ハケン・ユーティリティ   作:ジョイン君

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彼女の使命


在り方を見る

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「万魔殿出向特務執行委員安納ハジメ、戻りましたよっと」

 

 不良生徒の捕縛を終え、行政官室に入りながらぼくはアコちゃんにそう声をかける。

 何やら現れたらしい自称安納ハジメ捕縛の報告を受けこうして急いで戻ってきた次第だ。

 

「は、ハジメさん!?思ったよりお早い帰りですね…?」

 

 執務机で何やら頭を抱えているように見えたアコちゃんはぼくの声を聴いて顔を上げた。

 何やらひきつったような笑顔でこちらを向くアコちゃんはどうにも困ったような顔で額に手を当て天を仰ぐ。

 

「一応ぼくに関わる事だからねぇ…で、件の不審者は尋問室かな?」

 

 ぼくの言葉にびくりと肩を震わせ、沈黙するアコちゃん。

 

 そのままぼくとアコちゃんのいる行政官室には沈黙が下りる。

 天を仰いだままこちらを見ようとしないアコちゃん。

 お返事を待つぼく。

 

 時間にしては数十秒。

 

 やがてアコちゃんが口を開く。

 

「…ヒナ委員長からのお言葉をお伝えします。今回の不審者への尋問はヒナ委員長単独で行うためハジメさんはヒナ委員長が尋問を終えるまで待機命令が出ています」

 

「万魔殿出向特務執行委員の権限でその命令は拒否するよ。この件は風紀のみで判断する案件じゃない。何しろ名前を騙られているのが万魔殿所属のぼくなわけだし」

 

「…ですよね!!ハジメさんならそう仰いますよね!?でも仕方がないじゃないですか!!委員長からどうにかして足止めしろって言われてるんですから!!ハジメさん相手にまともな理由もなしに足止めなんてできるわけないじゃないですかぁ!!」

 

 完全に頭を抱えてそう叫ぶアコちゃん。

 多分ヒナちゃんから言われて文字通り頭を抱えちゃったんだろうなぁ。

 

 …とはいえそうなるとすでにその不審者(安納ハジメ)とヒナちゃんは尋問室でお話し中ってことか。

 

「…万魔殿出向特務執行委員の権限でこの案件はただいまより万魔殿が受け持ちます。と、いうわけでぼくは尋問室に行くのであとはよろしくね、アコちゃん」

 

「…はぁ、わかりましたよ。ただしヒナ委員長には万魔殿の強権で止められなかったってちゃんとハジメさんから説明してくださいよ!?絶対ですからね!?」

 

「ほいほいー」

 

 必死な声をあげるアコちゃんに苦笑しながらぼくは尋問室へと向かう。

 さて、どうしたもんか。

 わざわざ自分の担当地区を放ってゲヘナ(ここ)に来るなんて面倒な真似をしてきたのはどういう理由なのか。

 今更こちらに来たところでただ辛いだけだろうに。

 

 ぼくはぼく(安納ハジメ)が果たしてどんな理由で馬鹿正直に自分の正体を明かして正面から乗り込んできたのかの真意を問うため尋問室へと急いだ。

 

 

 

 

 

 押収品置き場から尋問室へと向かうぼくの目に、尋問室付近の廊下を取り囲む風紀委員の子たちが目に入る。

 

「今すごい音がしたぞ!?」

「委員長には入るなって言われてるけど…突入準備しておく?」

 

 そんな風紀委員の子たちを横目に尋問室へと歩みを進める。

 

「あ、ハジメさん!今は委員長が誰も入るなと!」

「あー、ごめんね、今は万魔殿として来てるから」

 

 声をかけてくれた子にひらひらと手を振りながら尋問室へと向かう。

 周りの皆はお互いに顔を見合わせるが、万魔殿の名前を出したことによりそのままぼくを見送る。

 

 尋問室の入り口から中を確認。

 そこに広がっていた光景は、尋問室の床に仰向けに倒れ腹部を踏みつけられ、その顔に【終幕:デストロイヤー】を制圧されている安納ハジメ(ぼく)と、その安納ハジメ(ぼく)を制圧し、【終幕:デストロイヤー】のレバー式ハンドルに手をかけて今正に発砲しようとしているヒナちゃんの姿だった。

 

