ハケン・ユーティリティ   作:ジョイン君

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彼女の前途多難


依頼内容:特例創設した部活動の実態調査、及びそのレポートの提出⑤

 [自己紹介]とは。

 初めて会う人などに、姓名・職業などを述べ自分が何者であるかを説明すること。普通は『よろしく』という挨拶の意を兼ねる。

 

 携帯電話のウェブアプリで検索で出てきた結果はそう書いてある。

 いやそもそも…真面目に内容を考える必要…あるか?

 

 ぼくは今回、経緯がちょっと特殊とはいえハケンとして監査とかそういう名目で参加をするわけで。

 別にいつも通りに出向の挨拶をして、あ、じゃあ今日からよろしくお願いしますー、いやぁ最近のキヴォトスは相変わらず一皮むけば治安が狂ってますよねぇゲヘヘヘみたいなノリで行けば問題ないのではないか?

 なんだ…ちょっとビビって、いや?少し気持ちすこぉ~し?驚いて冷静さを欠くところだったが別になんてこたねーじゃん?

 

 はっはっは!さすがはぼく!あの先生とかいう珍妙奇天烈摩訶不思議な大人に突然不意打ち気味に妙なことを言われて少し焦ったけどもすぐさまリカバリーできた!

 この後のハケンでぼくの精神的な動揺によるミスは決してない、と思っていただこう!

 

 どんとこい自己紹介!

 

"それじゃあハジメ、入ってきていいよ"

 

 教壇でぼくの来訪を説明していた先生は教室の外にいるぼくに聞こえるように少し大きな声で呼びかけてくる。

 よーし、このまままっすぐ教壇へ向かいいつもの通りに挨拶をしてあとは流れでどうにかなるでしょ!

 ぼくは先生の立つ教壇へまっすぐと向かい、机に座っている4人の生徒に向かい口を開く。

 

「毎度ありg」

"彼女が今日から3日間みんなとこの補習授業部の合宿を一緒に過ごす安納ハジメさん"

 

"シャーレが管理している部活動【さかまんじハケンサービス】の部長で色々な学園のお手伝いをしてくれてる私にとっても自慢の子なんだ"

 

"それじゃあハジメ、自己紹介をお願いできるかな?"

 

"お仕事に関しては私が説明しちゃったから、君自身の事を紹介してほしいな"

 

 いつもの通りに出向の時の挨拶をキメようとしたぼくの言葉を遮った先生は、笑顔でそんなことを宣う。

 

 …いや今ぼくが言おうとしてたこと全部先生が言っちゃったじゃん!!!!

 どういうつもりなの!?

 そもそも自己紹介をいきなりさせるっていうアンブッシュキメといてその自己紹介でもこっちの出鼻をくじくのは禁断のアンブッシュ二度打ちだルルォ!?

 汚いなさすが先生きたない!

 あもりにもひきょう過ぎるでしょう!?

 ぼくはこれで先生が嫌いになっ…

 …嫌い…になんてなれないんだけど…

 

 …先生のあまりの行動にぼくの怒りが有頂天になった!

 ぼくは頬をふくらませて怒ってます!アピールで先生を睨みつけるが、先生はニコニコ笑顔でぼくを見ている。

 表情がほぼ変わらないから質量で攻めてるのに欠片も効いてねぇ!!

 無敵か!?

 

"ほらハジメ。みんながハジメの自己紹介を待ってるよ"

 

 先生に促されて教壇に手をついて、机に座ってこちらを見ている4人の生徒に向き合う。

 

 向かって右側手前の席、髪を両サイドにまとめた白い長袖の制服を着ている子はぼくと先生のやり取りに目をぱちくりさせている。

 その後ろの席、銀髪に長い髪、紫色の花の髪飾りをつけた生徒はこちらを真っすぐに見つめている。

 

 向かって左側の手前の黒い制服にピンクの髪の子は目を見開いて口元を抑え、ぼくを指差してる…ん?

 あれ?

 え?いや、あの子、ぼくに声をかけてくれたエリートピンクちゃんでは?????????

 今日完全にやらかした姿を見られてありがたいけど恥ずかしい!!って思ってた相手に今日の今日、しかもこの後3日間一緒に過ごすよって場面で再会するとかそんなことある???????????

