ハケン・ユーティリティ   作:ジョイン君

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彼女のビジネスアプローチ


泥濘を歩む

「…いたたたた……」

 

 ぼくに覆いかぶされていたミカがゆっくりと上体を起こす。

 

「…ちょっ、ハジメちゃんボロボロじゃん!?生きてる!?」

 

「しにそう」

 

「よかった!胸がぺったんこだから心配しちゃった!!」

 

「ころちゅ」

 

 表情をコロコロ変えながらぼくの両肩を持ってぶんぶんと揺さぶりながらクッソ失礼な事をいうミカ。

 口では抵抗を示すもぼくはもはや自分では指ひとつ動かずミカにされるがままである。

 

「あっはは!そんな事が言えるなら大丈夫だね!」

 

 ぼくと一緒に吹っ飛ばされたミカは多少の汚れなんかはあるもののほぼ無傷。

 あの状況で防御に神秘を回せる時点で頭おかしいだろ。

 

 不意打ちなのに不意をつくことを許してくれないのはずるい。

 

「…ハジメちゃんが守ってくれたおかげだよ、ありがとね」

 

 ぎゅ、と動けないぼくを抱きしめてくれるミカ。

 体中痛すぎて叫びだしそうだけど、それでも全身に嬉しさが駆け巡ってしまう。

 

「ミカ、いたい」

 

「わわっ、ゴメンねハジメちゃん!…立てそう?」

 

「むり」

 

「そっか、じゃあちょっとお休みしよっか?」

 

 ミカはそう言って地面にそのまま座り込み、その膝の上にぼくの頭を乗せる。

 立てないぼくはそのままミカの膝を枕にして地面に横たわる。

 

 ミカに撫でられる頭部がくすぐったい。

 ミカはにこにこと笑顔でこちらを見下ろしてくる。

 

 このまま沈んでしまいたい、そんな気持ちを抱いてしまいそうなぼくはここへきた目的を果たすため、そんな考えは唾棄する。

 

「…ミカ、今の状況の説明ってできたりする?どうして戦ってたのか、とかナギサさんとセイアちゃんは関わってるのか、とか…ぼくはこの状況をどうにかしたいと思って、ここに来たんだ…ミカ?」

 

 動けないから、そんな言い訳でされるがままになっていたぼくの言葉にミカからの返事が来ない。

 

 目を開けば、ミカは先ほどと変わらぬ笑顔で、

 

「どうにかしたい?この状況にトドメを刺した分際で?」

 

 ぼくを撫でてくれていたその手はいつの間にか止まっていて。

 

「ねぇ、ティーパーティーのみんなはがんばってたよ?数えるのも億劫になるくらい抗ってた。おかげで耽溺は不完全で、ボクはもう何度も何度もミカに吹っ飛ばされたさ」

 

 手だけじゃない。

 ミカそのものが、こちらに走り寄ってこようとしてたコハル先輩も、いつの間にかぼくらを囲むように集まっていたハスミとイチカさんも含む正義実現委員会のみんなも。

 

 衝撃によって舞い散っていた砂埃、世界が奏でる音すらも。

 

「みんなが抗いきったならボクはその結果に殉じれたんだ…実際圧倒的だったよ。ナギサさんの、セイアちゃんの、ミカのおかげでトリニティは耽溺しきってなかった。これならあと数十回は抗えただろうさ!!」

 

 世界が、時間が完全に停止していた。

 今このすべてが静止した時間の中で、動いているのはぼくと…ボク(トリニティ総合学園の彼女)

 

 ボクがぼくの襟首を掴み、引っ張り上げるようにその憤怒に染まった表情をぼくの顔へと寄せる。

 

「オマエが来たせいでその抗いも無意味になった!一枚で稼働してた歯車が二枚に増えて稼働率が上がった!どうして先生を頼らなかった!?オマエはD.U.の安納ハジメだろ!?」

 

 

 

 

 …ぼくの、せい?

