ハケン・ユーティリティ   作:ジョイン君

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彼女のお節介


依頼内容:物資の配達、それに伴う配達先での搬入、整理等の軽作業③

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 銃弾飛び交うアビドス校舎昇降口。

 校庭から昇降口へと殺到するヘルメット団の不良生徒たち。

 

 ヘルメット団の生徒たちは焦っていた。

 

「…クソが!!たった5人相手になんでこんなに手間取ってんだ!!」

 

 遮蔽物から身を乗り出してARを撃っていた隣の仲間がそのまま逆に黒髪の奴のARからの射撃を浴びて倒れたのを遮蔽の内側に引っ張り込みながら毒づく。

 

 そのまま自身の持つGLを遮蔽の向こうへ狙いもつけずに連発する。

 さっきから顔を出せばすぐさま撃ち抜かれて倒れる仲間たちを見て彼女はもはや冷静ではいられなかった。

 

 榴弾が炸裂し、響く爆発音。

 当たったかどうかは確認しない。

 つい先ほど、こことは逆側の遮蔽物でそれをした仲間がそれで位置バレしてドローンからの射撃を食らっているのを彼女は見ている。

 

ドドドドドドドドドドッ!!!!

 

 自らが背を預けていた遮蔽物に重たい銃撃が刺さる音。

 恐ろしい鉛玉の連射にこの遮蔽物はもうダメだとわかる。

 

 彼女は倒れた仲間たちも捨て置いて、すぐさま一つ後ろの遮蔽物に飛び込むように入った。

 

 つい先ほど彼女がでたらめに放った榴弾の煙幕は奥でクソでかいMGを構えた女のイカレた弾幕で吹き飛ばされている。

 その前を小柄な盾を構えた奴が走ってきている。

 さっきからアイツが全部受け止めやがる!!

 あんなちっこいナリで盾なんぞ構えてるだけでなんで榴弾でも銃弾でもびくともしねぇ!!

 

「クソが…クソが…!クソが!!」

 

 撃ち尽くしたGLに榴弾を込めながら考える。

 どうする?どうすりゃいい?

 

 横を見ればドローンからの射撃に遮蔽物から追い出された奴がそのままARを持った黒いのとマフラーをしたやつに撃ち抜かれて倒れ伏すのが見える。

 ふと外に視線を向ければ、戦車が一台、昇降口の前まで近づいてるのが見えた。

 その戦車はそのまま砲門を自分たちのいる昇降口へと向け。

 

「おいふざけんな!!まだアタシらがいるだろ!!」

 

「うは、味方諸共とかウケる」

 

 すぐ隣から聞こえた声は聞き覚えのない声。

 すぐさま横を向きながら、手に持ったGLを声が聞こえたほうへと向け

 

 ガキィッ!!

 

 ようとした銃身はソイツが手にはめた、メリケンサックのような何かで打ち払われ、手からそのまま吹っ飛んでいく。

 

「一番気合入ってたよ、アンタ」

 

 昇降口に踏み込んだヘルメット団総勢十数名。

 その中で最後まで立っていた彼女が目にしたのは、

 

 白と桃色に彩られたSMGを構えた銀髪鬼が、無表情に引き金を引いた姿だった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

ドォンッッ!!!!

 

 

 

 こちらへ近づいて来た戦車からの砲撃音。

 ホシノおじさんがいち早く反応して遮蔽物を乗り越え、昇降口から前に出る。

 ぼくたちはすぐさま残っている瓦礫や下駄箱などの遮蔽物で衝撃に備える。

 

 

ドッゴォォォォォン!!!!