 おい仕事投げ出してんじゃねえぞ明日以降のぼくゥゥゥゥゥ!!!

 今日のぼくが!!割り食ってんじゃねえかよ!!!!!

 

 …おーけーおちつけぼく。

 ここで完璧な自己紹介をすればきっと少しは印象も変わるさ!

 気を取り直して最後の1人、エリートピンクちゃんの後ろの席のピンクの髪のロングヘアーの子。

 この中では一番立派なおもちを持った彼女はこちらをニコニコと見つめている。

 

 教壇に手をついたまま、深呼吸。

 

「ご紹介をいただきました、安納ハジメです…」

 

 まずは名前。

 次は…

 

 次?

 名前以外、何が必要なんだろう?

 

 自己紹介。

 自分が何者なのかを述べる事。

 

 

 自己紹介(ぼくって何だ)

 

 だってぼくは知らない。

 自分が何者なのか、ぼくが知りたいくらいで。

 頭が真っ白になる。

 言葉の出なくなってしまったぼくは教壇の板面に視線を落とす。

 先生が、補習授業部の生徒たちが向けてくる視線を感じる。

 見られている。

 見られている、見られている…見られている。

 

 何かを言わなければならないのに、何を言えばいいのかわからない。

 見られている。

 

 

 ミラレテイル…

 

 

 

「ね、ねぇ?さっき会った時もそうだけど顔色悪いわよ?体調崩してたりしない?」

 

 はっ、と顔を上げ、掛けられた声へ視線を向ける。

 エリートピンクちゃんが心配そうな顔をこちらに向けている。

 そのまま教室を見渡せば、みんな同じような表情を浮かべぼくを見ている。

 

「はっ…まさか!?先生に何か弱みを握られてこの合宿に参加させられたんじゃ…!?」

 

 …なんて?

 

「まぁ…コハルちゃんは安納さんがどんな弱みを握られたと思ってるんですか?」

 

 エリートピンクちゃん…コハルちゃんか。

 コハルちゃんの後ろの席のおっきなピンクさんは笑顔に戻ってコハルちゃんにそんな問いを投げかける。

 

「どんな?…って…言う事を聞かされるような弱み…!?い、言えるわけないでしょ!?」

 

「まぁ?言えないような弱みを?先生ったら一体どんなすごい弱みを握っているんでしょう、うふふ」

 

 おっきなピンクさんの問いかけになぜか顔を真っ赤にして言い返すコハルちゃん。

 おっきなピンクさんは笑顔で何か不穏なこと言ってる気がするんだけど?

 

 …でも弱み、弱みかぁ…

 

「…のーこめんとで」

 

"ハジメ!?"

 

 色々思うところがあって先生から見えないようにぷいす、と先生のいない方に顔を背けるぼく。

 

「や、やっぱり…!?ついに本性を現したわね、先生!」

 

"誤解だよ!?"

 

「本で見たもの!こうやって泊まり込みの行事中に普段ならみんなが帰ってるような時間に二人っきりになって弱みを握った生徒を…!!安心して!あなたの事はこの正義実現委員会のエリート、下江コハルが守ってあげるから!!」

 

 ぼくの手をきゅっと握ってくれながら先生をきっ、と睨みつけるコハルちゃん。

 あ、猫みたいな目になってる。

 威嚇してるんだろうけど可愛さが隠せてないゾ。

 

「夜に呼び出されても逆らえないような明確な弱み…そんな弱みを握られている状態で薄暗い誰も通らない校舎の片隅の教室に呼び出されたらいったい何を要求されてしまうんでしょうね…♡あ、私は浦和ハナコと申します、よろしくお願いしますね、安納さん」

 

 なんかいちいち言い方にあやしい雰囲気を漂わせるおっきなピンクさんは浦和ハナコさんというらしい。

 浦和ハナコさん…そういえばサクラコさんとかマリーちゃんからハケンの時の世間話で何度か名前を聞いたことがあるなぁ。

 とても優秀だけどマリーちゃん曰く少し変わった、サクラコさん曰くだいぶ困った人…だったかな?

