コールサイン・エクストラ
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「ノア、この間のエンジニア部の爆破事故の被害に関する書類なんだけど…」
ミレニアムサイエンススクール、セミナーの使用する一室にて。
セミナー会計、早瀬ユウカは同じ室内にて書類の作業を行う生塩ノアへと声をかける。
「それならユウカちゃんのデスクの緑色のファイルに各部ごとにまとめてあるそうですよ?」
「緑色…あぁ、これね。うわ、部ごとに分けてまとめて付箋まで貼ってある…修理業者のオススメ?」
ユウカは付箋に貼られている電話番号と業者名を見て首を傾げる。
「あぁ、それはその業者が一番値段を抑えた中で信頼できる業者だそうですよ?それとは別に少し部費とかの優遇で使える部活があるならそっちに経験を詰ませておくのもアリかも、と言ってましたね」
「…私、書類の仕分け以外依頼してないわよね?」
「えぇ、依頼の内容はユウカちゃんが指定した書類を時間内に可能な限り仕分けをすることですね。時間は9時半から12時まで。ユウカちゃんが外回りで午前中は忙しいので昨日までに手のつけられなかった書類を決裁予定日ごとに分けるという内容でしたね?」
ノアはユウカの質問にすらすらと答える。
「依頼自体は1時間ほどで終わってしまったので私が確認をした後、今日にあがってきた書類の仕分け、あぁ今日の分はそっちの青いファイルです、それも終わったので直接決裁はできないけど手伝いが可能なら、と色々としてくれたみたいですよ?」
「いやいや、これは明らかに依頼分よりやってもらいすぎでしょ!?これじゃ掲示された依頼料に色つけないとセミナーとしても恰好がつかなくなるじゃない!?優秀なのはわかってたから心配してなかったのに斜め上の方向に期待を裏切るんだからあの子は…!!」
頭を抱えてぼやくユウカを見てノアはくすくすと笑みを零す。
「…何よノア。何か言いたいことでもあるの」
「いいえ?ユウカちゃんのライバルはとっても優秀ですね」
「そう、優秀なのよ…ああもう、所属をセミナーにできなかったのは本当に悔やまれる…!ゲーム開発部ならワンチャン実質セミナー所属みたいにする手はいくつも考えてたのに…!!」
ユウカの悔しそうな姿を見てノアは親友がライバルと認める優秀な編入生を思い起こす。
少し前までは親友の事を早瀬と呼んでいたその生徒は銀髪で髪の長い、眼鏡をかけた少女。
小柄なその生徒はこのミレニアムでは珍しい
「まぁまぁユウカちゃん。こうして手の空いてる時は快くお手伝いをしてくれますし、あの子がミレニアムに来てくれたおかげでこうして堂々と依頼もできるようになったんだから」
「それはそうなんだけど…どうしてよりにもよってC&Cに所属したのよ!?
「なんでも「パイセンのお誘いは流石に断れないなぁ」とのことですし…私もてっきりゲーム開発部に所属するのかと思っていましたけど…ユウカちゃんはそのへんの事情は何か知ってます?」
「何かを作るって言うことが絶望的に向いてないって本人は言ってたわ...ゲーム開発部に所属するなら上手い事理由をつけてこっちに引っ張って実質セミナー所属みたいな扱いでもっといろいろと仕事が振れるって思ってたのに…!」
「あぁ、なるほど。つまりユウカちゃんの捕らぬ狸の皮算用ということですね♪」
「くっ…これに関しては何も言い返せない…!!」
ノアの痛烈な言葉にユウカは悔しそうにしながら自分のデスクへと座り、書類の決裁を再開する。
先日のエンジニア部の事故により破損した一部施設の修理に関して脳内で修理の仕事を振れる部活と業者を天秤に乗せ、費用と実力、今後への投資という視点も含めて思案する。
一時間ほどの時を要して、とりあえずいくつかの案件を終えたユウカは顔を上げて体を伸ばす。
そこにノアが湯呑とお茶請けを持ってきた。
「あら?今日はコーヒーじゃないのね、珍しい」
「えぇ、ユウカちゃんは普段から頭を使ってるから適当なタイミングでこれを食べさせて休憩をさせろと」
「…どら焼き?それに熱いお茶ね…まぁ確かに仕事の片手間に飲んだり食べたりは風情がないわね…少し休憩しましょうか…」
そう言ってユウカはノアから差し出されたどら焼きを一口かじり、湯呑を両手で包むように持ち、火傷をしないようにゆっくりと啜り、ほう、と一息つく。
ノアも隣で同じように一息をついている。
長い机仕事で固まっていた体と同様に少し煮詰まっていた脳内もほぐれるような感覚。
