか"
"…銃は、どれか一つだけにしようね?"
「えっ」
"…あまり複数の銃を持ち歩くのは、補習授業部のハケン部員としても目立っちゃうから…ね"
うっ。
そうか…いやそうだよね。
そもそも銃をこんなにガチャガチャ持ってきてる時点で多分今日のぼくは相当目立ってた。
え、着替え持ってくるの忘れて武装だけ充実って今日のぼく相当アレでは?
うわ恥ずかしい。
その時ふと、トリニティの入り口でそんな状態でベンチに座り込んでいたぼくに心配して声をかけてくれたエリートピンクちゃんの事を思い出した。
…え、あの子もしかしてほんとにぼくの想定の10倍くらいいい子だったのでは?
神的にいい子だった可能性があるのでは???
言いようのない感謝の念がこみ上げるとともに滅茶苦茶恥ずかしくなってきた…
必ず相応のお礼はしようという強い決意と、次会った時どんな顔して会おうという途方に暮れた思いが同時に湧いてきた。
幸い、今日すぐに会うとかではないのが救いだな!
これはもうしょうがない!切り替えていこう!
次会ったときのぼくがなんとかするさ!
今のぼくにはノーダメージ!!HAHAHA!!*1
「…じゃあ、これで…」
結局ぼくは一番手に馴染んでいるSMGを手に取る。
「それでは残りの銃器や投擲物とこちらのレッグホルスターはこちらで責任を持ってお預かりします」
「あ!それならハジメちゃんが帰る時までにハジメちゃんにぴったりなようにデコっちゃおうよ!」
ナギサさんが預かってくれるという言葉にほっとしているとミカが突然トンチキな事を言い出す。
「…ミカさん、責任を持ってお預かりをすると言った直後にそれを覆すような発言をしてどうするんですか…」
「えー?でもノーデコのプレーンな銃を持ち歩いてるハジメちゃんにも問題あると思う!」
いやいやそんなばかな。
そりゃノーデコは珍しいというか備品とかレンタル以外じゃほぼ見ないけどそこまで…
「…まぁ、ミカさんの言う事も一理ありますが…」
あるの!?
「だいじょーぶ!悪いようにはしないから☆」
「えぇ…いやいいよぼくはノーデコで…ぼくなんかがデコレーションした銃なんて持ってても似合わないし…」
「それはない」
「それはないでしょう」
「それはないだろう」
3人揃って即否定!?
君たち普段はそんなに息ぴったりじゃないだルルォ!?
「あの、ぼくの意見は…」
"ハジメ"
先生がぼくの肩を掴むのでそちらを振り向く。
先生はなぜか首を振って…
"そろそろ本当に行かないと…大丈夫、悪い事にはならないさ"
そう言って先生とぼくはぼくが預けたSRとHGを囲んであーでもないこーでもないとまるで服やアクセの話題でおしゃべりをするかのようにお菓子をつまみながら楽しそうに話しているティーパーティーの3人を見つめる。
「ハジメちゃんは癒し~って感じだし真っ白なボディを基本にしようよ!キラキラを感じちゃうようなの!」
「いえ、ハジメさんは努力を怠らず、それを驕らないところも魅力的なんです。落ち着いた色合いをですね…」
「いや、ハジメはあれでかなり奇抜な事をやらかすだろう。デコにはその要素も取り入れるべきじゃないか?」
「…ほんとぉ?」
"…きっと、メイビー…"
そう言いながらぼくを先導するようにテラスを後にして歩き出した先生の背中は、普段の大人の大きな背中とは思えないほど、ぼんやりと小さく見えたような気がした…。
3人の姦しいぼくの銃のデコレーション談義を背に少しの不安を感じながらぼくはテラスから出て歩いていく先生の後ろをついていき、テラスを後にする。
まだ不安はあるし、今でも本当にこの仕事を受けてもいいのだろうかっていう気持ちはある。
…でも、そうだな。
あの友人たちに期待をされた
仕事には真摯に、丁寧に。
あの素敵な友人たちに胸を張れるようなレポートを。
そしてそのためにもこの仕事を求められる全力で!
"あ、そうそう"
"まずはみんなに挨拶からしてもらうから"
"自己紹介で何を言うかを考えておいてね"
…ぱーどぅん?
「自己…紹介…?」
"うん、挨拶は絶対の礼儀だからね"
"ハジメなら当然、知ってるよね?"
…知ってるけど…。
…知ってるけども!!
"おっと、この教室だ"
"それじゃあ、合図をしたら入ってきて教壇まで来てね"
先生は笑顔でそう言って、呆気に取られて立ちすくんだぼくを置いて、自分だけさっさと教室まで入っていってしまうのだった。
…自己紹介させるなら前もって言っておいてよ!!!!!!
ばか!!!!!!!!!!!
結局直前まで悩んでたけどティーパーティーに背中を押されて少し前向きにハケンに臨むことができました。
誤字、脱字報告、高評価ありがとうございます。
励みになります。