ハケン・ユーティリティ   作:ジョイン君

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彼女の影響


とある日のラーメン奢られ隊の邂逅

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「なぁスーちゃん、マジで誰も来ねぇんだけどコレほんとに仕事として成り立ってる?」

 

 夜も深くなった時間帯。

 D.U.郊外、ブラックマーケットの一角にある今は使われていない廃倉庫。

 

 元は荷物が詰まれていたであろうその建物は今は何も置かれず誰かが適当に放棄していったであろうガラクタや土嚢などが端の方にいくらか詰まれているだけのだだっ広い空間。

 そのガラクタをかき集めなんとかバリケードじみた頼りないソレを入り口に向かって築いた倉庫の中央で、空木(そらのき)サンゴはそう問いかける。

 

「だから何度も説明しただろうが…今日の仕事はここでこのトランクと一晩明かせばそれでいいんだから極論誰も来ねー方がラクだっつうの」

 

 目を向けていた本から視線を上げ、気怠そうにサンゴに言葉を返す淡路島(あわじしま)スザンヌ。

 

「まぁ確かに昼間っから誰も来ねえから正直拍子抜けじゃん?」

 

 スザンヌの言葉に地面に横になって天井を見上げていた森家(もりいえ)バンビは大きなあくびをしながらそう答える。

 

「このまま誰も来なければ倉庫で一泊しただけでお金もらえるべ?現代の錬金術ってワケ」

「普通に仕事の報酬だよボケ」

 

 入口の方を双眼鏡で覗きながら昔は10円で買えたのに12円になってしまった往年の駄菓子をばりばりと齧っている清水(きよみず)カレンのよくわからない言葉にスザンヌが鋭くツッコミを入れる。

 カレンはほっとくとこのわけのわからない物言いを延々と繰り返すので早めに止めるに限るのだ。

 

「でもこれマジで金もらえんの?うさんくさくね?またあんときみてーに騙されてねぇ?」

 

「お前それ明日になって依頼主の前で言ったらシメっからな?…まぁ、紹介者のコネが強くてラッキーだったって感じか」

 

 スザンヌはそう言うと苦虫を噛み潰したような顔でハァ、とため息をつく。

 色々思うところがあってカツアゲなどではなくこうして依頼を受けて過ごすようになって幾日か。

 

 先日の教訓(悪い大人に騙されたの)もあって、少し懲りたスザンヌは一度は燻って諦めたマトモな生活、というもののための努力をしてみるかという気持ちになった。

 不登校になっている元の学校に戻るほどのやる気は流石になかったが、自分と同じ底辺で暴れてたアイツがマトモに仕事をしてるというのに少し対抗心が湧いたというのもきっとある。

 

「あぁハジメさんね」

「ハジメさんの紹介ならまぁ」

「ハジメさんまたメシ奢ってくれねぇかなぁ」

 

 舎弟たちのなるほどな、という納得の声に思わず舌打ちをしてしまうスザンヌ。

 仕事をする、と言っても不良生徒である彼女たちがそう簡単に仕事にありつけるものでもなく、当然仕事を受けるとなればブラックマーケットで探すという事になるワケだが。

 

「仕事始めでハジメさんとブッキングした時はマジで草生えたわ」

「ってかあの人マジでおかしいって。なんで銃撃たねーで蹴ってくるの」

「銃パリィされてやべって蹴ろうとしたら膝蹴り抜かれて姿勢崩したところにハイキック食らったの今でも夢に見るんだけど。スナイパー空手かっつーの」

 

 サンゴ、バンビ、カレンはその時のことを思い出して身震いする。

 スザンヌもその時のことを思い出し、

 

「アァ!?あんときゃちょっといいのが入って意識がオちただけで負けてねぇ!!次は勝つ!!!!」

 

「うわ、スーちゃんの銀髪鬼コンプレックス出ちゃった」

「スーちゃんマジでスーパー負けず嫌いな」

「もう勝負ついてるから」

 

「誰がコンプレックスだクソァ!!ってかカレン明日の朝刊載ったぞテメー!!!」

 

