ハケン・ユーティリティ   作:ジョイン君

48 / 50
彼女の天敵


Ground Dasher

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

-90

 

 

 

 美甘ネルが空を駆ける。

 

 戦場の上空を駆ける大型機体、クルーズチェイサーが縦横無尽に動き、その戦闘機のような様相を人型へと変化させ、その鋭角なフォルムの腕部をそのままブレード状へと変化させ、多面的にネルへと繰り出す。

 

 その繰り出される数多の斬撃をネルは躱し、愛銃の【ツイン・ドラゴン】で撃ち払い、クルーズチェイサーの巨体へと自ら肉迫し、足場として利用し、撃ち、蹴り、払い、地面とクルーズチェイサーに幾度も着地と跳躍を繰り返し、空を飛ぶ手段を持たぬネルはその能力と技術で以て疑似的な空中戦を可能としていた。

 

 常ならそのような戦闘行動は不可能である。

 キヴォトスにおいて、戦闘に空中戦が入ることはなくはない。

 しかしそれは戦闘ヘリやドローンなどを相手にした物で、空中を自由に動き回る変形機構を用いた大型兵器と戦う機会などほぼないのだ。

 当然、ミレニアムが誇る戦闘集団のC&Cであってもそれは例外ではない。

 想定はしていたかもしれない。

 場合によってはそれが必要になる予想もつくてあろう。

 

 しかしそれは想定であり、実践をする機会などほぼないであろうことは想像に難くない。

 

 ではその状態でいざ実戦に臨めば十全に動ける生徒など存在するのか?

 

 常ならばならば無理だろう。

 だが、常の基準など歯牙にもかけぬ、規格外がこのキヴォトスには存在する。

 

 美甘ネル、コールサインダブルオー。

 その名が示すのは、ミレニアムにおける絶対勝利の道標。

 その存在が証明するのは、任務完了以外の結果を返すはずもなく。

 

 地を跳び、機体を跳ね、空を飛ぶ。

 刃を払い、機械を蹴り穿ち、空を荒らし、クルーズチェイサーは地へと落ちる。

 

 ネルが着地したその場に残されたのは、彼女以外がすべて打ち壊され横たわり、歯車のような粒子が空へと昇り消えていく。

 この場に立つのは美甘ネル、ただ一人である。

 

 

 

「…ちっ。見掛け倒しが次から次へと湧いてきやがる。」

 

 ネルはもう何度目かの大型機体討伐にため息をつきながら、眼前に広がる機械集団の中に新たな大型の粒子が集まっていくのを確認する。

 

「コールサインダブルオー。敵の特機の撃退に成功。状況はどうだ」

 

『コールサインゼロスリー。周囲の戦況は変わらず。撃退は順調ですが…ミレニアムの戦力で以て状況に当たっていますが戦況は膠着状態です』

 

 通信機越しにアカネからの報告を受け、ネルはため息をつく。

 

「ヒマリの方からの連絡は?」

 

『定時連絡では順当に事は進んでいる、とのことです。とはいえ当初の進捗の予定通りであることを鑑みるに…リポップするあの大型を処理し続けなくてはならない状況は変わらないかと…』

 

 ネルの視線の先には先ほどネルが圧倒…そう、幾度も対峙し、処理をするように幾度も破壊したはずの飛行型特機、クルーズチェイサーが集まっていた粒子の元にその姿を形作っていく様子が見えた。

 そう、幾度目かの光景。

 すでにミレニアムサイエンススクールへと押し寄せる機械の波と対峙をし、戦闘行為が始まってから幾度も見た光景だ。

 

 ミレニアムの近郊、廃墟地帯に轟音と共に地からと生えた塔のような構造物、耽溺のオントロジー。

 その周辺の廃墟から次々と這い出た機体たち。

 この時、ネルやミレニアムの生徒たちには知る由もなかったが、廃墟遠方からまっすぐと進軍をしてきた他地区と違い、ミレニアムは周囲の廃墟から散発的に襲ってくる機械の集団に対しての対応に追われていた。

