ハケン・ユーティリティ   作:ジョイン君

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彼女を突き抜けた想い


掻き立てる想いの矛先

「…さて、こんなもんかな」

 

 借りているアパートの一室。

 だいたいの小物は処分して、人からもらった物は一応お礼状を同封して送り返した。

 届く日は1週間後に指定したし、まぁその頃にはお礼状もそのまま届くだろう。

 

 ハケンのために借りていた制服や備品も同じように、アイロンをかけてきちんと運送依頼。

 

 部屋の掃除も終わり、換気のために空けていた窓を閉め、部屋に据え着きだったエアコンと冷蔵庫のコンセントも抜いておく。

 

 あとは戸締りをして、このカギを大家さんに渡して…書類とかはシャーレに提出。

 …先生まだアビドスにいてくれるといいなぁ。

 

 思えばここはぼくの城で。

 大家さんにも奥さんにも、ご近所さんにも色々とお世話になったなぁ…。

 

 大家さんの奥さんがくれた肉じゃが、美味しかったなぁ…。

 

 

 

 っと、あまり感傷的になってもいけない。

 ぼくはとりあえず郵便局へと赴き、シャーレへの荷物や書類、あれやこれやを送る手続きと共に色々と郵便局員の生徒に渡していく。

 

 布団とか、結構大き目な物もあるから、直接持っていくのも目立つし。

 

 郵便なら、万が一直接顔を合わせることも、ないだろうしね。

 

 …ソラ先輩には直接報告すべき、なんだろうけどなぁ。

 

 まぁ、急な出張とかそういうことで、()()()()()()()先生にそのへんは丸投げで…いいよね?

 

 いや、ほんとはよくないってのもわかってるんだよ?

 それでもまぁ、最後に見た表情は、笑顔がいいから、さ。

 

 事後報告は往々にしてあることだしね!うん!!

 

 

 さて、これで準備は整った。

 あとはぶっつけ本番ではあるが…行ってみるしかないか。ぼくのはじまりの場所へ。

 

 

 ぼくは持てるだけの、自分の物を背負い、持ち、歩き出した。

 

 このクソッタレな耽溺(物語)に幕を引くために。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

「…っぅ…」

 

 全身を苛む痛みに声が漏れる。

 

 遠距離射撃はすべて相手に上を行かれ、近づこうにもそこら中に張り巡らされた地雷などのトラップに行く手を遮られる。

 自分の耐久というリソースを使って距離を詰めようと試みるも、推定目標地点にたどり着いた時点で敵の姿はどこにもなく、さらにはどこからか現れたドローンによる一斉射撃を全方位から喰らい、ぼくはなす術もなくその場に膝をつく。

 

 なんとかドローンの一斉射撃が終わる隙をついてその場からの一時離脱を狙った瞬間、膝をついて下がったぼくの眉間に、【真紅の災厄】から放たれた一発の弾丸が、吸い込まれるように撃ち込まれ、ぼくはその銃弾の推進のまま、地面に仰向けに倒れ込む。

 正確には叩きつけられた、か。

 

 地雷原を無理やり突き進み、ドローンの集中砲火に加えトドメの一撃で完全にグロッキーだ。

 

「…アイサツもなしのアンブッシュは流石にひどくない…?」

 

 ゆっくりと歩いてくる人の気配にぼくは苦言を呈す。

 

「何を寝ぼけた事を…私とあなたの間にそのような作法など無用でしょう?」

 

 答えながら、狐の面でその表情を隠し、倒れたぼくへと【真紅の災厄】の銃口をぼくへと突きつける。

 周囲のドローンは据え付けられた機銃のリロードを終え、ぼくを取り囲む。

 

「だって…狐坂ワカモは安納ハジメの敵でしょう?」

 

「…実はその安納ハジメさんとは別口なんですよっていうのは」

 

「なおのこと排除すべきでしょう?あなたはシャーレの所属だからこそ安納ハジメなのですから」

 

