キヴォトスの皆様!お待たせいたしました!   作:全身鱗マン

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読者の皆様!!お待たせしました!!!続きでございます!!!!!


1章 ステュムパロスの鳥
Ep.1 スケルトン・ライアー(1)


 

 

 

 シロコが道のど真ん中で行き倒れていた大人を拾って校舎に連れてきた時から、アビドスの対策委員会は冒険にだけは事欠かなかった。

 

 襲撃、誘拐、銀行強盗、ゲヘナ風紀委員会との衝突、拉致……。すれ違いやささいな痛みを絆によって乗り越え、先生の力を借り元通りの日常を取り戻してから、しばらく後の事である。

 

 

 

 

「ホシノ先輩! この段ボールはどこへ移動すればいいですか?」

 

「とりあえずその辺の廊下に置いといてー。うへ~おじさん腰やっちゃいそうだよ~」

 

 ホシノと呼ばれた少女は、ブルーシートで包まれた塊をその場に下ろすと、腰を軽く叩いてうめく素振りをした。

 ブルーシートが重力でめくれ、中に隠された灰色の肌が覗く。それは薄汚れた石膏像だった。

 

 アビドス高等学校の古い美術準備室の中を、陽に照らされた埃が、金の粒になって舞う。

 

「ん、こういう宝探しも楽しいね」

 

「シロコちゃん、銀行強盗と同じくらい眼が輝いてますね♤」

 

「…………」

 

「シロコ先輩! どうしてそこで黙るんですか!」

 

 たとえカイザーPMCの代表取締役が失脚し、無茶な金利が消えようとも、返済すべきローンが消えたわけでは無い。

 あくまでアビドス高等学校にこだわる彼女ら廃校対策委員会たちは、日々様々なバイトで稼ぐ傍ら、少しずつであるが学校に残った高く売れそうな品々を整理していた。業者に引き取ってもらい、足しにしようと言う訳である。

 

 だが。

 

「中々お金になりそうなものはありませんね……」

 

「まあまあ、お掃除がてらやってしまいましょう☆」

 

「ふかふかのベッドでもあれば嬉しいんだけどな~」

 

 そうぼやきながら、ホシノは壁に立てかけられた大きなシルエットへと寄りかかった。直後、肩から伝わる奇妙な感触に彼女の眉根が寄る。

 

「ん? ふかふかしてて、何だか柔らかいような……」

 

「って、それベッドじゃない!!」

 

 戸棚の引き出しを漁っていたセリカが振り返って驚く。ホシノがもたれかかっていたその四角い物体は、どう見ても一人用の寝台だった。しかも黄ばんでいない、比較的清潔に見えるマットレスまでついている。

 

「……捨てる神あれば拾う神ありだね」

 

「それはちょっと違くない?」

 

「とにかくおじさんの新しいお昼寝スペース誕生だ! 僥倖僥倖っと。とりあえずどかそうか」

 

 すぐにベッドと床の隙間へノノミの手がかけられ、掘り出し物のベッドは窓際に移動していく。

 だが、一同の視線はすぐに、ベッドの影から現れた壁に注がれた。正確に言えば、壁の表面に貼られていたポスターに。

 

「ホシノ先輩、これって……」

 

「ひゃ~……こんなところにあったんだ、懐かしいな」

 

 まだ幼い顔立ちの少女が印刷された、大きな選挙ポスターだ。表面に書かれた年度は二年前。握りこぶしを差し上げ、マイクを握って何かを訴えかけている。”キヴォトス改造”のスローガンが、青空のバックに赤く踊っていた。

 

「『田中カクエ』……、もしかして、今の連邦生徒会にいる一年生の?」

 

「アヤネちゃん、良く知ってるね。そうだよ、おじさんが若い頃は良くここら辺にも顔を出してくれててねー」

 

 

 

 

 

───アビドス生徒会会長、副会長。お会いできて光栄です! こちらはほんの気持ち程度の代物ですがどうかお役立てください。副会長におかれましては、どうか銃を、銃を下ろしてください!

