ハケン・ユーティリティ   作:ジョイン君

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彼女の判断基準


依頼内容:特例創設した部活動の実態調査、及びそのレポートの提出⑦

 目が覚める。

 

 

 

 普段とは比べ物にならないふかふかの感触がぼくを包んで逃さない。

 シャーレでお世話になってた時のベッドでも勝てないくらいのふかふかベッド。

 いつも使ってる固いせんべい布団とは比べ物にならない快適さは抗いがたく、ぼくはまだ全然覚醒しない意識の中で昨日の事を思い返す。

 

 …昨日は色々とあった。

 それはもう色々あった…。

 

「あら?ハジメったらまだ寝てるの?」

 

 あの衝撃的な事実が発覚した(お前は実は生徒だったんだよ!!事件)後は普通にお勉強、というか試験問題の解き方と予習復習のやり方なんかを教えてもらった。

 もらった真新しい教科書に要点を書き込んだり、ヒフミちゃんのノートの書き方を参考にして試験範囲の部分をコピーしてもらって教科書と比べて見てみたり。

 

「あ、コハルちゃんももう準備終わったんですね…なんだかとっても気持ちよさそうに寝ているものですからもう少しだけ寝かせてあげてもいいかなって思ってしまって…」

 

 小一時間のお勉強が終わればみんなで夜ご飯。

 ティーパーティーが今回の合宿に用意してくれたデリバリー商品の数々はどれもびっくりするほど美味しくてぼくは、当然驚いて。

 トリニティの生徒の他の皆もとても美味しそうに食べていた。

 始終おいしいおいしいと声を上げて食べてたヒフミちゃんにコハル先輩。

 相槌を打ちながらとても綺麗な姿勢で食べてたハナコちゃん。

 無言でたまに頷きながらむしゃむしゃ食べてたアズサちゃん。

 …先生は最近忙しかったから久しぶりに人間になれた気がするとか言ってたっけ。

 せめて人類としての食事は普段から取ってほしいんだけど…

 

 これはちょっと抜き打ちで普段の食事をチェックしないとダメかな。

 あの人が栄養失調とか睡眠不足で倒れたらシャーレの仕事が丸々止まるしそれこそ各方面に失礼でしょ。

 これは少し教育が必要やろなぁ…

 

「とはいえ準備の時間を考えるとそろそろ起こさないと支障をきたす恐れがある。ハジメ、そろそろ起床時間だ」

 

 ゆさゆさ、と掛け布団越しに何かに揺さぶられる感覚。

 

 そうだ、今までは大人だしぼくは距離を取らないとって思ってたけど今後はそうはいかないんだ。

 ぼくを勝手に生徒にした責任は取ってもらわないといけない。

 まずは不健康極まりないあのダメな大人の生活周りを少しでも改善してやる、強制的に。

 

「あらあら…本当に起きる気配がありません…これは悪戯をしてもばれないのでは?」

 

「ハナコ!?朝から私の後輩にナニするつもり!?」

 

 …ぼくが生徒になってしまったことで、実際にどうなるかはわからない。

 ぼくが知らないだけで結構前から生徒だったみたいだし、案外何も起こらないかもしれない。

 

「あら…?コハルちゃんは悪戯と聞いて何を想像してしまったのでしょう?できれば教えていただけませんか?後学のために…♡」

 

「な、ナニも想像してないわよ!あんたの日ごろの言動でろくなことにならないって思ったから止めようとしただけっ!!」

 

 でも…もし何か。

 先生や、みんなにとって悪いことが起こるなら。

 キヴォトスを脅かすような何かが起こってしまうのなら。

 

「…ぼくが死んでも、守るから…」

 

「…ハジメちゃん…?」

 

「…ふむ」

 

 びしっ!

 

「あいたぁっ!?」

 

 額に突然走った電流のような衝撃に思わずぼくは声をあげて目を見開く。

 

 じんじんと痛む額を抑えるぼくの目に入ったのは寝ているぼくの顔を覗き込むように見るアズサちゃんとその横でぼくたち二人を口に手を当てて驚いた様子で見ているヒフミちゃんだった。

 

「あ、アズサちゃん!?なんでいきなりハジメちゃんにデコピンを!?」

 

「ハナコ、悪戯はバレた」

 

 えっ!?何!?なんかこのおでこ痛いのはアズサちゃんによるデコピン攻撃の結果らしいんだけどめっちゃ痛いんだけど!?

 めっちゃじんじんするんだけど!?