「はぁ…アフターサービスまで完璧なんてほんと惜しくなるじゃない…」
「ユウカちゃん、お気に入りのおもちゃを取り上げられた子供みたいですね」
「…ノーアー?」
ノアの辛辣な評価に恨みがましく抗議の声をあげるユウカ。
ノアはどこ吹く風と言ったようにくすくすと笑っている。
普段から仕事に追われるような対応を求められるセミナーの、それは珍しいゆったりとした時間だった。
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「ぬわーーーーっっっ!?まだ発売して1ヶ月くらいのスチューデントファイター6ならハジメに勝てると思ったのにぃぃぃぃぃ!!!!!」
頭を抱えて叫ぶのはぼくにドヤ顔で10先を挑んできて10:0で負けたモモイ。
ガン処理である。
「お姉ちゃん、だからやめておきなって言ったのに…」
「師匠がまだ数をこなしていないゲームで挑んでも格ゲー力で手も足も出ないモモイの浅はかさは愚かしいです」
はぁ、とため息をつくミドリと妙に自慢げに胸を張ってモモイに言葉の刃でトドメを刺すアリス。
「いやぁ、ボタン押すと昇竜出るの神過ぎじゃない?っぱ時代はモダンっしょ」
「すごくいいシステムだよね…敷居が下がっていろんな人が触りやすくなって…」
ぼくが新システムをそう評価するとユズも同意する。
いやーほんとえらいよこのシステム。
何が偉いってデフォルトで選択されてるのがこっちの簡単モードの方っていうのがほんとえらいよ。
「ゲーマーは黙ってクラシックじゃないの!?見損なったよハジメ!!」
「はっはっは負け犬がなんか吠えてるわ草草の草」
「むきぃぃぃぃぃ!!!」
厄介古参のような事を言いだしたモモイをぼくは全力で煽り散らかす。
敷居を下げるってのがどれだけの偉業なのかを噛みしめろ。
そもそも勝ってる時点で負けてる方よりえらいんですわ?お???????
「ミドリとアリスはモダン派?クラシック派?」
「アリスはクラシックです!コマンド入力で技が出るのが楽しいです!」
「私はモダンかなぁ、コマンドが簡略化されて他の部分に意識を割けるのはそれだけでやりやすいよね…えへっ、ハジメちゃんも私の名前呼び捨てにするの慣れてきたみたい♪」
あれから幾日か。
色々な人に支えられ、お誘いをもらって。
ものすごく悩んだけれど。
「師匠!今度はアリスと対戦しましょう!」
「アリスちゃんが終わったら私とも対戦してほしいなぁ、いきなりお姉ちゃんが10先とか言い出してハジメちゃんを占領したし…そのまま10戦で終わったからまだマシだけど」
「ミドリ!?10-0でガン処理されて傷心のお姉ちゃんに対してひどくない!?」
「…モモイはドライブラッシュがバレバレで途中からほぼ止められてたし重ねも甘いしリバサ昇竜を警戒もしてないから当然の結果かも…プレイ時間のアドだけでハジメに勝とうだなんて甘えた立ち回りだよね…」
「ユズまで!?なんでみんな今日はこんなに辛辣なの!?」
「「「
「…だってぇ~!!せっかくミレニアムに編入してきたのにハジメったら前より忙しそうなんだもん!!てっきりゲーム開発部に入ってくれると思ってたのに~~~~!!!」
そう、ぼくはミレニアムサイエンススクールの編入を望んだ。
気の置けないライバルと、最高の仲間たちがいるこの学園を。
「まさかハジメちゃんがC&Cに所属するなんてねぇ…」
「いやぁ、ネルパイセンから誘われちゃったし、ぼくは遊ぶの専門で開発の方はてんでダメだからなぁ…」
そしてぼくは今ミドリが言った通り、C&Cに所属することになった。
いや、あれ所属することにっていうかさせられたっていうか…。
勧誘(物理)だったと思うんですよねぇ...。
あ、ちなみにミドリとアリスをちゃん付けしなくなったのは本人たちから「ユズはわかるけどモモイも呼び捨てなのはズルい!!」との事らしい。
どういうことなの…?
「前より会える頻度は増えたのに一緒に遊べる時間が短くてアリスはちょっと残念です…でも師匠は色々な人たちから頼られてるのでアリスも弟子として鼻が高いです!」
「今日は午前中はセミナーのお手伝いだったんだよね…?ハジメ、無理してない?」
「んー、無理とかは全然。C&Cの人たちもみんないい人たちだしユウカもノアさんも無茶な仕事は振ってこないしねぇ」
あ、黒崎は素直にクソだと思うよ。
あいつ倫理観終わってんよ。
悪気はないんだけどな…。
なおヤバいのでは???????
