ハケン・ユーティリティ   作:ジョイン君

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彼女の認知


最終章:遍く彼女の終着点
終わりの始まり


 目を開く。

 

 混沌と化したブラックマーケットの片隅にある廃倉庫。

 

 久々に受けた大家さんからのハケン依頼。

 中身が不明な頑丈な銀色のジュラルミンケース。

 

 今回の依頼は依頼主の取引相手がこのブツを取りに来るまで奪われずに死守する防衛依頼。

 

 

 

 ブラックマーケットを介した闇取引。

 取引そのものが締結をしてもまだまだ油断はできない。

 

 闇取引は自社に持ち帰るまでが闇取引なのだから。

 

 …とはいえ、だ。

 

 

 

「いたぞ!銀髪鬼だ!!」

 

「数で押せ!囲んで跳ね回らせるな!!」

 

 そんな叫び声と共にぼくがいる部屋に次々となだれ込んでくる不良生徒。

 いや多すぎない!?

 

 最初は建物内に人が残ってないのを確認してから入り口から奥にあるこの部屋まで即席のブービートラップなどを用意して、指定の時間まで粘るつもりだった。

 だが思いの外突っ込んでくる、依頼主とは別の会社から雇われたであろう不良生徒たちが多かった。

 

 それはもう多かった。

 

 従来のこの仕事なら襲撃自体はあれど精々2~3組。

 しかし今日はすでに今なだれ込んできた彼女たちで6組目。

 そしてなぜかこちらの制圧が第一で今のところブツ(ジュラルミンケース)を直接狙ってきた奴らは皆無。

 

 いやおかしくない?????????

 

 内心首を捻りながら遮蔽に身を隠し突っ込んできた不良生徒たちの銃撃をやり過ごす。

 

 今回の襲撃の人数はざっと見たところ6人。

 4人がARを携え発砲をしながら真っすぐ踏み込んでくるのが見えた。

 

 6人中4人がこちらへと真っすぐ突っ込んで弾幕を張っている、ということはだ。

 

「もらったぜ銀髪鬼ィィィィィィ!!!」

 

 そう雄たけびを上げながら横からSGを構えて突っ込んでくる、集団の中でも大柄な生徒。

 想定通り(・・・・)

 

 ぼくは向けられたSGを左手に握りこんだプロテクトハーケンで打ち払う。

 横から強い衝撃を受け、体が流れたその生徒の鳩尾に肘を思いっきり打ち込む。

 

「ぐぇっ…!」

 

 そのまま屈みこみ、両手を地面について、鳩尾を強打されて下がった不良生徒の頭に向けて逆立ちをするように両足で思いっきり顔を顎から蹴り抜いてやる。

 弾丸のような両足蹴りをモロに食らった襲撃者の不良生徒は軽く宙を舞う。

 

 ぼくは蹴り抜いた勢いそのままに、足からきちんと着地し、まだ宙に浮いている不良生徒に向かってその場で回転しながら飛び上がり、その勢いのまま空中回し蹴りをお見舞いしてやった。

 

 先ほどまでぼくが隠れていた遮蔽物を飛び越えて、ぼくに向かって弾幕を展開していた他の4人の不良生徒の方へと吹っ飛んでいく蹴り飛ばされた大柄の不良生徒。

 

「は?ちょっ!?」

「やべえ、完全にトンで(気絶して)やがる!!受け止めろ!!」

 

 そんな声を聴きながら状況を確認。

 手前の3人は構えていたARを下ろして今正に自分たちへと降り注いでいる友人に冷静さを欠いて受け止めようとしている。

 残った1人は他の3人よりも後方にいるためにARを下ろしてはいないが、視線は完全に蹴っ飛ばされてきた不良生徒(デコイ)に釘付けだ。

 

 ぼくはそこまで確認して、手榴弾のピンを抜きながら思いっきり跳躍する。

 

 

 

 最近は成長期なのか、身体能力の向上が著しい。

 打撃の威力は増したし、こういった大道芸のような跳躍だってお手の物だ。

 …なぁ~ぜぇ~かぁ~身長は伸びていないし胸も慎ましやかなままだが。

 

 動体視力や反射神経もよくなったように思える。

 何しろお仲間を受け止める不良生徒たちの上空2メートルほどまで今一息に跳躍しているというのに、眼下に広がる不良生徒たちのその様子をきちんと把握できている。

 真上まで来た辺りでピンを引き抜いていた手榴弾を仲間を受け止めるために集まっていた3人の不良生徒たちの元へ放り投げ、

 