 

 

 轟音、衝撃。

 

 着弾によって起こった土煙で辺りは完全に視界が遮られている。

 

「ちょっとホシノ先輩!?無事!?」

 

 セリカちゃんがホシノおじさんに声をかけるのを聞きながらぼくは駆け出す。

 

 スカートの内側、レッグホルスターに仕込んでおいた煙幕手榴弾を取り出し、ピンを抜いてたった今こちらに主砲を放った戦車に向けて投擲する。

 走りながら左を見れば、同じようにARを携えて走るシロコちゃんと目が合う。

 

「右!」

 

「ん、左」

 

 簡潔に意思を伝え合い、ぼくとシロコちゃんは左右に散開する。

 

「んじゃおじさん正面いくね~」

 

 つい先ほど戦車の主砲を受けたホシノおじさんはそんな声と共に盾を構えたまま、SGを正面に向かって撃ちながら前進する。

 タフって言葉はホシノおじさんのためにある。

 

『戦車周辺にあと4名!煙幕で完全に覆われてます!!左に1、右に2!戦車後方に1です!』

 

「りょ~か~い」

 

 アヤネちゃんの通信を聞きながらホシノおじさんはそのまま戦車を足場にして乗り越え、戦車後方へと駆け抜ける。

 シロコちゃん側も煙幕で見えないけど上手くやってくれることだろう。

 

「クソッ!なんだこの煙は!!」

 

「落ち着け!すぐに晴れる!警戒しろ!!」

 

 ぼくは声の聞こえた方向に走る。

 煙幕の中うっすらと見えてきたヘルメット団はアヤネちゃんの通信の通り二人。

 背中合わせにでお互いの視覚を補っているようだ。

 

 

ダダダダダッ!!

 

 

 ぼくは向かって正面のヘルメット団を聞こえた声で方向に当たりをつけて【best Bond】を撃ちこむ。

 

「ぐぁっ!?」

 

「おい!?どうした!?」

 

 昏倒させるまでには至らなかったが、何発か命中したヘルメット団その1がその場で声をあげて蹲る。

 背中合わせに立っていたその2は後ろを振り向いて声をかける。

 

 おっ、ラッキー。

 

 ぼくは走りこむその勢いでそのままこちらに振り向いたその2のヘルメットに向かって前方宙返りで全体重と勢いを乗せて踵をぶち込んでやる。

 

「ぶぎゃあ!!!!!」

 

 ぼくの浴びせ蹴りをモロに食らったヘルメット団その2は妙な叫び声を上げながら叩きこまれた勢いそのままに地面にヘルメットごと頭を打ちつける。

 ぼくは蹴った反動を利用してその場で急ブレーキ。

 殺しきれなかった勢いは地面に着地してそのままズザザ、と滑りながら殺しきって反転。

 振り向いた先には先ほど仕留めそこなったヘルメット団その1がこちらに向かってARを抱えている姿が見えた。

 

「うわぁぁぁぁぁ!?来るな!くるなぁあああああああ!!!」

 

 うっせ。

 彼我の距離は2mほど。

 思ったより勢いを殺せなかったなぁ、と思いながら前に駆け出す。

 ぼくから向かって左側、右腕側に腰だめにARを構えているヘルメット団その1。

 

 数発は当たるだろうが(・・・・・・・・・・)問題なく制圧できるだろう。

 

ドォン!

 

「ぐぇっ!?」

 

 その時、身構えていた目の前のARの銃声とは違う、遠くから聞こえた小さな銃声と共に目の前のヘルメット団員が横から何かの衝撃を受けたように仰け反らせる。

 その衝撃で、放たれた銃弾はぼくの予想よりも外れた場所に放たれる。

 ぼくはそのままヘルメット団員に肉薄し、その勢いのまま、相手の腹部を思いっきり膝で蹴り抜いてやった。

 

 動かなくなったヘルメット団員の二人を確認して、ちらと校庭の隅っこ、戦車を挟んで向こう側のトラックに目をやる。

 そこでは相変わらずつまらなそうに足を組んだ狐坂が【真紅の災厄】をなぜか担ぎ直している姿が目に入る。

 

 サンキュー狐坂!!