 状況を確認する。

 接続して情報を参照。

 型番〇〇一、担当D.U.。

 あぁ、稼働要因じゃないか。

 

 マジで意味がわからない、なんでわざわざゲヘナに来たんだ。

 担当区域をほっぽってこっちに来る理由がマジでわからんし、それで勝手にここで終わろうとしてるのも意味がわからん。

 

 マジで本当に何しに来たんだ?アイツ(安納ハジメ)は。

 

 とはいえここでただ状況を見てるわけにもいかない。

 だって安納ハジメ(アイツ)の終わりはここじゃない。

 ここで勝手に終わろうとしてるのは流石に看過できない。

 

 

 だってここはぼくの場所だぞ。

 

 

 なのでぼくは声をあげる。

 まっすぐ見据えて、声を張り上げる。

 

 

 

「歯車を廻せ!!!!!」 

 

 

 

 

「…ハジメ?どうしてここに…アコの足止めは?」

 

 ぼくに気づいたヒナちゃんは目を見開いてぼくに問う。

 

「早く歯車を廻せ!!【安納ハジメ】!!!!」

 

 ヒナちゃんから目を反らし、ぼくは再度声を張る。

 

 

 

 そうして世界の色は霞んで滲み

 

 

 

 速さが沈み、音が遠のいていく。

 

 安納ハジメ(アイツ)が稼働させた歯車にぼくの歯車を噛み合わせる。

 

 二つの歯車が一つの機関となって、階差機関が世界の可能性を予測する。

 

 すべての計算が結果を返すその刹那、ぼくは安納ハジメ(アイツ)の首根っこをひっつかんで尋問室から飛び出したのだった。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 走る、走る、走る。

 

 

 

 尋問室から首根っこを掴まれて脱出したぼくと、ゲヘナ学園のハジメさんはなんとかゲヘナ学園の敷地から脱出し、駅のホームでお互い自分の膝に手をついてぜぇぜぇと肩で息をしていた。

 

 

 尋問室で言われた通りに神秘のような何か(歯車)を廻した。

 その時に起こったのは、いつものようなすべてが重く固まる感覚、世界がぼくを置き去りにして眠りに落ちるようなあの静かな空間。

 

 いつもならそこから世界がまた動き出すその刹那に、ほんの少しだけぼくが先に動きだせるだけの神秘だと思ったのに。

 先ほどは完全に静止した世界で、ぼくとこのゲヘナ学園のハジメさんだけが動き出す数秒前から動けた。

 どういう理屈かはわからないけど、それによって首根っこを掴んだゲヘナ学園のハジメさんに尋問室から引きずり出され、なぜかゲヘナ学園のハジメさんが回収していた押収されていたぼくの愛銃を渡され、突然廊下に現れたように見えたであろうぼくと…もうめんどいからゲヘジメさんでいいな。ゲヘジメさんに困惑した風紀委員の子たちの横を走り抜け、そのまま対応の手が回る前にこうして駅まで走ってきた。

 

 

 

 なんとか息を整える。

 顔をあげてゲヘジメさんの顔を見る。

 

 ゲヘジメさんもぼくとほぼ同時に息を整え、こちらをじっと見…いや睨んでるなこれは。

 

「…いったいどういうつもりでウチ(ゲヘナ)に来たのさ。こうなるのはわかってたでしょ」

 

「こんなことになるなんてさっぱりわからなかったから来たんだけど…」

 

「…はぁ?何言ってんの?君が稼働要因でしょ?君の担当はD.U.でぼくがゲヘナ。耽溺中は他端末の影響を受けないように排他処理がされるんだからこうなるのは当然じゃないか」

 

 …なーんもわかんね。

 稼働要因?排他処理?端末?

 

「…そもそも"ぼく"は何者なのさ?今いったい何が起こってる?君が安納ハジメならぼくは一体誰なのさ?」

 

「は?安納ハジメは安納ハジメだろ?君がそう定義したんでしょ?…記憶領域に欠陥があるの?」

 

「記憶領域って言い方はまったくわからんけど、目が覚めたら何もわからずに廃墟で寝てた。生徒みたいな見た目なのに生徒ではないし、大人でもなかった」

 

 ゲヘジメさんはぼくの答えに呆気にとられたように目をぱちくりさせる。

 

「…じゃあ何?君は何も知らずにこの史上最大の耽溺の引き金を引いたの?バカなの?」

 