「っ!?お前ら伏せ…!」

 

 少し離れた場所にいた不良生徒の視界にはちょうど降ってきた手榴弾が映ったらしい。

 仲間たちへとすぐさま伝えようと声を上げるが

 

「ぶぎゅえっ!?」

 

 何かに潰されたような声をあげ、その言葉が最後まで続くことはなかった。

 

「…は?」

「なんでだよ、さっきまで後ろに…!」

 

 ぼくが飛び越えた生徒たちは突然仲間の一人が地面に叩きつけられた様子を見て困惑した声をあげる。

 まぁぼくがその離れた不良生徒に着地したからなんだけども。

 

 ぼくはすぐさま身をかがめ、ぼくがたった今着地した衝撃で意識を飛ばしている不良生徒の襟首を持ち上げ、驚きで固まっている残りの不良生徒から身を隠すように掲げる。

 

「テメェ!なんのつもりだ!」

「人質のつもりか!!」

 

 少し冷静さを取り戻した他の不良生徒がいきり立つ。

 人質?

 何か勘違いされてる気がするなぁ。

 そもそもこのキヴォトスで不良生徒相手に人質なんて取ったところで効果があるとも思えないけどねぇ?

 

 それにしてもそんな風に何も警戒せずにARを構え直していいのかねぇ?

 

「いや、遮蔽物だけど」

 

「はぁ!?ふざけたことぬかしてんじゃ…」

 

 

 

ドッガァァァァァァァァン!!!!!!!!

 

 

 

 彼女たちの口上が最後まで続くことはなく、爆発と轟音によって、ぼくへとARを構えていた残りの3人は吹き飛んだ。

 

 ぼくはというと…

 

 

「うっへ、衝撃すご」

 

 先ほど用意した即席の遮蔽物(気絶させた不良生徒)越しに感じる衝撃を踏ん張って耐えながら思わず愚痴をこぼす。

 

 ちょっと手前に落としすぎたかなぁ、手榴弾。

 もしくは遮蔽物としては年頃の少女は少し力不足だったか。

 

 ぼくは爆発が収まるのを確認してから遮蔽物(気絶させた不良生徒)から手を離し、

 

 

ダァンッッ!!

 

 

 流石に疲れたなぁ、などととりとめもない事を考えながら上半身を大きく横に傾け、狙撃を回避する。

 

「はぁ!?なんで避けれんだよ!?」

 

 入口の扉の先からそんな声が響く。

 そりゃ人数数えてたからね?

 

 ぼくは腰に提げていたSMG【best Bond】を入口へと向け、引き金を──

 

 

「ぎゃぶぇっっっ!!!!!」

 

 

 引く前に入口の外からぼくに狙いをつけていた最後の不良生徒がそんな声を上げながら室内へと転がり込んできた。

 勢いよくごろごろと転がっている様子を見るに、誰かに後ろから思いっきりぶん殴られたようだ。

 

 

「角待ちで芋った挙句叫んでんじゃねぇよ三下がよ」

 

 

 そんな辛辣な言葉を吐きながら入り口から悠然と入室してきたのは、

 

 

「…スーちゃん」

 

「よォ、銀髪鬼ィ…今日こそテメェを泣かせに来たぜ」

 

 スーちゃんと愉快な舎弟たち(淡路島スザンヌと三馬鹿)だった。

 

 

 

 

 

「ちーっすハジメさん!」

「相変わらず無双してますねぇ!」

「死屍累々じゃんウケる」

 

 

 スーちゃんに続いて部屋を見回してそう呟くサンゴちゃん、バンビちゃん、カレンちゃん

 

「さすがにこんだけ襲撃があった挙句スーちゃんたちまで来るのしんどいんだけど…というか奪還任務なら荷物から先に狙えよ!!なんでみんなぼくの殲滅に必死なんだよ!!」

 

「知るかバァカ!勝負だ銀髪鬼!!」

 

 傲慢!!!!!!

 しまいにゃ泣くぞぼく!!!!

 

「奪還任務?」

「これ奪還任務だったん?」

デオア(Dead or Alive)の討伐任務じゃねえの?」

 

 

「黙りな!!!ブチ殺すよ!!!!」

 

 じっとこちらを見据えながら舎弟たちに叫ぶスーちゃん。

 舎弟たちは首を竦めて地面に座り込み、各々の鞄やポーチから飲み物のペットボトルとお菓子を取り出して観戦体制を整えだした。

 いや君ら何しに来たの????????

