ハケン・ユーティリティ   作:ジョイン君

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彼女のトラブル対応


依頼内容:トリニティ総合学園自治区内の巡回業務の補充要員②

 トリニティ総合学園自治区。

 

 キヴォトス内でも1,2を争うマンモス校であるトリニティ総合学園は雰囲気的にはお嬢様学校とかそういう色が強い。

 学園からほど近い繁華街はそういったお嬢様たちをターゲットにした女の子向けのブティックやスイーツショップ、雑貨店などが並んでいる。

 

 正義実現委員会の活動は学園内、または自治区内における違反活動の取り締まりを主としている。

 暴徒が出たら鎮圧する、とか生徒同士の小競り合いが度を過ぎたら仲裁に入ったり、もしくは鎮圧したりなどである。

 まぁ主な活動内容はトリニティのお嬢様を狙った不良たちへの対応が多い。

 

 なのでたとえ事件が起きていなくても、この正義実現委員会の制服を着て巡回をしてるだけでもそういった不逞の輩には有効なのである。

 

「はい、ではそのように」

 

 数時間ほど巡回をしたぼくとハスミは休憩を兼ねて喫茶店に入っている。

 ホットコーヒーにミルクと砂糖をたっぷり入れて飲むぼく。

 ハスミは正義実現委員会の部室にいるイチカさんへ定時連絡を入れ、今終わったみたいだ。

 

「今日は何事もなく終われそうですね」

 

 一息ついてオーダーをしていた紅茶のカップに口をつけるハスミ。

 長身の美人さんなだけあってめっちゃ絵になるな…

 

「…? どうかしましたか?」

 

 おっとと、思わずじーっと見つめてしまったようだ。

 

「いやぁ、ハスミって美人さんだから紅茶飲んでるだけで映えるなぁって」

 

 ぼくのそんな言葉を聞いてくすくすと微笑を漏らす。

 いやだから絵になりすぎ~。

 美人って何やっても強いな。

 

「ハジメはたまに先生のようなことを言いますね」

 

「えぇ…」

 

 ハスミの言葉に思わず呻くような声を出してしまうぼく。

 いやぁ、アレと一緒にされるのは心外なんだけど。

 

「そういうハジメのコーヒーを飲んでる姿も小動物みたいで可愛らしいですよ」

 

「熱いんだもん」

 

 我、猫舌ぞ?

 両手でカップの持ち手と逆側を挟むように持ってちびちび飲んでるのがリスみたいだぁ?

 熱いんだもん!

 

「最初の頃はこう言われたら照れてたハスミが反撃までするようになって、ボカァ悲しいよ…」

 

「誰かさんに鍛えられたせいですね。人は日々成長するものですから」

 

 ふふん、と得意げな顔をするハスミ。

 だから顔面偏差値の暴力~~~~~。

 

「それはそれとして先生のようなことを言うというのはちょっと聞き捨てならない」

 

「…もしや自覚がないのですか?」

 

「いったいぼくがどうやって先生みたいなこと言ってるって証拠だよ!?」

 

 なんだか雲行きの怪しい話になってきたので煙に巻こうと無茶苦茶な文法で詰め寄るぼく。

 

「そうですね…先ほどのようなことをなんでもないように言ってきたり、今のように自分に返されるとおどけたように煙に巻いたり...そういうところですかね?」

 

「うせやろ」

 

 さすがにないわーと自分の言動を思い返して先生が言ってるシーンを想像してみる。

 あ、言いそう~~~~~~。

 解像度結構高ぇなコレ。

 ハスミ相手に言いそう~~~~~~。

 

「うわへこむ」

 

「…そんなにですか?」

 

 いやさぁ、あの人たまにやっべーこと言うもん。

 シャーレの書類仕事手伝ってた時期に何度かやべえこと言ってるシーン見てるもん。

 ああいう大人にはなりたくない~~~~~~~。

 思わず頭を抱えてテーブルに突っ伏してしまうぼく。

 突っ伏す前にちゃんとコーヒーのカップは問題ない位置に移動しておいた。

 

「悪い大人の見本じゃんよ~~~~」

 

「そうでしょうか? 私には立派な大人の人に思えますが…」

 

 ハスミ相手にはまぁ、ちょっと軟派だけどそういう立派な大人の面もよく見せてるとは思う。

 でもあの人ダメな面も結構あるからさぁ…

 

 その時テーブルに置かれていたハスミの携帯電話が震える。

 

「イチカからですね…失礼。...イチカ、何かありましたか?」

 

 こちらへ一声かけてから着信を受けるハスミ。

 定時連絡以外でかかってくるということは何かしらのトラブルがあったということだろう。

 ぼくは残っていたコーヒーを一気に...