 

 

───このままだと近い将来、アビドスは生徒以外の手に渡ってしまう……オレ、いや私はそのような未来を変えたいのです。

 

 

───連邦生徒会のバックアップを得た暁には、セイント・ネフティス社へ貴校との連名で大規模な投資を行い、砂漠での事業を再興いたします!

 運河を作り、数十キロに及ぶ緑化地帯と砂防林を造成すれば、必ずや、必ずや砂嵐は─────────

 

 

 

 ホシノは、自分の手がゆるく握り拳の形を描いていることに気付いて、ぱっと五指を自由にした。

 

「あー、おじさん今のマットレスの方が気に入ってる気がしてきたよ~! 先生とみつけたやつだしね。ベッドはやっぱいいかな」

 

「ん、もったいないけど元に戻す」

 

 シロコはホシノから視線を外す。

 いつもの調子で頷くと、そっとベッドの反対側を押し込んだ。

 いつのまにか教室の奥へ、やわらかい夕陽が差し込んでいる。

 

 

 もうすぐ黄昏時だ。砂漠が美しい金色に輝く時間が来る。

 

 

 

 

 

-----------------------------

 

 

 

『戦車やヘリコプターなど、出所の分からない武器の不法流通も2000%増加しました』

 

 

 

 あなたはこの言葉を覚えているだろうか?

 

 ブルーアーカイブのプロローグ冒頭にて、混乱する連邦生徒会のロビーへとつめかけた生徒のうちの一人、正義実現委員会副委員長のハスミが発した言葉だ。

 

 なにせここは弾薬が普通のコンビニで、しかもシャボン玉セットみたいなファンシーなパッケージで売られているキヴォトスである。

 いざはっちゃけようというときのアウトローたちの破壊的な行動力は、前世の日本と比べて文字通り桁が違うと言っても過言ではない。

 

 廃校寸前の学校や公園で野宿する宿なしの連中ですら戦闘ヘリを持っていて、戦車に至っては教室単位の備品。

 こんな世界に、いい加減慣れてしまった自分を、日常の中で発見しないでも、ない。ないのだ。

 

 オフィスチェアに浅く座り、まだ痛む肘や尻をさすりながら、私は深くため息を付いた。

 

「私も護身用に適当な武器を持とうかなぁ……いてっ」

 

「こらっ、動かない! 武器を持つ前に、カクエちゃんはもっと自分を大切にしてください!」

 

 ボロボロの状態で連邦生徒会ロビーに帰還した私に気付き、擦りむいた肘へ包帯を巻いてくれたのは、偶然通りかかった調停室のアユムさんだった。

 

「大切にしすぎなくらい、大切にしてるつもりなんですけどね。どうもありがとうございます」

 

 どういたしまして。彼女はそうふわりと笑うと、あの半ばトレードマークのような大量の書類を再び抱え、救急箱を提げて、廊下の向こうへと去っていった。

 

 そういえば、連邦生徒会の面々は皆、銃を持っている所を見たことがない。

 ある程度偉い人間は傘を持たないとかそういう感じなのだろうか? 街中や室内で銃をむき出しで持っているのが普通という訳でもあまり無いとはいえ……。

 

 

「お疲れ様です、財調室長」

 

 安静にしているよう告げられたため、ロビー備え付けの機械から出したインスタントコーヒーを飲みながら今月号の月刊クロノスを読んでいると、背後のエレベーターから声を掛けられた。

 

「ああ、どうもお疲れ様です、防衛室長」

 

 どこを見ているのかいまいち分り辛い、糸目がちな瞳が、私の包帯で露出した制服の下を覗き込んでいる。

 連邦生徒会防衛室長、カヤの姿がそこにあった。

 

「かわいそうに……お怪我をされたんですか?」 

 

「ええ、ちょっと……過激派にやられましてね」

 

 あれを過激派と言い表して良いとしたら、そう言うことになる。

 

 

 

 

