ハケン・ユーティリティ   作:ジョイン君

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彼女の特攻


依頼内容:物資の配達、それに伴う配達先での搬入、整理等の軽作業④

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「うへ~…参ったねぇ」

 

 身を隠した遮蔽物から工場に据え付けられた対空砲とそれを守るように布陣された対地砲やオートマタの様子を伺いつつホシノはぼやく。

 

 雨雲号でドローンの反応が途絶えたポイントまで向かったアビドス廃校対策委員会は、そのままカイザーが運営しているであろう工場へと突撃を試みたが、対空砲火により一時撤退を余儀なくされた。

 幸い、被弾前に対空砲の射程外へ退避が間に合ったため、撃墜されることはなかった。

 

 一度距離を取って地上からの侵攻を試みた一同だったが、工場の敷地を守るように配置されている豊富な敵戦力に阻まれてしまう。

 敷地の周囲にはなぜか破壊された戦車や倒れ伏す不良生徒たち。

 

 まだ意識のある不良生徒に事情を聴けば、今回の件はやはりカイザーコーポレーションが裏で手を引いており、雇い主はチーフ(係長)と呼ばれる大人だということ。

 襲撃から逃げ帰ってきたヘルメット団や元々基地内で待機をしていた他の不良生徒たちはなぜかその後工場から叩き出され、当然納得のいかない彼女たちは応戦を試みるが、あえなく敗北。

 こうして敷地外に放り出されたという。

 その後、襲撃に関わっていない検問を敷いていた生徒たちが戻ってきた際もあのオートマタなどの防衛戦力に蹴散らされ今に至るということだ。

 

「戻ったよ」

 

「シロコ先輩、どうだった?」

 

 遮蔽物の裏、偵察から戻り合流したシロコにセリカは声をかける。

 

 現在地は敷地から少しだけ距離を取った破壊された戦車の残骸に身を潜めている。

 

「対空砲は正面の一基だけだったからあれさえ破壊できれば雨雲号でアヤネも一緒に強襲は可能だと思う。でもかなり守りが厚いしドローンも試してみたけどすぐに撃ち落された。多分動体検知か何かが常に動いてる。オートマタも一定距離まで離れれば引き返した」

 

「鉄壁の守りって感じですね~…」

 

 シロコからの偵察の説明にノノミは困ったような表情でため息をつく。

 

「シロコちゃんから見て、このまま4人で突っ込んでどうにかなりそう~?」

 

 ホシノの問いにシロコは少し考え、

 

「…五分五分かな。あの対空砲の手前に並んでる対地砲がどうにかなればノノミ先輩の火力でごり押しできそうなんだけど」

 

「…よし、それじゃあおじさんが突っ込んでその対地砲をなんとかするよ~」

 

「ホシノ先輩!?流石に危険すぎよ!?」

 

 下ろしていた腰を上げながらそう言うホシノにセリカが叫ぶ。

 

「でもこれしか方法はなさそうだし~…ここでいつまでも様子を伺っててもね~」

 

 そう言って、ホシノは盾と愛銃【Eye of Horus】を構え、遮蔽物から少し顔を出して目標の対地砲の位置を確認し、

 

「…わかりました。対地砲がなんとかでき次第、私も前に出て一気に対空砲にお仕置きしちゃいますね~」

 

「ん、近づいてくるオートマタは私とセリカでなんとかしよう」

 

「…もう!やればいいんでしょやれば!!」

 

 4人は視線を交わし、頷き合う。

 緊迫した空気の流れる中、盾を構えたホシノがそのまま目標へ走り出そうと遮蔽物から飛びだそうとしたその時。

 

ブアァァァァァァン!!!!!

 

「「「「へ?」」」」

 

 彼女たちが身を潜めていた遮蔽物から少し離れた場所を猛烈な勢いで飛び出したトラックが対空砲のある方へ突っ込んでいく。

 

ビーッ!ビーッ!ビーッ!

