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荒い息を必死に噛み殺し、不良生徒の一人が廃墟内の暗い通路を走る。
まだ形の残った一室に逃げ込み、入ってきたドアに部屋内に転がっていた瓦礫や何やら目につく者をとにかく押し付けて簡易のバリケードにして、部屋の奥にまだ形を保っていたロッカーに駆けこむ。
長期間放置されていたであろうそれは上手く閉まらずギィギィと音を立てるが、必死に力を込めてガコン、と音を立てて閉める。
今すぐに叫びだしたくなるのを必死に抑えて息を殺し、ロッカーの空気穴から外の様子を伺う。
ゴトゴト…ゴトゴトゴト…
耳障りな、重い何かに車輪をつけて引きずるような音が響いてくる。
鼓動が早くなる。
今にも心臓が口から飛び出しそうな、叫びたくなるような気持ちを必死に抑えて息を殺す。
ゴトゴトゴト…ゴト…
ガチャ
ガチャガチャ
自身がバリケードを築いたドアのノブが回される。
しかし内開きのドアの前には瓦礫やら何やらが詰まれて開くことはない。
そうだ、この部屋のドアはもうバカになってて開かないんだ。
そう思ってくれ…!!
ロッカーに隠れた不良生徒は普段心に思い浮かべる事すらしない神とやらに必死に祈る。
今この瞬間の彼女はシスターフッドの敬虔な生徒たちに匹敵するほどに神へと祈りを捧げていたに違いない。
果たしては祈りは届いたのか、ドアノブを回す音は止んだ。
訪れる束の間の静寂。
いったいどうしてこんな事になったのだろう。
彼女は別にいつも通りに仲間たちとつるみ、たまたま目に入ったゲヘナ学園へと向かう食糧輸送用のトラックを強襲し、風紀委員が現れる前にさっさととんずらをかまし、この廃墟へと運び込んでちょっとした昼食にありついていたはずだった。
別の
腹も膨れたし残した日持ちのしそうな食料は適当に各々の鞄に詰め、ぐだぐだとしゃべって過ごしていた昼下がり。
ゴトゴト…ゴトゴトゴト…
ふとそんな重い荷物を載せたカートの車輪のような音が耳に響く。
それまで笑顔で駄弁っていた仲間たちも気づいたのか、口を閉ざし、一つだけしかない入り口のドアへと目を向ける。
外からこの部屋へと入るにはあのドアを開けるしかない。
不良生徒たちは各々の銃を手に取りドアが開いた瞬間に一斉に攻撃できるように部屋の中に展開していく。
SRを担いだ彼女はドアから反対側の壁付近、少し横にずれた位置に都合よく打ち捨てられていた厚めの大きな金属机を遮蔽物にして身を隠す。
先手は他の得物を持った仲間たちがとってくれるだろう。
彼女はその先制攻撃が終わった後のダメ押しにあのドアに向かって適当に狙撃をすればいい。
最悪あのドアを突破されても閃光手榴弾に煙幕弾もある。
状況を見極めてトドメか追い打ち、もしくは逃げを選ぶのが彼女の仕事だ。
車輪の音はドアの前で止まったのは確認している。
たまたま手の空いていた風紀委員が少人数で今たどり着いたとかそんなところだろう、あのやべぇと評判の委員長が直接出向きでもしてこない限り不良生徒たちは後れを取るとは微塵も考えていなかった。
大人数に囲まれればひとたまりもないだろうが、音からしても数人程度、しかもわざわざ音を鳴らしてこちらに存在をバラすような奴らなど恐るるに足らず、さぁ早くドアを開けてこい。
不良生徒たちはそんなことを考えて各々の得物をドアへと向けていた。
ズガガガガガガガガガガッッッッッ!!!