 あまりにも準備がよすぎじゃないかねぇ!?

 

 そんなぼくの疑問などどこ吹く風でスーちゃんは肩にSGを担ぎながら空いた手でくいくい、と指を動かす。

 

「かかってきな、銀髪鬼」

 

 獰猛な笑顔を浮かべるスーちゃんは肩に担いだSGをこちらへと向ける。

 

「…いくよっ!スーちゃん!!」

 

 走り出すぼく。

 スーちゃんのSGの銃口から放たれた轟音が開戦の合図だった。

 

 

 

 放たれたSGの散弾を飛び越え、その勢いのままスーちゃんへ向けて踵を振り下ろす、がぼくの踵はスーちゃんの銃弾と同じく空を切る。

 

 彼我の距離は3メートル。

 打撃には一歩足らず、銃で撃つには近い距離。

 

 スーちゃんがこちらに構えているSGをプロテクトハーケンで打ち払う。

 重い金属音。

 ぼくは構えていたSGを打ち払われ、正面が隙だらけになったスーちゃんへと愛銃のSMG【best Bond】を向け、

 

「ウオラァァァァァァァッッッッ!!!!!」

 

 ガンッッ!と構えていた【best Bond】が天井の方へと打ち払わられる。

 勢いよく上空へ向いた【best Bond】の銃口からは目の前の敵に向かって放たれるはずだった数発の銃弾が無意味に発射される。

 

 想定外の状況に一瞬思考が止まる。

 銃を打ち払うだなんて奇をてらった行動、まさかされるなどとは思っていなかった。

 そんなこと、ぼく以外がやるなんて想定もしてなかった。

 

 

 

 まずい、と思った時には遅かった。

 

 打ち払われたSGから手を放したスーちゃんがぼくの襟首を掴み、首根っこを引き寄せる。

 

「ふんぬッ!!!!!!!!!!!!」

 

 ドゴッッッ!!

 

 目の前が真っ白に染まる。

 ちかちかとした視界に広がるのは獰猛な笑顔。

 額はうっすらと赤くなっている。

 彼女はそのまま空を仰ぐように頭を引いて、

 

 

「「オラァッ!!!!」」

 

 

 ドゴォッッッ!!!!!

 

 二発目の頭突きは、お互いに強い衝撃を与えた。

 覚悟していた衝撃は、覚悟をしてなお突き抜けるような痛みが通り抜ける。

 

 お互いに(・・・・)

 

 2撃目に相打ち覚悟で放ったぼくの頭突きで襟首から思わず手を放し数歩後ずさるスーちゃん。

 

 対して2発分きっちりとキツいものを食らったぼくはその場にへたり込み荒い息をつく。

 

「…っ痛ぅ…!どぉよ銀髪鬼ィ!!テメェの大道芸なんざアタシにだってできんだぜぇ!?ガタイの小せぇテメェじゃあアタシのパチキは効くだろォよ!!」

 

 まったくもってその通りだ。

 小柄なぼくと恵体のスーちゃんじゃあ額のぶつけ合いじゃ分が悪い。

 

「ハハ…ごめんねスーちゃん…舐めてた」

 

 ぼくは立ち上がりながら息を整え、評価を低く見積もっていた事を詫びる。

 まだ少しくらくらする体に渇を入れ、目の前に立ちはだかる強敵(ともだち)に目を向ければ。

 

「「「あ」」」

 

 舎弟のみんなが揃って同じような音を口から発する。

 

 はて?とその事が気が気になり舎弟たちを見れば3人が3人ともスーちゃんの方へと視線を向けている。

 

 それにつられてぼくもスーちゃんへと視線を戻せば…

 

 スーちゃんは先ほどまでの獰猛な笑みから一転、歯を食いしばり、鬼のような形相になっている。

 

「…ナメてただぁ…?アタシをナメてた…?」

 

 憤怒に染まる表情。

 その目は血走り今にも噛みつかれそうな恐ろしい形相だ。

 

「…スーちゃ」

「いいかアタシは!!!!」

 

 

 

「アタシはテメェを倒すために鍛えたんだ!!テメェの存在のためひたすら…!!」

 

 

 握りしめた手はぶるぶると震える。

 見開かれた目は射殺さんばかりにぼくを見つめる。

 

 

「アタシャ道化かい!!!???道化ェ!?アタシが道化かァ!!!!????」

 

 

 

「うわでた」

「スーちゃんの銀髪鬼コンプレックス出ちゃった」

「いやーハジメさんが悪いよーハジメさんがー」

 