「…なるほど、狐坂にとってはそれがぼくらなわけか…いやでもここでお前かぁ…正直ノーマークだった…」

 

 見下ろす狐坂の狐の仮面は当然表情が動くことはなく。

 向けられた銃口も微動だにはせず、トリガーに掛かる指先も離れる気配はない。

 

 踏み越えてきた地雷などによって更地となったこの場所で。

 倒れ伏すぼくと【真紅の災厄】をぼくにむける狐坂。

 ぼくへとその機銃の口をこちらに向ける無数のドローンの駆動音だけが、その場に響く。

 

 

 

「さて…それではいい加減はっきりとさせておきましょうか安納ハジメ。あなた…いったい何がしたいんですか?」

 

「…聞かなくてもだいたい予想はついてるんじゃないの?ぼくらは、少なくとも先生にとっては明確に敵だよ。狐坂にとってはこの理由で十分じゃないの?」

 

 空を見上げながら投げやりに答える。

 せっかくのアビドスの制服がずいぶん汚れちゃったなぁ、とか。

 対策委員会の一員としてどんな風に過ごそうかな、とか。

 あぁ、()()はここで終われるんだなぁ、よかった、とか。

 

 色々な想いがよぎる。

 それでも狐坂がこうして動いてくれたことに本当に感謝の念が尽きない。

 

「ハァ…相変わらず愚かで粗末な脳みそだこと。あなた、まさかこのまま自身が望む終わりが訪れるとでも思ってるのですか?」

 

 大きくため息をつきながら、突きつけていた銃口を下ろし、狐坂がぼくの襟首を掴み、持ち上げる。

 周りを取り囲んでいたドローンはその動きを止め、次々に地面へと着陸し、その稼働を止める。

 狐坂は【真紅の災厄】を地面へと突き立て、空いた手で狐面を頭上へと斜めにずらす。

 露になったその表情は無。

 その瞳はこちらを真っすぐ見据えるが、何も映していないかのように深く重い。

 

「…なんでさ、ここでぼくを殺せば解決、」

 

 ぱぁん。

 強い衝撃を頬に受け、思わず視線が横に逸れる。

 

「こちらを向きなさい」

 

 頬を張られた。

 

「…痛いんだけど?」

 

 ぼくの抗議の声を狐坂は無視し、相も変わらず深い闇のような無表情でじっとこちらを見つめてくる。

 

「いや無言こええよ…っつかなんでビンタなんだよ、そこの【真紅の災厄】使えばぼくなんてあっさり」

 

 ぱぁん。

 今度は逆の頬を張られた。

 

「こちらを向きなさい」

 

「いや痛いんだけど!?」

 

「私は安納ハジメに問うてるのです、何がしたいのかと。はっきりとあなたの口で答えなさい」

 

 狐坂の言葉に、ぐっと言葉が詰まる。

 狐坂はどこまで現状を理解している?

 狐坂はぼくから何を聞き出そうとしてるんだ。

 

「…ぼくらの目的は生徒の皆を耽溺させてその神秘を吸い上げる事」

 

 ぱぁん。

 少し痛みが引きかけていた右の頬にまた痛みが走る。

 

「こちらを向きなさい」

 

 望みの答えではなかったらしい。

 

「…ぼくらは元々誰かと共に沈んで朽ち果てることを目的にして作られた機構で、今キヴォトスのそこら中でその事象が」

 

 ぱぁん。

 左の頬。

 これでも、ない。

 

「こちらを向きなさい」

 

 

 

 目的を話す、ぼくがただの端末であることを話す、アビドスで僕のしようとした事を話す、ゲヘナの現状を話す、ミレニアムでの過ごし方を話す、トリニティの有様を話す、話す、話す、話す。

 その度にぼくの頬は張られ、もはや両頬の痛みは灼熱を当てられるようで。

 

 狐坂の左手も、真っ赤に腫れあがっていて。

 

 どうすればいいのかわかんない。

 何をすればいいのか、理解できない。

 

 何て言えば、許してくれるの(その手を痛めずに済むの)

