先生に勧められた河川敷の土を踏む。地元から2時間の電車に揺られて辿り着いた先は、熱気あふれる競いの場だった。
『橋の袂まで行って折り返し!いいねー!?スタートー!』
『オラアアアアアア!』
『ヤッハアアアアアア!』
『負けるかァアアアアア!」
『次こそ、次こそー!』
その熱気たるや、川の水を干上がらせるぐらいの、旗から見てても肌でビリビリと感じるレベルのヤバさ。申し訳ないけど地元じゃあ感じ取れないもの。しかも、しかもだ。
「…飛び散る汗、踏みしめる土音、本気で走る眼…たまらんぜ…ぐへへへ」
よだれが垂れる。あかん。これは我ながら来ちゃいけん場所やった。主に私の理性的な意味で。やべぇ。早いところこの眼のファインダーに全てを記録して焼き付けて出力して部屋をそれで埋め尽くしてその中で恍惚の中で眠りたい。いやでも眠るのももったいないんだ。この音を聞こえるか?なぁ聞こえてるか?ウマ娘ちゃんたちが全力でレースしているこの音よ!もう耳を100個ぐらいに増やしてASMRとして録音して全力で記録して楽しみたいどころかその音の奔流の中で寝たい。いやそもそもウマ娘がそこにいるってだけで奇跡、奇跡なんだよ。寿司が目の前を回転していくあの最初の感動を感じ取ったときぐらいのいやそれと比べちゃあいけないんだけど衝撃ったらはんぱねぇんだよ。判る?判る?判るよね!?
「…アノー、キミ、すごい顔しているけど大丈夫?」
「…ファ!?ア、ハイ!?」
背筋がビンっと伸びた。いけないいけない。口元のよだれを拭って、声のしたほうを向けば、そこにいたのは一人のウマ娘大天使。
「うーん…キミもウマ娘、だよね?」
「あ、はい!」
「熱心に見てたけど、キミも走る?」
「あ、はい!!!」
願ってもないお声がけ!もちろんですともと頷いて、そのウマ娘へと一歩体を近づけた。と、その胸元に光るバッヂが見えた。どうやら、この人はトレーナーっぽいね?
「うん、わかったよー。じゃ、あの後ろに並んで?あ、えーっと、君の名前は?」
「あ、はい!トチノステラと申します。あの、大変、失礼しますが貴女のお名前は?」
お気を使っていただいた貴女のお名前、忘れはすまいと脳内のレコーダーをフルパワーでぶん回しながら、彼女の答えを待った。私達よりも年上、でも、スタイルバッチリのこのウマ娘さんのお名前は、一体なんていうのだろうか?
「ボク?ボクはトウカイテイオー。中央でトレーナーをやってる、ま、しがないウマ娘さ」
トウ…!?まさかの言葉に、私のレコーダーは完全にショートし、そして、脳内は完全に炎上していた。え?とう?
「キュ」
「え?ちょ、トチノステラー!?どうしたの!?え、ちょー!?」
トウカイテイオースキーとは言ってたけど、まさかこういう展開だったのかい!あ、つまりトウカイテイオー世代はもう大人になってるってことかー?いやいや、あー、でも、そうだよねー、なんだかトウカイテイオーとかメジロマックイーンとかそういう名前、見ないもんねー。そうだよねー。冷静に考えりゃ、そうだよねー。
「…先生?どうかした?」
「あ、いやこの子、急に倒れちゃって…ヤタガラス、ちょっと面倒みてくれない?」
「いいよ…む、軽いね、この子」
アァアアアアア!?抱きかかえられた!?ウマ娘に!?やべぇやべぇ興奮するどころじゃねぇこれは練習どころじゃねぇぞおお温かいどころじゃねぇ練習あがりだからかめっちゃ熱い腕の中に収まる私の体に力が入らねぇあかんって、この状況はあかんってど…。
「大丈夫?」
覗き込んできたこっちの瞳ィイイイイ!やべぇ美人ヤタガラスさん!?お名前聞いたこと無い不覚しかしああああけどかわいいですアナタアアアアアア!
「…イッペンノクイナシデスワー」
「?あ、気絶した」