ハケン・ユーティリティ   作:ジョイン君

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彼女の成り方


自己責任

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D.U.郊外、夜闇が降りたブラックマーケットはその闇に飲まれることなく喧騒が広がっている。

 

いつもの通り。

 

いつもと言えるほどには繰り返し、慣れてきた、と言える、日常と化したその一日の終わりの時間。

 

「スーちゃん、今日何食うべ?」

「最近ほぼラーメンばっかだかったからもうちょいこう、ヘルシー感ほしくね?」

「ラーメン以外のヘルシー食品…肉だべ」

 

「「いや肉はヘルシーじゃなくてカロリーだろうが」」

 

 舎弟たちが好き勝手に晩飯を何にするかを語り合っている様子をスルーしながらずんずんと、「今日はファミレスでサラダバーとメインにしよう」とすでに決めてブラックマーケットの出口へと歩くスザンヌ。

 舎弟たちに選ばせるとロクなメシ屋にたどり着かないという経験上、スザンヌはハナからこの3人の意見など考慮するつもりはなかった。

 ヘルシーで肉もあって、ワンチャンラーメンだって食える。

 ファミレス最強だろ、という気持ちもある。

 

 そしてファミレスならブラックマーケットの店舗なんぞより表に出て普通のチェーン店に入る方がよほど安定する。

 そもそもブラックマーケット内で店舗を構えてるチェーン店なんて書いてある通りのものが出てくるかあやしいものだ。

 あと値段。

 

 相も変わらずぎゃいぎゃいと言いあっている舎弟たちも結局のところスザンヌが決めた店には文句を言いつつもついてくる。

 だったらさっさと店を選んで食い物を口に詰め込ませた方がラクってもんだ。

 そう思い、歩くスザンヌの視界に不意に映る、白い影。

 

「あれ?あっこにいんのハジメさんじゃね?」

「あン?マジだ、こんな時間にうろついてるなんて今から夜勤かぁ?」

「ハジメさん真っ白だからわかりやすいよなぁ、ヘルシーな脂身みたいな色してるわ」

 

「「いや脂身はド直球カロリーだっつうの」」

 

 舎弟の漫才を聞き流しつつ、その後ろ姿を見つめる。

 様子を見るに、どうやらブラックマーケットの奥、先日喧嘩をした倉庫街の方へ向かってるようだ。

 その小さな背中を見ていると、どうにも挑むたびにボコられている事実を思い出し、沸々と何かが沸いてくる。

 

「…お前ら、この先のジョス(ファミレス)に先行ってろ」

 

「え、スーちゃん今から喧嘩売りに行くん?」

「やめとこうって、仕事だったらめっちゃ悪いじゃん」

「スーちゃんボコられたらアタシらいなきゃ誰が回収すんだよー」

 

「ツラ見るだけだっつうの!!ってかアタシが負けるの確定かコラァ!?いいからテメェらはジョス行って先に注文しとけや!アタシはタンドリーチキン&メキシカンピラフとサラダバーだかんな!」

 

 スザンヌはそれだけ叫び舎弟を置いて宿敵の背を追って駆け出す。

 

「おいっ、スーちゃん!」

「あーあ、どうすんべこれ」

「しゃーねーからこのカレンちゃんも回収班としてついていくべ…あ、アタシは味噌ラーメンとドリンクバーよろ」

 

「「結局ラーメンなのかよ!!」」

 

 サンゴとバンビのツッコミに手をひらひらと振りながら、カレンはマイペースにスザンヌとハジメが入っていった路地へと歩き出す。

 

「…どうすべ?」

「まぁ、カレン行ったんならウチらはジョス行くべ」

 

 サンゴとバンビは顔を見合わせ、そのままジョスへと向かう。

 頭が突っ走り、誰かがそれをフォローする。

 他の2人はそれに合わせて対応する。

 

 いつも通りの光景、いつも通りの流れ。

 

 頭が突っかかる誰かさんも含めていつもの通り。

 このD.U.に根を下ろして活動をはじめた不良4人組。

 そんな彼女たちのいつもの光景であった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 人気のない路地を抜け、倉庫街へと進む。

 ブラックマーケットの一角、運び込まれた出所のわからない謎の荷物が詰まれた稼働中の倉庫を横目に、黒服に指定された廃倉庫へと急ぐ。

 指定の時間まではあと30分ほど。

 

 これなら何かアクシデントがあっても余裕で間に合うだろう。

 

 …とはいえ、基本的にトラブルに巻き込まれるのがぼくの常だ。

 気を引き締めて行かないと。

 

 

 

 

 …と思っていたのに、まさか何も起こらずに到着するとは。

 

「まさかまっすぐ着くとはなぁ…」

 

 スマホを見れば約束の時間までまだ20分以上あった。

 まぁ、早めに着くに越したことはない。

 

 少しでも遅れればあの黒服のことだ、それをネタに何か突拍子もないことを吹っかけてくるに違いないのだ。

 必要なくてもやりそうだ。

 いいや、やるねアイツは!!

