合宿最終日。
朝起きて、まずコハル先輩から肩を揺さぶられてびっくりした。
なんだか目がむくんで少し開きづらい。
そして寝起きにがくがくと揺さぶられてもう何がなんだかわからない。
「ちょっとハジメ!?あんた目が真っ赤じゃない!?何があったのよ!?」
「ちょっコハル先輩、ステイ、ステイ…」
いやそもそもぼくは何をされてんだよ。
なんとかコハル先輩を宥めて、ヒフミちゃんが持ってきてくれた濡れタオルを目に当てる。
あーひんやりしてきもちーーー…。
「それでそんな目の周り腫れさせちゃって…昨日寝る時は別にそんなんじゃなかったじゃない?…怖い夢でも見たの?」
「さすがに怖い夢見たくらいじゃ泣きませんって…」
そう返しながらぼくはこうなった原因を思い出す。
夜中に抜け出して。
先生に会って。
先生に見透かされて。
…先生に、赦されて。
あっ、これ下手に正直に言えないやつだな????????????
…なんとかうまい事ごまかして…
「そういえば昨日ハジメは夜に部屋を出て行って、帰ってくる時は先生に抱きかかえられて戻ってきたみたいだけど、それと関係が?」
ちょっ、アズサちゃん!!!?!?!??
「せ、先生に抱きかかえられて…!?」
抱きかかえられて、という部分を繰り返したコハル先輩はどんどん顔が真っ赤になっていく。
えっ、抱きかかえられてって何!?
いや、むしろあそこでぼく寝ちゃったの!?
「確かその時もう一人誰かいたように見えたが…ヒフミ、あの時はハジメをベッドに寝かせるのを手伝っていたようだがあれは誰だったんだ?」
「えぇっと…セイア様でしたね…暗くてその時のハジメちゃんの顔は見えませんでしたけど、寝息は静かでうなされてたりはしてなかったかと…」
えっ?
そこでセイアちゃんが出てくるのめちゃくちゃ謎なんだけど。
昨日先生と中庭で話してる時はいなかったし…。
「いや、別に何かされたとかそういうのじゃ…」
「そ、それじゃあ夜中にハジメを泣かせるような事をしてその後セイア様まで毒牙にかけようと…!?」
おぉっとコハル先輩がだいぶあったまってるぞぉ?
コハル先輩落ち着いて、目が猫みたいになっておられるぞ????
あかんこれじゃ先生の社会性が死ぬゥ!!
「コハル先輩落ち着いてくださいッス!!ほんと今回の事に関しては先生悪くないッス!!」
「じゃあなんであんたの目はそんなに真っ赤っかに腫れてるのよ!?あと口調!!!!」
「いや、その…あの…」
「こ、コハルちゃん落ち着いて…」
怒れるコハル先輩をヒフミちゃんが必死に宥めている。
ど、どうしよう…?
「…ハジメちゃんがどうして泣いてしまったのか、聞いても大丈夫ですか?」
いつの間にか隣に座っていたハナコちゃんが落ち着いた声音で聞いてくる。
…やっぱ、言わなきゃダメかぁ…。
恥ずかしいけど、仕方がない…。
「えーっと、その…この合宿が終わっちゃうの寂しいなって思って、なんか寝付けなかったので中庭に涼みに行ったら先生がいたから、それを聞いてもらってたらなんか、涙が出てきちゃって…それでなんか、そのまま寝ちゃったみたいですね、ぼく…ハイ…」
だんだんと小さくなっていくぼくの声。
静まり返る室内。
あぁいたたまれない…。
いやだって子供みたいな理由で泣いたのを自分で説明するとか何これ拷問か?
顔をあげられずにいたぼくをハナコちゃんから引き離すようにコハル先輩がぐいっと抱き寄せてくる。
「ふぇあっ!?コハル先輩!?」
何!?
何事!?
なんかよくわかんないけどぼく今コハル先輩に抱きしめられてない!?