 

「ブチ殺す!!」

 

 

 

「…ごめん、最近ちょっと調子がよすぎて…いいよ、思う存分…」

 

 口元が緩む。

 なぜだか嬉しさが抑えられない。

 

「かかっておいで?…でも」

 

 笑いが抑えきれない。

 目の前の好敵手に期待の鼓動が止まらない。

 

「──歯止めが効かなくなっても知らないよ?」

 

 

 

 ぼくは笑う。

 久しく発揮できなかった全力を受け止めてくれる(ともだち)が目の前にいてくれることが嬉しくて。

 ぼくは嗤う。

 己に追いすがる存在がどうしようもなく愛おしくて。

 

 

 

「…じょ、」

 

 少し気圧された様子を見せていたスーちゃんは、再び鬼の形相を浮かべ、

 

「上等だコラァッッッ!!!!!」

 

 

 ぼくとスーちゃんの楽しいダンス(喧嘩)は再開したのだった。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「で、いつまでやってんのアレ」

 

 安納ハジメと淡路島スザンヌが相対している一室。

 持ち込んだ菓子も食いつくし、手持無沙汰になった空木サンゴ、森家バンビ、清水カレンの3人は部屋内に散乱していた廃棄物(ハジメに蹴散らされた不良生徒たち)を入り口の外にしばって出し終わってなお終わらぬ二人の戦闘…否。

 

「もうほぼ終わってんだよなぁ…ってかスーちゃんもう意地と気力で動いてるだけだべ」

 

 サンゴの疑問に答えるように、バンビはぼやく。

 室内を縦横無尽に飛び、跳ね、空を舞うハジメ。

 対するスザンヌは満身創痍。

 肩で大きく息をしながら、しかしその目は吊り上がり怒りという炎は絶えることなく、悪魔のように獰猛なその表情に一切の翳りはない。

 

「スーちゃん、まだやる?」

 

「…あぁ!?当たり前だろォがよ!?テメェが!泣くまで!アタシは止める気はねぇぞ!!!!!」

 

 銃すら取り落とし、最早立っているのがやっと、という体だというのに未だ闘志の尽きぬスザンヌの返事を聞いてサンゴ、バンビ、カレンの射程三人組もため息をつく。

 

「…その、あんまりこういう事言うのもアレなんだけどさ…今日はもう、ぼくを泣かすのは無理なんじゃないかなぁ、と」

 

 ハジメはできるだけ言葉を選ぶようにスザンヌへとそう告げる。

 片や満身創痍、立っているのもやっとのスザンヌ。

 対するハジメは少しの反撃を受けてはいるもののその動きに淀みはなく、有効打らしい有効打は結局ただの一発も食らっていない。

 

 戦闘開始直後のやり取りから戦況は一方的にハジメ優勢であった。

 地を這い、空を舞い、部屋中に散らばっている己の愛銃を駆使して弾幕を張りスザンヌを一方的に翻弄した。

 スザンヌも応戦を試みるもその縦横無尽な予測のつかない攻勢に追い込まれた。

 

 SMGの弾幕を無理やり耐えて自らのSGを放てばすでに射線を切り、地を這うように足元を蹴り穿たれた。

 崩れ落ちそうになる膝を踏ん張り、背にいる相手に意識をむけようとした瞬間、頭を踏みつけられ結局地面に倒れ伏す。

 すぐさま起き上がりながら、手に持ったSGを鈍器のように思いっきり振り上げた。

 狙いも定めず悪あがきで放ったソレは当然宙を切る。

 それどころかその振り上げた勢いを後押しするようにハジメのプレテクトハーケンによって打ち払われる。

 咄嗟に握っていた手に力を込めて弾き飛ばされないように試みるも、今度はその力を込めていた手に踵が振り落とされる。

 

 一瞬の手のしびれ、打ち払われて勢いの増した鉄塊と化したSG。

 スザンヌはハジメが常日頃からよく行う戦闘時の武器の無力化に対して常に警戒し、対策を練っていた。

 それが功を奏した結果、自分も似たようなことを見様見真似で出来るようなるほどの執念でただそれに対してどうするかを考えていた。

 

 起点となる打ち払い(パリィ)さえ対策できれば、少なくとも一方的に相手に有意な状況にはならない。

 あとは気合と根性で食らいつく。

 そして目の前のハジメ(最大の敵)はいつだってその一歩も二歩も先にいることも理解していた。

 だからこういうこと(対策しても銃を打ち払われる事態)もあるだろう、と思っていた。

 