 

『敵戦車1台、ノノミ先輩とセリカちゃんが制圧しました!残ったもう1台は撤退していきます!』

 

 アヤネちゃんの通信にすぐ横の戦車があった場所を見れば、そこには側面からノノミさんのMGをこれでもかと撃ちこまれてもはや動くこともできないだろう戦車と、その乗降口から逃げ出そうとしたヘルメット団員を制圧したセリカちゃんの姿があった。

 

 

 

 

 

 

「皆さん、お疲れ様です!!」

 

「アヤネちゃんもお疲れ~。どう?追跡用のドローンはきちんと動いてる?」

 

「はい!今のところ撤退した敵戦車の追跡は問題なくできてます」

 

 アヤネちゃんはそう言ってノートPCの画面をこちらに見せてくれる。

 画面にはつい先ほどの戦闘から逃げ出した戦車がアビドス市街地を抜け、砂漠に向けて走っている映像が映されている。

 

「これで相手の拠点も割り出せそうだねぇ~」

 

「やっと悪い子たちにお仕置きできますね~☆」

 

 よっこいしょーと言いながら椅子に座って机に突っ伏すホシノおじさん。

 ノノミさんも嬉しそうにその隣に座る。

 

「それにしても大きな襲撃だったわね…昇降口もボロボロになっちゃったし…」

 

 銃撃戦を繰り広げた昇降口の惨劇を思い出したのかため息をつくセリカちゃん。

 

「ん…でもあの規模の襲撃で昇降口だけで済んだのは全然マシ」

 

「あの数が相手ならいつもだと校舎内に誘い込んでの遅滞戦ですもんね…」

 

 シロコちゃんの言葉にアヤネちゃんが答える。

 

「ハジメちゃんすごかったんですよ~☆こう、横から抜けてこようとするヘルメット団さんを捕まえてキュッ、って☆」

 

「うへ~!?おじさんで実演しないでよノノミちゃ~ん!」

 

 キュッと言いながら机に突っ伏してるホシノおじさんの後ろから抱き起こすように首元を引っ張るノノミさん。

 

「確かに今日はなんか押し込まれる感じがなかったわよね」

 

「ハジメちゃんがおじさんのカバーしきれないところでがんばってくれたからね~。ぴょんぴょん動き回るのに必要な時はいつの間にかおじさんの後ろでやり過ごしてるんだからすごいよね~」

 

「ホシノおじさんが頼りになりすぎるんだよなぁ…真正面から戦車の主砲受け止めてるの流石に草なんだわ」

 

「おじさんは盾持ってるからね~」

 

 ダンスやってるみたいに簡単に言うじゃん…。

 いやほんと、信頼できるタンクのいる集団戦ってこんなに動きやすいものだったのね…。

 

「いや、銃だけじゃなくて普通に近寄って殴ったり蹴ったり投げ飛ばしたりしてるハジメちゃんも大概だったわよね…?」

 

「相手に接近しすぎた時にあれだけ動けるのは明確に強み。勉強になった」

 

 シロコちゃんの勉強になる、はなんか不穏な感じがするけど…強盗に用いたりしない?大丈夫?

 

「いやぁ、今日は相手に通じたからいいけど格上相手だといなされるしそもそも殴ってもびくともしなかったりするのもいるからあんま参考にしない方がいいと思うけど…ホシノおじさんとか多分びくともしないタイプでしょ?」

 

「えぇ~?おじさんかよわいから盾持ってないとぶっとばされて終わりだよ~」

 

「盾の信頼感が強すぎる」

 

 盾さえあれば平気って言ったよねこの人?

 ははーん、さてはキヴォトス上位勢だなホシノおじさん。

 逆らわんとこ…。

 

「あっ!?」

 

 PCの画面を見ていたアヤネちゃんが声をあげる。

 

「んん~?何かあったのアヤネちゃん?…ありゃりゃ」

 

 ホシノおじさんがアヤネちゃんの肩越しにPCの画面を覗き込み、そんな声を上げる。

 PCの画面には先ほどまで映っていたウィンドウに「NO SIGNALS」と表示されていた。

 

「追跡バレちゃったか~。場所は割り出せそう?」

 

「通信が途絶えた場所は…このポイントですね。消える瞬間まで見ていましたが最後にチラッと工場のようなものは確認できました」

 