「あら…残念…♡」
「残念…じゃないわよ!?あんた今自分がどんな目でハジメの事見てたかわかってるの!?私の後輩をそういう目で見るのやめなさいよ!?」
「そんな…今のはハジメちゃんがあんまりにも可愛い事を言ったのが悪いと思いません?」
あんまりにも可愛いってなんだよ。
俯いてたぼくには見えなかったがハナコちゃんは相当危険な目でぼくを見てたらしい。
それでコハル先輩がぼくを救出して、こうして守ってくれてると。
「…ちょっと気持ちはわかるけどダメ!今のハナコはハジメの教育に悪い!」
ちょっとわかっちゃうんだ…。
あ、でもそう言いながら抱きしめる力を強くしてくれるコハル先輩あったかい。
「と、とりあえず皆起きましたし朝の準備を済ませちゃいましょう。ハナコちゃんはその…気持ちはちょっとわかりますけど、自重してもらうということで…」
「そんな…部長と先輩のお二人から言われてしまうなんて…」
「あんたの先輩じゃないって何度も言ってるでしょ!!…ほらハジメ!朝の支度するわよ!ハナコからは十分距離を取るのよ!」
「えぇ…なんだかわかんないけど、わかりました…?」
ぼくは結局何がどうなったのかよくわからないままコハル先輩に急かされて朝の支度に取り掛かるのだった。
朝ごはんも済ませ、試験の前の最後の自習時間だ。
昨日一日の勉強で試験範囲に関してはほぼほぼ頭に入ってる。
あとは完全に記憶するしかない文字の書き方や歴史の年号、数学の公式などを重点的に何度も確認する。
時折質問したり、されたり。
終わりの時間が近づいてくる。
今回のハケンは、ほんとうに色々な事があった。
ぼくを取り巻く環境が、丸ごとひっくり返ってしまいそうなことがたくさんあった。
ぼくは思ったよりもみんなから大事に想われてて。
ぼくも生徒になっていいんだなって、思えるようになった。
ぼくは思ってるよりもみんなから頼りにされてて。
ぼくがハケンとしても評価してもらえてるって知った。
ぼくが好きなみんなも、ぼくのことを好きでいてくれるみたいだって、少し自覚した。
"それじゃあみんな、準備はいいかな?"
"試験時間は1時間"
"みんなが自分の力を出し切れば、全員必ず合格できるって私は信じてる"
"それじゃあ、各自問題用紙と答案用紙、書くものと消しゴムだけを机に置いて"
"試験開始!"
…ひとまず、この目の前の試験を全力で合格してやる!
それで補習授業部のみんな
ぼくと先生は、テラスへの扉を開け、まっすぐとお茶会をしている3人の座るテーブルへと向かう。
テーブルにはナギサさん、セイアちゃん、ミカがいつものように座っている。
扉から入ってきたぼくと先生の姿を見て、3人ともこちらに笑顔を向けてくれる。
「ハジメさん、先生。今回は特殊な依頼となってしまいましたが、最後まで完遂していただき、本当にありがとうございます…そして、申し訳ありませんでした」
ぼくと先生がテーブルの前にたどり着くと、ナギサさんは席から立ち上がり、その言葉と共に頭を下げ、腰を折って謝罪をしてきた。
「すまなかった」
「ハジメちゃん、先生、ごめん!」
セイアちゃんも、ミカも。
3人が揃ってなぜか謝罪をしてきて少し驚く。
「ちょ、ちょちょちょ!?なんで3人が謝ってるの!?」
「いいやハジメ。君は覚えていないかもしれないが…この仕事は君を騙して無理やり受けさせたようなものだからね。ちなみに首謀者は私だ」
「そして先生を巻き込んで今回の案に整えたのが私です…ミカさんは私たちに協力してくれただけです」