 だからスザンヌは、たった今強打され、痛みを訴える右腕を抱えたくなる衝動を気合と根性でで無視して、左手を前に伸ばす。

 相手の銃を打ち払い、手痛い反撃を狙っているであろう宿敵の胸倉を掴み、一矢報いてやろう(渾身の頭突きをかましてやろう)と。

 

 伸ばした左手は、誰もいない空間へと伸ばされ無意味と化す。

 まずい、とスザンヌが後ろを振り向こうと試み。

 

 その側頭部へとハジメのハイキックが突き刺さるのはほぼ同時だった。

 

 

 武器は弾き飛ばされ、意識は朦朧としている。

 ぜぇはぁと体が満身創痍を訴えてくる。

 側頭部への強力な衝撃にもんどりうって倒れ込んだスザンヌは、それでもすぐさま気合と根性で立ち上がる。

 体が悲鳴を上げる。

 今すぐ倒れ込み寝てしまいたいという衝動が全身を駆け回っている。

 だから立った(・・・・・・)

 今起きねばもはや立ち上がれぬことは自明の理なのだから。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

「スーちゃん、まだやる?」

 

「…あぁ!?当たり前だろォがよ!?テメェが!泣くまで!アタシは止める気はねぇぞ!!!!!」

 

 スーちゃんはぼくの問いに、この状況に陥ってなお、そう応える。

 

「…その、あんまりこういう事言うのもアレなんだけどさ…今日はもう、ぼくを泣かすのは無理なんじゃないかなぁ、と」

 

 出来るだけ言葉を選びながら、そう進言する。

 その辺の不良生徒相手ならこんなことを言ったりせずに問答無用で動けなくするだけなんだけども。

 

 スーちゃんはこう、いつだってぼくに全力で向かってきてくれるのでぼくもちょっと嬉しいのだ。

 今日なんて自分の銃を打ち払われるなんていう貴重な経験をしてしまい感動したものだ。

 会うたびに、喧嘩するたびに強くなるスーちゃん。

 だからぼくもできるだけ応えるように、この時間をいつまでも続けられればって思ったりはするんだけども。

 

「知らねェ、知らねェ知るかボケェ!!!アタシはまだ立ってンぞ!?アタシはまだ、止まってねぇ!!!!!」

 

 ここだけは困った悪癖だなぁ、と思う。

 額に手を当て、スーちゃんの舎弟たちの方へちらりと目を向ける。

 

 サンゴちゃんはあちゃー、といった感じでため息をつき、バンビちゃんは顔の前に手を合わせてこちらに頼みごとをするようにお辞儀をしてくる。

 カレンちゃん…頷きながらサムズアップしてる。やっぱあの子だけなんか毛色違くない????????

 

 

 とはいえ、これはもはや恒例行事のようなもので。

 

 スーちゃん…淡路島スザンヌという友達は、ちょっと気合と根性がキマりすぎている。

 ここで依頼主が来てくれればそれでうやむやにもできたかもしれないんだけど…いまだ待ち人来たらず。

 

 となればいつも通りにおねんね(意識を落と)してもらうしかない、というわけだ。

 

 やれやれ、と息を吐きながらぼくはスーちゃんの元へと歩いて近づいていく。

 

 手を伸ばせが届く距離。

 お互いがお互いに何をしても届く、射程距離。

 

「…んだぁ?わざわざ近づいてくれるのかよ?」

 

「だってスーちゃんもう立ってるのやっとじゃん?」

 

 ぐっと拳を握りしめ、構えるスーちゃん。

 ぼくも全身の力を抜いてスーちゃんの全身を視界に捉える。

 

 まずはスーちゃんが動く。

 大ぶりの左フック。

 ぼくはスウェーで上体を逸らして躱す。

 右足が動く。

 その膝の付け根を軽く踏みつけるように蹴って蹴りの起こりを殺す。

 右アッパー。

 苦し紛れに放たれたそれは当然空を切り、伸びきった右腕はぼくの左の裏拳で打ち払われる。

 

 放たれる攻撃のことごとくを対処されているスーちゃんの瞳は、それでも最初からずっと狙いからそれていない。

 

 左のストレート…いや、ぼくの襟首を狙ったネックハント。

 絶対に狙ってくるだろうという予想…いや信頼(・・)があった。

 キヴォトスで切った張ったを生業とするような生徒は大なり小なりこういった決め技…信頼を置く、必殺技を持っている。

 重火器の特徴をふんだんに利用したもの、自らを鼓舞し強化するもの、その可憐な矮躯からは想像もつかないような強固な守りを発揮するもの、なんか隕石振らせたりするよくわからない(神秘的な)ものまで様々だ。

 

 そしてこのスーちゃん…淡路島スザンヌにとっての必殺技は頭突き(パチキ)なのだ。

 だから絶対に狙ってくると思っていた。

 たとえその前段階のネックハントを外したとしても!!