 

 

 そんなことを考えながら廃倉庫に足を踏み入れる。

 目的地は倉庫の奥の方にある小部屋。

 

 広い倉庫の途中から細い通路を経由して、奥の事務室であっただろう、先日に受け渡し場所として、依頼でのキルゾーンとして利用した部屋へと向かう。

 

 部屋の扉を開く。

 

 約束の時刻にはまだ至らず。

 

「…こんばんは、安納ハジメさん」

 

「…お早いお着きで、『黒服さん』?」

 

 その部屋にはすでに取引相手…黒服が立っていた。

 

 

 

 

 

「まずはあなたが求めている事について、我々が持っている情報をお伝えしましょう」

 

「おや意外、そこらへんも聞くのに時間がかかるのかと思ったんだけど?」

 

「この部分を出し渋ったところで無為に時間が過ぎるだけでしょう?ビジネスは迅速に物事を進めることが肝要というでしょう?」

 

 黒服はそう言って、こちらに背を向けて少し天井へと視線を上げる。

 この状況でわざわざぼくから視線を外しているのは信頼の表れか。

 いや、コイツがそんな殊勝なやつではないのはもうわかってる。

 

「まず、あなた方とはなんなのか、という点について。元々あなた方はこのキヴォトスにおいて何度かその存在が観測されていました。観測の時々で名前や所属などは毎回変わっていましたが。容姿は変わらなかったようですが…」

 

 黒服はゆっくりとこちらを向き、その視線をぼくの姿を上から下まで何かを確かめるように見る。

 

「結論から言いますと、あなた方は無名の司祭により作られたキヴォトスに置けるの神秘を吸い上げ、キヴォトスの生徒という概念の精神性を利用し、耽溺というプロセスを経て無名の司祭が称する"忘れられた神々"…生徒の無力化とそれに伴う神秘の簒奪。そのためのシステムです。識別名称は…耽溺型絆培養神秘簒奪効率化機構、あなた方はその最初の雛型。〇〇一(二の前)と呼称される侵略ユニットです」

 

 黒服の言葉に、あぁなるほどな、と得たくもない納得を感じながらぼくは続きを促す。

 

「…とはいえ、耽溺という事象はこのキヴォトスに置いて幾度か発生をしていますが、これまではここまでの規模で広範囲に発生することはありませんでした。一度の発生につき、対象は一人。耽溺した対象に依存し、共に沈むのが耽溺という事象の特徴でした。有体に言ってしまえば、効率が悪かったのです。なので無名の司祭もこの手段は凍結し、以降使われることはありませんでした」

 

「…ちなみにその耽溺に陥った生徒と、その生徒と耽溺した、()()はどうなったの?」

 

「どちらも沈み切りましたよ。共にそうなるのか、後を追うのかの違いはありましたが」

 

 予想通りの結末にため息もでない。

 そうだろう、捧げると決めた相手と共に沈むだけならそうなるのは当然の帰結。

 

 そうなったのがぼくであるなら...共に在り続けるか、共に在るために動くしかできまい。

 

「さて、あなた方がどういった存在であるのかはこれでおおよそ理解していただけたと思います。そして現状が如何に特異な状況であるのか、果たして安納ハジメさんがこの情報を元にどのようなビジネスプランを提案していただけるのか…」 

 

 まぁ、だいたいの事情は理解できた。

 思った通りではあるが、思ったよりも厄介な性質ではある。

 

 とはいえ、想定内。

 

 思ったよりもびっくり箱のような内容でなくてホッとしている。

 

()()、ぼくが気づいた時から持ってるものなんだけどさ…これが何かは『黒服さん』はご存知?」

 

 ぼくは目が覚めた時から持っていたソレを黒服へと掲げながら問う。

 

「…安納ハジメさんが目覚めた廃墟。その地下にはあなた方を稼働させるための巨大な階差機関が存在しています。実際の規模がどの程度のものかまではわかりませんが…自立型の機構であるあなた方にはその機関へとアクセスするための何らかの手段が用意されているものと思われますので…恐らくはそれに関連する何らかの手段でしょう」

