ハケン・ユーティリティ   作:ジョイン君

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彼女のやらかし


依頼内容:事務作業、搬入された書類の仕分け等②

 電車を乗り継ぎゲヘナ学園最寄り駅へとたどり着く。

 

 改札を通って駅を出る。

 整備された街並みに綺麗なショップが並んでいたトリニティ総合学園の近辺とは違い、ゲヘナ学園周辺の雰囲気は雑多である。

 校風の違いか、利用する客層の違いか。

 ゲヘナという学校はまぁ、緩く雑でよく言えば大らかであろう。

 

 各々が自由に思うまま過ごしていると言えば聞こえはいいが、どいつもこいつも我が強く、衝突も多い。

 全部が全部そうとは言わないが、表向きは穏やかで猫をかぶったトリニティと違ってゲヘナの猫は牙を剥いて威嚇してくるのが多い。

 

「オイオイオイ、見慣れねぇ風紀が一人で歩いてやがんぜぇ?」

 

「風紀の犬ッコロがアタシらのシマで目につくのは目障りだよなぁ!?」

 

 こんな感じで、ね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、アタシらが悪かった!!謝る!謝るから!!」

 

「カンベンしてくれっ!?ソイツもう気絶してるって!!!!」

 

 話せばわかる(物理で解決)

 まぁ、彼女たちほど人懐っこい猫は少数派ではあるが。

 

「…あー。やりすぎたわ、ごめんね?」

 

 白目を剥いて動かなくなった、壁にちょっとめりこんでるスケバンの子の胸倉を掴んでいた手を放す。

 むぅ…しまったなぁ。

 ちょっと気落ちしていた分も含めて八つ当たりをしてしまったとちょっと自己嫌悪。

 周りを見れば結構な数のゲヘナの生徒がこちらを遠巻きに見ている。

 

 まぁ、こうやって絡んでくるのは極一部で、自由な校風で我の強い生徒が多いというだけで別に無法地帯と言うわけではない。

 それにどこもかしこもこんな感じでは学園と言う体裁も崩れてしまうのでそれをきちんと取り締まる組織も存在する。

 

「風紀委員だ!!神妙にしろ!!…ってハジメ!?」

 

 そう、ゲヘナ学園風紀委員会である。

 

 さて、現状を把握しよう。

 現在壁から救出されて地面に白目を剥いて横たわっているスケバンが一名、その横で慌てながら声をかけたり揺すったりして介抱しているスケバン2名。

 その横で一人突っ立っている風紀委員の格好をした不審者1名。

 

 …やっべ。

 

「やぁイオリちゃんおはよう。今日も朝早くから風紀委員の活動、ご苦労様」

 

 ぼくは人垣からぼくと同じ制服を着た集団を連れて現れた銀髪ツインテールで褐色の少女、銀鏡イオリちゃんにそう答える。

 

「えっ?どういう状況?こんな朝から規則違反者と風紀委員が駅のすぐ近くで突然暴れてるって言う通報があって来たんだけど…」

 

 イオリちゃんは笑顔を向けるぼくと白目を剥いて倒れてるスケバンを交互に見ながらぼくにそう問う。

 

「…えー、まぁ、その…過剰防衛…ですかねぇ...」

 

 ぼくは顔を伏せてスッ…と両手を握って揃えた状態でイオリちゃんへ向ける。

 手錠がつけやすいようにだね、うん…

 

 イオリちゃんは何度か目をぱちぱち、と閉じたり開いたりしてから大きくため息をついて手錠を取り出し、ぼくの差し出した両手にはめる。

 

「…そっちの二人も事情聴取のために連れてって。怪我人は…問題ないと思うけど一応救急医学部まで搬送。…ほんと朝から何してんのハジメは…」

 

「返す言葉もございません…」

 

 ぼくと同じように手錠をされた二人のスケバンは大人しく連行されている。

 未だ目を覚まさぬスケバンの子は担架に乗せられ搬送されていく。

 

「まったくハジメらしくもない…いつもなら絡まれたって上手く躱してるのに今日はなんだってこんな騒ぎを…あれ?アコちゃんからの電話だ」

 

 風紀委員会の部室へと連行される道すがら、イオリちゃんの携帯電話へと通話がかかってくる。

 口ぶりから察するに電話の相手は天雨アコ行政官。

 

「アコちゃん何?あ、うん。一応手錠はしてあるけど…は!?ちょっとアコちゃん!?」

 