 一気に...

 

 あつい…。

 

 ...まだちょっと熱かったのでできるだけ早めに飲み干す。

 

「…わかりました、私たちもすぐに急行します。」

 

 ハスミはそう言って通話を切り、こちらに目を向ける。

 ぼくはその眼差しに頷き返し、

 

「状況は?」

 

 お互いに席を立ち、ぼくはEM-2を、ハスミはインペイルメントを肩に担ぐ。

 

「場所は7番市街地から裏道を通って奥にある廃ビル。また身代金目当ての犯行のようですね…」

 

「また勇者じゃんウケる。7番市街地ってことはすぐ近くだね」

 

 先払いのお店で良かった。

 二人でそのまま店外へと出て目的地へ通じる表通りから一本外れた、人通りの少ない路地へと歩いて向かう。

 

「蛮勇も勇...ですか。ですができれば今回は人質の方に関しては穏便に救助できれば...と」

 

「あぁ、ツルギちゃんスマイルで救助者も被害甚大だったんだっけ?」

 

 路地に入る、前方を目視、人影はほぼなし。

 ぼくもハスミも駆け出す。

 

「前回はそれで委員会活動停止を一日受けてしまいましたからね…迅速な救助は必要ですができれば同じ轍は踏みたくありません」

 

 駆ける。

 雑多に積まれた荷物脇の路地を右折する。

 人の気配はさらに少なくなる。

 

「ツルギちゃん、笑い方で誤解されやすいけどいい子なんだけどなぁ」

 

 駆ける。

 壁の一部崩れたビル群が目立つようになってきた交差点を左折。

 人の気配はもはやない。

 

「あっ、ハスミ先輩ー、ハジメさーん! こっちっすー!!」

 

 駆ける。

 駆ける。

 駆け抜けた。

 

 ほどなく現場に到着したぼくたちに声をかけてきたのは正義実現委員会の制服を着た、糸目の黒髪ロングの生徒、イチカさんだった。

 

「イチカ、状況は?」

 

「はいっす。要救助者はトリニティの生徒一名、相手はゴトゴトヘルメット団を名乗る集団6名、当初は身代金の要求をしていましたが私たち正義実現委員会が現場を取り囲んだ現在は人質の身柄と引き換えに逃走を見逃すように要求を変更して現在この廃ビル3階に立てこもってるっすね」

 

 ハスミの質問にすらすらと必要な情報を並べていくイチカさん。

 

 いや逃げ場ないところに立てこもるって詰んでるじゃん。

 

「内部構造と人質の位置は?」

 

「正確な構造はさすがに踏み込んでみないと不明っすけど2階の構造とビルの形的には階段を登った先に壁とドア一枚、ドア内部はL字型の部屋になっている可能性が濃厚っすね。裏口はあるっすけど鍵がアナログ施錠式なのでハッキングなどで開ける手段がないので開けるとしたら物理的な破壊しかなさそうっす。人質の位置は不明っすけど狙撃班が窓越しに見える位置にはいないみたいなので一番奥の裏口のあたりにいる場合、物理的に破壊して突入すると人質に被害が及ぶ可能性があるっすね」

 

「ふむ...規模は少数ですが状況は少し厄介ですね…」

 

 裏口がアナログ施錠式...物理的な鍵がないと開かないってやつか。

 お、すぐそこに1階の裏口あんじゃーん?

 えーっと確かこのタイプの鍵は中のシリンダーを正しいところまで全部上げると開くんだっけか?

 鞄を漁って買ったはいいがほとんど使うことのないピッキングセットを取り出す。

 訓練で簡単なやつは開けられたし物は試しだ。

 

 

「あーそれとっすね…ティーパーティーからの指示で「くれぐれも要救助者への被害は最小限に留めるように」とのことっす...」

 

「…釘を刺されましたか」

 

 カチャカチャと手探りでピッキング。

 この作業結構やってみると面白いんだよな。

 成功したときの妙な達成感とかあるし。

 今回の場合ダメになって開かなくなっても怒られないしな!