「なっ!?違うよ!二人に賛成して一緒にハジメちゃんを騙してたの!!悪いことだってわかってたけどやったんだからある意味私が一番悪いよ!!」
セイアちゃんが、ナギサさんが、ミカがお互いを庇い合う。
どういう状況だよこれ…
ぼくは困って先生の方に目を向けると、
「…いやなんで先生も頭下げてるの」
"…この話を聞いてむしろ率先して協力を申し出たのは私だからね"
"本来なら3人を止める立場の大人である私が協力をしてしまったのが一番悪いんだ"
"ごめんね、ハジメ"
先生はそう言って頭を下げたまま上げようとしない。
…はぁ。
「とりあえずみんな頭上げてくれない?んで座って」
ぼくの言葉にみんなは恐る恐るといった感じで頭を上げ、席に着く。
みんなばつの悪そうな顔で俯いちゃって。
そんな顔するなよなー。
「いやほんと得難い経験でしたよ。この合宿に参加する前のぼくじゃ絶対に得られなかった経験だった。あ、ナギサさん出向証明書です、ここ。サインもらえます?」
ぼくは肩掛けバッグから取り出した出向証明書をナギサさんに差し出してサインを促す。
「え、えぇ…はい、確かに」
サインを入れた出向証明書をぼくに差し出すナギサさん。
「レポートはいつまでに出せばいいです?早い方がいいですよね?」
「えっと、今週中に提出していただければ…」
「それじゃあ明日かなぁ、とりあえず思うままに作って持ってきて見てもらうのでその場で添削修正するってことで。そういうことなんで明日の予定は空けといてくださいよ、ぼくのために」
「あ、明日ですか!?」
驚くナギサさん。セイアちゃんもミカも同じような顔でぼくを見てる。
「明日ですよー、あ、どうしても無理な予定とかあります?セイアちゃんとミカも」
「いえ、普通にここでティーパーティーとして執務を行っていますので、問題はないと思いますが…」
「私も特に外出の予定などはない」
「私は、奉仕作業さえ終わってれば暇だし…」
よし、3人とも大丈夫だね。
「じゃあそういうことで。あ、預かってもらってた銃は明日までそのまま継続で預けておいていいかな?」
「え、えぇ。それは問題ありませんが…その、レポートを今から帰って書くにしても明日に無理に持ってこなくても今週中ならいつでも大丈夫ですよ…?」
「え?いや今から補習授業部で打ち上げだから、それ終わって帰ってからかな、書くのは。まぁ明日の放課後くらいに合わせてくる予定だから夜と朝で余裕で終わるでしょ。書く事なんていくらでもあるし」
ぼくはそう答えながら出向証明書をクリアファイルに入れて鞄の中にしまう。
「あ、そういえば預けてた銃デコってくれたんだっけ?ぼくのこのSMGも今から打ち上げ前にそれ用の道具とか売ってるお店みんなで連れてってもらうんだー。3人がぼくの銃どういう風にデコったのかも明日の楽しみにしておくねー!それでは、本日…今回はさかまんじハケンサービスのご利用、誠にありがとうございました。またのご依頼、お待ちしております!!」
くるりとぼくは振り向いて、すぐ横に座ってる先生に声をかける。
「せーんせ、今日の打ち上げの代金全部先生の名前でツケとくから♪」
"えぇ!?私個人!?"
「がんばった生徒へのご褒美だルルォ!?…ってか今回の試験、ぼくが合格するの想定外だったでしょ?がんばったんだからご褒美くらい…いーじゃん」
慌てる先生にちょっとずるい甘え方をしてみる。
前日のテストになかったエデン条約の条約文に関する問題ガッツリ増やしてきた先生も悪いと思うよ。
ハナコちゃんからの忠告でみんなで条約文の確認とかしてなかったら危なかったんだからな!