 

 基地から響く警告音と共に、オートマタが、対地砲が次々と侵入してきたトラックへ向けて弾を放つ。

 トラックの勢いは衰えず、その大きな車体を巧みに左右に振りながら、射撃や砲撃の直撃を避けて突っ込む。

 すぐそばに着弾した砲撃の衝撃や前から浴びせられている銃撃も構わずに。

 

 そしてトラックはそのまま4基並んだ対地砲の1基にそのまま突撃し、

 

ドッゴォォォォォォォオオオオオン!!!!!

 

 豪快な爆発音が対空砲から鳴り響いたのであった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「ハッハーーーー!!!して(・・)やったぜーーーー!!!ぐぇっ!?」

 

 たった今対空砲に撃ち込んだロケットランチャーを担いだまま叫ぶスーちゃんの首根っこを掴んだぼくは運転席を開け放ちそのままスーちゃんを引っ張ってトラックの外へと飛び降りて退避する。

 

「おい!絞まっ…絞まってる!!首っ…!」

 

 あっ、これ間に合わねえな?

 ぼくはなんか手元で抗議の声をあげているスーちゃんを仕方なく抱き寄せてそのまま出来る限り勢いをつけてトラックとは逆の方向に思いっきりジャンプする。

 

 ぼくのジャンプと後方のトラックに運転席から見えたオートマタの担いだロケットランチャーの榴弾がぶち込まれ、爆発をしたのは

 

 

ドガァァァァァァァァァン!!!!!

 

 

 ほぼ同時であった。

 

 

 

 

 

 

 

「…痛っつつつ…スーちゃん、無事ぃ?」

 

「テメーがスーちゃんって呼ぶんじゃねえっつってんだろが…!!その呼び方はダチ(友達)限定だって言ってんだろ…!」

 

 ぼくの問いに頭を振って立ち上がりながら答えるスーちゃん。

 あの爆風で吹っ飛ばされたにしては軽傷なようだ。

 よかった。

 

「オラ、いつまで寝てんだ銀髪鬼ィ。あのメガネがヘリで来るまで下がるンだろーがよォ」

 

 そう言って、吹っ飛ばされた時に取り落としてしまったぼくのSR【sincere Pray】を拾い上げ、動けなくて横になったままのぼくの肩を担ぎ上げて歩き出すスーちゃん。

 

「ハッ、あの銀髪鬼のボロボロな姿なんざなかなかお目にかかれねぇ、得したぜ」

 

「そんなにレアな姿でもないんだよなぁ…ってか置いてってもいいよ?」

 

「アァ!?アタシを庇ってそんなぼろ雑巾になってンだろが!?テメーに貸し作ったままなんざゴメンなんだよコッチは…ってかそんだけボロボロになってんのレアじゃねえって逆にこえーよ!普段何やってたらそうなんだよ!?」

 

「いや、ゲヘナの風紀委員長と模擬戦したりとか、トリニティの正義実現委員会の委員長と模擬戦したりとかすると大抵こんな感じ…あー、最近はこうなる前に気絶してる気がするから言われてみればレアなのかな?」

 

「やっぱお前頭おかしいわ」

 

「ひどくない?」

 

 そんな悪態を飛ばしながらも爆風をスーちゃんの分までモロに食らって足元がおぼつかないぼくの肩に腕を回してしっかり引っ張ってくれるスーちゃん。

 このスーちゃんは検問の時にぼくに声をかけてきたスケバンの子だ。

 

 

 

 

 あの後、トラックでアビドスの皆のところへ遊びに行くべく向かっていたぼくはなぜか逆走してくるヘルメット団やスケバンの不良生徒たちには目もくれず、対策委員会の教室でアヤネちゃんが示していたポイントへと向かった。

 指定ポイントよりも手前の砂漠地帯に着陸していた雨雲号に近づけば不安そうな顔をしたアヤネちゃんが一人で待機していた。

 聞けば工場の守り、特に対空砲とそれを守る敵のオートマタ部隊や対地砲などカイザーの正規の戦力が配備されており、想定していた雨雲号による空からの急襲と地上からの2面作戦が上手くいかず、現在は正面に配備された対空砲の攻略を試みているとのこと。