 

「えーっと、よろしく、ハナコさん?」

 

「あら…その様子だと私の事をご存じでしたか?」

 

「…知り合い曰く、とても優秀ですごいけど少し変わった困った人、って話は聞いてる」

 

 一応、マリーちゃんとサクラコさんが言ってた!とは言及しないように濁して伝える。

 まだ会ったことない人を噂だけで判断するのは嫌だからあまり気にしないようにしてたけどさっきの様子を見るにどうにも一癖ありそうな予感…

 

「なるほど、マリーちゃんとサクラコさんあたりから言われそうな評価ですね♡私もハジメちゃんって呼んでいいですか?」

 

 !?

 前言撤回、多分この人はめちゃくちゃ優秀でそれをきちんと使える人だ!

 こわ…それこそ弱み握られんようにしとこ…

 ぼくは内心恐々としながらもこくこくと頷いて了承の意を表す。

 その様子をずっと笑顔で見つめてくるハナコさん。

 なんか怖い!!

 

「こ、コハルちゃん落ち着いて!?先生はそんな弱みにつけこむようなことしませんよ!?…しませんよね?」

 

"しないよ!?"

 

「しませんよね!コハルちゃん!誤解ですよ!!あ!私は阿慈谷ヒフミです!一応補習授業部の部長をやらせてもらってまして…ナギサ様から何度かお話は伺ってていつかお会いしたいと思ってました!よろしくお願いします、ハジメさん!」

 

 あぁ、ナギサさんがよく名前に出していたあのヒフミちゃんかぁ。

 まさかこんなタイミングで出会うことになろうとは。

 

「ぼくも名前だけは何度も聞いてていつか会ってみたいと思ってたんだ。よろしくねヒフミちゃん」

 

「あぁ、ナギサが手放しに名指しで褒めていたからすごい人物なんだろうとヒフミが言っていたあの安納ハジメか。私は白洲アズサ。共にこの3日間の合宿を戦い抜こう」

 

「アズサちゃん!?そういうのは本人の前で言わないでほしかったです…」

 

「…?事実だろう?」

 

 首を傾げながら苦言を呈したヒフミちゃんにそう返すアズサちゃん。

 なるほど、なかなかユニークな子らしい。

 

「よろしくアズサちゃん。ぼくのことはハジメでいいよ…それにしても戦い抜くとは随分その…物騒な表現だね?」

 

「あぁ、3日後の試験が不合格だと次の週末に追試を受けなければならない。その日はヒフミと一緒にモモフレンズの公開トークショーを観覧しに行くと約束しているので今回の試験は絶対に失敗することが許されない重大なミッションなんだ」

 

「モモフレンズ?ってあのファンシーなキャラクターの?」

 

 胸に手を当てて説明をするアズサちゃんの瞳に熱が籠るのを感じる。

 なるほど、重大なミッションか。

 きっと彼女にとっては正しく戦いなのだろう。

 

「ハジメさんもモモフレンズをご存知ですか!?私はペロロ様を敬愛してましてアズサちゃんはスカルマン様を応援してるんです!!次の週末にこのトリニティでラジオの公開収録を行うという情報を掴んでアズサちゃんと一緒に行こうと約束したんです!あ!ハジメさんはどのキャラクターがお好きですか!?幅広くファンの多いウェーブキャットさんでしょうか!?それともアズサちゃんも好きなスカルマン様!?一部には人気の高いビックブラザーさんやMr.ニコライさんとかでしょうか!?そ、それともやはり!ペロロ様を推していたりしますか!?」

 

 うわ、すっげえ熱量。

 ナギサさんが言ってたとある事に関してものすごい熱を持っているって言ってたのこれかぁ。

 話しぶりを聞くにペロロ様ガチ勢でいらっしゃる?

 ヒフミちゃん、モモフレンズの事になると早口になるんだね…

 

「ちょっとヒフミ!?初対面のこんなちっちゃい子に突然圧をかけるのやめなさいよ!?あんたの悪い癖出てるから!?」

 

「…はっ!?す、すいませんハジメさん!私、モモフレンズの話をする時はつい熱くなってしまって…」

 

 早口になりながらじりじりとぼくに近づいてきていたヒフミちゃんとぼくの間に割って入ってぼくを背中に隠すようにヒフミちゃんを止めるコハルちゃん。

 …ってちっちゃい子ってなんやねん!?

 確かにぼくが一番ちっちゃいけどコハルちゃんもアズサちゃんもそこまで変わんないやろがい!!