 スザンヌもわかってはいる。

 あの銀髪鬼に勝てた事など実際には一度もなく、結局その時の依頼主がババ(悪い大人)であったことも意識が戻った後に教えられた。

 その後こうして仕事先の紹介まで受けているのだから実質完敗だ。

 その件に関しては素直に感謝をしている。

 

 とはいえ、スザンヌはスザンヌなりに信念をもってツッパって(不良生徒になって)いるのだ。

 スザンヌがスザンヌであるために、銀髪鬼に負けを認めるわけにはいかないのである。

 

「あーあ、カレンがまたスーちゃん沸騰RTAしてんよー」

「越えちゃいけないライン秒で越えるじゃん?」

「ひー、スーちゃん許し亭ゆるして」

 

 呆れた視線を向けるサンゴにいつものことだ、と寝っ転がったまま気にする素振りもないバンビ。

 許しを乞うている割に新たに何本目かになる駄菓子の袋を開封しているカレン。

 

 スザンヌはゆらりと立ち上がり拳を振り上げてカレンの元へと、

 

 

 

 ドスッ、と

 

 いつの間にか少しだけ開いていた倉庫の入り口から、鞄のようなものが投げ込まれる音が響いた。

 そちらに目を向けるスザンヌ。

 そのまま振り上げた拳を開いて、カレンの頭を思いっきり地面に手のひらで押さえつける。

 

「テメェら全員伏せろ!!!!!!」

 

 ばっ、とその場で頭を抱えて蹲るサンゴ。

 仰向けからうつぶせに体を変えるバンビ。

 ぐぇっといううめき声を上げながらスザンヌと共にその場に伏せるカレン。

 

 

 わずかな間の後に、タァンッという乾いた発砲音ともに、

 

 

 

ドッガァァァァァァン!!!!!!

 

 

 

 

 簡易で築いたバリケードを吹き飛ばす轟音と衝撃が、スザンヌたちを襲った。

 

 

 

 

 

 

「くふふ♥今日の最後のお仕事のためにとっておいたト・ッ・テ・オ・キ♪気持ちいい~♪」

 

「ちょ、ちょっとムツキ!?なんだか思ったよりもすごい音がしたんだけど、回収物のトランクごと吹っ飛ばすような威力じゃないわよね!?」

 

「大丈夫だよ~、私とハルカちゃんの二人で作ったスペシャル炸薬ブレンドだよ?心配性だなぁアルちゃんは」

 

「その説明のどこに大丈夫な要素があるの!?」

 

「す、すみませんすみません!ムツキ室長が派手で大きな爆発をさせたいというので広範囲で全方位に炸裂するように調整しましたけど、やっぱりやりすぎましたよね?こ、こうなったら私自身に爆弾を括り付けて中央で爆ぜる人間花火になってお詫びをするしか…」

 

「しないでいいから!?というか人間花火は絶対禁止よ!?」

 

「社長もハルカも落ち着いて。普通に考えれば奥の方に置いてあるだろうから多少傷はついても中身事吹き飛んでるっていうことはないんじゃないかな。倉庫自体が倒壊したわけでもないし」

 

 爆発によって扉の吹き飛ばされた入り口から4人の少女が倉庫へと入ってくる。

 

「いや~それにしてもすごい派手な爆発だったね~♪入り口の扉がそのまますっ飛んでいったもん、びゅーんって!」

 

 浅黄ムツキが楽しそうにびゅーん、という言葉に自らのゼスチャーも踏まえて語る。

 

「そ、そうですね。衝撃と閃光を優先したのでぴかって光って綺麗でしたね」

 

 愛銃のSG【ブローアウェイ】を抱えながら伊草ハルカはさきほどのムツキと共同制作した爆弾を思い出し、満足のいく出来だったそれを反芻する。

 

「牽制の爆破の後に正面から悠々と制圧をするつもりだったのにまさか初手からあんな大爆発を見舞うなんて…これじゃアウトローじゃなくてダイナミックアクションじゃない!?」

 

 想像していたのと違う、とため息をつくのは陸八魔アル。

 

「それにしてもすごい煙…いったい何混ぜたの…?とはいえこれなら中にいた不良生徒も大人しくなってるかな…」

 

 倉庫内の惨状に顔をしかめながらそう言うのは鬼方カヨコ。

 

