ハケン・ユーティリティ   作:ジョイン君

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彼女に手を伸ばす


Unique Battle

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-81

 

 

 すべてを薙ぎ払う銃弾の嵐は目の前に広がる鉄の波を何も残さず蹂躙する。

 

 真っすぐとこちらへと歩む機械兵諸共、目の前に聳え立っていた大型特機、ブルートジャスティスごと文字通り一掃し、視線を奥へと向ける。

 

 撃ち漏らした雑兵は周囲の風紀委員が、飛行型特機、クルーズチェイサーはイオリの狙撃によってあっさりと沈んでいく。

 敵の軍勢は戦闘開始の時点からまったくこちらへと進軍できていない。

 

「ああもう!いったい何時になったら終わるんだこの作業は!!」

 

 作業。

 そう、まさに作業である。

 

 敵戦力はまるで脅威たりえない。

 何度退けてもすぐさま光の粒子と共に継ぎ足される軍勢。

 

 機械的に、ただただ決まった動きで緩慢に動き出す特機、機械兵、ドローン。

 

 ただただ尽きる事なく、しかし終わりの見えない敵の攻撃に戦場は当初の緊張感はもはや感じられず、どこか弛緩した空気が流れる。

 何しろ脅威に感じるほどのものがないのだ。

 大型の特機はヒナとイオリ率いる風紀委員ですぐさま対応、それ以外の雑兵も問題なく対応できる。

 これならば常から行っている風紀委員の訓練の方が、彼女(安納ハジメ)も含めた訓練の方がよほど身になる、辛くも意味のある物となっていることだろう。

 

 とはいえ、この現状は今の戦力であればこそ対応が出来ているのも事実。

 

 特にヒナが今一人で対応をしているブルートジャスティス、大型の特機はその見た目の通りに非常に耐久に優れている。

 あの巨躯のまま思うまま暴れられればそれは当然被害が広がるであろうし、ヒナだからこそ、その圧倒的な火力ですぐさまその周辺の機械兵やドローンごと薙ぎ払うことができている。

 

 つまり膠着状態なのだ。

 

 ヒナは現状が歯がゆかった。

 幾度も迫る敵軍勢。

 その敵は欠片も脅威たりえない、ただただ駆逐され、しかしすぐさまわんこそばのように追加されていく敵。

 一度目の前に広がる軍勢を【終幕・デストロイヤー】で一気に薙ぎ払った時は凄まじい勢いで今、目の前に広がる軍勢へと再構築され、押し寄せてきた。

 それを引いて無理をせずに突出してくる勢力だけを削ってみれば、殲滅の速度と敵の追加ペースは見るからに落ちていった。

 

 つまるところ、現状は打つ手はなしなのだ。

 戦況を動かそうにも現状に引き戻されてしまう。

 

 敵を多く薙ぎ払おうにもすぐさま戦力は追加される。

 とはいえ流石にそれを見越してすべてを後手に回して進軍が止まらなかったとしたら目も当てられない。

 

 現状この場には風紀委員会の全戦力を投入しており状況を打開する手段がなかった。

 飛行型の特機はイオリと他の風紀委員が対応している。

 アコもこちらへのサポートを全体の指揮と共に行わせ、チナツは周囲の住民の避難対応や怪我人が出た時のための対応を救急医学部と共に動いてもらっている。

 

 結局のところ、打開する手段としてはあのミレニアム近郊に出現したという耽溺のオントロジーとやらに直接赴き、元凶となった彼女(ハジメ)をどうにかしなければならないということはわかるが、それをするには手が足りない。

 そんな元凶に歯がゆさを感じていれば先ほど薙ぎ払った大型特機は光の粒子と共にまたその大きな威容…もはや大きな的にしか見えないその姿を顕現させる。

 

 その周囲にはひしめく雑兵、【終幕・デストロイヤー】で薙ぎ払えば吹いて飛ぶような物の数にもならぬような塵芥。

 

 空崎ヒナは気だるげにため息をつく。

 思い出すのは風紀委員の取調室で自らが地面へと文字通り叩きつけた()()