盤石の態勢を整えていた不良生徒たちの思惑と違い、轟音と共にドアごと吹き飛ばすような鉛玉の嵐が部屋の中を薙ぎ払ったのはその直後の事であった。
「…は?」
轟音が止み、彼女は隠れていた遮蔽物から少しだけ顔を出し部屋を見渡す。
部屋の中にはつい先ほどまで自分たちが座っていた場所で囲んでいた携帯用のコンロや使った鍋が無残に穴だらけになり転がっている。
ドアに向かって臨戦態勢を整えていた仲間たちも自分以外全員が壁に叩きつけられたように昏倒している。
自分が遮蔽に使った金属机もぼこぼこに凹み、もし次にあの嵐に晒されればウエハースのように脆く貫かれるだろうことがわかってしまう。
そして入り口…
「ありゃ、全員お眠かぁ?」
風紀委員とは趣の違う、黒いコートに赤いゲヘナの校章の描かれた腕章をつけ、ピークドキャップをかぶった銀髪に赤縁のメガネをかけた女が部屋に向けて掃射したミニガンを引き摺って入ってくる。
女の入ってくる気配と共にゴト…ゴト…と車輪の音が響く。
ふと入り口から反対側の壁を見る。
つい先ほどまでは廃墟にしては形を保っていた壁だった場所は今では完全に崩れ落ち、向こう側の廊下にそのまま吹き抜けのような有様になっている。
あの女が引きずっているイカレた武器の火力に身震いをしながら必死に息を潜める。
「あ、もしもーしアコちゃん?特務執行委員のハジメですけどぉ~?例の食料輸送トラックの犯人一味の鎮圧は終わったけどやっぱ食料は食べられちゃってるわ。今鎮圧はほぼ終わって人数がえーと…」
特務執行委員?なんだそれは、そんなモノ聞いたこともない。
風紀の制服でもない、見たこともないコートを羽織った風紀みてぇな面倒なのが増えたってのか?
「1、2、3、4…」
部屋には伸びてる仲間が4人、見たところ相手は1人。
閃光投げて不意打ちすれば逃げる時間くらいは稼げるだろうか。
そんなことを考えていた時だった。
「…5人、だねぇ」
彼女は思わず漏れそうになった叫びを必死に噛み殺し、すぐさま手元の閃光弾と煙幕弾のピンを抜き、部屋の中央へと投げ込みながらつい先ほどすぐ近くに出来た吹き抜けから転がるように廊下へと飛び出し、脱兎のごとく駆け出したのだった。
そして現在、冒頭のように彼女は一人ロッカーの中で声を殺して必死に身を潜めていた。
どうかそのまま去ってくれ、諦めてくれと真摯に祈りながら。
ズガガガガガガガガガガッッッッッ!!!
轟音。
それは圧倒的な暴威の奏でる咆哮。
ゴト…ゴト…
吹き飛ばされた入り口と思しき方向から例の車輪の音がじわじわと近づいてくるのがわかる。
わかってしまう。
狭いロッカーの中に座り込み、耳を塞いで目を瞑る。
どうか気づかないでくれ、バレないでくれ!
コンコン、コンコンコンコン
ロッカー越しに響くノックの音。
今にも叫びだしそうになるのを必死で堪える。
コンコンコン、コンコン
ガチッガチッ
ノック音から続いてロッカーを開けようとする音。
「あれ?開かないなぁ…ハズレかな?」
幸いと言うべきか。
彼女がこのロッカーに逃げ込むときに無理やり閉じた際に歪んだか、ロッカーの扉はガチャガチャと音はすれども開く気配はない。
これは…助かるのか?
このまま息を潜め、じっとしていればこのイカレた女はここにはいないと別の場所へ向かうのではないか。
ロッカーに隠れた彼女は息を殺す。
たっぷり数分間、いつの間にかロッカーを開けようとするガチャガチャという音がしなくなってからどれだけの時間が経っただろうか。
あまりの静けさにもうすでにあの女は他の場所へ移動したのではないか、そう思った彼女は物音を立てないように慎重に、恐ろしく慎重に立ち上がり、空気穴から外の様子を確認しようと
「み ー つ け た ぁ ♪」
穴越しにこちらを見つめるメガネのレンズ越しにはっきりとその双眸と目が合ってしまう。
彼女の意識は、そこで途絶えた。
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「…と、いうわけで風紀委員会の手柄をひとつ、見事に我が
「キキキッ!!まったくもって素晴らしい成果ではないかハジメ!やはりお前を万魔殿所属にしたのは正しかったな!!今後も今の任務を継続してあのいけすかん風紀委員会に我ら万魔殿の存在を知らしめるのだ!!」