 他の4人は現在その作戦の実行中、アヤネちゃんはここでヘリをいつでも出発できるよう準備をしながら工場の方から逃げてくる不良生徒たちにヘリを奪われないように防衛も兼ねてるらしい。

 

「不良生徒たちはなんで逃げてきてるのん?」

 

「それが理由は不明で…先に進んだ皆さんとも通信がつながらなくなってしまって動くに動けず…あちらの遮蔽物で様子を見ていて、今はシロコ先輩が威力偵察を行っているようなのはわかるんですが…」

 

 アヤネちゃんはメガネをおでこにずらしながら双眼鏡を除いて現状の説明をしてくれる。

 

「遮蔽物ー…あれか。あそこの人影がそうかな?対空砲は…あぁ、あのごっついの」

 

「肉眼で見えるんですか!?」

 

「よーく見ればね…ここからあの遮蔽物まで他に視線を遮る物もないし逆光でもないから見やすいってのもあるね。とりあえずあの対空砲を無力化できればアヤネちゃんも雨雲号で突っ込めるって感じ?」

 

 大きな対空砲はよく見える。

 その前には対地用の砲台が…4台かな?

 その前をうごうごと動いてる影は…不良生徒じゃないとするとカイザーのオートマタかな?

 

 そのへんに戦車の残骸やら倒れてる不良生徒なんかも見えるけど、どれも基地から一定の距離が離れてる。

 

「一定距離以上近づくとオートで迎撃する感じなのかな?」

 

「そうみたいです、偵察用のドローンをこちらに到着した時に改めて飛ばしてみたんですが警告音と共にすぐに迎撃されちゃって…地上スレスレで飛ばせば結構近寄れはするんですがそうなると歩兵やあの対地砲に集中砲火を浴びてしまって…」

 

「徹底してるねぇ、アビドスメタじゃん」

 

 

 

「いやスーちゃんやっぱ無理だって!?逃げねぇとやべぇって!!」

 

「離せや!!アタシは一人でも突っ込むぞ!!こんだけコケにされて依頼料まで踏み倒されて黙ってられるか!?」

 

 ぼくとアヤネちゃんが現状の確認をしているところ、基地の方から仲間たちに引きずられながら吠えるロケットランチャーを担いだスケバンとそれを宥める別のスケバンの子たちが3名、こちらに向かって近づいて来た。

 

「…アぁ!?何見てんだ銀髪鬼ィ!!見世物じゃねぇぞ!!!」

 

「ちょちょ!?スーちゃん落ち着きなって!!今の満身創痍なアタシらじゃどうひっくり返ってもあの銀髪鬼に勝てねぇべ!?」

 

 こちらに気づいた一番血気盛んなスケバンの子、スーちゃん?がぼくの姿を見るとそのまま飛び掛かってきそうな勢いで捲くし立ててきた。

 実際飛び掛かろうとしたのを他の子たちに羽交い絞めにされて止められたってだけなんだけども。

 

「えっと…ハジメさんのお知り合いですか?」

 

「あー、ほら。来るときの検問にいた子たち…ついでだしちょっと事情聞いてくるよ」

 

「えっ!?ハジメさん!?」

 

 声を上げるアヤネちゃんをスルーしてスケバンたちに近づく。

 

「やっはろー。なんか工場から叩き出されたみたいだけど何やらかしたん?」

 

「煽ってんのかテメー!?少なくとも今回はマジで突然締め出された上に依頼料まで踏み倒されて死活問題だよクソが!!」

 

「え、それマジで可哀想じゃん…飴ちゃんいる?」

 

「お、もらうもらうー」

「うっはミル〇ーとかクッソ久しぶりに食う。ママの味じゃん」

「マスクの中めっちゃ甘い匂い広がってて溶けそう」

 

「お前らも何普通に飴もらってんだ!?」

 