 

「…なるほどね、さしずめアクセスキーとかそんな感じなんだろうけど…(にのまえ)ねぇ。もうちょいひねりのある名前を考えられなかったもんかねぇ、無名の何某さんは」

 

「名前のことであなたに言われる筋合いはないのでは?」

 

「おぉっと、ちくちく言葉ですよぉ?」

 

 くるくると手元で遊ばせたソレ…プロテクトハーケンを握りこみ。

 

「まぁ…これがアクセスキーとかそういう何かだと仮定して、ぼくはいったんこの耽溺ってのを止めてやろうと思うんだよね。史上最大の規模でそこそこの期間起こってるってことはさ、とっても効率よく燃料を用意できた(神秘を簒奪した)ってことでしょ?」

 

 ぼくは寮の手を広げながら、大げさに身振り手振りを加えながら続ける。

 

「だったら認識阻害とかさ、そんなもんにリソースを割くのもったいないじゃない?要はこのキヴォトスの生徒たちを排除したいんでしょう?その無名の何某とかいう製作者様はさ?だったらこの最高に上手くいっている今!このタイミングで効率よくキヴォトスに牙を剥くべきだとぼくは思うわけ」

 

「…なるほど、ですが我々…いえ、あえて私、と言い換えましょう。私の目的を鑑みるならば、キヴォトスの滅びへ加担する意味がありませんね」

 

「はぁ?キヴォトスが滅ぶって?それ本気で言ってる?今の状況ならまぁ、ワンチャンあるかもしれないけどさぁ…ぼくは耽溺を止めて正面から殴り合うって言ってるんだけど?先生舐めてんのか?」

 

「…クックックッ…なるほど、それがあなたの提案するプランですか?あなたは自分の望みを叶え、私は私の目的のために今の市場を活性化させられる、と」

 

「加えて好きなタイミングでこの情報をリークできる権利がある。独占市場、お好きでしょう?」

 

「なるほど、まぁ…及第点としましょう。とはいえ、いくつか疑問に思ったことをお答えいただいても?」

 

「お好きにどーぞ?」

 

「安納ハジメさんの現在の立場があれば、それこそ先生に直接助けを求めるという道もあったでしょう。なぜ敢えてそれとは真逆の手法を取ろうと?」

 

「…そもそもさ、ぼくが生徒(現在の立場)であるって言うのは特例も特例。戸籍もない、学籍もない、そもそも存在するはずがないぼくは先生やみんなが受け入れてくれて(に迷惑をかけて)今在ることが赦されてるわけだ。まぁ、結局ぼくはキヴォトスに害を成す存在だったわけだけども」

 

 次々と皆の顔が浮かぶ。

 その一人一人の顔を、声を、優しさを、思い出して噛みしめる。

 

「でもそんな風に色々してもらったぼくが結果としてこんな事態を引き起こしちゃったわけだ。だったらそういう立場はきちんと返上して、求められた役割(ロール)を完遂して、きちんと恩返しをする(糧になる)べきだって思うんだよね?元々生徒じゃなかったわけだし、だったらそこは生徒以外の存在として(大人としての自己責任で)さ?」

 

「クックックッ…なるほどなるほど、まぁ、責任の取り方としては稚拙ではありますが、一定の納得はできると物ではあるでしょう…将来性は感じるが故に、これっきりというのは少し残念な気分ですね」

 

「はっはっは、ご冗談を。二度と会う事もねぇよバーカ…あぁ、一応最低限の義理ってことで…もし死体が残ってたら回収して好きに使っていーよ」

 

 ぼくはそう言い捨てて、黒服に背を向けて廃倉庫の一室を後にする。

 

「えぇ、お元気で。それにしても人が悪い。あなたの望みが叶うならばその掲示した報酬は()()()()()()()でしょうに」

 

 背中に受ける黒服の指摘には心の中であかんべーして応える。

 情報分の手札は渡した。あとはお前にくれてやるものなんて何一つない。それがビジネスってもんだろう?