"…そうだね、ハジメもみんなも本当にがんばったからね…その、お手柔らかにお願いします…ユウカにまた怒られそうだなぁ…"
「いざとなったらソラ先輩のおすすめ弁当もらう時に先生の分も確保してあげるから。それで今回の件はチャラにしてあげるよ」
そう言ってぼくは扉へと歩き出す。
まぁチャラにするっていうか…別にぼくはまったく損してないからね、今回。
あ、そうだ。
ぼくはいったん足を止めて、顔だけ振り向いてティーパーティーのみんなへ、
「明日に時間を作ってもらったのと、銃をデコってくれた分と…今回のハケン、本当にすごい楽しかったから、3人もそれでチャラにしたげる。あ、明日は美味しいお菓子も期待してるからね~」
ぼくは言いたいことだけ言ってまた扉へと振り返り、軽く上げた右手をひらひらと振りながら補習授業部の皆が待つトリニティの正門へと向かうのだった。
さーて、デコ用品のお買い物と先生のおごりでスイーツ食べ放題だ♪
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「…その、驚くほど、怒っている様子はなかった、ですね?」
自分たちの謝罪を受けたというのにあまりにも変わらないその態度に困惑したナギサ。
「いや、多分ほんとーにどーでもよかったんじゃないかな、ハジメちゃん。というかもうさっさと打ち上げ行きたいーって全身で表現してたじゃん。今にもスキップしそうだったよ?いいなー私も打ち上げ行きたーい!」
ぷぅ、と頬を膨らませ、ハジメが出て行ったテラスの扉を恨めしそうに眺めながらそんなことを言うミカ。
「まぁ、今この瞬間が一番ハジメが気にしないタイミングであるのも見越しての謝罪さ。あの様子ならあとは明日に少し嫌味を言われる程度で済むだろうさ」
そう言いながらカップに口をつけ肩をすくめるセイア。
"ティーパーティーのみんなでもハジメに怒られるのは怖い?"
「怒られるのが怖いと言いますか…」
「怒られてるうちが華と言うか…」
「怒られるのなんて私はしょっちゅうだけどねー」
ナギサもセイアもミカも。
3人が苦笑を浮かべながら
「「「嫌われたくない(です)から」」」
口をそろえてそう言って、お互いで笑い合う。
ハジメは情が深く、友達を嫌いになることなんてそうないだろうな、と3人は各々の心で思っている。
今回の件も、ハジメが少しでもいい方向に進めるように、3人で考えて大人の先生を巻き込んだ計画で、やったことへの後悔はない。
ただ、それでも友達を騙した罪悪感は当然にあって。
今はいい方向に進んだように見えるが、今後もそのまま進められるのかはまったくの未知数なのだ。
…もし今後何か、取り返しのつかない何かが起こってしまうとしたら。
彼女たちはその咎を自分たちが背負うと決めていた。
ただそれでも今は。
彼女たちの
そのためにさっさと怒られて仲直りしておこうと思ったのだ。
結局のところティーパーティーの彼女たちも、まだ子供なのであった。
"みんな、今回の件は本当にありがとう"
"みんなのおかげでハジメに生徒だって認めてもらえた"
"ハジメに、選択肢を増やすことができた"
"本当に…ありがとう"
先生が頭を下げる。
「先生、頭を上げてください…今回の件は私たち3人の我儘です。それにお礼を言われてしまうと…少し困ってしまいます」
「そうだよ先生!むしろまた先生に迷惑かけちゃって…私、やっぱり悪い子だな」
「…先生に私たちは助けられてばかりだね」
"いや、今回の件は私一人じゃ絶対にできないことだったからね"
"3人がハジメのためにしてくれた、とても素敵な事だと思ってるよ"
先生、ナギサ、ミカ、セイアは4人で微笑み合う。
しばしテラスには平穏な時間が流れるのだった。
「そういえば、先生はこの後シャーレにお戻りになるのですか?」
