目が覚めた。
机を見れば今まさに着信で震える携帯電話。
寝ぼけた頭に渇を入れるように思いっきり伸びをする。
あぁ~~~~ぐわ~~~~っとなんか抜けてく感じ~~~~~~。
携帯電話の応答ボタンを押して肩と耳で挟みながら手帳を確認。
今日の日付は…オフだねぇやっぱり。
『あーつながった!ハジメちゃん今夜ヘルプ頼めない!?』
「…大家さん? ぼくオフで寝てたんですけどぉ」
『そりゃすまんかったね!で、オフってんなら小遣い稼ぎはどうだい!?3時間くらいでいいんだよ!』
「内容次第ですけどぉ…ふわぁぁぁぁぁぁ…」
電話相手が大家さんだとわかったので盛大に起き抜けのあくびを聞かせてやる。
夕方くらいまで惰眠を貪ってやるつもりだったのになぁ。
『頼むよハジメちゃん!今日はどうにも間が悪くて新人一人しか捕まんなくって!ハジメちゃんがダメだともうその新人一人のワンニャンカフェの
ワンニャンカフェはブラックマーケットの外縁部にある個室専門の軽食もとれるカフェである。
ブラックマーケットならではの珍味や飲み物を取りそろえ、頑強な個室で喧騒に巻き込まれることなくお茶や山吹色のお菓子を楽しめる結構お高い
ブラックマーケットでよく抗争を起こすことで有名なワンワン派とニャンニャン派ですらその店にいる間はお互い銃を向け合わない、ブラックマーケットでは稀有な[安全]を売りにしている店である。
このブラックマーケットにほど近い私の借りているアパートの一室の大家さん──やり手の犬の大人の人──が経営に一口噛んでいるようでたまーにこうしてヘルプが飛んでくることがある。
入居の際にブラックマーケットに近い我が家周辺は騒音被害がすごかった。
おかげで家賃が安かったってのはあるんだけどそれにしたって限度があるだろってくらいうるさかったのだ。
だからちょっと静かにするためにお掃除をがんばった時期があるのだが…
その際、大家さんに普通にブラックマーケットの腕っぷしのいる仕事をしないか、とスカウトされたりもしたのだが、ぼくはハケンで独り立ちするためにこの部屋を借りたので丁重にお断りをした過去もあったりする。
まぁそれ以来たまーにこうしてハケンとしての日雇いの仕事を依頼してくれたり、ということもあるのだ。
ブラックマーケット関連の依頼は料金踏み倒しやら契約書詐称やら騙して悪いがみたいな仕事はそこそこあるので基本的にはお断りしているのだが大家さんはそのへんきちんとして金払いもいいので結構信頼してる。
仲介だから仲介相手がクソの場合もあるんだけど。
その場合は報復オッケーって言ってくれてるし、大家さんもメンツをつぶされたからってきっちり詰めてくれるし、料金の補填はしてくれてるのでぼく個人としては結構信頼のおける人だと思ってる。犬だけど。
「わざわざ連絡してくるってことは結構デカいヤマも入る予定なんです?」
『そうなんだよ!!そんな状況だからか間が悪かったか、どいつもこいつも電話に出すらしねえ!頼むハジメちゃん!もうアンタだけが頼りなんだよ!!』
うーん、この。
普段は気のいいおっちゃんって感じなのにここまで切羽詰まってるってことはその大きなヤマの情報はすでにかなり広まってると見た。
襲撃確定じゃないですかーヤダー!
「ハァー…ぼくに話持ってくるってことは犯罪幇助ではないんですね?」
『そこは間違いねぇ!漏れればマズいでかいネタだがネタとしては真っ当も真っ当だ!オイラのしっぽの毛並みに誓えるぜ!!』
おや、こりゃ間違いなく犯罪関係のヤマではなさそうだ。
ブラックマーケットでブイブイ言わせてる大人の人たちがしっぽの毛並みやネジの品質に誓って言う言葉ってのは要は魂をかけた発言だ。
少なくとも策略や方便では絶対に使わない言葉である、ということだ。
「…基本料金に経費全部そっち持ち。現状の維持は可能な限り。新人の世話も出来る限り。戦闘に関してかかったこちらの備品の実費は別請求。OK?」
『助かるぜハジメちゃん!今度また
「…大家さんまーじで奥さんに感謝しなよ。内助の功すげーから」
『たりめぇよ!