 スーちゃんはお冠だが他の子たちはぼくが差し出したミ〇キーの包みを受け取って口に入れもごもごと食べてる。

 ぼくから受け取った包みを開いてスーちゃんの口元に差し出すスケバンの子。

 あ、スーちゃんも食べた。

 

「…で、何の用だよ銀髪鬼がよォ」

 

 甘いものを摂取して落ち着いたのか、スーちゃんはその場で胡坐をかいて言葉を促す。

 

「いや、ざっと聞いた感じ依頼料踏み倒されて追い出されたからケジメつけに行きたいんでしょ?」

 

「…それがお前ェになんか関係あんのかよ」

 

「いやぁ、なかなかいい得物をお持ちじゃない、スーちゃん?」

 

 ぼくはそう言ってスーちゃんが担いだロケットランチャーを指差す。

 

「あぁ!?その呼び方はダチにしか許してねぇんだよ!!テメェが気安く呼んでんじゃねえぞ!?」

 

 そう言ってまた怒るスーちゃん。

 友達専用呼び名!そういうのもあるのかー。

 

「あーまぁ、それは置いといて、実はぼくらもちょっとあの工場にふんぞり返ってる君らの雇い主を殴りに行こうと思ってるんだけど…それにはちょーっと邪魔なモンがあってさぁ」

 

「…対空砲かァ」

 

 スーちゃんはそう呟いて基地の方へと目を向ける。

 この子はこのスケバンをまとめ上げてるだけあって色々聡いねぇ。

 

「つうわけでちょっと共闘しない?ぼくがあの対空砲まで突っ込むからスーちゃんがその得物でどっかーんって感じで。そうすればあそこのメガネの美少女がヘリで突っ込めるし君たちもそれに便乗して雇い主殴りに行けるって寸法よ。どう?」

 

「ハァ?なんでアタシたちがテメェなんぞに手貸さなきゃいけねンだよ」

 

「手伝ってくれたら…ラーメンを奢る」

 

「えっ!?マジ!?餃子は!?」

「チャーハンは!?」

「あのその辺に売ってるようなのになぜかコンビニで買うよりも高いアイスは!?」

 

 ぼくの示した報酬にスーちゃん以外のスケバンが食いついた。

 

「いやお前ら何食いついてんだよ!?」

 

「でもスーちゃん!!アタシら今日帰った瞬間に追い出されたから何も食ってねえじゃん!!」

「そもそも依頼料踏み倒されたらもうスッカラカンだぜ!?」

「ラーメン屋とかでたまにあるあのアイス、出てくるのが超カップとかなのに値段がバーゲンダッツみてぇなのボッてるよな!?」

 

「ククク…おかわりもいいぞ…!」

 

「っ!?スーちゃんやるっきゃねぇって!!」

「乗るしかねぇ!このビッグウェーブに!!」

「スーちゃんの好きな甘いモンフルコンプしてこの銀髪鬼のサイフにダメージ与えてやろうぜ!!!」

 

 スーちゃんは仲間?舎弟?の3人に詰め寄られてたじたじだ。

 あと3人目の子、なんかユーモアの溢れることばっか言ってる気がするんだけど???????

 

「…っだぁぁぁぁ!!!わぁーった!わぁーったよ!!おい銀髪鬼!なんかプランはあんだろうな!?小難しい事はできねえぞアタシは!!」

 

 よし、釣れた!