"うん、こっちにいる間に私じゃないと決裁できない書類も増えただろうし"
"ここには今回の試験の結果を渡すために来たんだ"
そう言って先生は出された紅茶を飲み干し、ナギサへ今回の試験結果の書かれた書類をナギサへと差し出す。
「お疲れ様です…初日の結果を鑑みるに、ハジメさんにとっては苦い経験となっていないといいのですが…」
ナギサはハジメの初日の試験結果を思いながら、先生から差し出された試験結果を確認する。
ナギサはぱちぱち、と目を瞬かせ、一度試験結果から目を離し、紅茶を飲んで一息つく。
そして改めて試験結果を確認するが、結果は当然、先ほど見たまま変わらない。
「ナーギちゃん!私にも見せてー!わ、ハジメちゃん88点も取ってる!?さっすがー☆」
試験結果を見て我が事のように喜ぶミカ。
「ミカ、私にも見せてくれ…これはすごいな、随分と高水準な成績が並んでいる」
セイアはすごいな、と言いつつもそこまで驚いた様子は見せない。
ナギサと違って彼女は前日の夜にワンクッションを置かれたことが功を奏したのだろうか。
「…え?その…ハジメさんは今回が授業や試験を受けるのは初めて…でしたよね?初日の成績もそれを裏付けるように振るわなかったはず…」
"うん、初めてだけどとても興味を持ってくれて熱心に勉強していたよ"
"他のみんなもそんなハジメに当てられたのかすごくいい成績で先生として鼻が高いね"
"これならハジメがどこかの学園に編入することになっても楽しんで学んで過ごしてくれるって確信できた"
"本当に有意義な合宿だったよ、改めてありがとう"
先生は呆けたような顔をしているナギサに笑顔でそう返し、荷物を持って席を立つ。
「先生、私たちも注視するが、もしハジメになにか変調があったら教えてほしい。出来る限りのことをしたいんだ」
"うん、頼りにしてるね、セイア"
「先生!また来てねー!!」
"そうだね、また来るよミカ"
「…失礼、少々取り乱しました。先生、後日改めて感謝の場を設けたいと思っております。その時はまた連絡いたしますね」
"ナギサからのお誘いならいつだって喜んで"
"それじゃあ、またね、3人とも"
そう言って、先生はテラスを後にした。
先生がテラスから去った後も3人はお茶会を続けている。
話題は当然ハジメと補習授業部…というかほぼハジメの事であった。
「それにしても驚きましたね…優秀だとは常々聞いていましたが、まさかこれほどとは…」
「私も驚いたよ。昨日の時点でケアレスミスさえなければ合格水準に達していたそうだ…それでもそこからさらに点数が上がっているのは驚くほかない」
ナギサの呟きにセイアは昨晩の自分が感じた驚きを一つ飛ばしでさらに上の結果を見せられたであろうナギサに同意を返す。
「えー?でもハジメちゃんならこれくらい出来るでしょ?」
ミカは何も疑問に思わずにそう返す。
「ミカ…ハジメが優秀だということは我々も理解している。今回驚いているのは初日に23点という、既知の問題しか解くことの出来なかった試験をたった2日と少しの時間でこの水準まで上げたことに驚いているんだ」
「その通りです…今回の試験は各科目ではなく複数の科目での総合試験で記述式…きちんと答えを理解していなければそもそも得点を取れないようにできています。合格ラインに達する事すら通常なら困難なはずなんです…」
セイアがミカに詳細を話し、ナギサもそれに同意する。
ミカはそれでも今一つ理解できないような顔だ。
「でもハジメちゃんすごい楽しそうに勉強してたし…ハジメちゃんのノートをお昼ごはん食べてる時に見せてもらったんだけどすごかったよ?先生の言ってることがぜーんぶ書いてあるの!びっくりしちゃった!」