 多面的な防衛線の展開を余儀なくされ、C&Cの面々やセミナーの生徒たち、それぞれの名だたる面々は防衛線の方々へと戦力の分散をせざるを得なかった。

 

 敵の戦力は現状対応はできている程度はあれど、戦線は動かず。

 味方への被害は現状ほぼないが、その戦況であれど、今しがた起こった通り、いくらこちらが敵を撃退しようとすぐさま敵戦力は補充され、戦況は好転しない。

 手数が足りないのだ。

 可能ならば一気に押し込み、相手の拠点へと打って出て状況を終わらせてしまいたいが、絶対的に手数が足りない。

 

 ヒマリたち特異現象調査部が何かしらの手段を講じているようだが、すぐさま事態を好転させられるほどの即効の手段ではない上に、それが本当に事態を好転せしめるものであるかも結果が出るまではわからない。

 大型がそこまでの戦力ではない、と言ってもあの飛行型はネル以外が相手取るには少々骨だろう。

 残る巨大な大型機体はユズの操縦するアバンギャルド君によって抑え込まれている。

 そちらへネルが目を向ければ無駄のない動きで大型の機体、ブルートジャスティスがユズによって巧みに操縦されたアバンギャルド君によって、完璧に封殺されている。

 その様子にネルは在りし日に()()と対戦をしたゲームでの光景を思い出させ、忸怩たる思いを抱かせるが、戦況としてはこちらと変わらず、尽きることのない相手を処理をするだけの状況。

 

 正面には大型以外の雑兵とも言えるドローンや機械兵は他のゲーム開発部の部員であるモモイ、ミドリ、アリスやミレニアムの生徒たちによって蹴散らされていく。

 蹴散らされてなお、尽きる事なく補充されていく雑兵たち。

 

 こちらも戦況は変わることなく膠着している。

 大型の姿が認められない他の防衛戦も同様であろう。

 敵戦力そのものは大したことはないが、ただただ物量が多く、現状に先が見えない。

 

 現状を打破できない歯がゆさを感じていれば、目の前で再構築を済ませたクルーズチェイサーがまたもこちらへと襲い来る様子が目に留まる。

 

「相も変わらず招かれざる客が空気も読まずに日参だ。いや、この場合は分参か?」

 

『招かれざるお客様ほどよく訪れてしまう事は嘆くべきなのか糧とすべきなのか、判断に困ってしまいますね…リーダー、お気をつけて』

 

「ハッ、誰に物言ってんだって。そっちもトチんなよ」

 

『そっくりお返ししますよ。それではゼロスリー、作戦行動に移るため通信を終了します』

 

 アカネのその言葉と共に通信が切れる。

 戦況は膠着している。

 

 そう、ミレニアムが優位という状況の膠着である。

 何か一手。

 少しでも自分たちに後押しとなる何かがあれば…

 

 このクソッタレな、なんの面白味もない状況を覆して、あの癇癪持ちの馬鹿な後輩を殴ってでも止めに行けるというのに。

 

「ゲームが上手ぇやつだからって作るゲームが楽しいのかは別問題なんだな…よーくわかったわ…」

 

 このゲームのように繰り返される終わりの見えない防衛戦に皮肉めいた愚痴を呟きながら、恨めしそうに目の前に聳え立つ耽溺のオントロジーを視界に入れる。

 ぼうと向ける視線を、目の前のクルーズチェイサーへと向ける。

 

 そして、美甘ネルが空を駆ける。

 

 

 

 

 

 

 

 時は少し遡る。

 キヴォトス中の映像媒体を乗っ取り、あの宣戦布告を受け、各々がその対応へと動き出していた。

 学園の上位組織は迫りくる軍勢への対応、それに付随する避難の対応など。

 非戦闘員は必要であるなら避難勧告への対処。

 大規模な作戦行動を伴うため、生徒も、それ以外の住民たちも各々の対応に追われていた。

 

 とはいえ、全戦力を外へと向けているわけでもなく、むしろ非常事態でもある現在では平時よりも警戒態勢が敷かれ、人員という意味では少ないがこれを機に何か問題行動を起こそうとしても即座に鎮圧されてしまうであろう厳戒態勢にあるこの空気。

 各地の不良生徒たちもその空気を受け、平時とは違い暴れたりはせずに鳴りを潜めていた。

 一部暴れる者もいたにはいたが、先述の通りすぐさま鎮圧されていた。

 

 ゲヘナ、トリニティ、D.U.