 

 あの時は明確に彼女ではないと思ったけれど。

 今思えばあの時点で()()()()だったのだろう。

 あの寂しがり屋の()()にとってあの対応はとても辛いものだったのではないのだろうか。

 それにしても今回のコレは少々やりすぎな気もするが。

 

 それも踏まえて直接問い質しに行きたくもあるが、現状がそれを許さない。

 

 空崎ヒナはため息をつき、己の愛銃【終幕・デストロイヤー】へと手をかけ、

 

 

 

「目標、目の前のガラクタ共!全弾撃て!!!!」

 

 

 

 その号令と共に放たれた迫撃砲が目の前の敵集団へと降り注ぐ。

 

 ヒナがその場を振り返る。

 その横を次々と走り抜けていく複数の戦車。

 

 ヒナが視線を向けた先には、自らの後ろに展開していた風紀委員たちを横へと押しのけ、迫撃砲を載せた車両や複数の戦車が並び、その中央に超無敵鉄甲虎丸と称する戦車、その車体の上に仁王立ちをする万魔殿(パンデモニウムソサエティー)の長、羽沼マコトの姿があった。

 

「…マコト?」

 

「キキキキッ!ずいぶんと手を焼いているようだな風紀委員共よ!!」

 

『マコト議長!!これはいったいどういう事ですか!?我々風紀委員の展開した部隊を無理やり押しのけて万魔殿の部隊を展開するなんて!!』

 

「ほう?風紀だけでは手に余るようだから我々がこうして尻拭いをしてやろうと思ったのだがなぁ?」

 

 ヒナへと尊大な態度で言葉を紡ぐマコトにドローンに投影されたホログラムのアコが食って掛かる。

 そんなアコの言葉をマコトは歯牙にもかけず、常から浮かべる不敵な笑顔をヒナへと向けている。

 

「…この手の騒動に万魔殿が出向くなんて珍しいわね。いつもならこれをネタにしてまた何か()()殿()()()()()()をしてくるものと思っていたのだけれど」

 

「キキキッ!何を言い出すかと思えば…我ら万魔殿は常にゲヘナの未来を憂いて前を見据え行動している。内部の腐敗の一端でも垣間見えてしまえばそれを是正するのは上に立つ者として当然だろう?」

 

『この状況で何を言い出すのかと思えば…我々風紀委員はこの状況に対応すべく、いち早く動き状況の打開に動いているんですよ!?こんな状態で一体何を是正すると、』

 

 視線を正面に戻したヒナの視界には今なお敵の軍勢へと降り注ぐ迫撃砲の嵐。

 敵陣を蹂躙するその砲火は収まる様子もなく、完全に相手の侵攻を止めている。

 

 それは有象無象の機械兵のみならず、大型特機ですらも。

 

「安納ハジメ。シャーレ所属さかまんじハケンサービス部長。風紀委員会での実績多数、その生徒が、あろうことか電波ジャックを介してのキヴォトスへの宣戦布告!事態を重く見た我ら万魔殿は独自に情報を集めた結果、掴んだのはその容疑者、安納ハジメが最後にこのゲヘナ自治区で目撃されたのは風紀委員会だと言うではないか?…さて?風紀委員会はこれについてどう弁明をするつもりだ?」

 

『なっ!?まさか我々風紀委員が今回裏で手を引いていたとでも言うつもりですか!?流石にその言いがかりは看過できません!!そもそもハジメさんは万魔殿の特別執行委員という役割で我々風紀委員会の監査という名目でそちらが強制的に常駐を押し付けてきたのではないですか!?』

 

 マコトの言葉に通信越しのアコは言い返す。

 目の前の膠着した戦場から視線を切り、ヒナはマコトへと再度視線を向ける。

 その不敵な笑顔はさらに深く、その口は弧を描く。

 

「なるほど、なるほどなぁ?つまり今回の件は風紀にとってまったくの無関係な事件であり、この容疑者に関しての扱いなどに関して風紀委員会は一切関与しない、と受け取ってもいいのだな?安納ハジメの仕出かした一切の事柄については我々万魔殿が扱うべきである、と!」