「…それはまぁ、教師によっては板書だけではなく口頭の説明も交えてノートを取る必要がある場合もありますし、そこまで驚くほどのことでは…」
「違うよナギちゃん!全部だよ!ぜぇーんぶ!」
「…?ミカさん、一体何を…」
「…いや、待てミカ。全部というのは、そのまま全部か?先生が授業で言っていた言葉を議事録のようにそのまますべて、一言一句という意味で?」
「だからそう言ってるじゃん!」
やっと通じたか、と呆れたように言うミカ。
その答えにナギサは驚きを隠せず、セイアも内心では驚愕に満ちていた。
「しかも板書用のノートと気になったから後で聞きたい事用のノートも書いてるの!お昼ごはんが終わったらそれをまとめてもっとわかりやすいノートも書くって言ってたしあの試験範囲くらいならハジメちゃんなら合格点くらい余裕だと思うな?それでも88点はすごいよねぇ」
腕を組んでうんうん、と頷くミカ。
「…本当に、ハジメさんはこちらの予想を軽く超えてきますね…」
「私も昨日の夜に2日目の模試の点数を聞いて驚いた。しかしハジメにそんな特技があったとは…速記…とはまた違うのか。ミカが見て理解できたということは普通にわかる文字で書かれていたのだろうし」
「…あっ、そっかー☆2人ともハジメちゃんと模擬戦したことないから知らないんだぁ…♪」
口を押さえ、なんだか悪戯を思いついたような表情を浮かべながらミカは言う。
「…ミカさんは何かご存知なんですか?」
「えー?でもこれは私だけが知ってるハジメちゃんのことだからなー?…ナギちゃん?どうしてロールケーキ持ってるの?セイアちゃんもそのスコーンが乗ったお皿の持ち方おかしいんじゃないかな?今にも人に投げつけられそうに見えるんだけど?」
自分だけが気づいていたハジメの事に気を大きくしていたミカはその事実でナギサとセイアにマウントを取っていたが、2人から放たれる威圧感と、手に持つ凶器を見て観念したように席に座り直す。
「さぁミカ」
「きりきり吐きなさい」
「横暴じゃない?」
ミカはふてくされたように言うがナギサとセイアは素知らぬ顔でカップに口をつける。
「…ハジメちゃんってさ…物理的に動けなくなるかこっちが終わりっていうまで模擬戦やめないんだよね」
「…確かにミカさんと初めて会ったあの日も、何度も立ち上がって再戦を繰り返していましたね」
「それでね?ハジメちゃんって最初はフェイントとかにすぐ引っかかるのに次からは同じような騙しには絶対に引っかからないんだ」
「…そうなのか?あの日の時点でそこまで稀有な戦闘センスがあるとは思わなかったが…ミカが判断基準なのが悪いのか?」
「ちょっと!私が異常みたいに言わないでよ!…まぁ、あの日は初日だったし、それからも私とハジメちゃんは何度も模擬戦してるから今だと結構強いんだよ?ただ戦闘がへたくそなだけで」
ミカの言葉にナギサとセイアはぱちくりと目を瞬かせる。
「へたくそ…ですか?彼女は戦闘面に関しても非常に優秀だと正義実現委員会からの報告書には上がっているのですが…」
「そりゃぁハジメちゃんがそのへんの不良とかに負けるわけないじゃん☆そうじゃなくってね、えーっと…自分より強い相手と戦う時に必死になりすぎるっていうのかな?」
えーっと、うーんと、とミカは頭をひねりながらなんとか説明をしようとする。
ナギサとセイアもミカの言葉を脳内で繰り返すがどうにも理解に至らない。
「えっとね…ほら、避けれる弾って普通避けるじゃない?」
「それは…まぁ」
「ハジメちゃんってさ、避けなきゃいけない弾は避けるんだけど、ちょっと当たってもその後に有利そうなら当たってでもその有利を取ろうとするんだよね。そしてそれが有効な間はずっとそれを繰り返すの」
ナギサとセイアはミカのその説明に空恐ろしいものを感じる。
ミカはそれに気づきながらも続ける。