 確かにヒフミちゃんとハナコさんに比べたらちっちゃいけどさ!!

 

「あー、だいじょぶだいじょぶ。確かに熱量すごいなって思ったけど」

 

「あぅ…ごめんなさい…」

 

「だがハジメが好きなキャラクターが誰かは私もモモフレンズが好きな同志として気になるな」

 

 うなだれて謝ってくるヒフミちゃんにアズサちゃんがフォローをする。

 

「いやそもそもハジメがそのモモなんとかを好きなんて一言も言ってなかったじゃない!」

 

「あー、ぼくはアングリーアデリーが一番好きだよ」

 

「好きなのいたの!?」

 

 コハルちゃんはなぜか信じられないものを見るような目でこちらを見る。

 え?そこまで言うほど信じられない?

 ぼく結構好きなんだけどなぁ、あの何もかも吸い込みそうな黒い瞳のペンギンが。

 

「~~~っ!!やりましたよアズサちゃん!!モモフレンズ好きな同志が増えました!!」

 

「あぁ、これで私たちはあと10年は戦えるな」

 

 両手を上げてすごい喜んでるヒフミちゃんに同意をしながら感慨深げに頷いているアズサちゃん。

 そんな姿を悪意はないが忌避感の篭った視線を向けるコハルちゃんに相変わらずニコニコと笑顔で見つめているハナコさん。

 うーん、補習授業部、アクが強い!

 

"うん、みんな仲良くなれそうで安心したよ"

"それじゃあ自己紹介の時間はこれくらいにして、今日は現在の学力のすり合わせも兼ねてテストを作って来たから"

"今日はみんなでこれを解いて、採点と解説をしようと思うから、みんな席に着いてね"

"ハジメはコハルの隣の席に座ってね。この合宿ではその席がハジメの席だよ"

"もしわからないこととかあったらなんでも聞いてね"

"コハルも大変かもしれないけど右も左もわからないハジメを気にしてあげてほしい。頼りにしてるね"

 

「…っしょうがないわねっ。エリートのこの私がきっちり面倒見てあげるんだからっ」

 

 ぼくは先生の指示通りにコハルちゃんの右隣の席に座る。

 テスト、テストかぁ…

 テストって多分学力検査のテストだよね?

 確か一般的な学生が受けるもので理解度を点数制で測るもの。

 基本的には紙に名前と答えを記入し、採点して100点満点中どのくらい正解をしているかで成績を示すもの、だったか。

 記憶力も同時に測るから調べながら解答するのはNG、だったっけな。

 となるととりあえず書くものだけあればいいのかな?

 

 とりあえずぼくは机の横にいつもの肩掛けバッグをフックに掛けていつも持ち歩いているボールペンだけ机に置いて待機。

 

「…ハジメ?シャーペンと消しゴムは?鉛筆でもいいけど…」

 

 ふと、コハルちゃんがぼくの机の上に置いてあるボールペンを見てそんなことを聞いてくる。

 むむ?

 普段のハケンで使うことがないからボールペンしか持ってないんじゃが…

 

「これしかないんだけどマズいかな?」

 

「いや間違ったらどうするのよ?」

 

「…書類と一緒なら同じ紙もう一度もらって書き直せばよくない?」

 

「いやそれじゃ時間足りないでしょ!?テスト用紙だって普通は余分に用意なんてされないわよ!…ほら、これ予備のあるから使いなさい!この合宿中はずっと貸してあげるから!」

 

 そう言ってコハルちゃんはぼくに薄いピンクのシャープペンシルと新品の封を切ってないビニールに包まれた消しゴム、シャープペンシルの替え芯の入ったケースを渡してくれた。

 

「まったく…ボールペン1本でテストを受けようとする子なんて初めて見たわ!アズサですら筆記用具は持ってたのに…」

 

「いやぁ、さっそく迷惑かけてごめんねぇ。何しろテストを受けるなんて初めての経験で」

 

「別に、迷惑なんて思ってないけど…??…テストが初めて…?」

 

「うん、シャーペンもはじめて使うなぁ…おお、紙には結構しっかり書けるしすぐ消せるんだ。擦ると消えたり汚れやすい事以外はすっごい便利だねコレ」

 

 さっそくお借りしたシャーペンと消しゴムの使い勝手を確認する。

 保存が必要な書類には向かないけど普段使いの書き物とかには確かに便利だコレ。

 今まではシャーレの書類業務とかハケンの事務仕事とかでしかこういう道具を使う機会がなかったからボールペン以外必要に思ったことはなかったけど。

 いちいち書き間違いで書類丸ごと書き直したり、斜線をして訂正印押したり、修正液乾くのを待ったりしないでいいのはほんといいなぁ。

 今後は使い捨ての重要度の低いメモはこっちにしようかな?