「え~?でも特別煙が出やすいようなもの混ぜたりしてないよ~?」

 

 ムツキは【トリックオアトリック】を片手にいまだ倉庫内に漂う煙へと歩を進める。

 

「う~ん…多分バリケードに粉物の入った素材でも使ってたんじゃないかな?燃えたりはしてないから可燃性のものじゃないと思うけど…」

 

「…っ!ムツキ!下がって!」

 

 きょろきょろと辺りを見分するムツキにカヨコが鋭い声をかける。

 その声に反応しその場をすぐに飛びのくムツキ。

 

 ムツキと入れ替わるようにハルカがその場に飛び込み、振り下ろされた筒状の物体、振り下ろしてきた生徒の愛銃であるロケットランチャーをブローアウェイで受け止める。

 

 ガキィッ!!と金属同士のぶつかり合う音が倉庫に響き渡る。

 

 まるで鍔迫り合いのようにお互いの銃をぶつけ合うスザンヌとハルカ。

 

 ムツキはすぐに手元の愛銃を構え、

 

「ムツキ!まだ横から来てる!!」

 

 アルの言葉にそのまま銃口を自分の真横へとスライドさせ、狙いもつけずに引き金を引く。

 タタタタタッ!と軽快な銃声が響く。

 

「痛てててててて!!!」

 

 今まさに煙に乗じてムツキへと躍りかかろうとしていたバンビが撃たれた痛みに声を上げながら立ち止まる。

 

 ドォンッ!と倉庫の奥からSRの銃声が響く。

 

「社長!!狙撃されてる!!」

 

「当たってないわ!」

 

 カヨコがアルへと声をかけ。アルは遮蔽物を求め辺りを見回し、そのまま入り口へと向かう。

 

「狙撃手は私がなんとかするわ!3人は他の制圧を…カヨコ!後ろ!!」

 

「もうおせーよ!!漁夫の利もらったァ!!」

 

 アルの声に後ろを振り向いたカヨコの目にはARをこちらに構えたサンゴの姿が目に入った。

 彼我の距離は数メートル。

 向こうの銃口はしっかりとカヨコを捉えているが、カヨコの愛銃【デモンズロア】の銃口はまだ天を向いたまま何も捉えてはいない。

 

「はぁ…仕方ないか」

 

ガァァァンッッッ!!

 

 天井に向けた【デモンズロア】の銃口から、取り付けられたサイレンサー越しにもわかる轟音が倉庫に響き渡る。

 

 サンゴはその姿を見て好機を逃さず自らのARの引き金を引こうとする。

 

 ぞくり

 

 千載一遇の好機と思われた。

 カヨコの銃口はまだこちらを向いてない。

 対してサンゴの銃口はしっかりとカヨコを捉えている。

 カヨコがこちらに銃口を向けるまでまだコンマ何秒かのアドバンテージがある。

 

 

 

 

 今ならまだ逃げられるのではないか?(・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

 

 

 サンゴが得も言われぬ"恐怖"に囚われたのはほんの数瞬。

 その意味の分からぬ考えを振り切って我を取り戻したとき。

 

 ごりっ、と

 

「…あっ」

 

 いつのまにか目の前に迫っていたカヨコの【デモンズロア】の銃口がサンゴの眉間に押し当てられており

 

「惜しかったけど、相手が悪かったね」

 

 轟音と共にそのまま眉間を撃ち抜かれたサンゴはそのまま地面に仰向けに倒れ伏した。

 

(マジでクッソうるせえなこの銃…)

 

 サンゴが気絶する前に思ったのはそんな感想だった。

 

 

 

 

 

 

 

 アルは入り口から中の様子を伺うように一瞬顔を出すがすぐに顔を引っ込める。

 次の瞬間、銃声と共に顔を出していたあたりを銃弾が貫いていく。

 

「…地の利は完全に向こう、こちらはあちらの位置がまだつかめていないけどあちらからはこっちの位置がすでに割れている…」

 

 狙撃勝負ではもはや覆しようのないアドバンテージを取られている。

 アルはどうしたものか、と頭を悩ませる。

 

「乱戦の中狙った相手だけを撃つほどの技術は多分、ない…とはいえ時間をかけても現状は好転しないし中でウチ(便利屋68)の社員に狙いを替えないとも限らない…」

 