「でまぁ、模擬戦用の弾って実弾よりはマシだけど当たったら当然痛いじゃん?それでもハジメちゃんはやめないじゃん?ずっと食らうじゃん?最終的に動けなくなって、やっと模擬戦しゅうりょーってなるの」
「ミカさん…あなたという人は…」
「…少しサディスティックな面はあると思っていたが、まさかハジメで発散をしていたとは…見損なったぞミカ」
「うぇえ!?違うよ!?私もそれに気づいたから最近では適当なところで切り上げてるよ!?」
親友二人からの底冷えするような視線にミカは慌てて否定する。
「と、とにかく!ハジメちゃんって一回見たことは覚えて忘れないし反復しておんなじことをずーっと繰り返し練習できる子なんだよ!!だからやってて楽しいと思えてしかも痛くないならずーっとそれだけ、寝てる時以外やってたんじゃないの?」
「…補習授業部として他の生徒たちも一緒に参加してもらったのは正解でしたね…」
「そうだな…もしもの話だが何も知らずに一人で授業や勉強をさせていた場合、それこそ寝る間も惜しんで勉強だけをしていた可能性もあり得る」
「…仮にもし、ハジメさんがどこかの学園に編入、という形になったとして…このあたりの対策も考えないといけないのでは…?」
「少なくとも一人部屋は避けるべきだろうね…どこかの寮で、消灯時間なども厳格なところの方がいいかもしれない」
「あ!それじゃもしトリニティに来るなら私とハジメちゃんで相部屋にしてよ!寝ないで勉強しようとしてたら無理やり寝かしつけるから!」
ナギサとセイア、2人が新たな問題点に頭を抱えているとミカは能天気にもそんな希望をここぞとばかりに出してくる。
「…ミカさん、つい先ほどあなたの信用は地表スレスレから地底まで落ちたところなのですが…」
「ひどくない!?というか元々地表スレスレだったの!?」
「自分の胸に手を当てて考えてみるといいかと…」
「ナギちゃんひどい!私だってちゃんと我慢してハジメちゃんには普段からやりすぎないように節度を持ってちょっと弄ったりするだけにしてるじゃん!ハジメちゃんがいぢめると可愛いのが悪い!!2人だってそう思うでしょ!?」
「…ミカさん、そういうところですよ…そんなミカさんとハジメさんを同じ部屋で過ごさせたら我慢できなくなるのは目に見えてるでしょうに…セイアさんも呆れて…セイアさん?」
ミカが開き直り、ナギサがそれを諫め、セイアに水を向けよう…とするが。
「………ふむ、確かにミカと同部屋は危険だな。ナギサ、どうだろう。ハジメは特殊な事例だし私と同部屋の方が何かと都合がいいのでは?」
「セイアさん!?」
「セイアちゃんずるい!!」
「私はミカと違って自制心については一家言ある。私が我を失ってしまったのはミカ相手くらいのものだ」
「自制が必要だって自白してるじゃないですか!?」
「セイアちゃんひどい!あの時私本当にショックだったのに!そんなセイアちゃんにハジメちゃんは任せられないよ!!」
「ミカさんはミカさんでどこから目線なんですか!?」
ティーパーティーの3人の姦しいお茶会は続いていく。
彼女たちは何も本当にハジメがトリニティに編入してくるとは思っていない。
これは彼女たちの年相応の、「宝くじが当たったら何をする?」みたいな他愛もない話題なのだ。
エデン条約、それにかかわる様々な事柄で一度はすれ違い、壊れかけた絆。
今ではその時のことも含め、強固な絆で結ばれた3人。
笑い合い、想い合い。
そして共通の友人にお節介を焼き。
こうしてお茶会で、軽口を叩き合う。
各々立場はあるけれど。
彼女たちは年相応にまだまだ成長途中の子供たちなのだった。
まぁ、ハジメが本当にトリニティ編入を望んだ場合、どんな手を使ってでも囲う手筈は着々と整えているのだが。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「…よし」