 

『ちょっ!?ま、待ってください!それとこれとは流石に話が別で…!?』

 

「ほう!天雨行政官ともあろう者が易々と前言を翻す!?これはこれは!これでは風紀委員会の言など信頼のおけるものではないかもしれんなぁ!!」

 

 ホログラム越しにぐぬぬと歯を見せるアコにしてやったりという表情を向けるマコトを見て、ヒナは少し息を整える。

 二人の舌戦にいつの間にか心の中を燻っていた感情が少し、少しだけ落ち着きを取り戻す。

 とはいえ、この状況にいつものような難癖をつけに来たマコトの真意も読めない。

 

 そう、いつもならわざわざこうして風紀委員会と同じ方向に銃口を向ける事などはないのだから。

 

「マコト先輩」

 

 いい加減真意を問い質そう(無茶振りの内容を聞こう)とヒナが口を開こうとした瞬間。

 マコトの後ろから近づく生徒から放たれたその声が、重く響いた。

 

「イ、イロハ!?虎丸で待機をしておけと言っただろう!?」

 

 超無敵鉄甲虎丸から降り立ち、ヒナのすぐ背後へと歩み寄ってきたマコトのすぐ後ろから重く響くその声に目を向ける。

 

「もうすでにすぐにでも出発が可能です。政治をするにしてもやる事やって事態を動かしてからにしてくださいと私は言っておいたと思うんですが」

 

 マコトの言葉にそう返す、虎丸からこちらへとまっすぐ歩いて来たであろう棗イロハは。

 

「事態を迅速に収めるという事にしたじゃないですか。長引けば長引くほど求めた結果から遠ざかる。何よりイブキが不安がる。さっきやっとお昼寝してくれたんですよ?私もさっさと後輩の不祥事を納めたいんですよ」

 

 これ以上ないというほど、不機嫌さを隠しもせずに胡乱な目線をマコトへと向け、そう言った。

 そう、普段は飄々としたイロハが不機嫌そうな姿を隠そうともしないのはある一定の状況下のみである。

 

「い、今だ!たった今それを命令するところだったのだ!」

 

「そうですか、では早くお願いします」

 

 

 

「ぐぬぬ…風紀委員会委員長空崎ヒナ!貴様にはゲヘナ学園生徒会、万魔殿議長羽沼マコトとして容疑者安納ハジメの拿捕とその身柄の引き渡しを要求する!風紀委員会へと向けられた疑惑に非を唱えるのならば風紀委員会の長として我が万魔殿の用意した監督官の監視の元この任務を遂行しその疑惑を晴らせ!!」

 

 

『な…そんな横暴な命令を…!』

 

「行政官」

 

 万魔殿議長からの風紀委員長への命令にアコが思わずといった体で言葉を発そうとしたそれにかぶせるように、イロハが口を開く。

 

「これは万魔殿としての正式な執行命令です。それをこの場で、略式で反論をするというならば相応の論拠と説得力のある内容を正式通達と差異なく行えると判断した上で公式と同等の判断を万魔殿は今この場で略式で下すことになります。当然ご理解の上での発言であることは承知していますが…」

 

 マコトへと向けられていた胡乱な眼差しは、今は敵意すら孕んでいる。

 その視線をイロハは真っ直ぐにアコへと向けた。

 

()()()()()()()()()()()()()()()

 

 その視線に、その雰囲気に。

 アコは口を噤む。

 下手な事を言い返せる状況ではなくなってしまった、この数瞬が、アコには重く、息苦しい感覚さえ感じられた。

 アコの心情は、驚愕に彩られていた。

 アコの知る棗イロハという生徒がこうまで不機嫌を、怒りを露にする状況はアコが知る限り、一つしかない。

 

「風紀委員長空崎ヒナとしてその命令に従う。今この瞬間を以て本作戦の委員長としての権限を天雨行政官に移譲。常の通り風紀委員会として本作戦の収束に当たる。アコ、聞いた通りだから後はよろしく…万魔殿と協力…は無理でしょうから生徒同士の同士討ちは可能な限り避けるように。それでマコト議長?当然私が遊ばされる羽目になっていたあの大型は万魔殿が処理してくれるのよね?」