 

「…死ぃ…」

 

 スーちゃんのパチキはまともに食らえばひとたまりもない、精神ごと吹き飛ばされそうな威力をもつ。

 たかが頭突きと侮ることはできない。

 侮って食らった時はマジでヤバかったから(経験論)

 

 というわけで、ぼくも全力で迎え撃とうと思う。

 最近出来るようになった、ちょっとした新技を使う。

 

 ぼくは自分の中にあるそのレバーを、がこん、倒す。

 ぼくの頭上から歯車が鳴動するような機械音が響くような錯覚を覚える。

 

 ゴゥン、ゴゥン。

 

 そして次の瞬間

 

 

 

 世界の色は霞んで滲み

 

 速さが沈み、音が遠のいていく。

 

 

 ゴゥン、ゴゥン

 

 

 歯車の鳴動だけが重く響くその世界はぼくまで巻き込みすべてが鈍重になり…

 

 

 ゴゥン、ゴゥン、ゴゥン、がこん

 

 

 そうして倒したレバーを戻したぼくは、すべてが耽溺したこの世界を元の透き通る世界へと戻す。

 

 世界に色が戻る。

 世界の音が追いつく。

 

 

 

 

 世界よりも一足早く、ぼくは世界へ駆け出せる。

 

 

 

「…ねぇぇぇぇぇぇえええええ!!!!!」

 

 

 自らの必殺技を、全力でぼくへと放つスーちゃん。

 

 世界を一歩だけ出し抜いたぼくの足は、すでにスーちゃんの背後からその首へと絡みついていた。

 スーちゃんが頭を振り下ろす瞬間にぼくは逆方向へと思いっきり反動をつけながら絡めた足を左右にはじけ飛ぶように衝撃を残して飛びのく。

 足首と交差された足で極められた首、その足を恐ろしい速さで引き抜くその居合のような鋭利な動きは、首から上、脳を激しく揺らし、相手の意識を強制的に刈り取る(ターミネート)のだ。

 

 ぼくの必殺技を食らったスーちゃんは天を仰ぐような姿勢で立っているがその頭上のヘイローの気配は感じられない。

 

 完全に意識を刈り取った証拠だろう。

 

 ちなみにこの必殺技は先生がシャーレに持ち込んでいた私物のマンガに載っていたやつでやってみたらできちゃったというものだ。

 意外と馬鹿にならないな、漫画の必殺技…

 

 

 

「え?終わったん?」

「マジで最後どうなったか見えなかったんだが…」

「ふは、スーちゃん立ったまま気絶してんじゃん、カシオペアの拳の世紀末覇王かよ」

 

 

 ふー、と息をついてその場に座り込んだぼくを見て、スーちゃんの舎弟3人衆が近づいてくる。

 

「で?君たちはやるの?」

 

「イヤーキツイッス」

「アタシらはね、どちらかというと真っ当なキヴォトス民なんでステゴロメインはちょっと…」

「人の心とかないんか?」

 

 ぼくの問いかけに3人ともいやそ~な顔して答える。

 いやまぁ正直連戦に次ぐ連戦の上でスーちゃんとやったしぼくもこれで終わるなら助かるけどちょっと言ってること辛辣過ぎない?

 カレンちゃんのはシンプルに悪口じゃない?????????

 

「ぶっちゃけスーちゃんで無理ならアタシらはスーちゃん回収してさっさと逃げるのが仕事なんで…」

「そもそも今回の討伐依頼はスーちゃんが行くって言うから着いて来ただけっすからねアタシら」

「人の心とかないんか?」

 

 そう言いながらバンビちゃんがスーちゃんを背負い、サンゴちゃんはスーちゃんのSGを拾う。

 カレンちゃんはなぜかぼくにうまい棒を渡してくる。

 なんだコイツ(困惑)

 

「そうそれ、ぼくの今日のハケンって書類の防衛だったんだけど来る奴全員書類じゃなくてぼくを優先してたんだけどおかしくない??????」

 

「他の奴らは知らねッスけどアタシらはここにいるハジメさんの討伐依頼で来てるんでそのへんはわかんねッスわ」

「参加するだけで前金あり、殲滅ができれば後金あり、捕獲までできればボーナスドンって依頼ッスね」

「まぁ依頼っつーより早い者勝ちの指名手配ってノリでしたね、匿名メールでこの辺の奴らに回ってたみたいで」

 

 なんで?????????