「まぁ、確かに忙しさはあるけど充実してるかな。みんなと夜通しゲーム!とかはなかなか時間取れなさそうでそこはちょっともったいなく感じちゃうけどねぇ」
たはは、と笑いながらアリスちゃんとの対戦を楽しむ。
「モダン、便利なんだけどアシストボタン押しながらっていうのがアケコンだと地味に指疲れない?」
「パッドだとむしろ気楽なんだけどねぇ」
モダン使いのミドリに声をかければそんな答えが返ってくる。
パッドでもやりやすいのはむしろアドでは?
あーでもクラシックで普通にコマンド入力もしたくなってきた。
こうして深みにはまっていくのだぁ…。
「うわーん!師匠相手だと全然ジャンプからの攻めが通りません!!」
アリス…スチューデントファイターはカシオペアの拳と違って安易にぴょんぴょん飛んでも落とされるゲームなんよ…。
「ハジメは今日はこの後まだお仕事あるの?」
「うん、夕方からなんか廃墟の一角に不釣り合いな地下オークションが開催されるからその会場のお掃除だって」
「おそうじかっこぶつり」
モモイが遠い目をしながら呟く。
C&Cだぞ?当たり前だよなぁ?
「そういえば師匠はあのメイドのひらひらした頭の飾りはつけないのですか?そのジャケットも普段は前を開けないですよね?」
「お仕事の時以外は外してるかなぁ…というかその、ミレニアムでメイドの格好のまま生活すると…みんな離れてって寂しい…」
「メイドはね…」
「メイド怖い…」
ミドリとユズが首を振りながらそんなことを呟く。
そう、ミレニアムサイエンススクールでメイドと言えばある意味恐怖の象徴なのである!
最初そこまでだと思わなくて普通にメイドの格好して歩いてたらなんかハケンの頃には普通に話しかけてくれてきてた子とかが微妙に距離置くようになったり尻込みするようになって悲しかったゾ…。
「あ、でもハジメは怖くない…よ!」
「そうです!ネル先輩に植え付けられたメイドリアリティショックはすでに克服済みです!!トキと一緒に依頼達成もしたのです!」
「あの時のトキさんはバニーガールだったけどね…」
メイドリアリティショックってなんだよ。
アイエエエエエ!?とか言うのか?
あとバニーガールって余計になんだよ。
え?メイド服ってだけでも奇抜なのにバニーガールの格好させられる可能性あるの?
バニーってあれでしょ?カジノとかにいるあの、体の線めっちゃ出るやつじゃん?
そんなん着せられたら上は未熟な果実で下がどたぷんなぼくの体形バレバレになるやつやんけ!!!!!
「…ハジメちゃんのバニーガール…ごくり」
何ちょっとつば飲み込んじゃってんだよミドリは!!
なんか最近たまにこの子の視線が妙にねちっこく感じる事あるんだけどナンデ!?
「えっ!?ハジメがバニースーツ着るの!?…えっちじゃん!!!????」
「えっちじゃねぇわ!!!!」
失礼だぞモモイ!!!!!!!!!
「だってミドリがむっつりモードになってる!!絶対にえっちになるやつじゃん!!!」
「お姉ちゃん!?むっつりモードって何!?」
「ミドリが師匠をたまに鋭い眼光で見据える時ですね。あまり深く突っ込まずに見守ってあげようってユズが言ってました」
「ユズちゃん!?アリスちゃんに何教えてるの!?」
ミドリちゃんの抗議の声にユズは無言でコンボ練習を続けて黙殺する。
あ、あの追撃猶予2フレで難しいらしいんだよなぁ。
「ち、違うからねハジメちゃん!!私、ハジメちゃんのことえっちな目で見たりしてないからね!?」
「ソ、ソウダネ」
たまに見てるんだけど突っ込むのは流石に人の心がないか…。
深く突っ込まずに見守ってあげよう…うん…。
「そんなこと言って最近のミドリは手慰みにちょっとキャラデザとか書くと銀髪ロングのメガネキャラを描いてしまうのでした…」
「…お~ね~え~ちゃ~ん??????」
「あっ、やりすぎたかも…ハジメたすけて!ハジメの魅力がミドリをモンスターに育てちゃったんだよ!!!」
「うわーん!!師匠が画面端で一生投げてきます!これじゃあ柔道です!!!」
「アリス…聞こえていますかアリス…投げ抜けを…投げ抜けをするのです…」
「投げ抜けしようとしたら打撃を重ねられててカウンターされました!!このままではアリスは死んでしまいます!!」
「遅らせです…遅らせグラップをすれば打撃を重ねられてもガードができます…」
「遅らせたのに後ろに下がられてパニカン*1からフルコンボされました!!!アリスのラウンドはここで終わってしまいました!!!うわーん!!」