 

「…ハジメ? 何をしてるのですか?」

 

 カチリ、と手ごたえがあった。

 裏口の前に膝立ちで何やらしているぼくに気づいて声をかけてきたハスミに渾身のドヤ顔...をしようとしたけどほぼ表情がうごかないぼくは胸を張ってボディランゲージでドヤ感を出しながら

 

「お、開いてんじゃーん」

 

 ガチャリ、と裏口の扉を開けてみせるぼく。

 その光景に思わず目を見開くハスミとイチカさん。

 イチカさんのおめめぱっちりとか貴重なシーンですわ~~~~~~!

 

「えぇ!? いや、間違いなく施錠されてたはずっすよ!?」

 

 開けたんだよなぁ…

 

「驚きました...ハジメはそんな技術まで持っているのですか…」

 

「ありとあらゆるニーズにお応えするのがさかまんじハケンサービスのモットーなので?」

 

 ふふん、と思いきり胸を張って応えるぼく。

 まぁ、なだらかな斜面だけどな。

 そもそも目の前の二人が山脈地帯すぎる。

 くっ!

 なぜだか妙なダメージを負った気もしなくもないがピッキングを披露して承認欲求を満たしたぼくは無敵なのでノーダメージだ。

 ...ノーダメージだ!!

 

「見込みだけど...救出まで含めて15分、それだけもらえればいけるんじゃないかな?」

 

 

 

 

 

 

 作戦はこうだ。

 まずハスミとイチカさんが正面からゴトゴトヘルメット団と交渉の素振りを見せる。

 ドア越しではあるが多少の時間をこれで稼いでもらい、その間にぼくが裏口から何人かを引き連れてピッキングで裏口を開けて侵入、可能なら人質をそのままぼくら別動隊の誰かが確保して正面の正義実現委員会メンバーに携帯電話で合図を送り退避。

 残りのメンバーと正面のメンバーで挟み撃ちで制圧という筋書きだ。

 

 そんなわけでぼく含めて別動隊は4人。

 できるだけ音を立てないように扉の前でピッキングをしているぼくを中心に、上階と下階へ注意を向けてもらっている。

 中の音は聞こえない。

 防音性は風化している廃ビルと言えど保たれているようだ。

 今回の状況としては仕事はしやすい、が中の状況がまったくわからないので半分賭けの部分もある。

 

 ピッキングを開始して3分ほど。

 カチャリ、と音がしてピッキング自体は成功。

 周りの3人に視線を向け頷けば3人とも頷き返してくれる。

 

 ドアノブを回し、少しづつドアを開く。

 

「だから逃走用のクルセイダーを用意しろってんだよ!! じゃなきゃ人質はそのまま連れて行く!!」

 

「流石にそれは譲歩のしようがないっす! そもそもクルセイダーなんて言われてホイホイ用意できるような代物じゃないっすよ!」

 

「アタシは別のヘルメット団が乗り回してるの見たことあんだよ!!人質がどうなってもいいってか!?」

 

 やってるやってる。

 

 バレないように中の様子を確認。

 こちらを見ているヘルメット団員、ナシ。

 全員が入り口を注視してる。

 人質は…お、すぐそこにいて一緒に入口の方を伺ってる。

 一番近い団員からの距離もある。

 扉までの距離は2メートルってとこか。

 

 ぼくらは身振り手振りで人質救助と人質の避難、などの打ち合わせを済ませる。

 

 

 扉を最低限開いてぼくは音を立てずにヘルメット団の立てこもる3階内部へ侵入する。

 扉から1メートル。

 気づかれていない。

 人質に接触。

 あらかじめ鼻に左手の人差し指を立てた状態で人質の彼女の肩をちょんちょん、とつつく。

 彼女はこちらを見て目を見開く。

 しーっ。

 子供に言い聞かせるように、静かにと声に出さずに伝える。

 後ろ手に縛られ猿轡を噛まされた彼女はこくこく、と頷く。

 裏口の扉をちょいちょい、と指さし行けるか?と意味を込めて首を傾けると、彼女は首を振って自分の足に目を落とす。

 なるほど、足も縛られてるみたいだ。

 