 ぼくをターゲットにした指名手配て。

 今回の依頼はそもそも大家さんからの緊急依頼で企業同士の案件が絡んでるわけだからここにいるぼくを明確に狙ってくるのはマジで意味がわからんが。

 

「あとでぼくのモモトークにその文面送ってもらっておいていい?」

 

「お?報復ッスか?」

「ハジメさんはやる時はやる女だからな…」

「人の心とかないんか?」

 

「いやしないよ!?…場合によってはするかもだけど、それを判断するためにその依頼の内容を知りたいんだよねぇ、ぼく今日ここでハケン受けたのたまたまのピンチヒッターだし」

 

「そいつは確かに妙ッスね…んじゃアタシの方から拠点戻ったらモモトーク送っときますわ」

 

 サンゴちゃんは頷いてそう答えてくれる。

 

「ん、よろしくー。スーちゃんが目が覚めたらまた遊ぼって伝えておいて」

 

 ぼくは去っていく3人に手をひらひらと振りながら言う。

 すると3人はまたもびみょーな顔をして、

 

「ハジメさん、そういうとこッスよ」

「スーちゃんが拗らせるのもちょっとわかるんだよな…アタシら外からそれ見てるから冷静になれてるってだけで…」

「人の心とかないんか?あ、今度またラーメンオナシャス」

 

「カレンちゃん以外になら考えてもいい」

 

「人の心とかないんか!!!????」

 

「キレそう」

 

 

 

 そんな会話を交わして、ぼくらは別れた。

 

 スーちゃんと喧嘩をしていた間に部屋中に転がっていた撃退済みの不良生徒も、舎弟3人組の子たちが縛って外に出しておいてくれた。

 どうもみんな途中で目が覚めてそのまま帰ったようだ。

 まぁ片づけがラクなのはいいね。

 

 それにしても討伐依頼、ねぇ...

 いったい誰がわざわざ依頼の体でそれを出したのか。

 不良生徒たちならわざわざそんな手順を踏まず人を集めて襲撃してくるだろう。

 それ以外の組織ならもっと大々的にきちんと手順を踏んでくるだろう。

 

 絶対にない、とは言えないがどうにも生徒の取る手順にしては些か不自然な…

 悪い大人の意思が垣間見えるというか…

 

 

 

 コツ、コツと

 色々と今日の状況を精査していたぼくの耳に、誰もいなくなったこの廃倉庫に響く足音が聞こえてくる。

 下ろしたての革靴が響かせるような硬く乾いた面を地面に落としながら響くその音はまっすぐと倉庫の入り口からこちらへと向かってきている。

 

 これは本来のお仕事のジュラルミンケースの受け取り手がやっと来たのかな、とぼくはブツの持ち手を手に取り、立ち上がって入口を向く。

 度重なる襲撃で扉が完全に破壊されてしまった入り口に目を向ける。

 

 コツ、コツと

 

 入口から入ってきたのは。

 

 黒いスーツを纏い、言いようのない不安を掻き立てるような。

 人とは思えぬ無機質さに眩さを感じさせる、矛盾した拭い難い何かを感じさせるような。

 

 そんな、見たこともない黒服の大人が立っていた。

 

 

 

 

 

 

「この度は依頼を完遂していただきありがとうございます。少々時間がかかりましたが…そちらの品の受け取りに参りました。私の事は『黒服』、とでもお呼びください」

 

「…依頼証明の書類は?」

 

「こちらに」

 

 黒服、などという身も蓋もない名前を自称する大人の雰囲気に飲まれそうになるのを必死に抑え、まずはこの荷物の受取人であることの証明を求めれば、黒服はいつの間にか手に持っていた一枚の紙をぼくへと差し出す。

 受け取って中身を確認。

 依頼してきた社名と合致する。

 判や担当者の署名も問題ない。

 

 少なくともこの書類の上では間違いなくこの黒服は受取人だ。

 

「…確認できました。こちらのケースが依頼の品です。依頼内容はケースそのものの防衛で中身についての言及はされていませんでしたが、一応中身の確認を。まぁ破損していても契約上は問題がないはずですが」

 