 プランはある。

 あるが、正直賭けの部分が強い。

 先ほど入り口まで自らを囮に下がった際、狙い通りにこちらと狙撃戦を受けてくれたことからも、勝算は高く感じる。

 

「…当たったら痛いのよねぇ...もっとこうスマートに制圧をするはずだったのに、どうしてこんないちかばちかのアクション映画みたいな立ち回りをすることになったのかしら…」

 

 アルははぁ、とため息をついてから自らのプランを実行する覚悟を決める。

 相手がアルの想定よりも高い腕前なら負け、想定通りで自分がミスらなければ勝ち。

 そういうプランだ。

 

「…さぁ、行くわよ!」

 

 そう自分に発破をかけて遮蔽から一瞬顔を出し、また引っ込める。

 続いて銃声と共に狙い違わず、先ほどから撃ち抜かれていた場所を銃弾が通る。

 

 アルはそれを見届けた瞬間、アクロバティックに遮蔽から飛び出し、倉庫の奥に向かい、地面に伏せて愛銃【ワインレッド・アドマイアー】を伏せるように構えてじっと奥へ目を凝らす。

 

 元居た場所からでは見えなかった相手の狙撃手のマズルフラッシュがこの位置からならよく見える。

 遮蔽から飛び出してきたアルが想定外だったであろう相手の狙撃手は続けざまにアルに向かって何発か撃つがそれが仇となる。

 

「見せてあげるわ...格の違いっていうのがどういうものなのか!!」

 

 

 

「はぁ…ってかあれ便利屋68じゃん…無理っしょ…」

 

 倉庫の奥からSRを構えていたカレンはアルが逃げ込んだ入り口をスコープ越しに見つめながらため息をついていた。

 たまたま都合よく相手の奇襲に対応できた。

 そしてたまたま都合よく相手の狙撃手を分断できた。

 

 カレンは別に狙撃が得意ではない。

 痛いのは嫌いだし、近場でバチバチにやり合うのがいやで遠距離の攻撃手段を選んだというだけのタイプだ。

 反応速度はそれなりに自信があるため、こうしてあの相手が逃げ込んだ遮蔽から何かが見えるたびにそこにまっすぐに銃弾を撃ちこむだけ、という状況にはできている。

 乱戦中の味方に視線を向ける余裕はない。

 相手はあの便利屋68。

 特にあの陸八魔アルは凄腕のスナイパーと聞く。

 まともにやり合ったらあっという間に自分が撃ち抜かれ、そのまま援護に入られてこちらは全滅だろう。

 

 クソやかましい銃声や爆発物がポンポンと爆発する音、金属がガキンガキンと鳴り響く倉庫内の最奥でカレンは息を殺してじっと入り口を見据えていた。

 せめて他の仲間がやられるまであの狙撃手を縫い付けておければ御の字だと。

 

 そんな膠着状態が続き、またも顔を出したアルに対して発砲をする。

 当然当たらずすぐに顔を引っ込めるアル。

 しかしアルは次の瞬間、想像もしていない行動に出た。

 

「はっ!?」

 

 遮蔽物から思いっきり横に飛び出したのである。

 

 驚きから反応が遅れ、何発か撃つも当たらない。

 

「慌てんな…一度落ち着け…!」

 

 自分に言い聞かせながら一度スコープから目を離し、深呼吸をして改めてスコープをのぞく。

 

 そしてカレンは、スコープ越しにこちらを一直線に見据えたアルの視線と目が合い。

 

 

 

 アルの【ワインレッド・アドマイアー】から放たれた一発の弾丸に、カレンは意識ごと撃ち貫かれた。

 

 

 

 

 

 ドンドンドンドンッ!!