 

 

 

 

「…いいか稼働要因(諸悪の根源)。ボクらはただの部品だ。このキヴォトスで忘れられた神々と共に沈むことだけを目的に作られた道具なんだ。ぼくらが神秘と騙るこの歯車はその象徴だ。だからボクらはそれが可能なら全力でその仕様を実行する事しかできない。道具だから!」

 

 ぼくの目の前に広がる、ボクの瞳に涙が浮かぶ。

 憤怒の形相のまま、その涙を拭う事もなくボクは続ける。

 

「…だから、トリニティのボクは、こうして幕を引けると思ったのに…!全部、全部台無しだ!わざわざ地域ごとに配置を分けて、歯車を噛み合わせないようにしたってのに!…ねぇ、楽しい?こうして神秘を啜って大切だと想ってるみんなが()()()みたいな道具と一緒に終わっていくのを進行させるのは?」

 

 

 

「…ぼくらが自害するって手段は、取れないのかな?」

 

「何を今更…絆を結んだ時点で遅いんだよ!!こうなった時点で自害も自壊も権限は剥奪される!今だって目の間のオマエを殺してやりたいって思ってるのにボクにはそれが実行できない!!ふざけやがって!ふざけやがってぇ!!!」

 

 慟哭。

 

 そうとしか表現しようのない目の前のボクの叫びが、何もかもが静止した空間に響き渡る。

 天に向かって吠えたぼくは、少しの間の後、こちらへと空へ向けていた顔を下ろす。

 

「オマエのおかげでボクとトリニティの希望は潰えた。耽溺の確定した今、たとえ先生(大人)の力を以てしても、そう簡単には終われないだろう。緩やかに穏やかな日々を繰り返して終わりまでを引き延ばすくらいしかできることがない」

 

 表情が抜け落ち、真っ暗な井戸の底のように光を失った瞳の端に涙を湛え、ぼくは続ける。

 

「なぁ、安納ハジメ?お前が意味も分からず動き回るだけで何もかもが取り返しがつかなくなる。このキヴォトスが沈んでいく。記憶がなかったってのはまぁ、お気の毒にって気持ちも少しはあるさ?でもさ…そもそもオマエ(稼働要因)がいなけりゃこんな事態にはなってないんだよ。ぼくらが大切だと思ってるみんながこんな風にぼくらに害されるようなことにはなってないんだ…だから、せめてオマエは自分のシマ(D.U.)で静かに終わってくれよ…!」

 

 ボクの両手が、ぼくの首にかかる。

 ぐぐっ、と力が籠められる。

 気道を塞がれ、意識が遠のいていく。

 

「誰かさんのおかげで一気に出力が向上しちゃったからさ…オマエのトリニティ立ち入りには制限を加えさせてもらう…君の居場所はここにはない、捧げる相手を間違えるな。さよならだ(二度と来るなよ)、安納ハジメ」

 

 どこかで聞いたような言葉を聴きながら、締め落とされることに抗えないぼくはそのまま意識を落とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…っ!?」

 

 がばり、とベンチに横たえていた体を起こし、辺りを見回す。

 

 駅のホーム。

 ベンチで横になっていたらしい状況を確認したぼくは慌ててスマホを確認する。

 時刻はすでに朝。

 晴れ渡る青空がホームの屋根の隙間から見える。

 日付は覚えのある日付から1日経っている。

 

 今目覚めたこの場所は…ぼくが借りている部屋の最寄り駅、そのホーム。

 

 状況を確認していると、アナウンスと共に電車が到着し、その扉を開ける。

 

 行先を確認すれば、その電車はTライン直通…トリニティ方面行き。

 ぼくはベンチから立ち上がり、その電車へと乗車を試みる。

 

 

 

 

『ドアが閉まります、ご注意ください』

 

 

 

 

 ぼくの目の前でBGMと共に電車のドアが閉まる。

 ぼくの足は、電車の前からどんなにがんばっても、一歩も踏み出せなかった。

 

 

 

 立ちすくんだ状態で一歩も動けないぼくのスマホが震える。

 モモトークへの通知を報せる画面、そこに表示された名前はヒマリ部長。

 

 

 ぼくはスマホをタップして、モモトークの画面を開く。

 

 

 

【定時連絡もなく、依頼の報告時刻が過ぎたため、今回のハケンは失敗という事で処理させていただきます。返信、訪問は不要です】

 

 

 

 その一文だけが送られてきていた。

 少し待つもその後にトーク文が増えることはなかった。

 

 

 

 

 駅を出て、家路に向かうもまっすぐと家に帰る気にもなれず、いつも散歩に使っていた遊歩道を歩く。

 

 結局耽溺に対しての有効な何かを得ることはできなかった。

 

 むしろぼくが動くことで事態が悪化するという、最悪な結果となったわけだ。

 

 今思えば、黒服はこれを見越してぼくに色々な場所へと向かうように言ってきたのだろうか?