 

 どこの学区も似たような状況ではあるが、ミレニアム周辺だけは少し違っていた。

 他の学区に比べ襲撃の規模が広いミレニアムの状況は混沌としていた。

 

 多方面に展開したミレニアムの防衛部隊。

 これをチャンスだと騒動を起こした一部の不良生徒たちはそれこそ行動を起こそうと姿を見せると同時に苛烈な鎮圧を受け、震えあがりその行動を制限された。

 まるでメイドを相手にしているような威圧感。

 そしてこの瞬間にもミレニアムを取り囲み、迫ってくると思われる謎の軍勢。

 

 不良生徒たちはその軍勢たちをけしかけてきた存在に心当たりがあった。

 根無し草の不良生徒たちは同じ場所に留まらずに色々な学区を転々とする者も多い。

 不良であるがゆえに、その時々で実入りのいい場所を選び一か所に留まらない。

 そして不良には不良のネットワークがある。

 つまり、不良生徒たちにはある共通認識があった。

 

 つまり、銀髪鬼である。

 

 D.U.に突如現れた、腕の立つ謎の存在。

 曰く、ちっこいくせに一歩も引かない獰猛なヤツ。

 曰く、可愛いナリのくせに泥臭い戦法を厭わない面倒なヤツ。

 曰く、トドメを刺す時だけ不気味に笑う不気味なヤツ。

 曰く、気に食わねえがつええヤツ。

 

 曰く、いつの間にかシャーレの犬になってた姑息なヤツ。

 

 

 突如現れた銀髪鬼(ソイツ)が自分たちを歯牙にもかけずに今キヴォトスにケンカを売っている。

 正直何がどうなっているんだ、と不良生徒たちは思っていた。

 

 とはいえ、現状のこの状況、下手に動けば面倒な事になるというのは想像ができるし、何か不味い事が起きているという事くらいは理解できる。

 結局何か、釈然としないものを抱えたまま、しかしキヴォトスのため、などというふわふわした理由を掲げられてもそれを理由に動こうと思うほどの熱は持てない。

 

 不良生徒たちは、燻っていた。

 

 

 

「あァ?ンだよ、ここのヤツらも随分燻ってんじゃねえかよ?」

 

 ミレニアムの一角、不良たちの溜まり場になっているその場所に燻ったまま、行動を起こすでもなく集まっていた使われていない倉庫に、一人の生徒が訪れた。

 

「…あァん?何の用だ森家ェ…」

 

 不良生徒たちは集団でつるむ。

 なにがしかの理由で突出したものを持っている者がその集団の頭を張る。

 規模はその不良生徒たちによって様々だ。

 例えば淡路島スザンヌの集団は4人だ。

 これは一般的な不良生徒たちの集団の規模としてはかなり小規模に当たる。

 実際、森家バンビが今訪れたこの場所にいる不良の集団たちは20人ほどの規模、これが一般的な人数と言えるだろう。

 

「いやぁ、たまにあるデカいケンカだし古株に声かけてみっかなぁとこうして回ってるんだがなぁ…」

 

「ハァ?デカいケンカぁ?この状況で誰にケンカ売るってんだよ」

 

「わかりやすくケンカ売ってきてるヤツがいるじゃねえか?ウチのスーちゃんなんて一人でさっさと突っ込んでいったぞ?」

 

「…スザンヌは前から銀髪鬼を目の敵にしてたからな」

 

「お前らも大概だったろぉ?」

 

 バンビの指摘に舌打ちをする不良生徒たちの頭。

 周囲の不良生徒たちも似たような反応を示す。

 この集団はD.U.にいたころは同じく銀髪鬼の被害者であった。

 そう、加害者ではあるが、それ故に被害者でもあった。

 