 

 

 

「こちらを向きなさい」

 

 

 あふれ出る涙が頬を伝う。

 真っ赤に腫れあがった頬を伝うソレは、それだけで更なる痛みを感じさせてくる。

 何を言っても納得してくれない。

 何を言っても…

 

「…しにたい、もうしにたいよぉ…」

 

 心の奥にしまい込んでいた、決して吐露してはいけない思いが勝手にこぼれる。

 

「…ならばなぜ自害をしないのですか」

 

「だって、できないもん…!それができないようになったから…!」

 

 しゃくりあげながら、ぼくはそう答える。

 涙が止まらない。

 こみ上げるその衝動が自分ではどうにもできない。

 

「だから…狐坂なら...ころしてくれるって!!そぉ思っでだのにぃ!!!」

 

 

 

「…と、いうことらしいですわ、()()()()

 

 狐坂が掴んでいた襟首から力が抜ける。

 

 ぼくは元のようにそのまま仰向けに倒れる。

 倒れたぼくの視界に映るのは。

 

 

 

 いつの間にかこの場に駆け付けていた、狐坂へと各々の銃口を向ける対策委員会の皆と。

 悲痛そうな顔で、奥歯を噛みしめている、先生だった。

 

 

 

「…っあっ…あぁっ…!!」

 

 見られてた。

 

 歯車を廻す。

 

 ぼくが派手に喚き散らした無様な姿を。

 

 歯車を廻す。

 

 先生が、みんなが知るべきではなかった安納ハジメが今在る理由を。

 

 歯車を、逆に廻す。

 

 

 

 傷が塞がる、事象が覆る、ぼくという部品はレストアされる。

 

 ぼくは駆けだす。

 何もかもが取り返しのつかない事を理解しながら。

 

"待って!ハジメ!!"

「「「「「ハジメ((((ちゃん))))!!」」」」」

「いいかげん逃げるのはやめなさい!安納ハジメ!!」

 

 

 

 ぼくは背に掛かるその言葉を振り切って、無様に逃げ出した。

 

 歯車が廻す、ぼくの行先へ脱兎のごとく駆け出したのだった。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 そこは周りには何もなく、ただ巨大であっただろうビルの残骸が残っていたであろう廃墟。

 

 壁は崩れ、2階の部分はむき出し、1階の扉はすでに瓦礫に埋もれ、ビルそのものが斜めに地面に突き立っている様相だ。

 

 瓦礫で坂ができている部分を伝い、ぼくはむき出しの2階部分へと上がる。

 

 何も変わってない、何もない。

 

 ぼくの始まってしまった場所。

 

「懐かしいなぁ、なんてね」

 

 欠片も抱いていない感想を呟きながら、フロアを見渡す。

 

 1階部分へ下れる階段は、中ほどから崩れ落ち暗闇が広がっている。

 上階へとつながっていただろう階段にはもはや何もつながっておらず、天へと手を伸ばすかのごとく瓦礫が尖り、突き出ているのみだ。

 

 ぼくは持ってきた懐中電灯を手に、1階部分へと飛び降りる。

 思いの外地面が遠く、着地をしてから上を見上げればそこそこの高さを降りたことがわかる。

 

 まぁ、どうせ片道切符なのだ、気にすることもあるまいと1階部分を手に持った懐中電灯で照らす。

 

 暗闇に覆われたビルの一階部分は、いくらか瓦礫の隙間から光が差し込んではいるものの部屋を照らすには至らず、暗い。

 

 埃っぽさに辟易しながら懐中電灯で光源のない方を重点的に探っていく。

 そうして見つけた。

 地下へと続く、シェルターの入り口のような金属扉が地面に、開け放たれた状態で存在するのを。

 

 埃の多いこのフロアにはその扉へと向かう足跡がくっきり残っていた。

 見る感じ、普通のスニーカーのような足跡。

 

 このフロアに無規則に広がるその足跡は、最終的にその金属扉へと向かい、痕跡が終わっていた。

 