 

「ハジメ、朝食の時間までもう1時間もない。そろそろ起きて支度をしないと朝食に間に合わなくなる」

 

 そう言ってアズサちゃんは驚いてるぼくにかかっている掛け布団を思いっきりめくってしまう。

 あぁんオフトゥンがぁ…って。

 

「あ、もうそんな時間…でももう少し優しく起こしてくれても…」

 

「揺すっても起きなかった」

 

 まじぃ?ぼくそんなに熟睡してたの?

 

「あー、それは…ごめん!起こしてくれてありがと!準備とかしてくる!」

 

 ぼくは慌てて自身の鞄を持ってこの寝室に取り付けられてるシャワールーム前の脱衣所にある洗面台へ向かう。

 着替えも入ってるからねコレ。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「…驚いた。アズサがあんな起こし方するなんて」

 

 ハジメが洗面台へ向かったのを見送り、コハルはアズサの行動を思い返してそう言う。

 

「少し怒りを覚えてつい強引なやり方をしてしまった。まぁでもあれはハジメが悪い」

 

 悪びれもせず、自身のベッドに腰掛け、愛銃の【Et Omnia Vanitas】の簡易点検をはじめるアズサ。

 

「まぁあんたが理由もなく理不尽なことは…まぁ基本的には?しないと思うけど…え、ハジメったら何やらかしたのよ…」

 

 コハルはフォローをしようとして、微妙にフォローできないアレやコレやを思い出して少し言葉を濁す。

 とはいえコハルの言う通りアズサは理由がなければ暴力に訴えるような手段を選ぼうとはしないタイプだ。

 理由の選び方というか考え方が少し独特なので、周りからは短絡的に見えてしまう事も、あるのだが。

 

「死んでも守るそうだ」

 

「…あっ」

 

 アズサの言葉にヒフミが得心がいった、というような声を漏らす。

 

「ヒフミ?」

 

「その…ハジメちゃん、ハナコちゃんとコハルちゃんがお話してる時に寝言で小さく言ってたんです。「ぼくが死んでも守るから」って」

 

「…なるほど、それはハジメちゃんが悪いですねぇ」

 

 問いかけるコハルに答えるヒフミ、それに同意するハナコ。

 

「はぁ…ほんとにめんどくさい後輩もっちゃったわ...これは時間をかけて矯正しないとダメなやつね…ハジメのことだから、実際にそうしちゃいそうな気がするし!私昨日ちょっと一緒に過ごしただけでなんとなくわかったわ!あいつ絶対めんどくさいタイプよ!」

 

 ハジメの入っていった洗面台の扉を指差して憤慨するコハル。

 

「あはは…きっと先生の言っていた私たち生徒じゃないと教えてあげられない事って…そういう事なのかもしれませんね」

 

「コハルちゃんの先輩としての腕の見せ所ですね♡がんばれ、コハル先輩♡」

 

「がんばれじゃないわよ!?あんたもがんばんのよ!!!」

 

「あはは…こんなこと言ってますけどハナコちゃんもいざという時には頼りになりますから…」

 

「知ってるわよそれくらい!普段からそれくらい真面目にやれって言ってるの!」

 

「まぁひどいコハルさん…私だって普段から真面目に水着の肌面積の黄金比と覚悟の割合を求めてたりしますのに…」

 

「そーいうところよ!!!!!」

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 歯を磨いて、洗顔も済まし、少し寝ぐせになった髪を整えて寝巻代わりに着用していたジャージから、ソラ先輩監修で用意されていたトリニティの一般制服へと着替える。

 そういえばこの制服は着るのはじめてかも。

 トリニティのハケンはだいたいどこかの組織に出向するものが多いし、そういった部活は大抵専用の制服があるからわざわざこの制服を着る必要なかったもんなぁ。

 

「おまたせー」

 

 ぼくが脱衣所から部屋に戻り自分のベッドへ向かう。

 昨日寝る前に今日使う勉強道具一式を用意しておいたのだ。

 まさかぼくがこうして普通の生徒みたいに授業を受けたりその準備をする事になるとはねぇ...

 

 そんな風に感慨深く感じているとコハル先輩がぼくの方に寄ってきた。

 

「はいハジメ、そこで立って気をつけ!」

 

「ッス!」

 

 びしっ、とその場で直立不動。

 コハル先輩はぼくのことを上から下までじっくり見て、

 

「…しっかり着こなしてるしきちんとしてるじゃない…」

 

「…いやまぁ、人様のところに出向する事も多いし身だしなみは最低限整えると言いますか…」

 

「じゃあなんで銃をデコろうとしなかったのよ…」

 

「ッス…」

 

「口調!」

 

「デッス!」

 

 最低限に銃デコが入ってて当たり前だと思ってなかったんだよぉ!!