「…何が言いたいんだ森家ェ。その銀髪鬼は今やキヴォトス相手にケンカ売って、各学区のお偉いさんらが対応してんだろ?アイツのせいでアタシらも商売あがったりだ。暴れようにも警戒が強すぎる。それとも何か?アタシらもキヴォトスのためにーとか似合わねえこと言ってアイツらに混ざれってか?それこそガラじゃねえ」

 

 どこか不貞腐れたような態度でバンビへと言葉を返す不良集団の頭。

 それが総意であるというように他の不良生徒たちも沈黙する。

 

 バンビはその様子を見渡して大きなため息をつく。

 

「なんだお前ら、キヴォトスのためにぃ?随分似合わねえこと言うじゃねえか。不良から優良生徒に鞍替えでもすんのかぁ?」

 

「あァ!?なんだ森家ェ!!ケンカ売りに来たのかテメェ!!」

 

「バカかお前ら?ケンカ売って来てんのは銀髪鬼だろ?」

 

 真顔でそう返すバンビの言に不良生徒たちは面食らったような表情を浮かべる。

 その表情をゆるゆると見渡したバンビはまたもハァ、と大きなため息をつくと、

 

「あのなぁ…銀髪鬼に一番最初に絡んでたのはあたしらだろ。ケンカ売ったしカツアゲもした。返り討ちに合ってカツアゲされたやつも多いだろ?つまり銀髪鬼ってのはあたしらにとっちゃいけ好かねえヤツってことだよなぁ?そんなヤツがよぉ…アタシら飛び越してキヴォトスにケンカ売ってんだよ。わかるか?舐められてんだよアタシらは!!」

 

 バンビの叫びに不良生徒たちは目を見開く。

 

「銀髪鬼はアタシらを無視した!キヴォトスのためだぁ?知るかそんなもん!!無視されてんだよォアタシらは!!舐められたまんまで済ませていいのか!?ムカつくよなぁオイ!!」

 

「…そうだ、ムカつく」

「ナメられたままなのは、ムカつくよなぁ」

「クソが、イライラしてきたぜ!」

 

 にわかにざわつく不良生徒たち。

 その様子にニヤリと笑うバンビに不良生徒の頭が問う。

 

「で?ムカつくのはわかる。それで何しようってんだよ」

 

「あぁ?ムカつくやつはぶん殴ってやりゃいいじゃねえか。しかも銀髪鬼が用意したあの兵隊共、別に強くもなんともねえそのへんの型落ちらしいぜ?目につく限りぶっ壊してやりゃあ、銀髪鬼もじれて出てくるんじゃねえかぁ?」

 

 バンビが首を捻りながら言えば周囲の不良生徒たちはそれに応えてすでにやる気のようだ。

 武器を担いで何人かは入り口に走り出そうとしている者もいる。

 不良生徒は舐められたら負けなのだ。

 

「…気に食わねえ、が。まぁ森家の言う通りではある、あたしらは舐められたら許しちゃおけねぇわな?」

 

 不良生徒の頭はチッと舌打ちをしてからそう呟く。

 そして横に立てかけていた愛銃を持ち、立ち上がり声を張り上げる。

 

「テメェら!!ありったけの武器と弾薬持ってあの銀髪鬼が用意した手駒を片っ端からぶっ壊すぞ!!邪魔するやつは全員ぶちのめせ!銀髪鬼にあたしらを舐めたことを後悔させてやれ!!」

 

「「「「「応ッッ!!!」」」」」

 

 頭の号令に逸って入口へと向かっていた数名も、自分たちに用意できる最大限の武装を用意しようと動き始める。

 その様子に頭は再度舌打ちをし、

 

「で、森家。テメェはどうすんだよ」

 

「別に好きにやらせてもらうさ、別にあたしら仲良しこよしってワケでもねぇだろ」

 

 来た時と同じように、横柄な雰囲気のまま入口へと歩くバンビは頭の言葉に振り向きもせず返答し、そのまま倉庫から出て行ってしまう。

 

 その様子を見送った頭は倉庫内で装備を整えて生き生きと準備をしている自分の舎弟たちを見て軽いため息をつく。

 