「さて、鬼が出るか蛇が出るか…」

 

 ぼくはそんな言葉を独り言ちながら、金属扉から伸びる、底の見えない穴へとつながる梯子を下りていく。

 

 はたまた出るのは、ぼく(新たな彼女)かもしれない、なんて思いながら。

 

 

 

 

 長い梯子を何分下ったか。

 随分と地下まで降りてきたように思う。

 

 やっとこ床を認識できてほっと一息。

 こんな原始的な移動手段だけでなく快適なエレベーターでも用意しておけと悪態がつきたくなるが、言ったところで誰にも届かないだろうことに労力を割くのもなぁ、と思いつつ、適度な高さから床へと着地。

 

 カンッという金属特有の高い音を響かせるその床は、細い通路で、手すりで簡易に区切ってあるだけのそこは柵をあっさりと乗り越せてしまいそうだ。

 柵から身を乗り出し下を覗いてみれば。

 

 無数の歯車を噛み合わせて稼働をしている巨大な何かの機構、その一部分。

 

「…ほんと、ずいぶんと大きな機構だこと」

 

 目に飛び込んだ風景に軽く圧倒されたが、頭を振って歩き出す。

 カン、カン、と歩くたびに金属板を踏む音と距離があってなお無数に動き続ける歯車の機構の音がごぅんごぅんと鳴り響き続いている。

 

 

 

 ある程度進めば細い金属の作業用通路は抜け、大きく開けた、バカでかい通路と言っていいのか悩む空間へと出た。

 

 前を見ればこれまた誰を基準にして作ったのか、と思われるほどの大きな機械式の扉が結構な距離のあるここからでも見える。

 

「使用者に優しくない施設だなぁ…」

 

 あのクソ長梯子に加え、微妙に長くて細い通路を越えた先にこれまたクソ長な上にでかい超巨大通路みたいなものをお出しされて正直うんざりしてきた。

 通路は上の廃墟と化したビルに比べれば随分と片付いている。

 何しろ遠くの向こうまで見えるほどだ。

 そう、この施設内は電気が通っている。絶賛稼働中なのだ。

 

 照明の隙間ともいうべき暗い箇所がここからでは後ろにある通路の柵の外にしか見つからない。

 その柵の外にしたって、可動部の歯車が眩しいくらいに光っているからほぼどこも見える。

 

 よくよく見渡せば、この施設の壁にも、床にも天井にもいくつもの歯車が稼働している部分が見える。

 

 つまるところこの施設は徹頭徹尾何かを稼働させるための一部分であるのだろう。

 

 床に飛び飛びで張られたガラス越しに見える歯車を一部でも止めてやれないかと思いっきり踏みつけるも、透明なガラスはびくともしない。

 蹴ってみた時の感触がすでに普通のガラスとは違う。

 どうせ透明なオーパーツとかそういうオチなんだろうな。

 

 またも深いため息をこぼしながら、ぼくは諦めてこのでっかい通路?を目的地であろう扉へ向かって真っすぐと進む。

 

 途中で待ち構えているだろう、人影が立ちはだかっていることを承知で。

 

 

 

 

 

 

 人影に近づくにつれ、不安と疑問が沸いてくる。

 なぜあの子がここにいるんだろう?

 どうしてこの場所に、自分よりも先にたどり着いたのだろう?

 

 そもそもあの子はここに何しに来たのだろう?

