ブラックマーケット。
いくつもの学園自治区が集まり数多の神秘が集い数多の銃弾が飛び交うこのキヴォトスに置いても群を抜いて危険と言われる無法地帯。
曰く、金さえあれば大抵のものはなんでも手に入る。
曰く、まともにお目にかかれないような激レア品が並ぶこともある。
曰く、そこではいつだって表に出せないヤバい取引がそこかしこでされている。
曰く、行き場を失くした者たちの行き着く吹き溜まり。
要はそういう行き場を失くした
表に出せないような横流し品が並べられたり、出所の不明な激レア品でオークションを開かれたり、大人同士が悪だくみを日常的に行っていたり。
そしてそんな場所を普通からあぶれた子供たちを使って整える悪い大人がいる。
存外普通から外れる子供なんてのはそこかしこにいるもので。
悪い大人たちなんて吐いて捨てるほどいるものだから。
こうしてどの学園自治区ですらおいそれと手出しできない
全部大家さんからの受け売りだけど。
さて、現在時刻は1837。
ぼくは依頼されたワンニャンカフェの目の前にたどり着いた。
ブラックマーケットの外縁部、その端っこに面した廃ビルを再利用した建物は店の前が駐車場であっただろう大きなアスファルトの広場になっており、周りはこれまた使われてない所々崩れたり穴の空いた廃ビルで囲まれている。
店の前から駐車場の入り口までは廃車両やガラクタが積み上げられていてお世辞にも綺麗とは言えない入り組んだゴミ捨て場のようだ。
店の入り口、ビルの正面玄関だったであろう場所にたどり着けば重厚な鉄板の看板に眼帯をつけた犬と顔に大きな傷を負った猫が左前足に小型の携行銃を持ちながら右前足で握手を交わしているなんとも言えない劇画調の絵の下にやたらとファンシーな文字で【ワン♡ニャンCAFE】と描かれている。
ビルの入り口のガラス張りの開き戸の内側からこちらを向いて立っているスーツ姿のメカさんに笑顔で手を振ればすぐさま駆け寄り開き戸の鍵を開けて中に迎え入れてくれる。
「やーはろーケンジさん」
「ハジメのアネゴ!今日の助っ人にアネゴが来てくれるってんで助かりましたよ!」
「アネゴはやめれー」
この人はケンジさん。
大家さんの直属の部下とか右腕とかそんな感じの結構偉い人。
…のはずなんだけどなぁ。
「いえいえ、アネゴにはいつも世話になってますからね!この間のワンワン派とニャンニャン派の抗争鎮圧の時だって」
「あーおけおけ…そろそろ今日の利用者来てもおかしくないっしょ?…そちらが今日の相棒の新人さんかな?」
駆け寄ってきたケンジさんの後ろに着いてきてそのまま立っていたキャップをかぶりマスクを着けた黒髪ロングの女性に目を向ける。
はえー目元だけ見ても美人だとわかる…
あとすごいえっちな服装じゃない?
おへそ丸出しやん?
「へい!最近流れてきたモンで実力は申し分ないと思うんですが今日のヤマはちぃとデケェモンなんでピンで任すのもってなもんで…オラ!挨拶だ新人!」
「…錠前サオリだ」
それだけ告げてぼくをじっと見降ろす新人さん。
その瞳は澄んでいるわけではないが濁っているわけでもない。
ブラックマーケットに流れ着くような割には随分と珍しい瞳をするもんだ。
これから始めるってわけでもない。
もう終わったってわけでもない。
まるで普通の生徒のような、今まさに進んでるような瞳だ。
…それはそれとして、挨拶がおろそかなのはいけませんねぇ…
これは教育やろなぁ…
「ヒィ!?ハジメさん落ち着いて!?」
隣でそのやり取りを見ていたケンジさんが突然そんなことを叫ぶ。
「だいじょぶだいじょぶおーらいおーらい。ケンジさんは持ち場に戻って~。新人教育も先達のお仕事だからねぇ…」
「あ、謝っとけ新人!まだヘイローロストしたくないだろ!?早く謝っテ!!」
「ケーンージー…さん?」
「ウッス!じゃあオレぁ持ち場戻るんで!よろしくお願いします!!!!!あ、客はもう入ってるんでここらは
余計なことを言おうとしたケンジさんに最上級の笑顔*1を向けるとケンジさんは脱兎のごとく持ち場、今日の取引現場の方へと走り去ってしまった。
今日のハケンのお仕事は簡単に言うとこのビル1階の奥にある取引現場への襲撃者の侵入を防ぐことだ。
このワンニャンカフェは取引現場として、安全な場所と利用者への襲撃への対応、安全な逃亡、帰還を保証するビジネスである。
これから取引開始から終了までの時間、ぼくとこの新人さんで襲撃が来たら対応することになるのだ。
「じゃあ、改めまして。ぼくは
「シャーレ…つまり先生の傘下という事か?」
「傘下…とはちょっと違うのかな?仕事は独立して受けてるし。まぁ…先生から緊急の依頼とかあったら優先して受けたりはするつもりだけど」
ぼくはそう言いながら部屋の隅に置いてある金属製の重厚な4本足のテーブルから物を除け、入り口に天板を向けるように横倒しにする。
いくつかそんな感じで遮蔽物を作るためにそこら中にある机やカウンターを使って
ゴトッ!ゴトッ!と重い音がビル内に響く。
途中からは新人さんも意図に気づいたか、同じようにそのへんにある物を横倒しにしていく。
あらら、結構優秀じゃない?