 

「何、簡単だよ。ぼくがあの頑丈なトラックでスーちゃんをあの対空砲にそのロケットランチャーが撃ちこめる場所まで連れて行くからスーちゃんはソイツをぶち込んでさっさと逃走する。簡単でしょ?」

 

「スーちゃんはやめろ!アタシはスザンヌだ!!」

 

「じゃ、そういうことでトラック回してくるねー。あ、スーちゃんのお友達もヘリで突っ込めるようになったら一緒に地上で突っ込んでくれると助かるなぁ。いっそあの対空砲壊したら誰が黒幕を最初に殴れるかで競争する?」

 

「へぇ、面白そうじゃん!」

「んだよ銀髪鬼って結構話がわかるじゃん!」

「アタシちょっと他の燻ってる奴らにも声かけてくるわ!!」

 

「スーちゃんはやめろっつってんだろ!!聞いてんのか銀髪バカ!!!」

 

「えー、じゃあその銀髪なんちゃらってのもやめてよー。ぼく安納ハジメって名前があるんですけど」

 

「それこそ知ったことかよクソが!!!!」

 

 こうしてぼくとスーちゃんの合同ミッション「まっすぐ行ってぶっ飛ばす」作戦が決まった。

 

 

 

 

「そんな!?無茶ですよ!?」

 

「いやーでもとりあえず迅速にあの対空砲無力化しないといつまで経ってもジリ貧でしょ?アレを無力化してアヤネちゃんと雨雲号で一気に空から機銃掃射してその後地上から攻めちゃうのが早いって」

 

「…ですが…!」

 

「こんなつまんないことさっさと終わらせてセリカちゃんのバイト先のラーメンでも食べに行こうよ。ね?」

 

 まだ不安そうな表情を浮かべるアヤネちゃんにぼくは笑顔で声をかける。

 アヤネちゃんは少し俯き、それから顔を上げて真っすぐとぼくの目を見て。

 

「わかりました…対空砲の破壊が確認でき次第、私も雨雲号で制圧に向かいます…達成が困難だと判断したらすぐに撤退してください。いいですね!?」

 

「ん、りょーかい。それじゃ手筈通りにねー」

 

 ぼくはアヤネちゃんにひらひらと手を振ってからトラックへ向かうのだった。

 

 

 

 

 そんな流れで先ほどの状況。

 現在ぼくとスーちゃんは安全地帯の遮蔽物まで下がっているところだ。

 派手な狼煙(爆発)を上げたしそろそろアヤネちゃんも雨雲号で制圧に来るだろうし他のアビドスの子たちもあれを見ていたなら前に出てきてくれるだろう。

 しかし想定よりダメージが大きかった。これは動けるようになるまでちょっとだけ時間がかかりそうだなぁ。

 …というか連邦生徒会のトラック、爆発しちゃったんだけどこれもしかしてマズいかな?

 マズいよな…弁償かなぁ…。

 そんなことを考えながらスーちゃんに引っ張られてるぼく。

 そしてそんなぼくとスーちゃんの後ろから迫ってくる音。

 

 

 

 ザッザッザッザッ

 

 

 

 肩を担がれて引っ張られながら後ろをちらりと見やる。

 トラックの爆風で少しは距離を稼げていたが、ぼくとスーちゃんは、主にぼくという重りをスーちゃんが引っ張ってくれているという状況で牛歩の如き移動速度なわけで。

 後ろにはカイザーのオートマタがこちらへと進軍してきている様子が見えた。

 

 ARを担いだ歩兵複数に盾を持った重装型もいる。

 後ろの方には…狙撃型も何機か。

 

 歩兵たちはこちらへ進軍してくるその後ろで狙撃型がその場で止まり狙いを定めようとしているのが見えた。

 

「ハジメちゃんとそこのスケバン!すぐ伏せて!!」

 

 前方から聞こえた、普段の眠そうな喋り方からはあまり想像のつかないような鋭い指示にぼくとスーちゃんはすぐさまその場でがばっと伏せる。

 

 伏せるその瞬間、目に映ったのは、盾を携えたホシノおじさんがぼくとスーちゃんを跳躍して飛び越えていく姿。

 それに続いてシロコちゃん、セリカちゃん、ノノミさんがぼくらの横を駆け抜けていく姿だった。

 

「ノノミちゃん!アヤネちゃん!」

 

「は~い、お仕置きの時間です~♣」

 

『はい!火力支援、いきます!』

 