「…クソが、多分乗せられたんだろうがよォ…」

 

 頭はぼやきながら、それでもこの鬱屈とした状態をつまらないと思っていた。

 それは舎弟たちも同様であっただろう。

 

 そこにきて突然訪れたバンビの演説でこのザマだ。

 舎弟たちはもはや舐められていたという言葉に敵愾心を抱き、()()銀髪鬼に一泡吹かせてやるという気持ちでいっぱいのはずだ。

 

「頭!準備できました!」

「あたしらはいつでも行きますよ!」

「あの銀髪鬼に一発くれてやりましょうよ!!」

 

 口々に吠える舎弟たち。

 

「…いいかテメェら!邪魔するやつはなぎ倒す!とはいえ最優先はあの銀髪鬼が用意したガラクタだ!目につく限りのガラクタを全部ぶっ壊せ!アタシらを舐めたらどうなるのかわからせてやるぞ!!」

 

 こうしてとある不良生徒の集団が外敵へとその怒りの矛先を向けた。

 そしてそれはミレニアムにいる複数の不良生徒の集団も同様の行動を、ミレニアムのあらゆる場所、廃墟に迫る鉄の集団へとその牙を突き立てようとしていたのだった。

 

 

 

 

 

「おう、こっちは7グループくらい焚きつけた」

 

『バンビってこういう時の行動力たっけーよなぁ、アタシはまだ4グループくらい』

 

『あーあー、こちらカレン、とりあえずセミナーの知り合いの子に状況は伝えたから上手くやってくれると思う。一仕事終えたからとりまアイス食ってる』

 

「『いや何してんのお前??????」』

 

『ままま、アタシこのへん地元だからあんま不良の知り合いっていなくて』

 

『アタシとしてはたまになんか出てくるカレンの人間関係に妙な疑問持つことあるわ』

 

「それな、まぁこっちもなんだかんだで知ってる顔は大概声かけたっつーことで。とりまあのバカでかい塔みてぇなのに行ってスーちゃん拾うって感じでいいんだべ?」

 

『アタシもあと1,2グループいれば声かけて終わりかなぁ、集合ポイントどこだっけ?』

 

『こっちからケンカ売らなきゃミレニアム生はまぁ、基本的に問題ないはずー。あ、パフェ届いたわ。んじゃ集合ポイントは座標送っとくから。最悪現地集合ってことで』

 

「『いや何頼んでんのお前???????」』

 

 

 

 カレンの行動にサンゴと共にツッコミを入れた瞬間に切られた通話に辟易としながら耳に当てていたスマホをしまい、バンビは周りを次々と駆けていく他の不良たちを見る。

 

 各々の武器を持ち駆けていくその姿は、これまでに幾度か見た、不貞腐れて座り込んでいた時の表情などどこかに投げ捨てたかのような、不良らしい、ツッパって何かを押し通す時の獰猛な表情だ。

 自分勝手な不良などという生き方を貫いている生徒たちにキヴォトスのために、などと言ったところで響くわけもない。

 だからこそ、舐められている、と焚きつけたのだが、あれも別に嘘をついているわけでもない。

 

 不良たちは誰かのためには動かない。

 徹頭徹尾自分のために動く。

 

 つまり、自分たちが舐められたと言えば動くのだ。

 キヴォトスのために、でも。

 安納ハジメのためでもない。

 自分のために動くのである。

 

 

 

「…ったく、こういうだるい手段はカレンの担当だろうによぉ、ハジメさんにはまたメシ奢ってもらわないと割に合わねーな」

 

 そうぼやき、バンビはスマホに届けられた座標の位置へと歩き出す。

 集合位置に行く前にコンビニで軽く腹ごしらえでもするか、と考えながら。

 

 何しろこれからあのガラクタの先にある建造物にスザンヌを回収しに向かわないといけないのだ。

 そしてバンビたちの頭なら回収してすぐさま帰還、などという形にはならないだろうということは容易に想像がつく。

 何しろバンビ、サンゴ、カレンの3人の頭はあの淡路島スザンヌなのだから。

 

 

 

 

 