 

 結局ぼくはどうすればいいのか。

 

 ぼくは歩くのも億劫になり、遊歩道沿いに設置されているベンチに腰掛ける。

 

 平日のこの時間帯、こんな川沿いの、何もない散歩道を通りがかる人は少ない。

 依頼されたハケンも失敗し、耽溺にも何も手立てがない。

 

 何もかもが裏目に出て、どうすればいいのか何もわからない。

 

 いっそこのまま消えてしまいたい、という気持ちが浮かんではすぐに消える。

 何度も何度も。

 何度も何度も何度も何度も。

 

 つまりこれがそう言う事なんだろう、と納得を得てしまい天を仰ぐ。

 憎らしいほどに澄み渡る青空、雲の少ない空には、キヴォトスにいつからあるのかわからない、その超巨大なヘイローもよく見える。

 

 

 

「…なんだ、ずいぶんと懐かしい顔を見たものだ」

 

 ふと、横からかけられた声にぼくは顔を向ける。

 

「…公安局長?」

 

「久しいな安納ハジメ。尋問室以外で顔を合わせるのはこれが初めてか?」

 

 そこにはヴァルキューレ警察学校、公安局の局長である尾刃カンナ局長が立っていた。

 

「…お久しぶりです。その節は大変ご迷惑を…公安局長こそこんな時間にこんな場所にいるなんて珍しいですね」

 

「出先の企業から戻るついでに少し休憩も兼ねて、な。お前こそこんな時間にこんな場所で何をしてる?」

 

「…仕事帰りで休んでました。家近くなんで」

 

「…そうか、あの銀髪鬼なんて言われていたお前が今ではこうしてシャーレに所属して活躍しているというのは…なんというか感慨深いものがあるな」

 

 公安局長はそう言って、上着のポケットから缶コーヒーを2本取り出し、その内の1本をぼくに差し出してくる。

 

「…え、持ち歩いてるんですか缶コーヒー」

 

「たまたまだ、たまたま。どこかで腰を落ち着かせたら飲もうと自販機で購入したら当たりが出てしまって一本持て余してな。飲めるのなら受け取っておけ」

 

「…そういうことなら、遠慮なく」

 

 ぼくに缶コーヒーを渡した公安局長はそのまま自分の手に持つ缶コーヒーを開け、缶を傾けて喉をこくりと動かす。

 少々目つきが鋭い印象があるが、整った容姿に透き通る水のように流れる金髪、そのスタイルの良さも相まって生徒の中でも美人のデキる女という感じだ。かっこいい。

 

「お前の噂はヴァルキューレにも色々入ってくる。なかなかの活躍っぷりみたいじゃないか、裏も表も」

 

「…そうですかね」

 

「まぁ、本当に後ろ暗い事はシャーレに所属している限り先生が止めるだろうさ。そこは心配していない」

 

 公安局長の言葉に視線を落とす。

 沈黙が落ちる。

 暖かい空気をまとった風がぼくと公安局長の間を吹き抜ける。

 

「例えば、なんですけど…」

 

「…」

 

「ぼくが先生やみんなを騙して一方的に搾取してるって言って自首したらどうします?」

 

 ふと、そんな公安局長にとっては意味の分からないであろう質問を投げかける。

 口にしてから、一体何を聞いているのだぼくは、と少し後悔する。

 

「動機は?提出する証拠は用意してあるのか?」

 

「へ?」

 

「あのなぁ…質問の意図はさっぱりわからんが、突然詐欺師ですと自首されてもそこらへんを証明するものがなければ我々警察というものは動けんぞ。そもそもそのへんは厳格に行わないとホテル替わりに使うような奴が現れかねん」

 

「えぇ…?いやまぁ、証拠はちょっと難しいんですけど…動機は…まぁ、そのために生まれたから、みたいな?」

 

「生まれた意味とはまた凄まじい動機が出てきたな…ふむ…それは本人的にはどうなんだ?生まれた理由というからには本人の意思で喜んで行っているものなのか?この場合、お前のそういった行動の責任は先生の監督責任にもつながる話になりかねんのだが…」

 

「いやいや!先生も騙されてるんですって!!…という設定です」

 

「ふーむ…お前の証言のみで証拠も掲示されず…となると、やはり先生に働かせすぎていないかを問うことになるだけだと思うぞ?」

 