 そんなに力入れないでもサラサラ書けるし書き間違いを気軽に修正できるのはなかなかぼくの好みだ。

 この替えの芯が山ほどあるのも非常にいいね、便利だ。

 

「…あげる」

 

「んぇ?」

 

「今貸したソレ、全部あげるって言ってるの!っていうかあとで購買に行くわよ!必要な勉強道具とか全部揃えないとでしょ、アンタ!」

 

 神的にいい人か~~~~~~~~~?

 え、こんな便利なものポンッとくれるとか豊穣の女神でもやってらしゃる???????

 しかも購買で足りないものを見繕うのに付き合うって言ってるよねコハルちゃん。

 やべえこの人ガチモンのいい人だ!!

 ちゃん付けとか恐れ多いわ!まさしく先輩だわ!

 コハル先輩!!!!!!

 

「じゃあありがたくいただきます!購買も一緒に見てくれると嬉しいッス!」

 

「あ、うん…あ!あとテストは開始の合図が出たら私語厳禁、人の答案を見るのも厳禁、先生から終了の合図が出るまでは自分のテストの記入が終わっても待機!名前は書き忘れると0点になっちゃうから絶対忘れないように!早く終わったら見直しもするのよ!」

 

「ウッス!参考になるッス!」

 

 テストの流れと重要な事、やってはいけない事をきちんと教えてくれるコハル先輩。

 ぼくはソラ先輩からコンビニの事を色々教わった時以来久々に出した後輩口調を前面に押し出して一言一句聞き逃さないように拝聴する。

 なんなら持ち歩いてるメモに今めっちゃ書き込んでる。

 いやほんとシャーペン書きやすいな!

 でも消えやすいからあとで改めてボールペンでも清書しよう。

 

 ハッ!?改めて書き直すことでリマインドまで出来る…

 これは…神の道具なのでは…!?

 ぼくがコハル先輩から賜った神器に慄いていると、問題文が印刷されたプリントと、それに対応した答えを書き込むためのプリントの合計2枚が先生から配られた。

 

 

"それじゃあ小テストを開始するね"

"時間は50分、もし消しゴムとかを落としたら手を上げてくれれば先生が行くので、自分で拾ったりしないようにね"

 

 めんど、と思ったがなるほど、不正対策も兼ねてるわけね。

 テストの監督官の業務の一環ってわけだ。

 

"それじゃあみんながんばって。"

"試験開始!"

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"はい、それじゃあみんなペンを置いて"

"試験終了だよ"

 

 時間が来て、ぼくは答案の空欄をなんとか埋めようとあがいていた無駄な抵抗をやめ、ペンを置く…。

 これが一般的な試験内容なのかはぼくにはわからないが、内容としては物語の文章の内容読み取りにキヴォトスの公用字の読み書き、数学の計算問題、歴史の知識確認、銃器の扱いや部位の名称を答える問題などだった。

 結果は最後の銃器に関する部分以外はほぼ惨敗であった…。

 

 回収されていく無残な答案を目で追って…。

 スッ…と自分のこめかみに机の横のフック…肩掛けバッグの逆側にベルトを利用して掛けたSMGを手に取り、自らのこめかみに突きつける…。

 

「はー、結構難しかった…ってハジメ!?何してんの!?」

 

 大きく息をついたコハル先輩がぼくの行動を見た瞬間にぼくが今正に引き金を引こうとしてたSMGを持っている手を抑えようとしてくる。

 

「離して!コハル先輩後生だから!ほっとんど解けなかった!!ぼくは恥ずかしか!生きてはおれんご!!」

 