 

 次々と破裂していく小型の榴弾や爆竹などに塗れ、バンビはじっと痛みに耐える。

 

「あっはは!ほんとーにタフだねぇ!私の攻撃ぜーんぶ正面から食らってるのにまだ立ってる!」

 

「…ナメんなメスガキ、こちとら頑丈だけが取り柄なんだ!!丈夫な体に産んでくれてありがとうってちょっと親に感謝したくなるくらいにはなぁ!!」

 

 自らのショットガンを杖にしてそれでも立っているバンビはすでに満身創痍といった様子だ。

 

「ふ~ん…?でも、もう立ってるのもつらそうだよぉ?そっちの攻撃ぜんぜん当たらないしぃ…私早くハルカちゃんのところに行きたいんだけどなぁ」

 

 ムツキは小首を傾げ、ハルカとスザンヌが戦闘している方へと目を向ける。

 スザンヌは相変わらず自前のRL(ロケットランチャー)で殴りかかっているがハルカはそれをいなし、受け止めている。

 お互いの距離は肉迫しており、お互い決め手に欠けているように見える。

 なかなかどうして不良生徒の割りにはあのスザンヌも、ここで今にも倒れそうになりながら自分に立ちはだかるバンビも出来るようだ。

 

 とはいえ目の前のバンビはもはや戦闘続行は不可能に近いだろう。

 普通の不良生徒ならとっくに戦線離脱(気絶)している程度には痛めつけているのだ。

 ムツキは最後の仕上げ(・・・・・・)をしてからバンビから完全に視線を外す。

 

「おい!アタシはまだ立ってんぞ!?何目そらしてんだテメェ!!」

 

「立ってるだけじゃん?ほっといても害はなさそうだしムツキちゃん忙しいからー」

 

 ひらひらと手を振る素振りを見せて振り返らずにその場を立ち去ろうとするムツキ。

 

「…ふざっ…けんなコラァ!!」

 

 ムツキの態度に怒るバンビは満身創痍の体からは想像もつかないほどの勢いで背を向けるムツキへと、持っていた弾切れのSGも放り投げ、拳を握り走る。

 せめてスザンヌの邪魔はさせぬと。

 わき目も振らず、その自らを追い込んだ小さな背中へと一直線に。

 

 故にバンビがムツキの仕掛けた最後の仕上げ(爆裂のアリア)を踏み抜くのは当然のことで。

 

 すでに満身創痍のバンビがその地雷によって吹き飛ばされるのも、当然のことだった。

 

 

 

 

 地雷によって吹き飛ばされたバンビは仰向けに倒れたまま、自身の体が動かないことに歯噛みする。

 

「…クソが、地雷とかいつ仕掛けてたんだよ…」

 

 辛うじて残った意識でそう毒づく。

 そこへ近寄ってくる足音が耳に届く。

 視線だけをそちらに向ければ、先ほどまで相対して手も足も出なかったムツキが目に入る。

 ムツキは倒れているバンビの横にしゃがみ、あの小悪魔のような笑顔でバンビの顔を覗き込む。

 

「くふふ♥びっくりさせちゃったかなー?」

 

 悪戯を成功させたワルガキのような笑顔でそんなことを言ってくるムツキにバンビは怒りを覚えたがもう体を起こすこともできない。

 

「おーい、生きてるー?」

 

「死にそうだわクソガキ…」

 

「ふーん?そんな口聞けるなら全然大丈夫そうだね?…あれ?」

 

 がし、と足首に違和感を感じたムツキ。

 バンビは倒れたまま辛うじて動く手でムツキの足首を掴んでいた。

 

「えーっと…?」

 

 完全に雌雄を決したこの状況で、足首を掴まれたムツキは困惑する。

 対してムツキの足首を掴んだバンビはすでに半分目の焦点が合っておらず、天井を見上げたまま声を絞り出すように語る。

 

「いいかクソガキ…今日はアタシの負けだ、認めるよ、完膚なきまでに、完全敗北、だ…」

 

「え?あ、うん、えーっと…」

 

 息も絶え絶えに何かを語りだしたバンビに困惑するムツキ。

 掴まれた足首は死に体のバンビからは想像できないほどがっしり掴まれている。

 

「だがアタシは諦めねぇ…いつか、ぜってー、お前を泣かす…!…森家バンビ…いつかテメーを泣かす名前だ…その日までその名に怯えて震えて寝てろ…クソガキ、が…」

 

 かくん、とバンビの意識が落ちる。

 完全に気を失った様子でその胸は静かに胸が上下している。

 ムツキの足首は握ったままだ。

 

「え、えー…?言うだけ言って寝ちゃったし…というかこの手解けないし…足首に痕残っちゃうじゃーん…」

 