 私が多少のあざを作った原因は三時間前に遡る。サンクトゥムタワーの玄関ピロティでのことだ。

 

 

「いやぁさすがでしたよ、ミレニアムの鉄道は他とは別物です。是非うちの地下鉄も自動運転化していきたいですね、リン先輩」

 

『この大変な中強行した視察の成果があったようでなによりです。やるならご自分でやってくださいね?』

 

「え、言い出しっぺの法則ですか? まあ言われなくともやりますとも。もうすぐそちらに着きますので失礼します」

 

 あの恐ろしい笑顔が目に浮かぶようだ。本人としてはシャーレのおまけくらいの感覚だろうが、財調室で自由にやらせてもらってる限り、リン先輩には頭が上がらない。

 

 ミレニアム郊外での用事を済ませた私は、いつものように生徒会の公用車でタワーへ帰ってきた。

 この様な場合はたいてい、降りてすぐにしつこいクロノススクールの番記者につきまとわれるか、あるいは諸々の陳情を持ってきた人に遭遇するかの二択しかない。だが今日の午後に関して言えば、着ている顔ぶれが一味違った。

 

”田中カクエを殺すために記す”

 

 玄関の歩道に異様な文言が大書きされた街宣車が停車しており、その前で警備員と揉めている人物がいるのだ。

 

『ボクが言いたいのは! このままじゃ色彩に全員やられてしまうからどうにかしようって事なのに! お前らはこうして権力を振りかざしてなー!』

 

 マイクを通じて怒号を上げているのは、運転席にいる銀髪の女だ。角を生やし、頭の上にはやや傾いたヘイローを乗せている。

 

「あーっ! 貴様が田中カクエか!」

 

 車を降りたところで目が合ってしまったのが運のツキだった。女は取り押さえようとする警備員と絶え間なく押し合いながら、こちらを指差して叫ぶ。

 

「矯正局での服役一年五ヵ月、ゲヘナ学園停学、色彩平等兵、奥崎ケイカ! 腐敗の大本でありキヴォトス滅亡の元凶である田中カクエを殺すための天誅のロケット弾発射!!」

 

 女───ケイカと名乗ったそいつは、どこかから取り出した筒をこちらに向けた。

 

「えっえっ何何」

 

「つべこべ言うな、覚悟ー!!」

 

 放たれた四発の対戦車ロケット弾は、甲高い飛翔音を出しながら、山なりの弾道を描く。

 一発は玄関の植え込み、一発は消火栓、一発はアスファルトへ。そして最後の一発は私の足元に着弾した。

 

 一瞬黒い虹のようなものが見えた後、目の前が真っ白になり──────。

 

 

「なるほど、それでこの惨状という訳ですか」

 

 私たちはロビーから大通りの方向を眺めた。モダニズムを感じる美しいピロティは柱をへし折られ、無残にも半壊してしまっている。

 

「あはは、なんだかよくわかりませんが、申し訳ない……」

 

「いえいえ、財調室長が軽傷で済んで本当に良かったです。むしろ私のほうが謝らないといけないくらいですよ。サンクトゥムタワーへの襲撃を簡単に許すなんて、防衛室の落ち度ですしね……」

 

 対戦車ロケット弾を浴びせられて、転んだ時のちょっとのあざと擦り傷くらいで済む当たり、ヘイローの力というのはすさまじいものがあるなと思う。

 思うが、当然ながら口には出さない。私は曖昧に笑って返した。

 

 軽い現場検証を終えたヴァルキューレ警察学校の生徒たちが封鎖線を取り払い、カヤ先輩へ声をかけた。そのまま軽く報告を終えた後、彼女はこちらに向き直る。

 

「公安局のカンナです。この度はご愁傷様です。ですがご安心ください。犯人は捕縛し、すぐさま矯正局へと移送致しました。奴は極端なアナキストで、以前どうやってかトリニティの校舎へと侵入しティーパーティーに迫撃砲を撃ち込んだ危険人物として、矯正局に収容されておりました。矯正局内での振る舞いは大人しく、模範囚として先月釈放された筈なのですが……」

 

「七囚人の幻の八人目につけ狙われるだなんて、ついていませんね」

 

 報告を聞きながら、私は再びあの女の事を思い起こす。

 

 ”奥崎ケイカ”。ワカモがその一角を占める事で有名な七囚人の、八人目とされる人物。

 原作ゲームでは完全に見なかったキャラクターだが、まだ登場していなかっただけなのだろうか。

 

(それとも、これは私が生み出した歪み───?)