 慌てたようなイオリちゃん。

 これはなんか無茶ぶりされたかなぁ。

 なんとなーく想像はつくんだけども。

 

 …ほんとまずったなぁ…

 

「あーその、ハジメ。悪いんだけど手錠アリのままでアコちゃんのところまで直接出頭するように、って…」

 

「承知いたしました」

 

 立ち止まって、深呼吸。

 ぼくの態度と言葉に疑問をもったのか、イオリちゃんと他の風紀委員の人たちが不思議そうにこちらを見つめてくる。

 

「…?ハジメ?」

 

「銀鏡さん、風紀委員の皆さん。今回は誠に申し訳ございませんでした。業務の円滑化のために貸与されている風紀委員の制服を着ての不祥事を起こしてしまったことは許されることではありません。重ねて謝罪いたします。本当に、本当に申し訳ありませんでした…」

 

 ぼくはその場で深くお辞儀をする。

 謝罪の意を込めて。

 

「ハ、ハジメ!?頭を上げてくれ!!こんなのうち(ゲヘナ)じゃ日常茶飯事のよくある規則違反でしかない!大げさだって!!」

「そ、そうですよハジメさん!」

「ハジメさんが手伝ってくれてるときめっちゃ助かってますから!!これくらいで気負わないでもいいですって!!!」

 

 イオリちゃんと風紀委員さんが慌てた声音でぼくにそう言ってくれる。

 それでもぼくはすぐには頭を上げず、5秒間。

 それだけ経ってからゆっくりと頭を上げる。

 

 この子たちは優しいなぁ。

 こんなやらかしをしたぼくにこんな風に優しい言葉をかけてくれる。

 

「ありがとうございます、皆さん。…天雨行政官をお待たせするのもよくありません。行きましょう」

 

 ぼくは精一杯の笑顔を浮かべてそう告げる。

 ぼくの表情筋は仕事をしないから、本当に笑顔を浮かべられているかは、わからないけども。

 

 

 

 

 

 

 そこから風紀委員の部室までは、ひたすら無言であった。

 少し前に巡回のハケンを受けた時なんかは、もっとこう緩い雰囲気でおしゃべりとかしてたんだけどな。

 

「それじゃあハジメさん、私たちはここで」

「ハジメさん!また巡回とか一緒にしましょうね!!」

 

 イオリちゃんと一緒にぼくを連行してくれた風紀委員のお二人さんがそう声をかけてくれる。

 

「ありがとうございます。もしまた機会があれば、よろしくお願いします」

 

 二人の言葉にそう返すと、なんだか二人とも悲しそうな顔をしている。

 

「そうだな、風紀はいつもいつも忙しすぎるんだ。今度巡回でもハジメを借りれないか聞いておくよ」

 

 二人に笑顔でそんなことを言うイオリちゃん。

 風紀委員の二人はほっとしたような顔をして

 

「「はいっ!!」」

 

 と元気な返事をしてその場を離れていった。

 そんな二人を見送ったイオリちゃんは制服のポケットから小さなカギを取り出して私の手錠の鍵穴に差し込む。

 

 かちゃり、と音を立てて手錠が外れる。

 ???

 

「イオリちゃ…銀鏡さん?」

「ハジメ」

 

 外した手錠をしまいながらぼくの声にかぶせるようにぼくの名を呼ぶイオリちゃん。

 

「多分色々理由があるんだと思う。ハジメは頭がいいから私には思いつかないけど必要だと思ってしてるんだろうなっていうのもわかる。…でもね」

 

 そこまで言ってからこちらに顔を近づけ、私の瞳をまっすぐに見つめてくるイオリちゃん。

 

「ハジメに敬語を使われるのも、銀鏡さんって呼ばれるのも、どっちもすごく嫌だ」

 

 …そう言われ、ぼくは思わず少し、顔を背けて目を反らしてしまう。

 それでもぼくをじっと見ていたイオリちゃんは、少しするとハァ、と大きくため息をついてぼくの手を握って、風紀委員会行政官用の執務室を乱暴にノックする。

 

「アコちゃーん!入るよ!!」

 

 バン!とドアが壊れるのではないかという勢いで開けたイオリちゃんはずんずんと中へ歩き出す。

 なぜかぼくの手を握ったまま。

 

 

 

 なんで?