 もはや完全な作業と化した敵の処理。

 ネルは若干うんざりとした気持ちで今しがた撃退した敵の飛行型特機、クルーズチェイサーのリポップ位置を眺める。

 相変わらずのきらきらと見るだけなら綺麗な粒子にため息をつきたい気持ちになる。

 

「いったいいつまでやらなきゃいけねぇんだ?このモグラ叩きは…」

 

 周囲の機械兵やドローンを片手間に排除しながら呟くネル。

 

 いい加減うんざりだという気持ちを隠しもせずに通信機へと耳を当てる。

 

「コールサインダブルオー。そろそろ突っ込んでいいか?」

 

『"やぁネル、だいぶお冠だね"』

 

「…あぁん?なんでこの回線で先生が出るんだ?」

 

『"実はネルに頼みたいことがあって。直通の回線ですぐに連絡を取れるのがアカネだって聞いたからこうして取り次いでもらったんだ"』

 

「…まぁ、先生からの頼みなら聞いてやるくらいはしたいところだけどよ、ちょっと今手が離せそうにねーんだわ」

 

 ネルが通信機越しに声を出す間も目の前の粒子はみるみる収束する。

 もう幾分かの時間もせず、クルーズチェイサーは再度顕現するだろう。

 

『"うん、そうだろうね。だから少し休んでもらうためにもそちらに頼りになる助っ人を送ってもらった"』

 

「助っ人、ねぇ」

 

 光の収束が収まり、クルーズチェイサーが顕現する。

 話の途中ではあるがすぐさま対応をすべく、ネルは【ツイン・ドラゴン】の銃口を向け、撃ち放つ。

 

「ふぅん、最初はあそこを狙えばいいんだ」

 

 開幕の出鼻をくじくために発砲をしたその瞬間、後ろから聞こえた声。

 ネルの放った銃弾はクルーズチェイサーの飛行形態の片翼…鋭角的なフォルムなのでそれが致命傷になるようなダメージはないが、その後の飛行に多少の影響の出る部位を穿つ。

 

「なるほど、あの部位が飛行時のバランサーに影響が出やすい部分ってことだね。部長、今のデータ、共有しておいて」

 

『はいはい、まったくエイミは人使いが荒いですね…あの大きさと予想できる構造からもう少し弱点を探ってみましょうか。エンジニア部の子たちにもデータを回しますね』

 

「人使いが荒いのは部長の方…17箇所もある中継拠点を回らされた挙句C&Cのダブルオーの代わりをやらされる私の身にもなってほしい」

 

「まぁまぁエイミちゃん!私もカリンちゃんも一緒だからさ!」

 

 ネルが振り向けばその後ろには、通信機を耳に当てて通信相手、恐らくヒマリだろう、と会話をする和泉元エイミと、別の区画を担当しているはずの一之瀬アスナの姿があった。

 

「やっほーリーダー!ご主人様からのお願いで助けに来たよー!!」

 

「ここは私たちで抑える。ダブルオーは先生の元に一旦離脱。ゲーム開発部のみんなも一緒にね」

 

「…おいおい、どういう状況だ?ここでおでこやチビたちまで引き上げできる戦力なんてどっから抽出した?」

 

『それも踏まえて先生からの説明と新たな作戦の立案があります。ここはエイミとC&Cの皆さんに任せて一旦帰投を』

 

 通信機越しに響くヒマリの言葉にネルはふと、ユズたちがアバンギャルド君と共に対峙していた、ブルートジャスティスと相対していた方へと目を向ける。

 そこにはかつて自分が相対したこともある、パワードスーツに身を包んだ後輩が、かつてのその機体に再び身を包み、まっすぐと敵へと視線を向けている様子が見て取れた。

 

 その後ろにはすでに撤退を始めているゲーム開発部員たち。

 ふとその後輩、飛鳥馬トキと目が合う。

 

 トキはバイザーを装着したままネルへとピースサインを見せた。

 

「それじゃリーダー!ご主人様が待ってるよ!」

 

 アスナはネルへとそう声をかけ、そのまままっすぐにクルーズチェイサーへと駆け出す。

 エイミもその背に続く。

 その動きは常よりC&Cのエージェントとして任務を遂行する自分たちの動きと遜色はない。

 