 

 

 前世の世界。17世紀の哲学者パスカルは、その有名な著書『パンセ』の中において、このような言葉を残している。

 

”クレオパトラの鼻がもう少し低かったら、世界の歴史の局面は変わっていただろう”

 

 この言葉において、クレオパトラの鼻の高さは、彼女の美貌を象徴している。そのせいでカエサルがクレオパトラに惹かれず、エジプトとローマの衰勢が歴史の本流とは違う結末を迎えたら、連鎖的に世界中の歴史が変化していく、という事である。

 蝶の羽ばたきが台風を生むように、私が起こした物語上の小さな変更が、この青春の物語に影響を及ぼしているのではないか?

 

 私はカンナを見送ると、ロビーの椅子に深く座り直す。打ち付けた尻がじわりと痛んだ。

 

 悩んでも仕方がない。私のできることをやるしかない。そう自分に言い聞かせながら、私はカヤ先輩とのスケジュール調整に入る。今週の委員会に間に合うように、SRT特殊学園の穴を埋める、ヴァルキューレ警察学校への投資についてのプランを作製しなければならない。

 

 これは最終的に防衛室内で歪められ、カイザーPMCの軍事力を導入する結果になるだろう。私は適当な理由を付けて足止めを繰り返してきたが、そろそろサボタージュに気付かれてしまうかもしれない。ここらへんが潮時か。

 

 

「それでは財調室長、明日はよろしくお願いしますね? お大事に」

 

 

 楽園に辿り着きし者の真実を、証明することはできない。

 この世界線の先に楽園(ハッピーエンド)があるかなんて、わかったもんじゃない。みんな歪んで、築き上げたものは削りとられて、最後には全部無くなってしまうかもしれない。

 

 でも私の怠慢で、みんなの信じた未来を壊してしまうのだけは、許しがたかった。

 

 いや、許しがたいとか偉そうなことを言ってしまったが、不慮のアクシデントによって体を怪我した上に、部屋では山積した書類仕事が私を待っているのだ。

 私はサンクトゥムタワー内のエンジェル24にてそそくさとモモカへの貢ぎ物を購入し、エレベーターで我が城のある階のボタンを押した。

 

 

 

-----------------------------

 

 

 さらに四時間前、昼のミレニアム郊外。

 

 

 高所の風が気持ちいい。

 非常時に人や車両を効率的に移動させるために、極限まで合理化されたハイウェイが、とぐろを巻いて走っている。非常時の作戦機動が妨げられる事のないよう配置されたビルたちは守りやすく攻めにくい。

 

 眼下に広がる近未来的な街には作業ドローン以外の人影が無い。この巨大な都市が、ある一つの目的の為に用意されたという事を、否応なく感じさせてくれる。

 

 私はヘイローの下にヘルメットを被り、編み物の如く精密に組み上げられた足場の上を歩く。タブレット端末を持った人影がその先に待っていた。

 

「リオ会長。どうも、いつもお世話になっております。進捗の確認に参りました」

 

 私は軽く手を上げて挨拶する。

 

「見ての通り……今月の施工は予想の230%の速度で進んでいる。この進捗率はあなたの協力のおかげもあるわ」

 

「お互い様ですよ。私がやったのは黒いニンジンをもらって、ノウハウを提供しただけ。明瞭な計画と優秀なデザイナーの力あってこそのエリドゥです」

 