「はいはい、んじゃ出向証明書の内容に関してはいつもの通りにお願いしますよっと」
通話を切る。
時刻は正午を少し回ったところ。
改めて体を伸ばしたり首を回して軽いストレッチをして、寝ていた布団をお日様がよくあたる窓まで持って行って干す。
ちなみにいつもの通り、というのは表面上普通にカフェのバイトですよーみたいな体裁にして用意してくれっていうものだ。
ブラックマーケット関連の仕事に関しては、最初の頃にハズレを引いたことも多いために少々
口を出してくるだけなら聞き流すなり説得するなりするのだが、
特に今日のように戦闘がほぼ確定しているときは。
実際、何度か様子を見に来た際に戦闘に巻き込んでしまうこともあった。
その時は
その、ね。
ひっじょ~~~~にマズい。
あまりにも完璧な状況把握、正確で的確な指示、何よりぼくのことをぼく以上に完璧に使ってくれるその手腕。
あんなにも
なのでぼくはそれからは仕事中に
だってアレに慣れてしまったらいつまでも
ぼくは
デフォルメされた天使がたくさんプリントされた寝巻の上下を脱いで洗濯籠に投げ入れる。
クローゼットを開けて動きやすい服装──ぼくが廃墟で目を覚ました時に着ていた制服──を着用していく。
ブラックマーケットでの仕事の時はこの制服を着るようにしている。
キヴォトスに存在するどの制服とも違う紺色に白い線が入った赤いリボンのついたキヴォトスでは見ないはずなのに妙にしっくりくるデザインの制服。
特注の黒いニーソックスも履いていく。
謎の技術により防弾性、伸縮性に優れ、軽い銃弾程度なら破損せず、動きも阻害しない逸品だ。
膝丈のスカートで隠れる部分にホルスターなどをセットしていく。
今日は襲撃確定だろうし囲まれた時用に煙幕や閃光などの投擲物がメインだ。
さらに戦闘の際に使えるように改造した緑のモッズコートを取り出してクローゼットの扉に掛け、部屋の壁に手入れ済みで準備してある相棒たちに目を向ける。
このキヴォトスでは銃器を持って歩くのが普通で、特に学校に通うような生徒たちにとってはオシャレの一部として幅広く流通している。
デザインの一部を性能を損なわない程度にカスタムしたり、カラーリングを整えたりするのだ。
オシャレというのは相応にお金のかかるものであるのは想像に難くないと思うが、ぼくはこれといって決まった愛銃を決めていない。
多少の好みはあるもののこれといってこだわりはなく、どれもそこそこは使えるからだ。
そして実はこのキヴォトスでは銃そのものはそこまで値の張る物ではない。
デザインやカラーリングを凝ったものにすれば相応の金額はするが、まったく手つかずの、「すっぴん」と呼ばれる状態なら結構安価で手に入る。
なので銃のオシャレに関してこだわりのないぼくはとりあえず色々な銃種の中で使いやすそうなものを一通り仕入れた。
まぁ普段のハケンでは経費などの折り合いがつきやすいため、必要な場合は相手が用意した銃を使用することが多いので自前の物を使う機会はほとんどないのだが。
「…どれを持っていくかねぇ」
今日は一応バディがいるらしいが新人という話だしどれだけ当てにできるかはわからない。
大きなヤマというからには最悪一個小隊くらいの相手が来る可能性もなくはない。
さすがにブラックマーケットでそこまで大規模に攻めてくるやつもいないとは思うが、最悪は常に想定しておいて損はない。
やりすぎた襲撃ならさすがに大家さん以外の派閥も動くだろうけど、それはそれで諸共お掃除されかねない。
となると取り回しの良い
そんなことを考えながらぼくは選んだ装備を改造モッズコートにどんどん詰め込んでいく。
ぼくは基本的に武器を選ばないが腕は2本しかない。
要は持ち歩くにしても限度があるんだよね。
銃ってかさばるのが多いし、小さくて同じ種類ばっか持ってても相手のメタを張れなきゃあんま意味がないと思ってる。
記憶にはまったくないがなぜかどの武器もそこそこ扱えるわけだし、たくさん持ち歩きたい!