 そもそも基本的に生徒のみんな以外そんなにデコった銃持ち歩いてなかったやん…

 いや生徒以外でぼくと同じ歳くらいの子なんてそもそもキヴォトスで見かけなかったな!!!!

 わかるわけねーだろ!!!

 

「はぁ…まぁ、そのへんは流石にもうわかってるんだろうし、とやかく言わないわよ。こんどデコ用の塗料とかそういうの揃ってる店連れてくからね!?」

 

「はい!よろしくお願いしますコハル先輩!」

 

「よろしい!それじゃご飯食べて勉強よ!ついてきなさいハジメ!」

 

 こうしてぼくはコハル先輩の号令の下朝食を食べに向かう。

 

 他の皆もその後ろをついてくる。

 

 なんだか後ろからついてくるみんなの視線がくすぐったかった。

 

 

 

 

 

 

 美味しい朝食で活力を得たらその後は先生による授業の時間だ。

 一般的な授業とはやり方が違う、試験範囲の対策に重点を置いた塾のようなものらしいが…あいにくぼくにはその違いはわからない。

 教科書の読み合わせや内容の要点の解説、歴史などは語呂合わせでの覚え方や、内容の重要度的に試験にも出やすいものの傾向など。

 

 先生の解説はわかりやすく、少しわかりにくいかな、と思った部分もノートにまとめて箇条書きにしておく。

 こうしておけば授業の時間が終わって自習時間になった時に皆や先生に聞きやすいしね。

 ヒフミちゃんから教わった通り、先生が黒板に書いている内容は基本的に迅速に丸写しして、先生の解説などで書いてあることの内容の補足などがあるならノートの空いてる部分に矢印で関連付けがわかるようにメモ書きしておく。

 後からこれを清書すれば復習にもなるし聞き逃しも少なくて済むということだ。

 

 ヒフミちゃんのノートはものすごく丁寧にわかりやすくまとめられてたので素直にすごいノートだったんだなぁと思う。

 今実際に自分でやってみると、聞き逃しはしないけどあとで見返したときにわかりやすいノートになんて絶対なってないもんね。

 ハケンでメモに指示書きとかをメモったのとはわけが違う。

 まぁ後になってから見直すものだもんなぁ。

 

 

 それにしても…この授業と言うやつは楽しい…!

 わからなかったものがどんどんわかるようになっていく感覚。

 周りには同じく勉強をしている仲間たち。

 先生の声と板書きのカッカッという音と、みんなが手元でペンを走らせるカリカリという音以外はほとんど聞こえない、どこか静謐な雰囲気。

 

 そんな落ち着いた空気を存分に味わっていると…

 

 キーンコーンカーンコーン

 

"おや、もうお昼だね。それじゃあ今日の授業はこのへんにしてお昼休みにしよう"

 

 先生の教師用の机の上から聞こえてきたそんなアラーム音でふっと雰囲気が緩んだのを感じる。

 

「えっ、もう?」

 

 なんだかそれが少し、いや…ものすごくもったいない感じがして思わずぼくはそんな声を上げてしまう。

 

「はーひと段落!!というか先生、何その着信音!」

 

「本当に学校での授業でチャイムが鳴ったみたいでしたね…今日は休日だからチャイムは鳴らないのに」

 

 ぐっと腕を伸ばしたコハル先輩がツッコミを入れ、ヒフミちゃんはなんだか感心しているようだ。

 

"この方が雰囲気が出るでしょ?"

 

「雰囲気…ま、まぁ確かに出てたんじゃない?ハジメは大丈夫?疲れてない?授業、初めて受けるんでしょ?」

 

 コハル先輩は椅子ごとぼくに近づいて心配してくれる。

 

「え、いえ…むしろもっと続けていたいと言いますか…」

 

「え、マジ…?ハジメって授業も楽しめるタイプかぁ…ま、まぁ負担になってないならいいけどっ…ってなんでノート3冊も並べてるの?えっ!?これとかめっちゃ書き込んである!?…これ先生の解説とか言ってたことほぼ書いてあるじゃない!?」

 