「アリスちゃん、あれはシミーって言って投げのスカリモーションを狩るテクニックだよ…こうなっちゃうと完全に不利な読み合いだからこの状況にならないように気をつけないとね」
「うぅ…まだまだ師匠やユズの領域には届きませんが、アリスはこれでまた1つレベルアップしました!!」
口プレイが過ぎた姉が妹に制裁されるのをガンスルーしてぼくはアリスちゃんとの対戦に勤しむ。
昨今のスチューデントファイターシリーズによくある投げの色々なパターンの攻め方でアリスちゃんを翻弄していつの間にか横に来ていたユズがそれを補足してアリスちゃんに説明してあげてる。
これがミレニアムサイエンススクールに編入してからぼくが過ごす
そんな騒がしくも楽しい時間もいつまでも続くことはない。
コンコン、と部室のドアのノック音。
そのままがちゃり、と開けられたドアからするりと入ってきたのはC&Cコールサインゼロフォー、飛鳥馬トキちゃん。
「ゲーム開発部の皆様、そろそろ時間ですので
トキちゃんのその言葉にゲーム開発部の皆がぴたり、と動きを止め、一斉にトキちゃんを見る。
このミレニアムには珍しいロングスカートのメイド服に身を包んだトキちゃんは綺麗な姿勢で立ちながらゲーム開発部の部室を見渡す。
「…あっ、そうだハジメちゃん。今日のお仕事が終わったらまたこの部室でお泊り会とかどうかな?いいよね?」
ミドリちゃんが絞めていたモモイから手を離しぼくへと問う。
「えっ?」
「いいえ、ハジメは今日の任務が終わったら
「えっ」
いや別にあんまり遅くなるんならアレだけどもそうでないなら別に手間でもなんでもないけど…
というかミドリも突然お泊りとか急だなぁ。
まぁ別に困らないし嬉しいけども。
「それにあまり遅い時間に
何言ってんだコイツ。
「え!?何それズルい!所属してる部活以外とお泊りしちゃいけないなんておーぼーだよ!!」
「…まぁ、ハジメのはじめてのお泊りは私たちゲーム開発部だけどね。きっとトキさんもハジメと仲良くなりたくてそんなことを言い出したんだよ」
ユズさん!?なんだか言い方が怖いんですけど!?
「…その点に関しては認めましょう。ハジメとのお泊りイベント、非常に興味深いしうらやましいと思ったのでそういうのは所属しているC&Cでもやるべきだと思います」
「あ、そこは認めるんだ…」
モモイが困惑の声をあげる。
そう、トキちゃんはなんか妙にぼくのこと気に入ってくれてるんよな…なんでやろ…。
「それならトキも一緒にお泊りをすればいいと思います!あの屋敷でのイベントで一緒にパーティを組んだメンバーなのですから!」
アリスちゃんは手を上げてそう提案する。
トキちゃんは目を見開き、顎に手を当てて長考の姿勢に入る。
「…一考の余地はあるかと…しかし…」
「しかしじゃねーよ何うだうだやってんだ、あァ?」
部室の扉からまた一人。
小柄なメイド服にスカジャンを羽織ったネルパイセンがのしのしと歩きながらトキちゃんを見上げ、胡乱な目を向けている。
「別にいつも通りチャチャっと任務終わらせて飯食ってコイツをココに連れてきて終わりだろ。ってかあたしも今日は終わったら来る予定だったぞ。スチュ6で
「あの何度も私に甘えたコンボミスも顧みずに再戦を挑んでいたネル先輩が折れています!?流石師匠です!!」
「あァ!?折れてねぇよちょっと煮詰まってるから他の奴とも対戦してぇってだけだよぶっ殺すぞ!?」
「ぴぃ!?ネル先輩のぶっ殺すを久々に聞きました!?」
「うぅ…やっぱりメイドさん怖い…私もメイドカフェとかで特訓してるのに…!」
猛るネルパイセン、怯えるアリスとユズ。
うーん、収集つかなくなってきた。
「ままま、ネルパイセン落ち着いて。そろそろお仕事行きましょうか?んじゃアリス、次までにはそもそも端に追い詰められないようにするのとドライブリバーサルとか選択肢を増やして相手に攻めのリスクを負わせるといいよ。なんならもっとパナそう!」
未だ長考ポーズで固まっているトキちゃんと威嚇スタイルのネルパイセンの手を取って部室の扉まで引っ張るぼく。
「あ…いってらっしゃいハジメちゃん!」
「師匠、トキ、ネル先輩!ご武運を!」
「気をつけてね…ハジメ」
「今度は下着忘れないようにねーハジメ!」
ミドリ、アリス、ユズ、モモイが思い思いに声をかけてくれる。
「モモイあとでガン処理するから」
「なんで!?」
人の古傷を抉るからじゃい!!!!