 ミレニアムの生徒である黒崎コユキ(白兎)がゴールデンフリース号で豪遊するために、セミナー名義で多額の債券を発行した顛末は、原作のイベント『船上のバニーチェイサー』にて語られている。この悪行によって破産寸前まで追い込まれたユウカたちセミナーの面々は、他校の管区へ無断でC&Cのメイドたちを送り込むという危険を冒す事になった。この時の債券がその後どのような処理をされたのかは定かではない。

 

 私は事件終了のタイミングを狙って調月リオへ接触を図り、同時にゴールデンフリース号からコユキの債券を買い上げた。

 いくら無断発行だったとはいえ、私には払った分を償還請求する権利がある。私はセミナーの会計、ユウカ達に対しすぐにこれを一定額行使する手続きをして、しかし実際には受け取らない。帳簿上で償還金と記録され支出されたセミナーのお金が、内部と外部の誰にも気づかれないままに、同じセミナー内部のビッグシスターの隠し口座へと流れていく。

 債券を無断発行するとかいう黒崎コユキのクレイジーな犯罪がないとできない方法であるが、私はこれを利用して、要塞都市エリドゥの建設を支援していた。

 

 建築用にカスタムされ、銃器の代わりにインパクトドリルやレーザーカッターが装備されたAMASたちが、私たちの眼下に広がる外壁へ様々な加工を施して行くのを眺めていると、嫌でも実感できる。

 

「リオ会長は本当にたった一人で都市を作り上げてしまったんですね」

 

「ええ、滅びに対抗するためには、これが最適解だった」

 

「誰かに話して、理解を得ようとは思わなかったんですか? 私から接触を図らなければここまで効率化できなかったのではありませんか」

 

「あなたが特異な変数なだけ。かけるコストに見合わないわ」

 

「そうですか。まあいいですけどね」

 

 

 南中した太陽の下、私はその鉄のような横顔を見ていた。

 

 リオ会長と私は、ある点では真逆で、ある点では同じなのだ。

 リオ会長の能力の高さだと、誰かの理解を得るために一々説明する手間を計算に含めると、どう考えても自分でやってしまった方が早くなる。そういう人生を送ってきた経験則が、彼女をビッグシスターと呼ばれるほどの独断専行に走らせている。

 

 私はとりあえず明確なビジョンを打ち出し、不特定多数に説明し、ばらまき、義理を通す事で物事を推し進める。人間関係に対する一種の効率化だ。ビジョンが正確であるうちは良いが、思い描く未来が狂いだすと、気付いたら取り返しのつかない場所まで進んでしまう危険なやりかた。

 

───自覚があるだけ、手に負えない。

 

 

「それでは、こちらの会社で中央タワーのエレベーターの施工はやってしまいますね」

 

「ええ、助かるわ」

 

「いえいえ、キヴォトスが滅びて困るのは私も同じです。それでは技術提供の件、よろしくお願いいたします」

 

 

 いつの間にか現れたメイド服の少女に連れられて、私は無人列車に乗り込んだ。

 

 遠ざかるにつれ、無機質なホームに立ったままのトキの姿が、どんどん小さくなっていく。やがて都市の全貌が車窓から見渡せるようになった。

 遠くに山並みを望む、可動式の装甲壁に守られた、無敵の科学の街。その中央に聳えている一本の塔(ジグラッド)

 

 もういいだろう。Mラインの車両基地が見えてきた辺りで、切っていたスマートフォンの電源を入れる。

 玄関の前に並んだ家族の写真が表示され、現在時刻を教えてくれた。

 

 リオ会長はきっと、守れなかった世界に対して甘い感傷を感じたりしない。

 線路の分岐を乗り越えて、静かな列車が、少しだけ振動する。

 

 

 

 

-----------------------------

 

 

 

 

 

 

 

「ようやく終わったぁ~」

 

 背伸びすると、体がぽきぽきと鳴った。モニターのデジタル時計は深夜11時を指している。

 モモカにすぐ消費できる賄賂であるところの高級ポテトチップスを献上したところ、彼女は渋々ながら付き合ってくれた。その助けもあり今日の業務を今日中に終わらせることが出来たのだ。