 ぼくらを狙った狙撃を盾で受けきったホシノおじさんが声を上げ、ノノミさんがそれを受けて前に出て彼女の愛銃【リトルマシンガンⅤ】による一斉掃射。

 アヤネちゃんの雨雲号からはミサイルが放たれ、まだ数基が健在だった対地砲が並んでいた敵陣を薙ぎ払っていく。

 そしてそれに続いてホシノおじさん、シロコちゃん、セリカちゃんが撃ち漏らした敵を処理しながらグングン前に駆けて行く。

 

「ん、通信状態も良好」

 

「この調子でガンガン行くわよ!!アヤネちゃん指示お願い!!」

 

『対空砲破壊からこちらへの攻撃は散発的なものしかありません!シロコ先輩はドローンも使えると思います!!あとハジメさん!!終わったらお話がありますからね!!!!』

 

 ヘリに据え付けられた拡声器から響くアヤネちゃんの声。

 どうやら通信機能も回復したようだ。あの対空砲がジャミングもやってたのかな?

 

 あとアヤネちゃんなんかめっちゃおこじゃない?????????

 え、こわ。

 ぼくが何したって言うんだよ。

 きちんと言った通り対空砲破壊しただルルォ!?

 

 

 

 

「お~いスーちゃ~ん!!」

「あのメガネが弾分けてくれたぜぇぇぇぇぇ!!」

「ぎゃはは!スーちゃんも銀髪鬼もボロッボロじゃん!!ここで休んでおくかぁ!?」

 

 スーちゃんの舎弟たちがアヤネちゃんに分けてもらった物資の入っているであろう鞄を担いでこちらに駆け寄ってくる。

 

「あァ!?コイツがお節介なせいでアタシはほぼ無傷だわクソが!!」

 

 怒鳴り返しながら立ち上がり、ここまで運んでくれていたぼくのSR【sincere Pray】をぼくの前へ突き出すスーちゃん。

 ぼくも立ち上がってそれを受け取る。

 【sincere Pray】を持ったままその場で体を伸ばしたり、腕や足首を回したり。

 手を握ったり開いたり。

 うん、完調には程遠いけど、だいぶ回復した。

 飛んだり跳ねたりは今日は厳しそうだけど援護射撃くらいなら行けそうかな。

 持っててよかった遠距離武装。

 

「…もう動けんのかよ、やっぱお前頭おかしいわ」

 

「ひどくない?」

 

 【sincere Pray】を携え、アビドスの皆が向かった方を見る。

 オートマタたちはほぼ一掃され、前へ前へと駆けて行く4つの背中に、空を突き進む雨雲号。

 

「んじゃ、ぼくも行きますかねぇ」

 

「おう、アタシらも行くぞ。こっちゃ依頼料踏み倒されてんだ。このままじゃ済まさねぇ」

 

 アビドスの皆の背を追うぼくにロケットランチャーに舎弟の子たちから受け取った弾を装填したスーちゃんが続く。

 舎弟の子たちも各々武器を構えて後に続く。

 

「依頼料は大事だねぇ。それじゃあ子供だからってナメた真似してきた悪い大人にはきっちり鉛玉でもぶち込んでやりますか!」

 

「「「「上等ッッッ!!!」」」」

 

 ぼくとスーちゃん、その舎弟3人はそんな掛け声と共に対策委員会の皆の後を追って戦場と化したカイザーの工場へと駆けだすのだった。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

「クソッ!イカレたガキ共がッッッ!!!!」

 

 カイザー工場内や周辺を監視できるモニターが並ぶ工場責任者執務室。

 その執務机に座りながらモニターで状況を見守っていた大人…チーフが叫びながら机を叩く。

 

 元々彼はカイザーコーポレーションに所属する職員だった。

 程々に上手く立ち回り、カイザーコーポレーションに勤続して数年。

 チーフ(係長)の肩書も得て、彼なりに順風満帆な人生を送っているつもりだった。

 

前任者(元カイザーPMC理事)の尻拭いがこんな事態に発展するとは…!あとはこの場で悠々と待機していれば済むはずだったではないか…!!」

 