レポートをだいたい書き終え、時計を見れば草木も眠る丑三つ時、といったところか。
数枚にも及んだレポートをホチキスで留め、布団に横になる。
ふと顔を横に向ければ、そこにはピンクと白を基調にデコレーションされたSMG。
スイーツショップへと行く前に皆で案内してくれたデコレーション用品の揃ったショップ。
そこでみんながお手本にって、施してくれたデコレーション。
ほんとは軽くお手本を見せてくれた後に自分でやるはずだったんだけど。
みんなにお願いして、SMG丸ごとデコってもらっちゃった。
コハル先輩からは「名前くらいは自分でつけてあげなさいよ!!」って言われちゃったっけ。
その素敵にデコレーションされたSMGには5つも小さなストラップがぶら下がっている。
ひとつはペロロ様。ヒフミちゃん最推しのモモフレンズのマスコット。
ひとつはスカルマン。アズサちゃんが推しているモモフレンズのマスコット。
ひとつは小さな白いリボン。ハナコちゃんの髪飾りと同じデザインのもの。
ひとつは小さな薔薇。コハル先輩の髪留めによく似た小さくて可愛いもの。
ひとつはアングリーアデリー。ヒフミちゃんが用意してくれた、ぼくが合宿初日にちょろっと好きだって言ったモモフレンズのマスコット。
みんなにデコってもらった、ぼくの愛銃。
そしてその後はみんなでスイーツショップへ。
飲んで食べて騒いで楽しんだ。
ちゃんと先生の名前で領収書を切ってやった。
これはあとで早瀬に渡してニコニコ返済計画を考えさせてやろうと思う。
直接請求が行かないように利子なし返済の形にしてあげたのはぼくの温情というものだ。
夕焼けもそろそろ終わり夜の帳が落ち始める頃。
駅まで見送ってくれたみんなと、笑って別れた。
昨日はあんなに寂しかったのに。
今でも少し寂しいけれど。
でもまた遊ぶ約束をした。
いつでも連絡してねって連絡先の交換だってした。
ヒフミちゃんは今度戦車のクルセイダーちゃんでみんなで海に行きたいですね!って。
アズサちゃんは今からゲリラ戦の模擬戦が楽しみみたいで、後輩のサオリちゃんもすげーんだよ!って話をしたらなんだか不思議な顔をしてたけど。
ハナコちゃんはなんだか妙にぼくにあーんと餌付けをしてきた。美味しかったけど目はちょっと怖かったゾ…。
コハル先輩は普段は正義実現委員会で活動してるから、ハケンに来たら挨拶に来なさいって。
…あと、どうせぼくが困る時は取り返しがつかなそうだから困りそうかもって思ったらとりあえず連絡しなさいって…。
信用が…信用がない…。
でも、別に困ったことがなくても気軽に生存報告感覚で連絡はしなさいって言ってくれた。
先輩マジリスペクトです。
口調は大事!
今から寝て、起きたらレポートをチェックして清書して。
それが終わる頃には時間もいい頃合いになってるだろう。
ナギサさんにレポートの提出をして、彼女たちがデコってくれた銃を受け取ろう。
名前は何にしようかな?
まだ家に残ってるプレーンの子たちは、ぼく自身でデコってあげないとな。
ぼくはもう一度愛銃に目を向ける。
皆にはまだ伝えてないけど、実はもう受け取った時に名前も思いついた。
なんだか少し気恥ずかしくて、まだ伝えられてないけれど。
だんだん瞼が重くなる。
ぼくの愛銃【best Bond】…これからもよろしくね。
こうしてぼくは、今まででは考えられないほど、自然に深く、眠りへと落ちたのだった。
【最高の絆】
ハジメにとって最高という評価は最高です
これにて補習授業部編も終了。
ところでプロット、どう?息してる?
…し、しんでる…!!!
誤字、脱字報告、高評価、感想、ここすきなどありがとうございます。
励みになります。