「不要です。中身は空ですからね」

 

「…は?」

 

 耳を疑う。

 

「しかし少し驚きました。最初に観測をした頃に比べると戦闘能力、仮初の神秘、その在り方まで随分と様変わりをしましたね。耽溺して滲み出たソレを啜るというアプローチもこうして見ればなかなかに効果的であると感心するばかりですよ、自称安納ハジメさん」

 

 思考が止まる。

 

「…何を言ってる?」

 

 その黒に、不自然なまでに歪な白い眼光に言いようのない気持ち悪さを覚える。

 久しく目を反らせていた、あの感覚(ミラレテイル)がどうしようもなく強く感じ自らの肩を抱く。

 呼吸が上手くできない。

 息がどんどん荒くなっていく。

 言いようのない不安感を抑えることができなくなってしまう。

 

 …ぼくという異物の存在をどうしようもなく認識してしまう。

 

 

 

「…なるほど、あなたのソレは自称であるが自己である、と…で、あるならばあなたはもう少し現状を把握するべきでしょう」

 

 黒服は胸元のネクタイに指をかけ、位置を整えるような仕草をする。

 瞬間、先ほどまでの何かに掌握されているような気持ち悪い感覚が幾分か和らぐ。

 いつの間にか止まっていた呼吸を思い出したかのような感覚に陥り、ぜぇぜぇと定まらない呼吸を整えようと体が勝手に肩を上下させる。

 

「…さっきからアンタは何を言ってる…?アンタはぼくの何を知っているの!?」

 

 すべてが見透かされているような気持ちの悪い感覚。

 こんな会ったばかりのうさんくさい大人からそれを与えられたことに言いようのない怒りがこみ上げる。

 

「とくには何も。えぇ、安納ハジメさんの事など露ほども興味がなかったものでして。とはいえ昨今は少しあなたの動向が気になる部分もあってこうして場を設けたのですが…現状では無駄足となりました」

 

 黒服はそう言って興味を失った、と言わんばかりにぼくに背を向け入口へと歩き出す。

 

「…待って、まだ話は」

 

「ありませんよ。いえ、違いますね…そう、話になりません。終わるどころか始まりすらしないのですよ、現状の安納ハジメでは」

 

 煙に巻くような答えを残しながらもはやこちらには完全に興味を失ったと言わんばかりの黒服。

 よくわからないけどコイツはぼくの過去を何か知っている気がする。

 今すぐにコイツの首根っこを掴んで洗いざらい吐かせたい。

 

 なのに。

 

 あぁ、なのに。

 先ほどのあの感覚がぼくの足を竦ませる。

 あの感覚が恐ろしくて、ぼくの手足は、体は、心臓は凍り付いたように言う事を聞いてくれない。

 

 遠ざかる黒服の背中を、ただ見ていることしかできない。

 

 入口までたどり着いた黒服はそこでいったん足を止め、

 

「…とはいえわざわざこの場に引きずり出してただ現実を突きつけるだけなのも些か旨味がありません」

 

 そう言って、黒服はまたどこから取り出したのか、一枚の名刺を立ち尽くすぼくに向かって放り投げる。

 

「そちらは1度だけ私の元へ直通で通じる回線となります。安納ハジメが現状を知り、その上で私ともう一度この会話の場を設けたいと思った時にはご一報を…場を設けるかどうかは連絡をする時の安納ハジメ次第となりますが」

 

 黒服が放り投げた名刺はするりと俯いたぼくの視界の真ん中に滑り込んでくる。

 無機質な数字の羅列、それ以外は何も書かれていないただの四角い紙がぼくにはとても恐ろしい何かに見えた。

 

「まずはゲヘナ学園にミレニアムサイエンススクール…そのあたりの現状を安納ハジメ自身の目で把握することをお薦めしますよ。抗う者はあれど、今この瞬間も耽溺は止むことなく進んでいるのですから…当然目を反らし今のまま過ごすこともいいでしょう。それはそれであなたの本懐でしょうから」

 

 そう言って。

 本当に言いたいことだけを言って黒服は去っていった。

 

 

 

 

 

 

 暗闇の広がる廃倉庫の一室。

 一人取り残されたぼくと、黒服が置いていった一枚の名刺。

 そして結局取り残された空だと言われたジュラルミンケース。

 

 動くものが何もないこの空間。

 

 無機質な物体しか残らぬこの部屋で、ぼくは夜が明けて崩れた壁の隙間から陽の光を肌に感じるまで、一歩も動けなかったのだった。




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