「ムツキ?何か問題でもあった?」

 

「あ、カヨコっち。ハルカちゃんの方はいいの?」

 

「あっちは社長が向かってるから。それで何がどうなってそんなことになってるの?」

 

 カヨコはそんなこと、と言いながらムツキの足首をがっちり掴んで離さないバンビの手を指差して問いかける。

 

「えっとー…何がどうなったというか…」

 

 ムツキは地面に座り込み、先ほどの一部始終を話す。

 カヨコは一通りの話を聞いた後にはぁ、とため息をついて、

 

「…格下相手だからって油断をしてたら最後に一矢報いられたんだね」

 

 カヨコはそう言って、ムツキに背を向けていまだ戦闘中のハルカとスザンヌの方へと歩き出す。

 

「えっ!?いやカヨコっち!?これ解くの手伝ってよ~!!」

 

「お断り。完全にムツキの油断だし、思ったより社長とハルカも苦戦してるみたいだし」

 

 カヨコはそう言って一度ムツキを振り返り、

 

「腕一本分はムツキの負けだよ。自分でなんとかしな。終わってもまだ無理そうなら手伝ってあげるから」

 

 そしてカヨコはそのまま振り返らずに戦闘がまだ続いてる方へ走って行ってしまった。

 

 

 

 

「…はあ?負けた?私が?」

 

 完全勝利だったはずだ。

 誘導して、翻弄して、相手の銃撃は自分に当たることはなく、逆に自分のやりたいことは全部やってやった。

 思いの外タフだった相手は最後の最後にきっちりハメて、動けなくなるまで叩き潰してやったはずだった。

 

 浅黄ムツキは強者だ。

 とはいえ圧倒的な身体能力を持っているわけでもない。

 どちらかといえば小柄な部類に入るムツキはそれを生かし、奇策を弄し、翻弄し、装備などでそれを補って戦うトリックスタータイプ。

 相手を翻弄するその戦法は彼女の生来の気質も相まって自分に合った戦闘スタイルだと自覚している。

 今日だってそれで勝利したはずだった。

 

 ムツキはいまだ固く握られて解けない手を見つめる。

 

「…森家、バンビちゃん…」

 

 ムツキはバンビの手を解くのを諦めてそのまま床に座り込み天井を見上げる。

 

「くふ、くふふふふ♥『いつかぜってー泣かす』だって♪こーんなに一方的にボコボコにされてるのに♪」

 

 ムツキはこれまで個人として正面から次を挑まれるということがなかった。

 戦法が戦法なので、ある意味仕方のない事ではあるのだが。

 

「ハルカちゃんをけしかけられてるハジメちゃんもこんな気分だったのかなー?」

 

 あの少し暴走気味だがなんだかんだでやることやって望み以上の結果を毎回出している難儀な後輩に現場で相対するたびに毎回食いつかれている、ムツキにとってとても興味深い商売敵(友人)の顔を思い出す。

 

 少し離れた一角から感じた爆発の衝撃と音に目を向ければ、アル、ハルカ、カヨコと相対したスザンヌが見える。

 すでに服はボロボロで額からは血が流れ、ボロボロの満身創痍といった状態のスザンヌは、それでも獰猛な笑顔を浮かべしっかりと立っているのが見える。

 このキヴォトスであそこまでボロボロになるまで抵抗をするような者は珍しいが…

 

 ふと先ほど思い出した友人(ハジメ)の顔を思い出す。

 そしてすぐ横でいつの間にかイビキをかいているバンビを見る。

 相変わらず足首はガッチリとホールドされているのだが。

 

「…アルちゃんもハルカちゃんもカヨコっちも…もしかしたら足首だけじゃ済まないかも?くっふふふ♥おもしろ~い♪」

 

 そんな微笑みを浮かべながらムツキは自身の拘束をいまだ緩めないバンビの手をなんとか解こうとするのだった。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




スザンヌ他三馬鹿…失礼、サンゴ、バンビ、カレンはいつかの不良生徒たちとなり、今回のお話の都合上急遽名前をつけることになったオリキャラたちです。
見た目などは特に決めていないので皆様のご想像にお任せします。

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