「いやテストくらいでなんで自分に銃向けてるのよ!?大げさでしょ!?…そもそも今までまともに勉強もしたことないのにはじめてのテストでの今回のレベルの内容なんてまともに解けるわけないんだから別に恥ずかしくないわよ!落ち着きなさい!!」

 

「でもコハル先輩!!ほぼなんもわかんなかったんスよ!!!」

 

「…せ、先輩…ってぇ!!力強い!力強いわよアンタ!?というかそれをなんとかするための補習授業部でしょ!?これからなんとかすればいいの!!わかったら銃を納めなさい!!」

 

「わかんねッス!!ほんと8割くらいわかんなかったんスよ!!ぼくは弱い!戦闘力だけじゃなくて勉強力ですらざこざこのざぁ~こだったなんて知らなかったんスよぉ!!!」

 

「わ、私を先輩って呼ぶんならここはグッと堪えて勉強しなさい!苦手は克服するのよ!私のようなエリートの後輩ならハジメだってエリートにならないとなんだから!!」

 

 その言葉でぼくに電流、走る。

 そ、そうか…ぼくが不甲斐ないままではコハル先輩にまで恥ずかしい思いをさせてしまう…!

 …物語の読み取りは、多分不特定多数の生徒に出す問題だ、法則性か何かがあるはずだ。

 作者の気持ちとか知らねえよボケって思ったけど多分なんかコツみたいなものがあるはず…

 字の読み書きは問題なかった。

 数学はさっぱりだったけど確か公式とか何か問題を解く手段が存在しててそれを使うのが通説、多分それさえ覚えればいける…

 歴史の知識は内容はだいたいわかったけど正確な年度の数字とかその時に締結された条約名とかをきちんと覚えなおせば大丈夫そう…内容はほぼ知ってたことが多かったし!!

 銃器の扱いは全然問題なかった、自信ある。

 

 そうだ、これはぼくだけの戦いじゃない…

 この3日間でコハル先輩に恥じることのないエリートに…ぼくもなる…!

 

「…わかりましたコハル先輩!3日間…この3日間でぼくはあの夜空に輝く完璧の星になります!!コハル先輩の後輩として胸を張れるように!!」

 

「まだ夕方だけど!?」

 

"落ち着いた?"

 

 天を見上げてコハル先輩に決意を誓うぼくに先生がそう声をかける。

 

「は?ぼくってばどこまでも冷静にくーるに愚かにも自決しようとしてたけどコハル先輩の至言で目が覚めたから最初から落ち着いてたが?」

 

「いや明らかに錯乱してたでしょ!?」

 

「あまりにも滑らかに自分のこめかみに銃を向けましたもんねぇ…」

 

 コハル先輩のすべてを見透かしたツッコミにハナコさんは面白いものを見た、と言いそうな笑顔で同意する。

 

「鎮圧が必要かと思ったが杞憂だった」

 

「アズサちゃんが突然銃を構えようとしてるからこっちはこっちで気が気じゃなかったです…」

 

 アズサちゃんはこちらに愛銃であろう、全体的に白を基調としたARをこちらに構えていたのだろう。

 今は構えを解き、机の脇にARを立てかけて席に座るところだった。

 

 ヒフミちゃんもそれを止めようとして席を立ち、今席に着いたのだろう。

 後方のアズサちゃんの席に向いた自分の席の椅子に座った彼女は大きくため息をついている。

 お騒がせしました…。

 

"それじゃあみんなは今から1時間、休憩がてらハジメを購買に連れて行ってあげてほしいな"

"シャーレの名義でハジメの分の今回使用する教科書がそろそろ届いてると思うからそれを受け取ってほしいのと"

"色々足りない筆記用具とか必要な勉強道具を教えてあげてほしい"

"私は今の模試の採点を済ませておくから"

 

 そう言って先生は教壇の横のデスクにぼくたちから回収した答案用紙をトントン、と揃えて置く。

 

「え…ぼくなんかのために新しい教科書用意したの!?」

 

 3日間しか使わないんだが?