「委細承知」
ゲヘナ学園、万魔殿の執務室。
ぼくは万魔殿の所属を表す黒いコートを着用し、最高責任者である羽沼マコト議長に敬礼する。
「キキキッ!優秀な手駒がこちらにかっさらわれてあのヒナもいつものように済ました顔で落ち着いてはいられまい!」
「えぇ、ぼくが所属してからはあの常に仕事を追いすがっていたヒナちゃ…空崎委員長も適度に腑抜けた様子です。先日は委員会でお茶会とかしてましたよ」
「愉快愉快!これはこのゲヘナ学園の最高機関が風紀などではなく万魔殿であると生徒共も思い出す日もそう遠くはないだろう!!」
独特な笑い方で機嫌がよさそうにしているマコト議長を敬礼のまま見守っていると執務室の扉が開く。
「おねーさん!マコト先輩への報告は終わっ…わひゃっ!?」
開かれた扉からこちらに駆け寄る途中で足をもつれさせた小さなお姫様にすぐさま近寄って転んでしまわないように受け止める。
「ふわぁ…危なかったぁ」
「イブキちゃん、気をつけないとだめだぞ~」
抱きとめた姿勢のまま背中をぽんぽん、と叩いてあげるとイブキちゃんはぼくに抱き着いてくる。
この子はぼくのことを前から「ハケンのおねーさん」と言って慕ってくれている。
まぁ、ハケンでゲヘナ学園に来た時にたまたま通りがかった目の前で足を引っかけて転んでしまいそうなのを助けてからの縁だ。
「マコト先輩のところにハジメさんがいると聞いてイブキがおやつは一緒に食べると聞きません。ハジメさんも風紀に戻る前に大人しくイブキと一緒におやつタイムをしてから向かうということで…」
「イロハ先輩、ハジメです」
「…そこ、こだわる必要あります?」
「組織の上司なんだから呼び捨てにしてくだいよ~イブキちゃんは呼び捨てじゃないですか~ぼくもイロハ先輩から呼び捨てさ~れ~た~い~」
「…はぁ…わかりましたよ…面倒な後輩が増えてしまいましたね…行きますよ、イブキ、ハジメ」
「むっ!?待て!イブキとのおやつタイムならここですればいいだろう!?なぜ別の場所に向かおうとする!?」
「ここでやったらマコト先輩は仕事を一秒たりともしないからでしょうに…」
イロハ先輩はマコト議長の言葉にため息をつきながら答える。
うん、この人ほんと気が向いた時にしか仕事開始しないからな…
「で、でもマコト先輩だけ仲間外れなのは可愛そうかも…?」
「おぉイブキ!イブキは本当に良い子だなぁ!!」
感動の声を上げながら執務用の机から立ち上がるマコト議長。
いやぁ、でもその書類、半分は決裁今日までにしないとダメなやつだよね?
「イブキちゃん、マコト議長はイブキちゃんと優雅におやつを楽しむためにまずはぼくたちで先行してお店の席をとっておくべきだと言ってるのさ。なぁにマコト議長に関してはあの程度の書類を片付けるのはベイビーサブミッションさ」
「あんなに机の上で塔になってるのにマコト先輩はすぐに終わらせちゃうの!?マコト先輩すごーい!!」
「えっ、いやそれは流石に」
「こうしてはいられない、マコト議長が仕事を終えてぼくたちのおやつに合流するためにもぼくたちは最高の席どりを決めて場を温めておかないとだね!さっそく向かおうか!今日のイブキちゃんが選んだお店はどこなのかな?」
抱きとめていた姿勢からそのままイブキちゃんごと立ち上がり、ぼくはイブキちゃんの手を握り笑顔で問いかける。
「えっとね、学園からすぐ近くのスイーツショップがパフェのトッピング自由なんだって!!君だけの最強フレーバーをつくろう!みたいな企画やってるからそこに行きたい!」
「…場合によっては爆破されかねない企画ですね…それではマコト議長が仕事を終えて合流した際に労えるよう、私たちは先に向かいますか…」
イロハ先輩がイブキちゃんの空いてる方の手をつなぎ、ぼくらは3人で執務室の扉へと向かう。
「…でも本当にマコト先輩をおいて先に行っちゃっていいのかな?手伝ってあげた方が…」
「あそこにあるのはここで一番えらいマコト議長じゃないと見るのもダメーな資料てんこ盛りで手伝えないんだよ…ぼくたちはマコト議長が華麗に仕事を終わらせた後の羽を休める憩いの場を先に用意しておくくらいしかできないのさ…イブキちゃんもマコト議長が仕事を終えて合流した時に喜んでもらえるように先に行ってぼくたちで幸せオーラを作っておかないとだから責任重大だよ」