 むかっ。

 

「バカだって思うならバカでもわかるように説明してよ!さっきから変な固有名詞バンバン出してさぁ!!記憶領域ってなんだよ!なんでぼくが二人もいるんだよ!!定義とかほんと意味わかんない!!」

 

 ゲヘジメさんの両肩をつかんで畳みかけるように叫ぶ。

 

「耽溺ってなんなんだよ!!どいつもこいつもさも当たり前のように耽溺って言うけどぼくがやったって言うんなら当事者のぼくにわかるように説明してよ!!」

 

 ゲヘジメさんが鬱陶しそうに肩を掴んでいたぼくの両手を払いのける。

 じっとりと向けられたその瞳はまるで何も映していないかのように暗く淀んだ色をしていて。

 

「ぼくを求められて、ぼくがそれに応じる。互いに相手だけを見て相手のために在り続け、やがて互いに沈んでいく。沈む過程で漏れ出た神秘がぼくら端末を通して階差機関へと送られそのまま階差機関を通して動力に変換されて再利用される。ぼくらはぼくを選んだ大切な誰かと共に沈むために作られた」

 

 ぼくと彼女の二人以外、誰もいないホームへと電車が到着する。

 停車した電車からは誰かが降りてくる気配はなく、誰かが乗っている様子もない。

 

「記憶がない?わからない?そんな理由はなんの意味もない。求めたんだろ?欲したんだろ?安納ハジメが絆に溺れた結果、耽溺が起こってるんだ。ぼくらは(ソレ)を貪って忘れられた神々と共に沈んでいく仕様だよ?」

 

 ホーム内に軽快なBGMが流れ出す。

 発射を知らせるための音楽、間もなくアナウンスと共に電車のドアが閉まるだろう。

 

 安納ハジメ(ゲヘナの彼女)の言葉が上手く飲み込めない。

 突然翳された己が在る理由。

 それがあまりにも悍ましくて。

 

 

 

「あぁ、そうだ」

 

 安納ハジメ(ゲヘナの彼女)は何かを思い出したように呟いてから、

 

 その場で動けなくなっていたぼくの頭を正面から蹴り抜いてきた。

 

 吹っ飛ばされるぼく。

 ちょうど開いていた電車のドアを潜り抜けて中へとサッカーボールがゴールへとシュートされるように叩き込まれるぼく。

 

「それ、ヒナちゃんにやった分ね。君がどう思ってようが、ここ(ゲヘナ)の安納ハジメはぼくだ…君の居場所はここにはない、捧げる相手を間違えるな。それじゃあな(二度と来るなよ)、安納ハジメ」

 

 アナウンスと共に電車のドアが閉まる。

 無警戒に自分(ゲヘナの彼女)からのハイキックをもろに食らい、電車へと蹴り込まれた、後頭部を強打した衝撃からか、そのまま意識を失ってしまった。

 

 

 

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 ぼくは言いたいことだけ言って、閉まる電車のドアから視線を反らし、ホームの階段を上がり改札を出る。

 

 雑多な街並み、走り回るゲヘナの生徒たち。

 

 ずらりと並ぶ風紀委員の生徒たち、その中心に立つヒナちゃん。

 

 ハハッ、ヒナちゃん目が怖い。

 

「…ハジメ?説明はしてくれるのよね?」

 

「あー、えっと…そのー…すいません許してください!なんでもしますから!!」

 

「そう?なら許すかどうかは説明を聞いてからにするけど、なんでもはしてもらおうかしら」

 

「あまりに無法!?」

 

 ヒナちゃんがぼくの渾身のごまかしに対して完璧ないいとこどりをしようとする!!

 ずっこい!!