 

 あの、と差した大型特機、ブルートジャスティスへとちらと視線を送りながらヒナはマコトへと問う。

 マコトはそのヒナの言葉にフン、と鼻を鳴らし、

 

「万魔殿としての執行命令の失敗の言い訳にでもされては叶わん。我らは我らの仕事を粛々と行う。つまり貴様がこの命令を遂行できなかった時、果たしてどうなるのか」

 

「あら、それはいらない心配」

 

 マコトの万魔殿仕草(いつもの様子に)に不敵に笑い返し、すでに背を向けて虎丸へと向かうイロハの歩む方へと続いて進む。

 

「わざわざわかりやすく(荒事に)してくれたのだもの。それじゃあアコ、あとはよろしくね。以降連絡が必要な時はモモトークでお願い」

 

 ヒナはそう言って、耳に着けていたホログラム表示機能付きの通信機を外し、マコトの手に握らせその場を去っていった。

 

 その後ろ姿を数秒見送った後、思い出したかのように通信機のボタンを入れる。

 ヒナが通信機を外した際、消えていたホログラムが再度表示されアコの姿が映し出される。

 その目はとても胡乱にマコトを見つめていた。

 

『…それで、どうするんですか』

 

「…どうもこうもない。目の前の状況をさっさと打破するか、元凶を連れてきて収束させるかだ。行政官は言われたことも理解できんのか?」

 

『普段のあなた方の対応を見て言われた通りに理解しようとするのを拒んでいるんでしょうが!?あとイロハ戦車長はどうしてあそこまで不機嫌だったんですか!?何したんですかあなたは!』

 

「状況も読めんとは行政官の名が泣くな?それにイロハは普段から()()()()()()()()()()あんなものだろう」

 

『いえ、普段のイロハ戦車長はもっと飄々として、あのように不機嫌になる時は同行していたイブキちゃんが転んでしまったりした時くらい…で…』

 

 そこまで呟いたアコは片手を額に当て、はぁぁぁぁ…と大げさにため息をつく。

 

『ハジメさん…またですか…』

 

「キキキキッ!ハジメ…おぉっと、容疑者安納ハジメも罪なヤツだ!あのヒナとイロハに詰め寄られて少しは反省するといい。何よりイブキと一緒にゲームをするという約束をしたのにそれを反故にするのは許されんからな!!」

 

 満足そうに頷いてるマコトを見てアコは思う。

 あぁ、そういえば安納ハジメという人物はこういう人物だった、と。

 味方を作り、その味方の地雷を踏んで痛い目に遭う人物であった、と。

 

 そして、ある時突拍子もなく、事態を思いもよらない方向に動かしすぎてこちらも痛い目を見ることもあるという事をふと思い出し、悩み、熟考した上で。

 

 アコはたまたま、本当に気が向いて、一応、武士の情けのようなもので、マコトへとこう言った。

 

『…マコト議長。とりあえず体裁を整えて容疑者扱いをしてるの、早い段階に訂正しないといたたまれない事態に陥りますよ』

 

「いたたまれない?意味の分からんことを言う!容疑者であることは間違いではないしヤツはなんだかんだ聡い!そう悪い事にはならんだろう!キキキッ、部下をきちんと評価するのも上に立つ者として必要な器だぞ?勉強になったな天雨行政官!!」

 

『忠告は、しましたからね?』

 

 そう、本当に気が向いたのでした忠告だが残念ながらこのタヌキには届かなかったようだ。それはそれで溜飲は下がるか、とアコは思い直し他の風紀委員へと指示を飛ばすために通信を切る。

 改めて風紀委員の各隊へと指示を飛ばし、一息つく。

 

 上がってくる報告からは特段注視するものは見つからない。

 

 戦線は、膠着していた。

 変わりなく。

 

 

 

 

 

 