 

 色々な疑問が浮かんでは消えていく。

 それでもぼくの足が止まることはない。

 やり切ると決めた。

 だから止まるわけにはいかなかったから。

 

 

 

 

 

「よォ、銀髪鬼ィ」

 

 肩に担いだRL、逆の右手にはだらりと下げたSG。

 先ほどから見えていた人影は。

 

「…スーちゃん」

 

 スーちゃんはいつもの通りに、ぎらついた瞳で、獰猛な笑顔を浮かべながら言葉を続ける。

 

「最初に会った時の事、覚えてっか?」

 

 最初に会った時、覚えてる。

 あれは不良を財布にしていいと思った時。

 

 確か最初はいつもの通りに殴ったり蹴ったりしてきた奴らにやり返したときだ。

 不良たちをぶん殴って、蹴り飛ばして。

 その銃を奪い向かってくる奴らを全員返り討ちにしてやった。

 最後まで向かってきたのはこのスーちゃんだ。

 当時はそんな呼び名だって知らなかったけど。

 ぼくが腐って財布漁りに精を出していた頃、一番ぼくに向かってきたのはスーちゃんだった。

 …だから。

 

「忘れた」

 

 だからぼくはそう答える。

 スーちゃんはその言葉を聞いてるんだか聞いていないんだか、言葉を続ける。

 

「安納ハジメ、オマエに会ったせいでアタシャいろんな寄り道しちまったよ」

 

 寄り道。

 スーちゃんにとって寄り道とはいったいどれのことだろうか。

 何度も返り討ちにしたこと?

 トラックで共にカイザーの工場に突っ込んだこと?

 そのあとラーメンを奢ったりしたことだろうか?

 傭兵じみた仕事をするっていうから少し口利きしたりもしたことだろうか?

 現場で敵対した時にやっぱりノしたこと?

 

 いくらだって思いつく。

 いくらだって思い出せる。

 だってぼくにとってはどれも掛け替えのない思い出だから。

 だから。

 

「ふぅん」

 

 ぼくは努めて興味のなさそうな声で、一言で返す。

 

「アリガトな」

 

 …は???

 

「ア、アリガト…?」

 

 どうして礼なんて言う?

 ぼくは今、スーちゃんの言葉をことごとく蔑ろにしたんだぞ。

 思い出なんて、何も感慨の沸かないものだって、そういう風に言ったんだぞ。

 

 これだからキヴォトスの生徒はイヤ(好き)なんだ。どうして額面通りに受け取ってくれないんだ。

 ぼくはこちらを見据えるスーちゃんに、言葉を返す。

 

「…スーちゃんとはじめて会った時、最初はうるさいうるさい馬鹿だと思ったよ」

 

 ぼくは努めて辛辣に、言葉を返す。

 スーちゃんの敵意を煽るように。

 スーちゃんが勘違いしないように。

 …でも。

 

「でも、スーちゃんはただのうるさい馬鹿じゃない」

 

「やっとわかったか馬ァ鹿」

 

 スーちゃんはぼくの言葉に肩の力を抜き、後ろにある大きな金属扉を見つめる。

 

「用があるんだろ?ここに何かテメェが命を賭けるような何かがあるんだろ?アタシにゃさっぱりわからねぇが…並じゃねえ何かだ…だったら、アタシを倒してからにしな」

 

 改めてこちらを向き直り、戦闘態勢をとるスーちゃん。

 

「アタシを!この淡路島スザンヌを越えてからにしな銀髪鬼ィ!」

 

 いつの間にか使えるようになっていたSG、一緒に無茶した時にきっちり当てたお得意のRL…近接戦闘に食らいついてくる根性、そしてぼくとの喧嘩を正面から楽しそうにしてくれるその笑顔…

 でも、でもねスーちゃん…

 

 ぼくはスーちゃんに見えるように右手を顔まで上げて人差し指を一本立てる。

 

「…あん?」

 

「悪いけど…1秒だ」

 

 そう、今のぼくなら。

 キヴォトス中から神秘を簒奪して機体性能を向上させてしまったぼくからすれば、スーちゃんはもう、相手にならない。

 

 ぼくのあまりに傲慢な物言いにスーちゃんは戦闘態勢を解き、俯いてしまう。

 そう、それでいい。

 ぼくなんかと関わらないで良い、引いてほしい。

 

 ぼくらには時間がない。

 

 ぼくだってスーちゃんと一生こうして喧嘩できればそれはどれだけ楽しいかって思う。

 

 でも、ぼくは…

 

 