イブキちゃんは何やら気づきを得た、といった顔つきで頷く。横にいるイロハ先輩はそんなぼくらの様子を見てため息をついている。
「ハジメさんは口が回りますね…」
「ハジメですイロハ先輩」
「…はぁ、ハジメハジメハジメ…評価が上がっている相手の呼び方の格を下げるの、慣れないんですよねぇ...」
「ま、待て!サインちょこちょこっと入れるだけの書類ばっかりだ!ちょっと手伝ってくれればすぐ終わるんだ!!」
「あ、風紀に一回通す書類に関しては筆跡鑑定をはじめたみたいなのでご本人で書くのが無難ですね、仕事増えちゃいますよ」
ぼくの言葉にマコト議長は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている。
「なぜそのような面倒な仕事を増やした!おのれ空崎ヒナ…!」
「なんか最近風紀で仕事するようになった生徒が筆跡のコピーとかできちゃう子らしくてそれで危機感を覚えたみたいでして。行政と言う意味でも風紀と言う意味でも対策は必要であるという事になりました、と先日報告させていただきましたが…」
「…なるほど、風紀の潜入の仕事はきっちりこなしているのだ。今のはそのための確認であえて過去の事例の内容を説明させたのだ!キキキッ!」
「さすがマコト議長、そのいついかなる時も部下の能力を図る姿勢、素晴らしいと思います!」
「キキキッそうだろう!」
「というわけで書類終わったらスイーツショップまで来てくださいね~」
「ふんっ!この程度の書類ものの数分で…数十…いや無理では…?」
マコト議長が現実に気が付く前にぼくたち3人は執務室を手をつないで後にしたのだった。
「おいしー!!」
イブキちゃんが幸せそうにパフェをはむはむ食べながらさっきから何度も叫んだおいしー!!を連呼してる。
「イブキ、あまり食べすぎると夕ご飯が入らなくなっちゃいますよ」
そう言いながらイブキちゃんの口元についたクリームを拭ってあげているイロハ先輩。
「でもこんなに好きな物で好きなように作れるパフェなんて滅多に食べれないよ!イロハ先輩もおねーさんももっと色々食べないともったいないよ!!」
ゲヘナ学園からほど近いスイーツショップで行われていたイベントは店内に所狭しと並べられたトッピングやクリームなどの素材を自由に利用してパフェを作り、カウンターに持っていくと評価してもらえるという奇怪なイベントであった。
店員が精査してバランスがよく美味しそうだったら使った具材の値段から割引がつくという、面白いシステムである。
一見バランスが悪くてもテーマを語り店側が納得すればボーナス割引もあったりして美味しい普通のパフェを作ろうとする者もいればイブキちゃんのようにただただ好きなものを載せて楽しむ者もいる。
「しかも出来がよかったら後日お店に普通にメニューとして出す可能性もある、と。随分思い切ったイベントですねぇ」
「ね、ゲヘナっぽさあるよね」
「美食研究会に目をつけられなければいいのですが…それにしてもハジメさ…ハジメはマコト先輩の操縦が上手いですね」
「操縦なんて人聞きの悪い。気持ちよく仕事してもらってぼくも気持ちよく仕事ができてハッピーうれぴーよろぴくねーって感じじゃない」
あれから幾日か。
色々な人に支えられ、お誘いをもらって。
ものすごく悩んだけれど。
ぼくが編入先に選んだのはゲヘナ学園。
所属は万魔殿、肩書は特務執行委員。
マコト議長の指示で色々やる何でも屋さんだ。
とは言っても今は専ら風紀委員会に出向して書類仕事
「あの我の強いマコト先輩を相手にこれだけ自分のやりたいように事を運んでいるのはすごいと思いますよ。まさにゲヘナという感じで」
「それ褒められてませんよね?」
「褒めてますよ?私には面倒でとても真似できないと思ってます」
面倒じゃなきゃ大抵のことはできちゃうんだろうけどなぁ、イロハ先輩。
ある意味一番底知れないのよね。
ふと腕時計を見やる。
「おっと、そろそろぼくはまた出向に戻らないと」
「おや、結構時間が経ってたのですね」
「おねーさん、もうお仕事?」