 アヤネちゃんは机に広げていたアビドス近郊の地図の一点を指差す。

 

「不良生徒を使って物資を供与して襲撃させる手口…この一帯をジャミングできるだけの技術力…これは」

 

「なんとも二番煎じな感じだね~」

 

 シロコちゃんの呟きにホシノおじさんがあくびをしながら答える。

 

「つまり…今回の一件もカイザー絡みって事!?」

 

「本当に困った人たちですね~」

 

 セリカちゃんが憤り、ノノミさんも困ったようにため息をつく。

 カイザー…カイザー?

 

「そういえば検問に引っかかった時もカイザー以外は通すなって言われてるってスケバンの子たちが言ってたなぁ」

 

「…なるほど、確定ですね」

 

 ぼくの言葉にアヤネちゃんが確信を持つ。

 

「決まりだね~。みんな、補給を済ませたら追跡用ドローンの反応が途絶えた場所までヘリで強襲、あっちの拠点を完全に破壊しちゃおうか~」

 

 ホシノおじさんの言葉に皆頷いて物資を運び入れた部屋へ向かう。

 ぼくはトラックからSRも持ってきておいた方がいいかな?と思いながら一度狐坂に現状報告も兼ねて戻ろうと教室の入り口へ向かい、

 

「あ、ハジメちゃ~ん、はいこれ」

 

 そんなぼくの背中にかかった声に振り向くと、ホシノおじさんがぼくにクリアファイルを差し出してきた。

 物資の目録と出向証明書の入ったクリアファイル。

 署名欄にはどちらも「小鳥遊ホシノ」と記入されている。

 

「え?いやこれは全部終わった後で」

 

「うん、終わったから渡したんだよ~」

 

 へ?

 ぱちくりと目を瞬かしてしまうぼく。

 

「さっきので「ちょっとお手伝い」はおしまい。これ以降は私たちアビドス廃校対策委員会の自治権の執行になるからね~…これ以上は私たちのもらいすぎになっちゃうから」

 

「ホシノ先輩!全員準備終わったわよ!」

 

 教室の入り口から顔を出してそう叫ぶセリカちゃん。

 そちらを見れば、セリカちゃんの後ろにアヤネちゃんとシロコちゃん、ノノミさんもいた。

 

 セリカちゃんがぼくに近づいてきて、ぼくの両手を取る。

 

「ハジメちゃん!今日は物資を届けてくれてありがと!ハジメちゃんのおかげで襲撃の被害も少なくて済んだしほんと助かっちゃった!今度柴関ラーメンまで来て!今日のお礼に一杯おごるから!」

 

「今日中に悪い子にはお仕置きしちゃいますから、今度はゆっくり遊びに来てくださいね~☆」

 

「ハジメさんのおかげで校舎の被害も最小限に抑えることができました。先生にも本当に助かりましたと伝えてください!」

 

「ん、ハジメとはもっとお話ししたいから今度来た時は一緒にツーリングしよう。私の予備のロードバイクを貸すから」

 

 ぶんぶんとぼくの両手ごと振って感謝を示すセリカちゃん。

 ノノミさんもアヤネちゃんもシロコちゃんちゃんも、ぼくに微笑みかけてくる。

 

 …確かに仕事の範疇はもう逸脱してるし、彼女たちは強い。

 相手から攻め込まれた防衛戦であれだけの力が発揮できるのならぼくの力なんてなくても一気に相手の拠点を制圧できるだろう。

 

「よ~し、それじゃあカイザーにお灸を据えてやろうか~」

 

「ヘリはすぐに出発できるようにしてあります!」

 

「あ、ハジメちゃん!先生から私たちのモモトークのIDを聞いて連絡しておいて!今度は普通に友達として遊びましょ!」

 

「いつでも歓迎しますよ~☆」

 

「ん、ハジメ、気をつけて帰ってね」

 

 アビドスの皆は教室から出て、階段を上がっていく。

 ぼくはホシノおじさんから手渡されたクリアファイルを持って少しその場で立ち尽くして…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…帰る、かぁ」