 流石に無駄では…

 

「…よし!行くわよハジメ!勉強に必要なものがきちんと揃えられるのかをせ、先輩の私がチェックしてあげるわ!!私の目は厳しいんだから!!」

 

「ッス!!よろしくお願いシャス!!!コハル先輩!!」

 

「その微妙に三下みたいな口調やめなさいよ!?」

 

「善処しまッス!!」

 

「微妙にできてない!!!」

 

 そんなこんなでコハル先輩に連れられてぼくは購買に向かったのだった。

 あ、ヒフミちゃんとアズサちゃんとハナコさんも少し後から来てくれてノートとかペンケースに色ペン、カラーペンや付箋など諸々の勉強用具について教えてくれて一通り揃えた。

 

「ふふっ♡ハジメさん、授業中の手慰みにこの練り消しはいかがでしょう?この柔らかさはちょうど母性を感じられる素晴らしい弾力で…」

 

「ハナコ!!エッチなのはダメ!死刑!!というか私の後輩を毒牙にかけないで!!!」

 

 とか微妙にセクハラをハナコさんから受けてそれをコハル先輩がインターセプトしてくれたり…

 

「こんな感じで…重要そうな部分に上から黄色いカラーマーカーで色を塗ったり、苦手な公式や暗記項目のところにノートからちょっとはみ出るように付箋を挟んでおくと時間を置いても確認しやすくなりますよ」

 

「あぁ、なるほど。確かにこれなら覚えなおす時もすぐに参照しやすい。やっぱりヒフミは頼りになるな」

 

「アズサちゃんに頼りにされるのは嬉しいですけど…アズサちゃんは暗記以外の応用問題も出来るようになっていかないとですね…」

 

「今までに必要だった知識と違いすぎてどうにも理解が追いつかないんだ…次々に新しい知識に押し流されてしまう。まるで敵の電撃作戦を食らってしまっているような心地だ」

 

 自分のノートを見せつつ勉強のコツを交えて色々な小物の活用方法を教えてくれるヒフミちゃんの話をアズサちゃんと一緒に感心しながら聞いたり…

 

 こうして3日分では使い切れなそうな立派な勉強道具一式を選び、コハル先輩にチェックしてもらう。

 

「…よし、それじゃ最終チェックをするからハジメは今のうちに教科書を受け取ってきなさい!」

 

「了解ッス!!」

 

「口調!!」

 

「了解でッス!!」

 

「もう!さっさと行ってきなさい!!」

 

 コハル先輩に言われた通りに先にレジへ向かうぼく。

 口調はこう、なんか出ちゃうので許してほしい。

 気をつけはします。

 

「あの、シャーレ名義で教科書が届いてると聞いて来た補習授業部出向中のハケンの者ですが…」

 

「あ、はい!届いてますよ!今裏から持ってきますね!」

 

 そう言って購買の店員さんは一度奥に引っ込む。

 その間皆は別のレジで各々会計をしていた。

 みんなも何か買うものがあったのかな?

 

「安納ハジメさん…ですよね?こちらが教科書一式になります!こちらの書類を先生に渡してあとで提出してもらうようにとのことです」

 

「ありがとうございます、先生には伝えておきますね」

 

 そう言ってぼくは店員さんから差し出された教科書数冊が入った手提げの形をした柔らかい素材のビニール袋を受け取る。

 数冊分とは言え、紙の重みをずしりと感じ、なんだか大事な壊れ物を持つかのような心境になる。

 どこかにぶつけたり汚したりしないで大事に使おう、と思うのはなぜなのか。

 

「…あ!ところで安納さん!これは全然関係ない話なのですが…」

 

 店員さんは声を落としてぼくにだけ聞こえるような小さな声で、

 

「…ASMR制作とかのご予定は…」

「ないです」

 

「ハジメー!!そろそろ部室に戻るわよー?」

 

 レジで買い物を終えたコハル先輩の声にこれ幸いと店員さんから離れてみんなのいる方へ全力で避難するぼく。

 

「ちゃんと教科書は受け取ったの?何か話の途中じゃなかった?」

 

「教科書は受け取りました。そしてあの話に途中なんてなかったッス、はじまってすらいないッス、ハイ」

 

「そ、そう…?」

 

 頭に?を浮かべてそうな表情をするコハル先輩。

 いや、まさかあのケッタイな話がまったく見知らぬ店員さんから飛んでくると思わないじゃん。

 怖い、トリニティコワイ!