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 安納ハジメが去った後の廃倉庫の一室。

 黒服は内ポケットから取り出した小さな紙をくしゃりと握りながら部屋の入口へと向かう。

 

 部屋を出て数歩、廊下の奥の暗闇にちらりと視線を向け、

 

「…やれやれ、件の廃墟の場所の情報は必要ありませんでしたか…せっかく用意した商材のひとつが無駄になってしまいました」

 

 出口とは逆側、いくつかの打ち捨てられた荷物の束の方へ、丸めた紙切れを放って捨てる。

 

「クックックッ…独占市場…などと言いますが、捌け時のない在庫など抱えても意味はないのですよ、安納ハジメさん。交渉も円満に決裂したことですし…こちらはこちらの都合のいいように動きますよ」

 

 そう呟きを残して、黒服は廊下を歩き出した。

 コツ、コツ、と。

 黒服の足音だけが廊下に響き渡り…足音が途絶えた頃。

 

 

 

 積み上げられた荷物の束から、スザンヌとカレンは顔を出した。

 

「…なんかやっべえ雰囲気の大人だったなぁ、スーちゃん…」

 

 黒服の去っていった廊下を見つめながらそう呟くカレン。

 スザンヌは黒服が投げ捨てた紙切れを拾い、丸められたそれを広げる。

 

 そしてスマホでその紙切れを撮影し、続けて画面を操作。

 カレンのスマホが震える。

 

「あん?スーちゃん?なんで目の前にいるのにメールなんて…音声ファイル?」

 

「カレンはサンゴとバンビ拾ってこの紙切れ持ってシャーレの先生んとこに行け。今の会話は…まぁ完璧じゃねえけど録音できてんだろ」

 

「スーちゃんはどうすんのよ」

 

「あのバカを追う」

 

 スザンヌの間髪入れぬ返答にカレンは呆れ顔になる。

 

「…スーちゃんさぁ、流石に今からハジメさんにケンカ売るのはアレじゃね?別に次会った時でも…」

 

「カレン、アイツとあの大人がしゃべってた内容、意味わかったか?」

 

「んぁ?いや、さっぱりわかんなかったけどさ…仕事とかの話じゃねえの?ここ、前に依頼でカチコミかけた場所だし、そんときの付き合いとか?」

 

「アタシもさっぱりわかんなかったけどな…アイツが消えるつもりなのはなんとなくわかったぜ」

 

 スザンヌの言葉にカレンは目を見開く。

 

「…わーったよ、シャーレの先生にコレ渡して、音声ファイル聞かせりゃいいんだな?スーちゃんが頼んだタンドリーチキン&メキシカンピラフどうすんだよ」

 

「カレンが食っとけ。どうせお前のラーメンはもう見るも無残な姿になってんだろォがよ」

 

「そりゃそーだわ!…んじゃまぁ、メシ食ったら言われた通りにするよ。どうせスーちゃんはその勘が合ってようが間違ってようが行くんだべ?」

 

「わかってんじゃねーか」

 

「そこそこ長い付き合いだもんで」

 

 廃倉庫から出たスザンヌとカレン。

 スザンヌそのまま入ってきた路地の入口とは別の方向へと歩き出す。

 そんなスザンヌへとカレンはその背に声をかける。

 

「ところでこの紙切れに書いてある数字はなんなのよ?」

 

「どう見ても座標だろ?多分あのバカはこの座標に向かったはずだ。アタシもそこに行って最後に白黒つけてやる」

 

「いやスーちゃんとハジメさんの戦績真っ黒じゃん…」

 

「るせぇ!!白黒つけんだよ!!!!」

 

 そう叫び、肩を怒らせて歩くスザンヌの後姿を見送りながら、カレンはため息をつく。

 

「うーん、銀髪鬼コンプレックス…まぁ、メシ食ってスーちゃんに言われた通りにすべ…」

 

 そう独り言ちながらカレンはサンゴとバンビが先に向かったであろうジョスへ向かう。

 思いの外時間を取られた不気味な会合の盗み聞き。

 

 その内容は抽象的な内容やよくわからない言葉が飛び交っていて学の浅い自分では到底理解が及ばなかった。

 とはいえ、自分たちの頭のスザンヌはそう言う部分でも自分たちの中でも群を抜いて聡い。

 そのスザンヌがそう決めたのなら舎弟の自分たちは従うだけである。

 頭に従って、頭のやる事についていく。

 

 それくらいの根性と敬意は当然持ち合わせている。

 淡路島スザンヌのその生き様が好きだから、自分たちは舎弟をやっているのだから。

 

 

 

「…伸びきったラーメン、食わないともったいねぇよなぁ…」

 

 とはいえ、急ぎでと言われたわけでもない。

 頭の指示とは言え食事をする時間くらいはもらっても文句はないだろう。

 何しろ自分の頼んだメシを代わりに食えと言っていたのだから。

 

 

 

 こうしてカレンはジョスへの道をマイペースに歩くのだった。

 

 

 

 




黒服さん、淡白で便利なんですよね…

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