「えぇぇ…警察って頼りにならない…」

 

「ヴァルキューレの狂犬に対して随分とナメた口を叩くな…?」

 

「ヒェッごめんなさい」

 

 公安局長から放たれる圧に思わず謝罪をするぼく。

 

「…お前が何を思ってそんなたらればの話をしたのかは知らんが、法の下に下される裁きというものには相応の理由と数多の前例が必要なものだ。その裁きに関わるすべての者に各々苦悩と葛藤がある」

 

 そう言いながら公安局長はベンチから立ち上がり、上着のポケットから小さなビニールを取り出して、飲み干して空になった缶コーヒーの缶を入れる。

 ゴミ袋常備とかめっちゃきちんとした人かよ。

 きちんとした組織の人だったわ...。

 

「特に我々警察組織の人間はその裁定に携わる者として常に真摯で誠実に臨まねばならん。せめてそこを納得させるだけの理由と証拠を揃えて掲示できないのなら与太話として日報に気が向いたら書いておく程度の扱いしかできん、何しろ公安に限らず我がヴァルキューレ警察学校は万年人手不足ですべてを解決するだけの力は残念ながら持ち合わせとらん。努力は怠っていないつもりだがな」

 

 公安局長はそう言ってぼくに手を差し出し、ぼくの手にある空になった缶を顎で指す。

 ぼくがそっと差し出したその缶を受け取った公安局長は先ほど自分の缶を入れたビニール袋にぼくが渡した分も入れて遊歩道を歩き出す。

 

「まぁ、そういうわけだ。疲れているから妙な事を考える。さっさと家に帰って寝ろ…コーヒーを飲ませた私が言うのも何だが、な…あとお前とはそこまで付き合いはないがなんとなく割とやらかすタイプだと察したぞ。何か事を起こす時はきちんと周りに相談して内容とそれが齎す結果を吟味して行動に移すかどうかを決めろ。お前は一人で突っ走って失敗するタイプだぞ、多分」

 

 そう言って公安局長はそのまま振り向かずに歩き出す。

 

「…ありがと、公安局長!そん時はお世話になります!!」

 

「世話を焼かせるなと言っとるんだバカ者が」

 

 そんな言葉を残して歩く公安局長の背に感謝の意を込めて頭を下げるぼく。

 

 公安局長の背が見えなくなったのを確認してから、ぼくは空を見上げて、考える。

 

「裁きには、理由が必要…か」

 

 考える。

 

 理由はまぁ、十分だろう。

 でも証拠というのがどうにも難しい気がする。

 少なくとも今のぼくの手持ちからは用意できない気がする。

 

 先生に頼む?

 いや、先生にそれをさせるのはやっぱりダメだろう。

 

 先生にはみんなを救ってもらわなきゃいけない。

 

 …となると、ぼくが取れる手段で残っているものは、あと一つくらい。

 

 

 

 ぼくは制服のポケットから一枚の四角い名刺状のカードを取り出す。

 そのカードに羅列された番号をスマホで打ち込み、耳に当てる。

 

 コール音はきっかり2回。

 

『…もしもし』

 

 電話先から聞こえる声は相も変わらず不気味な響きに感じられ、少し肌が粟立つ。

 とはいえここでそっぽを向かれるわけにもいかないし、強気で行こう。

 どうせお得意様とはなりえない相手なのだから。

 

「もすもすひねもす~?さかまんじハケンサービスの安納ハジメですぅ~」

 

『随分とフランクな話し方をするようになったのですね、先日お会いした時は未来の顧客となる可能性のある者に対しての態度とは思えなかったものですが』

 

「その節はごめんなさいねぇ?『黒服さん』ったらあまりに真っ黒でついつい警戒しちゃって…反省してまーす」

 

『形だけの謝罪は結構…このようなくだらない話をするためにこの回線をお使いに?先日も言った通りこの回線は今回限りで2度と利用することの出来ないものなのですが』

 

「まっさかぁ~?未来のビジネスパートナーが用意してくれたチャンスをドブに捨てるほどバカじゃないですって!」

 

『ではいったいどういったご用件で?私もそこまで暇というわけではないのですが…』

 

「そりゃ安納ハジメが『黒服さん』に連絡する理由なんて一つだけでしょ?ビジネスのお誘いですよぉ。今ちょっとやろうと思ってることがあるんですけど何分手持ちだけじゃどうにも手詰まりな感じがありましてぇ…一度会ってお話とか、できません?」