 あ、でもコハル先輩にチェックしてもらった商品買いにまたレジ行かないとじゃん…あの店員さんじゃない方のレジに行くかぁ…気が重い…。

 

「あ、そうだコハル先輩、チェック終わりました?問題ないならぼくも買ってこないと」

 

「…ほら、コハルちゃん♡」

 

「…わ、わかってるわよ!」

 

 ???

 後ろ手に何かを持ってもじもじして俯いているコハル先輩にハナコさんが後ろから何やら声をかける。

 コハル先輩はそれにふしゃーっという擬音が聞こえそうな威嚇をしてる。

 なんぞ???

 ヒフミちゃんは満面の笑顔でそれを見ているしアズサちゃんもちょっと微笑んでるように見える。

 

「は、ハジメ!これ!」

 

 そう言ってコハル先輩は後ろ手にぼくから見えないようにしていたさっきレジで買っていたであろう商品の入った可愛い模様入りのビニール袋を差し出してきた。

 

「…???あっ荷物持ちです?」

 

「違うから!!…これは!補習授業部にようこそって意味で皆でお金を出し合ってハジメの勉強道具一式を贈ろうって…っていうかアンタが言う先輩ってそんな感じの意味なの!?」

 

「え、いえ…基本的にはめっちゃリスペクトしたい尊敬すべき人物って感じですかね…え?ぼくがこれもらってもいいんです?」

 

 え、だってもうシャーペンも消しゴムも替えの芯までもらってるのに。

 ここまでしてもらっていいの?

 

「ハジメさん、受け取ってください。3日間という短い期間ですけど、私たち補習授業部の一員になってくれたハジメさんに贈りたいってコハルちゃんが言ってくれたんです」

 

 ヒフミちゃんはそう言う。

 笑顔に満ち溢れた表情で。

 

「あぁ、装備の充実は何よりも重要だ。それに信頼できる仲間からの想いは戦場では何よりも強い武器となり得る」

 

 アズサちゃんはそう言う。

 微笑を湛えた表情で。

 

「ハジメさん…あなたが欲すままに。だってこれはあなたのために私たちが勝手に用意したものですから」

 

 ハナコさんはそう言う。

 慈愛に満ちた表情で。

 

 

 

 コハル先輩は、何も言わない。

 ただ袋を持った両手はぼくに差し出したままで。

 

 

 

 だからぼくは…

 ぼくは…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"おや、ハジメ。素敵なペンケースだね"

 

「ん?なんですか先生セクハラですか?ここはゲヘナじゃないんですけど?」

 

"そんな意図ないよ!?あと私がゲヘナだと狼藉を働いてるような言い方は誤解を招くからやめて!?"

 

 ぼくが教室に戻って机に並べた勉強道具を見た先生がなんか言ってきた。

 なんだか気恥しくなったぼくは手痛い反撃で先生の心にダイレクトアタック。

 え、でも誤解を招くというか…

 ゲヘナの皆から聞く先生、結構誤解を招くような行為…してますよね??????????

 

「…みんなが買ってくれました…勉強がんばります」

 

"…そうだね、みんなでがんばろう"

 

 俯くぼくに先生はそんな言葉をかけてくれる。

 ちら、とぼくがみんなの方を見れば。

 

 みんなはぼくを見て微笑んでいる。

 

 ぼくの机には真新しい勉強道具が並んでいる。

 ひとつひとつにきちんと名前を書いて、この3日間は…余計な事は考えずに(ぼくの望んだとおりに)勉強に打ち込んでみようって思う。

 

 

 

"さぁ、それじゃあ採点の結果を発表するよ"

 

"テスト自体はこうして毎日最後に確認の意味も込めて行っていこうと思う"

 

"今回の合宿最後の試験の合格ラインは70点"

 

"それを念頭に置いて、今日の結果を受け止めてみんなでがんばっていこう"

 

 先生の言葉に皆が頷く。

 当然ぼくも。

 

 

補習授業部合宿模試 初日

 

ハナコ─100点 (合格)

 

アズサ─53点 (不合格)

 

コハル─44点 (不合格)

 

ヒフミ─87点 (合格)

 

ハジメ─23点 (不合格)

 

 

 

 

 あっ、くじけそう




必要最低限な学校では評価されない項目しか勉強してこなかったハジメちゃん
それじゃあ取れないんですよ…点数は…

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