「悪いが一秒…悪いが一秒だァ…?何を言ってんだよ…まだそんな…ッ…それを言うなら...」

 

「「一秒だ」って言えよッ!!「悪いが」はいらねぇッッ!!!!!」

 

 

 

 スーちゃんが俯かせていた顔を勢いよく上げて、叫ぶ。

 ぼくは一瞬何を言われたのかわからなくて目をぱちくりさせてしまう。

 

 

「キョトンとすんなッッ!!軽くいってみたか!?「悪いが」ってぇッッ!!」

 

「ここまで…ここまで来てアタシを哀…」

 

「まだアタシを下に見てんじゃねぇぇぇッッッ!!!」

 

 

 スーちゃんがSGの銃口をこちらに向けながら、先ほどまでの獰猛な笑みとは異なる、血走った眼を見開いた、憤怒の形相を浮かべる。

 

 

「「悪いが」は哀れみだ!!わかってんのか!?無視ってコトだよオマエェ!!哀れんでんじゃ、ねぇッッッッッッ!!!!!」

 

「アタシを誰だと思ってんだよ…わかれよッ!わかってくれよッ!!」

 

「テメェはバカ強いよ!!知ってるよ!!安納ハジメはゴリアテが腰を下ろしたようにドォーーンッとアタシの中にいるよっ!!!オマエはアタシの中にガッッツリ居るんだよ!!!アタシは!!オマエにとってその辺の石ッコロ(不良生徒)じゃねぇ!!淡路島スザンヌだ!!!!!」

 

「アタシも…お前の中に居させろよ…ッッ!!!」

 

 言葉が詰まる。

 涙が溢れる。

 こんなにも、こんなにもぼくのことを正面から見てくれる生徒がいる。

 あぁ、こんなにも。

 

「オマエだけに…」

 

「オマエだけにわかってもらうために淡路島スザンヌは強くなったんだ!!!淡路島スザンヌは!命を賭けて!!テメェに!!!淡路島スザンヌを!!!!」

 

 ぼくは下げてしまった右手をまた上げ、指を一本突き立てる。

 淡路島スザンヌという、最高の好敵手へと敬意を払い、全力で挑むために。

 

理 解(わ か) ら せ て や る !」

 

「1秒だ」

 

 スザンヌがこちらへと向けた銃口。

 ぼくは姿勢を低くしてその場から駆け出す。

 

 常なら打ち払うその銃身へは目もくれず、ぼくはそのままスザンヌの顔面を思いっきり蹴り抜いた。

 その間、実に1秒足らず。

 

 そのままの勢いで、着地しながら歯車を廻す。

 緩慢になる時の中で勢いよく吹っ飛ぶスザンヌを追い越し、歯車の稼働が解除され、戻ってきた時の流れの中でスザンヌを背中からキャッチして勢いを殺す。

 

 完全に勢いが止まったことを確認して、スザンヌをゆっくりと床に横たえ、吹っ飛んでいってしまったSGとRLを回収し、横たわったスザンヌのすぐ脇へと並べる。

 

 

 

「…スザンヌみたいなヤツ(友達)、一生忘れられるわけないじゃん…ぼくも言うよ、アリガト…ね」

 

 思いっきり鼻血を吹き出し、それでもどこか満足そうな表情で意識を飛ばしたスザンヌの鼻に丸めたティッシュを詰めて。

 しばしの時間、数十秒ほどか。

 

 スザンヌの寝顔を眺めていたハジメは立ち上がり、奥にある機械制御の大きな扉へと歩き出す。

 

 

 安納ハジメが終わらせるために。

 

 安納ハジメを差し出すために。




後半の一秒の戦闘は筆者が好きすぎてどうしてもやりたくなったのでやったとある作品のオマージュです。

突然ですがファンアートで君だけの性癖を好き放題受け入れてくれるハジメちゃん、どなたか描いてみませんか?(唐突)
ナマ言ってすいませんでしたファンアートぼくもほしいなって思ってついまろび出てしまっただけなんです!許してください!

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