 これはもう短い距離だし我慢してもらうしかないかな。

 そう決断したぼくは人質の彼女の耳元に口を近づけて

 

「少しだけ、我慢してくださいね」*1

 

 彼女は一瞬びくっと体を震わせる。

 あ、やばいか?と思い彼女の盾になるように背中に彼女を隠しながら最寄りの見張りを確認する。

 ...が幸い見張りはまだこちらに気づいてない。

 

 ふぅ、と一息ついてから彼女の方に目を向けて彼女を安心させるように精一杯の笑顔で微笑みかける。

 なお、ぼくの表情筋は基本的に仕事をしないので精いっぱいの笑顔で微笑みかけると実際には薄く笑う程度になるらしい。

 不便!!

 

 さて、人質の彼女はなぜか顔を真っ赤に染めながらこくこくと頷いてくれた。

 可哀想に...人質としてもう心身ともに限界が近いのだろう。

 

 ぼくは彼女の膝裏に手を差し込んで背中を支えながら立ち上がる。

 見張りの方へ全神経を集中させる。

 気づかれてない。

 いやこれマ?

 見張りなのに雑すぎるでしょ。

 

 ぼくはそのまま音を立てないようにして裏口の扉まで移動、そのまま外の別動隊へ人質を引き渡

 

「なっ!? 何してんだテメェ!!!」

 

 今気づくんかーい!!!

 

 

 

 

 ぼくはそのまま人質を外の別動隊に投げ渡して急いで扉を閉め、ドアのすぐ傍に残っていた棚を横倒しにして射線を切る。

 

 ズガガガガガガガッ!!

 

 直後に響いた銃声に棚に撃ち込まれた銃弾が耳に残る不快な音で響き渡る。

 本当は携帯電話で連絡するつもりだったんだが仕方ない。

 

「ハスミーッッ!! 要救助者確保!!!」

 

 ぼくはそう叫ぶとスカートの内側、太ももに仕込んでおいた弾倉用ホルスターから弾倉を抜き取り、先ほどまで見張りのいた場所に当たりをつけて放り投げる。

 

「なっ、なんだぁ!?」

 

 突然投げつけられた何かに気を取られたソイツはたまらず斜線を上げてそれを注視しようとする。

 彼我の距離は3メートルもない。

 その一瞬が欲しかった。

 

「要救助者は確保!!速やかに違反者の鎮圧を!!」

 

 部屋の向こう側からはそんな声が響いてくる。

 

 倒れた本棚から飛び出したぼくに気づいた見張り。

 

 あと2メートル。

 ぼくが放り投げた弾倉に思わず向けたアサルトライフルの銃口と視線がぼくに再度向けられる

 

 その銃の横っ面をぼくはプロテクトハーケンを着けた左手で思いっきり打ち払う。

 

 1メートル。

 銃を打ち払われたソイツの空いたどてっ腹にEM-2の銃口を向け引き金を引く。

 

「ぐがああぁあぁぁあああ!!!」

 

「うるせぇ」

 

 体をくの字に曲げて声をあげるソイツのヘルメットの後頭部を掴んでそのまま地面に叩きつける。

 床にめり込むくらいの力を込めて叩きつけてやったソイツは静かになった。

 うーん、ヘルメットかぶっててもタフさはピンキリだねやっぱ。

 

 ぼくは伸びたソイツの首根っこをつかんで、慌ててこちらに銃を構えたヘルメット団員その2に向かって掲げながら近づく。

 

「や、やめろぉぉぉぉ!!来るなァァァァァァ!!!!!」

 

 仲間だった団員1にさすがに発砲できないのか、声だけあげる団員2。

 うるせぇのでコイツのヘルメットも今手に持ってるヘルメットで殴りつけてやった。

 

 ふぅ、静かになった。

 

 持ってたものを地面にぽいと放り投げて、振り返って部屋の入り口側を見てみれば粗方制圧は終わったみたいだ。

 豪華なヘルメットをかぶったやつともう一人は両手を上げて地面に膝をついている。

 

 それ以外に二人、地面に倒れ伏してるやつで合計6人。

 ヨシ!制圧完了だな!