 先に虎丸へと乗り込んだイロハに促されるまま、ヒナも虎丸の内部へと乗り込む。

 

「最短ルートを可能な限り最速で突っ切ります。風紀委員長は進行方向上に出てくる障害物を可能な限り除去してください。移動中に銃の整備などが必要な時は、そこにあるワークスペースで最低限の事は出来るはずです」

 

 そこ、と告げられた場所には様々な銃の整備が可能な真新しいワークスペースがあった。

 それは複数の銃種を見るのにも問題のない小綺麗で整った空間だ。

 こういったスペースは複数の人間が使う都合上、雑多になりがちだがこのスペースはその印象とは逆にまとまっていて、ある種のこだわりを感じさせる。

 もう一つ目についたのは、そのスペースの横にはカラフルで可愛いクッションなどで仕切られた、彩のあるスペースがある事だ。

 無骨ながらまとまりのあるワークスペースの横にファンシーな居心地のいい空間が並んでいる様子にヒナは少し面食らう。

 

「あぁ、弾丸なんかはそのスペースにあるものは使っちゃって構わないです」

 

「なら必要な分は使わせてもらうわ。請求は後から風紀委員会に回してくれれば」

 

「いえ、大丈夫ですよ。()()に払わせますから」

 

 説明しながらよどみない動きで戦車を走らせ始めたイロハはヒナに目を向けず、そう返す。

 その返答にヒナはなんとなくイロハの考えてることに察しをつける。

 が、一応確認はしておくことにした。

 

「そう…このスペースは色々幅広くできるようになってるけど…複数人の共同スペースなのかしら?」

 

「私もたまに使いますしイブキも使う事がありますけど、基本的には()()()()()()()用のスペースですね。あの子は大道芸みたいに色々な銃を使うので」

 

「それじゃあこっちのカラフルな場所はイブキの?」

 

「そうですね、基本的に後輩以外はあまり同乗しないですし…たまにマコト先輩とかが乗ることもありますが」

 

 そこまで聞いて、ヒナはワークスペースにある投げ物や自身の愛銃に合う規格の銃弾などを手に取る。

 

「そういうことなら、気にせず派手に使わせてもらおうかしら」

 

「えぇ、花火みたいにパーッと使っちゃってあとで惨状を見て頭を抱えさせるくらいがまぁ、制裁のひとつとしては妥当かなと」

 

 車内の会話が止まり、沈黙が下りる。

 実際に乗るのは初めてだが、この超無敵鉄甲虎丸は快適だ。

 不用意に揺れず、中に乗っている分には音も静か。

 運転をしているイロハの腕もいいのだろうが、万魔殿が誇っている戦力のひとつである、作りもいいのだろう。

 

「その後輩も随分とやらかしたものね?制裁がひとつでは済まないなんて」

 

「いい子だと思ったんですけどねぇ。先輩と言われた身としては、信頼を裏切る行為は重いということを心根に刻んでやらないといけないかな、と」

 

「怖い先輩ね」

 

「先輩なんて怖がられるくらいでいいんですよ。あの子はちっともそういう素振りがなかったですけど…危なっかしいところはあるなぁと思ってたんですが」

 

「そう、随分信頼してるのね」

 

「今その信頼度が急転直下って話はします?まぁ後輩なんてやらかすものなんですが、それはそれとして先輩の怖さはわからせてあげないと。私を先輩呼ばわりしてナメた真似した後輩が悪いと思うんですよね」

 

「先輩後輩なら締めるところは締めないと、ということね」

 

「風紀委員長は違うんですか?」

 

 ふ、とイロハは真っ直ぐ前だけを見ていたその視線をヒナにちらと向ける。

 

「私は、あの子とは友達だから」

 

「友達だから?だから今回の事は許しちゃうんですか?」

 

「まさか、だって私は何も納得してないもの、今のところ許すつもりなんてないわよ?」

 

「それじゃあ、友達として、どうするんですか?」

 

「喧嘩するわ」

 