 

「差し当っては…そうね、今日からしばらくは業務の後の寝泊まりは私の家でしてもらおうかしら」

 

「ナンデ!?」

 

「不審者の逃亡手引きをしたのだもの、むしろ寛大でしょう?」

 

「そう言われると何も言えない…」

 

「わかればいいの…それじゃあ一度戻りましょう?尋問は家でもできるもの」

 

「一晩中尋問されるの!?」

 

「今夜は寝かせないわ」

 

「ふぇぇ、センシティブなセリフが途端にバイオレンスになったよぉ…」

 

 ヒナちゃんの時たま出る暴虐を見事に受けてぼくはうなだれながら、歩き出すヒナちゃんの背を追う。

 今のうちに何かしら理由を考えておかないとだよなぁ…。

 今回はいつもと違う形になってしまったので夜の過ごし方も考えないとだなぁ…。

 

「…ハジメ?生半可な理由じゃ納得はしてあげないわ?素直になってしまう方がいいと思う」

 

 ヒナちゃんの言葉にぼくは思わず息を呑む。

 前を歩いていたヒナちゃんはいつの間にか振り返り、ぼくの目をじっと見つめていた。

 

「だって私は…私たち(風紀委員会)はもうあなたを逃がしてあげるつもりはないもの。アコも、イオリも、チナツも、他の皆だって駅に向かって走るあなたの背を見て気が気じゃなかったのよ?」

 

 ヒナちゃんの言葉に一緒に学園へと歩いている、ヒナちゃんの引き連れてきた風紀委員の子たちも頷いている。

 …あぁ、やっぱりぼくの居場所はここ(ゲヘナ学園)なんだ。

 

「…いやぁ、これには山より深く海よりも高いワケがあって…」

 

「…そう、夜までに上手い言い訳が思いつくといいわね」

 

「言い訳じゃないんだってば!!」

 

 だからぼくは言い訳を考える。

 ゲヘナの皆が溺れてしまわないように。

 皆と少しでも長く揺蕩っていられるように。

 

 

 

 ふと、招かれざる不審者(安納ハジメ)の事を考える。

 何も知らず、ただ思うがままに振舞った結果、今までで最高(最悪)の結果をもたらした彼女。

 

 多少の同情はある。同じ状況であるならば自分だって同じ結果になった可能性は十分にある。

 使命に苛まれて自壊することもあるぼくらが、使命をさっぱり忘れた結果、これ以上ないほどに使命を果たしたと言うのだから笑うしかない。

 

 とはいえ今のアイツじゃ話にもならない。

 だってここ(ゲヘナ)はぼくの舞台だ。

 そんな場所に来るんなら、ぼくを納得させるだけの土産を持ってくるのが筋だろう?

 

 

 

「…ハジメ?」

 

 考え込んで足を止めてしまったぼくにヒナちゃんが声をかけてくれる。

 

「…その、本当にどうしても言いにくいなら妥協も一考するわ?…私以外が納得するかはわからないけれど」

「ダメですよ委員長!」

「そうです委員長!ハジメさんはうちの大切な仲間だって一晩かけてじっくりと教え込んでもらうくらいでいいんです!!」

 

「…君たち、委員長の仕事を増やすのはいかがなものかな?」

「万魔殿のハジメさんに仕事のやり方を言われたくないでーす」

「なんなら今回の失態を利用して風紀で囲っちゃいましょうよ委員長!!」

 

 突然何言い出してんの君たちぃ!?

 

「…なるほど、そこのあなた、さっきの意見はアコに上申しておいて」

 

 ヒナちゃん!!!????

 ヒナちゃんの言葉に周りの風紀委員の子たちはワッと盛り上がる。

 

「委員長のお墨付きだ!ハジメさん奪還作戦だ!!」

「せっかくハジメさん歓迎用にって用意してたあれやこれが無駄になった鬱憤を晴らす時だ!!」

 

 いや奪還て!?

 

「困ったわ。あなたが思ってるよりあなたを奪われた恨みは深いみたい」

 

「ヒナちゃんが火に油注いでただルルォ!?」

 

「違うわ、だって火をつけたのが私だもの」

 

「なお悪いわい!!!」

 

 普段の風紀委員の統率のとれた行進とはかけ離れた煩雑さ。

 ゲヘナとしては割とよくある気ままな風景。

 

 ぼくは願う。

 どうか彼女たち(ゲヘナの皆)が幸福でありますようにと。

 

 ぼくは祈る。

 どうか彼女たちの未来に救いあれ、と。

 

 

 

 

 なおぼくの万魔殿から風紀への引き抜き作戦は、ぼくを連れ立って万魔殿へ直訴に来たヒナちゃんが、泣くのを必死に我慢しながらぼくのコートの裾をつまんでお別れの言葉を言おうとするイブキちゃんを見て思いとどまってくれた。

 うん、ゲヘナ学園の最強はやっぱりイブキちゃんなのかもしれない…。




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