 

 教室を後にして、校庭の隅に停めたトラックへと戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ハァ、やっと戻ってきましたか」

 

 とぼとぼ、とトラックへたどり着くと、相変わらずコンテナの荷台に足を組んで座っている狐坂からそんな声がかかる。

 

「…あぁ、狐坂。さっきは援護射撃ありがとね。1、2発もらう予定だったから当たらずに済んで得しちゃった」

 

 先ほどのヘルメット団員との戦闘中、最後の最後に援護をしてくれた狐坂にぼくは素直にお礼を言う。

 ぼくの言葉に狐坂は狐面越しにもわかるようなどでかいため息をついている。

 

「どうしてわざわざ自分から傷つくような事をするのです?あの程度の相手なら無傷で制圧ができたでしょう」

 

「そりゃ一回距離取ればできたけど…あの状況ならそのまま殴って制圧した方が早かったでしょ?別にちょっと弾に当たったくらいで死ぬわけじゃないんだし…」

 

「あなたのその行動はあなたが思っている以上に厭う者が多い。そんなことすらわからないからあなたは愚者なんですよ」

 

 ぴょん、とコンテナから飛び降りた狐坂はそのまま助手席に乗ってしまう。

 その時、アビドス校舎の屋上から飛び立つ雨雲号が見えた。

 よく晴れた快晴の青空を裂いて飛ぶその姿を、ぼくは見上げて見送る。

 

 心配なんていらないのはわかってる。

 

 それでもぼくは、目が離せなくて。

 そのまま小さくなっていく雨雲号をじっと見つめて、

 

「あいったぁぁ!?」

 

 べちーん!!、とお尻にすごい衝撃を感じ、思わずぼくはその場で飛び上がる。

 痛みの走るお尻を抑えて振り返ると、そこには今まさにお尻に手を振り抜きましたという格好のままこちらを見据える狐坂が立っていた。

 

「いきなり何すんの!?」

 

「物欲しそうに見つめるだけの駄犬に躾をしただけです」

 

 そう言いながらぼくのお尻を叩いた手を、汚れたものを触った後のように勢いよく振る狐坂。

 いやぼくのお尻ばっちいみたいな行動やめろよ!

 

「大方余計なお節介を焼こうとして断られたのでしょう?それでそうしていつまでもうじうじと見送っている」

 

「…まぁ、その通りだけどさぁ…お尻叩く必要あった?」

 

「思いの外ちょうどいい的でしたので」

 

 ケツデカで悪かったな!!!

 ちくしょう、自分はケツもおもちも立派だからってよぉ!!

 

「そうやってうじうじと悩むくらいならさっさと行動なさい。愚者は愚者らしく愚直にやりたいことをやればいいだけでしょうに」

 

 狐坂はそう言って校舎の方へと歩き出してしまう。

 

「どこぞの愚者のせいで私は疲れました。あちらで少し休憩をします。あなたは目障りですので、どこかで時間を潰してきなさいな」

 

「…いやいや、休憩なら助手席で寝てりゃいいじゃん、どうせ運転しないんでしょ」

 

「あなたと過ごすのが耐えがたいと言ってるのですが?特に今のあなたとは」

 

「ひどくない?」

 

「今のあなたは見るに堪えません。さっさとやりたいことをやってその不愉快な顔を少しは見れるようにしてから戻ってきなさい」

 

 狐坂は言いたいことは言ったとばかりにそのままこちらを振り向くことなく校舎へと入っていってしまった。

 

 …はーーーーー!!

 まーじで意味わかんねぇ!!

 

 ってかなんでぼくがあそこまで言われなきゃならんの????????

 ってかまだお尻痛いんだけど!!!!!!!!!!!!!!

 

 あーくそ、まーじでむかついた!!!

 こうなったら言われた通りさっきできた友達のところに遊びに行っちゃうもんね!!

 しょーがないよな!!