 彼が現在このカイザーPMCの工場にいるのは、元々自分の案件にも関わっていたカイザーPMC理事、今では元がつく、傘下のオクトパスバンクの営業職員に左遷された者が抜けた穴を補填するために回されたためだ。

 

「そもそも貴様が用意したあの対空砲がこうもあっさり破壊されたのが悪い!!高い金を出したんだぞこっちは!!!」

 

 彼が部屋の隅に立つ、黒いスーツ、黒い顔に亀裂が入り、その目が発光している不気味な人物へと水を向ける。

 

「はて、ご要望の超長射程対空砲に広域センサー、特定電波以外のジャミング機能もある品で納品時にはチーフもご満足いただいていたものと記憶しておりますが」

 

「たかだか重火器の一発で破壊されるような脆さではどれだけ優れた機能が搭載されていようがいざという時に役に立たんのだ!!前任者の残した書類からのツテで利用してやったというのにあのような粗悪品しか用意できないとは…!!何がゲマトリアだ!所詮は我がカイザーコーポレーションの足元にも及ばぬ怪しげな団体風情が!!」

 

「運用方法に関してまでは当方は関知しておりませんので。何よりゲマトリアはすでに解散しており、今回の仕事は前任者の元理事とは一時のビジネスパートナーとしての私的な縁もあったため、あのホットラインからの依頼と言うことで受けたものでして。防衛機構として現在の私個人で用意できるものがあの程度で精一杯でありますのはいやはやお恥ずかしい限りです」

 

 言葉とは裏腹に慇懃無礼な態度は崩さず黒服は淡々とチーフへと答える。

 

「クッ…!だがこのまま遅滞戦を続けてもぬけの殻になったアビドス高校の重要書類を奪取する別動隊からの報告さえくれば最終的に勝つのはこの私だ…!適当に言いくるめて使ってやった不良生徒たちも前もって追い出してコストカットも万全だ!工場とその戦力で前任者が成し得なかったアビドスの自治権の奪取を成功させれば尻拭いで飛ばされたこんな砂に沈む僻地ともおさらばして私はまた本社に返り咲けるはずなのだ!!!!」

 

「なるほど、土地の権利書やその他自治区に関する公式書類などを手中に収めさえすれば、ということですか。シャーレによって生徒会権限を認められたアビドス廃校対策委員会が相手といえどカイザーコーポレーションの力でどうとでもなる、と」

 

 黒服はチーフの言葉に適当に相槌を打ちながら並ぶモニターの内のひとつ、チーフが目を向けているものとは別の、真っ白な銃身にスコープと持ち手に羽の意匠が施されたSRを携えてスケバンの生徒たちと走る眼鏡をかけた銀髪の少女を見る。

 

「…安納ハジメ。ただ舞台へと投げ出され、蠢き魅せて通して見せるだけの…アレ(色彩)とはまた別の概念の玩具…崇高足りえぬ故に、観測も探求も意味がないと思っていましたが…少し考えを改める必要があるかもしれませんね」

 

 黒服はそう呟いて、執務室の扉へと歩き出す。

 

「…黒服!!どこに行くつもりだ!!」

 

「こちらの用件は済みましたのでお暇させていただこうかと。以降今回使用されたホットラインに関しては塞がせていただきますので、次回以降はアポイントメントの取得から手順を踏んでいただきますよう」

 

 黒服はチーフへ向かって慇懃無礼に腰を折って扉の方を振り向きそのまま執務室を後にする。

 執務室から響く罵声や怒号など気にも留めず黒服は帰路につく。

 

 

 

 今後ビジネスパートナーになる事もない塵芥の戯言など、黒服にとっては一円の価値すらないのだった。




まずは更新が遅くなり申し訳ございませんでした。
ちょっと歯が痛くてここ数日悶えてました。土曜日の夕方に歯が痛くなるのはルールで禁止スよね。
アビドス編は次回くらいで終わる、はず…

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