イブキちゃんが口元にクリームをつけたままこちらを見上げる。
イロハ先輩は何も言わずにそれを拭きとってあげている。
「うん、今日は誘ってくれてありがとうねイブキちゃん。今度はイロハ先輩と一緒にゲームでもして遊ぼうね」
「うん!お仕事がんばってね、おねーさん!!」
「がんばりマッスル~。イブキちゃんの応援で元気100倍ってね。あ、そこのパフェはマコト議長用にぼくが作った渾身の作品だから来たらちゃんと食べさせてあげてね。概要はそこのメモに書いてあるから」
そう言ってぼくは立ち上がり、自分の分の支払いをイロハ先輩に渡して店を後にする。
…さて、マコト議長は攻略できるかな、レイドパフェ・アレキサンデー討滅戦を…
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「あぁマコト先輩、遅かったですね」
「まったく…どうにかこうにか目途をつけてきたぞ…イブキはすでに寝てしまっているではないか…」
店内に入ってまっすぐとイロハたちの席へ向かってきたマコトは椅子を引いて乱暴に腰掛ける。
「ハジメはどうした?」
「風紀に顔を出すので先に帰りましたよ。そちらのパフェはマコト先輩のためにハジメが用意したものです。御代はすんでいるのでどうぞご堪能くださいとのことです」
「キキキッ!気が利くではないか!勤勉で有能とはまさに私の部下としてふさわしい!」
満足げに言葉を漏らしながら部下からの献上品のパフェを顔の前に寄せ、気づく。
「…でかくないか?」
マコトの疑問はもっともだった。
今彼女の前にあるパフェの容れ物は明らかにパフェ、というよりパフェの容れ物の形をした丼のようなサイズ感であり、その入れ物をしてなお上部にはチョコケーキやチョコアイスが鎮座し、横にはロールクッキーがさしてある大ボリュームだ。
周りには歯車を彷彿とさせる穴の空いたクラッカーが並べられているところもポイントが高い。
「えぇと…ハジメが残したメモによると…『レイドパフェ・アレキサンデー。機械仕掛けの神の威容を再現した全4層から成る甘さの暴力による高難易度コンテンツです。どうかお仕事に疲れたその体への糖分補充に是非挑戦してください。一応きちんと上から各層ごとに攻略することを想定していますが…無理そうならイブキちゃんやイロハ先輩やサツキ先輩たちも呼んで攻略をしてもよい』とのことです。あ、あと…」
「あと?」
「『嫌ならやめてもいいんじゃよ?』だそうです」
「…キキキキキッ!!!この羽沼マコトを試すか、安納ハジメ!!いいだろう、この勝負できっちり格付けを済ませてやろうではないか…!イロハ!」
「私もうおなかいっぱいなんで入りませんよ」
「…イブキは」
「おなかいっぱいで寝てるんですよ?そのイブキを起こすつもりですか?」
「…サツキたちに連絡入れておく…」
マコトは自らのスマホで残りの部下たちに召集をかけ、目の前に鎮座している巨大パフェへと臨む。
彼女は知らない。
このパフェが最初から最後までコーンフレークなどの緩衝もなく上部の1層からアイス、クッキー、ブルーゼリー、ガトーショコラ、杏仁豆腐の3層を経てやっと最後の4層でコーヒーゼリーに到達するまでは休みなしの甘さガチンコ山盛りパフェであるということを…!!
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「戻りましたよ~ん」
風紀委員会の教室を開け、中に向かって声を響かせるぼく。
「あ、ハジメおかえり!なんかアコちゃんが帰ってきたら一回顔を見せてってさ」
今日の風紀の活動報告の書類でもまとめていたであろうイオリちゃんがデスクから顔をあげてそう返事をしてくれた。
「あー、詳細報告かな?あっちも報告、こっちも報告でやめたくなりますよぉ~スパイ…」
「自分をスパイだと公言してるのスパイの意味ないよね」
イオリちゃんのするどいツッコミ!
「あらやだ、ぼくとイオリちゃんの間だけの秘密だよ…?」
少ししなを作って小首を傾げておねだりをするぼく。
「いやこの部屋のみんなが見てる時点で無理でしょ…あとそういう仕草は委員長相手だけにして!変に誤解されたらヤだから!!」
誤解って何をどう誤解するんですかねぇ...?