 そう言ってコハル先輩はぼくの並べていた3冊のノートの内、真ん中の一番書く頻度の高かったノートを見て驚きの声をあげている。

 真ん中のノートは先生がしゃべっていた言葉を全部書いた奴。

 まぁ聞き逃さないようにかなり急いで書いたからあまりきれいじゃないよねぇ

 

「あぁ、これはほら、昨日ヒフミちゃんからコツというかやり方教えてもらったのでその通りにしてるだけですよ。とりあえずまだ聞いたこと内容の重要度で取捨選択できないのでとりあえず全部書いたんですよね…結構見づらいでしょ?いやぁお恥ずかしい」

 

「いやどこが恥ずかしい内容なのよ!?一言一句漏らさずってレベルで全部書いてあるじゃない!?」

 

「いやまぁ一言一句逃さないようにしましたし…」

 

 ???

 何をそんなに驚いてるんだろう。

 

「…確かに先生の解説が覚えてる限りまったく逃さずに書かれているように見える。ヒフミはすごいな、普段からこんな風にノートをとっていたのか…私もまだまだ自分の力不足を痛感する…」

 

「いやいやアズサちゃん!?私もここまでしてないよ!?私が教えたのはきちんと板書きした内容を書き写してそれから口頭の説明で気になるところは書いておいて後でまとめるといいって教えただけで!?」

 

"ちょこちょこ雑談も混ぜてたと思うんだけど…"

 

「あぁ、あれって本当に雑談だったんだ…解説してる内容と連動してるからもしかしたら普通に解説の一環かもって全部書いちゃった。まぁ無駄になる知識なんて何ひとつないしいいでしょ。あとは自習時間になったらこれを改めて試験対策用のノートとしてまとめ直しますんでもう少し見やすくなると思うんですけど…あ、コハル先輩、まとめ直したノートちゃんとできてるか見てもらってもいいですか?」

 

「まとめ直すの!?これを!?」

 

「え?えぇ…そうやって見やすいノートにすることで復習にもなるってヒフミちゃん言ってたし…」

 

「やだ…私の後輩優秀すぎ…?」

 

「はははまたまた~そりゃ確かにぼくは人より広く浅く要領がいいタイプですけどぼくなんかより優秀な人なんてそこらへんにいるじゃないですか」

 

 コハル先輩の冗談を笑顔で受け流すぼく。

 いや昨日教えてもらったことを愚直に実行してるだけなのに大げさだって。

 

 ぼくなんてこうやってメモっておいてあとから見返さないといけない分全然でしょう。

 ミレニアムのハケンで予算決議の助っ人の時に対峙する早瀬とかやべーぞ?下手な失言とかメモとってるわけでもないのに絶対に聞き漏らさないもん。

 

「そこらへん…そこらへん…?」

 

「そこらへんですよ、そこらへん」

 

 なんだか遠い目をしてそこらへんと呟いているコハル先輩。

 これはあれか、ぼくのノートの取り方が稚拙すぎてショックを受けてしまったパターンでは?

 言うて授業でノート取るとかほんとはじめての経験なので許し亭ゆるして。

 

"…ちなみにこういう…ノートの取り方とか、書類の書き方とかが上手そうなそこらへんの人ってハジメだとパッと思いつくのは誰かな?"

"もしよければ教えてくれると嬉しいな"

 

「え?そうですねぇ...まぁ早瀬とかヒナちゃんとか天雨行政官とか…あ、トリニティだと図書委員のシミコちゃんとか?ハスミも書類とかしっかり書くしセリナさんとか絶対こういうの完璧にこなしそうですよね!」

 

 ふと思いつく面々の名前を出しながら今いる自分の場所を思い出してそこから何人か該当しそうな人物をピックアップ。

 ナギサさんも自分で書類を書いてるところを見る機会はないけど得意そう。セイアちゃんもそういうのできそうだなぁ。

 ミカは…微妙。

 できなくてもそりゃねってなるけど鼻歌交じりにこなしててもそりゃね…ってなる。

 

「…なるほど、比較対象も問題なんですね…」

 

「そ、錚々たる方々が並んでるような気もするんですが…」

 

 ハナコちゃんはなんだか納得がいったような顔をして頷いてるしヒフミちゃんはちょっと困ったような笑顔だ。

 

「ちなみに戦闘面ではどんな名前が浮かぶんだ?トリニティの生徒に限らず是非聞いてみたい」

 

 アズサちゃんはそんな問いをぼくに投げかける。

 