でもね、ぼくは残念ながらちっちゃいのだ。
キヴォトスの一般的な学生と比べても身長は低めだ。
なのでこの、改造モッズコート!これはぼくが着ると雪国か?ってくらいもっこもこの見た目になるんだけど、実はポケットを内外増やしまくって内側に武器を収納するスペースを作った一品物だ。
いざって時には背中のパッと見てもわからない手を差し入れられる部分から武器を取り出したりもできる。
ぶっちゃけこの壁にかかってる武器なんかよりよっぽどお金がかかってたりもする。
いや、最初は普通に武器をガチャガチャ持ち歩いてたんだけどね。
このキヴォトスですっぴんの銃を複数種持ち歩くのってね…目立つんだ。
もうみんな奇異の目で見てくる。
それくらい銃にオシャレをするのは普通だし、わざわざ複数の武器を見えるように持ち歩かないのが普通なのである。
ぼくとしては仕事のためとはいえ不必要に目立つのは避けたいわけだ。
妙な噂で依頼が減るとか死活問題なわけですよ!!!!!
というわけで色々考えた結果出来上がったのがこのモッズコートなのである。
これならまぁ、ちっちゃい学生が背伸びしてちょっと大きめのコートを着ているという風に見えるし、まぁちょっと奇抜なファッション?みたいなごまかしができる。
まぁ要は運搬用武器庫なのである、このモッズコートは。
だから戦闘行為がはじまったらさすがに脱ぐ。
ちなみに総重量は滅茶苦茶重い。
こんなクッソ重たいの着て十全に動ける体に産んでくれた親に感謝だね!
顔も知らねぇけど!!!!!!!
まぁ武器庫に武器も詰め込んだ。
最後にこれまたミレニアムの一部の頭おかし……スペシャリストたちに頼んで用意してもらった特注品の赤いロングマフラーを取り出す。
これ着けるのも久々だなぁ。
前はどでかい抗争鎮圧要員で出た時に使ったんだっけか。
これもまぁ、ただのマフラーというわけではなく、制服では守り切れない首元の防護に煙幕や戦闘行為による火災などが発生したときに煙を吸い込まないように口元まですっぽりと覆えるようになっている。
自分でも煙幕使ったりするから何気に便利なのだ。
当然防弾だし、口元部分だけならそこらのガスマスクにも引けを取らない性能をしているという代物である。
なお赤いのもロングマフラーなのも作ったやつの趣味であってぼくの趣味ではない。
いやだってぼくが最初依頼したの普通の頑丈なガスマスクだったんだよ?
出てきたのはコレだったんだけども。
いやでも性能はマジですごいんよな……
何度か流れ弾を防いでくれたことがあるんだけど、防弾とは聞いてたけど生半可な銃弾はその場で衝撃吸収して止まったのである。
弾いたんじゃなくて止まった。
どんな変態的な構造してたらそうなるの?
まぁ思ったよりもいいものだったので愛用してる。
無駄に多機能なんだよ。
水入れると夏場でもひんやりできる機能とか冬場でもずっと適温であったかい機能とかかゆいところに手が届きすぎるだろ。
オーダーガスマスクでなんでこんなもの出した!聞いてんのかエンジニア部!!!!!!!!!
...とまぁ、とりあえずの装備の準備とかも一通り終わり改めて持っていく装備の整備やらなんやらをこなして時計を見る。
現在1600。
現場の入りは1830以降と言われてるのでおよそ2時間ほど時間があるわけだ。
「…寝とくか…」
やることもなくなったぼくは仕事前に目覚ましをかけて仮眠をとることにした。
はてさて、今日のハケンはどうなることやら…
ぼくは携帯電話にアラームを設定して先ほど取り込んだお日様でぽかぽかふわふわになった布団に横になり目を閉じるのだった。
銃の値段設定、それに関するもろもろの設定はすべて捏造です。
キヴォトスでは銃にオシャレするのが普通らしいことくらいしか情報なかったので…
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