周りを見渡してみればこちらを注視していたであろう風紀委員のみんながスッと目線を逸らすのが見える見える…
「まぁ、アコちゃんとこ行ってくるわ」
「あ、また変なこと言い出したら声出して呼んでよ!もう大丈夫だと思うけどアコちゃんってたまに妙な空回りするからさぁ…」
イオリちゃんは多分あの土下座事件の事を言ってるんだろうけどまぁ今の状況でそれはそうそう起こらないし大丈夫だと思うなぁ。
「へいへいー」
ぼくはそんな軽い声を出しながらアコちゃんの行政官執務室へと向かった。
「万魔殿出向特務執行委員安納ハジメ、お呼びに従い参上しましたよっと」
扉を開いて敬礼をしながら自分の所属と用件を手短に。
「風紀委員会としてハジメさんへの協力依頼は無事鎮圧し不良生徒たちも捕縛できましたのでその旨の書類などをお渡しします…ところでハジメさん?5人いた規則違反者の中で1人だけ異様に怯えて尋問にも支障をきたした者がいたとのことですが…何やったんですか?」
「青鬼ごっこというかシャイニングごっこというか…」
「私にもわかりやすく伝えてください」
「え?なんか怒ってる?」
「いえ、怒っているわけではないんですが…正直その生徒からの怯えようからまともな証言が引き出せなくてですね…まずは集まっていた廃墟の一室を火力で制圧、一人傷が浅かった生徒を追い込んで捕縛、という流れですよね?」
「そうなるねぇ」
「…袋小路に追い込んでから戦闘での捕縛ではないんですよね?」
あ、なるほどね。隠れてたあの子は思ったより怖がって気絶しちゃったけどそれで目が覚めた時に軽い錯乱状態にでも陥ったのかな?
「あの連絡を入れた後に逃げて行った方を追っかけて行ったんだけど持って行った武器がちょっち重かったからね、コレ」
コレ、と言いながらゲヘナに編入してきた時にヒナちゃんから贈られたMG【oratorio Scape】を前後に動かす。
銃身付近につけられた車輪がごとごと、と音を鳴らす。
「これを引き摺りながら部屋を一個一個検めていったらなんかバリケードのある部屋が一個だけあってねぇ。で、マスターキー(物理)で開けたら部屋の隅っこにぽつんとロッカーがあったもんでね?」
で、ドアを開けようとしたらなんか曲がっちゃったのかなんなのか開かなくてがちゃがちゃやってたら明らかにそれとは別に中から気配を感じたので冒頭のくだりをやったわけだ。
楽しかった(こなみ)
「…ハジメさんは妙なところでお茶目ですよね…」
「とはいえ犯人は確保できたけど今日の食料はほぼ食いつくされちゃってたからなぁ、フウカちゃん今頃怒り狂ってそう」
「実際美食研究会は今にもフウカさんを拉致してどこかへ行こうとしてましたよ。委員長が阻止して敗走していきましたけど」
「美食はさぁ…いやでも問答無用で爆破してフウカちゃん拉致らなくなった時点で少しはマシになった…のか?」
「拉致する時点でアウトラインは越えてますよ…」
「だよねぇ~」
美食研究会はゲヘナでは何度かぶつかったことのある相手だ。
信念ややる気は認めるんだけど叡智を得た瞬間周りに強要はじめるのはマジでやめろと言いたくなるが。
あれはまだ編入前のお仕事でゲヘナに通っていた頃、ぼくは学食でカレーが出てウッキウキで行ったら醤油入れられててカチキレて全力でその場で銃撃戦をはじめてしまい風紀にごめんなさいする羽目になった。
あと喫茶店なんだけど裏メニューで出してくれる焼き鳥だけが極上に美味い店があったんだけどあいつら爆破しやがったからな、その店。
それはもうぼくはキレた。
というわけで美食研究会はまぁメンバーとしてはピンキリなんだけどハルナだけはきらーい。
「まぁ、最後の一人は抵抗が激しかったため、少し鎮圧に熱が入ってしまった、とかそんな感じで」
「はぁ、わかりました…ではその方向で報告書もまとめておきますので、ハジメさんはささっと委員長のところへ向かってください」
「んぇ?大捕り物があったから書類が溜まってるとか?」
「いえ、今日のこの後の予定は『添い寝』となってますね」
…?
「ぱーどぅん?」
「『添い寝』となっておりますね」
「なんでや!!」
「あら?ハジメさんまさか…ヒナ委員長からの要請を断ったりはしませんよね…?」
アコちゃんの笑顔がコワイ!!