「戦闘面?それこそいっぱいいるよ。まずトリニティだけでもミカにツルギちゃんにミネさんでしょ?サクラコさんも強そう。ミレニアムはC&Cみんなやべーしそれ以外の生徒も何が飛び出してくるのかわかんなくて怖い。ゲヘナならヒナちゃんサイッキョだしイオリちゃんも強いし風紀は層が厚いよね。あとなんと言っても便利屋68!ぼくのライバル!あと美食研究会も基本的にやべーよ。それ以外にも…」

 

「いや、十分だ。ありがとうハジメ、色々参考になった。キヴォトスは広い」

 

「そう?そうだね、キヴォトスは広いよねホント」

 

 腕を組んでうんうんと頷いているアズサちゃんの言葉に同意を返すぼく。

 はー、不良しばいてデカい顔してたぼくが恥ずかしいよ。

 

「…ゲリラ戦訓練、かなり本腰を入れて準備をしておくべきか…」

 

「ん?なんか言ったアズサちゃん」

 

「いや、装備の点検に漏れがないかを思い出していただけだ」

 

「そういうとこほんとストイックだねぇ」

 

 この子はほんと何事に対しても一生懸命なんだなぁ。

 うん、やっぱサオリちゃんとちょっと似てる部分を感じるなぁ。

 きっと仲良くなれる気がするし案外すでに知り合いだったりして。

 まぁそんな偶然そうそう起こらんか。

 トリニティに通うようなお嬢様とブラックマーケットで傭兵業をしてる子に接点なんてないやろ!

 

「…ちょっと先生!ハジメの自己評価が低いのってそのハケンっていうのが原因なんじゃないの!?というかハスミ先輩とかツルギ委員長の名前がさらっと出てくる時点で比較対象が明らかにキヴォトスの天井じゃない!?」

"…私もそんな気がしてきた…でもハジメにはきっとハケンは必要なことだったし…うーん…"

 

 そんな風にぼくらが談笑していると、

 バーン!と補習授業部が使っている教室の引き戸が壊れそうな勢いで開かれた。

 

「やっほ~~~~☆ティーパーティーからお昼ごはんのデリバリーだよ~~~~☆」

 

 ガラガラといくつかのクロッシュが載せられたカートを押して入って来たのはミカだった。

 

「えっ!?ミカ様!?」

 

「やっほ☆コハルちゃん!ハジメちゃんが迷惑かけてない~?」

 

「ミカはぼくのオカンか何か?」

 

「え~?どっちかというとお姉ちゃんって感じかな?」

 

「ハハッぬかしよるわ」

 

 開幕コハル先輩に妙なことを言い出したミカにぼくはツッコミを入れる。

 

「ミカがぼくのおねえちゃん~?????どっちかっていうとそっちのが手のかかる妹だルルォ!?」

 

「ダウト~!ハジメちゃんほど手のかかる妹なんてこの世に存在しません~☆」

 

「この世レベルとは大きく出たなミカァ!!というかコハル先輩にあることないこと吹き込むのやめてもらっていいですかぁ~?」

 

「あることあることしか言ってないも~ん☆というかコハルちゃんのこと先輩って呼んでる!!私も先輩って呼ばれたい~!!」

 

「ミカはない」

 

「真顔じゃん」

 

 まぁいつも真顔なんですけど。

 ぼくとミカでそんないつも通りの会話をしていると…

 

「えっと…ミカ様はハジメとお知り合いで…?」

 

「知り合いって言うか~…友達!コハルちゃんとおんなじだよ~☆」

 

 コハル先輩がミカに恐る恐ると言った感じで聞いているのに対し、ミカはいつものノリで答えている。

 

「ってかミカはコハル先輩と仲いいんだ」

 

「うん!お友達だよ☆う~ん…でもコハルちゃんより私の方が上級生だし、ハジメちゃんも一回でいいから私の事ミカ先輩♡って呼んでよ~?ミカおねえちゃんでもいいよ~?」

 

「ハッ」

 

「鼻で笑われた!?」

 

 ミカとコハル先輩じゃあ偉大さがダンチなんだわ...。

 ぼくは大げさに肩をすくめて首を振ってわかってないわーという意を表明する。

 

"やぁミカ、お昼ご飯のデリバリーご苦労様"

 

「あ、先生!みんなに会いたくてナギちゃんに頼んで運ぶお仕事もらったんだ~☆」

 

 人懐っこい大型犬のような感じで先生に笑顔でまとわりつくミカ。

 あの子は本当に先生大好きだなぁ。

 

 ぼくはそんな様子を横目に教室の机を動かしてみんなで並んで座れるようにくっつける。

 ミカが運んできたお昼ご飯はクロッシュ3つ分くらい、果たして何が入ってるのやら。

 昨日の夜食とかを見てると味は間違いなくいいんだろうけど。

 

「ね、ねぇハジメ?ミカ様とずいぶん仲がよさそうだけど…」

 

「あぁ、友人…友人?…うん、友人ってやつ…ですかねぇ」

 

「何その微妙な葛藤」

 

 いやなんかそのまま友人ですよって言うの妙に気恥しさがあって…

 なんでだろ?