こうしてぼくはネルパイセンとトキちゃんの手を引っ張ってゲーム開発部の部室を後にしたのだった。
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煙が立ち込めるミレニアム郊外の廃墟地下。
廃墟には不釣り合いに整備されていた会場内は今や見る影もなく、地上に広がる廃墟と同様に荒廃していた。
「ひぃっ、ひぃっ…!」
スーツ姿のロボットフェイスの男が後生大事に銀色のアタッシュケースを胸に抱えながら、オークション会場に出品される予定だった商品…ミレニアムサイエンススクールのとある部活がセミナーへと提出予定だったものを盗み出した発明品を持ってなんとかオークション会場から避難に使われる地下道を、企業から護衛につけられたPMC職員と共に走っていた。
「何がC&Cだ…イカれてやがる!!突然オークション会場を爆破しやがって!!諸共生き埋めになる可能性だってあっただろうに!!」
男は悪態をつきながら、走りづめで今にも爆発してしまいそうな自分の心臓の音とこのまま倒れこんでしまいたいと訴える足に無理やり力を入れて走っている。
男はとある企業をバックにこうして物珍しい商品を仕入れては好事家たちに売りさばくのを生業にしている、キヴォトスにもそこそこいる小狡い大人だ。
商品の仕入れ方は様々。
ブラックマーケットで仕入れたり、少しあくどい手で手に入れたり。
今日も彼はそんないつものように商品を仕入れ、いつものように懇意にしてる好事家に呼びかけてオークションを開いたのだ。
オークションの運営は後ろ盾になっているとある企業が手筈を整えてくれる。
彼は商品を用意してその商品が売れればいくらかのキックバックを、売れずともその商品がよほど異常な物でなければ企業が買い取ってくれる。
普段は一社員として社会の歯車をしている彼のちょっとした小遣い稼ぎ。
紆余曲折は割愛するが、たまたま彼が仕入れた商品がミレニアムサイエンススクールの発明品であっただけの話。
そして会場がミレニアムの郊外の廃墟地下に企業が用意した会場であっただけの話だ。
オークションは当然彼一人の商品を競売するためのものではない。
自分と同じように何かしら持ち寄られた、好事家たちが喜ぶような品が集められ、競売が行われる。
好事家たちの下卑た笑い、会場内に配備されたPMCの警備たちにオークションを仕切る顔を隠した企業の職員。
このオークションで物を売りに出す時の決まりはひとつ。
自ら会場まで足を運び、自分の番になったら商品をステージの展示台に置く。
ここまですればあとは家に帰って布団に入って寝てしまえば翌日には口座の残高に色がつく。
彼は幾度目かになるこの形式のオークションで自分の商品の順番を待っていた。
このオークションのいいところはその商品の競売が始まってしまえばその商品への責任や罪は一切問われない事だ。
好事家たちには好事家たちなりのプライドがあるらしく、買ったもので不利益を被ってもそれは自分の責任だということらしい。
そして次に自分の番が回ってくるであろうというタイミングであった。
ズガァァァァァァン!!!!!!
突如入口の方から響く轟音。
もうもうと立ち込める煙から歩いてくるのメイド服の生徒たち。
「…Cleaning&Clearingだ。ミレニアムの管轄で届け出のない集会での違法な売買の取り締まりに来た」
人影の中から歩み出てきたのはその中でもひときわ小柄な少女。
メイド服に龍のデザインされたスカジャンを羽織り、その手には2丁一対のSMGが携えられている。
「現在この会場に出品されている商品には我がミレニアムサイエンススクールから窃盗されたと思しきものがいくつか確認されています。真実であるならば郊外とはいえこのミレニアム自治区内で見過ごせるものではありませんのでどうか皆様には調査のご協力をお願いいたします」
その小柄な影のすぐ後ろ、これまたメイド服を着て眼鏡をかけた少女は不機嫌そうな顔をした小柄な少女とは対照的に満面の笑みでこちらに微笑みかけるようにそう語る。
「ご協力いただけませんのでしたら…メイドらしくお掃除をさせていただくことになります」
その聖母のような笑顔をまったく崩さずに手にしたHGを見せつけるように胸元まで持ち上げる。
その行動が表している物騒な内容と変わらず浮かべた慈愛の笑顔が恐怖をさらに引き立たせている事に彼女は気づいているのだろうか。
ここでPMCの警備員たちが動いた。
入口のメイドたちに向かって一斉に発砲を仕掛ける。
会場の客たちは声を上げながら壁の方に向かって避難する。
「おい!逃げるぞ!!」
彼は企業から自分につけられた警備のPMCに声をかけ、関係者の脱出避難用の地下通路に向かって一目散に駆け出した。
かくして彼は廃墟と化すオークション会場から警備の3人を連れ立って脱出をしたのだった。
そして彼は今その地下通路を走り、いくつか用意された脱出口の一番近い出口に間もなくたどり着いた。