「おい先生、きっちりと説明はしてもらうぞ」

 

『"それはもちろん。だからネルも早く戻ってきてね"』

 

「わかった。コールサインダブルオー、一時帰投する!」

 

 そう応えて通信を切ったネルは【ツイン・ドラゴン】を腰のホルスターへ納め、全速力で帰投をはじめる。

 その速度は音速というに値する、恐ろしいほどの速度。

 

 指定された作戦本部の拠点へとまっすぐに突き進む様はまさに一発の銃弾の如し。

 

 美甘ネルは、空を駆けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 耽溺のオントロジー、入り口前。

 

 廃墟外へと突然現れた巨大な建造物は、当然周囲を廃墟に囲まれている。

 入口と思しき巨大な入り口のすぐ前にもミレニアムの廃墟街が広がっている。

 

 そこでは現在、輸送用のトラックのような車両の上に立つ安納ハジメと、それを取り囲むように浮いている複数のドローン。

 そしてそれと対峙する一人の生徒との戦いが繰り広げられていた。

 

「だからさぁ…もう諦めて一旦下がれって」

 

 廃墟へと声を張り上げるハジメ。

 その声に返答はなく、辺りにはドローンとトラックの駆動音だけが響いている。

 

 はぁ、とため息をハジメがついたその瞬間。

 

ドッガァァァァァァァン!!!!!

 

 ハジメがその車体の上に立っていたトラックの下から爆音が鳴り響く。

 その爆音は当然衝撃を伴った正真正銘の爆発。

 

 それに苛まれたトラックもその上に立っていたハジメも無事では済まない…

 

「…だから無駄だって言ってんだろ!!」

 

 爆発の衝撃により横転したトラックの陰から顔を出した、無傷のハジメは横転したトラックへとガンッと蹴りを入れる。

 その蹴りが車体へと叩きつけられた瞬間、爆発物によって宙を舞い、横転したトラックは光の粒子に包まれ、数瞬の後に元の破損もしていない綺麗な車体へと戻り、横転すらもなかったかのように元に戻り、駆動音と共に元に戻る。

 

 そしてその粒子が舞い、トラックが元に戻る数瞬の間に廃墟から複数の発砲音。

 ハジメはその音を聞いた瞬間、その場に伏せる。

 

 続く銃声、しかしその銃弾は先ほど粒子に包まれ元の姿へと戻ったトラックの車体によりハジメに届くことはない。

 

 ハジメは止んだ銃声から相手の位置を割り出し、そちらへと手を振る。

 周囲に飛んでいたドローンがそちらへと殺到し、ちょうど目の前の廃墟、遮蔽物となっていた場所へと銃撃を放つ。

 いくつかのドローンはその廃墟へと体の一部を赤く光らせながら警告音を放ち、吶喊する。

 

 爆音、轟音。

 残っていたドローンもすべて突っ込ませる。

 すべてのドローンが吶喊したその場は爆発による煙が上っている。

 

 ハジメがトラックへと飛び乗り、その爆発の場所へと近づこうとしたその時。

 

 一つの影が、トラックの上のハジメへと躍りかかる。

 

 影から振り下ろされる銃身、その先に装着された刀身をハジメは担いでいたRLで受ける。

 鍔迫り合いのような状態。

 

 先に動いたのは影だった。

 

 その刀身を、ハジメが受け止めるのに掲げていたRLの銃身から引き、空を穿つように蹴り払う。

 

「…っとぉ!?」

 

 その蹴りを背を反らして躱すハジメ。

 

 姿勢を戻そうと反らした背を戻そうとした瞬間、視界の端に何かが閃いたような感覚を知覚する。

 ()()()()()()()それを認識したハジメはその閃きを阻むようにRLの銃身を突き出す。

 RLの銃身に横から迫る刀身が阻まれる。

 

 動きを阻まれたその影にハジメは前蹴りを放つ。

 その蹴りは、RLの銃身へと繰り出していた刀身による斬撃が阻まれた瞬間にすぐさま引かれた銃身によって影へと届くことなく阻まれる。

 