 

 

 

 

「ご苦労様です、イオリ…?」

 

 ゲヘナ風紀委員会行政官、天雨アコ。

 風紀委員会のNo.2で何かとぼくを目の敵にしている節がある。

 正直ぼくとの相性はあまりよくない。

 そんな天雨サンはぼくとイオリちゃんの様子を見て最初にしていた何かを企んでいそうな笑顔から一転、不可思議なものを見るかのような表情に変わっている。

 いや不可解だよね、この状況。

 ぼくも不可解だからね?

 

「えぇと…?安納さんは規則違反者としてここまで連行してきたはずでは…?」

 

「ちゃんと連行してきたよ」

 

「連…行…?」

 

 めっちゃ困惑してるじゃん。

 そりゃ連行って言いながらお手手つないできてるもんね。

 なんで?

 

「え、えーと…銀鏡さ」

「それやめて」

 

 めっちゃ食い気味に言うじゃん?

 

「いや、そのですね?業務上重大な過失を起こしてしまったわけで」

「やめないんなら私も勝手にするから」

 

 えぇ…(困惑)

 なんで握ってる手をさらにぎゅってするんですか????????

 ってか名前だけじゃなくて敬語もだめなんですか????????

 

 

 なんで??????????

 

 

 

「確かに今回ハジメは規則違反を犯したけど初犯だしこれまでの貢献を考えれば特段追及する必要はないと思う!反省もしてたし!」

 

 !?

 あの規則違反に厳しいイオリちゃんが規則違反を犯したぼくを擁護してる!?

 

「…イオリ、今回の件はそんな簡単な話では」

 

 状況に困惑していた天雨サンは先ほどまでの呆けていたような表情とは一変。

 真剣な表情でそう答える。

 そう、今回の件はそんなに軽い事ではない。

 

「ハジメは現場に来た風紀委員みんなに頭を下げて謝罪したしみんなもまた一緒に仕事したいって言ってる!そもそもアコちゃんだって有能だから引き抜きできないかって言ってたじゃん!」

「ちょっ、イオリそれは!?」

 

 んん?

 なんか思ってもなかった言葉が飛び交ってるぞ?

 あぁでもなんかわかってきてしまった。

 イオリちゃんのしてくれてることが。

 

「風紀の格好が問題だって言うなら制服の貸し出しを許可したの私とアコちゃんで…」

「イオリちゃん」

 

 ヒートアップするイオリちゃんの握ってくれている手を握り返す。

 

「ハジメ?」

 

 この子はぼくの代わりに謝ろうとしてくれてるのだ。

 ぼくのことを同僚として、友達として守ろうとしてくれている。

 優しい子だ。

 少し猪突猛進なところはあるけれど銀鏡イオリという子はとてもやさしくて、責任感の強い子なのだ。

 きっとさっきのぼくの謝罪を受けて必要以上に心配させてしまったのだろう。

 

「ありがとね、イオリちゃん。でも、ぼくの分まで謝ってくれるのは、ちょっとズルいかな」

「ズルい?」

 

 思いもよらないことを言われたであろうイオリちゃんは不思議そうに僕に問い返す。

 

「ぼくの失敗はぼく自身で謝らないと。友達だからってぼくの責任まで変わってもらっちゃったらイオリちゃんの友達だって胸を張れなくなっちゃうよ」

 

 ぼくの言葉にイオリちゃんは瞳を見開く。

 

「まぁ、ぼくが逆の立場でもやっちゃいそうな気がするからその時はイオリちゃんが止めてね?ぼくも大概猪みたいなとこあるからさぁ」

「誰が猪だ!失礼な!」

 

 たはは、と後頭部を掻きながら軽口を言うぼくに言い返すイオリちゃん。

 なんだかやっといつもどおりな感じに戻った気がする。

 今日は朝からちょっと失敗続きで嫌になるね、ほんと。

 

「んっん…」

 

 そんなちょっとわざとらしい咳払いをする天雨サン。

 

「イオリ、そもそも私は別に今回の件で安納さんとの契約は打ち切るとかそういったつもりは一切ないのですが」

 

「じゃあなんで手錠したまま連行しろとか言ったの」

 

「いや、まぁそれはその…」

 

「どうせまた悪だくみでもしてたんでしょ?アコちゃんの悪いところだよね、ソレ」

 

「…今回は素直に反省します」

 

 なんだか非常に疲れたような表情でため息をつく天雨サン。

 