出口の開閉にはオークション参加者に発行される参加者証明のカードを出口のカードリーダーに通して数分待つ必要がある。
彼は出口にたどり着くとカードリーダーにカードを通し、そのままその場に座り込んでゼェゼェと荒い息をつく。
「クソが!今日は厄日だ!!」
首元のネクタイを緩めて大きく息を吸って吐く。
「C&Cのガサ入れに引っかかるとは本当に災難だったな」
PMC職員の内の一人、この小遣い稼ぎでは何度か顔を合わせたことのある職員が彼に声をかける。
「今回の品はそこそこの値段がつきそうだったってのにこれじゃ企業に買い叩いてもらうハメになる」
「何、あのメイドたち相手に一目散に逃げる選択をとったアンタは賢いぜ?」
「そうそう、他の会場で出くわした奴らの中には龍の絵を見ただけでブルっちまうようになった奴だっているんだ」
顔見知りの職員とその近くにいた2人の職員も彼に笑いかける。
本職の彼らからしてもあのメイド集団は脅威であるらしい。
「あぁ、いたいた」
この場にそぐわない高めの抑揚のない声に男たちは一斉に自分たちが逃げてきた通路に目を向ける。
「ドーモ、重要参考人=サン。ぼくはコールサイン・エクストラです。抵抗せずに大人しくしてくれると嬉しいなぁ」
そこには白いレースの可愛らしいヘッドドレスを着用し、メイド服にセミナーのジャケットを羽織り、青いラインの入ったメタリックなカラーリングのSGを担いだ銀髪のメガネを着けた少女が無表情に男たちを見つめて立っていた。
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ダダダダダダッ!!
「あっ、やっぱ抵抗する?するよねぇ」
一応声をかけて無差別な鎮圧はしてないって体裁作りたかっただけだしまぁこのキヴォトスでこう聞いて抵抗しない人なんてほぼおらんわなぁと思いながらぼくは声をかける前に確認しておいた立ち位置と人数からあらかじめ立てておいた計算式を計算機に打ち込んで実行キーをぽちっと。
眼前に迫るPMCの職員たちのARから放たれた銃弾は一般的な警備会社の使っているよく見るソレで、特殊な改造なども施されている様子もなく、通路から偵察した時の
これ毎回戦闘中にぶっつけで計算してバリアー展開してるユウカはやっぱ怖いわ。
マニュアルでバリア張った方が強度も確保できるしアンタなら使えるでしょって言ってこのバリア稼働計算器をくれた事には感謝するんだけど咄嗟の時に最大出力のバリア使えないのでそれができるユウカはやっぱ頭おかしいと思いまーす。
バリアの耐久が残っている内に思いっきりその場で体をひねりながら向かって右側の職員に向かって跳躍。
体を回転させながらこめかみに向かって思いっきり踵を叩きこむ。
そのまま地面に倒れこむのを尻目にすぐ隣の職員の腹部にミレニアムのみんなとデコレーションした今日のぼくの愛銃、SG【insatiable Quest】をそのまま撃ち放つ。
ゼロ距離で散弾を思いっきり浴びたその職員は吹き飛ばされそのまま壁に叩きつけられて動かなくなる。
あと1人。
ピーッピーッピーッ
部屋の中に響くそんな機械音と共に奥の電子扉が開かれ、スーツの大人が一人アタッシュケースを抱えて這うように走り去っていくのが見える。
そして残った一人は再度ぼくへ向けて手元のARをこちらに向け直している、バリアはすでに稼働時間を終えている。
今からじゃ計算も再稼働も間に合わない。
なのでバリアのスイッチを持った左手で思いっきり銃身を打ち払った。
「…オォッッッ!」
打ち払われた勢いで流れる体を押さえつけ、その勢いを利用してぼくを蹴り上げようとしてくる職員。
このパターンでできること、それくらいだもんねぇ。
なのでぼくは予想通りにこちらを蹴り上げようとする職員の左足の膝を蹴り抜いた。
「ヌォッ!?」
起こりがつぶされた職員はこちらに倒れこみそうになるのを必死に持ちこたえた。
ガッツあるじゃん、このまま倒れこんじゃってもおかしくないのに。
ぼくはそんな職員の様子を、膝を蹴り抜いた勢いで跳躍した、少し上空から眺め、そのまま職員の後頭部に思いっきり
電子扉の向こうへと駆けて行ったスーツの男性はもう外へと続く階段へと足をかけるところだった。
ぼくは職員の持っていたARをひょいと担ぎ上げ、まっすぐ階段を駆け上ってもらえるように逃げた男の少し後ろに向かって発砲しながら携帯電話でお目当ての相手に発信する。
「…こちらコールサイン・エクストラ。出口から1匹出しますのでお願いしたく~ポイントは通路とかの長さから見るにゼロツーのいる場所から西に500程度かな?遮蔽物とかはちょっとわからないかも」
『ゼロツー了解…確認した。エクストラはそのまま出口の封鎖をお願い』
「了解~」
通話を切って掃除した職員3人を拘束していると携帯電話に着信が。
「もすもすひねもす~」
『メイドとしてその挨拶はいかがなものかと…また教育しますか?』
「いえ、ぼくはえんりょしておきます」
ぼくの気の抜けた通話応対にアカネさんから"圧"がかかる。
アカネさんのメイド教育コワイ!!