 しかし銃身に受けたとはいえ、ハジメの前蹴りによってハジメと影、両者の間合いは少し遠ざかる。

 

「なぁ…いい加減聞き分けてくれない?お前ひとりじゃ無理なんだって…」

 

「…なぜあなたの言葉に従う必要があるのです?そも、あの方の手を振り払い、暴れ散らかしている小娘の意見を私が聞くとでも?」

 

 そう答え、その肩に担いだ愛銃【真紅の災厄】の銃口をハジメへと向けるのは。

 

「あぁクソっ、そうだよな…お前はそういうヤツだよ…かといってお前一人に負けてやるわけにもいかねぇんだよ()()()()は!!だから一旦寝てろや狐坂ァァァァァァ!!!」

 

 トラックの駆動音が響き渡る。

 ハジメの叫びに呼応して誰も乗っていない無人のトラックが影、狐坂ワカモへと突っ込む。

 

 ワカモは横合いから突っ込んでくるトラックを見ようともせず、手元に握りこんだレバー上のスイッチのようなものを稼働させる。

 続いて響く轟音。

 爆発音と共にワカモへと突っ込もうとしていたトラックはその車体を浮かせ、ワカモの立っているそのすぐ後ろを空中を滑るように真横へとかっ飛んでいく。

 地面に幾度も叩きつけられる車体の鈍い音が響く。

 

「随分とやかましい子守歌だこと…情緒のない小娘には少し難解でしたか…それとも」

 

 ワカモは今まさに自分の背後を横転しながら通り過ぎて行った鉄の塊に視線を向け、持っていたスイッチを手放し、そのままその手をひらひらと仰ぐようにハジメへと見せる。

 

「もう一度躾をしなければわかりません?私、あなたの敵であってお母さんではないのですけれど?」

 

 ワカモのその言葉にハジメの顔が歪む。

 普段、その表情をほとんど変えることのない彼女の表情には、ある種の感情が滲んでいた。

 そして、ハジメがその場で天へと片手を掲げる。

 周囲を取り囲むドローンが、爆発によって横転し、煙を上げていたトラックが。

 そして、ワカモへと機銃を向けた戦闘ヘリが。

 

 粒子と共にその戦場へと姿を現した。

 

「あら?新しい玩具まで持ち出して…そろそろその足りないレパートリーも打ち止めではないのですか?」

 

「…お前一人相手にここまで出すつもりもなかった…でもそうも言ってられないもんな…ぼくはぼく(アビドスの安納ハジメ)の全力でお前(狐坂ワカモ)をねじ伏せる」

 

 ハジメがそう言いながら天へと掲げていた腕を下ろすと、その手にはまた粒子が集まり、空いた彼女の手にはSMGが形成される。

 右手にRL、左手にSMG。

 周囲を取り囲むドローン。

 トラックは唸りを上げ、戦闘ヘリはプロペラの音をけたたましく響かせる。

 

 しかし、ワカモはそんな取り囲まれた状況など気にも留めないといった態度を崩さず、ひとつ大げさに、ため息をついて見せる。

 

「…「必死でいく」と言い直しなさいな。「今ぼくは必死です」って。いちいち大げさに格好つけずに」

 

 そう言いながら、それまで顔を覆っていた狐のお面をずらしたワカモの表情は。

 

 その半分だけ露出されたワカモの表情を見たハジメはぎり、とその()()()()()()表情のまま歯を噛みしめる。

 

「えぇそう…喜びなさいな。喜んでいいのですよ…だって私が」

 

 その表情は、見る者によって印象が変わるかもしれない。

 その唇は弧を描いていた。

 その眦は、少し垂れていた。

 その瞳は、微塵も動かずただ見つめていた。

 

 

 

「私が、相手をしてさしあげるのですから」

 

 

 

 安納ハジメの表情とは対照的に。

 災厄の狐(狐坂ワカモ)が、嘲笑(わら)っていた。




ワカモが想定していたより強くて困りました。

感想、評価、誤字報告などいつもありがとうございます。
励みになります。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。