 

 ふと周りを見渡してみれば何人かがこちらを見て固まってる。

 イチカさん? 目開きっぱなしですよ?????

 顔面偏差値ほんと高いっすね~~~~~~。

 

 

 

「…なんで【銀髪鬼】が正義実現委員会にいるんだよ…! 取り締まるならソイツが先だろ!?」

 

 お、豪華ヘルメットがなんか囀ってる。

 ウケる。

 

「彼女はシャーレから正式な手続きを経て出向しているハケン部員です。少なくとも今現在、彼女の違反などは確認できませんね」

 

 豪華ヘルメットに淡々と返すハスミ。

 そうそう、今のぼく、後ろ盾あるからね。

 我シャーレ所属ぞ?

 

「ふざけんな!! こいつがどれだけアタシらを食い物にしてたと思ってんだ!!」

 

「その節は弱いものいじめしてごめんね?」

 

「煽ってんのかテメー!?」

 

 解せぬ。

 当時は若くお金が必要だったのでヤンチャしたのは事実なので一応謝罪の意を表明しただけなのに口プレイ呼ばわりされてしまった。

 ボカァ悲しいよ…

 

 そのままぎゃーぎゃーとわめきながら連行されていく豪華ヘルメットその他3名

 残り2名? 動かないから救護に引き渡したよ!!

 なんでやろなぁ…

 

 

 

 

 そんなこんなで後処理やらなんやらをしてもうすっかり夕暮れ時。

 正義実現委員会のみんな+ハケンのぼくは部室へと戻ってきた。

 

 人質だった子も元気にお礼を言いに来てくれた。

 ついでだからさかまんじハケンサービスをよろしく!と宣伝もしておいた。

 なんだか妙に頬を染めてもじもじしてたけど大丈夫だろうか?

 心の傷は早めに癒してもらいたいですねぇ。

 

「それではこちらが本日の出向証明書です。今回はトラブル対応の貢献も加味して依頼料を振り込ませていただきますね」

 

「わーい」

 

 さかまんじハケンサービスへの支払いは先生を通してシャーレへ上げられ、翌月の予算分配の際に振り込まれる。

 今回みたいに依頼内容プラスアルファで増えたりするのでがんばるっきゃないよ!

 

 まぁ、最初の頃は失敗して減額したり、踏み倒そうとされたりもあったけどたまにこうして増えることもあるやりがいのある仕事だ。

 基本的には増えることはないし、無理に増やそうとされても申し訳ないんだけどね。

 まぁ今日は結構大立ち回りだったし、いいでしょ!

 

「いやぁ、それにしても...ハジメさんお強かったっすねぇ~...」

 

 一緒に戻ってきたイチカさんがしみじみとそんな発言をする。

 

「えぇ? いやツルギちゃんに比べたらざこざこのざこでしょ?」

 

「いやぁ…ツルギ先輩とは別ベクトルですごかったというか…あっという間に二人制圧したっすからねぇ」

 

 いうてツルギちゃんなら秒でしょあの状況。

 ぼくは格下狩りが得意なだけで圧倒的な暴力相手だと結構あっさり屈するんだよなぁ。

 

「そういえばツルギちゃん来なかったの?」

 

「ハジメがいると聞いて巡回に戻りましたよ」

 

 なんでや!!

 

「なんかぼくの戦闘力がどんどん過大な評価を受けていってる気がする」

 

「つまり、適正な評価ということなのでは?」

 

 なんでや!!!!!

 

「くそっこんなところにいられるか! ぼくは帰るぞ!!」

 

 受け取った出向証明書をバインダーに抑えてこれ以上妙な評価が重なる前に退散することにした。

 お借りした装備と消費した弾薬などをまとめた書類をデスクへと置いてそそくさと入口へ向かう。

 

 ハスミ! 妙にいい笑顔でこっち見んな!!

 イチカさんも微妙な顔でこっち見んな!!!!

 

「それでは、本日はさかまんじハケンサービスのご利用、誠にありがとうございました。またのご依頼、お待ちしております!!」

 

 帰る前にきちんと終業の挨拶。

 挨拶にはじまり挨拶に終わる。

 ハケンの道は挨拶なのである!!