『まったく…会場は鎮圧が済んでセミナーの方々への引き渡し完了となりました。各員セミナーの方に引継ぎが完了次第突入地点だったポイントに集合との事です』
「かしこまりました」
思わず敬語で承諾の意を返し通話を切る。
そんな連絡を受けてほどなく、セミナーの回収部隊の生徒が来てくれたのでぼくが制圧した職員の人を引き渡し集合場所へと向かった。
集合場所にはすでにC&Cの皆様方が揃っていた。
「あっ、ハジメちゃーん!おつかれー!!」
ぎゅむ、と笑顔でぼくに走り寄ってきてそのままぼくを抱きしめてくるアスナさん。
おもちが!やわらかいおもちが!
メガネ曇る!
「ハジメ、お疲れ様です」
物理的に前が見えねぇされたぼくの背中をなぜかトキちゃんが抱き着いてアスナさんとサンドイッチしてくる。
なんで?????????????????
「ハジメが完全に埋まってる」
「はいはい、アスナ先輩もトキちゃんも一旦離れてください。メイドらしく優雅に任務を終えたのかをチェックしますので」
独特な感想を呟くカリンさん。
アカネさんに指示された二人は「はーい」、「はい」と返事をしながらぼくを解放する。
「ではハジメさん」
「へいへい」
「ハジメさん?」
「hai!」
ぼくの適当な返事にアカネさんがいつもの"圧"の篭った笑顔でこちらを見てくるのでぼくはその場で直立し、くるりと軽く回ってからスカートの裾を軽くつまんでカーテシー。
チェックっていうけど…これいる???????????
「…はい、汚れもありませんし問題はなさそうですね」
「あっはは!ハジメちゃんかーわいー!!」
「はい、ハジメは可愛いです」
だーれが可愛いやねん。
チェックが終わったからとぼくを抱き寄せるアスナさんとそれに呼応するトキちゃん。
いやほんと君らなんでぼくのことそんなに気に入ってるん?????????
アスナさんはなんか調子悪い時に手つないで一日面倒見たくらいだしトキちゃんは多分一番下っ端だったのがぼくがその下に入った庇護欲とかそういう感じのアレだと思うんだけど…。
「何バカやってんだか…おら、集まったんならさっさと帰ンぞ」
「あっリーダー!今日は何食べて帰るー??」
「そのへんでテキトーでいいだろ…」
くるりと振り返り、ミレニアムの方へと歩きだすネルパイセン。
みんなでそれに続く。
「こうして任務の後に皆でご飯を食べて帰るの、私は好きだな」
ふとカリンさんがそんな言葉を呟く。
「そうですね、任務のあとはその場で解散が普通でしたもの」
アカネさんが同意するように続く。
はて?ぼくがC&Cに参加するようになってからはほぼこの流れだったと思うんじゃが??????