 いつも私の部屋や情報処理ルームでサボってばかりなモモカの様子からは想像出来ないが、彼女はかなり手際がよい。速いという訳ではなく捌くのが上手いという感じなので、全力を出したらもっとすごかったりしないのかな。

 

 グウゥウゥゥ~

 

 わが胃腸から出た音に、私は背伸びしたまま固まった。そういえば今日は昼からあんぱん以外何も食べていない……。

 キヴォトスの中心地、D.U.なら深夜営業の飲食店や屋台もあるはずだ。私は連邦生徒会の制服の上から軽くジャケットを羽織ると、エレベーターに乗り込んだ。

 

 連邦生徒会のロビーから通りに出ようとして、開かない自動ドアを前に、昼間の騒ぎで補修中だったことを思い出す。

 封鎖中とホログラムで表示されたドアから踵を返し、人影のない反対側の出口を目指した。

 

「!」

 

 遠くで何かを叩きつける音がしたと同時に、突然、一階フロア全体が停電した。

 光源は非常灯の青白い光のみになり、辺りは闇に閉ざされる。背後を振り返ると依然として明るいフロアが見えるので、どうやらサンクトゥムタワーの中でもここだけが停電したらしかった。

 

 サンクトゥムタワーは連邦生徒会長の失踪により一時的に行政権を失ったとはいえ、未だに行政システムの中枢であり、シンボルだ。ちょっとやそっとのトラブルでフロア一帯が停電することは無い。

 

 出口への足を速める。

 自分の中の野生的な本能が、さっきから警鐘を鳴らし続けている。

 

 急に目の前が真っ白になった。急に電気が点いた?

 

 いや、いま自分の体は()()()()()()()()()

 

 遅れて轟音が鳴った。バキバキに割れた出口のガラス板の向こうに、何か大きな怪物の影が見える。

 

 否、否否否。

 怪物じゃない。あのシルエットは、ロッキード・マーチン社傘下、シコルスキー製ヘリコプター、UH-60がモデルの──────

 

 ローターが発する爆音が咆哮のように響き渡る。

 起き上がれない。這いずりながら物陰に移動する。立ち込める煙の中、ポイントマンがこちらへ射撃しながらロープ降下するのが見えた。

 

 そのシルエットは、ヘリコプターの側面にペイントされたマーク(ヴォーパルバニー)は。

 そんな、あり得ない。足を引きずり、自販機と自販機の間に隠れて、思考を落ちつけようとする。

 

 今日ミレニアム自治区に赴いた際に目撃した、ミレニアムプライスの開催予告。今はきっと、本編シナリオであるところの”時計仕掛けの花のパヴァーヌ”一章での出来事が展開されているだろう。きっと今頃、ゲーム開発部の面々はG.Bibleを求めて冒険を繰り広げているに違いない。ここからエデン条約編が終わるまで、少なく見積もってもあと数ヶ月。

 その間、SRT特殊学園は、編入を拒んだ一部の生徒たちが散発的な叛乱を起こしているはずである。

 

 ───しかし、あり得ない。あってはいけないのだ。原作で言及があるFOX小隊ならまだしも。

 

 

 

 

RABBIT1(ミヤコ)、ポイントE(エコー)を制圧。ターゲットを発見できない」

 

RABBIT2(サキちゃん)、2335まで捜索を続けてください。まだ近くにいるはずです』

 

 

 

 

 

 今、R()A()B()B()I()T()()()が連邦生徒会を襲うのは。

 

 

 

 

 

 

 





 ギリシア神話において、ストュムパロスの鳥とは、ストュムパロス湖畔に棲んでいた鳥たちの事を指す。

 青銅の嘴と羽先を持つストュムパロスの鳥は、ヒュドラの毒によってヘラクレスに退治された後、生き残った少数も二度と故郷に戻ることはなかったと伝えられている。


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