「よし、大丈夫みたいだから私はもう行くな。あ、また今度ハジメを巡回の方に回してくれってほかの子も言ってたからよろしくね、アコちゃん!」

 

 ぼくと繋いでいた手を解き、天雨サンにそんなことを言ってからこちらに笑顔で手を振ってイオリちゃんは退室していった。

 執務室に残されたのはぼくと天雨サンの二人。

 なんだか微妙に気まずい沈黙が訪れる…

 

 …っとと、そうだ。

 ぼくは居住まいを正し、その場に膝をつき、手を前について地面に額をつける。

 

「天雨行政官。今回は誠に申し訳ありませんでした。さかまんじハケンサービス及び私個人は如何様な処罰、賠償も対応いたします。ですので、大変身勝手なお願いになりますが、どうかシャーレには寛大な処置で対応してはいただけないでしょうか。伏してお願い申し上げます」

 

 土下座である。

 イオリちゃんはああ言ってくれたが、ぼくが仕事として請け負った依頼主である風紀委員会の顔に泥を塗ったも同然。

 ぼく個人の問題ではなく、それは後ろ盾になってくれているシャーレにまで累を及ぼす可能性もある。

 だから誠心誠意謝る。

 

「や、やめてください安納さん!?さっきも言った通り今回の件はそこまで深刻に考えてないですから!?」

 

「いえ、今回の件は非常に深刻な失態であると愚考いたします。何卒、何卒私の咎で納めていただきたく」

 

 思わずと言った体でぼくに駆け寄って体を起こさせようとする天雨サン。

 ぼくはぐっと力を込めて抵抗する。

 

 

 

 天雨アコは女傑である。

 このゲヘナ学園という混沌の坩堝に秩序を敷く風紀委員会のNo2を担う行政官。

 ゲヘナ学園内の数多の情報を握り、深謀遠慮に長け、権謀術数を弄する。

 

 彼女は風紀委員長と自らが属する組織、風紀委員会以外には苛烈で凄惨な策を弄する事も厭わない面がある。

 そんな彼女にとってはシャーレとは目の上のたん瘤のような存在であり、油断ならぬ相手であると外ならぬ本人の口から聞いたこともある。

 かくいうぼくも、このゲヘナ学園での初仕事の際に非常に巧妙な契約書の微妙な言い回しや書き方に翻弄され、お値段以上の仕事をさせられる羽目になったこともある。

 ぼくのハケン生活の苦い教訓の一端である。

 一応その件については後日なぜか謝罪を受けたので和解としたが、油断のならない人物なのである。

 

 しかし彼女は決して嘘をつかない。

 彼女は一部の例外を除いて自らが口にした発言に関しては決して曲げず、貫き通す。

 だからこそのこの土下座である。

 いや、謝意は本物なんだけども。

 彼女の口からシャーレに責任追及しませんと言わせない限りぼくはこの額を地面から上げるつもりは毛頭ないのである。

 

「不問!不問です!!今回の件は不問にしますから!!」

 

「寛大な処置痛み入ります。ですが私の責は如何様にも。何卒シャーレには!!」

 

「しませんから!!シャーレに責任追及なんてそもそもする気もありませんから!!こんなところヒナ委員長に見られでもしたら…」

 

「アコ…?ハジメがこっちにいると聞いてきたのだけど…」

 

 言質ゲットォォォォォ!!!

 ぼくの渾身の土下座外交*1は見事成功を納めた。

 

 満足したぼくが体を起こすと真っ青な顔をして入り口の扉の方に顔を向ける天雨サン。

 はて?とぼくも扉の方を見れば

 

「…アコ。説明して?私は今、冷静さを欠こうとしてる」

 

 なぜだか滅茶苦茶おこで氷のような視線で天雨サンを見据える白くて長い髪に小柄な少女。

 その見かけからは想像もつかない圧倒的な戦闘力でその戦力はキヴォトスでも有数な戦闘組織のひとつとして数えられるゲヘナ風紀委員会のその戦力の半分を担うとも言われているゲヘナ学園風紀委員会の委員長。

 空崎ヒナが立っていたのだった。

*1
本当に土下座して言質を取ることは土下座外交ではなくただの土下座である




(今回のプロットを見る)
2行目:ヒナメインで
(プロットから目を離す)

……。

ヒナ出るまでにどんだけかかってんだよ!!

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