「部長も素敵な後輩が二人も入ったから気にしてくれてるんですよ」
「おいアカネ!妙な事を後輩に吹き込んでんじゃねぇ!!!聞こえてんだよ!!」
「あらあら」
ネルパイセンからの怒号もどこ吹く風でニコニコと笑っているアカネさん。
ネルパイセンは舌打ちをして早歩きでずんずんと進んでいくが、別に否定したりはしなかった。
「んじゃ、おつかれ、解散」
あの後ファミレスで食事を済まして駄弁って過ごしたぼくらはミレニアムまで到着し、本日のお仕事は終了となった。
「おつかれー!!」
「お疲れさまでした」
「はい、お疲れさまでした、皆さん」
「お疲れ様です先輩方。ハジメ、またあとで」
アスナさんは元気に、カリンさんはマイペースに、アカネさんは笑顔で解散していった。
トキちゃん、お泊りマジで普通に来る気満々なのね…。
ぼくも一度寮に戻らないと…。
「あン?ゲーム部行くんじゃねえのか?」
寮へと足を向けたぼくにネルパイセンが疑問の声を上げる。
「いや、なんか部室でお泊りって言ってたので着替えとか取りにですね」
「そういやンなこと言ってたな…まぁあたしは流石に適当なところで切り上げて帰るが…んじゃさっさと寮行くか」
ネルパイセンはそう言って歩き出す。
「え、いやネルパイセンは先にゲーム部行って大丈夫ですよ」
「あァ?あたしと一緒に歩くのが怖ぇのか?」
「えっ、何その絡み方めっちゃめんどい」
「お前たまに滅茶苦茶辛辣だよな!?」
ぼくの忌憚のない意見にがーっと噛みついてくるパイセン。
まぁこんなこと言ってもなんだかんだ気にしないでくれるしいい先輩だと思うよほんと。
二人で並んで寮への道を歩く。
「あーまぁ…なんだ…悪かったな、無理やり
??????????
「え、いやめっちゃよくしてもらってるし不満マジでゼロなんですけどぼく」
「まぁ、そうなんだろうけどよ。ゲーム部に入りたかったんじゃねえのか?」
少し前を歩くパイセンの顔は見えない。
「いや、パイセンの誘いがなかったらセミナーに無理やり入れられてたんじゃないですかねぇ。そもそもゲーム開発部にはぼく入ろうと思ってなかったですし」
「あァ?なんでだよ」
「
「ははっ、なんだそりゃ…まぁ編入してきた時に思ってたような事にはならなかったからよ。余計な事したかもしれねーってな」
「余計な事、ですか?」
「おう、自分の事を欠片も顧みねぇどっかのバカを野放しにしねえようにって思ってたら杞憂だったって話」
あー…、はい。
「まぁその…色々あってこう、怒られまして…ハイ…」
「そりゃそうなるわ」
「返す言葉もございません…」
「まぁ、どんだけ怒られたかは知らねぇけど…無茶もしなくなったし少なくとも最後まであがくようになったってのはわかった」
そう言ってネルパイセンはこちらを振り向いて握りこぶしでぼくの胸をとん、と突いて、
「今のお前のそういうところ、嫌いじゃねぇぜ」
ニッと笑って、前を歩いていってしまうパイセン。
ぼくは突かれた胸から広がるじんわりとした熱さに、立ち止まってしまった。
「オラ何ぼーっとしてんだ
歩き出す。
初めて呼ばれたその呼び方に言いようのない熱を抱えながら。
「…えぇ~~~~~????ネルパイセンがぼくをゲームで泣かすぅ~~~????本当にござるかぁ~~~~????」
「ゲームに関しては出会ってからコッチずっと煽り散らかされてんだ!!そろそろこのクソ生意気なやつに格付けしねぇとなぁ!?」
「いやぁ、最初のころに比べるとネルパイセンも強くなりましたよねぇ、状況判断できなさそうだから妥協コンにするとかそういうのはねぇ?上手くなってていいと思いますよぉ?ぼくはフルコンできるけど」
「…ぜってぇ泣かす!!」
「ピヨピヨ」
「やっぱ煽ってんだろテメー!?泣くと鳴くで字が違ぇ!!」
そんなことを言い合いながらぼくらは並んで歩き出す。
ネルパイセンは気づいているだろうか。
今ぼくが泣きたくなるくらい嬉しいって感じてることを。
まぁ、ゲームではしばらくはパイセンに泣いてもらうけども。
でもぼくと対戦しまくってるからそろそろアリスといい勝負しそうな気もするんだよなぁ。
その後はゲーム開発部で夜通しゲームを遊んで過ごした。
意外だったのはトキちゃんが思いの外ゲームにドハマリしたことか。
プレイスタイルも彼女らしい独特のリズムで対戦している時におっと意表をつかれたりして面白かった。
なぜかモモイにはまったく通じずに負けていて終始悔しそうだったので後日リベンジするとのことだ。
あとはぼくとの対戦で実力が上がっていてアリスといい勝負をするようになっていたネルパイセンがアリスにライバル認定されてたりとか。
ぼくも編入してからそんなに時間が取れなかった分ユズと思う様対戦して非常に楽しかった。
もっとやりこんで次は勝ち越すぞ!!
これがぼくが選んだ一つの選択。
ミレニアムサイエンススクールCleaning&Clearing所属1年生、安納ハジメの日常だ。
大変長らくお待たせいたしました。
今回から何本かはハジメちゃんの選択の先を書いていこうと思います。
ハートフルな路線ですね。
誤字、脱字報告、高評価ありがとうございます。
励みになります。