 狐坂に言われて仕方なく!申し訳ないけどちょっと友達の遊びに行ったところに様子見するだけだから!!

 ほんとに邪魔そうなら帰ればいいよな!!

 

 ぼくは憤る気持ちを胸にトラックに乗り込み、キーを回す。

 先ほどの地図上のポイントを脳内のアビドスの地図と照らし合わせてだいたいの位置を確認。

 連邦生徒会のロゴ入りトラックはそのままアビドス高等学校の校門を飛び出すのだった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「…はぁ、やっと行きましたか…」

 

 先ほどまでハジメやアビドスの生徒たちが使っていた教室の窓から校門を抜け走っていくトラックを確認し、ワカモはため息をつく。

 

 安納ハジメ。

 最初に見た時は先生とシャーレのコンビニの店員に依存しきっている野良犬と言う印象だった。

 気に食わなかった。

 

 だが依存しながらも相手の負担にならないようにしようと勤勉であろうとする姿勢は認めてやってもいいと思った。

 

 だが、ハジメの行動はだんだんと歪になっていった。

 先生への態度がだんだんと辛辣になっていった。

 先生からの厚意を避ける素振りが増えた。

 突然おままごと(ハケン)をはじめて、先生に無駄な苦労と責任を増やした愚者になった。

 

 先生から差し伸べられている手を見て見ぬふりをしてそれでもその手を振り払えない愚かな俗物。

 

 己の価値が、意志が希薄すぎる。

 何より、焦がれておきながらその厚意を無碍にする在り方はワカモには理解できなかった。

 そしてそんな愚者にも手を差し伸べてしまう先生が痛ましかった。

 

 だから、先生が手を差し伸べる他の生徒たちとも違う。

 狐坂ワカモにとって、安納ハジメは明確に敵だ。

 

 

 

 ではなぜ、今日この日、こうして同行し、それどころか手助けをしたり、尻を叩いてやったかと言えば理由は単純だった。

 

 

 

"アビドスに物資を運ぶハジメが無茶をしないか見張ってほしいんだ"

 

「まぁ…あなた様からの頼みとあればたとえそれがどんな試練であろうともこのワカモ、必ずや叶えてみせる所存ですが…」

 

 夜。

 特段仕事も抱えていないワカモは日課のシャーレ周辺警戒(先生観察)を行っていた時、その先生からのモモトークを受け取り天にも昇る気持ちですぐさま先生の元へ駆けつけた。

 そうして他愛もない世間話から切り出された先生からの依頼。

 

 先生とこうして過ごすこの時間は至福であったが、安納ハジメの名前が出た瞬間、今すぐにあの愚者を排除してやろうかという憤りも感じた。

 

"やっぱりダメかな?"

"ワカモはハジメの事が苦手そうだもんね…"

 

「…あなた様の前で明言するのは少し憚られますが…私はあの子が苦手なのではありません。明確に「嫌い」なのです」

 

"…それじゃあ、やっぱり無理にお願いするわけにはいかないよね…"

 

「ですが、先生の願いであるならば必ず叶える…このワカモはそう誓っております…ですが私もまだまだ至らぬ身、あの子と同行するというのなら相応に対応をさせていただくことになりますが…」

 

"本当!?助かるよ!"

"お礼に私ができる範囲ならワカモがしてほしいことをなんでも一つ聞くから"

"帰ってくるまでに考えておいてね!"

 

「…なんでも…ですか!?」

 

 こうして敵を利用して自身の求める最上級の報酬を得るクソチョロキツネが同行することとなったのであった。

 

 

 

 

 

 

 敵と見限ってからは戦場での相対以外は歯牙にもかけなかった安納ハジメとの半日と少しの同行。

 