一通り作業を終えたぼくは入り口の様子が見やすく、最も頑丈そうな遮蔽物の後ろでモッズコートを脱いで装備や弾薬の準備をしていく。
「ほら、
ぼくの言葉に何やらごそごそ作業していた新人さんが僕の横まで来る。
「
「そうだな…ここ最近に
ぼくの横に腰かけて新人さんも自分の銃を軽く整備し始める。
長めの銃身のアサルトライフルにサイホルスターの拳銃、ナイフもあるようだ。
「建設現場と抗争鎮圧…それ、報酬ちゃんともらえた?」
「…実を言えばきちんと報酬が出るようになったのはここ最近だ。最初の頃は踏み倒されたり貧乏くじを引かされたりで契約書の重要性というのを人から教えられて知った」
「やっぱり?ぼくも最初の頃はそんなんだったなぁ」
お互いに顔を見ることもなく、作業の傍らに語り合う。
「そっちはこの仕事は長いのか?」
「ルーキーよりは長いよ」
ふと、こちらに困惑した表情を向ける新人さん。
「…その、ルーキーというのは」
「はは、気に障った?ごめんねぇ、ぼく第一印象悪い人は最初は名前で呼ばないことにしてるの」
新人さんの方を見ずに声だけでそう告げるぼく。
「この業界、雇われでやってくなら挨拶は大事だよ?印象が良ければ次の仕事につながる可能性があるし、共闘する相手に悪い印象を抱かせても得なんてなーんもない。よろしくって握手の一つでも自分からするだけでプラスになる可能性が高いのさ」
持ち込んだ装備のチェックも一通り終わる、入り口方面をちらりと見る。
ふと、何か目の端に映ったような
「…まぁ、ルーキーは第一印象は残念ながら悪かったけど今日の仕事っぷりを見れば覆るかもね?というわけで挨拶はしっかりしましょう。これはルーキーよりちょっとだけ先輩のぼくからの忠告」
目を凝らす。
人影はやはり見えない。
時刻は現在1917。
大きな音などはまったく聞こえない。
一個小隊が来るかも、なんて予想は外れてくれそうではあるがまだ油断はできない。
「…なるほど、挨拶は大事か…説明されてみれば納得のいく内容だ。忠告はありがたく受け取らせてもらおう」
そういって自らの装備をホルスターに備えて同じように入り口に顔を向ける新人さん。
素直か??????????
はねっかえりの孤高系かと思って無駄だと思いつつも忠告したら存外素直な返事が返ってきてちょっと戸惑う。
ん、ん-ーーーーーー…
これは今日の仕事が終わったら普通に名前で呼んであげていい子かもしらん…
錠前サオリ…サオリちゃんか。
そんな益体もない事を考えているとふと視界の隅に入るものがあった。
「…ルーキー、一旦座ろっか」
「了解した」
ぼくと新人さん…んーいいやもうサオリちゃん。
仕事が終わったらちゃんとサオリちゃんって呼ぶのでサオリちゃんで。
お互い入り口から視線を外しその場に膝立ちで装備を身に着けていく。
「…もしかしてこういうの慣れてる?」
「心得はある、と言ったところか。ただこちらからは人数が見えなかった」
「こっちも見えてないけどそんなに多くないんじゃないかなぁ。それはそれで問題ではあるんだけど…」
「少数精鋭の可能性が大、ということだな」
お互いに銃をいつでも撃てるようにしつつ状況確認。
ぼくもサオリちゃんもその動きに澱みはない。
「じゃあ作戦開始でぼくはこっちから」
「こちらから行こう」
お互い逆方向を指して意思疎通。
堂に入った会話に自然体な様子のサオリちゃん。
これは有望な新人なんじゃない?
「最後に確認なんだけど、これ防衛戦だからあそこの扉から侵入されたら負けね」
「理解している。勝利条件は対抗戦力の鎮圧か排除で相違ないか?」
「あとは中からの連絡が来るまでの遅滞完了でもおけ。そうだなぁ…30分もあればいいんじゃないかな?ちなみに無理だなーって思ったら逃げるより負けてダメでしたってことにしておいた方がその後の印象はいいよ」
「…それもセンパイとしての忠告か?」
「
軽口を叩きながら横倒しにした机の端と端、先ほど意思疎通した方向へいつでも飛び出せるようにして事に備える。
「この調子できっちり仕事をしてそのルーキーという呼び名は返上させてもらうとしよう」
「無茶しないでよー?助けるのも大変なんだから」
「功は焦らないさ。それこそ
そろそろかなー。
ぼくとサオリちゃんは机の背を押し付けて衝撃に備える。
「
「ああ、
ドッゴォォォォォォォォォォン!!!!!!!!
爆発。
轟音。
衝撃。
予期していたソレをやり過ごしたぼくとサオリちゃんはお互いの
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