いやでも添い寝っておかしいでしょ!?
「くっこんなところにいられるか!ぼくは万魔殿に帰るぞ!!」
ぼくはそう言ってアコちゃんの執務室から外へ飛び出すが…
「…えぇ…」
目の前に広がる光景は、ヒナちゃんの執務室への道以外こちらに銃を構えて立っている風紀委員の姿で塞がれていた。
風紀委員ロードである。
「ほらハジメ、今はそっちにしか行けないぞ?委員長も会いたがってたしちょうどいい」
「その前にこの状況の説明してみろよ銀鏡イオリィ!!」
「聞き分けのない犯人が上手い具合に拘束を抜けて脱出を図ろうとした時の制圧の練習」
もうやだこの委員会!!
「お邪魔しまーす…」
「ハジメ、遅かったわね」
恐る恐るヒナちゃんの執務室に入るとそこにはすでに先生が贈ったベッドを準備万端にして上着を脱いでラフな格好で横たわっているヒナちゃんが出迎えてくれる。
え、添い寝マジですんの??????????
「…?何をぼーっと突っ立ってるの?早くその忌々しい帽子とコートを脱いでこっちにきて」
「忌々しいて…」
ヒナちゃんからの妙な圧になんか背筋の凍る思いをしながら言われた通りにコートと帽子をコート掛けにかけて隣に仰向けに寝転ぶ。
…のだが、ヒナちゃんはこちらの肩をぐいっとひっぱってお互い向かい合わせのような形になる。
ヒナちゃんの顔が目の前に広がっている。
息のかかるような距離。
じぃっとこちらの目を覗き込むヒナちゃんはなんだか少し不機嫌に見えて。
「えぇっと…なんで添い寝?」
「『たまにはこうして肩の力を抜いて過ごすのもいいよねぇ、お菓子たべながら適当にゲームをして』」
「!?」
今ヒナちゃんが言ったセリフは聞き覚えが…いや、『言い覚え』がある。
「…こうして仕事を終わらせたあとの時間で親友と一緒にベッドで横になって安らかに過ごすのも、癒されるでしょう?」
にこりとぼくに微笑みかけるヒナちゃん。
その微笑はぼくにきく!
顔がいいから!!
癒しどころかパンプアップだよぉ!!!!
「えーと…ヒナちゃん、何か怒ってる?」
「いいえ?誰かさんが万魔殿所属になってしまって少し不貞腐れてるだけよ?」
「ウッ、その、風紀とは敵対的って言っても基本的にはマコト議長が空回りしてるだけだしこう、上手く言いくるめてこうしてほぼ風紀みたいな生活させてもらってるわけですし…」
「…そこのデスク、ハジメのために用意したのに」
「今まさにありがたく使わせてもらってるって!ね!!」
「私の家のベッドも大きくしたのに…」
「ヒナさん????????????」
ヒナちゃんはぼくの疑問の声を聞き流してぼくの顔のメガネを外し、ベッド脇のサイドテーブルへと置いて、自分の額をぼくの額に合わせてくる。
額、鼻。ほぼ零距離でお互いの息遣いすら聞こえてくる。
「ねぇハジメ。万魔殿にとられてしまったことは本当に…本当に業腹なのだけど…ゲヘナを選んでくれて、ありがとう。本当に嬉しかった…」
「ん…うん、色々悩んだけど…ぼくのいるべき場所はここなのかな…って」
「…えぇ、そう思って、選んでくれたことが嬉しい。だから…」
ヒナちゃんはくっつけていた額を離し、優しくぼくの頬に手を添えて
「これからも…
吸い込まれそうな、妖艶にも感じる笑顔を向けられて、ぼくは息を呑む。
危険信号のように鼓動が早くなるのを感じる。
それでもこの子はぼくがダメになりそうだった時に支えてくれた、親友だから…
「うん、これからもよろしくね、ヒナちゃん」
ぼくは自分にできる精一杯の笑顔で、それに応える。
これがぼくが選んだ一つの選択。
ゲヘナ学園万魔殿所属特務執行委員、安納ハジメの日常だった。
ちょっと繁忙期とか色々重なってしまったので気長に更新はお待ちいただければ幸いです…
それにしても空崎…お前重くない?????????
感想、評価、誤字報告などいつもありがとうございます。
励みになります。