 最初からついさっきまで完全に塩対応をしていたワカモではあるが、実際その印象はだいぶ変わっていた。

 そも朝の時点でワカモが知っているハジメとは違った。

 先生への態度である。

 減らず口は相変わらずだったが態度が明らかに先生を拒否していた頃とは違っていた。

 完全に無視を決め込んでいたワカモに、ハジメはよく喋った。

 やれこの間はじめて授業を受けただの。

 やれ友達に銃をデコレーションしてもらっただの。

 やれワカモの【真紅の災厄】は古風な色合いと力強さが素敵だの。

 1時間も延々しゃべり倒していた。

 少し前はここまでしゃべる子ではなかったと思うのだが。

 まぁ自分の愛銃を褒められる事は悪い気分ではなかった。

 

 とはいえ、その変わり様が余計にワカモの警戒心を煽ったのだが。

 

 結局荷物運びも終わって。

 まぁ見限ったあの頃に比べればかなりマシになったかもしれないと思い始めた頃、ヘルメット団の襲撃があった。

 これでまた帰るのが少し遅れるか、とワカモは辟易した。

 

 戦況は一方的だった。

 元々アビドスの生徒たちとは先生の指揮があったとは言え、相対した経験からもキヴォトスでも有数の実力者揃いであることはわかっていた。

 

 そこにあのハジメがいるのならあんな20人にも満たない有象無象に戦車が2台程度では話にもならないだろうと静観を決め込んだ。

 一応先生に言われたハジメが無茶をする事態に陥った時の対処ができるよう、コンテナの上に座り戦場を眺めていた。

 

 結局内部に押し入っていた有象無象は制圧され、慌てて攻め込んだ戦車の内一台も見事に蹂躙される。

 煙幕で視界を遮り、視覚的に分断された者を各個撃破。

 戦車に対しては最大火力で行動不能に陥らせる。

 ハジメは相対した二人の内片方に浴びせ蹴りを見舞い、そのまま最初に仕留めそこなったもう一人に肉薄しようとする。

 最初の攻撃が浅かったのか、体制を整えて反撃を試みようとする相手にハジメは構わず突っ込んでいった。

 

「…詰めが甘い…」

 

 ワカモはそう呟いて担いでいた【真紅の災厄】を発砲する。

 

 ドンッ!という聞きなれた銃声が響く。

 当たったかどうかの確認はしない。

 この距離で外れるようなことが起こるわけもない。

 

 ふと、視線を感じそちらに目をやれば、桃色の髪の小柄な生徒と目が合った。

 ワカモは気にせず【真紅の災厄】を担ぎ直し、校門に視線を向ける。

 そこには脱兎のごとく逃げ出した戦車と、それを追うような小型のドローンが見えたのだった。

 

 

 

 

「あら、お煎餅にほうじ茶まであるなんて僥倖です」

 

 ワカモは対策委員会の利用している教室を勝手に家探しして好みのお茶と茶菓子を用意してくつろいでいる。

 

「まったく…愚者のお守なんて今後しばらくはごめんです」

 

 ワカモにとってハジメは見限ったあの日から思えばとてもマシになっていた、と思う。

 まぁ、もう少し様子を見てもいいかもしれないと思う程度には。

 

 だから気に食わなかった。

 置き去りの子供のような小さな背中が。

 必死に焦がれるソレを、歯を食いしばって耐えようとするその姿が。

 

 かつて見限る原因となったその片鱗が。

 

 気づけば文字通り尻を叩いて、言葉で刺してたたき出していた。

 

 少しは見直してやった評価をすぐに覆すその愚かさに本気で腹が立った。

 その腹いせも兼ねてワカモはこの対策委員会の教室で煎餅とお茶で一息ついていた。

 

 先生からの報酬と、思いの外好みの茶菓子があったことだけが今の彼女にとっての救いだ。

 

「…あなた様以外が私に気を揉ませるなど許しがたい所業です…この貸しは高くつきますからね…!」

 

 と、ワカモにしては珍しい、先生への愚痴が口をついて出る。

 

 

 

 

 

 

 ぱりぱりと煎餅をかみ砕く音だけが無人の校舎内に響く。

 

 

 

 

 

 茶を啜るたびにかつて見限った愚か者への怨嗟が募る。

 

 

 

 

 

 だって、狐坂ワカモにとって安納ハジメは明確に敵だったのだ。




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