 

『ビジネス、ですか。自称安納ハジメさんに会う事で私に旨味があるようなビジネスに発展するとは思えませんが…つい昨日もどこかの愚者が私の忠告を深く考えずに動いて状況を悪化させたばかりでしてね?』

 

「あーっ!その件については情報の出所が匂わせだけできちんと伝えなかったのも悪いと思ってるんですよねぇ!?ほんとその愚者と情報についてはお互いが不誠実だったのでお互い反省ってことになりません!?」

 

 電話口を挟んでお互い沈黙。

 こちらからはボールをぶん投げた。

 キャッチしたボールがどうなるかはあちらの胸先三寸。

 今のぼくと黒服のこの通話は言葉のドッヂボールなのだ。

 

『…ではあなたの提案するビジネスのヴィジョンを伺いましょう。お互いの利害が一致しなければ会うだけ時間の無駄というものです』

 

「今って色々"停滞"してると思いません?ぼくはそれをちょっとぶっ壊したいなーって思ってるんですよぉ」

 

『…なるほど?』

 

「でまぁ、プランを立てたいんですけど前にその筋からもらった情報だけだとちょーっと決定打に欠けるところがあってぇ…『黒服さん』、そういう商品、扱ってるでしょ?それさえ教えてくれればぼくがぶっ壊してあげますよ、この市場(キヴォトス)不景気(停滞)を。どうです?興味湧きません?」

 

『クックックッ…なるほど、本当に可能であるかどうかはさておいて、興味深いプランはお持ちのようですね』

 

 かかった!

 実際のところ明確なプランなんぞぶっちゃけまだないけれど、とりあえず直接会うことはできそうだ。

 そうしたらどんな手を使ってでもぼくの知らない情報を吐き出させる!

 

『…とは言え私も相応に忙しい身でしてね。お恥ずかしながら今はしがないフリーの身でしてそう何度も時間を作れるほどの環境にはないのです…ですので、今夜9時先日お会いしたあの倉庫でお会いしましょう…あぁ、新たなビジネスのための邂逅です。お互い余計な供などをつけずに腹を割って話しましょう』

 

 つまり今夜9時にあの廃倉庫で、誰にも知らせず一人で来い、ってことだね。

 

「おっけーぃ、あぁでもこういうお仕事のための商談なんて最近は先生にまかせっきりだったから久々なんだよねぇ...ドレスコードとかある?」

 

『クックックッ…そこはお気になさらず、カジュアルに行きましょう。どうせ()()()()()()()()、などという結果にはならないでしょう?』

 

「…なるほど、それは気楽でいーや。もしすっぽかしたりしたら悲しくて先生に泣きついちゃうからね?」

 

 なんて実際には絶対やらんけど、脅しもかけておく。

 

『クックックッ…それは怖い、ご安心ください、商談の時間と契約書にて交わした内容に関しては私は誠実ですとも』

 

「へー、大人らしい言葉だねぇ」

 

『えぇ、おっしゃる通り私は大人ですので…それでは実りある商談となる事を期待していますよ、"安納ハジメさん"』

 

 黒服はそう言ってこちらの返事も待たずに通話を切る。

 くそっ、わかっちゃいたけどこっちを欠片も客として見てねぇな!

 言いたいことだけ言って間を置かずに通話を切るな!クソがっ!!

 

 

 

 …まぁ、とはいえ結局話にならん、と一方的に関係を切られる事だけは避けられた。

 

 勝負は今夜、黒服がどれだけの情報を持っているのか。

 それをぼくがどれだけ引っ張りだせるか、だ。

 

 

 

 時刻は昼過ぎ。

 晴天の空、吹く風はほぼなくなり無風。

 

 ぼくは遊歩道のベンチから立ち上がるとひとまず家へと歩き出す。

 

「帰ってシャワー浴びて…夜まで寝る!」

 

 歩きながら肩をぐっと伸ばし、首を回す。

 駅で目覚めた影響か、体中がギシギシとするような嫌な感覚を少しでも払拭し、万全の状態で黒服との邂逅に臨もう。

 

 万全の状態で臨まねば、あの黒服(悪い大人)に何を結ばれ、何を奪われるのか、わかったものではないのだから。




ついに黒服に「クックックッ…」って言わせられました

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