 ヒナのその返答にイロハはその日、はじめてヒナを真正面から見た。

 その表情は少し驚いたかのような、先ほどマコトと共に対峙した時の不機嫌そうな表情とはまた違う顔だった。

 

「喧嘩、ですか…?」

 

「えぇ、風紀委員会の部員の子同士でちょっと意見の対立が起きた時があったの」

 

 ヒナの返答にイロハは生返事を返しながら視線を戦車の前面へと戻す。

 ヒナはワークスペースにあった使える得物をいくつか手に取り、話を続ける。

 

「意見としてはどちらかが間違っているわけでもなく、どちらを採用しても問題のないものだった。ただ、意見を出したお互いが意固地になってしまったのね。話は平行線のまま、あちらを立てればこちらが立たず、私の鶴の一声でそろそろ収めようかなって考えてた時だった。あの子がその二人を模擬戦場に連れて行ったの。あの子、なんて言ったと思う?」

 

「…どうでしょう、ゲヘナらしく勝った方の勝ち、とかですか?」

 

「「仲良く喧嘩しな」ですって」

 

「あー、まぁ…言いそうですね」

 

「まぁ、その二人も別に悪い子じゃなかったし、険悪な雰囲気がなんか嫌だったんでしょうね。ちなみにその後のその二人の模擬戦に審判として参加しながら「ラブアンドピース!」とか「お互いもっと熱くなれよぉ!!」とかよくわからない声援を送ってたらその二人に攻撃されてたわ」

 

「審判なのに?」

 

「審判だから反撃はしなかったわよ?最終的に逃げ切りであの子の勝ち」

 

「審判なのに?」

 

「審判なのに」

 

 思い出し笑いをするヒナの答えに何をやっているんだか…とため息をつくイロハ。

 

「まぁでも、そんな流れでその二人は意固地になっていたのをお互い謝って仲直りしてたわ。納得いかないなら一度喧嘩するのがいいってあの子ものすごく得意な顔で頷いてた。まぁ、その後それはそれとして納得がいかないっていってその二人から一回づつ叩かれてたけど」

 

「一回で許されたのある意味すごいですね」

 

「まぁ、あの子自身がそうやって言って実践もしたわけだし…私もしようと思ったの」

 

「喧嘩を?」

 

「喧嘩を」

 

 再び戦車内は沈黙に包まれる。

 先にふふっ、と笑みを零したのはイロハだった。

 

「まぁ…友達ならたまにはしますよね、喧嘩」

 

「そうみたい、私はそういう経験がないから少し楽しみでもあるの」

 

「それじゃあ、私の分もお願いしていいですか?一発頭を叩くだけでいいので」

 

「あら、先輩なのに体罰?」

 

「これは友達分なんですけど、先輩なのでおいそれとやるわけにもいかないんですよねー。だから友達の風紀委員長の分に便乗しようかなって」

 

「先輩なのに友達でもあるなんてうらやましい。そこだけは少しずるいって思うわ」

 

「まぁ、あの子は万魔殿所属でしたから役得ですねー…おっと、進行方向に障害反応アリ、さっきのガラクタ共みたいですね。迂回は必要ですか?」

 

「いいえ。ここには悪い子の忘れ物がたくさんあるもの。接敵まではどれくらいかしら?」

 

「20秒後ってとこですかねー」

 

「そう、それじゃあそのまま最短距離で進んで頂戴」

 

 ヒナはそれだけ答えると、ワークスペースにあった自身の愛銃【終幕:デストロイヤー】の規格に合った銃弾といくつかの手榴弾などを手に取り、展望塔を開け、身を乗り出す。

 

「砲撃はいりますー?」

 

「必要ない」

 

「それじゃあ、予定通りに最短で向かいます」

 

「えぇ、期待通りに最短で障害をすべて薙ぎ払う」

 

 

 

 超無敵鉄甲虎丸が走る。

 

 二つの縁を乗せ、ゲヘナの絆を背負って。

 行先は耽溺のオントロジー。

 

 それは最短でただ真っすぐに。

 ほしいものに愚直に手を伸ばすのだから。




更新が遅くなり、申し訳ございません。

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