 

「お疲れさまでした。また何かありましたらよろしくお願いします」

 

「お疲れっす~!」

 

 仕事を終えた達成感を胸に、ぼくは二人に手を振って正義実現委員会の部室を後にした。

 

 

 

 帰り道、キヴォトス広域都市鉄道のTライン乗り場へ向かう道すがら携帯電話を取り出す。

 

「ソラ先輩のシフトは~...今ちょうど終わる頃か」

 

 現在時刻と帰宅までの時間を計算してぽつりとこぼす。

 

 今日は会えないかな~となんだかちょっと寂しさを感じてしまったり。

 

 ピコン

 

 そんな女々しいことを考えていれば、持っていた携帯電話からモモトークの通知音。

 

 名前欄にはソラ先輩。

 

 [おつかれさまです! それともまだお仕事中ですか? 先生に今日はハジメさんがハケンのお仕事だって言ったら二人で食べてって豚まんをおごってくれました! 私は今仕事上がりですがハジメさんが帰ってくるならご一緒にいかがですか?]

 

 ピコン

 

 [お仕事中なら無理に返信はしないでも大丈夫です!]

 

 ほんとにもー...この先輩は…

 

「[先輩マジリスペクトっす 30分程度で着きます]...っと」

 

 返信を打ってTラインの改札へ。

 今すぐ乗れれば30分以内にシャーレに着けるだろう。

 

 急いで電車に乗り込み、携帯電話を見てみれば

 

 [なんでそうなるんですか!?]

 [それならシャーレでお待ちしてますので一緒に食べましょう!]

 

 

 思わず両手をグッと握りしめて天へと突きあげる。

 気分はもう優勝である。

 最高の仕事終わりじゃないか。

 ソラ先輩マジリスペクトっす。

 

 

 ...たまたまほかに乗客いなくてよかった...*2

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ハジメが帰った後 正義実現委員会

 

「いやぁ…そもそも比べる対象にツルギ先輩が出る時点でおかしいっすけどねぇ...」

 

 ハジメを見送ったイチカとハスミは部室で残務処理をしながらそんな会話をしていた。

 

「彼女は状況が少し特殊なところもありますから…それでも自己評価は明らかに低いのですが」

 

「ツルギ先輩が着いた時にはそのまま強行突入しそうな勢いだったのに裏からハジメさんが侵入予定って聞いた瞬間落ち着いたのも驚いたっすけどね~」

 

「ツルギはハジメと一度敵として立ち会ってますからね。戦力は十分だとわかったのでしょう」

 

 ハスミの言葉に驚くイチカ。

 

「え!? あの二人って戦ったことあったんっすか!?」

 

「当時彼女はハケンをはじめたばかりで悪い依頼相手を引いたみたいで」

 

「ひぇぇ...災難っすねぇ...でもハジメさんのあの言い方だとツルギ先輩の勝ちだったっすよね?」

 

「そうですね、その時の違反者の護衛としてハジメと他何人かがいましたね。ハジメ以外は秒で制圧されてましたが」

 

 そこまで言ってから何かを思い出したようにくすくすと笑いを抑えられないといった様子で笑うハスミ。

 

「どうしたっすか? えらい楽しそうに笑ってるっすけど」

 

「いえ...ツルギとハジメは今でもたまに模擬戦とかするんですけどね」

 

「あー、運動場の隅でドッカンドッカンやってるやつっすか? 危ないからハスミ先輩以外ほとんど近寄らないやつ」

 

「ツルギはハジメの攻撃はすべて避けますよ(・・・・・・・・)

 

 その言葉を聞いたイチカの手は完全に止まり、思わずと言った体でハスミを見つめる。

 

「…それってヤバくないっすか?」

 

「そうですね、ツルギが脅威を感じる程度には」

 

 カリカリ、とハスミが書類に走らせるペンの音だけが響く部室。

 イチカは思いっきりため息をついて自分の目の前の書類を再開する。

 

「なんっすかざこざこのざこって。詐欺っす」

 

 思わず呻いたイチカの言葉にふふっ、と笑い声を漏らすハスミであった。

*1
零距離耳元囁き声

*2
今更自分の行動が直情的すぎて少し恥ずかしくなったヤツ




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