 

「ハジメちゃんはナギサ様とも仲がいいんですよね?ミカ様ともその関係で?」

 

「いや、きっかけはミカでその流れでちょっかいかけたらナギサさんに釣られたって感じかなぁ」

 

「あら、なかなか興味深そうなお話ですね?よろしければ是非お聞きしたいです」

 

 いつの間にやら同じように机を並べて椅子を運ぶのを手伝ってくれてる補習授業部の面々。

 ヒフミちゃんからの指摘にぼくは当時を思い出しながらそんな答えを返し、それにハナコちゃんが食いつく。

 

「ハジメは本当に顔が広いな」

 

 と、アズサちゃんはなんかこくこくと頷いている。

 

「おぉ!立派なテーブルができてる~☆料理おいちゃうよ~!今日のお昼ご飯はサンドイッチとナギちゃんおすすめの紅茶にお茶菓子もセットだよ~☆」

 

 ミカは持ってきたカートからクロッシュを開け、色とりどりのサンドイッチやお菓子ののったお皿と人数分のティーカップを机に置いてティーポットから紅茶を注いでいる。

 あのミカが!

 いつもはおかわり~!とか言って人にやらせるミカが!

 なんかちょっと普段見ない絵面でおもしろいわコレ。

 

「み、ミカ様!?お茶を入れたりなんて私がやりますよ!?」

 

「いいのいいの☆コハルちゃんも座ってて!今日の私はティーパーティーから派遣されたメイドさんだよ☆」

 

「は?ハケン名乗るとかさては商売敵だなオメー。メイド名乗るならメイド服着てから出直してこい」

 

「着てこようかなって思ったけどナギちゃんから止められちゃった」

 

「ナギサさんが止めたなら仕方ないな…命拾いしたなルーキー」

 

"命が賭かってたの!?"

 

 先生が驚きの声を上げているがいつものぼくとミカの軽口だからあんま気にしないでほしい。

 

 

 

 ぼくは他の皆に着席を促してミカが入れ終わった紅茶を皆の前に運んでいく。

 運ぶときは優雅に、一滴も零すことなく。

 置くときもソーサーの音を立てることなくだ。

 

「ハジメちゃん、ソーサーの置き方がすごい様になってますね!本当の給仕の人みたいでかっこいいです!あ、私も運ぶのお手伝いしますよ?」

 

「ありがと。ナギサさんのところのお茶会で給仕してくれる生徒の人たちがかっこよかったから真似してみたんだ。もう運ぶのはぼくとミカのだけだから、ヒフミちゃんは座ってて大丈夫だよ、ありがとね」

 

 立ち上がろうとするヒフミちゃんの肩を押しとどめて、座り直したのを確認してからぽん、と肩を叩いてミカの元へ戻る。 

 

「運ぶのも私がやろうと思ってたのにー…」

 

「うるへー、こういうのはさっさとやってさっさとはじめんだよ。ぼかぁお腹すいてんの!ミカもさっさと座る!席はそこ!」

 

 並べた席のひとつを指定して指差してやるとミカは少し不満そうにしながらも自分の分のソーサーを手に持ち、言われた席に座る。

 ぼくとコハル先輩の隣に当たる席だ。

 ミカはコハル先輩の事がずいぶん気に入ってるようだからそれを配慮した席順。

 まったく、あの手のかかる獰猛な小動物のミカにここまで気に入られるとはやっぱりコハル先輩はすごいぜ。

 先輩マジリスペクトっす。

 

"それじゃあお昼ご飯をいただこうか"

"いただきます"

 

「「「「「「いただきます!」」」」」」

 

 全員が席に着いたのを確認してからの先生のいただきます。

 それに続いてぼくたち全員のいただきますの合唱で賑やかなお昼ごはんがはじまったのだった。




まだまだ道は長そうです。

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